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みんなちがってみんないい

DSM-5

前回のICD-11の説明でいきなりDSM-5(米国精神医学会:精神障害の診断と統計マニュアル第5版)の名前が出てきたので解説しておきます。発達障害についての世界的に使われる基準は前回示したWHOのICDと、米国のDSMです。2013年にDSM-5は、20年ぶりの改訂がされました。「神経発達症群」はDSM-5から新設され、いわゆる「広義の(知的能力障害群等も含む)発達障害」として捉えられています。前回も書いた通りICD-11は、DSM-5に沿って改訂されています。心理発達から神経発達に変えた考え方や自閉症のレベルを連続体としてとらえる「スペクトラム」の名称で、アスペルガー障害などをこの中に含むものにしたことなどです。
DSM-5「神経発達症群」における分類
1 知的能力障害群
知的能力障害・全般的発達遅延・特定不能の知的能力障害
2 コミュニケーション症群
言語症・語音症・小児期発症流暢症・社会的(語用論的)コミュニケーション症
3 自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症
4 注意欠如・多動症(AD/HD)
注意欠如・多動症・他の特定される注意欠如・多動症・特定不能の注意欠如・多動症
5 限局性学習症(LD)
読字の障害を伴う・書字表出の障害を伴う・算数の障害を伴う
6 運動症群
発達性協調性運動症・常同運動症・
7 チック症群
トゥレット症・持続性(慢性)または音声チック症・暫定的チック症・他の特定されるチック症・特定不能のチック症
8 他の神経発達症群
他の特定される神経発達症・特定不能の神経発達症

 

木村泰子さんの言葉

大阪の大空小学校初代校長の木村泰子さんの言葉にはパワーがあります。映画『みんなの学校』の舞台となった大阪の大空小学校は、発達障害と診断された子や不登校だった子など、さまざまな問題を抱えた子どもたちがともに学び合い、元気に卒業していきます。日本の教育システムが変わらない原因は何なのでしょう?社会は、人と違う考えや行動ができる「ふつうじゃない人」を求めるようになっているのに、大人が勝手に決めた「ふつう」の基準に当てはめて判断しようとします。社会が求めるニーズと教育現場が、どんどん乖離しています。本来、子どもの成長度合いを検査する目的は、その子の特性を知ったうえで、周りの子どもたちと安心してつながって、一緒に集団生活を送るためであるべきと木村さんは言います。以下、木村さんのインタビューです。ごく当たり前のことしか言っていないのですが、強烈なパンチ力があると感じるのは私だけでしょうか?

Qーーーー大空小学校に転校してきた子が、前の学校で体操服に着替えるのを嫌がり、「例外は認められない」という理由で、体育の授業を受けさせてもらえなかった話がありました。

Aーーーー体操服に着替えるのが嫌なら、そのままの服で体育の授業を受けさせればいいんです。子どもには学習権があります。憲法二六条は、「すべて国民は、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定めていますからね。子どもが学校にくる目的は、体操服を着ることじゃない。体育の授業を受けることですから。私がその子の親なら、「この子は自宅以外では着替えられないので、この服装のままで体育の授業を受けさせてください」と学校に言います。それでも「困ります」と言われたら、「憲法にある子どもの学習権についてはどうお考えですか?」と勝負をかける(笑)。体育の授業の目的は、運動をすることにあるのです。本当の公平は、体操服に着替えられない子がいても、「体育ができれば、その服のままでもええよ」と、その子の個性を認めて安心させること。そして、周りの子も安心して授業を受けられるようにすることです。「ふつう」ができない子どもがいても、お互いを認め合って尊重することを、子どもたち自身で学ぶ。その手助けをするのが先生の役割ですし、それこそが本当の公平な関係性なんですよ。例外を認めず、みんなと同じようにさせるのが公平という考え方は100パーセント間違ってます。

