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1. 自閉症の天才ピアニスト

投稿日時: 2020/06/24 staff4

17歳でデビュー!自閉症の天才ピアニスト 母が語る「子育てで人の手を借りることは、恥ずかしいことじゃない」

6/15(月) 8:05【たまひよオンライン】Benesse Corporation


17才という若さで「天才ピアニスト」と言われデビューした紀平凱成(カイル)さん。3才で自閉スペクトラム症と診断され、聴覚過敏や視覚過敏に悩まされながらも、現在、ピアニストとして活躍しています。懸命に支えてきた母・紀平由起子さんに話を聞きました。

元気のない私に、凱成はいちごをくれた
――母目線のエッセイ『カイルが輝く場所へ』を出版されましたが、乳幼児期の思い出は?

紀平さん(以下敬称略) 凱成はとてもおとなしい赤ちゃんで、おなかがすいたときや眠いとき以外、激しく泣くこともありませんでした。よく笑い朗らかで、手がかからないと思っていたくらい。ただ、6カ月を過ぎてもおすわりをせず、母子健康手帳の成長目安に比べて成長が遅れているのかなと思うことはありました。

――自閉スペクトラム症とわかったのはいつごろですか?

紀平 正式に医師に診断されたのは3才になってから。でも2才前くらいから走り回って、目が離せなくなっていました。「ワンワン、きた」といった二語文が出ず、言葉の遅れも気になっていました。ただ、当時は発達障害について情報も少なく、個人差の範囲かな、と。2才4カ月のとき、自治体に相談して健診を受けたところ、療育を始めることに。「自閉症の傾向があります」と言われたときはどこかほっとしました。原因があるなら治療ができると勘違いしたんです。

――自閉スペクトラム症を含め、発達障害は脳機能の障害なので、完治はしないと言われていますね。

紀平 はい、それを知ったときは落ち込みました。でもそのとき、いつも動き回ってばかりの凱成が、ふと私の前にきてぎゅっと抱き締めてくれたんです。別の日にも大好きないちごを「あげる」と差し出してくれた。何も見てないようで親の普段とは違う様子を感じていたんですね。凱成の優しさに励まされました。

小学1年生のころから、夢は「ピアノを弾く人」

――凱成さんは幼いころから音楽に興味を持っていたのですか?

紀平 私も夫も音楽好きで、凱成が赤ちゃんのころから家にはドラムやギター、電子オルガンなどの楽器がありました。凱成は楽器をおもちゃ代わりにして、よく夫のひざの上に座ってドラムをたたいていました。2才を過ぎたころ、アニメのテーマソングを聴いて、電子オルガンでそのとおりに弾いたんです。「教えていないのに?」と驚きました。その後も耳にした曲をどんどん弾いたり、ギターのコードを勝手に調整するなど、突出した才能があるのかも、と思わされる出来事が重なりました。

――それでピアニストをめざしたのですか?

紀平 小学1年生のときに学校で将来の夢を聞かれて「ピアノを弾く人になりたい」と答えたんです。まさか「将来」について考えているなんて思っていなかったのですが、しだいに、「ピアニストになりたい」と言うようになり、私たちも真剣に応援し始めました。

――デビューするまでの苦労は?

紀平 小学5年生くらいから聴覚過敏や視覚過敏がひどくなり、ピアノもイヤマフ(防音具)をつけて苦しみながら弾くように。とてもつらい状態が数年続きました。それでも本人は一度もやめたいと言わず、一貫して夢を追い続けました。そんな彼を支えないわけにはいかなかった。そしてご縁がつながり、17才でデビューできました。

困難を乗り越えて、ピアニストに挑戦する息子へ
――夢を果たした凱成さんへ、今の思いをお聞かせください。

紀平 下を向いて日常を過ごしていた凱成が、デビュー後は人前に出て演奏をしたり、取材を受けたりできるようになりました。障害は完治しなくても、困難を克服しようとする本人の頑張りと成長に信じられない思いでいます。

――今、子育てを振り返って、思うことは?

紀平 障害がわかった当初、私も夫も人に迷惑をかけてはいけない、と自分たちだけで凱成の面倒を見ようとしていました。でも、今の凱成があるのもこれまで支えてくれた人たちがいてこそ。子育てで人の手を借りることは恥ずかしいことじゃない、親がゆとりを持って子どもに愛情深く接することができるなら、そのほうが大切だと、今になって気づくことができました。今、子育てをまさに頑張っているママ・パパたちにも、そのことをお伝えできたらうれしいですね。
紀平凱成(きひらかいる)
Profile
2001年生まれ。2019年4月、17才でピアニストとしてデビューを果たす。デビューアルバム『Miracle』が好評発売中。イベント情報はオフィシャルサイトに掲載。

紀平由起子(きひらゆきこ)
Profile
1971年生まれ。幼いころから音楽に親しみ、かつて仕事をしながらシンガーソングライターをめざしたことも。出産を機に子育てに専念し、現在は、凱成さんの音楽活動をサポートする。

書籍『カイルが輝く場所へ 発達障害のわが子がピアニストとして羽ばたくまで』

3才で自閉スペクトラム症と診断され、聴覚過敏などに苦しみながらも、ピアニストになる夢をかなえた紀平凱成さん。息子に寄り添い続けた家族の軌跡を、母・由起子さんがつづったエッセイ。子どもをあるがままで受け入れることの大切さを教えてくれる一冊です。紀平由起子著。1300円/NHK出版