すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

任せたよ!

仕切る : 01/29でのV君がBさんに「僕,人に教えるの苦手やからBさんが卒業までにW君にマナーを教えてよ」とお願いをしていました。Bさんは「卒業する私よりもV君が教えた方がいいんじゃないの?」と答えました。V君は「みんなそう言うやん~!」と言いつつ「しゃーないかなぁ…」と少し納得している様子でもありました。

前回は職員から「仕切ってほしい」とお願いされると「うーん…」と悩んでいたV君ですが,先輩に言われるとやる気を見せます。職員等,大人からの声掛けも大事ですが,先輩や友達からの声掛けは大きな力を持っています。大好きな6年生の卒業が近づくにつれてこれからの自分の役割について真剣に受け止めているようです。

「やっぱりW君は苦手やなぁ」と言っているV君ですが,先輩達に後押しをしてもらって少しずつやる気が出てきているようです。V君,任せたよ!

 

缶がありません!

職員がK君に「アルミ缶を20本持ってきて缶潰しをしましょう」と作業課題の指示を出しました。するとK君はアルミ缶数本と,ペットボトルを十数本持って来ました。職員が「ペットボトルじゃなくてアルミ缶だよ。」と指示を出してもK君は動こうとしません。

職員がアルミ缶のある倉庫を見に行くとアルミ缶は底をついていて、K君が持ってきた分しかありませんでした。K君は「アルミ缶が少ししかないけど20本って指示されたから足りない分はペットボトルを持っていくか」と判断したのでしょう。

倉庫にアルミ缶を取りに行った時,あるいは「ペットボトルじゃなくて~」と言われた時に「ありませんでした。」「できません。」といったことをK君が職員に伝えることが出来たらすぐに解決できたと思います。

K君は機能的言語のみられない子ですがiPECSを用いてコミュニケーションを取ることが出来ます。しかし,こうした場合に援助を求めることができません。作業課題で欠品を職員に「ありません。」「○○が△個足りません。ください。」といった練習はしているのですが、汎化はしていないようです。機会をとらえて練習が必要だと感じました。

理由を考える

悪くないのに「ごめん」て言うか? : 01/20)でのQ君が,Yさんと職員でドッジボールを楽しんでいました。Yさんは鬼ごっこが好きで,「鬼ごっこしたい!」と提案をしましたがQ君がシュン...と黙ったので「じゃあドッジボールはどう?先生と3人でチームを回しながら遊ぼうよ」と別の提案をしてくれました。

するとQ君は「それなら一緒にやろうかな!」と乗り気になり,楽しく遊ぶことが出来ました。

振り返りの時に「今日は積極的に遊んでいたけど何か理由はあるの?」と聞くと「うーん…」と考え込んで,「前に先生が言ったようにルールのある遊びが好きなんかな,鬼ごっこは嫌やけど色鬼とか高鬼は楽しかったし。」と話してくれました。「やっぱりそう思う?じゃあ次鬼ごっこの提案があった時は『何かルールのある鬼ごっこやったらいいよ!色鬼とか!』って話してみたら?」と職員が提案してみると,「ちょっと考えてみるわ。」とQ君は話してくれました。

以前はすぐに「わからん!」と言っていたQ君が自分で理由を考えようとしていたことに驚きました。Q君はナラティブストーリー(ソーシャルストーリー)に取り組んでから時間を守るようになったり低学年の友達と優しく接してくれるようになりました。まだまだ形式的な他者理解ではあるけれど,この理解に支えられて,友達に断るときの「理由を考えてみたら?」という提案が役に立ったのかもしれません。

引き続きQ君と社交マナーの背景にある他者理解に取り組み,ロールプレイなどにも取組んでいこうと思います。

友達との約束

PちゃんはiPadでゲームをすることが好きな子です。特にピンクのカバーを付けているiPadにはお気に入りのゲームが入っている様で,他の子がそれを使っているのを見ると天井に向かって「ピンクタブレット~~!!!」と大声を出してパニックになってしまいます。その度に適切な要求行動に修正をする「やり直し」をお願いしています。

U君がピンクタブレットを使っている時はPちゃんはパニックになりません。落ち着いて「貸してください」とお願いをしに行きます。ここ半年程,U君にPちゃんがピンクタブレット使いたいと適切に要求してきたら拒否しないで『17時になったら僕と交代してね』と交渉する様に取り組んでもらいました。Pちゃんには交代の練習,U君には交渉の練習と言うことで半年間積み重ねてきました。今は,PちゃんはU君との交渉の意味が分かり,U君が「時間になったから僕に貸して」と言うとPちゃんは「どうぞ,ありがとう」と言って渡すことが出来るようになりました。

すると先日,C君がピンクタブレットを使っているとPちゃんは「ピンクタブレット~!」と叫んだのですが,C君がU君と同じように「この時間になったら交代してね」と交渉をするとPちゃんは時間ぴったりに「どうぞ,ありがとう」と渡したのです。U君と約束をする経験を積んでことが他の友達に対しても出来るようになりました。これにはC君も他の職員も驚いたそうです。適切な行動をした時に褒めればその行動は強化されていきます。ABA(応用行動分析)の成果を目の当たりにした瞬間でした。

