今日の活動
個別療育型事業所
9月は利用者のモニタリングの時期です。計画した支援計画通りに支援ができたかどうか、その到達と課題を明らかにする会議がたくさん入る時期です。
支援計画に立派なことが書いてあっても、「あれ?こんな支援してないなぁ」ということがよくあります。いくら紙に書いて議論したからといっても、毎日の支援の中ではついついいつも通りの支援を進めてしまうことがあります。これは、生活支援型の療育の弱点です。
毎日対象者を決めて課題に直接迫る個別療育型の支援ではこんなことは起こらないのですが、その分支援に「幅」が出ません。生活型療育と個別型療育をうまく組み合わせていけばいいのですが、一事業所では、スタッフがそんなに器用に立ち振る舞えないのが現状です。
そういう意味で、10月から立ち上がる新事業所の役割と成果に期待が寄せられています。新しい事業所は、個別療育と集団療育が組み合わされています。特に、自分の特性理解や、それに基づく学習方法をスタッフと一緒に考え実践していきます。自分のいいところを伸ばしたいと思っている高学年の小学生から中学生を対象にしています。自学自習のスタイルを作っていくには保護者の方にも協力をお願いすることになります。毎日5名程度の療育を考えています。詳しくはステップまでご連絡ください。
障害観
O君にP君がしつこく乱暴をしたので「だから障害なんや」とO君が吐き捨てた言葉について、スタッフで議論しました。障害は悪いもの、人より劣るものという見方は、言葉で言い聞かせたからと言って本音のところで修正できるものではないなぁという話になりました。
本来、自分の特性である得手不得手への考え方は、家庭や学校で粘り強く取り組んでいくしか方法はありません。算数障害のある子が宿題を電卓でやろうとしたら、それでは苦手なことが治らないと家族に言われ、「やっぱり僕はあほなんや」と嘆いていた話があります。いくら、放デイで「人の力はみな凸凹していて、それが激しい人もいるけど、それは治すのではなく視力の悪い人が眼鏡をかけるように、弱い力を補う工夫が大事で、人と同じように裸眼で努力して見ようとすることではない」と話しても、家や学校で「みんなと同じにできなければ努力したとは言えない」と一蹴されてしまうなら、彼らの優れた力は引き出せません。
でも、考えてみると放デイでも様々な問題を抱えた子が多いので、トラブルが結構起こり子どもらを叱ることが少なくありません。せめて我々が、子どもの優れたところやいいところをいつも言葉にして評価しなければ、O君のように「だから障害なんや」という言葉に打ち勝つことはできないなぁと話し合いました。
ビニールプール
昨日O君の保護者から「昨晩寝てたらエアコンが壊れて熱中症で救急で診てもらいました」と連絡を受けました。もうエアコンがないと京都の夏は越せないようです。
夜中だけでなく、立秋過ぎても昼間の酷暑も激しく、ここは東南アジアか中東かと思わせるくらいの気温で子どもたちはずっと外に出るのをがまんしていました。実はビニールプールの購入は梅雨明けから考えていたのですが、武漢ウィルス予防でご近所の目が気になって自粛をしていたのです。しかし、低学年に一日中部屋の中で過ごせというのも不健康な話なので、遅ればせながらビニールプールを購入しました。
今日も外から嬉しそうな声が聞こえてきます。聞けば、政府は武漢ウィルスを、感染症法上の指定感染症の分類相当の見直しに入るそうです。結核と同じ2類相当からインフルエンザと同じ5類に引き下げる方向だそうです。これまでは、何が何だかわからなかった感染症の実態が、次第に明らかになり適切な予防策になることは良いことです。猛暑はまだまだ続くようなので、水浴びが気兼ねなくできるようになって欲しいと思います。
女子の身だしなみ
Nさんの支援計画の話をしているときに、今後思春期にむけて身だしなみの問題が議題に上がりました。子どもによっては女の子でも身だしなみのことが気にならない人も少なくありません。Nさんも髪は長くしたいと思っているのですが、よく洗えていなかったり、毎日の髪のケアができていないので、スタッフも「長くする前にまず身だしなみを教える必要があるな」と感じていました。
女子の場合、軽度の知的障害があっても障害のない女子と同じように身辺のことが気になることが多いです。しかし、発達障害がある女子の場合、いわゆる「女性らしいふるまい」や、身だしなみや片づけ、人づき合いなどを上手にこなせない場合があります。人から自分がどのように映っているか見えにくいからです。
