みんなちがってみんないい
その2:行動障害に有効な支援
上の図は、行動障害の人の支援を説明するのに定番で使われている資料です。有効な支援ベスト3は、1構造化支援・2コミュニケーション支援・3薬物療法です。やっかいなのは4番のキーパーソン(信頼できる人)ですが、大変曖昧な表現です。信頼できる人とはあくまで本人が決めるのです。信頼できる人とは、上位二つの支援を当たり前のように自然に支援してくれる人は必ず含まれているはずです。見通しのある環境を準備し、本人の伝えられる方法で言いたいことを聞いて周囲と折り合いをつけてくれる人がキーパーソンの条件だと思います。この二つのサポートを抜きにして、自分は信頼されているという支援者がいればそれは根拠のない妄想でしかないと思います。
しかも8割以上の有効票を得た上位2つと比べれば5割ですから、有効半分無効半分です。良いキーパーソンに当たるか当たらないかは裏表の賭けと同じ結果とも言えます。この結果からどうすれば行動障害が予防できるのかは明確です。そして行動障害の原因は何か次回に考えていきます。
その3:二つのコミュニケーション
行動障害の予防には原因を正確につかむことが必要です。この図は障害による二つのコミュニケーションの障害が行動障害の直接原因だとしています。そして環境要因としてのモノ・ヒト・コトが掛け合わされて長い年月をかけて積みあがり行動障害が形成されます。
さて二つのコミュニケーションと書きましたが、このブログをお読みの方はもうお分かりだと思います。
そうです。理解コミュニケーションと表出コミュニケーションの二つです。最近は、理解コミュニケーションは構造化支援や視覚化でずいぶん取り入れられるようにはなってきました。昔は絵カードなんて社会では使えないからと平気で言う方がおられましたが、さすがに影を潜めました。障害のない人でも記憶が定かでなかったり、すべてを知っているわけではないので書いてあるものを頼りにするのだから、聴覚入力や記憶がさらに弱い人なら視覚支援は当たり前だということがやっと広まってきたからです。
例えば以下の経験のない人がいるでしょうか。みんな物事を理解するために、忘れないために視覚支援という情報に大半頼っているのです。(1)カレンダーに予定を書き込んで、忘れないようにしていいる人。(2)《すべきこと》のリストを作って、机や冷蔵庫に貼っている人。(3)何がほしいかを伝えるときに、広告やメニューの写真を指さしたことがある人。(4)買い物に出かける前に、買い物リストを作る人。(5)「列に並んで下さい」、「入口・出口」などの標識を見たことがある人。(6)料理本のレシピを見ながら、食事を作ったことがあり、その料理を作る度に、そのレシピを繰り返す人。(7)家族への伝言を、メモに書いておく人。(8)レストランで注文を決めるとき、メニューに目を通す人。(9)子どもが歯磨きを忘れないように、チェックリストを作った人。(10)やるべきことを思い出すために、付箋紙に書いて鏡や玄関ドアに貼ったことがある人。(11)《イラスト入り組み立て説明書》を見ながら、買ってきた家具などを組み立てたことがある人。(12) 電車やバスに乗るときに、時刻表や接近情報を見る人。(13) 車を運転するときに、様々な道路標識や交通信号を見る人。(14) 新幹線や映画館で指定席に座るとき、座席の番号を切符を見て確認する人。(15) スーパーなどで買い物するとき、値札を見て買うかどうか考える人。あげだすときりがありません。理解コミュニケーションに障害があれば、もっと丁寧に支援するのは当たり前だと思います。
二つ目のコミュニケーションは最も大事なコミュニケーションです。表出のコミュニケーションです。どんなに周りのことや大人の言うことが理解できても、何も伝えることができないとすればあなたならどんな気持になると思いますか?それが毎日毎日です。永遠にその感じが続くとすればどうでしょうか?周囲のことが少々理解できなくても、自分から伝えることができれば大体のことは解決できると思いませんか?
明日は表出のコミュニケーション障害と行動障害について考えてみます。
その4:表出のコミュニケーション
前回の二つのコミュニケーションで重要なのは表出のコミュニケーションだと述べました。ただ、表出のコミュニケーションと言えども誰にでも伝わるものでなければ役に立ちません。また、自発的に使えないと肝心な時に役に立ちません。
言葉での表出は、発声機能に問題がないこと、言語処理機能に問題がないこと、聴覚的短期記憶や長期記憶に問題がないことが前提です。身振りはどうでしょう?身振りはそのサインを模倣できる力や相手にもそのサインが何をさすかがわかる必要があります。絵や写真はどうでしょう?相手にものを渡せる機能と、絵が現物を表現する方法だと分かればだれでも使えますし、誰でも伝わります。つまり、意思伝達に絵カード表現は最短距離で到達できるということです。
二つ目に大事なことは、表出コミュニケーションの自発性を獲得していることです。私たちは用もなく話しかけることはほとんどありません。必ず目的があります。ところが、行動障害の方は、相手に自分から情報を与えて目的をかなえる、「自発的」な表出コミュニケーションが困難な方がほとんどなのです。
また、日常相手が黙っていると「どうしたの?」と私たちは声を掛けます。「どうしたの?」は、「何か欲しいの?」「どこか痛いの?」「何か気分が悪いの?」「何か困っているの?」「何か助けがいるの?」等の意味です。自発的な表出に困難がある人は、「どうしたの」が聞かれなければ何も表出(言えない・身振りできない・カードが示せない)人が多いのです。中には何か言ってほしそうにじっと相手の顔を見つめる人もいます。これが「指示待ち」です。つまり「どうしたの?」や「~してね」を待っているのです。
相手が自分に話しかけたり相手が自分にはたらきかけたりして、初めて伝えるもの、初めて行動を起こすものという理解をしている方が大変多いのです。この状況を想像してみてください。自分の要求を叶えるために相手が自分に話しかけてくれるのを四六時中ずっと相手の様子を見守り待つのです。万が一、話しかけてくれたにしても表出スキルが低くかったり相手の理解力が低かったりして上手く伝えられなかったらまた待つのです。実力行使する行動障害の人たちの気持ちが分かります。
適切な意思伝達は自分から起こすものだということを理解してもらうには、適切なコミュケーションスキルで意思伝達ができ要求が叶ったという経験を蓄積するしか方法がありません。日常場面では、スキルを教えるよりこの自発性を教える方がはるかに難しいと感じています。それはある程度のコミュニケーションの成功体験の回数が必要だからです。その人にもよりますが、1日100回を超えなくては文字通り話にならないと思います。つまりその人が便利だと気がつくまで生活のあらゆる場面で経験が蓄積される必要があります。
その5:丁寧にひとつずつ
私たちは表出言語を教えられた経験はありません。自然に覚えたからです。行動障害を起こしていたりその可能性のある方に表出のコミュニケーションを教えるにも自分の経験がないのです。人は自分の経験にないことを習得するにはそれなりの時間がかかります。スポーツの経験のある方や習い事をされた方ならわかると思います。さらに、人に教えられるようになるには普通にできる人より深く広く熟知する時間が必要です。
