変わる部活動 学校単位から地域クラブに 指導内容も充実
2022/1/25 【産経新聞】
中学校の部活動が変わり始めている。これまで教師が休日返上で指導してきた学校単位の部活動から地域単位の「地域クラブ」に変わりつつあるからだ。山形県天童市では昨年11月、市立中学4校の野球部が合同で「天童市中学生軟式野球クラブ(天童軟式野球クラブ)」をスタート。指導する町田真裕(まさひろ)代表(55)は「少子化、教師の働き方改革から生まれた新しい部活動の形。野球を通して人間育成を目指す場にしていきたい」と話す。
4中学が一つに
昨年11月、天童市立第二中学校のグラウンドには、市立の全4中学校の野球部員45人が集まった。指導者は町田代表を含めて10人。ユニホームはバラバラだが、活気のある声が一斉に響く。
夏の県大会後、3年生が引退し、各校の部員は9~14人になった。部内での練習試合はおろか、連携プレーの練習もおぼつかない状況になった。「一番少ない天童一中の部員は9人。硬式野球にいく生徒もいるが、これでは中学校で野球ができなくなる」
危機感から町田代表が中心となり天童市野球連盟などと調整し、4校の野球部を合わせた同クラブを始動させた。毎週日曜に4校の部員が1校に集まり、合同で練習する。校庭を雪が覆うようになってからは、体育館や武道場で練習を続けている。
人数が40人規模になったことで練習の幅が広がった。チーム編成が容易になり対抗戦ができるようになった。試合を運営するため、部員はルールを勉強し直し、塁審の目線を学んだ。天童市立一中1年の小座間綾士(あやと)さん(13)は「審判講習は難しかったけど、勉強になった。これからも野球をしたい」という。
幅広い指導者
同クラブには、高校野球で活躍した人ばかりでなく大学野球経験者や陸上競技経験者もいる。陸上競技経験者の天童市立一中の教諭、鈴木友輔コーチ(36)は「野球は総合スポーツ。私は走塁面で指導できますから」という。
「野球の方程式」と書いたホワイトボードを持って指導する大学野球経験者の今田(こんた)昌揮コーチ(40)は、野球と他の球技との違いを部員に丁寧に説明する。今田コーチは「試合に勝つために教えていますが勝利至上主義ではない。むしろ『勝利志向主義』です」とほほ笑む。
練習後、大勢の部員の前で「あの時のプレーだけど、どうすればよかったのかな」と今田コーチが質問する。手を上げた部員の答えに「そうだっ、その通り。それでいいんだ」と部員自らが考え気付いたことをたたえる。
部活動の意味
教師の「働き方改革」を進めるため、文科省は令和2年、「5年度以降、休日の部活動の段階的な地域移行を図る」との方針を示した。スポーツ庁は昨年10月、休日の部活動の外部委託に向けた検討を始めている。町田代表には最近、陸上やバレ―ボールなど他部や他校からも問い合わせが相次いでいる。地域クラブの取り組みが必要なのは、野球だけではないからだ。
同クラブでは雪解けを待って3月末にも、クラブ内でリーグ戦を始める予定だ。できるだけ全員が試合に出られるように工夫する。将来的には全国中学校軟式野球大会の出場も目指す。「天童市の野球をやりたい中学生に野球を続けさせたいという思いで作ったクラブ。互いに競い合い、練習試合を重ねていけば技術もきっと向上していく。野球を通して学んだことを生かせる人間になってほしいんです」と町田代表は言う。(柏崎幸三)
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前に元陸上選手の為末大さんの記事で、教師にとっても生徒にとっても地域クラブの方が主体性が高まると言う内容を掲載しました【部活動の地域移行…為末大さんが推す2つの理由:2021/12/02】。先日、教員に一律にクラブ指導を命じるのは違法だという裁判も始まりましたが、いやいや顧問をさせられている教師のもとで活動する生徒も迷惑な話です。今回は、部員が集まらない学校でやるよりみんながあちこちから集まって入部し、少年スポーツ文化を維持したいと言う強い思いを持った人たちが運営するクラブの記事です。
広いエリアをカバーすれば優秀な選手もコーチも集めやすいです。もちろん、優秀なコーチは短時間でも指導成果を上げられますし、指導される生徒も的を射たアドバイスがもらえます。クラブと学校と切り離すことで、だらだらと休みの日も一日中、学校の中でクラブをするのではなく、スポーツも遊びも勉強も、合理的に切り替える生活が期待できるのではないでしょうか。何より、自分がやりたくて集まってきていると言う点で、先の裁判の話のような、やりたくないのに職場の同調圧力でさせられている指導者はいなくなります。生徒も、学校内の関係性を引きずらずに参加したり辞めたりできるのは精神衛生上良いことです。
また、学校文化からクラブ指導のウェイトが軽くなることで、教科指導以外のところで教員能力が評価される事もなくなります。生徒指導も然りで、強いクラブの顧問が生徒指導部長を引き受けるという本末転倒な人事も減少していきます。学校職員の労働時間を減らすことが目的の地域クラブへの移行ですが、実は古い学校体質や教育体質を変えていくには最も近道の手段かも知れません。