Qーーーー大空小学校では、さまざまな子どもたちが一緒に学ぶ環境でありながら、先生は定時退勤できていました。なぜそのような教育環境を作ることが可能だったのでしょうか。

Aーーーー私が9年間校長を務めた大空小は、全校児童260人中、「発達障害」と診断され(障害者)手帳を持っている子どもが50人を超えていました。そう聞くと「先生の負担が多くて大変そう!」と思われるかもしれませんけど、日常は勤務時間が終われば帰っていました。 じゃあ、なんで他の学校の先生たちは、いつ死んでもおかしくないほど長時間労働しないといけないのか?大空小では、一人一人の子どもが自分から学校へ来て、1日学んで、納得して家に帰ります。それは、私たち教師が子ども同士をつなげて、子ども同士で教え合ったり助け合ったりしているからです。大空小学校のルールはただひとつ。「自分がされていやなことは人にしない 言わない」。この約束を守ることだけです。子どもが学校生活を楽しんで納得できると、いじめも不登校もないし、親からクレームがくることもありません。教師は生徒や親の問題解決や相談事に時間をとられる必要がないから、本業だけやっていればいいんですよ。教師の働き方改革より、学び方改革をしないといけないわけです。

 

ICDー11

昨年、WHOの国際疾病分類は、ICD-10から30年ぶりに改訂されICDー11になりました。厚生労働省は、WHO承認後、国内への適用作業を進め、1〜2年で施行するという予定を案として公表しています。今回の改訂では、心理的発達の障害を神経発達症群とカテゴリー名を変えました。区分は米国精神医学会のDSMー5に沿った「神経発達症」の概念が採用されています。また、我が国ではDSMー5の翻訳の時からdisorderとdisabilityのどちらも「障害」と翻訳するのではなく、特に小児の場合は症状が変わるし治療で軽快する例も少なくないので「症」を使う方向性が示されています。

知的障害の名称は「知的発達症」で、軽度、中等度、重度、最重度の区分分けはそのままで、IQが相対的に高くても社会的適応能力が低ければ相対的に重い判定となるのも変わりません。

会話及び言語の特異的発達障害は「発達性発話または言語症群」となりました。詳細区分として、発達性語音症・発達性発話流暢症・発達性言語症に名称が変更になります。あとに出てくるLDの読字不全やASDを除外した発達性言語症の判別が整理されていないように感じます。

広汎性発達障害は、自閉スペクトラム症で小児自閉症やアスペルガー症候群などの下位分類が改訂され知的発達症や機能的コミュニケーションのレベルで分類されます。

学習障害は発達性学習症になり、読字不全・書字表出の不全・算数不全と詳細区分もDSM-5に揃えました。運動機能の特異的発達障害も、発達性協調運動症となりました。全て「発達性」で統一しました。

情緒障害の分類だったチック症は、神経発達症の分類へと移動しました。詳細区分に、トゥレット症候群・運動のチック症・音声のチック症が入ります。

AD/HD多動性障害は、注意欠如多動症で「欠陥」が「欠如」に変更されます。不注意優勢型・多動衝動性優勢型・混合型の分類はそのままです。

話は変わりますが、障害は理解できるが発達がわからない(?)という放デイ業界の方が少なくないと聞きましたICDやDSMの神経発達のカテゴリーは発達の問題を扱った症状カテゴリーです。知的発達症は全般的な発達の遅れです。これに対して、ASDは社会性の発達、AD/HDは衝動性や注意の調整力の発達、LDは音韻・書字・数量処理の発達、つまり全般ではなく部分的な発達の遅れや凸凹を原因とした症状をさします。発達の遅れにはいろいろなバリエーションがあるという分類です。

それとも、発達がわからないというのは、子どもの通常の発達の順序性をよく知らないというのが同義でしょうか。例えば、数量認識が通常4歳頃で、まだ序数(数える量)段階なのに、繰り上がりな量の合成分解の操作をさせている間違いです。算数障害で量感覚がイメージできない場合も量の合成分解で躓きます。