アイコンタクト

Gちゃんと一緒にその日の山登りで食べるラーメンとお菓子を選んでもらおうと買い物に行きました。すてっぷから近いドラッグストアに,Gちゃんはルンルンでお買い物に行きました。

機能的コミュニケーションの弱い子なので,会話での確認は難しいですが,「たけのこの里」を取ると一度職員の顔を覗き込み,次にサッポロ一番を取るとまた職員にアイコンタクトを取ってきました。「これでいい?」の合図です。

以前までは欲しいジュースがあったら冷蔵庫に向かって「ジュースください!」とお願いしていたり,自分がのりたい車に乗れるよう配車表の顔写真を動かしたりしていたGちゃんが,大人の了解がいる行動には確認を求めるようになってきたのです。

視線が合うようになってきた:2021/10/21でも書きましたが,適切なコミュニケーションをした時に褒める,ということを繰り返してきました。最初はご褒美のお菓子と褒め言葉でしたが,褒める事を続ける中で、大人の評価を意識できるようになってきたのです。最近ではGちゃんが「ルールが分かりにくい子ども」から「適切に教えればルールが守れる子ども」という見方に変わってきています。

今Gちゃんにスケジュール支援をしています。以前とは違い,スケジュールを勝手に動かすことはありません。少しずつ練習を重ね,定着をさせていこうと思います。

先輩の姿を見て学ぶ

新しくすてっぷに来た2年生のY君はとても穏やかな子ですが,中々自分の気持ちを言い出せない子です。マインクラフトが好きなようですが,遠慮をしているのか友達がしているのを後ろから眺めています。職員が「一緒に遊んでもいいよ」と促しますが「見てるだけでいい」と答えます。

そんな中,同じ2年生のZ君が「一緒にマイクラしよう」と誘ってくれました。するとY君は少し考えて「やる!」と言ってZ君と一緒にマイクラを始めました。

Y君が最初見ているだけだったのはパソコンの操作方法がわからなかったから,ということでした。それをZ君に伝えると,「僕教えるから一緒にやろうよ」と誘ってくれたのです。

今まで先輩のことが大好きで,誘ってもらいながら一緒に遊んでいるだけで楽しかったZ君が初めて自分から友達のことを「一緒に遊ぼう」と誘いました。Z君自身は「なんで誘ったのか?」と上手く理由を話すことは出来ませんでした。しかし,きっと今までの先輩の姿から「こうしたら友達は喜んでくれる!」と学んだのでしょう。

友達と遊んだ方が楽しいやん

設定遊びが終わった後,W君が「スマブラ(ゲーム)をしてもいいですか?」と聞いてきました。W君は宿題が嫌いなので,事業所で宿題をやりたがらないのですが,今は「終わったら好きなゲームが出来るよ」という約束で頑張っています。シャイなW君ですが,とても大好きなゲームなので「ゲームがしたい!」と積極的に申し出てきました。

すると1つ上のR君が「僕も一緒にやっていい?」と聞いてきました。初めは「パソコンでゲームする」と言っていたのですがW君が「スマブラしたい!」と言っているのを聞くと少し考えて職員に聞いてきたのです。許可をすると2人で協力しながら配線等の準備をし,楽しくゲームをしていました。

後からR君に「最初はパソコンしたいと言っていたのになんで変えたの?」と聞くと「あのゲームは友達と一緒にやって面白いやつやから」と答えてくれました。普段は口が悪い,と責められがちなR君ですが友達のことを思って行動する一面も持っていたのです。

今すてっぷに通っている小学6年生の子ども達は3月で卒業をします。「一気に6年生卒業しちゃって大丈夫かな?」と思っていましたが,今日の姿を見て安心をしました。

“書いて覚える学習”に必要な力 Y先生のじゃんぷ通信11

「書いて覚える学習」に必要な力 Y先生のじゃんぷ通信11

学校の宿題には漢字ドリルを毎日書いて覚える宿題がどの学校にもあります。確かに我々親世代も、小さい頃は書いて覚えることを経験しています。書いて覚えることに何の疑問も持たないのが当然かもしれません。

先日「読み書き障害」の研修会があり、その中で発達性ディスレクシア研究会理事長の宇野彰先生からこんなことを教えてもらいました。
実は“書いて覚える学習”の中には次の5つの力を同時にやっているということでした。
①形態をとらえる「視知覚の力」(目で漢字等の文字の形をとらえる) 
②とらえた形を覚えておく「視覚記憶」の力(目で見たものを短時間覚える力)
③だいたいは読めるので「音の記憶」の力(音としても記憶する力)
④意味も分かるので「意味の記憶」の力(その漢字の意味も記憶する力)
⑤「筆順の記憶」の力

子ども達がノートに書く作業はじつはこんなに多くの力を使っているのです。ほとんどの子ども達は大人と同じように無理なくこなしていますが、この力のどこかで困っていると、それをカバーするのにエネルギーを使いすぎて、他の力にも影響が出てきている子どもたちがいます。

