今日の活動
スケジュールの前に教えるべきこと
スケジュールの支援10/6 のところでも書きましたが、スケジュールの理解はPECSではフェーズ3bだと書きました。スケジュール理解は「義務と報酬」の関係の理解が基本とも説明しましたが、もう少しわかりやすい説明がいると言われていますので、書き加えたいと思います。
生活に沿わせようとして、親切心でスケジュールを導入しても、かえって混乱する子どもがいます。新入所・入学の時期、療育教室や支援学校や学級の教室の個別スケジュールエリアに貼るスケジュールカードは、最初は次の場所に移動する1枚から慎重に進めていく事が必要です。
スケジュールカードの手順は、貼ってある絵カードを「これからやることスペース」に貼り付けるか、やるべき事を忘れそうな子どもなら行くべき場所(机等)に移動して貼り付け、終わればそのカードを剥がして持って戻り「おしまいボックス」に片付けます。(「スケジュールボードに戻る」というトランジションカードは「戻りなさい」と言う言葉の代わりのキューに過ぎず、フェイディング方法がなく、子どもにも支援者にもスケジュールの意味(自立性)を形骸化させ、結果的にプロンプト依存を強化しているように思います。)
もちろん初めてスケジュールを見る子どもの中には、一目スケジュールを見れば一日の流れを理解する子もいます。しかし、ASDの子どもは対人相互性の理解やコミュニケーションに課題を持っているので、このスケジュールの意味に大人との契約だという事は理解できていないのです。こうした子どもは、嫌なスケジュールを落としたり、投げたりします。
これは、スタッフに「嫌」を訴えたいからではありません。カードが無くなればやらなくていいと理解するからで、要求や交渉のコミュニケーションの存在を知らないからです。つまり、スケジュールを不適切に扱う子は、表出のコミュニケーションレベルがとても低いと考えるべきで、まずはそのレベルに合わせて取り組む必要があるのです。
絵カードの不適切な扱いの後でスケジュールボード上で交渉をする人もいますが、子どもによっては不適切に絵カードを扱えば嫌いなカードがなくなった・後回しになったという学習にならないかどうかの注意が必要です。
世間では、構造化支援=スケジュール提示と思われがちですが、その子の表出コミュニケーションレベルに合った、契約・交渉のトレーニングが必要です。それがスケジュール2枚提示の場合もあれば、1枚絵カード指示のこともあるし、それと並行して表出のコミュニケーショントレーニングに取り組まれなければ、大人と子どもの関係はちぐはぐなままとなります。
ビギナー支援者は支援グッズの意味を考えずに先輩の支援の真似をしがちですが、スケジュールよりも先に教えるべき表出のコミュニケーションの課題がないか、良く考えてから支援する事が重要です。
好きなものがあることはいいこと
先日の懇談会で、T君が習い事を嫌がるので困ったという相談を受けました。T君の欲しいものがあるか聞くとゲームが欲しいとのことでした。それではゲーム機やゲームソフトをご褒美にして習い事に通わせてはどうかとお話ししました。
