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発達障害の子のためのハローワーク

2/3 就労移行支援」では、「13歳のハローワーク 村上龍 幻冬舎 2010-03-25」を紹介しましたが、これはこれでビデオやゲームがあって楽しいのですが、発達障害向けではないのでそれに特化したものが出版されていたので、紹介します。

東京から全国展開している放デイ事業所グループTEENSの「発達障害の子のためのハローワーク」の本の中では発達障害の特性をもつ5人の子どもたちと、担任の先生、それぞれのお仕事の案内人が登場します。「鉄道のお仕事」や「出版のお仕事」などなど、約25業界、150種類以上の職種をそれぞれの子どもたちの向き不向きと合わせて紹介しています。この5人が各業界の中で自分に向いている職業を教えてもらいながら、今から頑張ったほうがよいことも教えてもらう、というストーリになっています。漫画や写真をおりまぜているので、字を読むのが苦手な子でも楽しめます。

通常の職業紹介と違うところは、「車掌さんってこんな仕事でこんな人に向いてるよ!」と職業内容で紹介されていることが多いですが、本書は職業マッチングの視野を広げるところに力点が置かれます。残念ながら発達障害のある子ども(中でも高確率で鉄道が好きで車掌さんに興味のあるASDの子)とは異なる人物像だったりします。発達障害のある子に限らず、職業の向き・不向きはあります。ただ、発達障害のある子は他の子どもよりも弱みが”見えやすい”ため、向き不向きだけの話になると「自分にはできないな」というあきらめにつながってしまいやすいです。確かに、臨機応変さが求められる車掌さんの仕事は、想定外のことに弱いタイプの子どもには難易度が高いですが、鉄道にかかわる仕事は車掌さんだけではありません。目立たない仕事でも多くの人の支えで日本の鉄道は動いているわけで、その中のどこかの役割で、向いているものがあるはずです。自分の知っている範囲の職業だけで向き不向きを考えないでほしい。たくさんの職業を知って、子どもたちが自分の興味関心と強みを結びつけてほしいという視点が本書のいいところです。

5人のキャラクターは、13歳、中学1~2年生くらいを想定しています。もともとはベストセラー『13歳のハローワーク』の発達障害版として作るという企画だったそうで、そのまま13歳に設定されたのですが、この年齢は発達障害の子どもにとって重要な時期です。定型発達の子の場合、大体9歳ごろから発達の個人差が大きくなり始めて、抽象的思考力の発達とともに自分を客観視する力がつき、他者と自己を比較するようになります。はっきりしたデータがあるわけではないですが、発達障害の子どもたちを見ていると、中2くらいからこれと似た様相を見せることが多いです。小学校の間は特に気にせず通っていた通級に行くことを恥ずかしがるなど、同級生と自分との違いを気にするようになります。テストの点数が露骨に成績に反映されるようになるため、自尊心もより下がりやすい時期でもあります。

もちろん、周囲との差異を感じ始めた子どもに、その子自身がもつ強みを伝えるのは大切です。しかし、青年期にさしかかった発達障害の子どもたちと対話するときに、弱みの部分から目を逸らして強みの部分だけ伝えても、なかなか信じてもらえなくなります。現実問題(誰にとってもそうですが)強みだけを活かして生きていける場所などはなく、苦手なこと・できないことをどう対処していくかというのは大切な能力です。その子の将来を真剣に考えるならば、弱みの部分は認めつつ、それに対処していくための手立て伝えつつ、強みを活かす方法を教えることが重要です。

そのため、この本の中では、それぞれのキャラクターの強みを踏まえて職業の紹介をしていますが、併せて懸念点や努力が必要なことも書かれています。それは工夫によって解決できることかもしれませんし、特性上難しいことかもしれません。ただ、それを隠すのではなく、本当の意味で子どもたちが自分自身と向き合えるように、できるだけフェアに伝えるように心がけられていることも良いところだと思います。

楽しく働くためのヒント&セルフアドボガシー

前回、発達障害の子どもたちと就労を考えていく「2/3 就労移行支援」を掲載しました。今実際に働いている人たちはどんな困りごとやその対策があるのでしょうか。

発達障害のある人は、仕事において一般的に「コミュニケーションが苦手」「ミスが多い」などの困りごとがあると言われてきました。しかし、問題はもっと具体的で、人によって違います。『まんがでわかる 発達障害の人のためのお仕事スキル 楽しく働くためのヒント&セルフアドボカシー』(鈴木慶太:監修、株式会社Kaien:編著/合同出版)では、「発達障害応援企業」として当事者の支援を行なっているKaien社によって、実践的な事例がまとめられています。