さらに、第二次性徴によって身体や心の状態が大きく変化しますが、発達障害の子どもにはその変化自体がストレスになります。女性の場合は、月経時に感覚過敏の特性が強まったり、月経前症候群(PMS)の症状が重くなったりする人もいます。精神的にとても傷つきやすい思春期は、日常のちょっとしたつまずきや困難が学校生活への不適応につながることもあります。自分の気持ちを表現することが苦手な発達障害の子どもは、不安やつらさを身体症状として訴える場合があります。
身だしなみの支援策としては、良い例と悪い例が見てわかるイラストや写真などを使って、良い例と悪い例を教えます。身だしなみの整えかたについて、手順表やチェックリストを作成したりします。感覚過敏で、ゆったり服装しかダメな時は、合理的配慮を求めると同時に生徒への理解も進めてもらいます。また、身だしなみに頓着がない時は、行きつけの美容院などを作って、美容師さんを権威のあるプロフェッショナルとして紹介し、トレンド情報などを教えてもらうのも一つの方法として考えられます。
発達障害女子については国立障害者リハビリテーションセンターから簡単なリーフレットが作成されているのでお読みください。
学校お迎えでのおねがい
Nさん、学校のお迎えの時に見通しが持てなかったのか先生の気を引きたかったかのかわからないけど昇降口で座り込んで動こうとしません。しばらくスタッフ待ったのですが、他の子どもを長時間待たせるわけにもいかず、抱え上げて送迎車に運ぶことになりました。そのあとは本人は何事もなかったかのように事業所についたのですが、あまり勧められた支援ではないなと言う話になりました。
学校でもスクールバスに乗せるまでは担任の仕事であるように、放デイの送迎車に誘導するまでは先生方にお願いしたいのです。もちろん、ほとんどの子どもは自分ですすんで送迎車に乗り込んでくるのでスタッフはそれをサポートしています。ただ、不安が強かったり切り替えが苦手な子どもも少数ですがいます。こういう子どもは、それまでの経過がよくわかっている先生方にお願いしたいのです。子どもの身体が小さければ実力行使も可能ですが、こういう子どもこそ思春期に差し掛かって体力もついてくると今度は子どもの側からの実力行使が始まります。
自立心が高まって来る時は大人の一つ一つの指示が気に入らなくなり反発します。その時は「どの靴はいていくの?」等と選択をさせると嘘のように自分で移動できます。なんでもお兄ちゃんのようにできるようになりたいけど「できないかもしれない」という不安が起こる時期では、斜めに構えてなかなか挑戦しようとしません。そんなときは、まずできたことを褒めます。昇降口ではつまづいているけど教室からは一人で来た事をえらいえらいと評価します。あとは、本人次第となりますが決して人と比べてはいけません。やるべきことは分かっているのですから。
それから、障害特性から次の見通しを「消失」することがあるということを念頭に置くことです。せっかく意気揚々と教室からは今日は放デイだと思ってきたけど、昇降口の喧騒で記憶がなくなって、いつもの「スクールバス」に置き換わっている子が少なくありません。そうなると、「何故あなた方は私を放デイに拉致るの?」と誤解します。ワーキングメモリーへの保存が心配な子どもには、自分で本日のお迎えコース写真を自分で選んで昇降口まで運んでスタッフに渡します。そうなると「ご乗車ありがとうございます」とご機嫌の放課後が始まるのです。どうぞよろしくお願いします。
分離不安
昨日は始業式時期のストレスの高さを書きましたが、女子によくみられる分離不安もこの時期に顕在化しやすいです。低学年のKさんも、登校渋りがあり、あれこれ理由をあげるときりがないのですが、不安が大変高いのでちょっとしたトラブルでも行き渋りの原因になります。大人は「また、あとから理由をつけている」と思いがちなのですが、それほど不安なのだという理解が大切です。
発達障害の子どもにおいて、母子分離不安の特徴が見られることがあります。発達障害の子どもは対人関係のあり方が偏っていたリ、ものの捉え方が異なったりするため、障害のない子どもに比べて、極度な不安を感じることがあるからです。
母子分離不安は発達障害の中でも、ASD(自閉スぺクトラム症)の子どもに多いと言われています。ASDのある子どもにおける母子分離不安は、一言で言うと対人関係上の特性が原因です。ASDのある場合、親がいなくても平気という親子関係の希薄さを示す子どもがいる一方、子どもによっては極めて強い不安感を抱き、他の子どもがいるのを嫌ったり、ひと時も母親から離れられないといった神経質、過敏傾向も示す場合もあります。
母子分離不安の対処法は、発達障害が関連していようとそうでなかろうと変わりはありません。信頼でき愛着のある大人がそばにいてやさしい言葉をかけて、子どもの不安を軽減させることです。信頼できる大人との安心した関係を確保したあと、不安を感じにくくするような治療法(リラクゼーションスキル・自律訓練法等)を取り入れます。
