すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

楽しみ

F君は、10か月前までは職員の気を引くために外に飛び出して、近所のマンションのエレベーター遊びをしていました。職員が追いかけて走っていくとげらげら笑ってまた逃げるという繰り返しでした。注目要求と自立 : 07/17 でも書きましたが、彼には大人に注目してほしい要求があり、適切な行動は注目しているよという反応を返すことで、ぱたりと不適切な注意喚起行動がなくなったのです。

もう一つは、彼の好きなものをご褒美にして課題設定をしたことです。F君の好きなものは「野外ラーメン」とサイダーです。夏前まではラーメン準備ワークシステムを見ながら、ひとりコッフェルやバーナーをリュックに詰めていそいそと山登りに出かけていました。本当に気に入っていたようで、スクールバスから降りてくる時に「今日ラーメンは?」と聞いて「あります」と答えて欲しくて送迎車の中で何回も職員に聞いていました。

それが、暑さと雨が続いたことで3か月近くラーメンが途切れています。それでも作業課題への職員の注目と、作業後の一杯のサイダーを糧に頑張ってはいるのですが、たぶんつまらないだろうなと思います。野外ラーメンはF君にとって至福の時なのです。そういえば、最近、職員がスクールバスに迎えに行っても、乗降タラップ所での「無動」「やりなおし行動」が激しくなってきているのです。もしかして、放デイ通所が楽しくないのかもと案じています。

子どもが適切な行動がとれるようになると、職員はのど元過ぎれば熱さ忘れるで、普通に扱ってしまいます。実は子どもは楽しみがなくなっていて、かといって自分から要求ができない表出性コミュニケーションの弱さで言い出せていないかもしれません。これは好きだからと、年がら年中同じことを提供するのもどうかとは思いますが、好きなことを支えに人の生活は成り立っているものです。そろそろ、「野外ラーメン」には良い季節ですので出かけようかと話しています。

服薬

すてっぷに来る子どもの過半数が行動の問題で服薬をしています。最も多いのが、ADHDの多動性や不注意を軽減するコンサータやインチュニブです。以前はストラテラが多かったのですが、新薬インチュニブの登場でこちらが一気に増えた感じです。ただ、インチュニブの効果がなかったり副作用が強い場合は、中枢刺激薬のコンサータの選択や、同じ中枢刺激薬の新薬ビバンセを選択している子どももいます。

ASDの子どもの行動問題に使われている薬は、最近利用は少なくなりましたが、激しい興奮を抑制するセレネースやテグレトール等です。ただ、これらは副作用も多いので、ASDの子どもに多く使われているのは、比較的副作用が少ないとされるリスパダールやエビリファイです。また、数は少ないですが不安や固執性を原因としたASDの行動問題にADHD適用薬を服薬している子どももいます。

激しい行動問題で、家庭や学校で大変なのは分かるのですが、毎回、服薬量が増えたり種類が変わる子に限って、行動問題が増えているように感じます。行動問題が深刻だから服薬量や種類が変わるのは当たり前だと言われそうですが、深刻な子に限って薬の量や種類が変わっても沈静化せず、むしろ行動問題が増えている印象が強いです。医療の話なので量や種類について素人が口をはさむべきことではありませんが、子どもの変化については動画なども用いて正確に医療に返していくことが大事だと家族の皆さんには伝えています。

重度の知的障害を伴うASDの行動問題の多くは、表出コミュニケーションの障害が大きな原因です。上手く伝えられないことによってストレスが生じ情緒不安定になるのだし、うまく伝わらないから激しい行動で相手が振り向くように行動する事が多いのです。このどちらも、表出のコミュニケーションが育っていない事が原因です。これらは服薬で解決できるものではありません。もちろん、学習が成立する程度の感情調整を服薬に期待することはあるし、本人が成長するまで行動問題を見過ごすこともできませんから、服薬で乗り切る時期もあるかもしれません。