例えば、「急に頼まれた仕事に対応できない」という困りごとは、「作業がゆっくり」「段取りを決めるのが苦手」といった特性が影響し、この困りごとが発生しているそうだ。解決策は「急に頼まれた仕事にすぐに対応せず、まずは優先順位と段取りを確認する」「急な依頼に対応できるよう、予め余裕を持っておく」などが挙げられています。本書では、困りごとがマンガで描かれていてわかりやすいです。困りごとが生じる場面、原因と分析、対策まで書かれているので、当事者だけでなく、職場の同僚や上司、支援者、さらには発達障害のある子どもを育てる親御さんも共通のビジョンを描けると思います。

他には「求められていることと異なる仕事をやってしまう」という困りごとが挙げられています。「業務指示の認識がズレる」「ニュアンスを読みとるのが難しい」といった特性により、後から「そんな指示していない」と驚いてしまう事態が発生しますだ。この場合、いわゆる「報連相」の中でも、特に「中間報告」が推奨されています。作業計画を立てた段階や最初の工程が終わった時点で報告し、チェックしてもらうことで、ズレを減らしていくことができます。この書籍のタイトルにある「セルフアドボカシー」とは、自分の状態を把握し、必要な支援を要請することを指します。この際、一方的に権利を主張するのではなく、穏やかに交渉する力が必要だと述べられています。

「権利を主張する側(当事者)も、その主張を聞いて受け入れる側(事業者)も、しばらくの間は練習が必要」です。そして「みんながハッピーに働くことは、結果的に、職場のパフォーマンスを上げることにつながります」とまとめにあるように、お互いにそんな簡単に分かり合えるはずがないということを、常識だと認識することです。ひとつづつ、分析し原因を調べ、歩み寄って対策を工夫しながら見つけて積み上げてこそ、みんながハッピーになれると本書は言います。

まんがでわかる 発達障害の人のためのお仕事スキル: 楽しく働くためのヒント&セルフアドボガシー
監修: 鈴木 慶太 著: Kaien 出版社: 合同出版 発売日: 2019/11/30 ISBN: 9784772613989

小学生高学年の不登校に多い原因

下のグラフを見ても分かるように、不登校の要因で最も多いのは自分に関わる内的な問題です。高学年になると自意識が強くなってきます。不登校の原因にもそれが影響しているケースがあるようです。たとえば、自分のイメージが他人にどのように見えているのかに悩む、期待にこたえることができないなどから、友達や先生、親の前でうまく振る舞えないことがあります。また、成績が落ちることや、勉強についていけないことも不登校の原因のひとつです。これはいわゆる心理的原因です。

自信不足によって子どもは、さまざまな身体症状が出ます。たとえば、子どもの笑顔が減る、イライラしている、食欲がなくなるといったことが前兆やサインです。子どもに、いつもと違う様子が見受けられるようになったら要注意。子どもをきちんと観察し、それらの前兆やサインを見逃さないようにしてください。

前兆やサインに気づいたら、まずは子どもを誉めることばを探します。褒めることばには副作用がありませんので、かけ過ぎても問題ありません。「…お母さんうれしい」という愛情の言葉と、能力や個性を認める承認の言葉を子どもにかけます。そうすることで、子どもは自信をつけていき、身体症状が軽減され、やがて消えていく場合もあります。1日3つ以上褒める内容を探して褒めていきます。

やっかいなのは、病気かもしれないときです。心理的原因との区別がつきにくいからです。多いのは起立性調節障害と診断を受ける子です。起立性調節障害とは、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患のことです。起きることができない、動けない状態のため、登校できないのです。それらの診断を受けると、血圧をあげる薬を処方されることがありますが、薬だけでは回復しません。親の誉め言葉で自信をつけることが必要です。自身がつけば、症状が軽減されて再登校していきます。ただし、診断を口実に登校しない子もいます。そこは、ダメなものはダメと言える親の本気度が必要となってきます。

多動不注意衝動性の特性をもっている子は、その言動から学校や家庭で否定されることが多く、常に自信が不足しています。ですので、これらの子どもにも励まし言葉がたくさん必要です。誉め言葉で自信がつけば、素直に親や先生の話を受け入れ、心の安定を図ることができるようになります。また、どのような言動をとることが大切だったかを繰り返し教えることも大切です。

