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授業もテストもなし 映画「屋根の上に吹く風は」 問う学びの形
授業もテストもなし 映画「屋根の上に吹く風は」 問う学びの形
2021/10/17 【毎日新聞】
鳥取県智頭町の山あいにある「新田サドベリースクール」は、授業やテストのない異色の「学校」だ。そこへ集う児童・生徒らの日々を記録した映画「屋根の上に吹く風は」が23日から、名古屋市中村区のシネマスコーレで上映される。浅田さかえ監督(60)は「先行きが見えない今だからこそ、一つの学びの形として紹介したい」と話している。
浅田監督「撮影は驚きの連続」
新田サドベリースクールは、不登校などの子どもを受け入れるフリースクールで、義務教育の場として認められる学校教育法の「1条校」ではない。6~22歳を受け入れているが年齢別のクラス分けはなく、先生にあたるスタッフも含め全員が「ちゃん付け」やニックネームで呼び合う。主体性を重んじる教育が特徴で、映画の冒頭、床に寝転がって一日中携帯ゲーム機で遊ぶ子どもたちの姿が出てくるが、これがサドベリーの日常風景だ。
浅田監督が撮影を行ったのは2018年2月~19年6月。「昭和の価値観の教育で育った私にとっては驚きの連続。最初は『この子たち、大丈夫かな』と思った」と振り返る。豊かな自然を生かした稲作をしたり、一緒に過ごすスタッフを自分たちが選挙で選んだりする独特な学習環境を撮り続けた。「何事も話し合い、異なる意見に耳を傾ける姿を見て、普通の学校とは別の良さがあると感じていった」
これまでテレビのドキュメンタリー番組を多く手がけてきた浅田監督にとって、今作が映画初挑戦だ。「このまま大人になって、どうなるか想像がつかない」と吐露する保護者の不安や「ここの教育になじめず離れていった親子もいる」とのナレーションも入れて、押しつけがましくならないことを心がけた。
文部科学省によると、2020年度に不登校と判断された小中学生は19万人を超えた。浅田監督は日本の学校教育を否定するつもりはないが、「これだけの数がいるのだから、従来とは別の教育スタイルも社会に受け入れられていいのでは」と提起している。
サドベリーの子どもたちはよく屋根に上って遊ぶ。そんな近ごろ見なくなった光景をタイトルにした。「彼らのいるその場所に、新しい教育の風が吹いている気がした」
シネマスコーレの上映は11月5日まで(10月30、31日を除く)。初日の23日は、上映後に浅田監督による舞台あいさつを予定している。【井上知大】
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サドベリースクールは、1968年米国マサチューセッツ州で創設された私立校サドベリー・バレー・スクールが最初です。その後、同じ理念を持った学校が世界各国で登場しました。日本に導入されたのは1997年。兵庫県に「デモクラティックスクール まっくろくろすけ」が開校されました。日本ではまだ20数年しか歴史がありませんが、小説家の吉本ばななさんらが情報発信をされており少しずつ注目を集めています。
サドベリー・モデルの信念は、子どもは生まれながら好奇心を備えていて、生きていく上で必要のあることは自分で学んでいくことができる、という考えです。サドベリー・スクールは生徒とスタッフだけが参加できる「スクール・ミーティング」によって民主的に運営され、学費額・予算配分・職員採用なども生徒とスタッフが決めていきます。自分たちの学校自治を当事者が行っていく、デモクラティックスクールと呼ばれる所以です。
またサドベリー・スクールはすべての年齢の子どもたちが一緒に過ごすことによって生徒たちの学びと成長が促されると考えており、恣意的に生徒たちを年齢によってグループ分けすることはしません。自由教育の考えは、19世紀までの教師教授者中心の注入主義の旧教育を子ども中心主義の教育に改革しようとした流れです。