サイン言語の研修会やPECSの研修会に行って少し職場でやってみたけど子どもがうまく反応してくれなかったり成果が出なかったりして、周囲からもなんとなく疎まれている感じがしてあきらめてしまう支援者は少なくないと思います。成功している方は、家庭でも現場でも長く粘り強く取り組んでいる方です。人の発達を考えても、自発のコミュニケーションの基礎が完成するまでに10か月から18か月かかるのです。焦りは禁物です。あの手この手の工夫も必要です。
子どもが自発の表出コミュニケーションの扉を開けると驚くような速さで表出コミュニケーションを吸収していくのも事実です。言葉の獲得まで進む方もいます。言葉があったけれどもうまく使えなかった人も適切に会話ができるようになる人もいます。
この道のりを試行錯誤で切り拓いたのは100年前のヘレンケラーとサリバン先生。今日、表出コミュニケーション支援が最も体系化されエビデンス(科学的根拠)が確認されている方法は、PECS以外に私たちは知りません。ただPECSも細部にわたって万能ではないし人はみな個性があり違います。一番大事なことはその人が好きなことをたくさん知っていることです。先にも述べたように私たちは表出のコミュニケーションを「教えられた」経験はありません。だから私たちも表出のコミュニケーションの学習者です。行動障害を予防し強度行動障害を軽減するコミュニケーション支援は、子どもたちに並走しながら地道に学んで伝えて、一歩一歩進むことが大事だと思うのです。
その6:虐待防止
行動障害の原因や支援方法を理解をしていないと虐待の可能性が高くなります。今回は虐待防止について考えてみます。
2012年から始まった障害者虐待防止法の最後に「養護者に対する支援等に関する施策を促進」と書かれています。また、「養護者に対する支援」という部分では、家族など養護者の虐待について触れています。家族は、もちろん愛情をもって育てていますが、介護している人の中には大きなストレスを抱えていたり、相談できる人が周りにおらず追い込まれた状態にある人がいます。これらが原因であることが多いので、虐待までに発展しないように、家族などの養護者を支援していく事が必要としています。
また、虐待が起こってしまった場合には、なるべく早く小さいうちに見つけて、虐待がエスカレートする前に被害を防いでいくことが重要です。そこで、法律の中でも早期発見・早期対応ということが重視されています。
虐待の類型は養護者・職員・使用者と分けて書かれています。
〔養護者による虐待の5つの類型〕
①身体的虐待:障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、または正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。②性的虐待:障害者にわいせつな行為をすることまたは障害者をしてわいせつな行為をさせること。③心理的虐待:障害者に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。④放棄・放置:障害者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置、養護者以外の同居人による①から③までに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。⑤経済的虐待:養護者または障害者の親族が当該障害者の財産を不当に処分すること。その他当該障害者から不当に財産上の利益を得ること。
〔施設・事業所(職員)における虐待の5つの類型〕
①身体的虐待②性的虐待⑤経済的虐待は養護者と同じです。③心理的虐待では、「~不当な差別的な言動」が加筆されます。④放棄・放置では、「他の利用者による①から③までに掲げる行為と同様の行為の放置その他の障害者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。」が加わります。
〔使用者による虐待の5つの類型〕
①身体的虐待②性的虐待⑤経済的虐待は養護者と同じで、③心理的虐待は、職員と同じです。④放棄・放任では、「養護者以外の同居人」や「他の利用者による」となっていたところが、「~ほかの労働者による」とし、同僚・上司・部下などからの身体的、性的、心理的な虐待が起こっていることを容認したり見過ごすことが書かれています。この使用者による虐待については、障害児童も高齢の障害のある人もこの虐待防止法が適用されることになっています。
〔事業所での身体拘束・行動制限について〕
本人を落ち着かせるためにとか、周りへの影響を考えてなどの理由で本人の行動を抑制することが、本人にとってはマイナスになってしまう可能性があることや、倫理的な部分で問題になってくることがあります。障害特性などをしっかりと理解し、できる限り支援方法の共有化やマニュアル化などによって行動障害が起こってしまう前に、適切に支援することが大事です。身体拘束については、切迫性、非代替性、一時性の3要件すべてを満たすことが必要です。ただ、身体プロンプト(スキル獲得のための身体誘導で、徐々に消去していく行動支援)と身体拘束は全く違うものですから支援の専門家は行動支援の手法について良く学習をすることが必要です。
「問題行動」に対処するために、身体的虐待に該当するような行動制限を繰り返していると、本人の自尊心は傷つき、抑えつける職員や抑えつけられた場面に対して恐怖や不安を強く感じるようになります。人や場面に対しての誤った学習を繰り返した結果、さらに強い「問題行動」につながり、さらに強い行動制限を行うという悪循環に陥ります。行動障害に対する知識と支援技術を学び、支援をマニュアル化することなどによって職員全体で共有し、行動制限の廃止に向けて取り組むことが施設・事業所での障害者虐待を防止することにつながると共に、支援の質の向上にもつながります。
子どもの呼称
福祉の関係者の中には、「~ちゃん」「~くん」と呼ぶことを、人権侵害または人権侵害への傾きがあるとする見解を持つ人がいます。呼称は、そのように単純な問題ではありません。こういう指摘に対して、現場の支援者が納得できない気持ちは理解できますが、ちゃん付けが正しいわけでもありません。
呼称の問題を単純化する悪弊は、自治体職員や福祉支援者に地域住民・利用者を「お客様」と呼ばせることや、学校教育における児童生徒の男女差別を解消するための手立てとして、男女すべてを「~さん」に統一して呼ぶとするなどがあります。「お客様」は消費者主権主義にもとづくビジネスモデルにおける呼称ですから、ビジネスモデルに包摂されない地域住民やサービス利用者は、行政の主権者ではありますが金銭とサービスを交換する「お客様」とは違います。敬意をもって丁寧に接することと、お客様扱いは意味が違います。学校における「~さん」への呼称の統一というのは、差別事案を具体的にとらえて克服していこうとするのではなく、呼称の統一によって「性区別なく公平に扱っていますよ」、「君付けは上から目線だから使いません」というのは、アリバイ工作程度にしか感じないのです。だからと言って、これが全部間違いだというのも逆のステレオタイプのような気がします。もう少し呼称や敬称の問題の本質をつかんだ上で、プロとしての流儀を明確にしたいと思うからここで取り上げてみたのです。
福祉的支援における呼称の問題は、サービスの種類で区別して考える必要があります。一つは施設入所支援やグループホームのように親密圏を構成する支援サービスの中で、支援者と利用者が取り結ぶ関係性にふさわしい呼称の場合です。もう一つは、就労継続支援や就労移行支援に代表されるような、公共圏において支援するか、「公共圏に向けて」支援する時空間において支援者と利用者が取り結ぶ関係性にふさわしい呼称です。だから、この場合は呼び捨てにしたり「~ちゃん」はあり得ません。
