2020年10月の記事一覧
スタッフの療育の理解
J君が自立課題をするのを若手スタッフに任せました。内容はビー玉をつまんで穴に入れるプットイン課題です。スタッフは丁寧に一つ一つJ君がビー玉をつまむように指示し、穴に入れるたびに「すごいねーできたねー」と励ましていました。それを見ていたスタッフが、自立課題というのは自分の力で最後までやり遂げることを目的にした課題で、声掛けや行動プロンプトはできるだけ少ないほうがいいとアドバイスしました。
「なんでですか?」と若手スタッフの質問にアドバイスしたスタッフは驚いたそうです。若手と言ってももう1年以上実践しているスタッフから「初心者あるある」の質問を受けたことに驚いたというのです。確かにスタッフには常勤のスタッフだけでなくアルバイトのスタッフや経験の浅いスタッフがいますから、毎日、子どもへの指示の出し方や距離の取り方も説明はしています。
しかし、なぜ自立課題に取り組ませているのか?なぜ、声掛けを少なくするようにしているのか、なぜ、子どもとの距離をつめないようにしているのかについて、その目的を話したことはありません。支援のハウツーは話すけど、ここの療育が何を目指しているのか説明したことがありません。そんなことは自明の理だと、当たり前のことだと常勤スタッフが思っているからかもしれません。でも、結構このコンセプトは普通の人には当たり前ではないのです。人は励まされたり、お世話されて頑張ろうとすると理解されているからです。そして、もしもそれが真実ならなぜJ君がこれまでそうならなったのかという想像力が必要になります。
どんなに障害が重くても、どんなにハンディーがあったにせよ、人間は自分の力でできることで自尊心を育てるのです。できることならお世話はされたくないし、一人でやりたいのです。これは障害があろうがなかろうが同じです。もしも、成人のあなたがあれこれができなくていちいち人の手助けや励ましがいるとすればこれほどめんどくさいことはないという想像力が必要です。
そんなわけで、月曜から1週間、スタッフに「子どもたちが少しでも一人で自立して行動できるように、スタッフのみなさんの工夫をお願いします。次週はそのアイデアをお一人ずつ話してください。」というアナウンスをすることにしました。さてどんなアイデアが出てくるか楽しみです。
5W2H
「Fちゃんに、お菓子を持って山登りに行こうと車に乗ったまでは良かったのですが、車が走り出しだしてから、行先とは違う方向を指さして、騒ぎ出しました」とスタッフが言います。前の日はおやつを持って公園に行ったそうですから、多分「山登り?」公園に行くのと勘違いしたのでしょう。言葉をしゃべっているからと言って、すべての言葉を理解しているわけではないという初心者あるあるです。
昨日も一昨日もFちゃんは公園に行っておやつを食べたのです。今日もルーティンで行先を誤解したのです。行先は特徴的な場所を写真で示さないと「山登り」なんて言葉は理解できないことが多いです。「お菓子」と言ったので昨日と同じだと「シンボルキーワード」を聞いてで行先まで同じだと誤解したのです。
明日からは山登りでおやつを食べるポイントの写真を「西山」と命名しておやつも絵で示し、「西山でおやつ食べよう」と説明していきます。ASDの子ども達は場面場面の違いを理解しにくいので、昨日とやり方を変えるのなら明示的な5W2Hの説明が必要です。だったら、変更やめとこうかという声も出そうですが、世の中は変更だらけですから変更を教えることは重要なことです。
また、逆に考えればルーティンには強いのですから、正しいやり方を教えるとすぐに定着するところはいいところです。この強みを使って生活規律や作業手順を教えればいいのです。
ローマ字表と暗唱
ローマ字の宿題について、C君D君は苦手みたいだとスタッフから報告がありました。ローマ字には規則性があるので、ローマ字表のマトリックスを眺めていれば通常子どもは理屈として理解します。「一番上に横に並ぶKSTNHMYRWに、右端縦のAIUEOが合成されて50音が構成されるという発見です。「へーぇ、九九と同じやん」と納得するのですが、空間認知の弱い学習障害の子どもは表を見ただけでは気づかないのです。
