今日の活動
宿題と電卓と信託
U君が帰り際に電卓計算をしていました。ワーキングメモリーが弱いのと不器用なのでキーボード操作が遅くて20問中10問しか仕上げていませんでした。「これあとどうするの?」「どうしよう。家に帰ったら電卓ないから計算問題できないよ」「すてっぷにいる時間を考えて、通所したら今日の日程を計画したらいいね」「うん、そうする」
こんな話をしていて少しむなしくなりました。新しい担任とはいえ、学校は引継ぎをするものです。U君にとって「字を書く計算する」は最もパワーを使う作業で、他の子はルーティン作業のような軽微な課題も彼にとってはそれだけで疲弊してしまう活動なのです。
学級担任と自営業の塾講師はどこが違うでしょう。塾の人気がなくなり生徒が集まらなければ塾は倒産ですが、学校の生徒は担任を選べません。生徒に指導の結果がでなくても収入が下がることもありません。それは、適切な学校教育をしてくれると国民が信託をしているからです。そこが自営業の塾講師とは違うところです。信頼しています。
手を使う事
Tさんは手が使えますが、職員が全介助でおやつも食べさせています。何故手を使わせようとしないのか聞くと、食べないことがあるからと言います。おやつなのだから本人が嫌なのに食べさせる必要はないと言うと、食べてみたらおいしくていくつも食べることがあると言います。本人が欲しがるなら手を使わせればどうかと聞くと、手が出ないといいます。本人は職員が口に放り込んでくれるものだと思っているからかもしれません。しかし、これでは堂々巡りで、いつまでたっても文字通り手が出せません。
昼食などは栄養価も考える必要があるので全介助で食べさせることが必要な場合もあります。しかし、おやつは好みで食べるものですし、自分の手で食べることを覚える絶好の機会でもあります。「食べさせること」よりも好きなものを「自分の手で」食べることを教えたいのです。そのためには当たり前ですがTさんの反応をよく見ながら食べさせる必要があります。次々に食べる事よりも、「おいいしいな、もうひとつ欲しいな」という反応や「まずい、もういらない」という表情を読み取ります。その読み取りで手でつかむように誘導します。こうして、少しづつ自立を促していくのが療育に求められている役割です。
Tさんが机の上にあるものを手で跳ね飛ばす原因も、こうして考えていくとわかるような気がします。職員は物が落ちるのが面白い、人が騒ぐのが面白いからと言いますが、それもあるのかもしれませんが、行動の初めの原因はもっとシンプルだと思います。いらないものを跳ね飛ばすとしばらくは大人に従わなくてもいいと言う利得ではないかなと思います。もちろん、大人は善意で与えよう・させようとしていますが、機能的コミュニケーションがない本人がどう受け止めたかを考える必要があります。これはABC分析ができると思います。
やりなおし??
S君が自立課題を床にぶちまけたので「やりなおし」でぶちまけたパーツを片づけさせて、やり直しをさせたという報告がありました。「それは、私たちが大事にしている『やり直し』ではありません」というとスタッフは「??」でした。S君は何故自立課題をぶちまけたのかを、私たちをおちょくっているからという意見もありましたが、本当かどうかは言葉のないS君からは聞く術が私たちにはありません。
他者をおちょくっていると考えるのは自由ですが、そこから建設的な方向性は見えてきません。せいぜい、そんなことをしてもやるべきことはやってもらうと強権的に振舞うか、いやならやめとくかと不適切な行動を認めてしまうかのどちらかです。私たちがS君に教えなければならないのは、床にパーツをぶちまけなくてもこうすれば伝わるよ交渉できるよという機能的コミュニケーションです。
やり直しと言うのは、ぶちまけたパーツを片づけてやり直すことではありません。やりたくないなら「嫌です」絵カードを示せば、適切に交渉に入れることを教えることです。ぶちまけたものを一緒に片づけるのは場合によっては必要ですが、一番大事なことは行動の修正です。「嫌です」とか「~したい」カードを出すことを教えてでてきたなら、まずは「よく言えたね」と褒めて、交渉に入ります。「この課題をしたら、君のしたいことができます」と課題の次のスケジュールカードにしたいことカードを張りつけて交渉します。これが「やりなおし」行動です。
機能的コミュニケーションの弱い人の不適切な行動は、他者の感情を弄んだりするために起こるものではありません。やり方がわからなかったり、前はできていたけど忘れたりして生じるものです。そして、言い分を受け止めればまず交渉は成立します。その交渉が成立してから、課題を拒んだ理由をゆっくり考えればいいと思います。その多くは課題に飽きているというのが理由です・・・。
不安と不適切行動(タイムスリップ)
R君の「外に飛び出す」不適切行動が久々に出ました。新しい男性スタッフの登場が原因ではないかとスタッフ間では話しています。スタッフが利用者の目を見て挨拶をするのが当然です。でも、R君には新しいスタッフが視線を合わせてくるのが不安なのかもしれません。新しいスタッフとの出会いの時期にR君の外への飛び出しは多いからです。
不適切行動の多くは危険回避のために、大声で注意されたり身体拘束されることが少なくないです。そして、機能的コミュニケーション力が弱ければ弱いほど当事者にとっては何が起こっているか理解ができず、不安や恐怖感情を抱きます。この情景は鮮明にASDの人たちに不安の感情と一緒に刻み付けられるようです。そして、全く脈略が違う場面でも一つ条件が一致すると不安になり、以前と同じ行動を起こすという「タイムスリップ」現象が生じます。
新しい出会いで視線を合わすのは通常は親愛の情を伝えるためなのですが、他者感情の読み取りの苦手な人の場合は睨まれたのと勘違いすることが高機能の方の場合でも大変多いです。視線が合うと(逆に合わない場合も)「怒ってる?」と何度も聞いてくるASDの方は少なくありません。多分、R君は新しい男性スタッフに睨まれたと思い不安になり意味もなく外に飛び出すという事になったのかもしれません。幸い、このスタッフは追いかけると不安を高めてしまうと判断したので気づかないふりをしたそうです。おかげで、R君の不安は消え事なきを得ました。
不適切行動はABAでよく使うABC分析が有効ですが、衝動的な行動は当事者の利得を誤解しやすいのです。逃げるのは追いかけて遊んで欲しくて誘っている等という分析に陥りやすいのです。そして、幼少の場合はこれに延々と付き合ったり、大きくなると逆に無視したり制止したりを続けます。どちらの対応も行動のバースト(爆発)を招き、行動を強化していることに大人はなかなか気付きません。ASDの方の不適切行動の場合は、タイムスリップ現象を考慮に入れておく必要があるように思います。
隠れ鬼
Qさんが、隠れ鬼がしたいというので、ルールを聞くと隠れんぼと鬼ごっこのミックスのようなルールで鬼にタッチされたら鬼交代を延々と続けるそうです。永遠に終わらない・・・まぁタッチ出来たら鬼は交代するからいいけど、ほとんどの子どもはただひたすら逃げ回るだけで、遊びにひねりと言うものがありません。「こんな単純な遊びが好きなのか~」「うん。逃げるのおもろい」
本来の隠れ鬼(たぶん全国バージョン)は、鬼一人だけ隠れて、見つけた子がそのまま鬼と一緒に隠れて、最後に残った(鬼が見つけられなかった)子どもが負けというもので、鬼を探す子をみんなで見て楽しむというちょっとイケズ(意地の悪い=京都弁)なルールです。でも相手の気持ちが読みにくい子どもたちは、人の気持ちを楽しむことよりも、追う逃げる交代するの関係の方がはるかに楽しいのです。なるほど、学校で同学年と遊びが合わないわけです。