すてっぷ・じゃんぷ日記

2023年10月の記事一覧

手指を使うボードゲーム

 すてっぷやじゃんぷで取り組むボードゲームは、みんなで楽しく遊ぶことが第一目的ですが、第二以降の目的も持って、職員が課題設定しています。その日の集団や、一人一人が支援計画の目標を達成できることを考え、それに合わせたボードゲームを準備します。その狙いの一つが「手指を使うこと」です。

 手指を使うことが課題の子どもは少なくありません。工作や調理など、手指を使うことに取り組むこともありますが、子どもの多くは学校など他の場所ですでに体験しています。「またやってみたい」と思っている子であれば、スムーズに取り組みますが、中には失敗経験から苦手意識を持ち、「やりたくない」と最初から取り組めない子もいます。

 そこで楽しく遊べるボードゲームをする中で、手指を使うことにチャレンジすることがあります。「キャプテン・リノ」もその一つです。「キャプテン・リノ」は有名な対戦型のゲームで、長くても15分ほどで1ゲームが終わります。一人ずつ手札を持ってスタートし、順番に厚紙を二つ折りにした壁を設置していきます。そして同じく厚紙でできている手札のカードから一枚選んで、それを壁の上に設置して次の人に順番を回します。すると厚紙のタワーが次々と積まれていくことになります。どんどん高くなっていけば、次第に手札が少なくなっていき、一番初めに手札が0になった人が勝利です。ですが誰かが倒してしまうとその時点で終了、倒した人が負けになるというゲームです。

 先日も初めて取り組む子ばかりの中、この「キャプテン・リノ」にチャレンジしました。初めは慣れない中、また本人の持つ不器用さのためか、ポンと壁のカードを置き、タワーがぐらつく場面が続きました。しかしタワーが高くなるにつれ、緊張感も高まり、手指を慎重に使ってそっと置くようになっていきます。最後はタワーが倒れて終了しましたが、2順ほど順番が回り、7段まで積むことが出来ました。このときは時間がなく次のゲームに移りましたが、慣れてくると積み方も上手になり、タワーがどんどん高くなります。また手札には自分が得したり相手が損したりする効果があるカードがあります。相手を意識した駆け引きが生まれてくると、もっとおもしろくなってきます。またチャレンジしてみたいと思います。

「ぼく、卒業しようかな」

 放課後等デイサービスに通い始める小学生の中には、失敗経験を繰り返してきた子どもが少なくありません。すてっぷに来た小学生のIくんも「ぼくはコミュニケーション障害があるからすてっぷに来てる。」と受け止めていました。

 すてっぷに来た頃のIくんは、自分本位の言動がよく見られました。その言動から、友だちから反感を受けてしまい衝突することが毎日のようにありました。また集団遊びをするときも、Iくんは「(友だちが提案した○○は)ぼくは絶対にしない。嫌だ!」と強い拒否感を示し、泣きだして怒ることもありました。

 そこでまずは、Iくんが集団で一緒に遊べる経験を増やしていきました。そのために、「どういうルールならできるの?」、「何分(何回)だけしてみよう。」、「後でIくんのしたい遊びもするから、まずはこれをチャレンジしてみよう。」など、職員から声を掛け、交渉することを続けました。また上級生の友だちにも働きかけ、Iくんが友だちと交渉する機会を増やしました。次第にIくんは、「おにごっこしようよ。」と誘われると、「僕がおに役なると誰も捕まえられないから嫌だ。したくない。」と答えるなど、理由を言えるようになっていきました。職員が、「じゃあおに役が固定のおにごっこやおに役が増えるおにごっこは?」などと交渉し取り組みを続けていると、同じような状況になったときに職員がいなくても、上級生の友だちが、Iくんに同じように交渉し、子ども達だけで集団遊びを作ることが出来てきました。すると、Iくんからも「じゃあ、けいどろならいいよ。ふえおには絶対嫌だけど。」など自分から交渉することが出来たのです!。

 最近のIくんといえば、上級生のお友達と何して遊ぶかを相談・交渉するだけでなく、同級生の友だちと遊ぶ時に「○○君は何して遊びたい?」と尋ねたり、年下の友だちと遊ぶ時には、「○○君と○○ちゃんはおに役になったらタッチするの大変だろうから、あの二人はタッチ返しありにしようよ。僕たちはタッチ返しなしのルールのままでいいから。」など提案したりするなど、どの友だちとも交渉したり配慮したりできるようになりました。1年半前と比べると、穏やかに遊んで過ごせる日がとても多くなりました。

 先日、Iくんがふと言いました。「ぼく、来年、すてっぷ卒業しようかな。すてっぷに来た時は、コミュニケーション障害あったけど、もうなくなったと思う。」 職員が、「Iくん、みんなと仲良く遊べてるもんね。」と言うと、Iくんは、「うん!」と言いました。実際には卒業までの課題がまだあると職員は考えていますが、少なくともIくんの中で、これまでの失敗経験を超える数の成功体験を積めたのだと思います。

「ラーメン美味しいね」

 支援学校高等部のHくんは、すてっぷでトークン・エコノミー法を活用しながら、生活自立や対人コミュニケーションのトレーニングに取り組んでいます。トークン・エコノミー法は行動療法のひとつで、トークン(疑似通貨のことで、支援の場ではシール・コイン・スタンプなどがよく使われています)を使うことで、がんばったこと、褒められたことが視覚的見て分かります。さらにトークンを溜められたら好きなことが出来るという約束を大人(支援者)と事前に決めておき、より自分でがんばれることを増やしていけます。

 Hくんがトークン・エコノミー法でがんばっている行動目標は以下の通りです。

・準備や片付け(友だちとの活動の中で)

・適切な対人距離(具体的に何歩の距離で会話するなど)

・休憩時間に適切に過ごす事(暇だと感じた時に、室内でボール遊びをするなどの不適切な行動をするのではなく、座って遊べることや職員と会話することなどを選んで要求できるように)

これらの行動目標をすてっぷに来たら職員と確認し、帰宅前に振り返って、達成できた項目はチップを貰って貼っています。この支援を半年ほど続けてきました。

 最近のHくんは、適切な対人距離を保てたり、準備や片付けを率先して行ったりする中で、友だちとのコミュニケーションが以前よりも適切にとれる姿が多くなっています。以前は、Hくんとあまり話すことが少なった友だちも、Hくんが準備や片付けを行う姿や、Hくんが「お茶、欲しい人?」とお茶汲みの手伝いをする姿を見て、「Hくんありがとう。」とお礼を伝えています。友だちからHくんに話しかけることも増えてきました。もともと自分からコミュニケーションを取ろうとするHくんですが、人からのアクションを受け止めて応えることは苦手で、一方的なコミュニケーションになりがちでした。なので、友だちと双方向でコミュニケーションが取れる機会が増えたのは、とてもいいことだと職員は感じています。

 さて、職員とトークンを溜めた時のお楽しみを約束していたHくん。最初のころは大好きな古墳巡りに行っていましたが、先日行ってきたのは来来亭。Hくんは事前に何を注文するかを調べたり、来来亭公式の配信動画もチェックしたりなど、気合を入れて準備してきました。楽しみにしていたラーメンを食べるHくん。いっしょに食べている職員に「美味しいね。美味しい?」と尋ねます。いっしょに味わえたということも、ご褒美のうちだったのでしょう。また次の楽しみに向けて、日々の目標を頑張っていきましょう。