みんなちがってみんないい
感覚統合アプローチ
頭の固い支援者によくあるのが、椅子に座っていない、立ち歩く、姿勢が悪い、頬杖を付く、寝そべる、体をゆするのは集中していないからと理解して、その行動を叱ったり修正しようとします。或いは、姿勢を正して人の話がきけないのは支援者や大人へのリスペクトが足りないからと、何時代だよと思うような発想の方もいます。頭の柔らかな支援者は、体を動かすのは子どもが体を覚醒させて集中しようとする表れかもしれないと考えます。このように旧態依然とした考えの支援者とスマートな支援者では発想が真逆なのです。
感覚統合によって、人は脳に入ってくる様々な感覚を整理したり、まとめたりしています。人は普段、様々な「感覚」に囲まれています。感覚には一般的によく聞く「五感」(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の他にも、「固有受容覚」と「前庭感覚」という感覚が存在します。脳は次々と入ってくるこれらの感覚を統合(整理・分類)し、無意識に自分の身体をコントロールしています。逆に感覚統合がうまくいっていないと感覚の受け取り方に偏りが出て、他人と同じように状況を把握して、それに応じた行動をすることが難しくなります。その結果、落ち着きがなかったり、乱暴な動作が多いと思われたりします。感覚統合を理解することで子どもの行動を理解し、問題がわかったうえで対応することができるようになります。
「固有受容覚」とは、筋肉や関節によって自分の身体の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚です。固有感覚の役割は大きく分けて5つあり、 ①自己存在感 (例:抱っこを求める) ②身体のイメージの把握 (例:人がしていることを真似できる) ③力加減、動きのコントロール (例:飲み物をそっと注ぐ) ④距離感、方向の把握 (例:自分の下駄箱の位置がわかる) ⑤一連の手順の記憶 (例:文字の学習) があります。子どもは様々な経験をしながら、固有受容覚を養い、他の感覚と統合させて発達しています。例えば、固有受容覚があることで、自分の力や動きをその場に応じて変えることができます。子どもたちは綱引きで力いっぱい引っ張ったり、ジャングルジムをぎゅっと掴んだりして100%を知ったあと、飲み物を注いだり、卵をそっと持ったりするなど力を加減することを学びます。逆に、固有受容覚が未発達だと力の加減がうまくできず、自分は軽く叩いているつもりでも相手にとって痛いと思わせるほど強く叩いてしまうなどのトラブルが起きる可能性があります。
私たちは「前庭感覚」によって、耳石器と三半規管が受容器となって、揺れ、傾き、重力、スピードを感じています。
前庭感覚の役割は大きく分けて4つあり、 ①姿勢とバランスの発達 (例:なわとびができる) ②眼球運動 (例:鬼ごっこをする) ③覚醒の調整 (例:ジェットコースターに乗って興奮する) ④自律神経系の調整 (例:車酔いを防ぐ) があります。前庭感覚は、加速、回転、傾き、高さ、重力などに対して身体のバランスを保つために大切です。例えば、動きながら物を見続けることができるのも、前庭感覚によるものです。子どもたちが遊んでいるときにボールを目で追いかけながら走ったり、教科書を読みながら音読したりすることにも関係しています。一方で、前庭感覚がまだ未発達の状態だと、トランポリンでジャンプしたときにうまく着地できなかったり、ブランコなどで身体が大きく揺れたりすることを極端に嫌がったりします。
固有受容覚と前庭感覚などの感覚の統合がうまくいかないと、落ち着きが無かったり、発語の遅れおくれが見られたり、友達と上手く遊べなかったりと情緒面、言語面、対人面などでつまずくことがあります。しかし、感覚統合が未熟な子どもたちが直面するつまずきに対して、様々な方法で支援することができます。例えば、教科書の文字を意味で句切って読むことができない子どもには、行ごとに定規をあてたり、色を変えたりして指導することで視線があちこちに飛ばないように指導します。これを繰り返すことで上下・左右の眼球運動をコントロールできるようになります。また片手で消しゴムを持ち、もう片方の手で紙を押さえて文字を消したり、アーチ状に浮いている定規を使ったりと、両手を使った動作がうまくできない子どもに対しては、押さえている感覚を強調する支援を行うことで改善することができます。これらはあくまで一例で、それぞれの子どもにあった、感覚統合を成熟させるための支援を行うことが大切です。また、大人にとっては支援・指導でも、子どもたちにとっての遊びになるようにすることが大事です。子どもたちが支援を楽しみ、成功体験を積むことで、さらに別の支援にチャレンジして感覚統合を発達させていくことができます。
感覚統合アプローチは、例えば、子どもたちが立ち歩いたり集中できなかったりするのは感覚統合がうまくいっていないからではないかと考えます。上履きを脱ぎたい人は「机の下できちんと並べる」というルールを作り、自分の集中しやすい、落ち着く姿勢で学習して良いと伝えたクラスでは、子ども達の集中力が上がり、今まで授業中に席に座り続けることができなかった子どもが授業中に立ち歩かなった事例もあります。傍から見ると変な体勢でもその子にとってはその姿勢が一番集中できるのです。このように、子どもたちの行動を頭ごなしに否定するのではなく、その裏にある原因を考え、「気になる」行動が良くなっていくように様々な工夫をするアイデアの理屈が感覚統合理論なのです。