わが国でも大正デモクラシーから様々な自由教育が生まれては消え、消えては生まれてきました。最近は不登校の子どもの行くフリースクールも手続きによっては出席と認める流れの中で、こうした様々な「学校」が注目されています。京都シネマでの上映は今週金曜日からです。
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京都シネマ
10/22(金)公開『屋根の上に吹く風は』舞台挨拶決定
日時:10/22(金) 11:00の回上映後
ゲスト:浅田さかえ監督
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放課後デイ11事業所で過大請求
放課後デイ11事業所で過大請求=定員超過、6年で1億円―検査院
2021/10/18 【時事通信】
障害を持つ児童生徒が通う「放課後等デイサービス」などのうち、6道県と2政令市の11事業所が、定員を超過して受け入れたにもかかわらず、給付費を過大請求していたことが18日、会計検査院の調査で分かった。過大請求額は6年間で1億円を超え、検査院は厚生労働省に是正を求めた。
放課後デイや就学前の子どもを対象とした児童発達支援を行う事業者に対し、厚労省は定員を超過した場合、市町村に請求する給付費を70%に減額するよう求めている。過度な受け入れを未然に防ぐのが目的で、国の負担は2分の1。
利用者の多い474事業所を検査院が調べたところ、8事業者が運営する11事業所が、減額せずに請求し、総額は2014~19年度で計1億1589万円に上ることが判明した。事業者側が減額制度を知らなかったり、誤って理解したりしていたという。検査院は厚労省に対し、過大請求分を返還させた上で、減額制度を周知徹底するよう求めた。
厚労省によると、ニーズの高まりを受け、放課後デイや児童発達支援の事業所は年々増加している。一方で、給付費の不正請求などを理由に指定取り消しの行政処分を受けるケースもある。
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この記事を読めば、また放デイの不正があり、感染症対策の不正請求と同じように税金を食い物にする事業所への怒りが湧いてくると思います。ただ、厚労省関係のたくさんある会計検査の中で、放デイが狙い撃ちされている感もします。この間、不正の目立つ放デイ事業者に対して一罰百戒の効果を狙ったのではないかとも思えます。
例えば、すてっぷの例で考えると、定員が10名ですから15名を超えるとその日の全員の利用料を3割で減算請求、または、過去3か月の利用者の1日平均が13人を超えても当月は3割減の請求となります。これを過去6年間、行政指導で是正を求める事もなく事業所だけに責任を擦り付けるのは無理があるように思います。おそらく、地域に事業所が少なく、やむを得ず定員を超えて利用させたという事例もあるのではないかと推測します。つまり、あくまで善意で定員越えについて市町行政の暗黙の了解事例もあると思うのです。
ちなみに、新型コロナ禍の厚労省の通達には休校などのイレギュラーがあって、保護者負担を減らすために、定員を超えた利用者を受入れざるを得ない場合は減算しなくてもいいという通達が出ています。すてっぷの利用者の学校でも少なくない学校が感染予防で休校になったりして、保護者が休まざるを得ない状況が続きました。この月曜日は先の土曜日の運動会の学校代休という事もあり15名を超えて利用者を預かっています。普段なら振替をお断りするのですが、感染休校が続き予防のために放デイを利用できなかった利用者支援と保護者負担を和らげるための配慮です。
今回は、通達があるので請求は認められると思います。このように、利用者超過の原因は様々な地域や家庭の状況があり、市町行政がそれを知らないわけがないので、霞が関の机上の理屈だけで不正があったとリークしたのだろうなと想像します。会計検査は5つの観点で検査します。正確性や合規性だけでなく有効性や効率性も考えて総合的に判断してほしいと思います。地域の事を正確に把握して行政を適正かつ柔軟にコントロールする政治家を選ぶことが大事だと思います。
