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みんなちがってみんないい

クワイエットアワー

薄暗い店内で静かに買い物 欧州のスーパーが導入、発達障害者に優しい「クワイエットアワー」

2020年08月25日(火)19時25分【Newsweek】
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

<ちょっとした配慮でこれまで来店できなかった人たちも買い物ができるように──>
BGMなし、薄暗いスーパー
8月から、スイスのスーパーに「クワイエットアワー」という時間帯が試験的に初導入された。クワイエットアワーは、音や光やにおいに敏感で日常的に困っている発達障害(自閉性障害やアスペルガー障害など)の人たちに配慮し、音楽やアナウンスをなくし、照明の明るさを下げるといった調整で買い物がしやすいようにした時間帯だ。ヨーロッパを中心に広がるスーパー、スパーの一部(4店舗のみ)で週2日午後1~3時までの2時間実施している。

発達障害者専用ではなく、それ以外の人たちも買い物できるというので4店舗のうちの1つに行ってみた。音楽はなく(スイスのスーパーは、元々BGMがないところが多いが)、確かに薄暗かった。レジでバーコードを読み取る際のピッという音はしていたが、この音を当事者はどう感じるだろうか。

スイス国内の報道によると、2年前はクワイエットアワーに関心がなかった大手スーパーのコープも、現在、試験導入の準備を進めていることがわかった。

クワイエットアワーは、日本でも導入してほしいと思っている人はいる。一般社団法人日本発達障害ネットワークと明治大学建築環境計画研究室が共同で実施したアンケートでは、よく買い物に行く店でクワイエットアワーが実施されれば、その時間に利用したいと答えた人が41%いた。51%はどちらともいえないと答え、「その時間帯に行けるかわからないから」「デジタル音ではなく人が多いことや人の声が困るから」といった理由が挙がっていた。

イギリス、アイルランドなどが先行実施
クワイエットアワーは、スイスに先駆け、自閉症者が約70万人いるイギリスで2017年に大々的に実施された。イギリス自閉症協会が1週間「自閉症の時間(1時間)」を設けるキャンペーンを呼びかけ、4500以上のスーパーやショッピングセンターが参加した。このキャンペーンは継続中で、昨年は 1万4500以上の店(公共施設も含)が参加し、クワイエットアワーへの関心が徐々に高まっている。

同協会は、キャンペーンを機に自閉症者への理解が深まることを願い、企業が定期的にこの時間帯を取り入れることを目指している。実際、キャンペーン参加企業の多くが簡単に実施できたと感想を述べ、自主的に実施するようになっているという。他の国でもこの時間帯を設ける動きが広がっている。アイルランドでは独系ディスカウントスーパーチェーンのリドルが、全国の店舗で週1回クワイエットアワーを実施、ポーランドでは仏系スーパーのオーシャンが全国にあり、各店舗でクワイエットアワーを実施している。

これらのチェーン店は国境を越えて同じ方針を取っているとは限らず、リドルはスイスにも広がっているがスイスでは導入の計画はなく、スイス・ドイツ語圏自閉症協会は遺憾を表明している(地方紙アルガウワー・ツァイトゥング)。冒頭のスパ―も世界展開しているが、他国の店舗では未導入のようだ。また日本でも一部で報道されたように、ニュージーランドでは、試験期間を経て、昨秋から大手スーパーのカウントダウンが全国的にクワイエットアワーを導入した。隣国オーストラリアでも昨春から、コールスが全国250以上の店舗に取り入れた。

オンラインショップよりいい 当事者の声
店内の音楽や明るさが気になるならオンラインショップがあるではないかと、発達障害をもたない人なら思うかもしれない。しかし、オンラインショッピングには短所もあることを忘れてはならない。ある自閉症者が、イギリスの消費者団体フィッチ?でこう主張していた(2018年寄稿)。彼女はオンラインで買い物を済ませることが多いが「オンラインでは店頭と同じ特売がないことがあるし、店員との交流はないし、店頭と同じサービスも受けられない」という。香水が大好きな彼女は店頭で芳香を嗅ぎ比べるのが好きなのに、オンラインで買い物すれば当然それはできない。

そしてクワイエットアワー以外の時間に店頭で買い物しても、不利な点があると説明する。店内で緊張してしまうと、よい判断ができずに買い物してしまうそうだ。商品を比較する余裕がなくていつもと同じ物を買ったり、特売のサインがある物をサッと買ったり、とにかく最初に見た物(買おうとしていたのとは別の物)をつかみ買ってしまったりするという。つまり、買い物する楽しみも味わえないのだ。

障害者、高齢者、妊婦、小さい子ども連れなど、誰もが暮らしやすい環境を作るためには少しの工夫でよい場合もある。それがすぐに浸透することは難しいとは思うが。

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日本でもイオンが神奈川で試験実施したり大阪ではトレーニングジムで実施したりしています。賑やかな人には申し訳ないけど、職場や公共の場で、「たかがおしゃべりや喧噪」で苦しんでいる人もいるという想像力が大切です。

