今日の活動
暗黙の了解
P君に、「公園に行くから、みんなのおやつとお茶をリュックに入れて用意してね」と職員がお願いをしました。素直なP君は「わかったー!」といそいそと、準備を始めました。職員は、「低学年なのに言いつけたお手伝いができて偉いなー」と公園で褒めようと車に乗り込んだそうです。
公園に着いて、「P君、用意したリュックは?」と聞くと「え?事業所にに置いてきたよ」と平然と答えたというのです。「いやいや、おやつとお茶はどこで飲むと思ったの?」と職員が聞いてみると、P君は「????」と言う感じだったっと職員から報告されました。
つまり、P君にしてみれば確かにおやつはリュックに詰めろとは言われたけど、そのリュックを公園に持っていけとは指示されなかったと言うわけです。職員一同「あるある」と大笑いでした。暗黙の了解がわからないので字句通りに行動してしまいやすいのがASDの特性です。P君が悪いわけではないので、今度からは「リュックを用意して、そのリュックを車まで持ってきてね」と付け加えればいいのです。
大人でも、「その子を見ておいてね」と指示を出すと、子どもが色々不適切なことをしていても「見ておけ」と言われたから見ているだけにしたと平気で言われる方もいます。でも、その人だけが悪いと言うわけではないでしょう。ユニバーサルな指示は、「見ていて危険な行動をしたら、その行動を防ぐか応援を呼んでください」と言うべきなのです。と言っても、またその行動の防ぎ方でトンでも支援がありそうですが・・・。
子どもの目標と大人の行動
Oちゃんの支援計画を考える時に、コミュニケーション支援のところで「手を伸ばすなど自分から要求できるようになる」という自発のコミュニケーションの目標を掲げました。Oちゃんは機能的なコミュニケーションはまだできない子どもです。
自らコミュニケーションの存在を意識していない人に「要求できるようになる」という目標を掲げること自身は問題ないにしても、目標達成しなかったときの原因がはっきりするような、支援方法を書くべきだという話をしました。
大人がOちゃんの表情や素振りを読み取って、その時におやつを食べさせたり、欲しいものを手渡したりするわけですから、支援者の「間」が非常に大事になります。以前にも(スナックタイム改めコミュニケーションタイム: 08/26) で、支援者が「食べさせる時間」だと考えてしまうと、この「間」がなくなってしまうから、スナックタイムではなくコミュニケーションタイムと改名しようと書きました。
つまり、本人の目標が達成できるもできないも、支援者の見立てと対応如何だと言うことがわかるように、支援方法に書く必要があるということです。「おやつは、手がおやつに動くか、支援者に視線を合わせてきたら「おやつだね」と言いながら口元に持って行き最後は自分で口に入れる動作を引き出す」などと具体的に書きましょうと話し合いました。
そうすれば、支援方法が正しかったのかどうかが、確認しやすくなるという事です。重度の人や支援が難しい人の場合、目標自体は正しくても具体的にどう支援するのかと言う方法が書かれていないと、延々と同じ目標が続き、支援計画が形骸化してしまうと思うからです。支援は、大人がどう行動するかがカギなのです。
強化子・動機付け
事後評価の会議でM君に靴を靴箱(段ボールBOX)に入れるように取り組んでいるが全くできないと報告がありました。M君は注意が転導しやすく周囲がざわついていたり好きなものが目に着いたりすると気が散ってしまいます。
けれども、郵便物を二階の先生に渡してきてねとお願いすると、移動中に様々な刺激があるのに郵便物を届ける事ができ、「ありがとう、じゃぁ1階のN先生にこれを渡してきて」と再びお願いしても正確に持帰ることができます。これだけの目的行動がとれる人が本当に目の前の靴箱に脱いだ靴を入れる事ができないのかどうか話し合いました。
話し合った結果、何故郵便物は運べるのに自分の靴は目の前の靴箱に入れられないかの推測は二つでした。一つは、部屋に入るときは全員が入ってきて、玄関口がざわつくので気が散りやすいことです。この際、玄関口の子どもたちがいなくなってから、プレイエリアが視界に入らない場所で取組むことにしました。
もう一つは、郵便物が一人で運べるのは、人が好きなM君にとっては二階の先生の場所に行くこと自体が動機になり、先生に会う事が強化子になっているということです。靴をBOXに入れても彼にとっては利得はないので学習しないという推測です。したがって、彼のお気に入り絵本を通所後はすぐに手に取ろうとするで、これを強化子にして、BOXに靴を入れる→絵本を与えるというルーティンで支援すればどうかという話をしました。
障害の重い人にはマンツーマンで介助をすることが多いので、できそうなことでも介助者がやってしまいがつです。実際にできるように支援しようとすれば、動機や強化子を把握して自発行動を引き出す必要があります。支援学校の子ども中心につけられる「個別サポート(Ⅰ)」とは介助行動の加算ではないのですが、日常生活動作が全介助を要する人が対象とあるので、障害を固定化して見てしまいがちです。
休憩・遊び??