母子分離不安が表れたからと言って、すぐさま発達障害だということではありません。母子分離不安そのものは病気ではなく、多くは「一時的に心配ごとがある」というサインだからです。母子分離不安の特徴だけでなく、子どもに他にどんな特徴が見られるのかも把握するようにします。
自立を始めた子どもには母子分離不安が生じます。親から離れ出すと誰もが不安になるものです。そうした、発達過程で生じる正常な母子分離不安も少なくありません。子どもの母子分離不安がどのようなものなのか、どう対処すべきなのか、しっかりコミュニケーションをとって把握します。。
また、甘えだと思って厳しく叱ってしまうのではなく、子どもを認めてあげ、一緒になって不安を取り除いていくことで改善することができます。子どもは安心することで、自立できるようになります。
一方で治療を要する母子分離不安もあります。分離不安のために親子の日常生活が困難であったり、就学期を迎えても不安のために学校に通えない日が続いたりするなど、症状の程度によっては医療や専門家のサポートが必要となる場合もあります。その場合、特別支援に詳しいスクールカウンセラーなどに相談してください。
2学期始業
今日は、支援学校と京都市で2学期始業式です。M君宅から「今日はもう疲れてしまったようで、お昼から放デイ行けないみたいです」と連絡がありました。短い夏季休業でも、子どもによっては、家庭生活から学校生活への切り替え時期は、ストレスが極限に達する場合もあります。
「友達に会えるから楽しみ」「新しい勉強が楽しみ」という子どもがいる一方で、「教室の喧騒に耐えられるかな」「今日も突然の予定変更でしんどくならないかな」等登校への心配事が少なくない子どももいます。
2学期も平常授業になれば7校時で低学年でも授業時間が15時を越えるそうです。発達障害の子どもたちが心配しているのは、授業時間ではなく、休み時間や当番時間です。構造化されておらずイレギュラーなことが起こりやすいからです。休み時間は短くても図書室に行ったりカームダウンエリアを決めておく方が本人は安心できるようです。
大事なことはエネルギーが枯渇するまで無理をさせるのではなく、早い時期からヘルプが出せるように校内の仕組みを作っておくといいようです。本人はいつヘルプを出せばいいのか何がヘルプなのか分からないことがあるので、決まった時間に相談するように決めておくのがが一番いいようです。今日感じた良いことと気になる事を報告する時間です。何もなくても5分間は話していく約束をします。基本は言語ですが、必要に応じてコミック会話などテキストもコミュニケーションに使うとうまく表現できるようです。
興奮している時は文字でお願いします
J君が「赤いヘッドホンの音が鳴りません」と訴えてきました。「うーん、故障かなぁ、他のヘッドホーンでお願いします」「いやだいやだ赤いヘッドホンじゃなきゃ嫌だ―」とボルテージが上がって暑い狭い部屋の中で叫びだしました。J君は普段はおとなしく穏やかな人なのですが、ひとたび怒り出すと大声絶叫モードになります。
困ったスタッフは、いろいろと赤いヘッドホーンが使えない理由をJ君に説明するのですが、要は使えないと言う結論は変わらないし、興奮しているので説明の理解ができないようです。そして、またまた絶叫するという悪循環でスタッフも困り顔です。周囲の仲間もうるさくて迷惑そうにしています。
別のスタッフが付箋に「大きな声を出す人は迷惑なので、帰りは後部座席に座ります。小さな声でお願いします」とJ君との乗車の契約を文字で示しました。すると、一瞬で自分で読んで「小さな声で話します」と小さな声で話しだしました。
子どもが興奮しているときには、あれこれ話して諭すよりも文字にしてあらかじめ契約したことを示して納得してもらうようにしたほうが双方疲れなくていいと思います。ただ、文字で示す時がいつも修羅場と言うのは良くありません。文字が示されたら悪いことが起こると記憶に連合させてしまうからです。普段から文字で説明し、本人にとっていい結果の時にも文字で示しておく必要があります。子どもが怒っている時にはダメージがあっても通じるコミュニケーション手段(ここでは文字)を使います。ただし、「ビジュアルドライブ(視覚優位?支配?)」で書いたように、視覚情報はASDの方には強力な支配力があるので、禁止については多用はしないようにお願いします。
いいところを応援する服薬
最近、小学生のH君やらI君が支援学校から来ている利用者の障害について気になってよくスタッフに質問してきます。裏返せば、自分にも同じような障害があるだろうかという気づきです。質問されたスタッフはできない事だけを述べるのではなく、できることも得意な事もあるということを説明するようにしています。