特別支援学校人気

二日続いて朝日の支援学校記事が続きました。要するに、支援学校人気でどの自治体でも教室数が足りず支援学校を新設せざるを得ないというものです。人気の原因は、昔のように支援学校を否定的に見ないで、専門教育と就労支援に手厚いので通常学校より丁寧でお得じゃないかというのが理由です。

確かに、高等部だけでなく今や小学部でも従来通常学校に在籍していたような子どもが1年生から入学してきます。保護者が気にしているのは「いじめ」です。それは本人へのものもありますが、兄弟へのものも心配されているのです。高等部の増加は、このまま大学進学できても就労は望めないし本人が苦しむという「配慮」から発達障害の生徒も含めて増えてきているようです。

インクルーシブ教育へとダイバーシティー社会へと唱えるならば、通常学校の教育サービスが変わらないとこの傾向はさらに拍車がかかります。場所(学校種別)で保障されるサービス(教育)ではなく、個人(個性)に保障される教育が求められています。

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特別支援学校、開校続々専門のケアや就労支援へ需要増

2020年8月23日 21時30分【朝日新聞デジタル】

少子化で子どもの数が減り、学校の統廃合も進むなか、障害のある子どもらが通う特別支援学校が次々に開校している。朝日新聞の取材では、2018年度以降の3カ年に全国で17校が開校し、さらに今後、全国で36校の新設計画がある。専門的な支援教育を望む保護者が増えたことなどで、支援学校に通う子どもはここ10年で約2割増加。深刻な教室不足が背景にある。

47都道府県の教育委員会に取材したところ、支援学校は18年度から今年度までに、東京や神奈川、愛知など12都道県が17校を開校。さらに来年度以降、埼玉、東京各6校、福岡3校など、19都道府県に36校の新設計画がある=表。ほとんどが子どもの増加による教室不足への対応だった。昨年度、教室が足りず、会議室などを教室に転用した支援学校は、すべての都道府県にあった。

〈特別支援学校〉盲・ろう・養護の各学校が07年に一本化され、幼稚園から高校にあたる各部ができた。視覚・聴覚・知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱の子どもが対象で、障害に応じた専門的な教育や就労・自立支援を行う。

障害ある子の就学、悩む親「長所大事にしてくれるか」
文部科学省によると、全国の小中高校に通う児童生徒数は1985年度の2226万人をピークに、昨年度は1280万人にまで減少し、学校も約4万2千校から7千校減った。

一方、支援学校に通う子どもは2009年度に11万7千人だったのが、昨年度までに2万7千人増えて14万4千人に。知的障害のある子が約9割を占める。学校数は116校増え、1146校となった。昨年5月の文科省の調査では、全国の支援学校で計3162教室が不足していた。国の有識者会議は支援学校が最低限備えるべき施設などの設置基準をつくるよう求め、文科省が検討中だ。

国は障害がある子とない子がともに学ぶ「インクルーシブ教育」を進めようと、13年に学校教育法の施行令を改正。通常校か、支援学校か、子どもの就学先を決める際に保護者の意見が反映されるようにした。就学時の健診で障害を見つけやすくなったこともあり、支援学校だけでなく、通常校に通いながら校内の特別支援学級で学ぶ子どもも、この10年で倍増した。ただ、17年度の調査では、どちらにも入学できる障害の重さと判断された約1万人の7割が支援学校を選んだ。また、支援学校では高校にあたる高等部で特に生徒が増えている。

背景について、支援学校6校を新設する埼玉県教委の担当者は「子どもの特性にあわせた、より専門的な教育に期待する保護者が増えた」とみる。2校を新設する大阪府教委の担当者は「就労を想定した専門の授業もあり、福祉事業所などへの就職に期待する保護者もいる」と言う。

こうした状況について、特別支援教育に詳しい都留文科大学の堤英俊准教授は「支援学校も保護者の大事な選択肢の一つ」としたうえで、「教室不足への対応として学校を新設するのはあくまで緊急対処。通常の学校にも、一人ひとりの個性や特性に応じた授業ができる少人数学級を設けるなど、保護者が安心して子どもを預けられる態勢を整えるべきだ」と話す。(渡辺元史、玉置太郎)

<特別支援学校>盲・ろう・養護の各学校が07年に一本化され、幼稚園から高校にあたる各部ができた。少人数の学級編成で、障害に応じた専門的な教育や就労・自立支援を行う。学校教育法施行令に基づき、重い障害を持つと判定された子が対象だが、高校生にあたる生徒が学ぶ高等支援学校は、比較的軽度の知的障害の生徒も受け入れている。

特別支援学校の新設状況
北海道3校(2):岩手県1校:宮城県2校(1):福島県1校(1):茨城県1校:埼玉県6校(6):千葉県1校(1):東京都10校(6):神奈川県2校:山梨県1校:岐阜県1校:静岡県2校(2):愛知県3校(1):三重県1校:滋賀県1校(1):京都府1校(1):大阪府2校(2):兵庫県1校(1):香川県1校(1):愛媛県1校(1):福岡県3校(3):佐賀県1校:長崎県1校(1):熊本県3校(2):大分県2校(2):沖縄県1校(1):
※2018年度以降の開校数と、来年度以降の新設予定数の合計。()はうち予定数