高校生向けインターンシップ 社会の課題気付く場に
高校生向けインターンシップ 社会の課題気付く場に
2021年10月20日 【中日新聞】
高校生を対象としたインターンシップ(就業体験)が変わりつつある。単に就職したい分野での職業体験というよりも、社会の課題を知り、長期的な視野でキャリアを描くきっかけや、目的意識を高める場になってきている。背景にあるのは社会情勢の変化の速さ。今、高校生に求められる職業観とは。(白井春菜)
新時代の「職業観」養う
愛知県立横須賀高校一年の広瀬玄太さん(16)、安藤優翼(ゆうすけ)さん(16)の二人は八月、自転車でのまちづくりを進める名古屋市の一般社団法人「サイクルライフマネジメント」のインターンシップに参加した。伊藤透代表理事(32)が語る「皆が安全に道路を共有できる社会をつくりたい」との団体設立の思いに耳を傾け、外を走る際は常に周りに気を配り、変速時は手元のレバーではなく前方を見るなど自転車の安全な乗り方も教わった。その後、実際に自転車で名古屋市内を二時間ほど走り、自転車専用レーンや信号機の設置状況などを確かめた。
二人とも大学進学を希望。広瀬さんはまちづくりなどに関心があり、社会の課題を事業で解決する「社会起業家」の話を聞きたくて応募した。「起業した人は身近にいないし、将来は入った会社のために働くイメージが強かった。社会のために働く選択肢もあると気付けた」安藤さんはものづくりと、これからの働き方に興味があった。「二年から文系、理系にクラスが分かれる。その前に進路を考える機会になった」
同校の一年生有志十四人が参加したインターンシップは、事前学習と就業体験、振り返り学習で計三日間のプログラム。県が二〇一二年度から実施する事業の一環で、委託を受けたキャリア支援団体が学校と事業所を橋渡しする。生徒の関心がある分野を考慮し、受け入れ先は在日外国人向けメディア、発達障害児のデイサービス、有機栽培農家など愛知、岐阜両県の六事業所。多文化共生や環境問題などの解決に向け起業した若手経営者ばかりだ。
来年四月からの新学習指導要領では、「公共」に、インターンシップでどのように職業観が変わったかなどを振り返る活動の必要性と、職業選択の前に経験を積み、適性を知る大切さが示されている。同校のキャリア教育担当教諭は「社会貢献と利益追求の両立を目指す若い経営者は、新しい視点として生徒の刺激になる。しかし学校だけでは受け入れ先とのネットワークに限りがある」と実情を語る。
今回、調整を担当したコーディネーターの荒井直人さん(50)は「高校生向けインターンシップは近年、職業選択のためだけでなく、社会課題を意識する機会としての役割も重視されるようになった」と指摘する。「時代の変化で今ある仕事がなくなっていき、自ら課題を見つけて仕事をつくり出す力が求められる。社会課題と向き合う先輩たちの姿はヒントになる」と話す。
名古屋23日体験者が報告
高校生向けにインターンシップのプログラムを提供するキャリア支援団体「アスバシ」(名古屋市)は、本年度の報告会を23日午後1時半から、同市北区の愛知学院大名城公園キャンパスで開く。
プログラムに参加した生徒有志が座談会などをする予定で、高校生や学校関係者が体験者の声を聞く絶好の機会だ。例えば、建設会社で体験した女子生徒は、建設現場で働く女性の少なさを目の当たりにし、志望する業界を女性も働きやすい環境に「変えていかなければ」との思いを強くしたという。
アスバシでこのプログラムを統括する鈴木友喬(ゆたか)さん(19)によると、新型コロナ下、本年度はできるだけ現場に行けるよう感染状況に応じて時期を調整し、事前、事後学習はオンラインを併用した。「体験した生徒からは、前向きな意味で『思っていたのと違った』という声が多数届いた。進路選択の前にさまざまな大人と出会うことで選択肢が増える」と、インターンシップに参加する意義を強調した。
報告会は参加無料。専用フォームから事前申し込みが必要。
https://asubashi.org/vision/
