今日の活動
「分かりやすすぎてダメなんやな」
小学生グループで最近取り組んでいる遊びの一つが「Dixit(ディクシット)」というゲームです。ディクシットは有名な対戦型のボードゲームで、様々な(多くは象徴的な)絵が描かれたカードを使います。プレイヤーは順番に出題者になり、自分の手札からカードを1枚選んで、その絵を言葉で表現します。他の人は全員回答者になり、それぞれがその言葉にふさわしいと思ったカードを出した後、それらのカードが混ざった中から出題者が出したカードを当てるというゲームです。
このとき、回答者が誰もカードを当てられなかったら出題者に得点が入らないのは分かりやすいのですが、このゲームの面白いところは、回答者全員が出題者のカードを当ててしまったときも、出題者に得点が入らないということです。そのため出題者は、全員にはわからないような、でも誰かは分かるような言葉を言うことがポイントになります。
もともと小学生グループの子どもの中には、言葉で表現することが課題の子が少なくありません。そこで、ルールがある中(設定遊びやボードゲームなど)で、言葉で表現することに取り組んできました。「ある/ない」や「本当/うそ」といった0/100の表現が少しずつ言えるようになってきたところで、次の課題として、その間の表現が求められるディクシットに取り組み始めました。
先日初めて取り組んだグループは、最初の説明で「頭から光が出ているっていう説明は分かりやすすぎてダメなんやな」と理解を示し、スタートしました。「人」や「水しぶき」といったイラストそのものを単語で表現することも多く全員から当てられてしまうこともありましたが、全員にはわからないよう、背景を見て「オレンジ」と表現するなど、工夫して言葉にすることにチャレンジする姿も見られました。出題することもですが、回答するときも身を乗り出して絵カードを見比べるなど、とても楽しみながら子どもそれぞれが表現したり友だちの表現を理解しようと取り組みました。終わった後、「楽しかった!またやりたい」と振り返った子どもたち。ディクシットや他の取り組みをする中で、0/100だけでなく、間の表現をすることにもチャレンジしていき、表現力を少しずつつけていきたいと思います。
がい数の意味
算数と数学の違いでよく聞かれるのが、「算数は実生活で使うものが多い」ことです。その一つが、およその数、『がい数』です。がい数は小学校4年生で習います。新聞やニュースで面積や人口を見る時は、たいていがおよその数で表されています。また買い物に行く前に、買うものの値段と財布に入っている金額を、およその計算で比べる人も少なくないでしょう。
がい数を求めることに必要な作業が四捨五入です。「6400や6700はだいたい何千?」と聞かれた時に、感覚で分かっている人はすぐに答えることができるでしょう。先日じゃんぷで、がい数の予習に取り組んだ子も「6000」「7000」とすぐに分かりました。どうして?と聞かれると、「近いから」と答えました。この『近い』という表現になかなか納得できない子もいるかもしれません。教科書に書かれているように数直線で見ると、「確かに近いな…」と納得できるでしょうか。実のところ、この『がい数』は、ひき算わり算や分数小数などと同様に、子どもにとって混乱しやすい内容です。四捨五入の作業ができ、がい算(がい数の計算)ができるようになっても、がい数の意味を理解したり意味やよさ(実生活での有効性)に気付いたりできないままということもあります。その子に合わせた分かりやすい方法で学んでいく必要があります。
『がい数』の学習で子どもが混乱しやすいポイントの一つが、『〇の位までのがい数』や『上から□けたのがい数』という表現です。これを見て、〇の位や上から□けたの数を四捨五入してしまうことがあります。求める位の一個下を四捨五入すると教わりますが、このとき、求める位の数の後に縦線を引き、次の数を四捨五入することを、線を引く操作と関連付けて覚えることが効果的な子もいます。がい数にしたあとに、〇の位や上から□けたが0になっていないかという確認も有効かもしれません。「9900→10000」などの例外もありますが…。
