政府が乗り出した「ギフテッド教育」の功罪 業界の権威は「方向を間違えると危険」
2021/08/03 【デイリー新潮】
〈「突出した才能の子(ギフテッド)」国が支援へ〉。そんな見出しが躍ったのは7月13日付の朝日新聞。記事によると、突出した才能を持つ“ギフテッド”と呼ばれる子どもは記憶力や言語能力などに優れながら、学校での学習に困難を抱えて不登校になる例もあり、文部科学省が支援を検討するという。
才能あれど学習困難とはこれいかに。文科省いわく、
「今年1月に中央教育審議会から出された答申に『特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する指導』への言及があり、これに基づいて有識者会議を設け、7月14日に初会合を行ったばかり。どんな子どもを対象に、どんな支援をするか、すべてこれから検討します」
要は一切白紙だそうだが、念頭には米国の「ギフテッド教育」があると見られる。この分野の米国における権威であるスタンフォード大学・オンラインハイスクールの星友啓校長は、
「ギフテッド教育において特定の分野とは、学校での数学、国語などの課目やスポーツ、芸術などの分野で、上位10%に入る層を適切にサポートすることを目的とするものです。何万人に一人の天才を育てるというものではありません」
確かに、ギフテッドの子どもたちには“頭が良すぎるがゆえに周りから理解されない”などのケースも少なくないそうで、特別なサポートが必要であることもしばしばらしい。だが、星校長は「ここで誤解してはいけません」と注意する。
「ギフテッド教育について取り上げる日本の報道などを見ると、これまでの日本の教育制度の中で十分にサポートを受けられなかった学習・発達障害の子どもたちへの特別支援を単に『ギフテッド』の新しいラベルで呼び変えるニュアンスを感じます。しかし、ギフテッド教育は“支援”だけでなく、子どもの能力を“伸ばす”ことに目を向けたもので、方向を間違えると、ギフテッド教育も特別支援もどちらもサポートできなくなってしまう危険性があると思います」
うちの子は学校になじまないがゲームは上手い、発想力がすごい。これで認めてもらえる!そんなふうに喜ぶ親たちの声も聞かれるが、どこまで理解しているやら。
「週刊新潮」2021年7月29日号 掲載
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ギフテッドについてはこのブログでも毎日新聞の記事を取り上げてコメントしています(「ギフテッド」の子、進まぬ理解 高い知能:07/15 )。ギフテッドには2種類あって、他者からも信頼を得る「英才型」の子どもと、「2E型」(twice-exceptional=二重に例外)と言って才能も飛びぬけているが社会的な障害もある凸凹な子どもがいることを前回コメントしました。この2E型の子どもには発達障害について理解をしてないとそもそも支援が始まりません。
先日もブログで、境界知能といわれる人の中に発達障害の方が含まれていると書いたように、ギフテッドではないけれど適切な支援が得られなくて本来の力が出せない能力が凸凹な子どももたくさんいるのです。ギフテッドの中には発達障害の人もいるけれど、ギフテッドではないが支援が受けられないことが原因で通常以下の学力しか発揮できない発達障害の子どもは多いです。
もちろん、才能の高い子どもを早い段階から見出して、公的に支援することは大事なことです。小学校からの飛び級だって認めればいいと思います。ただ、その一方で、本来の力も出し切れずにいる発達障害の子どもへの支援が、週1回の通級で間に合わなければ特別支援学級の在籍でしか対応できていない問題や、発達障害支援を専門としていない教員が支援学級を担当している現実について調査し解決する必要があります。