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高校生からのインターンシップのねらいは、何のために大学行くのかを問い直すいいきっかけです。先日、就職面接に来た福祉系の学生さんの話ですが、「教師になりたいが、採用試験に合格するまでの間、放デイで働かせてほしい」とのことでした。「教師になりたいなら、講師の道があるからここで働くよりキャリアが積めて有利だよ」とお断りしました。本音がそうであっても、面接で言うべきことではないという事を置いといても、単に安定した収入を得るのではなく、働いて自分を活かすというキャリア観がまるでないなと感じました。
確かに、大学を卒業するまで目の当たりにするのは学校の教師しかありませんから、教師になりたいというのは自然です。しかし、ではそれまで自分が専攻してきた大学の中身は何だったのでしょう。もちろん、教師になりたいからと教育系の出身大学ばかりの教員では子どもも息が詰まってしまいますから、様々な専攻をした学生が教員を目指すことに異論はありません。ただ、採用試験に通るまでは放デイで働くという感覚が分からないのです。教員へのキャリアを積み上げていきたいならここじゃないよねと思うからです。
高校生のインターンシップは、そういう意味で、自分のやりたいことを見つけたり、実際にやってみて想像と違ったりするギャップを修正したりする意味で大事だなと感じます。本当に大学に行く意味があるのかどうかも含めて、中学・高校の時代に様々な就労体験をしたり考える機会を与えていくことは大事だと思います。その一方で、人生100年の時代にそんなに慌てて就労先を選ばなくても色々躓いたり考えたりすればいいのではないかと言う考え方もあります。
これは大学時代はモラトリアムでもかまわない、30歳くらいまではあれこれ転職するのも人生の幅を広げるという団塊世代の経験談を語る人もいます。団塊の世代の若者の時代は日本は高度成長期で何をしても暮らしていける時代で、給与もどんどん上がっていた時代です。少子化の日本は今後、超人手不足時代を迎え、売り手市場になるのは間違いないです。今よりはどんな職にも就きやすくはなると思います。そういう意味では慌てなくてもいいというのは一理あるかもしれません。
けれども、だからこそ、自分を活かす職業を高校生から探し始めるという攻めの姿勢は大事にしていいと思います。大卒で自分探しだとニートを続けている人を目にしてもったいないなぁと思う事もあります。モラトリアムが長ければいいと言うものでもないように思います。選択することはパワーのいる作業なので、個人差はあるけど選択する時期と言うものがあると思います。
息子が強度行動障害、在宅で介助「もう無理」 入所先見つからず
息子が強度行動障害、在宅で介助「もう無理」 入所先見つからず・・・疲弊する両親
2021年10月21日 【福井新聞】
自傷行為や暴れるといった「強度行動障害」のある人は、全国に少なくとも2万5千人いると言われる。重度になると常に介助が必要だが、施設側は人手不足に加え、他の利用者や職員の安全確保の面で入所を断らざるを得ないケースもある。入所先が見つからず、在宅で息子の見守りを続ける福井県福井市の夫婦は「24時間気が休まらず、普通の生活も困難になってきた。家で支えるのはもう無理」と悲鳴を上げる。
50代の夫婦の次男(23)は2歳で広汎性発達障害(自閉症)と診断された。特別支援学校小学部6年の頃から強度行動障害の兆候が現れ始めたが、在学中は比較的安定していた。高等部を卒業後、建物から飛び降りたり、電卓を投げつけたりする重度の症状が見られるようになった。家の部屋の窓ガラスを割ってしまうため、アルミ板に交換した。
次男は、障害者総合支援法に基づく支援の度合いが最も重い「6」。現在は週1回のショートステイと週4回の通所で、二つの施設を利用している。夜間は訪問ヘルパーが介助に当たる。夫婦は「環境の変化に敏感なので、1日の生活リズムが決まっているのが理想」と、施設への入所を切望している。