すると、ゲームを与えてしまうとやめなくなってかえって家の中の親子の争いごとが増えそうで気が進まないとのことでした。ゲーム時間親子摩擦事象は、大抵の家庭で日常茶飯に生じている問題ですから、世界中で沢山の解決アイデア事例が蓄積されています。また、ゲームをするためにお手伝いをしたり、勉強をしたり親が仕向けることが、物を与えないと行動しない即物的で自制の効かない人になってしまわないか心配だという保護者の気持ちもよくわかります。でも、「ご褒美子育て」を貫いたから、即物的で自制の効かない人になったという例は見た事がないです。
むしろ、幼少期に必要以上の我慢を強いられたり、親の気分で一貫性のない物の与え方をされて、大きくなってから自制が効かず、いろいろ問題を抱えている人の方が目につきます。欲しいものを与えることは悪いことではありません。約束を守れば報いはあるということを小さな時期からしっかり教えることが人への信頼感や自尊心を育てると思います。特に相手の気持ちを推し量ることが苦手な子どもたちには、目に見えるものが大事なように思います。思いやる気持ちは褒められた経験から育ちます。
私たちが困ってしまうのは、好きなものが見つからない、やりたいことが見つからない人です。元気な人をコントロールすることは容易ですが、欲しいものやりたい事が見つからない人の行動変容はとても難しいです。ゲームにしろガンプラ(「機動戦士ガンダム」のシリーズに登場するモビルスーツ、モビルアーマーと呼ばれるロボットや戦艦などを立体化したプラモデルのこと)にせよ、子どもに欲しいものが沢山あることは、子育て上、とてもラッキーなことだと考えると、色々なアイデアが湧いてくると思います。
初めてを、楽に
新事業所じゃんぷ、開設して10日程が経ちました。ありがたいことに、ポツポツと見学希望等いただいています。
学びの広場じゃんぷは、児童発達支援(療育)と放課後等デイサービスの多機能型ですが、今日は放デイの見学がありました。見学と言っても、まだ実際の場面を見ていただくことはできませんから、見学者自身に少し体験してもらえるような活動を用意しました。
スタッフ側も、楽しんでもらえるかな?じゃんぷを好きになってくれるかな?とドキドキで迎えますが、お子さんも初めての場所でドキドキしていると思います。発達障害の特性をお持ちの場合、『初めて』が苦手な方も多いので。折しも今日は朝から続く雨。雨や濡れることが嫌いなお子さんもいらっしゃるので、あまり初日には向かない天候…。
今回は字が読めるタイプの方でしたので、プリントしたスケジュールと、Ipadにダウンロードしたタイマーアプリを用意しました。
本来、時間的見通しや切り替えを支援するためのツールですが、お子さんとのかかわりの中では、大人と子どもの共通理解や交渉を助けるコミュニケーション支援にもなっていることを実感します。
「○○したら△△できるよ」と口約束でなく、はっきりと書いてある予定。「もうおしまい」でなく、『あと○分』と自分で確認できる見通し。情報を、ズレなく、双方がわかるかたちで共有することが、まず余計な混乱や、相手への不信を減らします。要求や拒否を上手く、程よく伝えることが苦手なお子さんとの初めての交渉を穏やかにし、お子さんの希望をスタッフが把握しやすくなります。
活動の最後に感想を聞くと、笑顔で「楽しかった!」と嬉しいコメント。スケジュールはやりとりの書き込みでいっぱいでした。楽しくて、まだ遊びを終わりたくない一幕もありましたが、スタッフが「じゃああと何分する?」と聞く前に「10分!」と交渉開始。素晴らしい!