・「えーと、『せ』という字はどんなんやった?」と思い出すのに2秒ぐらいかかります。
・漢字を写すのに、ドリルの手本を何回も見直さないといけない。
・ノートに書いているうちに、一本線が足りない字になってしまう。
などなどの様子が見られます。こんな時に「ちゃんと見なさい」「書いたら覚えるはず」と言っても解決しません。

宇野先生は、5つの力を同時に使うことがうまくいってない時は「分けて学習する」といいと言われます。放課後デイじゃんぷでは、その子の困りに合わせてどの力を使いやすくするかを見つけながら取り組めるようにしています。子ども達の見せる様子から、こんなことをアドバイスしていると次は紹介していきます。

 

ランニング

ASD者のランニングを扱う映画、古くは監督がロバート・ゼメキス、出演がトム・ハンクスの「フォレストガンプ」。日本では、2007年TBSドラマでで二宮和也(嵐)主演でも放送された韓国の元映画「マラソン」が思い起こされます。X君も走ってみるかと職員が走りに連れ出すと、それまで暗かった顔色が消え楽しそうに走ったそうです。X君は最近、お箸の上げ下げまで指示待ちになって生活がしにくくなっている中学生です。

X君は小さい時多動で、すぐにいなくなってしまう子どもでした。その多動が収まるとしばらくは適応性が伸びたのですが前思春期の6年生頃から指示待ちが多くなり日によって変動はありますが、人がいるところでは細かな指示をX君から要求し指示されないと活動ができない様になっています。ただ、歩いたり簡単な調理をする時は指示待ちの姿はないので、外歩きを毎日取り入れています。

一緒に歩く職員がこれではつまらないと思ったのでしょう。一緒に走ってみることにしたそうです。そうすると、とても嬉しそうに走るので、何かを目標にして走れば周囲も目標を持って一緒に走れるかなと考えました。1時間程度走れるようになったら市民大会などに参加できるので、まずは15分くらいからトレーニングプランを立てています。

ただ、わが事業所の平均年齢は50歳と若くはないので、まずは自転車伴走で安全に走れるトレーニングからします。目標は木津川マラソン宇治川マラソンくらいを設定すればと思っていましたが、軒並みコロナ中止です。一斉に走るのが感染率を高めるなら、京都マラソンはやったのだから50人ずつ時間差出走すれば出来るじゃないかと思うのですが、「触らぬ神に祟りなし」「当たらぬ蜂には刺されぬ」「触り三百」とどの主催者も後ろ向きです。でも、自転車伴走トレーニングはやってみようと思います。

仕切る

V君に、来年はV君が小学生では最高学年だから後輩たちを仕切ってほしいとお願いすると、申し訳なさそうな顔をして「僕は無理」と言います。理由を聞くと自分は人づきあいがうまくないので自信がないそうです。いつも、みんなと楽しそうに遊んでいるのに「人付き合い」は難しいと思えるようになったところが偉いなと思います。V君は友達のことについてはあれこれ批評するのです。~君は周りが見えてないとか~さんは一方的だとか、あの職員は言っていることに筋が通ってないとか、会話の中では結構的確に評価しているのです。

V君、友達の事よくわかっているから仕切るのは適任だと思うけどなと返すと、「あのな、人の事が分かるのと、リーダになって人を仕切るのは全然違うねん」ときっぱり言うのです。そういえばV君昨年の運動会では応援のパートリーダーに立候補して頑張っていました。リーダーの役割を果たして少しわかったことがあったのかなと感じました。立候補した時は、舞い上がっていたのですが、練習が進むにつれて「パートのリーダーやからね。全体リーダーに合わすだけやから」と念を押すようになって少し冷静になっていたので何か考えるところがあったんだとは思っていたのです。

「そうか、仕切るのは嫌か。だとすると次の候補は君が嫌っているW君だけど大丈夫かな?」V君しばらく考え込んで、「W君はな、話は合わせるの上手やし、最初はうまくやると思う。だけど口の利き方がきつい時があるから、だんだん嫌がられるのとちがうかな」と語ります。「そんなこと言わずに二人で力合わせて行くしかないよ」と返すと、「う~ん、僕は向いてないねんけどな~」と真剣に考えこんでいました。今まで周囲の事など顧みず体を動かすことにしか興味がないと思っていたら、気が付かないうちにV君結構成長したなと感じています。

 

ハサミ

U君がスケジュールに書いてもいないのに「ハサミくださ~い」と言って牛乳パックを分解する作業を要求しました。U君のこれまでの自発的な要求と言えば「キッチンラーメンくださ~い」と「サイダー飲みま~す」だけだったので職員は驚いたと言います。

U君は自発的な要求が少なくて、結果、事業所から飛び出して大人の注目を集める不適切行動になってしまうので、「嫌ではない作業」に大人が注目して褒めると言うことを繰り返してきました。その結果注意喚起行動はなくなったのですが、好きなことがなかなか見つからないのは同じでした。

そんな中での「ハサミくださ~い」だったので、ハサミを使う活動が好きなことが分かったのです。お母さんに聞くと小さい時にはハサミでいろんなものを作るのが好きだったそうですが、大きくなると使わなくなったそうです。原因は不明ですが、切り出すレパートリーが尽きて飽きたのかもしれません。

たまたま、他の人が作業しているのを見てハサミ大好きが蘇ってきたようです。U君たちの好きなものを探すのには大変苦労をしています。好きなものがないと、新しいことや苦手なことに取組む際に交渉ができないからです。だんだん上手になっていくということは伝えにくいので、どうしても好きなことと引き換えの交渉が大事だからです。らーめん・サイダー・ハサミと、飽きないうちに次の好きなものを探すために、TTAP(TEACCH Transition Assessment Profile:移行アセスメントプロフィール)を使ってみようかなと考えています。

 

信頼関係を作るとは?

