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1. 若者が帰りたくなるまちを作る...0歳~100歳まで“ごちゃまぜ”の世代間交流を実現させた

投稿日時: 2022/01/14 staff2

若者が帰りたくなるまちを作る...0歳~100歳まで「ごちゃまぜ」の世代間交流を実現させたある病院の挑戦【群馬】

2022/01/14【FNNプライムオンライン】

群馬県の人口約5万人の小さな自治体で、地域の病院が子どもから高齢者、障がいのある人まで一体的にケアする取り組みが行われている。政府が進めようとする「地域包括ケアシステム」を先駆けて実践するこの病院とは?現地を取材した。

「0歳から100歳まで地域で支えるんです」
「ここでは0歳から100歳、すべての年齢を地域で支えるんです」

群馬県沼田市で2021年11月に開設した地域共生型施設「SONATARUE(以下ソナタリュー)」。筆者に施設を案内してくれた担当者はこう語った。

ソナタリューは1階に足湯や温泉、レストランにカフェ、アスレチック公園があり、一見アミューズメント施設のようだが、実は障がいのある人の生活や就労の拠点であり、障がいのある子どもたちの学童クラブもある。

この施設を開設したのは、沼田市にある医療法人大誠会内田病院(以下内田病院)だ。内田病院はいまから30年以上前に来るべき高齢社会を見据えて、当時としては珍しかった医療と介護の連携を開始した。

その後内田病院は福祉の分野にも進出し、いま医療・介護・福祉を一体化させた取り組みを行っている。ソナタリューもその1つであり、内田病院は人口5万人足らずの沼田市で、子どもから高齢者まで安心して暮らせるまちづくりの拠点となっている。

学童保育が足りないなら自分たちでつくる
安心のまちづくりにチャレンジしているのが、内田病院グループの理事長を務める田中志子さんだ。田中さんの父親は内田病院の創始者であり、当時としては珍しく介護分野に乗り出した。そのきっかけを田中さんはこう語る。

「父は1976年に有床のクリニックを開業したのですが、10年ほど経つと入院患者さんの年齢層が上がって長期入院になり、軽度の介護施設みたいな感じになりました。そこで父は1988年に当時始まったばかりの老健施設(※)を建てたのです」

(※)介護老人保健施設。介護が必要な高齢者の自立支援などを行う、病院と施設等との中間施設

父親を継いで理事長に就任した田中さんは、「誰もが生きがいをもって安心してくらせるまちづくりを」と福祉の分野にも進出した。

「2006年にNPO法人をつくりました。当初は自宅にいる一人暮らしの高齢者に配食をしていたのですが、子育て中の病院の職員が『学童保育が足りなくて働けない』というので、『では学童を作ろう』と。そのうち外部の子どもも預かるようになり、障がいのある子どもが大変そうだとこちらも預かることになりました。当初は公費が頂けず赤字続きでしたね」

居場所のない高齢者と子どもが”ごちゃまぜ”に
その後保育園やデイサービスも始めた田中さんは、高齢者から子ども、障がいのある人へのサービスを同じ施設内で行うことを決めた。こうして2017年に開設した「いきいき未来のもり」には、保育園、学童クラブのほか、障がいのある子どもを対象とした児童発達支援事業と放課後等デイサービス、要介護認定された高齢者のデイサービスが混在している。

田中さんはこう語る。
「施設は保育園の子どもがデイサービスを通らないと園庭に行けないような設計にしました。そうすると子どもはおじいちゃん、おばあちゃんに1日2回は会えて挨拶もできる。こうして“ごちゃまぜ”にすると、家で居場所がなくなっていたおばあちゃんが子どもたちの運動会のお花を作ったり、認知症の人が赤ちゃんと交流したり。また重い自閉症の子どもが健常者と交わる中で、普通クラスに通えるようになったりもしました」

“ごちゃまぜ”な世代間交流が生まれる施設
そして2021年11月に開設したのが前述のソナタリューだ。田中さんがソナタリューを作ろうと思ったのは、初めて障がいのある子を預かったときだ。