家庭で勉強をする場合は、「学校タイム」を設定しましょう。「学校タイム」とは、学校のある時間帯に勉強することです。これによって、学校の勉強に慣れるようにします。ここで気をつけたいのは、親が焦って勉強のことばかり誉めることです。勉強のことばかり誉めると、子どもを自分の思い通りにさせようと操作することになってしまいます。それは、子どもにとってマイナスです。親がなぜ勉強しないといけないのかをきちんと説明することが重要です。

勉強は習慣だということを、親が諭す必要があります。勉強の習慣のない子には、まずは親が一緒に勉強についてあげるようにしましょう。子どもは、誉め言葉で自信がつけば、自ら勉強を始めます。学習意欲の低下も、身体症状のひとつです。もし、そのような症状が出ていると感じるのであれば、親は、「学ぶとはどのようなことか」という学校で学ぶ価値を子どもにインプットします。また、具体的にどのような勉強をするのかを示してあげるようにしてください。

ディスレクシア

ディスレクシアは「字を読むことに困難がある障害」を指す通称で、ギリシャ語で「困難」を意味する「dys(ディス)」と、「読む」を意味する「lexia(レクシア)」が複合した単語です。日本では難読症、識字障害、読字障害など、他にも様々な名称で呼ばれてきました。読むことができないと書くことも難しいことから、読み書き困難、読み書き障害と呼ばれることも多いです。

発達期の特異的な読字障害は先天性のものであり「発達性ディスレクシア」(developmental dyslexia)と言われています。医学的な分類では学習障害(LD)に含まれることが多く、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では読字の障害を伴う限局性学習症・限局性学習障害とも呼ばれます。ICD-11では発達性学習症の読字不全の症状です。

日本ではディスレクシアの割合を示す統計は発表されていません。日本におけるディスレクシアの発現率に一番近いものとしては、障害者白書内にある「児童生徒の困難の状況」のうち「知的発達に遅れはないものの学習面で児童生徒の割合」の4.5%だと言われています。日本語にはひらがな・カタカナ・漢字があり、詳細な発現率は分かっていません。また、知的な遅れが伴わないことや、海外に比べると日本はディスレクシアの認知度が低いことから、大人になるまで気づかないままでいた人もいます。

「文字を読む」というのは一見単純に見える行為ですが、まず文字を目で追い、その一文字一文字をまとまりにしてつなげ、音に変換し、それを脳で記憶している意味と結び付けて理解するという複雑なプロセスを経ています。つまり、文字を音と結び付けて読み上げる音韻処理や、文字の形を認識したり語句のまとまりを認識し意味と結び付ける視覚的な処理などが必要になります。ディスレクシアの人の場合、一人一人の偏りや特性は異なりますが、それらの処理をするための脳の部位に何らかの機能障害や偏りがあり、そのために読むことが難しいのではないかと言われています。

音韻機能とは最小の音単位を認識・処理する能力を指しますが、ディスレクシアの人の脳の特性として、音韻の処理に関わる大脳基底核と左前上側頭回という領域の機能異常があるという説が主流となっています。そのため音を聞き分けたり、文字と音を結びつけて「読む」ことが難しいと言われています。
■文字と音の変換が苦手
ひらがなの文字と音を結びつけて読むのが難しいことがあります。また小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」「っ」や音を伸ばす「-」などの特殊音節が認識できず読めないこともあります。
■単語のまとまりを理解するのが困難
たとえば「み」「か」「ん」などのひらがなやカタカナの一音ずつは読めてもそれを「みかん」というひとまとまりの言葉として理解するのが難しいことがあります。
■聴覚記憶が苦手
言葉を音として記憶しながら読んだり話したりしますが、ディスレクシアの人の中にはこの音韻認識が弱く聴覚的な記憶が苦手な人がいます。このように処理と記憶を同時に行うことが難しいことから読むことに困難な場合があります。

ディスレクシアの人の中には、視覚認識や眼球運動に偏りがあり、普通の文字の見え方とは違った見え方をしている人もいると言われています。全く読めないのではないけれど、読むスピードが遅いというディスレクシアの人もいます。周りから怠けていると勘違いされることも多くありますが、本人の努力不足などではなく、先天性の障害であるということを理解することが大切と言えます。

学校では板書が必須ですが、文字を読むのも書くのも苦手なディスレクシアの子どもにとっては困難な作業です。作文や漢字の書き取り、音読なども苦手なため、学校の宿題に時間がかかったり、できないことも多々あります。先生や本人、家族も気づいていない場合、注意不足などと叱られる子どももいます。

