すてっぷ・じゃんぷ日記

2024年6月の記事一覧

「ぼくもやりたい!」

 「1+1は何?」 大学時代に私が数学教育課程の先輩から尋ねられた問いです。子どもならいじらしく「田んぼの田!」と答えるかもしれません。大人なら当たり前に「2」と答えるでしょう。このとき私も「2」と答えました。続けて先輩が問います。「どうして2になるか分かる?」さて、みなさんはどう思われるでしょうか?

 「そう決まってるから?」「そうそう」このときの私の答えを、先輩はよしとしました。つまり2というものは「1+1」、3は「1+1+1」、10進法なら同じように9まで続きます。10からはその規則通りに増えていきますが、1から9に関しては、そう定義されているものなので、そのまま覚えるしかありません。

 小学校1年生のOくんはじゃんぷに通い始めて1ヶ月。工作や公園遊びが大好き。宿題はやらない!と初めは言っていましたが、スケジュールで見通しを持つことで、楽しみにできる事を励みに学習に取り組めるようになってきました。ただ見通しを持てても、算数の宿題を渋ることがたびたびありました。他の職員に聞くと、どうやら数唱が5までも出来ていないのでは、というのです。それで宿題を見てみると、バスに乗り降りする動物たちの絵が描いてあり、その動物たちを数えるというプリントでした。数唱が出来ないのでは、何を書けばいいかさえもわからなかったでしょう。このときは全部したくないと言うOくんと、1問はじゃんぷでやって、残りは家ですると約束し、「まる」で終われるようにしました。同時に1から9まで書いた表を用意して、それを使って1問解き、残りの問題も同じ表を持ち帰ることで、家で取り組んでもらえるようにしました。

 さて、Oくんの算数への支援をどうしようか考えていた矢先のことです。Oくんが公園遊びから帰ってくると、お兄さんたちが遊んでいた「街コロ通」というボードゲームが机の上に置いてありました。「これ、やりたい!」とOくんが先生に伝えます。Oくんには難しいかも…。待てよ、数唱の学習にいいかもしれない、と考え、いっしょに遊ぶことにしました。「街コロ通」はサイコロの目を数えたり、お金を数えたりと、数唱がいろんな場面で出て来ます。最初に1コイン5枚をもらい、値段に注目して買うお店を決めていくOくん。準備ができて早速サイコロを振ると、自分からサイコロの目を数えようとします。数が出てこない時は先生に教えてもらいながら、Oくんもいっしょに数を数えます。もらって貯まったお金が10を超え、12コインのお店を買うときは数えるのをあきらめかけますが、先生が10コインを見せると喜んで1コインを10枚数え両替。両替したお金で12コインを数えて、お店を買うことができました!

 遊びを通じて数を数えることの抵抗感がなくなって来たのか、最近のOくんは、学習の時間でも表を使って算数の宿題をやり切れるようになってきました。学習と同時に遊びや生活のなかでも、数を数えることが意欲的にでき、成功体験ができたことが、学習の場面にも生きてきたのでは、と思います。

「あの隠すやつ、ください」

 小学校で定番の宿題と言えば、漢字ドリル。ドリル内に漢字を書き込むページもありますが、印象に残りやすいのは短文をノートに写すことの方ではないでしょうか。学年が上がるにつれて短文の数が増え、またノートのマス目も小さくなっていきます。そして短文を書き終わると余りのマスに、その短文で新しく習った漢字を書くことまでセットなことが多いです。

 漢字ドリルをノートに写すことが苦手な子のなかには、ノートとドリルとを交互に見るときに、今どこを書いていたのか分からなくなる子がいます。今書いていたところをすぐに忘れてしまったり、見る情報が多くて視点が定まらなかったり、その子によって要因は様々です。

 先日も漢字ドリルに取り組んでいたLくん。ノートからドリルに目線を戻すたび、「えーっと…」と目が泳いでいました。そこでドリルをスタンドで立たせるとともに、今書いている行だけが見えるように、厚紙の真ん中を縦長な四角形で切り抜いたものを、ドリルの上に重ねました。するとMくんはすぐにやりやすさを実感したようで、「ありがとう!」と言ってスムーズに書き進めていきました。