空間認知は強くて音声処理の苦手なE君はすぐさま理解して、キーボードの位置も覚えてしまいます。でも言葉で説明されるとかえって混乱してしまいます。ワーキングメモリーモデルという認知理論では、視空間スケッチパッドと音韻ループでの処理の偏りが「見てわかる人」と「聞いてわかる人」を分けると言います。これの非常に偏ったものが学習障害の原因ではないかと言われています。
ですからC君D君にはローマ字表を見せながら言葉で一番上の並びと一番右の並びの文字が合わさると一音が表現できると説明したうえで、「ケイ、エス、ティー、エヌ、エッチ・・・」と「エイ、アイ、ユー、イー、オー」を暗唱させ、「かきくけこ。ケイ。エイ、アイ、ユー、イー、オー」「さしすせそ。エス、エイ、アイ、ユー、イー、オー」と順番に暗唱できるようにします。とてもめんどくさいけど・・・確実です。これに合わせてキーボードを打てば一石二鳥ですが不器用な子はひとつづつしないとパワー切れを起こします。学習障害(LD)はラーニングディフィカルティー(学習が難しい人)ではなくラーニング・ディファレンシー=学び方の違う人です。
じゃんぷエントランス照明完成!
5時になるともう足元が暗くなる毎日です。エントランスのスロープは、じゃんぷへの教室通所の子どもにはちょっと足元が危なそうです。開所の際には京都府の福祉のまちづくり条例に従わなければならないので、車いす用のスロープはあったのですが高さ60cmで2m傾斜では条例規格に外れるので、折り返し付きの6mスロープにしたのです。
もともと外灯も暗いうえに、玄関先のスロープの陰になって手前のスロープの足元が真っ暗だったです。じゃんぷの看板も薄暗くてパッとしないなぁということで、足元ライトと看板用スポットライトを増設しました。エントランスが明るくなりました。
しんどいが言えるように
B君が昨日はとても眠そうで、作業の合間にソファーに横になったり、また立ち上がって作業したり、独り言も多くて作業がはかどらなかったという報告がありました。
ASDの方は、スケジュールが示されると体調が悪くても、やらなければならないと思い無理をする人が少なくないです。原因は、自己フィードバックが弱くて少々の疲れは感じにくく、高熱が出て急にダウンすることがあります。
また、「しんどい」「休みます」を言い出すタイミングもつかめないので、支援する側から休んでいいことや与えられた課題を全部こなさなくてもいいことを教えていくことが大事です。
低学年では、毎日、「今日は元気ですか」と子どもに聞きますが、感情カードを張っておき、しんどいカードがすぐに使えるように貼っておきます。しんどいことはそう簡単には訪れないので指導のタイミングが難しいのですが、毎日、子どもの様子を見ている人がチャンスをうかがって指導します。
おやつ
「昨日は山歩きをして、たくさん歩きました」「1年生もたくさん歩いてくれました」とスタッフから報告がありました。「おやつは食べた?」「いつも通りのおやつです」そこはちょっとスペシャルなおやつにしたほうがいいよと話し合いました。
放デイの日課はとかくマンネリ化しやすいものです。同じ道、同じおやつでは必ず飽きが来ます。飽きて当たり前です。ちょっと頑張ったかなぁと思うときは、その子が好きそうな味のおやつや飲み物を持っていくのがコツです。おいしかったという満足感と活動体験が心理的に連合するように準備するとわりと飽きがこないものです。
おやつだって、うまく使えば大事な支援の助っ人になってくれます。決まった時間に決まったおやつを出すのがおやつの時間と考えていては、ちょっともったいないという話でした。おやつの出し方にもメリハリをつけて活動の中に組み込みます。
なぜ子どもは窓に登ろうとするのか
