「靴ひも」を結ぶ=大治朋子
2020年10月13日【毎日新聞】
障害を抱える人々との交わりを難しくするものがあるとすれば、それは障害そのものなのか、それとも障害を持たない人々が心に宿す「壁」なのか。そんな問いに改めて向き合う機会をくれた映画だった。
日本で近日公開予定のイスラエル映画「靴ひも」(ヤコブ・ゴールドバッサー監督)を見た。約30年前に離婚した妻との間に生まれた発達障害を持つ中年の息子と、妻の急死を機に同居することになった父親の物語。
自動車整備会社を営む1人暮らしの父親は、職場にこの息子を同伴して新生活を始める。心の距離を縮めようとする息子と、なかなか壁を崩せない父親。それを見抜いたかのように息子が言う。「出来損ないの息子でごめんね。父さんは僕を恥じてる」
率直な言葉や行動で果敢に壁に挑む息子が求めているのは、一人の人間としての尊厳だろう。すれ違う二人の心は、ちょうど息子がなかなか結べない2本の「靴ひも」のようにも見える。描かれているのは障害をめぐる親子の心の葛藤から生まれる、成長の記録だ。
日本での上映を前に先日、記者会見した監督は、自分も発達障害を抱える息子を持つと語った。そして、かつて自ら「心の周りにセメントの壁を築いていた」と打ち明けた。映画のモデルになったのは実在の別の親子だが、障害児を持つ親としての思いと目線が映画の随所に見て取れる。
イスラエルで6年半を過ごした私にとって、この映画のもう一つの見どころはイスラエルならではの「関わる」文化だった。親子と病院で偶然知り合った人が、かなりプライバシーに立ち入って父親にアドバイスをする。レストランで歌いだした息子を歓迎したり、公然と差別的な言葉を発したりする「率直」な客。政敵とされるアラブ人の医師の熱意にイスラエル人ながらほだされる父親。
そこから浮かび上がるのは、障害をめぐり葛藤する親子を傍観せず、良くも悪くも関わろうとする市民の姿だ。リアルなイスラエルの日常そのものに見えた。車椅子の人がいると、イスラエルでは通行人らが文字通り「寄ってたかって」乗り物への乗降などを手助けする。それ一つをとっても傍観したりためらったりしがちな日本社会との違いは大きい。
だが監督によれば、イスラエルでもまだまだ差別は根強いという。「映画が障害を持つ人々に対する世間の見方を変えるきっかけになれば」。日本の傍観グセに問いかける作品でもある。17日から順次全国各地で上映。(専門記者)
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イスラエルは、いまアメリカの橋渡しでアラブ国家と国交を広げようとしています。イスラエルと言えば、パレスチナとのし烈なミサイル合戦で戦時国家のようなイメージですが、実は敬虔なユダヤ教徒の国です。そんな国民の障害者観に興味を覚えます。京都シネマでそろそろ封切です。席数が少ないので当日券で入れない方がいたと、「スペシャルズ!」09/18の情報がありました。ネット予約がおすすめです。発達障害の息子と父描く「靴ひも」