しかし、行動問題を抱えたASD児の関係者(特に学校教員)が服薬に期待するのは、自閉症のコミュニケーション問題が重要な原因だと考えていない場合が多いです。もちろん、コミュニケーションの支援だけ全てが解決するわけではありません。喋れる子どもでも様々な問題は起こすものですが、その問題一つ一つに服薬を求める大人はいません。

コミュニケーション支援に取組めば、子どもの表情は和らぎ大人との信頼関係はぐっと深まります。安心して生活ができれば、行動問題の修正も支援しやすくなります。子どものコミュニケーションに真面目に取組む環境に変わるだけで、服薬以上の効果が認められたケースは少なくありません。

それと並行して、子どもはソーシャルスキルを学び、周囲の大人もペアレントトレーニングやティーチャートレーニングをうけて上手に子育てや教育をすすめるスキルを身に着ける必要があります。激しい症状には子どもが楽になるという意味で服薬は必要ですが、それは対症療法であり治療ではないという事を知る必要があります。

そして、支援学校に在籍している子どもの行動や服薬の事で困ったら、支援学校で精神科校医として勤めている校医さんに相談するのが良いと思います。精神科の校医さんは子どもの様子を教室に行って見ていますから実態は一番よく知っています。服薬のことも聞けるのでセカンドオピニオンとしても相談されるのが良いと思います。

 

 

運動会とDCD

D君がぶつくさ言いながら登所してきました。運動会練習の季節なのです。「あのな、V字バランスってあるよね」ハイハイ「あれな足も頭も上げてバランスとってていうけど、俺には至難の業なんや」ソウヤネ「頭を意識すると足がわからんようになるし、足を意識したら頭側がおろそかになるねん」協調動作ガムズイ?「そうやねん。俺不器用やからいっつもハズイ目にあっているねん」タシカニ…。

2つ以上の動きを同時に行うことを「協調運動」と言います。 発達性協調運動(症)障害(DCD)とは、2つ以上の動きを同時に行うことが困難になる障害です。例えば自転車に乗るときに手でハンドル操作をしながら足でペダルをこぐなど、異なる動きを同時に行うことが難しい状態です。

2:1~7:1で女子より男子の方が発症しやすいといわれており、5~11歳までの子供では5~6%の確率で発症すると考えられています。発達性協調運動障害(DCD)の原因は、まだ詳しく解明されていないのですが、特徴としては、次のような障害が挙げられます。

1.筋肉の制御に対する障害(筋肉をうまく動かせない)
2.神経発達過程の障害(視覚的な運動機能の障害)
3.運動技能の欠如(日常生活内の動きが困難になる)
これらの障害により、発達性協調運動障害の子供は年齢や知能に比べ、運動能力が著しく低かったり、日常生活の簡単な動作にも不器用さが見られるようになります。

発達性協調運動障害はADHD(注意欠陥・多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)の症状も同時に見られることがあるため、こちらの障害に包括されてしまうことが多いです。発達性協調運動障害とADHDを同時に持っている子供は、ADHDのみを発症している子供に比べて、強い症状が現れます。

発達性協調運動障害(DCD)は運動機能だけに障害があるので、運動機能を改善させるための接し方としては事実と理屈で示していきます。発達性協調運動障害(DCD)の子どもは、自分がうまく動けていないことに気がついていない場合もあります。鏡に映したり、スマホで見せてあげたりするとよく自覚してくれます。

運動機能を高めていくには、まず自分の苦手なところを発見することから始めます。そのためには、大人が子どもをよく観察してあげる必要があります。運動会の時期に先生方は大変でしょうが一肌脱いであげてください。そして、正しい力の入れ方を感覚と言語のWルートで理解させてください。だんだん正しい運動の感覚が理解できるようになってきて、少しずつ出来ていくので上達したらたっぷりと褒めてあげることが大切です。