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特別支援学校、開校相次ぐ深刻な教室不足、背景通う子ども、10年で2割増

2020年8月24日 5時00分【朝日新聞デジタル】

少子化で子どもの数が減り、学校の統廃合も進むなか、障害のある子どもらが通う特別支援学校が次々に開校している。朝日新聞の取材では、2018年度以降の3カ年に全国で17校が開校し、さらに今後、全国で36校の新設計画がある。専門的な支援教育を望む保護者が増えたことなどで、支援学校に通う子どもはここ10年で約2割増加。深刻な教室不足が背景にある。

47都道府県の教育委員会に取材したところ、支援学校は18年度から今年度までに東京や愛知など12都道県が17校を開校。さらに来年度以降、埼玉、東京各6校、福岡3校など、19都道府県に36校の新設計画がある。ほとんどが教室不足への対応だった。昨年度、教室が足りず、会議室などを教室に転用した支援学校は、すべての都道府県にあった。

文部科学省によると、全国の小中高校に通う児童生徒数は1985年度の2226万人をピークに、昨年度は1280万人にまで減少し、学校も約4万2千校から7千校減った。一方、支援学校に通う子どもは2009年度に11万7千人だったのが、昨年度までに2万7千人増えて14万4千人に。知的障害のある子が約9割を占める。学校数は116校増え、1146校となった。昨年5月の文科省の調査では、全国の支援学校で計3162教室が不足していた。国の有識者会議は支援学校が最低限備えるべき施設などの設置基準をつくるよう求め、文科省が検討中だ。

国は障害がある子とない子がともに学ぶ「インクルーシブ教育」を進めようと、13年に学校教育法の施行令を改正。通常校か、支援学校か、子どもの就学先を決める際に保護者の意見が反映されるようにした。就学時の健診で障害を見つけやすくなったこともあり、通常校に通いながら校内の特別支援学級で学ぶ子どもも、この10年で倍増した。ただ、17年度の調査では、どちらにも入学できる障害の重さと判断された約1万人の7割が支援学校を選んだ。また、支援学校では高校にあたる高等部で特に生徒が増えている。

背景について、支援学校6校を新設する埼玉県教委の担当者は「子どもの特性にあわせた、より専門的な教育に期待する保護者が増えた」とみる。2校を新設する大阪府教委の担当者は「就労を想定した専門の授業もあり、福祉事業所などへの就職に期待する保護者もいる」と言う。こうした状況について、特別支援教育に詳しい都留文科大学の堤英俊准教授は「支援学校も保護者の大事な選択肢の一つ」としたうえで、「教室不足への対応として学校を新設するのはあくまで緊急対処。通常の学校にも、一人ひとりの個性や特性に応じた授業ができる少人数学級を設けるなど、保護者が安心して子どもを預けられる態勢を整えるべきだ」と話す。(渡辺元史、玉置太郎)

◆キーワード

<特別支援学校>盲・ろう・養護の各学校が07年に一本化され、幼稚園から高校にあたる各部ができた。少人数の学級編成で、障害に応じた専門的な教育や就労・自立支援を行う。重い障害を持つ子が対象だが、高校生にあたる生徒が学ぶ高等支援学校は、比較的軽度の知的障害の生徒も受け入れている。

京都府井手町で建設中の特別支援学校2022年4月開校予定

マスク警察

「マスク警察」が世界中で困った事件を起こしています。「マスク警察」とは、武漢ウィルスを予防するとして、公衆場面でマスクをつけるように強要する人のことです。1件目の記事は、マスクを着けなかったためにディズニーショップに入れなかったASD女子の記事です。

2件目はWHOが学校開始前のタイミングで、5歳~12歳にもマスクを求めるとした報道です。重要な事は、運動する際にはマスクは必要ないとしているほか、発達障害を抱えている子どもに対しては、年齢に関係なくマスク着用を強制しないよう呼びかけています。

おそらく、ディズニーショップの店員は、一つの情報とらわれて柔軟に対応できないという、ご本人がこだわりの強い方だったのかもしれません。しかし、これだけマスク着用への同調圧力が強くなると、WHOだけでなく政府機関が、合理的理由があるなら強要してはならないという合理的配慮宣言を文書として掲げる必要があります。また、同調圧力とは関係なく、ステレオタイプのこだわりを持って「マスク警察」行動を行う人たちへも社会の配慮が必要だと思います。

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マスクが付けられない自閉症の少女がディズニーから退去指示。「感覚過敏」を知ってほしい(カナダ)

8/18(火) 17:00【Yahooニュース】配信

新型コロナウイルスの感染拡大以降、人が密集する場所でのマスクの着用は、半ば義務的なものとして定着した。
しかしその一方で、わけあってマスクが着用することができない人もいることを知ってほしい。

マスク着用が困難な「感覚過敏」
マスクを着用していると、肌がチクチク痒くなったり、頭痛がしたりする症状を「感覚過敏」という。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚といった感覚が、一般的な人と比べ過敏に反応してしまい、激しく苦痛を感じる状態だ。
外部からの刺激に対し、適度に調整する脳の働きがうまく機能しないのが原因で、自閉症スペクトラムなどの発達障害、うつ病や認知症などによって発症するとされる。
日常生活で困難を抱えているにも関わらず、周囲に理解されず、わがままだと誤解されるケースも後をたたないようだ。