ところで、この『がい数』の課題を準備するときに、職員の間で話題になったことがあります。文章題でがい算(がい数の計算)の答えは『約』をつけて答えるのに、がい数を求める問題は答えに『約』が付いていないのです。調べてみると、東京書籍のQ&Aに次のようなことが書かれていました。
答えが概数であるかが明確になっていない場合は、答えに「約」をつける必要性が高いと考えますが、(中略)問題文で「がい数にしましょう」と概数で答えることが明確な場合は、答えに「約」をつけていません。それは、概数で答える数に必ず「約」をつけますと、概数を答える問題では必ず「約」をつけなければいけないという誤解や、「約」がついていない数は概数でないという誤解を生む恐れがあるからです。
(【東京書籍】 会社案内 お問い合わせ よくあるご質問Q&A 教科書・図書教材:小学校 算数 (tokyo-shoseki.co.jp))
問題文に「約何万円になりましたか」や「がい数で答えなさい」など、しっかりと書かれていれば、解く子どもも分かりやすいですが、あいまいな問題もあります。教える大人ががい数の意味をしっかり理解して、教えていきたいと思います。
「○○くんたちと遊びたい!」
「男の子たちと遊びたい!」支援学校小学部のJさんが、少し前までよく職員に伝えていた言葉です。Jさんは下校時間の違いもあり、支援学校の友だちとよく公園に行っていました。以前はブランコや砂場での一人遊びが多かったのですが、たまたまお出かけ先が一緒だった小学校グループの子どもたちがやってくると、職員の誘いもあり、少しずつ一緒に遊ぶようになってきました。
そして去年の冬くらいから、自分から小学校グループの友だちと遊びたいと職員に伝えるようになりました。ちょうどコミュニケーションの課題として、要求することに取り組んでいたJさん。自分からしたいことを伝えられたことを褒め、小学校グループの友だちとの活動を増やしていきました。
次の課題は、要求が叶わないときへの対応です。何も支援がないと、Jさんは友だちと遊べないからと大声で叫ぶなどパニックになってしまいます。そこでトークンエコノミーシステムも関連付けた、一週間の予定表を提示することにしました。曜日ごとで、支援学校の友だちと遊ぶ日、小学校グループの友だちと遊ぶ日を提示し、それぞれ友だちと遊べた時はシールを貼るようにしました。また支援学校の友だちと遊ぶときは、たいてい2つのグループがあるので、どちらのグループと一緒に遊ぶかを、視覚的な枠を提示して、自分で選んで貼るようにしました。
最初は大声で叫ぶこともあったJさんですが、予定表の意味が分かるようになり、今では落ち着いて切り替えられるようになりました。支援学校の友だちと遊ぶ時間、小学校グループの友だちと遊ぶ時間、それぞれで自分の課題に取り組んでいます。最近は小学校グループの友だちと一緒のタイミングで「宿題する!」と職員に伝え、学習プリントにも取り組むようになりました。普段は会わない友だちですが、放課後に一緒に過ごす中で、様々な良い影響を受けています。放課後等デイサービスだからこそできる、支援の形の一つだと実感します。
手指を使うボードゲーム
すてっぷやじゃんぷで取り組むボードゲームは、みんなで楽しく遊ぶことが第一目的ですが、第二以降の目的も持って、職員が課題設定しています。その日の集団や、一人一人が支援計画の目標を達成できることを考え、それに合わせたボードゲームを準備します。その狙いの一つが「手指を使うこと」です。
手指を使うことが課題の子どもは少なくありません。工作や調理など、手指を使うことに取り組むこともありますが、子どもの多くは学校など他の場所ですでに体験しています。「またやってみたい」と思っている子であれば、スムーズに取り組みますが、中には失敗経験から苦手意識を持ち、「やりたくない」と最初から取り組めない子もいます。
