2020年12月の記事一覧
しんどいです!
前回お話していたW君の交渉は進行中なのですが、先日W君は自分で契約した回数ができないと訴えてきたのです。10本を二回やると契約したのですが、2回目の時に「しんどいです。やりたくないです」と訴えてきたのです。スタッフの偉いところは「たかが缶潰し10本じゃないの」とはいわずに、「そうですか。では今日はやめましょう」と受け止めたことです。
W君のしんどい中身は良くわかりませんが、作業中にこんなことを言ったのは初めてなのです。たいがいは、始まるまでに「いやです」「しません」か少量付き合い程度に作業するかだったので、今回のような中断の要求は出しようがなかったとも言えます。でも作業中に彼としては思うところがあったのでしょう。その契約の内容がまずかったのか、本当に途中でやるせなくなったのかはW君にしかわからないことですが、彼の発言は尊重したいし、契約の仕方にもう少し工夫ができないかどうか次に生かそうと話し合いました。
熱い心と、冷たい頭
子どもの検査所見にはいろいろあります。観察は素晴らしいのに、で、どうするの?と具体的な支援が見えない場合があります。『何を指示しても嫌だ嫌だと拒否するI君(4歳児)の相談があったので、検査を行いました。検査者と関係が持ててきたので、模写課題をやってみようとしました。I君検査者が持っている模写カードを盗み見していて「簡単なのは嫌やで」というので難しいかなと思ったのですが正方形模写(3:6)に挑戦してもらいました。
「見んといてや」と隠すように正方形模写に一生懸命取り組みました。できた模写を見てみてみると、四角の頂点がどうしてもうまく描けず、何度も修正してモデルの絵に近づけようとした軌跡が描かれています。なりたい自分への葛藤というI君の願いがそこには表れていました。嫌だと言うI君を頑張れと追い込むのではなく、I君が自分の力で取組もうとしたり修正してくるタイミングを大事にしてあげたいものです』
I君への思いが美しい表現で綴られています。でも、これでは「ちゃんとしなさいと追い詰めないで待つように。そのうち自分で取組むと思うよ」としか読めません。嫌の原因はできないかもしれないという不安が高まるからだというのは良くわかりますが、大人の側が追い込んでいるからというだけが理由だろうかと、応用行動分析では考えます。「課題の与え方がボトムアップでゴールに届きそうにないから嫌なのかもしれない。トップダウンで見通しのある届きそうなところから取り組ませれば自信になりはしないか」と環境側にその原因を求めます。
子どもの内面の物語(スジ書き)を作ってしまうと、環境側や大人側の課題が見えなくなる可能性があると思うのです。子どもの内面だけでなく、子どもの外側に問題がないかどうか考えてみること、できるために何が足りないのか考えてみること、それが子どもをリスペクトする専門家の仕事だと考えています。学生の頃、お花畑のようなことを言って、先生から「情緒的な言葉は時として私たちから真実を遠ざけることもあります。熱い心と冷たい頭を持ちなさい」と言われたものです。
『熱い心と、冷たい頭をもて』アルフレッド・マーシャル (イギリスの経済学者)
祝500万ビュー!
祝500万ビュー!