ディズニーストアからの退店命令も
カナダ・オンタリオ州のロンドンでは、ディズニーストアを訪れた自閉症スペクトラムの6歳の女の子が、マスクを正確に着用していなかったことを理由に、退店を命じられたと『CTV News』が報じた。
自閉症スペクトラムのルビーちゃんは、歯が抜けたことを記念し、家族でディズニーストアに行くことにした。母親のサラさんは、ルビーちゃんは感覚過敏であるため、マスクを着用し続けることができない、という旨を入店前にスタッフへ伝えており、了承を得ていた。
しかし、店内に入ると別のスタッフから複数回注意を受け、その都度説明を繰り返すことに。しかも、数分後にマネージャーがやってきて、「自分の知っている自閉症の人はマスクをすることができた」と発言。しかし言うまでもなく、自閉症は人それぞれ症状がまったく同じわけではない。フェイスシールドなどを提案されたが結果、ルビーちゃんは店内から出ていくことになった。

地元自治体の条例や公衆衛生規則においても、障害者や12歳未満の子どもがマスクを着用することを義務付けてはおらず、医療担当官であるクリス・マッキー博士は「店側は、病気や障害のためマスクを着用していないことを理由にサービスを拒否することはできません」と語っている。
忘れがちだが、大多数の人が当たり前できることでも、すべての人ができるわけではない。それは、マスクの着用においても同じだ。感覚過敏の人にだけ無理を強いるのではなく、あらゆる人が柔軟に対応できるよう、少しずつ社会が変わっていくことを願う。

赤井大祐

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マスク着用、12歳以上の子どももすべき WHOが指針

8/23(日) 11:58【 BBC News】配信

世界保健機関(WHO)は21日、12歳以上の子どももマスクを着用すべきとする指針を発表した。それぞれの国や地域で、大人に推奨されているのと同様の対策を取るよう勧告している。
WHOは、子どもによる新型コロナウイルスの伝染についてはほとんどわかっていないと認めている。一方で、10代の若者が大人と同じように他人に感染させることを示す証拠があるとしている。
5歳以下の幼児には通常、マスクを着けさせるべきではないとした。

新型ウイルスの死者は世界で80万人を超えている。
米ジョンズ・ホプキンス大学によると、感染者は世界で2300万人以上確認されている。多くはアメリカ、ブラジル、インドで見つかっている。しかし、ウイルス検査が不十分で、無症状のケースもあることから、実際には感染者はこれよりずっと多いと考えられている。感染者は韓国、欧州連合(EU)各国、レバノンといった国々でも再び増加している。
テドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は21日、パンデミック(世界的流行)が2年未満に収束することへの期待を表明した。一方、英政府の科学顧問は、新型ウイルスの感染症COVID-19を根絶することはできない恐れがあると警告。定期的なワクチン接種が必要になる可能性を指摘した。

■WHOの指針
WHOがウェブサイトで発表した指針は、子どもを3つの年齢層に分けて以下のように推奨している。
・12歳以上の子どもは、大人と同じようにマスクを着用すべき。他人と1メートル以上の距離が取れない場合や、地域の広い地域で感染がみられる場合は特に着用が求められる。
・6~11歳の子どもは、感染の広がりや、高齢者などハイリスクの人と交流しているかを考慮して判断すべき。マスクを使う場合は、安全に着け外しできるように大人が注意する必要がある。
・5歳以下は通常の状況ではマスクを着けるべきではない。

学校教諭について、WHOは「伝染が広範囲でみられる地域では、60歳未満で健康な大人は全員、他人と1メートル以上の距離を取れない場合に布マスクを着用すべき。これは、子どもと接近する仕事をしている大人や、子ども同士が近づく職場で働いている大人では特に重要だ」としている。
また、60歳以上や基礎疾患がある人に関しては、医療用マスクを着けるべきだと勧めている。

■学校ではどうする? 
12歳以下の子どもが学校でマスクを着用すべきかは、今回の指針は明確にしていない。欧米などではもうすぐ新学期を迎えることから、今後この点が問題になる可能性がある。
フランスは最近、11歳超の子ども全員にマスク着用を義務付けた。イギリスでは正式な政府指針には含まれていないが、多くの学校が独自に、生徒にマスクを着けるよう求めている。
エディンバラのジェイムズ・ギレスピー高校は、生徒や教職員、保護者に意見を聞いたうえで、「休み時間に屋内で動き回る際にはマスクを着ける」ことを決めた。
スコットランドのニコラ・スタージョン自治政府首相は、「近い将来に」中学校での生徒のマスク着用を義務付けるかもしれないと表明している。

(英語記事 Children aged 12 and over should wear masks - WHO)

