今日の活動
平等と公平
Pちゃんのお気に入りの紫色のタブレットを高学年のQさんが使っていたので、Pちゃんが「替わってください」と言いました。Qさんは、「まだおやつ食べているでしょ」とPちゃんに言いました。Pちゃんはおやつ食べたら替わってくれるものと思い、おやつを大急ぎで食べて「替わってください」と言いました。「いやや」とQさん。Pちゃんの誤解とは言うもののQさんの御無体な対応に、Pちゃんは大泣きです。その上に、「大声で泣いてはいけません」だのと職員から言われるので、泣きっ面に蜂です。
高学年のQさんには指導が必要でした。言葉が十分伝わらない低学年の子どもには丁寧に伝える工夫やそれが難しいなら譲ってあげることも必要だという事です。そして、誤解を与えたなら謝ってあげることも大事だということです。しかし、小学校高学年の子どもたちの間では、「俺らは、約束を守らされるのに、支援学校の子は守らなくてもいいのは不公平だ」とちょくちょく言っています。私たちは、彼がそう口走ったときはそのまま放置しないことにしています。きっと彼らも他の場面では知らないところで不公平だと誹りを受けているからです。
言葉がわからなかったり、ルールがわからない時期は君たちにもあったはずだし、今だって、漢字が書けなかったり計算が遅かったりする君たちに不公平だからと同学年と同じだけ宿題が出ているかと聞きます。同じように、言葉がわからなかったりルールがわからない支援学校の子どもは、言葉やルールの勉強中だが、その意味がまだ分からない場合に君らと同じルールにすることが公平だと言えるか?と聞いています。
大抵の子どもたちはしばらく考えて「わからん」と言います。それでいいと思います。感情的な平等論が世の中にはあふれかえっています。その中で彼らは生きているのですから簡単に答えは出ないはずです。でも職員は彼らの疑問を聞き過ごしてはいけないし押し付けてもいけないと考えています。平等と公平は考え方の質が違います。民主主義社会は公平を是とする社会です。公平とは何かを何度も考える機会を作りたいと思います。
何故調子がいいのか?
「頭打ちの自傷行動も見られるNさんが今日はにこにこして調子が良かった」「発作の続いているO君は今日もソファーの上でじっとしていて調子が悪かった」などと言う調子の良い悪いだけでなくその調子の理由も考えて報告する必要性を前にも書きました。(調子がいい理由: 04/20)
調子が良いなら、何故調子が良いのか、悪いなら何が原因だと思うのか、その時の環境の変化や本人の体調の変化(排便・歯痛・睡眠)、支援者の支援の変化なども同時に観察して報告しないといつまでも因果関係がわかりません。喉元過ぎれば熱さ忘れるで、調子が悪い時はあれこれ理由を考えますが、良くなると「調子が良かった」「穏やかだった」で終わりでは支援者の名が廃ります。
理由も想像や憶測ではなく、具体的な事実に基づいた理由が必要です。そのためには、保護者や学校にも協力してもらい、バイタルのチェックリストや人も含めた環境チェックが必要となります。子どもの行動を「何故」と問う姿勢が支援の質を高めていきます。
自立課題と個別課題
支援学校のLさんに、自立課題をしてもらったという報告があったので、「なんのために」と聞くと特に理由はないとのことでした。Lさんは低学年の漢字ドリルや計算ドリルをしている人で、週1回の利用者です。課題が適切であれば宿題は自分でできる人にマッチングや分類、組み立てやパズルが中心の自立課題を提供する意味がありません。意味がないのに時間つぶし程度に与えていることに気付いてほしかったのです。
逆に1年生のM君は、じっとしていることがなく衝動的に動き回っている子どもです。彼には一人で課題を一定時間こなす経験の積み上げが必要です。「なぜM君には自立課題を与えないのか」と職員に質問すると、通常学校の小学生グループだから考えなかったそうです。在籍が通常学校の子どもでも支援学校の子どもでも、一定時間座って課題に取り組むことは必要な事です。M君にはまず自立課題で一定時間一人で課題をやり遂げる経験が必要なのです。