本日でこのブログは500万ビューを達成しました!昨年4月から1年で100万ビュー、この4月から8か月で400万ビュー増加なので指数関数的に増加していると言えます。先日も見学の保護者の方から、利用しているサービスからスケジュールへのトランジションについて見直しをしているという話を聞きました。
え?それどこかで聞いたような。あ!それ私です。ブログに書いた覚えあります。見学者の方が教えてくださったサービスは我々のブログのフォロワーさんのようでした。こんなふうに身近でも読まれているのかと知ると、嬉しいような怖いような不思議な気持ちです。毎日1万回以上読まれるのは、何か共感してもらえるものがあるだろうと思います。
ということで、この500万ビューを次の1000万ビューの跳躍台にして、皆様のご期待に添えますよう職員一同精進して参りますので、どうぞよろしくお願いします。この調子で行くと来年度には1000万ビューに届きそうです。敢えてコメント欄は設けていないのですが、ご意見やアドバイスがございましたらオフィシャルアドレスまでメッセージをお願いします。
やればできる人
G君は高等部生ですがシャイな人なのでスタッフに声をかけられないとなかなか自分から進んで事が起こせません。トイレですら「大丈夫ですか?」と聞かない限り自分では行かないで我慢しています。
そのG君が、近ごろ新入りのH君と仲が良くなり二人だとちょっと元気になって、H君がいれば様々な新しい課題でもトライするようになってきました。かなり自信ついてきたねとスタッフも評価していました。友達の力は本当に偉大です。
そんなある日、別の学校の中学部生が事業所に見学に来ました。G君はチラチラと新参者を見て気にしているようです。すると、何と言うことでしょう!ストラックアウト・ゲームはいつもヘロヘロ球だったのに今日はバシッと速球で決めてきます。声もでかくなって、「俺はやるよー」と豪語しています。そして、なんとスタッフに「トイレ行ってくるわー」と言うのです。「え?ついていかなくていいですか?」「イランイラン」と手を振ってトイレに一人で行きました。新参者の中学部生が見ているとはいえ、やればできる人だったのです。後輩の力も偉大です。
スケジュールとタイマー
F君が家からタイマーを持ってきているというので、どんな使い方をしているのか聞くと、机の横にセットもせずにおいているだけと言います。では休憩時間はどうやって終わるのか聞くと、そろそろ片づけてほしいタイミングでタイマーセットしてタイマーが鳴ったら声をかけて終わらせていると言います。この使い方では「終わりやで」と声をかけているのと変わらないです。でもこれは支援「現場あるある」事象です。なんのためにツールを使うか良くわからないまま支援の中にツールが入りこむ悪い例です。またF君自身も何のためにタイマーがあるかわからないけど、机の上にこれがないと不安なので家から持ってきているのだと思います。
タイマーは小学生から障害の重い高等部生までよくタイマーを使いますが、どんな目的で使っているのか聞くと、大人の都合で使っているだけだと言うことが少なくないです。タイマーを使うのは子どもが自発的に次の行動に移るために使うのですが、それを理解させるにはスケジュール操作を丁寧に教える必要があります。
タイマーは休憩時間や遊び時間に使うことが多いですが、これをタイマー理解の導入に使うのは間違いです。楽しいことが終わる行動が強化されるはずがないからです。重度の人には楽しいことが来る時間にタイマーを設定します。小学生には、自立的にタイマーで行動ができたらポイントをあげるという形でタイマーを教えます。
こういうことが定着したうえで、休憩時間にタイマーを使ったり、作業を途中でやめるためにタイマーを使い、自立的にスケジュールを操作できるように支援すればうまくいくはずです。
いいえ・違います
E君が遊びたいかなと、「音のなる絵本」をスケジュールに入れておきました。E君がその絵カードを渡してきたので、いつもの音のなる絵本を渡すと、押し返して自分の頭をたたくのです。そうか、新しい音のなる絵本が欲しいのかぁと新しい本を渡すと遊びだしました。
E君は絵カードでかなり要求ができるようにはなっているのですが、カードの弁別が十分にできないのと「違う」が自分の頭をたたく行動になっていることです。確かに頭をたたけば「違う」ことは誰でもわかりますが、もっと穏やかな拒否の方法を探しています。
手で押しのけるのはいいのですが、拒否を強く伝えるために言葉のない人の中では自分の頭をたたく人は少なくありません。これを穏やかな身体サインに変えたいのです。ところが、「いいえ」「違います」のトレーニングは簡単そうで難しいのです。
PECSでは身体プロンプトで首を振らせて拒否のサインを教えるように提案していますが、背後から手を添えて首を左右に振らせるのは難しいのです。顔を触ることで、本人の「何すんねん!」の反応が出ることが多いからです。なので、両腕を出して「NO」の表現の方がいいかもしれません。要は頭をたたく行動から代替させやすい行動がいいのです。さてどんなサインがうまくいくでしょうか?