仕事においても、書類作成など文字を扱う業務が苦手で、何度間違いを指摘されてもミスを繰り返してしまうことがあります。また、素早くメモを取ることができないため、上司の指示を聞いたり、電話を受けた場合に困ることもあります。短期記憶も苦手な傾向にあるため、誰から電話が来たか忘れてしまったり、人の顔と名前を覚えられなかったりします。

就労移行支援

子どもに発達障がいを始めとする障害がある場合には、早い時期から自立が気になります。発達障害に限らずその子にとっての人生最初の仕事を選ぶために、大人と子ども自身が把握しておくべきことは、
1 子どもは何に興味があるか?(興味)
2 子どもに元々ある程度備わっている仕事をやる上での特徴とはなにか?(適性)
3 興味と適性の両方がある仕事があったとして、どうやってその仕事をやるか?(実現可能性)
何に興味があるのかを知るためには、世の中にはどんな仕事があるのか知る必要があります。多くの場合、自分の親の仕事とか、学校の先生とか、比較的自分の身近なところにある仕事に対して興味をもつようになります。それはそれで入り口としてはいいことですが、もっと広く仕事を知ることが必要です。手軽に仕事を知るための素材として「13歳のハローワーク 村上龍 幻冬舎 2010-03-25」があります。ドラマ化されたビデオ「13歳のハローワーク DVD-BOX 出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2012/07/25」もあります。30種類くらいの仕事を経験できるアドベンチャーゲーム「13歳のハローワークDS posted with カエレバ デジタルワークスエンターテイメント 2008-05-29 」もあります。このような素材を使いながら、子ども自身が「自分の興味の方向性」を知ることが大事です。
興味があるからと言って、その仕事に向いているかどうかはわかりません。向き不向きを表すのが「適性」です。具体的に適性というのがどのようにして表されるかというと、こんな感じに分類されています。
①知的能力:推測する、数を応用して考えるなどの力
②言語能力:語彙の多さ、前後の内容から推測する力
③数理能力:足す引く掛ける割るの計算力、応用的な算数
④書記的知覚:書いてある文字の意味を理解する正確性&速さ
⑤空間判断力:平面図、立体図を理解する力
⑥形態知覚:形や図柄を区別する力
⑦運動共応:見て手を動かすことの正確性&速さ
⑧指先:指先を細かく動かす器用さ
⑨手腕:腕全体を動かして作業する器用さ
これらが一般職業適性検査(略してGATB:General Aptitude Test Battery)で分かる内容です。この検査は比較的多くの発達障害当事者の方が「けっこう使える」と言う、主にハロワークで実施している適性検査です。これらの能力の組み合わせによって、様々な種類の仕事への適性が分かるようになっています。例えば、「電気設備の保守管理の仕事」には①知的能力、④書記的知覚、⑨手腕の3つが中程度のレベルで必要になる、というようなことが分かるようになっています。このようなやり方で、全部で40の仕事に対する適性が確認できるようになっています。GATBプラスコース(中学・高校生向け)があり、得点や他者との比較にとらわれすぎることなく、自分の強み、能力特徴に注目します。本人自身の各能力を比較してどの能力が優れているかを把握できるようになっており、将来を見据えた進路選択に役立ちます。(1名分420円)。障害の重い人ならTTAPというASD向けの就労移行支援テストが14歳からあります。

「13歳のハローワーク」に紹介されているような仕事だと、なりたいと考える子どもが多いケースが有るでしょう。例えば、パイロットになりたい子は多いでしょうが、実際の雇用の枠は、志望者の数よりもずっと少ないでしょう。性質として似ている仕事、その子の興味の方向性にあっている仕事、その子の適性に合っている仕事について調べてみます。そして、そういったもののなかで比較的仕事につきやすそうなものがないかどうか調べてみるというやり方があります。仕事のやりがいは、仕事を一緒にやる仲間との相性、仕事環境の文化、といったものも大きく影響してきます。まずは具体的に何かやってみることが大切だと思います。仕事選びには、「第一志望に入るためにがんばる」という受験勉強のような考え方はあまり適しません。実際に試行錯誤してみることが大切になります。

大人になってから発達障がいがあることがわかった方は「苦手なことをやった方がいい」と考えて頑張ってこられた方が少なからずおられます。そして結果的に体調を壊してしまうようなことも起こります。仕事をやっていくにあたって大切なのは、ここまでに説明してきた興味と適性がマッチしていることです。苦手なことより得意なことを軸に仕事を選ぶことは「逃げ」ではありません。そのようなことを含めて、子どものうちから教育していくことが大切なのだと思います。