「お母さんたちがとても感謝してくれたのですが、『特別支援高校卒業後に住むところや働くところが無い』と言われて。それから16年が経って、障がいのある人のグループホームとショートステイをやっと始めることができたのですが、商業施設のように誰もが行きたがる施設にしようと考えたのです」

ここでは障がいのある人が健常の人と一緒にパンを焼き、足湯には園児もリハビリの人も、地域の人も観光客も来る。

「結果的に本当に“ごちゃまぜ”な世代間交流が自然と生まれるのです」(田中さん)

人口約5万人のまちが国に先駆ける地域ケア
いま政府は「地域包括ケアシステム」の構築を進めている。これは高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしをおくることを目的としたものだ。

内田病院は、医療だけにとどまらず介護や福祉の分野まで取り組み、まさに子どもから高齢者、障がいのある人が安心して暮らせるまちづくりを行っている。

ではなぜ田中さんは、これまで難しいと思われていた包括ケアに挑戦するのか?

「沼田市は人口が5万人程度、うちも10年前は職員300人規模の医療法人グループでした。しかし現在は600人を超える職員がいます。だからこそ『こういうやり方をすると人が集まってきて、満足度が高いエリアになる』という発信ができれば、同じ規模の自治体のモデルになれるんじゃないかと。私たちは地域への反映に約20年かかりましたけど、このノウハウがあれば他の地域でも2年くらいでやって頂けるかのではないか思っているんです」

若者が帰りたい、残りたいまちづくりとは
さらに田中さんは「実はもう1つ理由があって」と続ける。

「これは本当にエゴでしかないのですが、私には子どもが3人いますが、赤ちゃんの時にとにかく可愛くて手放したくなかった。だから子どもたちが仮に都会に行っても帰ってきたい、残りたいまちを20年かけてでもつくろうというのが発端だったんです(笑)。だから誰もが楽しく働く場所があって、子どもを育てやすい環境があって、住みたくなるまちをつくろうと。おかげさまで子どもたちは皆、ふるさとに帰る予定です」

田中さんは若い職員に「要介護者を増やさないことは社会保障費を必要以上に上げないことになる。それは自分たちの未来のためなのだから、我が事としてやりなさい」と言っているという。

医療・介護・福祉を一体化させ、子どもから高齢者まで安心して暮らせるまちをつくる。そんなまちになれば、若者が帰りたいふるさとが日本中に生まれるだろう。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
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医療から出発して老人介護や精神医療から就労支援にまで拡張していくケースはよく見ますし、学童保育や放デイにまで拡大していくのは、発達障害医療から放デイと言う形で最近ちょくちょくあります。町ごと丸抱えというのは地方ならではの取組だと思います。云わば地方でこうした芋づる式に必要だから作ろうと考えて実現できるかどうかは経営者次第だということです。

医療が福祉分野に拡大していくのは穿った見方をすれば、医療ニーズが変わってくる中で顧客(患者)を離さない取組とも言えますが、それが職員の新しい職域を開発し地域の雇用ニーズを作り出し地方を活性化することにつながるなら良いことです。本来なら行政や議会が動いて地域インフラの設計図は描くことが理想ですが、既得権益にがんじがらめの政治家や今まで通り路線の役所に任せていたらいつまでたっても実現しません。

医療法人が一定の資本力を得て、地域に資本投資して地域のインフラを整備していく話は、テレビでは地元の事など目もくれず合理主義を持ち込んだ儲け主義の理事らが画策していくというドラマ展開が多いのですが、田中理事長のような方もいるのだと強く発信してほしいと思います。

しかし、その起点が医療法人である必要はありません。地域で大きくなった企業は地域にたくさんの従業員がいます。その従業員の家族には子どもや老人もいれば障害のある人もいます。乙訓地域は世界に知られる資本力の強い大企業も多いです。地元の大企業が必要な地域インフラを拡大して持続可能な地域社会を作るように動き出せば、新しい共生社会のモデルを作ることも可能です。重要なのは法人トップの事業理念だということを田中理事長は教えてくれています。