親密圏における呼称は、関係当事者の同意に従ったいかなる呼称も、公序良俗に反しない限り、人権侵害には該当しません。ただ、支援者の優位性をテコに利用者を「子ども扱い」して呼び捨てにしたり「~ちゃん」と呼称するのは論外です。しかし、この問題の本質は呼称にあるのではなく「子ども扱い」することに人権侵害の根幹があるのです。関係者の相互了解さえあれば多様な呼称が容認されてもいいのかもしれません。ただ、利用者が施設やグループホームから地域社会のさまざまな活動(就労、買い物、外出、友人との仲間活動等)に参加する場面で呼び捨てや「~ちゃん」を使用し続けることは、人権侵害につながる問題をはらんでいます。地域社会における一般市民の受けとめ方の中に障害のある人に対する「子ども扱い」や特別視を助長しかねないからです。
「~ちゃん」の呼称が、いつの間にか人権侵害につながる恐れがあるという指摘は、呼称の問題が本質なのではありません。親密圏そのものがはらむ「割り切れないリスク」に問題の本質があります。親密圏における「暮らしの中の人権侵害」の問題には立ち入らず、呼称という表面的な問題で片づけているとも言えます。障害のある人が親密圏と公共圏のそれぞれにおいて、難しさを感じることなく、もっとも活き活きと周囲の人たちとの関係をゆたかに取り結べるための呼称を、ケース・バイ・ケースで考えるべきかもしれません。ただ、言霊文化を重んじる日本では、声に発した言葉が、相手にも自分にも良くも悪くも影響を与えると言われてきました。敬語や呼称敬称によってその関係性を持続させるという考え方は行動科学としては理にかなっており、あながち否定できるものでもありません。
そこで、児童サービスの場合も同じ課題が浮かび上がります。支援者が子どもを名前呼びにしたり、ちゃんづけしたりするのは良くあります。特別支援の必要な子どもの場合は日常茶飯といっていいかもしれません。しかし、ここにも親密圏と公共圏、もしくは公共圏に向けた支援かどうかということが問われます。中学高校生の利用者に「~ちゃん」と呼びかけた声を、同じ場所で小学生が聞いているという状況に、あまりにも鈍感ではなかったかと思うのです。子どもへの支援者の言動は子どもの言動に乗移っていきます。家族以外からいくつになっても「~ちゃん」と呼びかけられている子どもに、公共圏での自尊感情は担保されるのでしょうか。また支援者自身がそのことを意識できるのでしょうか。さん付け君付けだけで、子どもに敬意を払うことができるわけではありません。そのことを深く理解していること、それがプロとしての流儀と言えるのかもしれません。
気象病
「う~ん15時から降水率60%か~ビミョ~」今日は雨が降るかどうか、梅雨の時期だからこそ外で遊ばせたいスタッフは、ヤフー天気予報といつもにらめっこしています。ところで、季節の変わり目に体調変化や気分変動があるように、気圧が下がると体調が乱れ、片頭痛や関節痛、耳鳴りなどの症状が悪化する「気象病」はご存じでしょうか。季節の変わり目と同じように自律神経のバランスの乱れが関係するそうです。
気圧の低下によって悪化する症状の多くは、自律神経のバランスの乱れが関わっています。春先や秋口などの季節の変わり目や、梅雨時の低気圧接近による気圧の低下で、以下のような症状が悪化することがあると考えられています。
①片頭痛:片頭痛のはっきりとした原因は不明ですが、血管の拡張によって痛みが生じることが知られています。過労や環境の変化などによるストレスとともに、気温や気圧の急激な変化も、痛みの引き金となります。②関節痛:気圧が下がり、相対的に体内の圧力が上がることで、関節まわりの炎症部分が圧迫されます。また、気圧の低下による血流の増加で、自律神経の痛みに対する過敏性が高まると考えられています。③めまい:気圧の低下により相対的に耳の内部の圧力が高まることで、耳の内部にある器官(蝸牛や三半規管)から内リンパ液という液体が漏れだすことで、回転性めまい(ぐるぐると回っているような感覚になるタイプのめまい)が悪化します。④耳鳴り:気圧の低下により、相対的に耳の内部の圧力が高まることで起きます。エレベーターで高層階に行くときに耳鳴りが起きるのと、同じ仕組みです。⑤過敏性腸症候群(IBS):主にストレスによって胃腸の調子が悪くなる状態で、便秘型・下痢型・混合型に分類されます。低気圧が日本に近づく春先や秋口になると、自律神経のバランスが乱れ、症状が起きやすくなります。⑥精神関連:自律神経失調症、パニック障害、うつ病、統合失調症、不安障害などの精神疾患は、自律神経のバランスの乱れを招く気圧の低下によって、悪化しやすいと言われています。尚、昔は喘息も低気圧と関係すると言われてきましたが、最近の研究によると気圧変化か心理変化かどちらかはっきりとは言えないそうです。
それぞれの症状の悪化は、気象状況の影響かどうかに関わらず、医療機関を受診して、適切な治療を行うことが何よりも大切です。治療に加えて、日頃から予防するには、自律神経のバランスを整えるトレーニングも有効です。
●ウォーキングなど適度な運動を行い全身の血行を改善する。●栄養(繊維質タンパク質)がとれる食事と、規則正しい時間に食事をして代謝を整える。●シャワーではなくぬるい湯船にゆっくりつかって汗をかきリラクゼーションする。●就寝する2時間前以降はインターネットやゲームを禁止して快眠を得て生活リズムを整える。●小集団でのレクリエーションや軽作業など計画的に軽いストレスに慣れる。
要するに、自律神経系に働きかける、運動や食や温度管理や、過剰な視覚ストレスを避けつつ日常的に調節できる範囲で仕事や勉学の負荷をかけることです。放デイにできることは、雨の隙間を縫ってみんなで体を動かすことだという事です。
子どもへの診断告知
子どもに自分の障害について早い時期から告知していくことは必要なことだと言われています。ただ、診断名だけを告知しても、障害受容はできません。近視を説明するのに近視だというだけでなくメガネやコンタクトを装着させることで、なるほどと思わせるような支援の有効性とセットで教える必要があります。告知は子どもに諦めさせたり大人に従わせたりするためではありません。それでは診断名を否定的なものと考えてしまいます。診断名を知っても苦手なものは苦手です。子どもの苦手な理由を聞いて支援策を考えることが大事です。困難な状況であっても具体的支援で乗り越えるしかないのです。告知で何とかなるという発想は、治療方針を示さず当事者が聞いたこともない病名を告げて患者が安心すると言っているのと同じことです。「ADHDだから気をつけろ」とだけの注意は具体的な助言ではありません。これは「多動で不注意だから注意しろ」と言っているのに過ぎません。どうすれば集中できるのか、失敗をどうリカバリするのかを具体的に教える必要があるのです。
A病院では自閉傾向、BセンターではLD。C心理士はADHDと、結局のところよく分からないままでは、子どもに伝えようがありません。診断や評価は支援のためにあります。逆に言えば支援に結びつかない診断や評価は価値の低いものでレッテル貼りです。支援内容が具体的に出てこない診断名だけの診断・評価では、やればできると子どもに思わせるのは無理です。最初に、得手・不得手とその理由(見方・考え方のクセ)を具体的に見きわめます。子どもの見方・考え方のクセは、親にはあまりにも身近すぎて見えにくいです。子どもの考え方のクセを教えてほしいと事前にはっきりと伝えて、医療機関・療育機関・教育機関での評価を利用してみましょう。