先輩はつらいよ
「外遊びの科学的根拠12/02」で掲載したように、B君C君は外遊びに行こうかと誘うと、「え~」となるのでビタミンDを強化子にして外遊びに誘い出しています。しかし、そんなことをしなくても「高学年のプライド」とという素晴らしい強化子を発見しました。
低学年のD君が「鬼ごっこがしたい」と言うと二人とも、「ええよー」と頷くので、「あんたら いつもとちゃうやん」とスタッフは思っていました。しっかり走り回って全員つかまって帰りましょうかという雰囲気の中、スタッフが言ってみました「もう一回しようか?」BC君そろって「却下!」と言います。「Dちゃんどうする?」と聞くと、「もう一回やりたい!」BC君揃って「しょうがないなー もう1回やろか」ということになりました。
延長戦も終了し、「さぁ 帰ろ帰ろ」と言うBC君の背中にD君が「もう一回したい」と声を掛けました。 さすがに「え~~もう帰ろうや~」と絶叫します。スタッフがD君に「D君どうする?」と聞くと「もう一回したい!」「このようにD君はリクエストしていますが…」とスタッフが言うと、「ほんな やろかぁ」と3回目も肩で息しながら付き合う高学年二人でした。先輩はつらいよ。
ボール投げ
Z君が公園でAさんとボール投げをしてにこにこしているという報告がありました。Z君はこれまで「前庭覚ニーズ」が高いと外出しては公園でブランコという日課が多く、小さい子が室内でうるさく叫ぶと他害もあり、他の子どもとはあまり交流せずにスタッフと過ごしてきた経過がありました。
しかし、他害の原因は他の子どもの大きな声が耐えがたく攻撃するというものですが、Aさんなど小さい子がうろうろするだけでイライラする様子もあったので、少し一緒に遊ぶなど交流させてはどうかという提案をしました。公園に行ってブランコをするだけではなく、Aさんとボール投げに取り組んでみました。スタッフと3人で取組んでAさんが受け損ねるとZ君が走って取りに行くなどの変化がみられています。
他害などがあると、なかなか他の子どもとの交流を避けがちですが、他害の関係を打ち消すほどのものかどうかは分からないけれど、一緒に楽しく活動する関係をどう作っていくのかも考えていく必要があると思います。
外遊びの科学的根拠
小学生高学年のY君らは「外で遊びたくない、面白くない」とよく言います。じゃぁ室内で何がしたいのと聞くとゲームかパソコンです。放デイ以外の日は外で遊んだことなどないというのです。友達もいないし、だいたい高学年は習い事で時間も合わないという悪循環で、友達と交流するのは学校か放デイだけだというのです。
外で遊ぶと、①太陽の光を浴びることで基礎代謝があがる②体を動かすことで心肺機能が高まる③空腹感を感じることで食欲がわく④睡眠の質があがる⑤生活のリズムが整う⑥運動することでストレス発散となりポジティブ思考につながる。ことを、丁寧に医学心理学的に説明しています。
丈夫な骨を作るためには、運動や日光を浴びてビタミンDを増やすことが重要で、夏は紫外線量が多く、ビタミンDを短時間で効率的に増やせるから夏に背が伸びやすく骨折もしにくいと説明します。背は高くなりたいと皆思うようでしぶしぶ外に出ています。あと、抜け毛は諸説あるので原因は一つではないけど、有酸素運動とストレス防止と抜け毛防止は関係があるという人もいるらしいというと、男の子は靴を履きだします。ただし頭皮に紫外線はほどほどにねと帽子を渡します。みんな、外で遊ぼう。
VOCAの意味
VOCAは、Voice Output Communication Aidsの略で音声出力会話道具が直訳になるでしょうか。大事なのはOutput(アウトプット)=出力というところです。言葉のない人の音声言語の代わりに使う道具という意味合いが重要です。人は、人から促されて喋ることはほとんどありません。自分が必要な時に自分で喋るのです。
XさんのVOCAの使い方は、先生が手にVOCAを持った時に「おかわり」と、Xさんがボタンを押しに行くという報告がありました。「え?それって『大人がおかわりと言いなさい』と言った時だけ喋れという指導と同じですよ」と他のスタッフが言いました。その通りです。自分から音声出力する=自発性言語を育てるはずのVOCAが受け身(応答性言語)の道具になっているのです。
肢体不自由の人は移動・食事・排泄など依存的になることが多いです。しかし、電子機器などを使えば、自分の意志を伝えることは可能なことからVOCAが生まれました。もちろん最初は身体プロンプト(後ろから手を添えて操作させる)をするなどしてVOCAの意味を教える必要があります。ただ、教え方は自発性を担保する教え方でないと、そばに人がいないと伝えられないとか、VOCAを人に持ってもらわないと使えないようになってしまいます。本人が操作しやすい位置にVOCA専用台を作る等いろいろ工夫して、自分だけの力で操作できる環境を整えようと話し合いました。