目からウロコのドイツ流教育「小学4年の成績で人生の進路が決まる」
11/25(木) 【NEWSポストセブン】
冬以降の感染「第6波」が懸念されている新型コロナ禍。昨年、記録的に少なかったインフルエンザの流行とともに、なおも警戒・注意が呼びかけられている。こうした新しい感染症の拡大は、大人だけでなく、子供の成長にも少なからず影響を与えている。昨年から今年にかけて、学校の臨時休校やオンライン授業への切り替えなどが相次ぎ、子供たちの中にも不安が広がった。親にとっても、学校より家で過ごすことが増えたことで、子供たちの勉強の進み具合や、やる気をなくすことを心配する声が多くあがっている。
しかし、コロナ禍も、それに伴う自粛や行動制限も、個人にはどうすることもできない。むしろ、この逆境や負担をマイナスと考えるのではなく、乗り越えるべきハードルだと考え、ポジティブに変えていったほうがいいのかもしれない。
その参考になるのがドイツでの教育システムだというのが、現地在住20年を超える留学コーディネーターのキューリング恵美子氏だ。キューリング氏は、近著『ドイツ人はなぜ「自己肯定感」が高いのか』の中で、「みんなが揃って進級する」日本とは正反対の、生徒一人ひとりの能力や志向によって学校や進路を変えるドイツの教育制度について解説している。
小学1年で留年もある! 「みんなちがって、みんないい」
キューリング氏によれば、ドイツの教育では、子供一人ひとりの発達状態や学習テンポを重視しているのだという。
「ドイツで小学校へ入学するには、『入学適正検査』を受けなければなりません。これは、小児科医が発育状態を見るもので、入学して『勉強する』環境に対応できるか、身体的・精神的側面の両方をチェックするのです。
もし、小学校へ行くのにはまだ早いと判断された場合、授業時間が短く少人数制の入学準備学校(クラス)を勧められます。この検査で入学が1年遅れたとしても、保護者の受け止め方は、決してネガティブではありません。むしろ、早く入学して授業についていけないよりは、準備が整ったタイミングで入学するほうが良いと考えます。そのため、小学校の入学時に年齢が上の生徒がいるのは珍しいことではありません」(キューリング氏、以下同)
入学した後も、無理をして進級させることはない。
「年2回出る成績表の結果により、小学1年生から留年があります。成績や子供の能力について先生と保護者が面談し、相談のうえで留年が決定します。しかし、留年もネガティブな意味合いではなく、授業についていけないのなら無理して進級するのではなく、その子に合ったペースで確実に学習させるための仕組みなのです」
まるで詩人・金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」の名フレーズ「みんなちがって、みんないい」を地で行くような話だが、まさに一人ひとりが自分に合った学び方をすればいい──そんな考え方がドイツでは当たり前のようだ。
嫌がりながらする勉強は「逆効果」
さらにドイツの教育制度では、小学校の4年間を終えると、その最終成績によって進路が3つに分かれる。卒業後すぐに職業訓練を受けて働く場合と、職業専門学校などを経て事務職や専門職になるためのコース、そして大学進学を目指すコースになる。
つまり、10歳時点での成績で、人生の進路が決まってしまうのだという。
「そのため、親も子供も、無理せず現実を受け入れていきます。他人と競争する、他人と比較するのではなく、留年や転校を恥じることもなく、その子供に合った最適な道を見つけていけばいいという考え方です。
一般的にドイツ人は、特に小さなうちは成績が悪くても親は子供を責めず、いかにその子が納得して能力に合わせて学べるかを考えて支えます。子供にはそれぞれの長所や能力があり、嫌がりながらする勉強に意味はなく、むしろ逆効果になると考えています。
ちなみに、ドイツを代表する文豪のヘルマン・ヘッセは1回、トーマス・マンは2回留年をしているそうです」(キューリング氏)
ドイツでは10人中9人が「学校生活に満足」
他人と比較するあまり、子供に過度なプレッシャーをかけることになれば、かえって子供の「自己肯定感」を下げることにもなりかねない。「ほかの子は頑張っている」「平均より成績が悪い」などと周囲との比較や競争ばかり強調しすぎると、思うように成績が伸びなかった時、子供たちは深く傷つき、学校に行くのも嫌になってしまう可能性もある。
興味深い調査結果がある。内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(2018年)によると、「あなたは、学校生活に満足していますか」の問いに「満足」「どちらかといえば満足」と答えた日本人は65.1%で、調査した7か国中で最下位だった。それに対して、ドイツは87.9%と調査国中で最も高かったという。
子供の能力に合わせた学習環境を整えて、能力以上の強制を課さないドイツの教育システムは、一見残酷に見えながら、「人生は成績がすべてではない」「あなたはあなたのままでいい」ことを幼いころから教えてくれるもののようだ。
むしろ、家庭で過ごす時間が増えた今こそ、親子のつながりを強めて、子供たちの「自己肯定感」を高めるチャンスかもしれない。親も、子供の成績に一喜一憂することなく、子供にとってベストの進路を考えるきっかけにすればいいのではないか。
【参考サイト・文献】
内閣府「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」
『ドイツ人はなぜ「自己肯定感」が高いのか』(キューリング恵美子著・小学館新書)
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このドイツの教育システムは戦前の日本の複線型教育のモデルでもありました。戦前の日本は、初等教育を終えると、旧制中学校、高等女学校、実業学校と進路ごとに早期分岐する教育制度でした。戦後の単線型教育制度への改革は、性別や階層によってその後の進路が早期分断される制度の見直しとして、教育の「民主化」、つまりアメリカ流の機会均等がねらいでした。戦後も何度か、このドイツモデルが日本で注目されたことがありますが、教育の機会均等を掲げる憲法との整合性がないので複線型を復活させようと言う向きには動きませんでした。
ドイツの義務教育は、大学進学を目指すなら8年制(もしくは9年制)のギムナジウム、それ以外は職業訓練への道へ進みます。実科学校とよばれるレアルシューレは6年制で卒業後は全日制の職業学校へと進み、職業訓練を受けて公務員や技術者となります。手工業系の職人(美容師、板金工、パン屋など)を目指す場合は5年制のハウプトシューレとよばれる基幹学校へと進学、卒業して、職業学校入学資格を取得する必要があります
この、ギムナジウム・実技学校(レアルシューレ)・基幹学校(ハウプトシューレ)の三分岐型システムがドイツの教育制度の大きな特徴です。学校間での転学は、基幹学校からギムナジウムへの転学はほとんど例がなく、実科学校からギムナジウムへの編入を目指す生徒はいますが難易度も高いので、ほとんどが就職の道へと進むそうです。
今日ドイツでは、国内に増加する移民の子供たちの不十分な教育環境が学力格差を生み出し、ドイツ全体の学力低下が懸念されていたり、グローバル化に伴い、国際基準に合わせるため、ギムナジウムの修了年次を下げたりと試行錯誤の教育改革が行われています。また、教育制度で選別を強めると学力は子どもと親の責任となり、教え方や環境の問題となりにくいのです。今の日本も結局は経済格差が学力格差を形成しているのはドイツと変わらないですが、少なくともチャレンジの機会はあるし、教え方や環境支援によっては高学歴への道もあるわけです。
それでも、ドイツの子どもの自尊感情が高いのはうらやましい限りです。選別をしてでも人と比べなくてもいいと言う安心感を優先するのか、経済力による階級格差をなくす民主主義課題を達成するのかどちらかを選べと言うのは難しいと思います。ただ、この記事はドイツの教育制度のメリットだけを取材しており、デメリットについては触れていないので正確な情報とは言えないです。