古代ユダヤの学校では、一年生を「賢者」と呼んだそうだ。二年…
2020年11月20日 07時54分【東京新聞・筆洗】
古代ユダヤの学校では、一年生を「賢者」と呼んだそうだ。二年目には「哲学者」、最終学年の三年生で「学生」と呼ばれる▼賢さをたたえられても本当に尊敬されるには、その先が大切で、謙虚に学び続けることを知らなければならない。呼び名にはそんな戒めが込められていたようだ。マービン・トケイヤー著『ユダヤ処世術』にある▼エチオピアのアビー首相は、就任わずか一年あまりで二〇一九年のノーベル平和賞受賞者に選ばれた。「新星」「希望」などと呼ばれた人である。どうやら、国際社会から尊敬され続けることには成功していないようだ。受賞から一年のいま、「失望」も聞かれる▼四十一歳で首相になると、隣国エリトリアとの長かった紛争を終結に導いている。ノーベル平和賞授賞式の誇らしそうな笑顔は印象的だった。だが平和は維持することも難しかった。今度は連邦政府と北部ティグレ州政府の軍事衝突が激化する。双方が非難し合っている。アビー氏は空爆に踏み切った。民間人に犠牲者も出ているようで、先行きが心配である▼アビー氏に対しての苦言に違いない。平和賞を贈ることを決めたノーベル賞委員会が数日前、平和的な手段での解決を求める異例の声明を出した▼欧州メディアからは、平和賞は「早すぎた」の声もあがっている。ノーベル賞級の努力が、いま一度求められているだろう。
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政治家のノベール平和賞は辻褄が合わなくなることが少なくないです。非核三原則を提唱し、沖縄返還をなし遂げた後に、アメリカとの核兵器持込密約発覚の佐藤さん。「核無き世界」に向けた国際社会への働きかけの後にウィグルの人権弾圧や南シナ海侵攻のチャイナを黙認したオバマさん。最初は世界平和に貢献したと持ち上げられても、次第に政治の波にもまれて「政治屋」になってしまうのです。でも、人々から求められているのは美辞麗句を並べるだけの政治家ではなく、武力や経済力を背景にしながらでも紛争を最小限に抑え人権を守る政治家だとも言えます。
今回の衝突もエリトリア側の挑発工作は否定できず、現地では民族解放を唱える武装兵が1000人の非武装の住民を虐殺したという報道もあります。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ティグレ州では戦闘激化を受け、これまでに少なくとも1万1000人が隣国スーダンへ逃げ込み、難民の半数を子どもが占めている模様です。UNHCRとスーダンは当初、難民2万人の受け入れ態勢を用意していましたが、この枠を10万人に拡大したといいます。
武力を使うな対話せよというのは簡単ですが、独裁者や国際テロリストを前に、対話だけで和平は成立しません。また、地続きの多民族国家のパワーバランスの難しさを改めて考えさせられます。何も知らない1年生が「賢者」というのは、逆説的な皮肉にも聞こえます。