Tちゃんが、怒ってヘッドホンを破壊したと報告がありました。理由を聞くと、Tちゃんのスケジュールを無視して公園に連れて行こうとしたのが原因です。何故スケジュールを無視したのか聞くと、タブレットで遊んでばかりさせないで公園で体を動かした方が良いと職員が思ったからだそうです。そして、ヘッドフォンを壊した後はやり直し行動(別の穏やかな方法を教える)もさせなかったと言います。不適切な行動をしたTちゃんには、エラー修正より謝らせることが大事だと言いたそうです。

これをTちゃんの視点から考えてみます。「通所してきたら先生がスケジュールを示して今日の内容が分かったので嬉しいな。他の場所では、何が起こるかわからないので、好きな事だったらいいけど突然嫌なことが始まるとドキッとしてムカムカするからいやなの」「今日は公園に行って遊んで、帰ってきておやつを食べて、タブレット遊びだ、わたしタブレットで踊りの動画見るの好きなんだ楽しみー」。

タブレットで動画を見ていると突然職員が公園に行こうと言います。「えーっ!来た時にスケジュールでタブレットって約束して貼ってあるじゃん。なんで約束やぶるのー?しかも突然だし、交渉もないし、あムカムカしてきた!えーい ヘッドホン潰しちゃえ!」

「なんか外に連れ出されてヘッドホン潰したらだめっていうけど、ごめんなさーいって言ったら中に入れてくれた。そうか、ごめんなさーいと言うと中に入れるんだ。いいこと覚えたっと」「ヘッドホン潰したら、またタブレットで動画見る事ができたよ。うれしーなー。これから、タブレットを止めさせられてムカムカしたらヘッドホン潰せばいいんだ」

私たちは、子どもとの信頼関係を結んでこそ療育成果があがるとよく言います。子どもとの信頼関係とは指導者の一方的な思い込みではありません。子どもとの約束を守る中でしか信頼関係は結べません。大人が一方的に決めるのは約束ではないのです。子どもに説明し子どもが理解をしてこそ約束なのです。どんなに素晴らしい療育も子どもとの信頼関係が崩れてしまっては効果は上がりません。逆にやればやるほど子どもの信頼を失います。スケジュール指導は子どもとの信頼関係(お互いの約束・交渉)の中で成立するものですし、ASDのスケジュール表は信頼関係そのものと言っても過言ではありません。

家庭がもたないです

Sちゃんのお母さんから、「先日まで真ん中の子が学校で濃厚接触だったので十日休んでほしいと言われて欠席してやっと終わったと思ったら、今度は保育所で下の子どもが濃厚接触だから休んでほしいと言われて、家族はいつも濃厚接触者の濃厚接触者だから、全員学校や園を20日間休み続けることになります」と連絡が入りました。

濃厚接触者の濃厚接触者は保健所は隔離対象に規定していません。保育所や学校に行って同じクラスにいれば濃厚接触者の可能性は高いです。しかし、そもそもこの感染症は無症状の人がものすごく多いのです。そんな規制をしても見えないところで感染は広がっています。そして、たまたま発熱した子がいると検査をして感染が発覚すると言う体です。

今回の感染症の感染力が強いというのは、気がつかないうちに感染し気がつかないうちに感染させているから広がるのです。そして、その周囲を検査すれば無症状の人を含めて陽性者数はどんどん増えます。そして、この数値変化だけを見て怖がる人に不安を与えたくないと、石橋をたたいて渡ろうとする管理者がどんどん増えていくという仕組みです。

その結果、保健所が規定もしていない濃厚接触者の濃厚接触者も学校に来てくれるなと言う判断がまかり通るようになります。ただ、そんなことをしても無症状感染が続く限りは予防したことにはなりません。つまり、根拠のない安心感を与えることは可能かも知れませんが、予防効果としては科学的に全く意味のない協力要請をしていると思います。

毎日、感染者数が史上最高に達したという報道が続いています。これは、降り積もった雪の深さではなく、どの範囲まで降ったかと言うに等しい報道で、こんな報道を毎日繰り返すのはほとんど意味がないです。感染症の報道で第一義に必要な情報は降雪報道で言えば深さです。つまり症状なのです。ほとんどはすぐに溶けるような雪がどこまで降ったかなどの連日の報道は意味がないのです。

それでも雪が降ったのは事実ですからまだ良いです。しかし、降ってもいない雪を、周辺地域で降るかもしれないから外に出るなと言い。ついには、降るかもしれない周辺地域の周辺地域だから外に出るなと言っているに等しいのです。しかも、その降雪のほとんどはすぐ溶ける雪です。さすがにこれは正しい判断とは言えません。