子どもの課題内容は子どもの在籍学校で決まるものではありません。その人の特性や経験そして与えられた利用時間で決めるものです。どちらも、新しい通所者だったので、課題が分からずに与えたのかも知れないですが、そのために支援計画はあるのですから半年に一度見るのではなく、毎回ことあるたびに振り返ろうと話しています。個別課題は子どもの特性に応じた課題一般の事を指し、自立課題は一人で自立達成できる課題のことです。
利用回数と支援計画
K君の支援計画について話し合いました。K君は言葉がなくルーティンで生活の内容は理解しますが、絵カードで示してもこれから行う事は理解しにくいようです。でも、マッチングや組み合わせ作業は簡単なものなら一人で行う事ができます。そこでK君の半年の目標を表出のコミュニケーションとしてPECSトレーニングを、理解コミュニケーションとしてスケジュール理解を職員は提案をしました。
そこで、議論になったのがK君の通所回数でした。週1回の2時間程度の療育でその目標が可能かどうかということでした。PECSのトレーニングは他の場所でも短時間でも毎日取り組む必要があるし、できるようになった絵カード交換は生活の中で毎日取り組まないと身につくことはありません。また、絵カードによるスケジュール理解は、まず交渉の理解から始まります。「~したら~」や「~を少し待てば~」という強化子と具体物や絵カードを用いて交渉がわかるようになってから、スケジュールスキルを学びます。これも、別の場所でも構わないですが、毎日使わないと身につくものではありません。学校や自宅で可能かどうかは今のところ未知数です。
そこで、現実的には週1回2時間で何ができるかを職員で議論しました。まず、本人が得意とするマッチングや組み合わせの力を引き出せるような教材教具の用意をし自立的にできることを第一の目標にしました。二つ目は、遊具やおやつにも大好きなものがあるので、日常の生活の中で絵カードで選べることを目標にしました。
重度の方の場合、目標設定は最初は同じ場所同じ支援で実現することがセオリーなのですが、現実はそううまくはいきません。個別サポート加算で重度の方に1日1000円程度の差を作る仕組みでは、事業所全体の障害や年齢などの利用者のバランスをある程度取らないと運営が成り立ちません。また、定員が決まっているので、これまでの利用者を優先すると思ったように利用日が取れないこともあります。本人のアセスメントを行い必要な療育サービスを手配したり、その事業所や家庭、学校連携は本来相談事業所が行う内容です。しかし、手いっぱいの相談事業所にそこまで望めないというのも現実なのです。
自立課題と指示待ち
学校が始まった頃から指示待ちが強くなっているJ君に、自立課題に立体パズルのLaQを使ったという報告がありました。「人型モデルでも作れるから」というのが職員の言い分ですが、この間J君の指示待ちについて、やれと言われても出来ない時に怒りが生じやすかったり、指示待ちが多い時にフラッシュバックして他害に及びやすいという話をしてきたのですから、配慮が必要ではないかと話しました。縦横1cm程度のパーツの立体パズルを分かっているけど指示がないとできない事がどれほど苦痛か想像してほしいと話しました。療育で大事なことは、わかるかどうかだけではなく、一人でできるコンディションにあるかどうかを見極めるのがASDをはじめとする発達障害のある人たちの療育なのです。
作り方も手順もみんな理解していていても何度も「これでいいか?」と職員に聞かなければならない強迫性は消えていないのです。そんな状況で職員に1ステップごとに「それでいいよ」と言われて完成しても「一人でできた」感は全く味わえません。自立課題の目的は、一人でできるかどうかです。指示待ちが多いなら、少し簡単でも「キャップ締め」や簡単な「マッチング」でいいのです。一人でできてこそなんぼです。どうして、当事者の気持ちを考えずに課題を与えることが先行するのか、自立課題の意味を職員全体に伝えるにはどうすればいいのか話し合う事が必要だと考えています。