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福井県によると、夜間も排せつや食事を介助する指定障害者支援施設は県内に26カ所ある。昨年9月時点で、このうち17カ所に強度行動障害のある人が計408人入所しているが、次男のような重度の人数までは把握していないという。
知的障害者ら40人が入所する勝山市の障害者支援施設「九頭竜ワークショップいずみの郷」は一昨年、重度の男性1人を初めて受け入れた。3、4人で交代しながらマンツーマンで24時間介助する。担当職員は「行為の理由が分からない時もあり、意思疎通が難しい」と話す。
同施設は常に満員状態だ。男性と同時期に入所を希望した強度行動障害の女性もいたが、日中の通所で対応している。担当者は「重度の人をもっと受け入れようとすると、設備を整えなければならない。お金も人もまだまだ必要」と苦しい胸の内を明かす。
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国や自治体は「入所施設から地域へ」とうたい、生活介護や自立訓練などの福祉支援サービスを活用し、障害者の地域生活移行を推進している。それは、夫婦には遠い世界に見える。
「自分たちが死んだら、息子はどうなるのか。行政には現実を知ってもらいたい」。介護疲れから夫は十数年間、心療内科に通う。今年5月に症状が悪化し現在は休職中だ。「息子が喜んで、安心して暮らせる場所が社会にあってほしい」と願っている。
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動画を見ているだけでは、修羅場の時の様子はわからないです。でも、表出のコミュニケーションは弱い感じがします。成人にしては人との距離が近いですが、豹変して暴れだすことを気にされているのでしょう。そして、この家族はSOSを出しているのですから、入所施設が必要です。「入所施設から地域へ」というのはノーマラーゼーション社会には必要なことですが、家族の犠牲の上に成り立つものではありません。
しかし、国の政策は入所施設を経営するより通所施設を経営したほうが利用料がたくさんとれるように変わってきています。その結果、本当に必要な人が利用できず、入所する必要のない人が入所している傾向がさらに強まっているような気がします。行動障害が激しくなったり両親が老いて養育ができない理由で入所施設を待つ家族は全国でどれくらいおられるのでしょうか。
誰かのせいにしてもしかたがありませんが、23年間、早期療育から学校教育、児童通所事業、障害児医療と公的にかかわってきた結果でもあるわけですから、家族だけに責任を負わすのは筋違いだと思います。以前にも書きましたが、「入所施設の職員は、学校に足を向けて寝たらいけない。施設職員の仕事があるのは学校のおかげ」と皮肉を言った強度行動障害施設の施設長の言葉を忘れてはいけないのです。
行動障害があるのは家族の責任ではありません。ノーマライゼーション施策が、本人が成人しているのに親と暮らす事は不自然だというならわかります。ノーマライゼーションと言うなら独立させて、24時間の支援が保障されなければなりません。それが実現しないうちは、家族が望むなら入所施設で支援されるのが当たり前だと思います。自分たちの息子だからと自分に言い聞かせている様子を見ると、どこが世界第3位のGDP国なのかと情けなくなります。
人ごとではない介護や老後 映画「僕とオトウト」
人ごとではない介護や老後 映画「僕とオトウト」
2021年10月21日【大阪日日新聞】
重度の知的障害を持つ弟とどう向き合うのか?重いテーマながら爽やかな映画に出会った。第40回「地方の時代」映像祭優秀賞受賞作「僕とオトウト」(制作・元町プロダクション、配給宣伝・「僕とオトウト」上映委員会)。京都大学の大学院生である髙木佑透(ゆうと)さん(25)が、弟の壮真君と自分の今後を考える為(ため)、家族を撮影し、監督したドキュメンタリーである。
髙木監督は2016年の相模原障害者施設殺傷事件以来、障害について考え続け、今は発達心理学と障害学を専攻し“障害者のリアルに迫る京大ゼミ”も運営している。
