コーヒーはぼくの杖【書評】
はずスラ【NOTE】2019/12/11 15:25
中学に入って数ヶ月後、岩田響さんは母親から自分が発達障害であることを告げられます。8歳の頃にアスペルガー症候群の診断を受けていたのですが、ご両親が伏せていたのです。自分の子どもが発達障害と知って、それまでのいろんな行動に合点がいったと言います。
響さんの特徴としては、・周囲の状況が把握できない・温度が分からない・時間感覚がない・黒板に書かれた文字が水に浸かったように見えて読めない・頭で考えた通りに手足が動かず、うまく文字が書けない・興味がないものには集中できない・過去の記憶が時系列順に整理できない、です。
中学生で障害を知らされた響さんは、周りに劣るまいと自分の中の正しい中学生像を演じようと頑張ります。中学時代にいじめを受けた経験のある母親は明るく彼を見守りますが、現実の厳しさを教えようとする父は彼に普通である事を強います。結果、彼は中1で学校を辞め、自問自答の日々を過ごします。父はここで彼に与えた重圧を知ります。
常に新しい事に目を向けるお母様は独学で手作りの洋服を作り、家族との時間を大切に考えた父親も服の染色を独自に学び手伝います。そして自宅のアトリエの一部を店舗に変え、月に1週だけの洋品店を始めました。彼の退学はそんな矢先の出来事でした。特に他にする事もなかった響さんは、二年の間、父親の染色作業を手伝います。しかし、興味のない物に集中できない彼はそれもやめてしまいます。
父の影響で、次に関心を持ったのがコーヒーです。生まれつき味覚や臭覚に優れていた彼は、異常なまでのこだわりを持ち始めます。図書館で本を読みあさり、なんとネパールにまで足を運び、独学で焙煎を学び出します。失敗を重ね、少しずつ歩き出したのです。毎日、8~20時(長い時は22時を回る)まで小屋にこもり、美味しいコーヒー豆を焙煎し、大切なひとときをお客様に提供するために追究を続けます。
響さんは、コーヒーとの出会いをきっかけに普通じゃない自分を受け入れることができました。本のタイトルである『コーヒーはぼくの杖』とは、足が不自由な人が杖なしには歩けないように、人生を歩む杖としての一杯のコーヒーなのでしょう。