「こぶた たぬき きつね ねこ」のしりとりは、単語を音に分解したり構成したりする能力(音韻操作)通常6歳の言語発達で完成することを知らずに取り組む現場。全般的遅れがなくても音韻意識に遅れがあれば就学年齢でも困難は続きます。結局、障害は分かるが発達が分からないというのは肢体不自由など目に見える障害は分かるが、目に見えない発達障害やは理解されてないという事でしょう。

社会性発達の順序性が無視された指導も少なくないです。通常6歳の自己認知の発達は経験を蓄積してだんだんできるようになる自分を認識して自尊感情を育てていく時期ですが、この大事な時期にやってもやってもできない課題を与えたり、逆にすぐにできてしまう課題を与えてしまう誤りなどです。発達には順序性がありその段階に合わせた指導をしたときに発達の伸長が望めるのです。ハイハイしている子どもには歩く指導ではなくたっぷり四つ這いできる環境と励ましを与えるのと同じ事です。

ただ、発達の順序性とは言うけれど、あくまでこの順序の子が多いと言うだけの話でしかありません。この平均の物差しで測っているに過ぎない事を忘れて、平均でない多様な子どもを理解したかのように思い込む人もたくさんいます。物理的に歩けない子には車椅子の操作を教えるように、聴覚記憶の弱い子には視覚情報で補う支援をします。車椅子の子に、平均は歩く事だという人はさすがにいませんが、絵カード支援を見て、特別(平均的ではない)事をするから聞く力が伸びないと思い込み、子どもの才能と自尊心を悪意もなく潰し続ける人はまだいます。

大事なことは子どもにはみな凸凹の個性があり、その個性に合わせた支援にはあらかじめ決まったものなどないと、専門家なら心得ているはずです。子どもができない事を障害や発達の遅れに還元してしまわず、指導している自分のせいだという謙虚さがあれば、おのずと良い支援のアイデアは思いつくものですし、そのアイデアに必要な情報は自分で手に入れているものだと思います。

スマホ・ゲーム利用と不登校

不登校・・・スマホ・ゲーム利用「条例、ルール化を」 大阪市の松井市長

小中学生がスマートフォンやオンラインゲームに依存するのを防ごうと、大阪市の松井一郎市長は15日、スマホの使用時間を条例でルール化することも視野に、実効性ある対策を検討するよう市教委に指示した。
松井氏は同日市役所で開かれた会議で、不登校の要因の一つがスマホやゲーム依存であるとの実態が紹介されたことを受け、「夜は何時までとか、条例でルール化したらどうか」との考えを示した。
市内では旭区が平成26(2014)年に、スマホやゲーム機を午後9時以降は使用しないなどのルールを決定。校長判断で各校で適用されているが、市教委として統一したルールは定めていない。松井氏は、使用制限に強制力を持たせたり罰則をつけたりすることは難しいとの認識を示した上で「理念的なものにはなるが、(大阪市として)ルールを作ったよというのが(不登校を減らすのに)大事なのかもしれない」と述べた。
スマホやオンラインゲームの使用制限をめぐっては、香川県が子供がインターネットやゲーム依存になるのを防ぐ全国初の条例制定を目指している。今月10日の検討委員会ではスマホやゲームは「平日は1日60分まで」などとする条例素案が示されたが、ネット上でも賛否が分かれるなど物議をかもしている。
2020.1.15産経新聞--------------------------

この記事は、松井市長の言ったことがすぐさま条例化されるように見出しに書いていますが、市長の言ったこととはかなり異なり産経新聞の勇み足に読めます。ただ、前回も掲載したように(1/13ゲーム障害)オンラインゲーム依存が深刻であることは事実です。ただ、不登校の一因がゲーム依存なのか、不登校になる子がゲーム依存になりやすいのかよくわかっていないのも事実であり、ゲームだけを悪者にしても解決はできないと言われます。