Sちゃんのような家庭はきっと少なくないし、まだまだ増えると思います。科学的で民主的な思考ができれば、休んでほしいとは言えないはずなのですが、科学も乗り越えて効果のない協力を市民の義務だとばかりに求める姿は、いつか来た道を思い出させ、感染症より恐怖を覚えさせます。

※京都府のQ&Aより
Q3. 職場に出入りしている別の業者の社員が濃厚接触者と判定されました。この場合、自分の職場の人間も濃厚接触者になりますか。
A3. 濃厚接触者は患者との接触者を指します。そのため、濃厚接触者と接触してもただちに濃厚接触者と判定されるわけではありません。

京都発達性ディスレクシア学習会 記念講演に宇野彰先生

1/22の土曜日、学習障害の中核ともいわれる「発達性読み書き障害」について発信していこうという「京都発達性ディスレクシア学習会」の設立総会が開かれました(NPO法人ホップすてーしょんはこの事業を後援しています)。乙訓地域近隣の50名程の学校教員や教育委員会関係者、児童通所施設関係者が集まって設立されました。

本事業所では、学びの広場じゃんぷで発達性読み書き障害の児童生徒の療育を1年前から開始しています。発達性読み書き障害はまだ一部の大人にしか知られておらず、特別支援教育に関わる教員や発達障害に関わる福祉関係者でも、読み書き困難の問題を知的障害が原因と考えていたり、学習量が足りないから読み書きが不十分だと考えている人が少なくないことです。

発達性読み書き障害は先天的な脳の障害で、知的障害や当事者の学習努力とは何ら関係がないものです。文字を音に変換したり音を文字に変換することを音韻処理と言いますが、この変換処理が障害を受けていて読み書きの速度が遅くなるのです。

読み書き障害の子どもはいませんかと教員に聞くと、読めない子はいませんという教員が多いです。発達性読み書き障害は全く読めない子だけを指すのではなく、読み書きの速度の遅い子どもも指している事を知らない教員が多いのです。

読み書きが遅いという事は、苦手な読み書きが入るとその処理にものすごくパワーが奪われるということです。慣れない作業をするとすぐに疲れたり集中力が落ちたり、創造的なことが考えられなくなります。同じように、発達性読み書き障害の子どもはいつまでたっても慣れない作業状態が、学校で長い時間続いていると考えるとイメージがしやすいと思います。

この事実をまず、多くの学校関係者、保護者、子どもに関わる全ての人に知って欲しいと言う目的でこの会は設立されました。記念講演には、発達性読み書き障害では我が国で第一人者である宇野彰元筑波大学教授にご講演いただきました。視聴者からは、もっと早く宇野先生の話を聞きたかったという感想が寄せられています。一人でも多くの関係者が「発達性ディスレクシア」を知り、適切な支援方法があることを学んでほしいと思います。この会の事業をホップすてーしょんは長く支えていきたいと思います。

 

自発的に嫌を表現する

R君の感情表現はどうすれば引き出せるか話し合いました。例えば、作業中につかれてしまって、もうやりたくないと思った時に、絵カードで「疲れたから もうやりたくない」をどのようにして教えればよいかという事です。そもそも、疲れたとかしんどいとか、元気とか嬉しいとかの表現を教えていなければ、せいぜい作業カードの上に✕カードをかぶせて「作業なしです」と持ってくるくらいしか方法がないです。

理由まで明らかにするには体調や感情の表現が必要になります。PECSには感情の表現はありません。「嫌です」は応答のコミュニケーションとしてフェズ2で身振りなどを教えますが、自発の嫌です表現のトレーニングは掲載されていませんから、これらはアドバンス編に入ってくるのだと思います。また、自発的な感情の表現についても初級マニュアルにはのっていないので、教えるのは結構困難な内容なのかと思います。

障害が重くても自分の体調や感情が伝えられたら、具体的に助けてあげられない場合があるにしても、相手に伝わったことでカタルシスを得る場合はあると考えています。R君にも「元気」「うれしい」「やりたい」と「疲れた」「悲しい」「嫌だ」を教えていきたいと思います。具体的にはスケジュールを伝える時と、作業や課題が終了した時に表情カードを選んで表現するように教えたいと思います。ほとんどは「元気」や「うれしい」かもしれませんが、きっと疲れる時や嫌な時もあるはずなので機会を見つけて教えていけたらいいなと思っています。

 

 

 

悪くないのに「ごめん」て言うか?