少し予定時間を過ぎていたので、お互いの折り合いで、『5分』にタイマーをセット。タイマーアプリ、アラーム音が涼やかで耳に優しく、『おしまい』と文字も出るスグレモノです。スタッフとハイタッチをして帰っていかれました。
スタッフ支援
Sさん担当のスタッフがSさんの不適切行動に手を焼いていました。外に出ると逃げる。部屋の中にいると本棚から本を落として散らかす。注意をするとドアを蹴って大声を出す。「どうしてそんなことするの!」「そんなことしていいと思っているの!」と言いつつも、Sちゃんの後追いでスタッフは途方の暮れています。
「スタッフさん交代してあげて」とベテランのスタッフさんに交代してもらいました。ベテランのスタッフさんは、先手必勝です。遊びに誘い込んで主導権を取るのです。今まで不適切な行動しかしていなかったSさんは、ニコニコして安心して遊んでいます。「(私には)難しいですね」と先ほどのスタッフさんが言いました。
放デイはパートスタッフさんにも来てもらっているので、様々なキャリアの方がいます。皆さん福祉畑や教育畑でのベテランさんが多いです。ただ、「見守り」の考え方は子どもの場合意味が違うことが多いです。子どもは何をしていいかわからないときは、Sさんのように大人を巻き込んでくることがあります。それを、遊んでほしいサインとして受け止め遊びを教えてあげると、安心する場合が多いです。保育・教育畑ではよく知られていることですが、成人や重症心身障害の支援経験者の場合は、経験しないことです。スタッフ支援は忙しい中では丁寧にはできないのですが、OJTでその場で支援していくことが大事だと思います。
フラッシュバック
ASDの人にはフラッシュバックを起こしやすい人がいます。多くは驚いたり、怖いことがあった時の感情や行動がずっと残っていて、何かの拍子に繰り返してしまうのです。厄介なのは、結構困った行動が多いのです。おそらく、きつく怒られたか何かで驚いた経験として行動も一緒に保存されるようです。不適切な行動を起こして怒られて驚いているので、不適切な行動と驚きや不安な気持ちがセットになってフラッシュバックするのです。
Rちゃんは車道に飛び出して車を急停車させたそうです。本人も驚いたのだと思います。その後見通しがなく不安になったり同じシチュエーション(道路が見えると)になると、わざわざ飛び出そうとします。怖かった思い出が危険行動に結びつくのです。言葉がわかるようになってくると認知行動療法やEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)等の心理療法で軽減できるといいます。
従って、年齢が低かったり、言葉が十分に理解できないASDの子どもの場合は予防が大切です。イギリスの自閉症協会の提唱するASDを育てる基本理念の【SPELL】は、Structure=構造化、Positive=肯定的な関わり、Empathy=共感、Low arousal=低興奮・低刺激、Link=連携です。不適切行動も含めフラッシュバックの予防には、この5項目に勝るものはありません。
スケジュールの支援
Qさんがスケジュールに従わないという報告がありました。ただ、最初の頃から気にいらないスケジュールカードがあると自分で外していたといいますから、スケジュールに沿う意味は分かっていなかったのだと思います。
通常スケジュールの理解は、PECSのコミュニケーションレベルでは要求カードが自由に弁別でき、「待って」や「これが終わってから」に従えるフェイズ3bからです。それまでは絵カードに従うことをトークンエコノミーなどを通して「指示に沿う」ことを教えます。実はこの訓練ができていないと、スケジュール絵カードが弁別できても、従うという交渉の意味が理解できない場合があります。従うというのは無条件に大人に従うという意味ではなく、「義務と報酬の契約」があることを理解することです。
そこでもう一度、指導マニュアルの初歩に戻って、絵カード二枚提示で「これをしたら、好きなこれあるよ」を繰り返し丁寧に取り組もうということになりました。スケジュールは対人相互交渉の理解の上に成立するものだというコミュニケーションの基本に立ち戻ってのスタートです。
宿題が多すぎる!