重要なことは家庭での対応であることは間違いがなく、この支援を公の子どもが守るべきルールだよと言うだけでなく、ペアトレなど実質的な子育て支援を強め、学校でゲーム障害や睡眠障害の健康教育に力を入れるべきことは、大阪市や香川県だけでなく国民的に差し迫った課題であることは間違いがありません。

 

福祉事業所の働き方改革

事業体が生き残る戦略の一つとして、働き方改革を進めていかなければなりません。ポイントは、3つあります。
1)長時間労働をなくす
2)休暇取得に向けた環境づくり
3)誰もが働きやすい雰囲気づくり
長時間労働をなくしていくためには、管理職の意識改革や、非効率な業務プロセスの見直し、従来慣行(利用者や関連事業所に対する非効率な業務)の改善が必要です。これは、結果的には生産性向上というメリットをもたらします。意識改革や業務設計・役割分担といったソフト面からのアプローチと、ITツールの活用・ペーパーレスといったハード面からのアプローチが「両輪」となります。

厚生労働省のヒアリングによると、年休取得が進んでいる法人では、一週間ごとのミーティングにて業務の進捗状況を所属長や同僚と共有し、仕事を個人ではなくチームで行うことによって労働者が休暇で不在となっても業務が回るよう、取り組んでいる事例がありました。労働者一人ひとりが責任感をもってしっかり仕事をすることは勿論重要ですが、仕事をチームで行い、チームの中で仕事の進行状況について情報共有することで、休みやすい職場環境へと変わってゆくのです。
トップが主導となり、休暇の取りやすい雰囲気や働きやすい環境づくりを行っていくことが大事です。

福祉現場での働き方改革の視点
離職率の低下、採用難の解消、労働生産性の向上、長時間労働の是正は、介護業界全体の共通の課題です。福祉現場における離職防止に向けた取り組み 5つのポイント
(1)「心身の不調」へのケア…腰痛予防、メンタルヘルスケア
(2)「支援観の違い」への対策…理念・指針の浸透
(3)「働き方」への固定概念の払拭…短時間勤務、時間単位年休、時間帯の固定
(4)「就労後ギャップ」の防止…入社前に誠実な情報の開示
(5)「持ち味の理解」と「承認」…多様性を許容し良い所に着目。事実+意味づけ
離職につながる長時間労働の是正については、昨今の働き方改革の流れもあり、一定の改善がみられている事業者もあるようです。単なる業務の削減はサービスの低下に直結する懸念があり、見直しを行う業務は慎重に検討するべきです。特に利用者に接する部分は、過剰と思われるサービスを除き、施設の「魅力」や「付加価値」になりますので、そこの見直しは必要最小限にとどめ、申し送りや会議・書類の作成といった、利用者に接遇しない業務や運営管理に関する部分について、手順を踏んで着実に業務効率化を推進していくことが大切です。

福祉現場における長時間労働の是正 5つのポイント
(1)「過剰サービス」の削減…「したい」と「できる」の見極め
(2)スタッフの意識改革…奉仕の心による「自主的な残業」の功罪
(3)デジタル化、ペーパーレス…効果絶大!
(4)申し送り、会議の短縮化…重要事項のみとし、残りは各自で確認
(5)定時退社の為の工夫…「仕事の再分配」と「職員間の連携」
中でも、デジタル化、ペーパーレス化による業務効率化は、介護福祉業界においては特に効果が大きいものと思われます。有給休暇の消化や、勤務間インターバル制度の施行などによって、従業員の勤怠の管理が複雑になります。デジタル化による管理の効率化は、今後多様なスタッフが納得して働いていく環境をつくっていくにあたり、従来以上に有力な切り札になります。働き方改革は、福祉業界にとっても待ったなしの経営課題です。全職員で改善状況の進捗を共有しながら、粘り強い取り組みが必要です。