子どもへの告知(医学心理学教育)の最も重要な部分は診断名を伝えなくてもできます。特性に合わせた具体的支援から始めるのです。親の判断はLDだったけれど医学診断は軽度精神遅滞だった、親の判断はADHDだったけれど医学診断は自閉症だった、ということは良くあります。子どもに診断名を伝えた後で修正の必要が生じると親子ともども混乱します。診断名を子どもに伝えるのは熟練した専門家の判断を受けてから行います。
赤ちゃんは、誰に強制されたわけでもないのに毎日努力を続けて這い立ち歩行へと進んでいきます。子どもというのは、本来、誰に言われなくても前へ進んでいきます。大人が邪魔し続けて、前に進むことへの希望を奪わなければ前へ進むのです。子どもが診断名を言い訳のように使うとしたら、その子は言い訳をする以外に自分の心を守る方法を手に入れていないのかもしれません。子どもにも達成可能な、人からも歓迎される具体的な方法を教えてあげてください。子どもの意欲を引き出すのは説得ではなく達成感です。
ASDやADHDは病気ではありませんから、治す必要はありません。でもそのために不都合が生じないための工夫や努力は大切です。でも最も大事なことは、子どもたちに何かの技術を教えるのは、子どもたちのやり方は間違いだから正しいやり方を教えるのではないということです。ASDが人口の99%を占める世界があったなら、研修の参加者が「187名が主催者発表でした」ではなく「まぁ200くらい?」なんて平然と表現する曖昧さや、「会話は、興味なくても相手に注目して、キャッチボールのように話す」という変なこだわりは、きっとASDの皆さんにあきれられてしまうでしょう。私たちの教えているのは「多数派のやり方」です。ASDの皆さんの感じ方も一つの真実だけど、みんなの暮らしやすさのために多数派のやり方に合わせるワザを使って欲しいということです。この続きは明日。
その2:特性は長所でもある
支援者が子どもに伝えるべき事柄は個々の具体的な困難への対処方法です。それは子どもが実践可能で、効果的でなくてはなりません。手助けと自分の工夫で、毎日の暮らしが安定する!嫌なこと・困ることも、やりようで変えていける!こうした経験を子どもにもたせてから告知は始まります。自閉症の特性は不都合の原因となる場合も多いものですが、人間としての長所でもあります。興味が偏る裏返しは、好きなものには集中でき探究心も高いところが長所です。自分の特性は長所でもあると告知の前に伝えて置くべきことです。叱られてばかりの暮らしの中で取ってつけたように誉められても子どもはそれを信じられません。「自分の特性は長所でもある」という認識は「やりようはある」という実感と不即不離のものです。
やりようはあるという実感・長所でもあるという実感を、毎日の生活の中で、個々の具体的事柄に関して積み重ねていくこの第一段階が、子どもへの告知の基盤です。これを子どもに充分に経験させるには支援者に技術力が必要です。この段階では診断名の告知は必要ではありません。この具体的対応を教える段階を充分に経験しているか否かが、告知が支援となるか、意味のない宣告となるかの分かれ目です。
親だからわが子に合った育児ができるなんて絶対にありません。子どもが自分の良さを発揮するために特別な工夫を必要としているように、特別な工夫を必要とする子どもを育てる親にも特別な工夫が必要です。子どもがその工夫のために支援者を必要としているように、親もまた支援者を必要としています。自閉症協会や親の会、保健所や発達障害支援センター、或いは発達障害の知見に詳しい地域の福祉事業所にも連絡を取ってみることをお勧めします。学校にも相談部門がありますから聞いてみましょう。ただし、担当者によって腕が違うのは病院やいろんな技術職と同じで、ある意味当たり前のことです。親同士の情報も参考にしましょう。この続きは明日。
その3:告知のタイミング
告知はとても個別性が高いものです。子どもの支援・親の支援・生活学習環境等を検討して方法を探ります。診断名告知に積極的に取り組んでいる専門家の中でも、どの時期が良いのかは様々です。幼児期からできるだけ早く診断名告知をしたほうがいいという専門家もいれば、問題が噴出しているときこそ診断名告知の好機だという専門家もいます。つまり、答えはなく、それぞれの対象の子どもの状況や環境、専門家のポジションやその背景によっても違うのです。これも必ずというわけではないないですが、前回述べたように支援の効果を子どもが知っていることは告知の理解には有利だという事です。だからといって、場合によっては詳しい告知から入った方が効果が上がる人もいます。
子どもへの診断名告知の判断を親だけが引き受けていくというのはとても荷の重い作業です。必ず医師や心理士、教育関係者等専門家のサポータを作ってから始めます。また文字情報を処理する能力が相応に高い子どもで、診断名に関してもしかしたら既に知っているのかもしれないと思われる場合や混乱なく受け止めるだろうと予測される場合には、ASDの子どもたちは自分のペースで文字情報を手がかりに情報処理をしたほうが理解も納得もしやすいので診断告知に関する書籍を与えて予習してもらうことも有効です。想像力の問題のために一度思い込んだ事柄を修正するのが苦手な子どもたちなので、その意味でもひとりでじっくりと情報で吟味することが有効な場合も多いからです。書籍を渡してもらう場合には、今、目の前で読めと迫ることはしないで、自分のペースで情報処理するようにゆったりと構えて取り組みましょう。また情報を渡す際には、後ろ向きな感想も含めいろいろのことを思ったり話し合ったりすることは大事だと必ず伝えていくことが必要です。
また、告知は1回で済むものではなく、サポーターが協力して少しづつ違う角度から複数回行います。また節目節目にバージョンアップもして伝えていくものです。ここまで読んでお分かりの方も多いかと思うのですが、子どもへの発達障害の告知とは、医師の特権行為というより子どもへの教育なのです。子どもが一つ一つ自分について知っていくプロセスを支援することが大事だからです。これを心理学的医学教育といいます。
ここまで書いたことは、日本のASD告知のオーソリティーでもある吉田友子医師のホームページを参照しています。書籍資料や講演会情報などアクセスしてみてください。http://i-pec.jp/
睡眠障害
人間をはじめとする多くの生物は、基本的なリズム(活動する・休む・眠る)および体内の働き(自律神経機能・内分泌機能・代謝機能などのさまざまな生体機能)が1日に約25時間を周期とするリズムで変動しています。そして、この変動のリズムをもたらしているものを生体時計(体内時計)と呼びます。ヒトの生体時計は実際の1日24時間より約1時間長いので、社会生活を維持していくためには、1日24時間を周期とする生活リズムに調整していかなければなりません。この生活リズムが狂ってしまうと、不眠症、うつ、不登校、全身倦怠感、注意集中困難、イライラ、学習困難などのさまざまな症状が出現します。不眠症は入眠困難という形で現れ、遅寝遅起きになります。近年、発達障害や夜型生活との関連で増加している睡眠相後退症候群は、子どもの身体・知能の発達、さらには不登校、神経症、自閉傾向を強めるとして注目されています。では、どのようにして生活リズムを24時間にリセットして規則正しい生活にすればよいのでしょうか?