Q君は鬼ごっこが嫌いなようで、公園遊びの時でも参加したりしなかったりします。参加していない時に職員が「何で参加しないの?」と聞いても「わからん」といい、参加している時に「何で参加したの?」と聞いても「わからん」と気分で参加しているようだと報告されています。友達から「最低理由は言えよな」という友達の言葉にも「わからん」と返すようです。

Q君が遊びに参加しない言い訳を考えないのは、いつも遊ぶ友だちにどんな思いをさせるかという事が気にならないからです。人と遊んでいても、友達が参加しないことも気にならないからです。ASDの人に気にしてよというのも変なのですが、彼の事をよく知らない人なら、何も言わずに参加しないなんて俺たちの事を軽く見てる嫌な奴と勘違いされるので、エクスキューズは社交マナーとして必要なものだということをどこかで教える必要があるなと感じています。

この場合は、参加しない代わりに○×というような交渉の中身でというより、まずナラティブストーリー(ソーシャルストーリー)で『いつも遊んでいる仲間が、そこにいるのに何も言わずに参加していないと、とても気になります。何も悪いことはしてなくても「ごめんな」と言って、「また今度参加するね」と言います」』と言う内容を考えてあげる必要がありそうです。

たぶん、Q君にしてみれば悪いこともしてないのに謝るのは不思議がるとは思うのですが、これは失礼なことはしていないのに「失礼します」と家に入るマナーと似ていると説明すればわかるかなと思いつつ、なんだかQ君とややこしい言葉じりの話になりそうで気が進みませんが・・・。

 

キッチンラーメン、バイバイ

P君が大好きな西山登りと頂上でラーメン作りの取組をしています。今日も事業所に来るなり、いそいそと自分でリュックにラーメン調理七つ道具(チキンラーメン・水・バーナー・ガスカートリッジ・コッフェル・カップ・箸)を詰めて準備完了です。雪のちらつく中意気揚々と西山の道を上がり頂上での調理も手慣れたものです。

あーおいしかったと頂いた後、「キッチン(チキン)ラーメン、バイバイ」と職員に向かって言ったそうです。さすがに飽きたかなということでした。これからはコンビニに行って好きなものを本人と選んでからでかけたらどうとかという提案と、ソース味が好きだしインスタント焼きそばを調理したらどうかと言う提案がありました。

これも日清とサッポロがありますので、粉ソースの日清も液体ソースのサッポロも両方試してみればどうだろうということでした。焼きそばと言うとペヤング・一平ちゃん・UFOというカップ麺御三家がありますが袋麵焼きそばはほとんど子どもには知られていないので、どんな反応をしてくれるか楽しみです。

みんなで歩けば楽しい

N君に今日はOさんと一緒に西山登りに行くことを伝えると二つ返事で快く了解してくれました。先日、ブログで【みんなと歩調を合わせる: 01/14】 で、相手を意識しながら歩けるようにと、荷物を棒にくぐりつけて二人で担いで歩く山登りを提案しました。これを二人だけで取組んだのではあまりにつまらないので、仲間を増やしてみんなで運んだり、代わりばんこに運んだりするためにN君とOさんに協力してもらったのです。

N君はOさんが大好きなので、何を取り組んでも楽しいのですが、取り組んでみると、Oさんもげらげら笑って楽しそうに取組んでいます。何が楽しいのと聞いても「何でかわからんが楽しい」そうです。二人は学校も違いますから週に1回しか会いません。ちょっとした共同作業でも、気の合う男女同士だと楽しいということです。

その二人の楽しさに巻き込まれてか、最近眉間にしわを寄せて機嫌悪そうに歩いているP君も今日はニコニコしています。歩調合せる課題のあるQ君もなんとかみんなを意識して歩くことができました。重度の人の場合どうしてもマンツーマンになったり集団が小さかったり固定した集団になりやすいですが、N君やOさんがいることでまた違ったムードが作れます。ASDだからいつも同じメンバーが良いと言うわけではないのです。

自分のことの教え方

いつもゲームでM君が大声で仕切るので他の子どもはうるさくてトラブルの原因になっていました。職員も1か月くらい前からM君の声がやけにでかくなって以前に戻った感じがすると報告しあっていました。それをM君に話しても、「え?大きいかなぁ?」と全く自己フィードバックしていませんでした。

先日、カードゲームをしていて今回もゲームを仕切ろうとするので、それを嫌って他の子どもが今回はM君提案を却下しようという発言がありました。職員はこれはひともめするなと構えていたら、M君「あ、そう。じゃぁ撤回」とあっさり引き下がったので、職員も子どもも肩透かしをくらいました。あの場面なら確実に高学年同士のマウンティングの取り合いになるので、M君なら大声を上げて譲らなかったはずだと職員は言います。

連絡帳を読むと、昨日からコンサータが増えたと記述されていました。服薬のM君への効果はてきめんのようです。しかし、これだけ違うと改めてM君の言動はM君の性格や背景になる環境が問題なのではないということが分かります。ただ、M君を褒めると「薬のせいやし」と言うので、薬のせいで性格が変わったのではなくその姿が本来の姿だと伝えたいのですがこれがなかなか難しいです。心理学的医学教育を医療・教育・福祉の誰が行うのかはっきりしない中で私たち自身も模索をしています。

 

 

みんなと歩調を合わせる

外出する機会に、一人で歩ける子どもはできるだけ一人で歩けるようにしています。ただ、困ったことに全体に合わせると言う歩きができない人が多いと職員の手が足りなくなり、早い人を見失ったりしやすくなります。別に特別に早いわけではないのですが、とても遅い人がいてこの人に合わせると普段の倍ほど時間がかかります。

L君にしてみれば、これまで誰かが手をつないでくれていたので、遅いと引っ張られたり背中を押されて歩いていたのです。手を離されると、全体の速度などはお構いなしにどんどん遅れてしまい最後には前の人が見えなくなってしまいます。この場合に、背中を押したりひっぱたりしないで歩けないかどうか職員で話し合いました。