「Zさんが窓に登るのは何故だと思いますか」と聞くと、Aさんの真似をしたいから登っているとのスタッフの理解でした。確かにAさんとZさんは同学年でZさんはAさんの後ろをついて離れません。そして、Aさんの好きな人形を奪ってAさんの大騒ぎを面白がったりするのです。
Aさんが窓に登るのは、固有感覚を刺激したくて、つまり力が余っていて窓に登るのです。そして、「Aさん!窓から降りてー」とみんなに注意されます。Zさんは、公園へ歩いていくのもめんどくさがる低緊張の、つまり体を動かすのに時間がかかる人です。誰も見ていなければ、窓になど登るニーズはありません。Aさんは人が見ていようが見ていまいが窓に登ります。
そうです。Zさんはめんどくさい体を動かしてでも、一つの目的で窓に登る必要があるのです。それは「みんなの注目」です。ZさんはAさんの真似をしたいツボは「ダメでしょ!」とみんなに注目を浴びることです。とすれば、療育の目標は適切な行動をしてみんなの注目を浴びる内容=「Zさんアイドル化大作戦」を考え出すことです。
運動会
先週の土曜が雨で運動会延期だったので、今日明日に運動会をする小学校がほとんどのようです。Y君が「今日は俺と走るやつ二人ともデブかったから1位になれたけど、あんまりうれしくない」というので「3着の奴は今最悪の気分かも知れんで、2着3着の人をリスペクトする意味でも、素直に喜んどき。」「あーわかった」とわりと素直に聞いてくれました。23着をリスペクトするというのが響いたかもしれません。
この日彼は、転校した学校での初めての運動会での徒競走だったのです。学年ごとの保護者観戦とはいえ緊張で喉が乾ききって、出番の時間までに持ってきた1リットルのお茶を飲みほしたと言います。相手の気持ちが読めないので全員が自分のことを注目しているに違いないという誤解からの緊張です。集団演技のソーラン節も終え、迎えに行ったら彼は疲れ果ててはいましたが、徒競走の成果もあり晴れ晴れとしていました。運動会は彼らにとってはかくも過酷な舞台なのです。
避難訓練
先週の土曜日雨で延期になった避難訓練を今日しました。「震度6強で近隣火災、向陽高校まで避難」という設定でした。前回も向陽高校まで避難だったのですが、武漢風邪予防の臨時休業中という理由で、職員はいたけど避難場所の体育館までは入れませんでした。今日は、体育館までは入れて、子どもたちはここに避難することが分かったと思います。
今回は車いすのXさんは介助者がおらず自力で戸口まで逃げるという訓練をしました。避難開始から戸外の車いす移乗まで5分かかりました。また、安全用のヘルメットも買ったのでみんなで被って高校まで移動しました。結構気に入ってがぶってたみたいです。
今日の避難人数は大人も含めて15名。避難から点呼まで5分。向陽高校体育館までは15分かかりました。みなさん、お疲れ様でした。
【避難開始から向陽高校体育館まで15分】
怒りの地雷を踏まないで
W君がもっとパソコンがしたかったのだけれど、その日はスケジュールが圧していて思うほどPCで遊べませんでした。W君は前回約束した通り約束した時間に終えてPCを片づけました。
でも、約束は果たしたけれど気持ちが収まりません。周囲のスタッフに悪態をつきはじめました。とは言っても彼は悪態=腹いせをスタッフにぶちまけているつもりはありません。「悪態」のように他の人には見えるだけです。自分が他者からどう映っているのかはW君にはあまりわからないからです。
彼にしてみれば、みんなが「腹減ったー」と言うのと同じ感じです。スケジュールが圧したのは誰のせいでもないけど納得がいかないのです。ところがスタッフがこの怒りに付き合ってしまうとややこしくなります。人にはこの思いを聞いてほしいけど解決してほしとも思ってないからです。
反応したスタッフは地雷を踏んだも同じです。子どもは怒りに任せて「なんでやねん」と喋っているだけなのに、「それは違うやろ」とか「理由は君も知っているやろ」などと返すと、「はー」と売り言葉に買い言葉の関係になります。こんな時は思いだけはうんうんと聞いてあげて、「約束通り終われてよかった!ありがとう!」でいいのです。それ以上踏み込んでは彼の値打ちが下がります。