すすめよう!自閉症の子どもへの支援

自傷行為や他害…強度行動障害、支援のポイントは専門家に聞く

2020/8/20 14:27 【西日本新聞】三宅 大介

自傷行為や他害などを起こす強度行動障害。もともと自閉症や重い知的障害がある人に多く、早期に適切な支援や配慮を受ければ予防できるとされ、学校現場でもノウハウが蓄積されている。福岡県内で、その研究事業に取り組んだ福岡教育大・教職大学院教授の納富恵子さん(62)に支援のポイントを聞いた。

精神科医として発達障害のある子どもの診療に携わってきた納富さん。1990年に福教大に移り、本格的に教育的支援を研究してきた。「特性を理解し、一人一人に合った環境を整え、意思疎通できるよう工夫して支援すれば行動面での課題は十分解決できると、一般の人たちにも理解してほしい」と語る。学校でも適切な配慮を行うため、福岡県教育委員会と2004~07年度、県内の小中6校、特別支援学校2校と協力しながら調査研究に取り組み、計2冊の手引書もまとめている。

絵や図で具体的に
自閉症の子どもは、周りの情報を自ら選んで取り入れ、整理することが苦手で、あいまいな状況に混乱しがちとされる。基本的な支援としては、いつ、何を、どのようにするのか、具体的に示すことが必要だ。納富さんはキーワードとして「シンプル(簡潔)、クリア(明確)、ビジュアル(視覚的)」を挙げる。

例えば、教室には不必要な物を置かない▽黒板の板書が際立つよう、本棚などはカーテンで覆う(シンプル)。指示は「廊下は走ってはだめ」ではなく「廊下は歩きます」と具体的にする▽事前に活動の順序を黒板などに示す(クリア)。教室内でもパソコンを使うスペースを仕切るなどし、一つの場所では一つの活動しか行わない▽スケジュールや予定も色分けするなど文字や絵、図を使って提示する(ビジュアル)。
「自分で見て、考え、主体的に活動できるように支援する。やり遂げた経験によって学び続けようと勇気づけることが大切です」

嫌な経験思い出し
中には、感覚が過敏なため、ほかの人は気にならない音などの刺激に極端に驚いたり、同じような場面で過去の嫌な経験を思い出し、パニックになったりする子どももいる。自傷行為や物を壊すなど、周囲から問題行動と受け取られがちだが「特定な苦手なことから逃れたい、あるいは物や周囲の人の注目などが欲しくて繰り返しているのかもしれない」と納富さん。困った状況を発信するコミュニケーションの意味を持つ場合もあるという。

こうした際は原因をじっくり見極め、その背景に応じた対応が不可欠。音楽がかかると教室を飛び出す時は耳栓を活用したり、大きな音がきっかけになる場合には運動会のピストルの音を旗の合図に変えたりする。「いつどこでどんな行動をしたか、どう対処したか記録を取り、状況を整理して原因を推測していく」作業も必要になってくる。

いずれにしろ「単に部屋を仕切ったり、手順を示したり、環境を形式的に整えればうまくいくわけではなく、一人一人と丁寧に向き合い、個別に配慮を考えること」(納富さん)が支援の成否の鍵を握る。

意思疎通法も進化
言葉では自分の気持ちを伝えられないもどかしさが問題行動の原因にもなることから、近年は「欲しいもの、したいことを絵カードを使って意思疎通し、コミュニケーション能力を伸ばすトレーニング」も知られる。情報通信技術(ICT)の進歩に伴い、iPad(アイパッド)などを活用し、手軽に視覚的に意思表示することも可能だ。

「押しつけではなく、自らこうしてほしいと発信できて初めて、相互に分かり合える」と納富さん。ここ10年、さまざまな企業などがコミュニケーションの支援や環境を整える教材などの作成に参画しているという。「学齢期であれば比較的容易に、社会に適応していく力やコミュニケーション能力を伸ばせる。さまざまなノウハウを今後も引き継ぎ、学校現場と保護者が連携しながら、生きづらさを抱える子どもたちを支えていってほしい」

◇◇

福岡県教委が納富さんらとまとめた手引書(報告書)「はじめよう!自閉症の子どもへの支援」「すすめよう!自閉症の子どもへの支援」は、同県教育センターのホームページ(HP)でダウンロードが可能(ページ内「研究成果物」の「平成17年、19年度」から)。

また納富さんが準備委員会委員長を務める「日本特殊教育学会第58回大会」が9月19~21日、今年はコロナ禍のためオンラインで開催される。特別支援教育についてはさまざまな研究が続いており、講演や70を超えるシンポジウムなどで最新の研究を公表。事前に申し込めば約1カ月間、誰でも同学会のHPから視聴できる。参加費は一般1万1千円、大学院生は6千円、大学生は千円。申し込みもHPから、8月31日まで。(編集委員・三宅大介)

21歳ドローンパイロットは弱みを強みに変えた

文字の読めない彼が「好き」から辿り着いた天職
21歳ドローンパイロットは弱みを強みに変えた

2020/08/07 8:00【東洋経済オンライン】

「ドローンパイロット」という職業がある。「無人航空機」「マルチコプター(UAV)」などとも呼ばれ、人を乗せず、ラジコンヘリのように空を飛ぶ機体を地上から遠隔操作できるマシンが「ドローン」。それを自在に操って映画やドラマ、CM、地方のイベント、観光PRビデオなどで使われる映像のほか、橋や工事現場の安全点検など人には難しい場所の撮影をしたりするのが、ドローンパイロットの主な仕事だ。国際的なドローンのレース大会にレーサーとして出場する場合もある。