とにかく、周りが気にならないならそれは無理だということになり、その前に自分とともに歩いている人を意識できるようにするのが先だと言う話になりました。ではどうするか、いつもはできないけど山登りの時にリュックに入れて荷物を運んでいるのをやめて、交代で二人で運ぶのはどうかという案が出ました。担ぎ棒を二人で担いで棒に荷物をくぐりつけるのです。これなら少しは相手を意識しないだろうかと言う提案です。

できることは何でもやってみようという事で明日から取り組んでみようという事になりました。コミュニケーションが取れない人の場合、一人でできるけど周囲が不安なので何でも介助されて、自分の意志と関係なく依存性が高まります。結果、周囲に合わせるという経験の機会を失い、周囲に合わせられないというレッテルを貼られて一生過ごすことが少なくありません。個別化するとは一人一人がばらばらでいいと言っているのではありません。個性は認めつつもお互いに工夫や折り合いをつけて共生しようとするのが個別化の目的です。ただ言うは易し行うは難しです。

 

子どもの遊びを作る仕事

Kちゃんが最近公園に行きたがらないし、公園に行っても以前は車いすから降りてブランコや滑り台に歩いて行ったのに今は車いすから降りようともしないと報告がありました。理由を聞くと、お母さんは寒くなるといつもそうだと言われるようです。外は寒くていやだということです。先日も、外に行くのでオーバーパンツを履かせようとすると執拗に嫌がったと言うのです。防寒着を着れば外に行くと知っているという事です。

Kちゃんの場合は交渉がまだできず、イェスかノーしか表現できないから、防寒着を押しやったり払いのけたりする「嫌ですサイン」が出たら無理に外出せずにわかったよと受け止めてあげればよいと話しました。でも、寒いのが嫌なのは分かったけど、寒くない部屋では車いすのベルトを外すとそこら中うろうろして棚のものを引きずり出したり、机の上のものを落とすので目が離せないと言います。

それは外で遊べずエネルギーが余っているわけだから無理もないよねと話しました。物を引っ張り出したり、落としたりして楽しむのは乳児期後半の遊びですが、その事が楽しいならプレイエリア内で引き出したり落としたり遊びをしてはどうかと話し合いました。段ボール箱を倒したり落としたりして楽しむ遊びや倒した段ボールトンネルをくぐったり等いくらでも遊びができそうです。障害の重い子どもの遊びは少ないからこそ、大人から仕掛けて遊びを作る必要があります。家では困る事でも事業所内なら遊びにできる事もあります。

 

手伝ってカードは難しい

作業が難しくてできない、探しているものが見つからないなど、困ったことがある時「手伝って」カードを使う指導をします。PECSのフェイズではフェイズ3で教えます。離れたところでも自分の欲しいものが絵カードで伝えられるようになる時期と並行します。J君はフェイズ3Bで欲しいもの同士の絵カードが正しく弁別できるようになっています。(3Aは欲しいものといらないものの弁別)

ここで「手伝って」が教えられるはずなのですが、J君にとっては、欲しいものが見つからない助けてと、作業を手伝ってほしいの手伝ってはどうしても同じものには思えないようです。それよりも、音絵本の電池が切れたから「手伝って」と職員に示すより、絵本と「K先生」の写真を持って2階に上がっていくほうが分かりよいみたいです(K先生の顔写真をK先生に渡して電池交換しての意味を伝えています)。「手伝って」カードは手のひらカードに助けてと書いてあるだけのもので、かなり抽象性が高いので、J君にはわかりにくいのだと思います。

くつも一人で履けない時に、手伝ってカードではわかりにくく、靴を履かせている写真の方が具体的で分かりやすいんじゃないかと話しています。ただ、手伝ってカードはお助けのワイルドカードで、これ一つで困ったときに援助が来るよという意味合いを理解させるツールなのでいつかは理解してほしいとは思うのですが、マニュアル通りには使えないようなので、しばらくは場面ごとの具体的支援内容のわかる手伝ってカードを準備するようにします。

 

涙の訳

H君が涙ぐんでいるので、職員に話を聞くと、昼食準備の時間なのにPCをかたずけるのが嫌で職員から急かされて泣いたと言います。あとでこっそりH君に理由を聞きました。「H君ともあろう人がそんな事で泣くのは不自然やなぁって思うねんけど」と。「あのな、かたずけは関係ないねん。6年に口の利き方が生意気やってずっと言われていて、それが積み重なって今日はとうとう泣いてしまってん」と胸の内を話してくれました。

H君は生意気な新入り低学年だと高学年たちからディスられている子どもです。さすがに高学年ですから、面と向かってはあまり言わないのですが、たまに高学年の堪忍袋の緒が切れて今回のようになります。それでも、相手の気持ちが読みにくく自己フィードバックも弱いH君には、みんなと同じようにしているじゃないかと、いわれなき非難として受け止めているのです。