コンサータ等の服薬機会も気づきのきっかけになります。服薬をしている利用者は少なくありませんが、その服薬がなんのために必要で、いつまで必要なのか、どうなれば必要なくなるのか、その年齢に応じて正しく理解している子どもは多くないと思います。最近の医師の中には保護者にだけでなく子どもにも理解が得られるように説明する医師もいますが多くはありません。保護者ですら、「お医者さんが早口で説明されたけどよくわからない」という人も多いです。発達障害対応の服薬については、まず保護者と当事者が服薬の目的を正しく理解をすることが大事です。
服薬は、生活がしやすくなったという実感を子どもが持てるようにします。その実感を掴んだ上で、生活や勉強がしやすくなるには、お薬だけの力ではなく自分の力でもだんだん解決できる方法を学ぶことなのです。発達障害のお薬は「飲んだらおしまい」ではないのです。むしろ、「飲むことから始まる」のです。
落ち着きがないと、自分を振り返ることも一苦労する子どもたちだからこそ、服薬してじっくり振り返る機会を作る事も服薬のねらいです。やがて自分のことが自分で分かるようになってくれば、「今は集中のコツをつかんだので服薬は必要ないけど、試験の前は必要かも」などと医師と相談できるようになることが大事です。周囲の大人がすべきことは子どもの状態を見て服薬量が多い少ないという事だけでなく、子どもが自分で自分の状態がモニタリングできるようになることを支援することなのです。
学校や事業所の関係者が適切な協力ができるようにするには、保護者の服薬への理解と見通しが何より必要です。子どもは服薬することで「僕は病気だ」と誤解したり、「障害をなくすために服薬している」と誤解していることもあります。そんな子どもには「君のいいところを応援するために服薬は大事なんだ」と説明していくことも重要となります。
PECSのフェイズ2の重要性
京都PECSサークルでマニュアルの読書会がリモートで毎週行われています。会員の中には保護者の方も多く参加されて毎回20名弱の人数で90分ほどかけて開催されています。
昨日は、フェイズ2の箇所の読み合わせをしました。フェイズ1はプロンプターが要求動作の介助をしながら絵カードをコミュニケーター(カードを受け取ってほしいものをあげる人)に渡せば目の前の欲しいものがもらえることを教えます。それができるとフェイズ2は、コミュニケーターが距離をあけて遠くにいても要求カードが渡せるようにします。
子どもは、このフェーズは比較的早く理解してくれるので、私たちは次の要求カードの弁別=フェーズ3aにすぐに進もうとしがちです。しかしマニュアルには延々とトレーニングの深化を行うようにスタッフ・パーティーやお友達とのPECSタイムに取り組むように勧めているのに気が付きました。実はここがピラミッドアプローチ(PECS開発者の教育コンセプト)の神髄ともいえるところなのです。
PECSマニュアルは自閉症の子どもたちがそんなに簡単に機能的コミュニケーションが理解できるわけがないという前提で作られているのです。そして、一人として同じ子はいないのだから同じやり方や同じ時間で同じものが獲得できるはずがないという前提で作られているから、あんなに分厚い冊子になってしまったと思います。
フェイズ2はいつでもどこでも誰とでも「要求」カードが使えて合格なのです。すなわち学校でも自宅でもお友達の家でも、できればお隣さんでも使えることが重要なのです。私たちは、ついついコストパフォーマンスからコミュニケーターとプロンプターに大人を2名も使ったんだからと「厚い手をかけた」と思いがちです。違います。フェイズ2はさらに大人がスタッフ・パーティーを演出して楽しそうに本人が欲しがるものを大人同士でやり取りして本人が要求カードを出すように仕向けなさいと書いています。少なくともあと一人大人がいります。次に子どもも呼んできててスナック(おやつ)タイムやらホビー(おもちゃ)タイムやらを本人の目の前でやって本人も要求カードを出すように仕向けましょうと書いてあります。それを参加する子どもに説明する大人やらガイドする大人がもう一名必要です。
そんなこんなで、フェイズ2は子ども1人に対して3~4名のスタッフが必要になります。それだけ人的コストをつぎ込むのは、単なる訓練場面だけでは子どもは理解しないよ、楽しい場面をナチュラルな生活場面を人工的に作り出して、カードの弁別なんてまだまだできなくていいから、「ねぇねぇ、それちょうだいよ!」と相手にまとわりついて要求カードを手渡そうとする子どもを育てましょうと言いたいようです。金と時間に糸目をつけてはいけないと…。