そんなドローンパイロットとして活躍する1人の若者がいる。髙梨智樹、21歳。高校時代に「World Drone Prix」と呼ばれるドローンレース大会の日本選考会で優勝、日本代表としてドバイ大会へ駒を進めた。それが転じて、18歳だった高校4年生(定時制)のときに父・髙梨浩昭と一緒に立ち上げたドローン撮影会社「スカイジョブ」を経営する起業家でもある。

「情熱大陸」で特集も
ドローンで狭いところを通ったり、スピードを出したりなどの要望に対して、細やかに応えられる操縦技術が髙梨の持ち味の1つ。空撮の仕事に限らず、ドローンの機体メーカーから開発の助言を求められたり、各所から講演の依頼が来たりなど引っ張りだこだ。昨年6月2日にはMBS(毎日放送)・TBS系で放送されたドキュメンタリー番組「情熱大陸」で髙梨の特集が組まれたほか、大手新聞などからインタビューを受けるなどメディアにも多く露出している。

ドローンパイロットという職業に就いている人は確かに数少ない。父と二人三脚とはいえ、大学に進まず若くして起業し、ちゃんと生計を立てている若者も今どきの日本では希有と言えるだろう。とはいえ、髙梨がここまで注目されている理由はそれだけではなく、彼の生い立ちにもある。8月7日にイースト・プレスから上梓される著書のタイトルが、まさにそれを表している。

『文字の読めないパイロット 識字障害の僕がドローンと出会って飛び立つまで』――。

髙梨は知力や言語の発達に遅れはないものの、生まれつき読み書きがうまくできない「識字障害(ディスレクシア/読み書き障害)」だ。最近では一般的になってきた「発達障害」の一種であり、厳密に言えば「学習障害(LD)」の分類の1つである。

文字がどういう意味を持つのかがわからない――。それが髙梨の偽らざる真実だ。例えて言うなら、多くの日本人が韓国語やアラビア語の文章を見たときに、それが韓国語やアラビア語の文字だということがわかっても、何を意味するかはさっぱりだというのと同じ感覚なのかもしれない。

この識字障害は髙梨や両親、関係者を苦悩させた。髙梨は「周期性嘔吐症」という日常生活で急に吐き気が起きて嘔吐してしまう病気も併せ持って、小学校のころは休みがちだったという。

髙梨が小学校に入学した2005年頃は発達障害とはどういうものかという情報や対処法が、教育現場や医療現場ですら浸透していなかった。一般の人だと、なおさら耳にすることが少ない時期だったため、「学習障害」や「識字障害」というものがあることなどわからず、髙梨の両親は、息子に「識字障害」があることに気づくことができなかった。

髙梨の母である髙梨朱実は、息子の著書にこんな手記を寄せている。

「当時の私は、文字の読み書きができない智樹のために、なんとかして字くらいは書けるようにしてあげたいという思いでいっぱいでした。あの手この手で文字を書く機会を作ってみては、『どうしてできないのかな』と悩むばかりでした。識字障害に対して知るのにも、受容するのにもかなりの時間がかかってしまいました」

文字の読み書きができないのは、学校を休みがちで授業に参加できず、努力不足だからだと髙梨は本気で思い込んでいた。しかし、5年生の担任を受け持った教師の冨岡薫は、髙梨の様子を見たとき「識字障害」の可能性を感じた。

読んで説明するとすぐに理解し、忘れない
問題を読んで説明すると髙梨はすぐに理解し、問題処理能力が速く、一度理解したら忘れない。理科のテストでは読み上げの支援をすると100点近い点数を取ることもあった。このとき、冨岡は「彼は決して勉強ができないわけではなく、読み書きの障害があるのかもしれない」と思ったのだという。「障害」という言葉は慎重に扱う必要があるため、その言葉は使わずに、髙梨がどのようにしたら理解できるのかを教師として手探りでいろいろなことを試した。

「人間誰でも何か苦手なことはあるけれど、なにかしらすばらしいものを持っている」。冨岡は髙梨に伝え続けた。

幼い頃から障害を持っていると、親や教師が先回りしていろいろな支援をしてくれるため、ひとりだけだと何もできなくなってしまうという。

顕著な例だと、車椅子の人がエレベーターを使うときに、手の届かないボタンを誰かが押すまでずっと待っていた、ということがある。家族や支援者ではない、周囲にいる人に「手伝ってください」とみずから依頼することで、自立して行動できるようになる。

ひと昔前の障害児教育は、車椅子をこぐのが大変な子に車椅子を動かす訓練をさせたり、視聴障害のある子に聞こえにくい聴力を頼りにした口話法(聞き取り・読和・発語で指導やコミュニケーションをする)を学ばせたりすることに重点がおかれていたが、現在では、電動車椅子を使えば自らの意思で動けて移動にも時間がかからない。手話を使ったほうが学習内容を理解しやすいと言われている。