生活リズムをリセットする因子として以下のものがあります。光による明暗(昼と夜)・社会的因子(家庭・学校・会社・仕事・遊びなど)・食事・身体的運動・環境(温度・湿度・騒音・振動など)。この中で、朝の光を浴びること、朝食、日中の運動がもっとも強い同調因子です。朝のジョギングや歩いて登校するなどの活動はこれらをすべて満たしてくれるといってもいいでしょう。特に、規則正しい生活リズムの獲得は身体にも心にも良い影響を与え、社会生活の様々なリスクを回避する礎となります。
睡眠を阻害する因子の中で、ストレスが占める割合は一番大きいのかもしれません。一般によく聞かれる不眠症とは、心身の健康を維持するために必要な夜間の睡眠が量的または質的に不足し、昼間の日常生活に支障をきたしたりストレスを抱え込んでいる状態のことをいいます。逆に、睡眠に問題がないということは、日中眠気がなく、心身共に健康に生活できる睡眠がとれるということです。ここで、睡眠障害の4つのタイプを見ると、入眠障害:布団に入ってもなかなか寝つけないタイプ。不眠の中ではもっとも訴えの多い症状です。中途覚醒:夜中に何度も目が覚めてしまい、再び寝つくのが難しいタイプ。熟眠障害:睡眠時間のわりには、朝起きた時にぐっすり眠った感じがしないタイプ。早朝覚醒:朝早く目覚めてしまい、まだ眠りたいのに眠れなくなるタイプ。高齢者に多いのが特徴。睡眠相後退症候群:夜なかなか寝つけず、朝はなかなか起きることができない状態が極端に悪いもので、最も多いのが、通常夜中の2時から朝の6時頃まで眠れず、そのため朝はまったく起きられなくなるというパターンです。一旦眠ると普通に眠れますが、その眠る時間帯が社会のリズムとずれているため社会適応が困難になります。遅刻や欠席が多く、また日中に強い眠気に襲われたり、授業に集中できないといった障害がおこります。このように学校に適応できない状態が続くと二次的に抑うつ状態、不登校、ひきこもりになることも稀ではありません。
中高校生の不眠患者の約半数がDSPSといわれており、思春期での発病率がもっとも高く、典型的なDSPS患者は発病前から夜型人間の傾向が強く、感覚過敏のあるASDや、ゲーム・携帯電話などにはまっている場合に多く見られます。また、DSPSが不登校の原因かもしくは結果かについての判断は難しいですが、両者は深く関係しており、DSPSの治療をすることで不登校から立ち直ることができたケースも多く見られます。DSPSの病態生理は、睡眠相だけでなく、深部体温のリズムや脳のメラトニン(睡眠を制御するホルモン)の分泌リズムが遅れており、このため生体リズムが後退したまま固定され、外部環境に同調できない状態となることがわかっています。
DSPSを改善するための早寝早起きの工夫をみてみましょう。日当たりの良いベッド。朝にカーテンを開ける。朝は必ず起きる。起きたらすぐに着替える。朝に日光を浴びる。日中に身体を動かす。入眠3時間前から照明を落とす。昼寝をしない。メラトニン療法。高照度光療法。ビタミンB12。
寝る前にしたほうがいいことは、寝る1~2時間前から脳をリラックスさせることが大切です。一旦布団に入った後でも、眠れない時は無理に眠ろうとせず、布団を出て気分を変えるのも一つの方法です。できれば眠くなるまで布団には入らないようにしましょう。また、布団の中で、好きな本を読む、携帯電話、ゲームなどをしないようにしましょう。他には、ぬるめのお風呂にゆっくりつかる。カフェインが含まれていないハーブティを飲む。眠りを誘う音楽や心が落ち着くビデオを鑑賞。空腹の時はホットミルクを飲む。就眠3時間前から室内の照明をダウンさせる(真っ暗より薄暗い程度、蛍光灯より白熱灯、直接照明より間接照明)。寝袋、身体を強くしばる、マッサージなどの刺激がよいことも。就眠儀式はあったほうがいい (歯磨き、ストレッチ、ぬいぐるみなど)が挙げられます。
寝る前に避けたほうがよいことは、熱いお風呂に入ること。コーヒーや紅茶などカフェインを含む飲み物。寝る前のおやつや食事。勉強や激しい運動。テレビ、ゲーム、パソコンなど。明るすぎる室内照明(明るい蛍光灯など)。
障害の種類に関わらず、また、テレビやゲームのしすぎなどにより、生活リズムの乱れている子どもも多く見られます。子どもが衣食住に関わる基本的な行動・習慣を身に付けるためにも、約束を決めて子どもがしたいことをする「時間」を保障しながら、まずは親が子どもの生活リズムをコントロールすることが重要です。さらに、タイムスケジュールのような簡単な表などを使い、目に見える形で評価することでより意識しやすくなるでしょう。そして原因のはっきりした避けきれないストレスが子どもの生活リズムを乱しているなら、まずは、その原因から子どもを遠ざけ、健康な生活リズムを取り戻すことを優先した選択を行うべきだという考え方もあります。
パラリンピック
東京オリンピックのチケットが取れなかった倍率100倍だったとネット上をにぎわせていますが、パラリンピックはいまいち盛り上がりに欠けると関係者の間では言われています。東京パラリンピックでは22競技537種目が実施されますが、チケットは8000円以下で平均2~3000円だそうです。
実はこのパラリンピックのチケットが史上初で完売されたのが前々回のロンドン大会でした。大会準備にあたって、関係者がとにかく市民にパラスポーツを体験してもらう取り組みを粘り強く行ったそうです。誰だって競技がわからなければ観戦なんてしません。パラスポーツが健常者競技に勝るパワーとテクニックが必要なことは競技を知らないとわからないのです。この結果、ロンドン大会は大成功を収めました。
ところが前回のリオ大会はロンドン大会以前に逆戻り。チケットが余り、観戦席もまばらで選手にも申し訳ない状況がおこりました。リオ大会はそもそも政変のただ中での開催で、選手宿舎問題やオリンピックインフラ建設が追い付かない状況だったので全体の準備そのものが大変だったようです。だからこそ、GDP世界第3位の日本の首都東京で開催するパラリンピックは、ロンドン大会のレベルまでに戻すことが重要です。
世界一の車いすラグビーや世界2位のボッチャなどみどころもたくさんあります。チケット発売は日本国内では、東京2020組織委員会が直接販売し8月発売の予定です。
ビジョントレーニング
ビジョントレーニングとは視覚機能の力を高めるためのトレーニングです。ものを見る力(視覚機能)は生まれつき備わっているわけではありません。徐々に発達して就学前までにその基礎ができあがると言われています。通常は成長の過程の中で、見たり触れたり体を動かしたり、様々な経験を通じて必要な機能を身につけていきます。これには個人差があります。特に不器用等調整力の弱さと「見えにくさ(視覚機能の困難)」においては関係性が強いといわれています。見る力は一人ひとり違い、この見えにくさを抱えた状態を放置しておくと、努力をしても結果が伴わなくなるという場面も増えてきます。そうなると「どうせ勉強はできない」「運動は嫌いだ」と意欲を失い、自己肯定感の喪失につながっていきます。
もちろん、学習の困難についてはこれまでのブログで述べてきたとおり、音韻機能や他の認知機能の問題もあり、視機能だけに関係づけられるものではありませんので、ビジョントレーニングで学習困難が解決するかどうかは他の認知機能との問題がないかどうかのアセスメントが重要です。ビジョントレーニング自身はそう難しいトレーニングではないのでホームページを見ていると、放デイの療育内容の目玉のようにしているところがありますが、アセスメントをどのようにしているのか明示しているところが少ないのが気になります。2012年の文部科学省実施の調査では子どもの2.5%に読み書き困難があり、その子どもの1割弱が視知覚の弱さが原因ではないかと考えられます。
ビジョントレーニングをすすめる記述には、視機能の課題が学習の困難と結びついている人は次のような傾向があると、書かれています。
1書字:文字を崩さずに正しい形で書けない。ノートに書かれているマス目や行からはみ出す。図形の形を正しく描けない。2読字:行間の読み飛ばしや、読み間違いをする。文章の意味を理解する力が身につかない。3手指の作業:ハサミやカッターなどを使い曲線などを正確に切ることができない。定規等をつかって正確な図形を描いたり、正確な線を引くことができない。紙を折ったり、貼ったりする作業をすることが困難。4集中力:授業中、しっかりと勉強に集中することができない。長時間(30分程度)の読書が続かない。5記憶力:ひらがなや漢字等、正しい形で記憶することが困難。学習において記憶の積み重ねが増えない。約束したことを忘れたり、忘れ物をしたりすることが減らない。6イメージ力:模様を見ながら再現できない。図形を正確にイメージして形を思いうかべられない。方向、方角の認識を身につけることができない。7運動する力:ボールを上手く受け止められない。縄跳びなどの跳躍運動が苦手。ダンスや体操など、目の前のお手本通りに真似るのが苦手。