そこで楽しく遊べるボードゲームをする中で、手指を使うことにチャレンジすることがあります。「キャプテン・リノ」もその一つです。「キャプテン・リノ」は有名な対戦型のゲームで、長くても15分ほどで1ゲームが終わります。一人ずつ手札を持ってスタートし、順番に厚紙を二つ折りにした壁を設置していきます。そして同じく厚紙でできている手札のカードから一枚選んで、それを壁の上に設置して次の人に順番を回します。すると厚紙のタワーが次々と積まれていくことになります。どんどん高くなっていけば、次第に手札が少なくなっていき、一番初めに手札が0になった人が勝利です。ですが誰かが倒してしまうとその時点で終了、倒した人が負けになるというゲームです。
先日も初めて取り組む子ばかりの中、この「キャプテン・リノ」にチャレンジしました。初めは慣れない中、また本人の持つ不器用さのためか、ポンと壁のカードを置き、タワーがぐらつく場面が続きました。しかしタワーが高くなるにつれ、緊張感も高まり、手指を慎重に使ってそっと置くようになっていきます。最後はタワーが倒れて終了しましたが、2順ほど順番が回り、7段まで積むことが出来ました。このときは時間がなく次のゲームに移りましたが、慣れてくると積み方も上手になり、タワーがどんどん高くなります。また手札には自分が得したり相手が損したりする効果があるカードがあります。相手を意識した駆け引きが生まれてくると、もっとおもしろくなってきます。またチャレンジしてみたいと思います。
「ぼく、卒業しようかな」
放課後等デイサービスに通い始める小学生の中には、失敗経験を繰り返してきた子どもが少なくありません。すてっぷに来た小学生のIくんも「ぼくはコミュニケーション障害があるからすてっぷに来てる。」と受け止めていました。
すてっぷに来た頃のIくんは、自分本位の言動がよく見られました。その言動から、友だちから反感を受けてしまい衝突することが毎日のようにありました。また集団遊びをするときも、Iくんは「(友だちが提案した○○は)ぼくは絶対にしない。嫌だ!」と強い拒否感を示し、泣きだして怒ることもありました。
そこでまずは、Iくんが集団で一緒に遊べる経験を増やしていきました。そのために、「どういうルールならできるの?」、「何分(何回)だけしてみよう。」、「後でIくんのしたい遊びもするから、まずはこれをチャレンジしてみよう。」など、職員から声を掛け、交渉することを続けました。また上級生の友だちにも働きかけ、Iくんが友だちと交渉する機会を増やしました。次第にIくんは、「おにごっこしようよ。」と誘われると、「僕がおに役なると誰も捕まえられないから嫌だ。したくない。」と答えるなど、理由を言えるようになっていきました。職員が、「じゃあおに役が固定のおにごっこやおに役が増えるおにごっこは?」などと交渉し取り組みを続けていると、同じような状況になったときに職員がいなくても、上級生の友だちが、Iくんに同じように交渉し、子ども達だけで集団遊びを作ることが出来てきました。すると、Iくんからも「じゃあ、けいどろならいいよ。ふえおには絶対嫌だけど。」など自分から交渉することが出来たのです!。
最近のIくんといえば、上級生のお友達と何して遊ぶかを相談・交渉するだけでなく、同級生の友だちと遊ぶ時に「○○君は何して遊びたい?」と尋ねたり、年下の友だちと遊ぶ時には、「○○君と○○ちゃんはおに役になったらタッチするの大変だろうから、あの二人はタッチ返しありにしようよ。僕たちはタッチ返しなしのルールのままでいいから。」など提案したりするなど、どの友だちとも交渉したり配慮したりできるようになりました。1年半前と比べると、穏やかに遊んで過ごせる日がとても多くなりました。
先日、Iくんがふと言いました。「ぼく、来年、すてっぷ卒業しようかな。すてっぷに来た時は、コミュニケーション障害あったけど、もうなくなったと思う。」 職員が、「Iくん、みんなと仲良く遊べてるもんね。」と言うと、Iくんは、「うん!」と言いました。実際には卒業までの課題がまだあると職員は考えていますが、少なくともIくんの中で、これまでの失敗経験を超える数の成功体験を積めたのだと思います。