「できないことを頑張る時間は端折り、便利なものや使いやすいものをどんどん使って、本人に合う学習法を見つけていきました」

髙梨が通った特別支援学校の中学時代の担任を受け持った教師の宝子山尚生は振り返る。視力が弱い人がメガネをかければ大丈夫なように、髙梨の学習はパソコンなどの機器を活用すればハンデを補えることが分かり、「DAISY(デイジー)」という読み上げ教科書や電卓を使うなどして授業を工夫していたという。

文字の読み書きができなくても、パソコンを使うことでわかる。合成音声で読み上げてくれる音声ソフトを使用し、キーボードで文字を打つ。このほうが断然早いし、楽だ――。髙梨はそう思うようになった。

転機は中学3年生のときに訪れる。髙梨は初めて識字障害と診断された。

髙梨が他人に「僕は読み書きすることが難しい」と説明しても、目に見えない障害は、人から理解されにくく、受け入れられにくかった。しかし、それまでは「身体障害」か「精神障害」しかなかったのが、「発達障害」という新たな3つ目の障害があるという認知が広がり、髙梨がその状況にあることを世の中が理解してくれるようになった。

「『手が不自由で書けないのではない』という説明はしやすくなりました。読み書きすることを人並みに頑張れなかったのは、頑張れなかったわけではなく、『自分にはできないことだった』ということだとわかりました。読み書きができないことに理由がちゃんとついたので、診断を受けて本当によかったです。薄々感じていたので、モヤモヤが晴れたという感じですね」

加えて、2016年4月に、「障害者差別禁止法」という法律ができ、合理的配慮が世の中に認められるようになった。髙梨の場合は、例えば駅の窓口で、今までは「代筆はできません」と断られていたのが、「代筆で」と言えば多少嫌な顔をされるぐらいで済むようになった。

読み書きができないからこそ五感が発達
今でこそドローンパイロットという自分に合った仕事を手に入れ、それを突き詰めて生き生きと充実した日々を送れている髙梨。だが、それは「識字障害というハンデを負っていたからこそ」という裏返しの事実もある。

「僕は読み書きができないので、ほかに頼れるものとして五感の感覚が人より発達しているのだと思います」

髙梨は常人からすると考えられないほど、聴覚が鋭敏だ。例えばドローンのプロペラの音を聞いただけでプロペラが少し欠けていることや、肌でプロペラの風を感じることで故障に気づくことがある。髙梨に言わせると「頭の中で地図を描くことができ、あまり道に迷ったりしない」。匂いにも敏感だ。

ドローンは普通の人でも割と誰でも簡単に飛ばせてしまうが、機体の具合を確認しながら微妙な調整をしたり、イレギュラーな状況に対応したりといったことができるのは、髙梨が培ってきたこれらの感覚によるところが大きい。

幼い頃より、何事に対してもこだわりが強く、マイペースで、自分の好きなことや気になることが見つかると、そればかりに没頭してしまう性格であった髙梨は、おもちゃや時計をひとりで勝手に分解してしまう、困った子供だったという。

よく遊んでいたプラレールの電車を改造してオリジナルの乗り物を走らせてみたり、戦車のラジコンを改造してカメラをつけ、2階の自分の部屋から映像を見てリモート操作し、1階にいる母に向けて攻撃ごっこをしたりして遊んでいた。

家にいることが多かった髙梨に、ラジコンを趣味とする父親が「外に出るきっかけとなれば」という思いで、ラジコンヘリに髙梨を誘った。それを機に、もともと空を飛ぶ乗り物が好きだった髙梨は、ラジコンヘリに夢中になった。

父親に連れられラジコンメーカー主催の会に参加したり、YouTubeで国内だけでなく海外の人のラジコン技術を動画で学んだりなど、とことん操作技術を磨いていった。

ラジコンヘリを自在に操れるようになった頃、海外の人がプロペラの4個ついた機体にカメラを載せて、空からの映像を遠隔操作でゴーグルから見ている動画を偶然発見する。それが、ドローンとの出会いだった。

はじめて見た機体に「なんだこれは!僕も空からの景色を見てみたい!」とワクワクした。当時小学校6年生だった髙梨は、海外のウェブサイトからドローン機材を購入した際も、親の許可を得るため、なぜ海外で購入しなければならないのか、海外の輸入サイトの信憑性や安全性について、購入する機材は電波法などの法律に対して違法性がないかなどをしっかりと説明できるように準備し、ドローンの購入を交渉したという。

まるで自分がパイロットになって飛ぶように
髙梨はもともとパイロットになりたいという夢を持っていた。ドローンにカメラをつけて飛ばすと、まるで自分がパイロットになって飛んでいるかのような目線になる。日常生活をしていて上下前後左右に自在に動くことはできないが、そんな3次元的な動きがドローンでは可能だ。そして、疑似体験とはいえ自分が「飛ぶ」ということにワクワクした。それも上空1万メートルを超えるような「空」を飛びたいわけではなく、地上500メートルぐらいまでの地上の景色が見える高さに惹かれるようになった。ドローンパイロット・髙梨智樹の誕生だ。