確かに、生活の80%は視覚からの情報ですので、視知覚入力に課題があれば様々な問題が起こるのは当然です。だからと言って全てを視知覚の問題として扱うのは大雑把すぎる気がします。
これまで、スタンダードな視知覚検査は「フロスティッグ視知覚発達検査(DTVP)」でしたが、ここ10年視知覚の検査はたくさん開発されています。学力の問題との相関性を統計処理したものも出ています。おすすめはWAVESです。WAVESは Wide-range Assessment of Vision-related Essential Skills の略で、日本語では「視覚関連基礎スキルの広範囲アセスメント」と言います。この検査では、視知覚・目と手の協応を総合した総合指数により同年齢の子どもとの比較ができ、また、下位検査の成績によって、形態認知や記憶、協応動作について個人内の得意不得意も把握でき、段階内容別のトレーニングプリントもついています。おそらく多くのビジョントレーニングで療育を行う放デイはこれを利用していると思います。ただ、アセスメントに重要なのはテストバッテリーと言って一つの検査だけで結論を得るのではなく二つ以上の検査等から多面的に分析することです。本事業所ではWAVESとKABC-2(心理・教育アセスメントバッテリー)、STRAW-R(標準読み書きスクリーニング検査)によるテストバッテリーを組むことができます。ご希望の方はスタッフまでご連絡ください。
知っていますか「特別児童扶養手当」
特別児童扶養手当は、20歳未満の精神または身体に障害のある子どもを育てる養育者が受けられる手当です。対象は 20歳未満で精神または身体に障害のある子どもを育てている養育者に支給されます。
・身体障害者手帳1~3級程度、および一部4級程度
・療育手帳AとBの一部(審査されます)
・精神障害者保健福祉手帳1級と2級の一部(審査されます)
・手帳をもたないが、障害・疾病等により日常生活に著しい困難がある場合(審査されます)
支給制限は、扶養義務者の前年の所得が600万円くらい(共働きや扶養者数、内容によって違います)を超えると手当は支給されません。京都府の特別児童扶養手当月額は1級認定の場合 52,200円、2級認定の場合 34,770円です。(※手当の月額は物価変動などにより改定されることがあります。)
問い合わせ窓口 各自治体の「子育て支援」の窓口。特別児童扶養手当は毎年8月に「現況届」を提出して更新する必要があります。「現況届」とは手当を引き続き受給する要件があるかどうかを確認するためのもので、その年の6月1日の状況を書くものです。前年の所得の状況と6月1日現在の児童の養育状況等を記載します。「現況届」の提出がない場合、手当が支給されません。
手帳がない発障障害の子どもも特別児童扶養手当を申請することは可能です。その際には、役所の子育て支援の窓口で渡される用紙に、かかりつけ医に診断を書いてもらって申請したうえで、指定の判定医の診断をうける必要があります。
障害児福祉手当は、20歳未満の精神または身体に重度の障害のある子どもを育てる養育者などが受けられる手当です。手当の判定基準に該当する方は特別児童扶養手当と併給することができますが、障害福祉手当のほうが審査条件が少し厳しいです。これは各自治体の「福祉の窓口」で申請します。
そもそも、手当や福祉関係の情報って病院や学校、事業所でも教えてくれないことがあります。自分で積極的に調べて聞いていかないと申請できません。また、お兄ちゃんは特児手当がもらえたけど、下は軽度だからもらえなかったという家庭もあります。時々施しは受けないという方がおられますが、生活費に使っても後ろめたいことは何もないし、家族とその子のために使えばいいのです。
住んでいる自治体ごとに制度が違うので、詳しくは役所の子育て支援の窓口と、福祉の窓口で申請手続きをする際によく確認してみることをおすすめします。
乙訓各自治体のHP
向日市
長岡京市
大山崎町
これらの制度は障害者手帳(特に療育手帳)があるとスムースに申請ができることから、手帳の申請がまだの方は各自治体の「福祉の窓口」でお聞きください。税控除や様々な助成を受けることができます。
そして、手当についての「使い方」について共通しているのは「何が正しいか」ではなく、その家庭にとって「何が必要か」ということです。家庭の必要に合わせて使うことが正しい使い方だということです。必要な人に、必要な手当が届くよう、お役立てください。
台風5号
子どものころ、台風が近づいてくるとなんだかわくわくしたものです。今のように刻々と変わる正確で詳しい情報はありませんから、学校はすぐ休校になり、子ども心には余計なイメージが広がります。母はろうそくの買いたしや風呂の貯め水をしたり、雨戸を閉めてその上からくぎ打ちしていた父の姿が鮮明に思い出されます。非日常のドキドキもあるけど、家族全員で来るかもしれない困難に立ち向かっている姿が心地よかったのかもしれません。
今や都会では台風でも職場や学校に行き、ぎりぎりまで休業にしません。昔は町に出ても台風の前は静まり返っていて往来も少なかったものです。台風が来るかと思ったら次の日は晴れてたなんてこともよくあって、「あーよかったねー」で済んだのですが、今は正確な進路まで予想できますからそんなわけにもいかないようです。
20日(土)夜までの48時間で雨量は九州から四国、紀伊半島など西日本太平洋側の多い所で300mmに達する所があるそうです。また、21日(日)は台風5号に向かう南西からの湿った空気の流れが強まる九州では、雨雲が非常に発達し激しい雨となるおそれがあり、最大で500mmに達する大雨のおそれがあるそうです。広い範囲で南よりの風が強く、西日本では瞬間的に20m/sを超える強風に対しても注意を呼び掛けています。
DV防止法
7月12日千葉地裁は、千葉県野田市立小4年の栗原心愛さん=当時(10)=が1月24日に自宅浴室で死亡した虐待事件で、父勇一郎被告(41)の暴行を制止しなかったとして、傷害ほう助罪に問われた母なぎさ被告(32)に懲役2年6月、保護観察付き執行猶予5年を言い渡した判決が確定したと明らかにしました。求刑は懲役2年でしたが、地裁によると、10日が控訴期限だったが検察側、被告側の双方から控訴がなかったので刑が確定したということです。母なぎさ被告も夫からDVを受けており、一部の意見には夫のDVの中で母親は子どもを守る判断力を失っているのだから母に刑を科しても刑の効果は薄く、保護と治療が必要というものもありました。
通称『DV防止法』が制定されたのは、2001年(平成13年)のことです。“夫婦喧嘩は犬も食わない”と限度をこえた夫婦の問題に対して、行政は関与することを長年控えてきたのです。ある面、他人が入り込むことを遠慮してしまう家庭という空間。法律がそこに踏み込むことで、辛い環境に耐えてきた女性達を救い出したことは、大きな意義があると思います。「DV」とは、ドメスティックバイオレンス(Domestic Violence)、略して「DV」です。ドメスティックは、「家庭的な」。バイオレンスは、「暴力、暴行」です。正式名称は、『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律』です。
一般的には「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」と書かれています。「配偶者からの暴力」に対する定義として、身体に対する暴力だけではなく、『心身に有害な影響を及ぼす言動』つまり言葉の暴力も含むということです。相手に危害を与える暴力は、圧倒的に男性から女性に及ぼすものが多いですが、言葉の暴力は、男性女性関係なく起こりえます。一年間のDV件数は、2015年(平成27年)には、63,141件の相談が寄せられています。検挙状況は、7,914人が刑法犯として検挙されました。DV防止法制定により、年間これだけの人が罪に問われ、同時にほぼ同数の被害者が救われていることになるので、法律ができた意義はとても大きいといえます。
法の前文には「配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備することにより、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、この法律を制定する」とあり 家庭内の問題だからといって、今までのように放置しないで、しっかり対処しますよという法律になっています。『配偶者暴力相談支援センター』は、以下のことを行います。
