みんなちがってみんないい
強化と行動
ある行動を行い、望ましい結果が伴えば、その行動の頻度は高まります。例えば、『(A)夕食後→(B)宿題をする→(C)母親に褒められる』と『(B)宿題をする』という行動が増えます。これを“強化”と言い、その際の望ましい(C)結果を“強化子(きょうかし)”や“好子(こうし)”と呼びます。
この強化は応用行動分析(ABA)の基本であり、とても大切です。強化子というのは嬉しいものであるとは限りません。直前の行動を維持し、強める結果のことです。ドアノブを回すとドアが開きますが、この『ドアが開く』という結果は『ドアノブを回す』という行動の強化子となっています。ドアが開いてもそう嬉しいわけではないですが、ドアが開くという結果がドアノブを回すという行動を維持します。
基本的には望ましい結果、嬉しい結果が強化子となることが多く、その内容は人それぞれです。保護者や先生の賞賛、お菓子、おこづかい、ゲームができる、遊びに行ける、微笑みかけられる、休憩時間が伸びるなど、その子どもが喜ぶものは基本的に強化子として考えることができます。やりがいや達成感を感じるということも同様です。ある行動を増やしたければ、その行動の直後に強化子を与えることで、その行動が強化され頻度が高まります。不適切行動も同様であり、不適切行動の頻度が高く維持しているようであれば、その行動はその子にとって望ましい結果によって強化されていると考えます。
計画を立てる際によく見られる誤りは、お菓子などの特定のものを強化子と決めつけることです。お菓子が好きな子どもならお菓子が強化子になり、お菓子をそれほど好きでない子どもならお菓子は強化子にはなりません。また、お腹がいっぱいの時はお菓子を別に欲しくないので強化子にはならず、その時の状態によっても強化子は変わってきます。
次に、ある行動を行い、望ましくない結果が伴えば、その行動の頻度は減少します(ご飯中におしゃべりをして母親に怒られる、など)。これを“弱化”または“罰”と言います。その際の望ましくない結果を“嫌子(けんし)”または“罰子”といいます。この嫌子も人それぞれです。叱られる、叩かれる、空腹、喉の渇き、極度の暑さ寒さ、周囲からの批判などです。
弱化にも2つの条件があり、ある行動を行って嫌子の結果となる正の弱化と、ある行動を行って強化子がなくなる負の弱化があります。後者の代表的なものはタイムアウトで、望ましくない行動を子どもが示したら、子どもを強化子から遠ざけるという手続きです。ゲームを取り上げられる、減点されるのも強化子から遠ざける負の弱化です。
この強化と弱化、そして4つの条件によって、行動が増えたり、減ったりすることの多くを説明することができ、行動を修正したり形成したりすることが可能となります。
<正の強化>
1. 行動を起こすと
2. 強化子(好きな事)が得られ
3. その結果、その行動が増える
<負の強化>
1. 行動を起こすと
2. 嫌子(嫌な亊)がなくなり
3. その結果、その行動が増える
<正の弱化>
1. 行動を起こすと
2. 嫌子が得られ
3. その結果、その行動が減る
<負の弱化>
1. 行動を起こすと
2. 強化子がなくなり
3. その結果、その行動が減る
結果が好きな事か嫌な事が消えるならその行動は増え(強化)、結果が嫌な事か好きな事が消えるならその行動は減る(弱化)ということです。そして、行動の形態や種類に関係なく、この強化の原理は人の行動なら何にでも適用されるということです。良い行動であっても、悪い行動であっても、日常的な行動であっても、奇異な行動であっても、同様です。子どもに不適切行動が見られるならば、その行動により子どもにとって何か望ましい結果が得られていて不適切行動が強化されていると考えることができます。従って、不適切行動を予防するには適切な行動が増える好きな事か嫌なことが消える結果を探し、不適切な行動を減らすには嫌なものか好きなものが消える結果を探して取り組めばよいことになります。
しかし、弱化はなかなか難しいのです。子どもの好子はかなり強力なものが多いですから、少々の弱化、つまり嫌な亊を与えたり好きな事を奪っても持続的な効果はすぐには見えず、逆に消去バースト(行動がさらに強くなる)を前に怯んでしまいます。また内容や程度にもよりますが、弱化は倫理的に考えて躊躇しやすいからです。つまり大人のほうが効果と言う強化子がなかなか得られず、倫理的という同調圧力の言葉で取組行動が減ると言う負の弱化が成立します。ではどうすればいいか次回に考えて行きます。