徐々にヘリコプターの種類や仕組みについても興味を持ち始め、工学的なものを勉強するようになる。そして高校2年生からはドローンのレースに出場するようになる。初めての大会で4位に入賞。はじめてテレビの取材を受けた。その後、世界大会にも進んだ。

幼い頃から身体が弱く、スポーツや走ることが得意でなかったため、運動会などの競技で勝ちたいと思ったことがなかった髙梨は、ドローンレース大会に出場し日本選考会で優勝したことをきっかけに、初めて競い合うことは楽しいと思うことができた。

本を読む習慣がなかった髙梨は、インターネットの情報の他にも人に質問をすることで、自分が知りたい情報を得ていた。ドローンのレースをするにあたっても、無線のことや精密機器などに関して、髙梨は世界のプロフェッショナルに直接アドバイスを受けていた。

ドローンパイロットにはカメラを操縦する技術だけでなく、カメラマンとして映像を撮るセンスや、空撮ならではのセンスも必要になってくる。

髙梨はカメラワークを学ぶため、映画やCMをたくさん観た。映画は、プロの監督が満足のいくものをギュッと詰め込んでいる。ただ単に映画を観るだけでなく、作り手の目線になって映画を観ることで、「こういう撮り方をするとこういう表現ができるんだ」と学ぶ。

特に印象に残っているのは、子供が泥棒を撃退する映画「ホーム・アローン」の空撮シーン。少年が空港からタクシーに乗って移動するシーンで、遠くから大きな吊橋を空撮するが、タクシーの窓から子どもが顔を出しているところまでギューッとカメラが寄っていく映像がワンカットで収められている。わざわざ近づくのも危ないし、技術的にも難しい。その技術や挑戦する内容、表現方法に感動した。

楽しかったから続けて来たことが生業に
純粋にドローンに興味を持ち、楽しかったから続けてきたことが、いつのまにか生業となった。家族や教師、友人、ドローン仲間など、誰もが髙梨を応援したくなるのは、髙梨のまっすぐな人柄があってこそだろう。

髙梨が高校に進んだのはもともと大学に進学するためだった。同世代で大学に通っている人たちを見たり、接したりすると正直揺れる気持ちもなくはないが、日進月歩のドローンの世界は大学や専門機関で学ぶよりも早く現場に出たほうがいいと、起業を決めた。

最近では一般の人が手軽にドローンを手に入れて空撮動画をネット上にアップするようになってきた。テレビの制作現場では、簡単な空撮なら制作スタッフがみずから撮影できるようになってもきている。将来的にはAIがドローンを飛ばす日が来るかもしれない。

髙梨が得たドローンパイロットは、今後もずっと安泰な職業ではない。だが、髙梨自身が今後を見通しているように、ドローンの修理やレクチャーをする講師、あるいはドローンの開発など、好きなドローンにまつわる仕事はいろいろと考えられる。たとえ、ドローンパイロットで食えなくなっても、そうした時代の変化を乗り越えて次の居場所を見つけていくのが、髙梨の将来的な課題となるだろう。

髙梨は言う。

「識字障害であっても早期に気がつき、環境を整えるなどの対処をすれば、生きづらさを解消することがきっとできます。誰でも楽しく輝いて生きることができるし、その権利を持っているのです」

髙梨がテレビで識字障害をカミングアウトしたことで、多くの反響があったと父の髙梨浩昭は息子の著書に手記を寄せている。

「『うちの子もそうです』という保護者の方や『子供の頃私も字が読めなくて大変だった』という話もいただきました。今では発達障害に対する支援もだいぶ厚くなってきたと聞きます。『障害』には程度の差があり、とてもデリケートな問題なので一概には言い切れないかもしれませんが、早い段階から周囲の支援を受けることができれば、障害を持っている方も、生きやすくなるのかもしれません。

テクノロジーも発達し、『障害』を持っている方の手助けになるツールもたくさん出てきました。そのようなツールを活用するのも1つの手段だと思っています。いわゆる『普通』の生き方が向いてなくても、ほかにいくらでも生きる方法はあるということに、私たちは智樹と生きる中で気づかされました」。

「こうやって生きることが正しい」というように、正解が1つに絞られるのではなく、ひとりひとりに、いろんな正解があるのだろう。

できないことはやらなくていい
障害を持つ人だけに限らず、誰もが苦手なことと得意なことがある。人は「自分が苦手なもの」にとらわれてしまいがちだが、これはもったいないことだと髙梨は語る。

「できないことに時間を使うよりも、得意なことに時間を割くほうが有意義だと思います。『苦手なものをできるようにしなければいけない』と思う人は、もしかしたら『みんなができるんだから、自分も同じようにならなければ』と周囲の人と自分を比べすぎなのかもしれません。気楽に考えて、『できないことはやらなくていい、できることを伸ばせばいい』と思えば、きっといい人生が送れるのではないでしょうか。死ぬほど生きるのがつらくても、そのエネルギーを仕事や好きなことに注ぐと、すごいエネルギーになると思います」

苦手なことに悩むよりも、好きなことを突き詰めていくほうが人生の可能性は広がっていく。髙梨智樹は身を持ってそれを体現している。