○相談や相談機関の紹介 ○カウンセリング ○被害者及び同伴者の緊急時における安全の確保及び一時保護 ○自立して生活することを促進するための情報提供その他の援助 ○被害者を居住させ保護する施設の利用についての情報提供その他の援助 ○保護命令制度の利用についての情報提供その他の援助です。DV相談件数は10万件超えの相談が寄せられています。他には、裁判所が配偶者に対して、保護命令を出すケースもあります。具体的に、被害者への接近禁止命令や住居からの退去命令が出されます。もし命令に違反すれば、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。また、発見者による通報という項目があります。配偶者からの暴力を受けている人を発見した人や医療関係者は、すすんで警察や配偶者暴力相談支援センターに通報することを推奨しています。このようにDV防止法によって、様々な行政の支援体制が整ってきています。
DV防止法改正内容 2001年にDV防止法が制定されたことで、家庭内で暴力を受け、沈黙していた多くの女性達が、救われることとなりました。配偶者からの暴力も犯罪であるということ。閉ざされた家庭空間で、「暴力をふるわれるのは、私にも問題がある」という被害者の錯覚が明らかになったこと。 それらをDV防止法が、私たちに気づかせてくれたのです。DV防止法は2001年の制定・施行以来、18年の歳月が経ちましたが、その間に三度の改正が行われています。法律は、極論すれば、人々が幸福で安寧な暮らしをするために存在するものです。。まだまだDVはなくならないとはいえ、以前はDVについて議論すら許さない風潮があった時期を思えば、やっとここまで来たという感があります。
ソーシャル・ストーリー
ソーシャル・ストーリーとは、米国のキャロル・グレイが開発した「身の回りのものの性質や様々な場面でのふさわしい言動はどのようなものなのかなどをASDの子どもにわかりやすい形で伝えるためのコミュニケーションツール」です。
ASDの人は社会的な暗黙のルールのようなものを察することが苦手です。子どもたちが自然に身に付ける暗黙のルールですが、自閉症スペクトラムのある子どもたちは、認知上の偏りや興味関心の偏り、他者の感情の読み取りが苦手、情報の取り込み方も違うために、丁寧に教えてあげないと自然に学ぶことが非常に難しいと言えます。しかし、周囲の人たちはそうした事情を知らないので、問題児だとか、何を考えているのか理解できない子ども、などと思われることも少なくありません。
ソーシャル・ストーリーは、様々な知識や暗黙のルールを丁寧に教えることによって、ASDの人たちの理解力を高めて、自分自身で適切な行動をとっていけるように書かれた文章です。ソーシャル・ストーリーについての本は、「ソーシャルストーリブック」と「お母さんと先生が書くソーシャルストーリー」の2冊が有名です。この本には多くの文例が載っていて、そのまま使える文例集です。日常生活や学校生活で必要な様々なスキルや情報が網羅されています。
ただ、ソーシャル・ストーリーは本来一人一人にオーダーメイドで作る文章なので、自分で書く場合には「お母さんと先生が書くソーシャルストーリー」が必要です。「ソーシャルストーリーブック」だけ読んで、書き方について不完全な理解のまま新しいソーシャルストーリーを書くのはやめた方がいいです。
幼稚園・保育園の年少の幼い子どもでもわかりやすい内容では「マイソーシャルストーリーブック」が良いです。「ソーシャルストーリーブック」に比べ、一つ一つの項目が丁寧に書かれていています。子どもが小さいうちはこちらを先に読む(読んであげる)と良いと思います。
ASDの子どもは社会的な暗黙のルールを自然に習得してくのが苦手なので、特に教えなくてもよいような簡単なことを、大人になっても理解していないということがあります。このような理解不足は、幼稚園・保育園や学校または職場での生活トラブルの原因になります。
ソーシャルストーリーは、ASDの子どもに、肯定的な表現をしながら様々なことを教えるので、自尊感情を損なわずに理解力を高め、子どもの成長のためには必要なツールです。子どもの発達によってはすべての項目は必要ないかもしれませんが、ある部分だけごっそり取りこぼしている可能性があるので、読み物としてすべての項目を読んでおくのも無駄ではありません。
また、大人がソーシャルストーリーの語り口を知っておくことは、普段の生活で、子どもとのコミュニケーションに非常に役に立ちます。ASDの子どもには、ソーシャルストーリーのように説明をすると理解しやすいので、子どもに理解できるように話せるからです。子どもにこちらの意図がちゃんと伝わり、お互いに不要なストレスを抱えることがなくなります。ソーシャルストーリーは、こちらの伝えたいことを子どもにわかりやすい言葉と文字で伝える支援方法と言えます。次回は他者の内面が読みにくい子どもへの支援として、コミックストーリを掲載します。
コミック会話
今回は、コミュニケーションをスムーズにする、コミック会話についてです。コミック会話も先に書いたソーシャルストーリ―の開発者である米国のキャロル・グレイが発案しました。開発の順序はコミック会話(comic strip conversations)の方が先です。ASDの子どもは、うまく状況を理解できなかったり、周りの人たちと違った捉え方をしてしまうことがあるのですが、そうした困っている状況を言葉で表現して、周りに説明するのが苦手です。コミック会話は、ASDの子どもが、今どんなことに困っているのか、どんなことを考えているのかを理解する手助けをしてくれます。また、彼らの周りで起こっている状況を的確に伝えるための手段としても、使うことができます。コミック会話の手法を使うことで、コミュニケーションをスムーズに取ることができるようになり、お互いの理解が進むのです。
コミック会話の方法は、子どもに書きながらコミュニケーションするのは良い方法だという理解を得て教えていきます。棒人間を描き、その人が言ったことを吹き出しに書き、感情を雲型の吹き出しに書くといった方法で状況を説明します。従って、文字や絵が描けることが前提です。このルールを徹底するのでマンガを描くのとは違い、表現ルールを覚える練習が必要になります。普段の会話をコミック会話を使って行うのです。たとえば、 今日、学校でどんなことをしたの?という、普通の日常会話です。こうして、普段から日常会話にコミック会話を使っておくことで、なにか困ったことがあった時にも、コミック会話を使って、スムーズに状況を説明できるようにしておきます。基本的にコミック会話は、ASDの子どもが、自分の気持ちなどを説明するために使うので、主に描くのは子どもです。
練習段階では、大人が質問をしながら、コミック会話を書き上げていくことになりますが、慣れて書き方がわかれば、子ども一人でも表現することができるようになります。会話ですので、子どもが書き、大人が書きと、続けていくことで、お互いの理解を深めていきます。
ノートを使うか、ホワイトボードを使うか、どんな筆記具を使うかは、様々なものを試せばいいです。ただ、筆記具に関しては、8色で感情な表現をするので、色のある筆記具を用意します。大きめのノートに色鉛筆、水性ペンなどを使う人が多いです。
コミック会話ができれば、状況や感情表現に非常に役に立つツールになります。話し言葉より先に文字に興味を持つタイプの方はコミック会話はとても分かりやすいようです。今の状況を周りに伝えられることでストレスが少なくなり、周りの大人も、子どもの考えていることがわかれば、どんな支援をすればよいのかがわかります。コミック会話がうまくいけば、かなり気持ちの面で穏やかになる方が多いです。ただし、コミック会話では子どもの誤解や間違いもたくさん発見できるので、間違いを指摘したくなりますが、それはNGです。表現することで役に立った、聞いてもらえてよかったという実感が大事です。
ここの、ブログを前からお読みの方はもうお気づきかと思います。ソーシャルストーリが理解コミュニケーションで、コミック会話は表出コミュニケーションです。他者のことがわかるだけではなく自分のことも相手にわかってもらってこそバランスが取れた暮らしというものではないでしょうか。理解だけ進んでも表出手段がなければストレスが溜まって行き詰ってしまうのは当然だと思いませんか。
応用行動分析を支援に生かす
