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場面緘黙

場面緘黙(かんもく)とは、家庭なら話せるが学校のような「特定の状況」では声を出して話すことができないことをいいます。「家ではおしゃべりで、家族とのコミュニケーションは全く問題ないのに、家族以外や学校で全く話せないことが続く」状態です。この症状のために、本来持っている様々な能力を、人前で十分に発揮することができにくくなります。人見知りや恥ずかしがりとの違いは、「そこで話せない症状が何か月、何年と長く続くこと」です。人によって症状(話せない場面・程度)にはかなり差があります。

場面緘黙は、育ての方の問題ではなく、「不安症や恐怖症の一種」と考えられるようになってきました。「自分が話すことに怖れを感じる」人として支援を行なうのが主流となっています。発症原因は、『不安になりやすい気質』などの生物学的要因があり、そこに複合的な要因が影響していると考えられています。脳が新しい刺激に敏感に反応する「行動抑制的な気質」を元々もつというケイガン(Kagan 1989米)の仮説が有力です。不安が高まりやすく、行動が慎重となるため、環境に慣れるのに時間がかかります。10~15%の子どもがこの気質を持ち“その傾向は生涯続く”といいます。

入園や入学、転居や転校時などの環境の変化により、不安が高まって発症することが多いようです。クラスでの先生からの叱責やいじめがきっかけとなることもあります。一旦話せないことが続くと、「自分が話し出すとみんながなんていうだろう」など、注目されるような気がして強いプレッシャーを感じます。話さないでいる方が不安レベルが下がるため、この症状が定着するのではないかと考えられています。

場面緘黙を「家庭環境のせい」と考えるのは誤解です。過去の研究では「虐待」や「トラウマ」に関連付けられてきましたが、ほとんどの子どもには関係ないことがわかりました。学校の先生は「親の過保護のせい」と考えがちですが、子どもが人前で話せなければ親が心配そうにするのは当たり前ですし、親も不安になりやすい繊細な気質をもつ場合が多いので理解が必要です。親も周囲から「過保護」「心配し過ぎ」と言われて傷つき孤立しがちです。子どもの一番の理解者になれるのは親と先生です。親と先生が協力しあうことで、子どもへの必要な支援が始められます。

「必要な支援」を行ったうえで「子どもの成長の伸びしろへの手出し(過保護)」を控えることが大切です。症状改善や二次的問題予防には、親や先生、友だちなど、周りの人たちの「場面緘黙への理解」が大きく影響します。場面緘黙は、お医者さんや学校の先生から「大人になったら自然と治る」と言われることが多いですが、場面緘黙には、早期発見と対応が大切です。場面緘黙の子どもは、おとなしい子どもが多く、園や学校で先生が困るような目立つ問題行動がないため、支援を受けにくく、見過ごされがちです。自然に改善したように見える事例でも、事後検証すると、偶然、環境が治療的な設定になっており、本人の努力で治癒したケースも多いようです。支援を受けずに成長すると、症状改善が遅れるだけでなく、うつや他の不安症状、不登校や人間不信などの二次的な問題が生じやすくなります。

場面緘黙の子どもは、自分でも自分がなぜ話せなくなるのかわかりません。それなのに、人から「なぜ話さないのか?」と問われます。周囲の理解やサポートがない幼稚園や学校生活は、緊張の連続です。腹痛や頭痛などの身体への影響、誤解や理不尽な扱いに、悲しみ、無力感、自責感、孤立感、自分への怒りが生じます。先生のサポートがなければ、いじめを受けるリスクも高くなります。話せないことから、社交スキルやコミュニケーション力の練習機会も狭まります。そのため、うつや他の不安症状、不登校や人間不信などの二次的な問題が生じやすくなります。

場面緘黙は、「専門家だけで治せる症状」ではありません。家庭と学校が協力して、まず「安心できる環境」を調整することが最も大切です。研究では、不安が低い場面からスモールステップでチャレンジを進め、活動参加、動作、発話ができる場面を増やしていく行動療法的アプローチが最も効果的とされています。この方法は、「自転車の練習」と似ています。自転車に乗るのを避けていては、自転車はうまくなりません。逆に、いきなりロードレースに参加しても怖い思いをするだけです。補助輪をつけたり、人に支えてもらったりしながら、少しずつ怖くなくなるようにします。米国では、極微量のSSRI(抗うつ薬)で不安をさげて、このようなスモールステップと組み合わせる方法がもっとも有効と言われています。

大事なことは、話さないことを責めないことや、不安が高すぎる場面で発話を強要しないことです。答えが返ってこなくても、あたたかく話しかけてあげてください。返事は返せなくても、とてもうれしいと感じているはずです。筆談が出来る場合は、書くコミュニケーションを促しましょう。よく考えてみれば、私たちも緊張して声が詰まったり、頭が真っ白になることがあります。そんな時に何を言われても落ち着くまでは状況は改善しないことも思い出すはずです。その傾向が強いか弱いかの違いです。だとすれば、どの子にも傾向濃淡の度合いは違うがそういうことがあるはずです。つまり、発達障害の特性の濃淡の傾向と同じだという事です。