 また向かいに座っていたNさん。「漢字嫌だー」と職員にずっと話しかけ、手が進みません。そこで同じように切り抜いた厚紙をドリルの上に重ね、その行が書けたら次の行に厚紙を移動して書く、と手順を教えました。すると「いやだ」の声は減っていき、3行目からは自分で厚紙を移動させ、静かに書き進めることができました。

 上で紹介した支援は、学習支援の場ではよくある支援の一つだと思います。ただ大事なのは、その道具を使ってよかったと実感すること、さらに言えば、自分から使おうと思い、使ってスムーズにできるかどうかではないでしょうか。実際に次にMくんが漢字ドリルをするとき、職員は声をかけずにいたのですが、Mくんは「あの隠すやつ、ください」と職員に伝えに来ました。そして厚紙を使いながら、漢字をスムーズに書いていきました。中学生のOくんにいたっては、その厚紙を使って漢字ドリルを書き終わった後で、「先生、これ持って帰っていい?」と職員に伝えました。「いいよ」と答えると、喜んで筆箱にしまったOくん。以来、Oくんの筆箱にはその厚紙がずっと入っています

ゲームでも「寄せて」

 すてっぷに来ている子は、社会性やコミュニケーションの課題がある子が少なくありません。距離感が近かったり、自分の物と他人の物の区別がつかなかったり…。トラブルの元をたどれば、その子たちの課題に繋がっていることがほとんどです。そして現代の子どもらしく、トラブルがゲーム(昔で言うテレビゲーム)の中で起こることもあります。

 ゲームにもいろんな種類がありますが、大別すると一人用ゲーム、多人数ゲームに分かれ、多人数の中には集まっている人同士で遊ぶものや、ネット上の顔も知らない人と遊ぶものもあったり、また対戦ゲームや協力ゲームなどもあります。すてっぷでは相互コミュニケーションが取れるゲームとしては、パソコンでのマインクラフトがあります。

 先日、Jくんが困ったような、半分泣いているような顔で職員に相談に来ました。Jくんが言うには「先生、Kくんがマインクラフトに寄せてくれない」。マインクラフトにもいろいろなモードがあるのですが、Kくんや他の友だちが協力してサバイバルをしているところに寄せてくれないと言うのです。そこで職員がKくんに理由を尋ねました。するとKくんはこう答えました。「だってJくん、人のものを取ったり、自分だけクリエイティブモード(好きなものを出し放題、壊し放題できるモードです)に変えるんやもん」

 確かにマインクラフトで友だちといっしょに同じ世界で遊ぶときは、友だちがアイテムを入れた箱から、違う人がそのアイテムを取り出すことができます。またモードを変更し、冒険を楽しむのか、モノづくりを楽しむのかと遊び方を変えることもできます。ですがそれは協力したり、同じ遊び方で楽しもうと決めたりするなど、便利なようで実はコミュニケーション・社会性が求められる場面になります。

 ですが、だからこそコミュニケーション・社会性の課題に挑戦する絶好のチャンス! 職員はKくんが言ったことをJくんに確認します。Jくんも悪気があったのではなく、衝動的にしてしまったこともあったようです。そこで「ホワイトボードに約束を書いたら、約束を守れるかな?」と聞くと、Jくんは「うん」と答えたので、Jくんと一緒にKくんのもとへ。Kくんにも「ホワイトボードを見て約束を守れたら寄ってもいい?」と聞くと、「それならいいよ」と答え、Jくんも参加していっしょにマインクラフトで遊ぶことができました。

 ゲームにより制約はありますが、一緒に遊ぶものだからこそ、コミュニケーション・社会性が求められる場面があります。そういった場面では楽しいゲームをいっしょにしたい!だからがんばりたい…!と思う子が少なくありません。そういった機会は逃さず、課題にチャレンジできるよう、また失敗を繰り返さないよう支援をしていきます。