「障害って何やろう?両親がいなくなれば、僕が弟と同居するべきなんやろか?と悩み、自分の心や弟の状況を見つめようと、初めて映画を作りました」
何をどう撮るのか?迷い続けて「気合と覚悟で完成させた」と言う「僕とオトウト」。壮真君を巡る髙木ファミリーの生活が飾り気なく映し出される。農園での就労面接に行く。収穫の合間につまみ食いしてしまう弟。見守る兄の髙木監督が謝る。しかし弟は、売り物にならない傷ついた果実のみを食べていた事も判明する。路上で、多動の壮真君の保護に懸命な母に、ほんの小さな桜のつぼみを見つけた壮真君が教えたこともある。
日常は波乱に富む。以前、壮真君の行動により自宅が火事になり、自宅ドアに全て鍵を付けた。本作撮影中に再び騒動が起こる。半端ない緊張感。観客の私もハラハラする。
映像作品は編集により変化するが、ドキュメンタリーは特に編集の影響が大きい。髙木監督はパソコンで編集し、映像に磨きをかけた。監督と父の対話バトルシーンがある。“これまで何も話してくれなかった”と激しく迫る監督。しかし父の反応を映像は見せない。父の顔の代わりに、実家のある高松と神戸を結ぶフェリー上で撮った瀬戸内海のさざ波や、美しい夕景のカットへと繋(つな)ぎ、父子の葛藤について観客の想像力をかきたてる。
監督は長年、写真に力を入れ、音楽CDのジャケット写真を依頼され撮ったこともある。ドキュメンタリーにも意欲を燃やし、本作の池谷薫プロデューサー(「延安の娘」「蟻(あり)の兵隊」などのドキュメンタリーの監督)が開講した池谷薫ドキュメンタリー塾にも通い、研鑽(けんさん)を積んだ。本作で監督は池谷さんに綿密で厳しい指導を受けた。
自分と母が撮影した家族の映像を繰り返し見て、「多くの発見があった」と監督は言う。「弟に接する時、僕はいつも笑顔なんです。弟が何かしでかしても笑顔。険しい雰囲気を回避はできますが、根本的な解決にはならない。笑顔で全てに蓋(ふた)をして来たことに気付きました」。障害があっても全て受け身ではない。壮真君も撮られっ放しではなく、ガツンと意思表示するラストシーンが、本作の華である。
人と人の距離が神経質に問われる今、本作を観(み)ながら私は“誰とどんな距離で生きて行く?”と自問した。コロナ、介護、老後-。この映画は他人事(ひとごと)ではない。私やあなたの映画でもある。
上映は22日から京都みなみ会館、30日から元町映画館(神戸)、11月6日からシネ・ヌーヴォ(大阪)。オンラインでのトークイベントも開催予定。
問い合わせは、bokutootouto@gmail.comまでメールで。
(パーソナリティー西川敦子)
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笑顔で蓋をすること、とても重い言葉です。世間一般の障害者や弱者への考え方と、家族のスタンスは違って当たり前です。自分で選んだわけではない家族の絆で結ばれていた時、逃げ出しようのない運命とどう向き合うのか、高齢者のいる家族や障害のある「きょうだい」の問題は古くて新しい課題です。昨日掲載した強度行動障害のある息子のいる家族の話も深刻ではあるけど質的には同じです。
前回紹介した、ドラマ『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』の第2話の内容も視覚障害の妹と晴眼者の姉の葛藤でした。妹を思いやる姉の立場と、自立したい妹の立場が交互に描かれていました。妹がお気に入りのブティックで、店員にサポートをお願いして気に入ったドレスを買う姿を、姉がそれをそっと店の外から見ていて、姉妹だけで支えるのではなく社会も支えてくれるという姉妹の気づきを描いていました。
京都みなみ会館は、昔は床が傾いていてとても座りにくい座席だったのですが、2年前に道路を隔てた前に移転リニューアルされて素敵な映画館になったと聞きます。機会があれば行きたかったので、ぜひこの映画で「封切」したいと思います。10/22~10/28は上映後、連日監督の舞台挨拶があるようです。