この練習はできれば毎日続けてやった方が効果的です。間を空けると、せっかく覚えた感覚を忘れてしまうので、ある程度できるようになるまでは続けて練習してください。みなさんの周りにもきっとD君やEさんが2~3人いるはずです。

 

支援の流儀

Cちゃんの登所時の様子を報告してもらいました。絵カードを示して「靴入れて」「カバン入れて」の指示をするけど、ちっとも従わないので、声をかけすぎかと思うと言う報告がありました。「でも、Cちゃんは、帰りの用意はカバンに連絡長を入れたり、着替えを片づけたり、なんでもできるんですけどね」と帰宅用意が自立しているのに、登所で自立してないのは不思議だというふうに報告されます。

帰宅行動は絵カードを見て準備しているのではありません。保育所で教えてもらった通りのルーチン行動が身についているのです。ところが、登所場面、好きなことに目が行くようでちっとも定着しないのです。おそらく、保育所時代から登所場面はモデルになる子どももいないし、保護者が対応するので、教えられなかったのではないかと思います。

そして、繰り返しの行動で身に着いた習慣と、ワークシステムを見ながら自分の行動を統制するのでは意味が全く違います。後者は視覚認知の力や今やりたいことを保留して行動する自己統制の力が必要です。その際に注意しなければならないのは、声掛けも絵指示も、ひとつづつ大人が従わせようとするなら、言葉で言っているか絵で指示しているかの違いだけで、従わせられると言う本人の気持ちは同じだという事です。

ワークシステムは自立性を目指します。そうであるならばフェードアウトの方法まで考えて教える必要があります。身体プロンプトで目の前のワークシステムを指ささせて行動するようにします。そうすると声掛けは少なくて済むし、大人の介入も黒子のようになって最小限で済みます。

将来の自立した姿を思い浮かべて、最初は靴入れ程度だけど、これが学習や作業場面に応用されて、自立して行動できるようにすることが目的だと考えれば、小さな子どもへの支援の仕方も変わってくると思います。これがプロフェッショナル支援の流儀なのです。

 

なんで?理由を聞こう

言葉のないB君が、以前は取り組んでいた集団遊びの課題を拒否したのでしませんでしたと報告がありました。そこで、B君が穏やかに拒否したのはいいことだけど、何故拒否したのか理由を聞くと「わかりません」ということでした。では、今度も拒否したら課題には取り組まないという事ですかと聞くと、そこまで考えてはいないとのことでした。理由を聞くといってもB君は言葉でやり取りできないので正確には、働きかけてあれこれ理由を探ると言うことです。

確かに、子どもが暴れたりするような不適切な行動をして、大人が指示したことを拒否するよりも、手で押しのけたり首を振って「嫌です」と穏やかに表現する方が良いです。ただ、「嫌です」「あーそうですか」で終わったら、子どもが何故嫌なのかわからないままです。もちろん、嫌だと表現しているのに無理に強いるのはもってのほかですが、いろいろと交渉することが大事だと思います。

「これが終わったら大好きなことしましょう」とか「だったら量を減らしましょうか」等といろいろと交渉をする中で、嫌が好きになることもあります。他にも、気になって仕方がないことがあるとか、単に体がしんどいとか事情が少しづつ分かってくるはずです。嫌を受入れていればトラブルは起こりませんが、それ以上双方が歩み寄ることもありません。通常の生活で言えば「それなら勝手にしてよ」と言っているのと同じです、子どもは大抵「なら勝手にするわ」となります。これでは身も蓋もありません。

交渉は、お互いを尊重し合い歩み寄るためにします。そのためには、嫌の理由を知る必要があります。言葉のない人はうまく言えませんが、交渉する中で見えてくることがあります。案外「もうその内容は飽きた」とか「つまらんねん」とかいう理由が少なくないです。マンネリに気づけば、「よっしゃ!新しい内容を考えてくるわ」と職員が捲土重来を期すきっかけにもなります。交渉は双方が学び合うと言う意味でも重要です。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」…使い方が違いますか。