よく子どものスケジュールに「休憩」とか「あそび」とか示して「自由にしていいよ」と言う意味で使っていることがあります。でも、これは子どもによっては、何をしていいかわからない事になります。今日は子ども自己刺激の声が大きかったと言う報告があったりしますが、その前にその時子どもがどうしていたのかが大事です。
何かをしていて声が出るなら、貧乏ゆすりとか椅子のギッタバッタンと同じようなものですが、何もしていない時に声が出てしまうなら、暇なので自己刺激をしているか、声を出していると誰かがするべきことを指示してくれる事があるので、「暇なので指示して」という注意喚起かも知れません。
コミュニケーション障害が重い子どもの場合は、後者が多いです。そうであるならば、やり直し行動で絵カードで好きなものを要求する等を教えます。大事なことは、大人が思っている「休憩」「あそび」は目に見えるものではありませんから何をしていいかわからない子が少なくないのです。「休憩」ではなく「忍たまビデオ見る」とか「髭男のアルバムを聴く」「シルバニアンファミリーを並べる」等具体的な余暇の過ごし方を提示することが大事です。
神支援 視覚支援 分化強化
L君はタブレットで遊ぶ時に、「うーうー」と自己刺激の低い声を出しながら遊びます。最近特に声が大きくなってきたので、本格的に唸り声の消去に取り組むことにしました。本人に自覚がないとはいえ、集団生活をする場合は他の人の迷惑も考える必要があります。また、唸り声があるだけで皆から遠ざけられるのは、L君にとってもマイナスだからです。以前にも耳障りな声については(奇声を減らす支援 : 08/06)で掲載しました。
言葉のないL君に自覚してもらうためには「うるさいからやめて」と言葉でお願いしても意味が分かりません。「うるさい」というのは他者の気持ちですから見えません。また「うるさい声」そのものも見えません。これを言葉でお願いしてL君に理解してもらうにはハードルが高すぎます。視覚支援にして絵にするにしても、「うるさい」をどう表現するか「唸り声」をどう表現するか難しいですが、言葉よりは理解してもらえる可能性は100倍あるとは思います。
そこで、L君がタブレット遊びで「うーうー」唸っている時に、タブレットを取り上げて「うるさい顔✕」と「静かにシー顔〇」カードを渡します。絵カードを見て声がなくなったタイミングで、タブレットを返すというやりとりを何回か続けました。すると、タブレットで遊んでいても、ほぼ声がでなくなったのです。「神支援でした」と職員は言います。
視覚支援が功を奏したと言うよりは、応用行動分析で考えると、唸り声を出すと強化子(タブレット)が取り上げられ、唸り声をやめると強化子が与えられるという分化強化※が成功下のだろうと考えています。しばらくこの対応を続けてみようという事になりました。
※分化強化とは、心理学、行動学用語。複数の反応が出現した際に、片方の反応は強化し、もう片方の反応を弱化する事を指す。正しい反応だけを強化していくことで、その行動はより確実になる。