発達障害のある人の行動問題について、前回はその支援の一丁目一番地は表出のコミュニケーションだと述べてきました。行動問題の解決と予防に必要なものはは、表出コミュニケーションと理解コミュニケーション(視覚的構造化含む)、3番目には応用行動分析(ABA=applied behavior analysis)だと考えられます。
ABA理論は人間の行動の分析の仕方と法則を扱っている心理学理論です。ちょうど、化学反応の法則を導き出すことと似ています。水は電気分解すると水素と酸素になります。人は褒められるとその行動を繰り返そうとします。単純化すればのたとえ話ですが、このように化学反応と行動変容はよく似た表現をします。表出のコミュニケーションに取り組むPECSもABA理論に基づいています。激しい不適切行動も、成長の過程で周りの人たちの対応を含む環境によって強められた結果であることが多いです。まず、不適切行動が強まる例をABC(三項随伴性と言います)分析の枠組みで整理して示します。
<例1>
①(A)外に出たい→(B)くつ持ってくる→(C)外出ができる
②(A)外に出たい→(B)くつ持ってくる→(C)「後でね」と言われて外出できない
③(A)外に出たい→(B)窓ガラスをたたく→(C)母親に叱られるが外出できる
『課題からの逃避』の機能を持つ行動が強まる例は
<例2>
①(A)課題が嫌→(B)泣く→(C)課題が終了される
②(A)課題が嫌→(B)泣く→(C)課題が終了されない
③(A)課題が嫌→(B)逃げる→(C)課題が終了される
④(A)課題が嫌→(B)逃げる→(C)席に戻され課題が終了されない
⑤(A)課題が嫌(B)作業課題を投げる→(C)課題が終了される
⑥(A)課題が嫌→(B)作業課題を投げる→(C)課題が戻され終了されない
⑦(A)課題が嫌→(B)作業課題を破壊する→(C)課題が終了される
例1の先行条件(A=Antecedent)で子どもが求める結果(C=Consequence)は外出できることであり、例2では課題を終了することです。例から分かるように同じ結果を得るために行動が順に変わり強まっています。同じ行動でも段々強度が増していき(激しく、時間も長くなっていく)、下に進むほど対応が難しい行動になっていることが分かります。例1の『③窓ガラスをたたく』、例2の『⑦作業課題を破壊する』という行動(B=Behavior)は、対応する側としてはこどもの要求を通さざるを得ず、無視できない行動です(関係ない人を叩くといった他害行動が見られることもあります)。このような強力な行動を早い段階から行うこともありますが、不適切行動は例1、例2のように段階的に強度を増していくことが多いです。
ではな不適切行動の強度は増していくのでしょうか。決定的には適切な表出コミュニケーションができないことですが、強度が増すのはある行動を行うことで要求が通っていても、段々同じ行動では要求が通りにくくなるからです。保護者や対応する人が慣れてきて少々泣いても気にせず課題をすすめようとなったり、忙しくて対応できなかったり、「教育的」に外出の回数を制限するよう計画したりと理由は色々あります。
そして、ある行動を行っても要求が通らなくなり、または、通り難くなると、要求を通らせるために不適切行動をより激しく、より長く行います。これを消去バースト(消去時の爆発)と言います。この段階で要求が通ってしまうと、より激しく、より長く不適切行動を行うと要求が通るということを学習し、以前より不適切行動が強力になっていきます。それでも要求が通らなければ、要求が通るような行動を色々試し、自分のできる行動の中から要求が通りやすい行動を行います。そこで要求が通ると、新たな不適切行動が形成されるということです。このような仕組みで、不適切行動は強度を増し、対応せざるをえない行動に変わっていきます。これは障害のあるなしに関係なく、どんな人でもこのツボにはまると負の連鎖は繰り返されます。たまに要求がかなえば、例えばパチンコ通いのように次は成功するかもとお金をつぎ込むように、不適切行動をつぎ込んで要求が叶うまで繰り返します。次回は日常生活で不適切行動を強めないため何が必要かを考えます。
強化と行動
ある行動を行い、望ましい結果が伴えば、その行動の頻度は高まります。例えば、『(A)夕食後→(B)宿題をする→(C)母親に褒められる』と『(B)宿題をする』という行動が増えます。これを“強化”と言い、その際の望ましい(C)結果を“強化子(きょうかし)”や“好子(こうし)”と呼びます。
この強化は応用行動分析(ABA)の基本であり、とても大切です。強化子というのは嬉しいものであるとは限りません。直前の行動を維持し、強める結果のことです。ドアノブを回すとドアが開きますが、この『ドアが開く』という結果は『ドアノブを回す』という行動の強化子となっています。ドアが開いてもそう嬉しいわけではないですが、ドアが開くという結果がドアノブを回すという行動を維持します。
基本的には望ましい結果、嬉しい結果が強化子となることが多く、その内容は人それぞれです。保護者や先生の賞賛、お菓子、おこづかい、ゲームができる、遊びに行ける、微笑みかけられる、休憩時間が伸びるなど、その子どもが喜ぶものは基本的に強化子として考えることができます。やりがいや達成感を感じるということも同様です。ある行動を増やしたければ、その行動の直後に強化子を与えることで、その行動が強化され頻度が高まります。不適切行動も同様であり、不適切行動の頻度が高く維持しているようであれば、その行動はその子にとって望ましい結果によって強化されていると考えます。
計画を立てる際によく見られる誤りは、お菓子などの特定のものを強化子と決めつけることです。お菓子が好きな子どもならお菓子が強化子になり、お菓子をそれほど好きでない子どもならお菓子は強化子にはなりません。また、お腹がいっぱいの時はお菓子を別に欲しくないので強化子にはならず、その時の状態によっても強化子は変わってきます。
次に、ある行動を行い、望ましくない結果が伴えば、その行動の頻度は減少します(ご飯中におしゃべりをして母親に怒られる、など)。これを“弱化”または“罰”と言います。その際の望ましくない結果を“嫌子(けんし)”または“罰子”といいます。この嫌子も人それぞれです。叱られる、叩かれる、空腹、喉の渇き、極度の暑さ寒さ、周囲からの批判などです。
弱化にも2つの条件があり、ある行動を行って嫌子の結果となる正の弱化と、ある行動を行って強化子がなくなる負の弱化があります。後者の代表的なものはタイムアウトで、望ましくない行動を子どもが示したら、子どもを強化子から遠ざけるという手続きです。ゲームを取り上げられる、減点されるのも強化子から遠ざける負の弱化です。
この強化と弱化、そして4つの条件によって、行動が増えたり、減ったりすることの多くを説明することができ、行動を修正したり形成したりすることが可能となります。
<正の強化>
1. 行動を起こすと
2. 強化子(好きな事)が得られ
3. その結果、その行動が増える
<負の強化>
1. 行動を起こすと
2. 嫌子(嫌な亊)がなくなり
3. その結果、その行動が増える
<正の弱化>
1. 行動を起こすと
2. 嫌子が得られ
3. その結果、その行動が減る
<負の弱化>
1. 行動を起こすと
2. 強化子がなくなり
3. その結果、その行動が減る
結果が好きな事か嫌な事が消えるならその行動は増え(強化)、結果が嫌な事か好きな事が消えるならその行動は減る(弱化)ということです。そして、行動の形態や種類に関係なく、この強化の原理は人の行動なら何にでも適用されるということです。良い行動であっても、悪い行動であっても、日常的な行動であっても、奇異な行動であっても、同様です。子どもに不適切行動が見られるならば、その行動により子どもにとって何か望ましい結果が得られていて不適切行動が強化されていると考えることができます。従って、不適切行動を予防するには適切な行動が増える好きな事か嫌なことが消える結果を探し、不適切な行動を減らすには嫌なものか好きなものが消える結果を探して取り組めばよいことになります。
しかし、弱化はなかなか難しいのです。子どもの好子はかなり強力なものが多いですから、少々の弱化、つまり嫌な亊を与えたり好きな事を奪っても持続的な効果はすぐには見えず、逆に消去バースト(行動がさらに強くなる)を前に怯んでしまいます。また内容や程度にもよりますが、弱化は倫理的に考えて躊躇しやすいからです。つまり大人のほうが効果と言う強化子がなかなか得られず、倫理的という同調圧力の言葉で取組行動が減ると言う負の弱化が成立します。ではどうすればいいか次回に考えて行きます。