すてっぷを利用している小学生のほとんどが「宿題の量が多い」「苦手な練習が多すぎ」と悲鳴を上げています。また、低学年のうちはいいのですが、高学年になってくると宿題に向かうたびに「できなさ」に向き合わされる辛さが半端ないと訴えています。
理由はほとんどが、言語性ワーキングメモリーの少なさ所以の読み書き障害か、視空間性ワーキングメモリーの少なさ所以の算数障害です。中学年以降からはただ読めるだけでなく、すらすらと読めないと書き写しもしんどくなってきます。他の子どもは読む中で単語の音と意味が短期記憶から長期記憶に保存されるので、それを呼び出してきてどんどん読む速度が速くなりますが、いつまでも拾い読みの人は長期記憶にも単語が保存されないので遅いままです。
算数の速度は事物ファイルシステム・量的イメージシステムという視空間性ワーキングメモリーに左右されます。パッと見て3~4個が認識できるようになると数の分解も可能になります。例えば、7+5の「5」を3と2に分解して10と2という繰上りができそのうちに「5は3と2」などの長期記憶ができるようになります。そうするとすらすらと計算できてしまうのですが、この視空間性ワーキングメモリーが弱いといつまでたっても分解合成で指を使ったりしないと答えが出ないので長期記憶に保存されず他の子どもとどんどん水が開きます。
10ある力を他の子どもは学年が増すにつれ長期記憶が助けるので4か3の力で読んだり計算しているのですが、それがいつまでたっても低学年児と同じように10の力を使うとすれば、量が多くなれば処理できなくなるに決まっています。学習は、練習よりも意味が理解できているかどうかに力点を置いてほしいです。排水量の少ないシンクを思い浮かべて、水は出しすぎないように、どうかよろしくお願いします。
知らんし…
P君が、以前、パソコンで遊ぶ時間はタイマーで決めようとスタッフと約束(契約書)したのにタイマーをかけずに遊んでいました。スタッフから「一緒に約束したことなのに契約違反だよ」と指摘されているのに、P君が「知らんし」と言ったので、「契約書もあるのに、その言い方はないだろう」とスタッフが叱ったという報告がありました。
契約書を作るのは、P君が約束そのものを忘れてしまうので作るのですが、今回のP君の「知らんし」発言は二つの意味があります。「約束を忘れてたのだから、その場面では知らなかった」「契約書を見せられたら、思い出したけど、だからどうしたらいいか知らない(わからない)」ということです。スタッフが思うほど、指摘したスタッフへの挑戦的な気持ちは、P君にはさらさらなかったと思います。
P君に悪意はないと思われるので、叱るのではなくエラー修正でいいと思います。「知らん」というのではなく「忘れてごめんね」「忘れないようにするにはどうしたらいいか一緒に考えてほしい」と言えばいいことを教えることです。併せて、指摘してくれた時に「知らん」というのは相手を誤解させるからNGワードだよと教えればいいと思います。真意を伝えるコミュニケーションは双方難しいものです。
遊びモデルの必要性
Nさんが、O君と水鉄砲遊びをしていました。そのあと水鉄砲のチューブの部分を空に投げる遊びをO君が考えました。「イッセーノーデー、ポイ」遊びです。O君はものすごく高く投げられるし、Nさんも自分のできる範囲で一生懸命投げて、盛り上がりました。
スタッフを入れて3人は飽きるまで投げました。他愛もない遊びですが今日はNさんにとってはO君が遊びのモデルです。大人がちょっと離れると不安になって大声を出して注意喚起するNさんですが、だからといって大人が横にいればそれでいいわけではありません。子ども同士をつなぐ遊び内容と、「ほれ、こんなに面白い」と示す遊びモデルになる子どもが必要です。それを大人が面白がっている図が、子どもの育ちには一番理想的だなぁと思います。
アセスメント・フリー
言葉のないM君が離れたところにいるスタッフの写真を識別して選び、歌絵本の電池を選択したスタッフに入れ替えてほしいと絵本を持ってきたそうです。また、最近作ってもらったポータトーンの絵を識別して、ポータトーンで遊びたいと要求してきたという報告もありました。
絵カードの識別はPECSのフェイズ3です。通常「~ではなく~だ」という力は言葉の出始める1歳半で確実になってくると言われています。また、M君は視力も聴力も中等度の障害を受けているし、食事や排泄、移動も介助が必要です。でもM君は自分の要求物や、行きたい人の写真を識別して自発のコミュニケーションが取れるようになってきました。
PECSは学習理論(ABA)に基づいたものですから、発達段階や障害の状態からできるできないを最初からは判断しません。小麦抜きをグルテン・フリーというように、アセスメント必要なしのPECSはアセスメント・フリーなのです。強化子さえあれば行動変容は可能というコンセプトは、実践の成果が出ない事を、障害や発達の理由にせず、実践のやりかたに原因を求めていく必要を、支援者に教えてくれます。