でも、どうして他の職員にはかたずけが嫌だったなどと嘘をついたのかと聞くと、「そんな悪口くらいで泣いてしまう自分が恥ずかしかったから、別の理由を言った」というのです。H君それだけ自分をカムフラージュできるなら、なんで高学年の前でもカムフラージュしないのと思いますが、そこは違うようです。

「悪口で泣くのは恥ずかしいが、大人の指示を嫌がって泣くのはまだまし」変な基準ですが、友達とのトラブルでは泣いてはならじというのがH君の掟のようです。同じ低学年でもタメ口でなんともない子もいるのにH君だけアウトな問題については、100%タイミング問題なんだけど、それをH君に理解させるのは至難の業なので、職員みんなで解決策を探っています。

先輩風

最近、小学校から何人か新しい見学者が来ています。大抵は低学年なので、高学年のみんなには「おもてなし」をお願いしています。昨日はF君が見学に来たので、同じ学校のG君は「F君いい子やねん」と何日も前から見学に来るのを楽しみにしていました。実はG君はお気に入りの6年生がすてっぷを卒業してしまうのが寂しくて、自分も通所を止めようかと悩んでいたのです。そんな矢先にF君の見学を知ったのですから、G君の嬉しさはよくわかります。

ただ、6年生も「おもてなし」ミッションに応えようとしていますし、ここは最高学年としてマウンティングしておく必要があると考えるのは無理もないことです。低学年のF君も知り合いのちょっと先輩のG君より先輩風吹かす6年生の言う事に従う必要がありますからG君は捨て置かれることになります。結局あれこれの遊びのエスコート役は6年生に奪われてしまい、G君のF君へのお世話はWiiリモコンの電池切れを直してあげるくらいでした。

2階に上がってG君がしくしく泣いているので、職員が問いただすと「僕が先輩だからお世話しようとしたのに、F君ちっとも僕のこと気にしてくれない」と言います。職員の話によると、その他にもG君が落ち込む原因があると言います。G君が6年生に「F君は僕の親友」と説明したのにF君が「親友と言うほどではない」と発言したこともショックだったようです。まず「親友」定義がF君とG君で食い違っていることをどこかで説明しなくてはいけませんが、学校で唯一の遊び友達である後輩F君の言葉としては痛かったのだと思います。でも、それって先輩風じゃないけどなぁと思いつつ、対人関係の機微が分からず友達関係で苦労する子どもの姿を垣間見たような気がします。

 

 

待ってパニック

Cちゃんが階段のところでかなり長時間泣き続けていました。パニックを起こしたことは分かったのですが、原因は職員から聞かないとわからないので次の日に報告を聞きました。要するに、交渉が成立していたのにその交渉が打ち切られたと勘違いして、驚いて悲しくて泣き続けていたということでした。

Cちゃんはご機嫌で外で遊んで帰ってきました。ドアを開けると目の前でD君がこれまた楽しそうにタブレットで遊んでいたので、「ピンクのタブレットください」とE職員にお願いしたのです。「今D君が使っているから、先生と遊ぶか40分待つかどちらにしますか」と職員が言うので、「待ちます」とCちゃんが言うので、40分間のタイマーをセットしました。Cちゃんこれまでタイマーで待ったこともない長さですから、かなり頑張っていたのだと思います。

それを見かねて、横からF職員が「公園で遊んで来たら終わっているよ」と公園カードを示したと言うのです。それが原因で、先の大パニックが起こったという事です。待ったらできると交渉していたのに、公園に行けと交渉を破棄したのかというふうに誤解したのです。生活の中にはよくある出来事ですが、一生懸命タイマーに従って待っていたCちゃんにとっては、「公園で暇をつぶして来たら?」という指示は難しすぎるのです。良かれと思って横から出した助け舟は、大きなお世話となり沈没したというわけです。

この場合は、使っている子どもはCちゃんの事も理解できる子もいるのですから、「5分で交代してください」くらいの交渉で良かったのです。Cちゃんにはその時間を少しづつ伸ばす取組が必要ですが、いきなりは難しいですし、目の前にない場所を指示されることは、交渉は決裂したと誤解してしまうのです。というわけで、パニックは起こるべくして起こったと言う結末でした。悪気はなかったとは言え、Cちゃんごめんね。

 

 

 

フラッシュバック?

みんなで向日神社に初詣に行きました。小学生が真剣に手を合わせている姿をみると微笑ましいです。神社の参道はいつもは静かなものですが、さすがにお正月期間は人出も多く、ざわついた感じです。するとB君が1年ぶりくらいに走り出しました。B君の注意喚起行動は以前は毎回のようにあって、職員の注目がなくなると事業所を抜け出して、近所のマンションのエレベーターを目的に逃げ回ると言う行動です。

このB君の行動は昨年の今頃を境にして消滅していました。職員が対応を変えたからです。それまでは、自立を目的に自分のスペースで余暇を過ごしたり自立課題に取り組んだりという大人の注目を減らす取組でした。でも、B君は注目が欲しいのですからこの方略では利得がありません。たしかにサイダーやラーメンは好きですが、強化子が大変少ないのでいつもサイダーやラーメンと言うわけにもいきません。

最大の強化子が大人の注目なのだからと思い切って彼の適切な行動はどんどん注目するという作戦に変えたのです。結局、逃げないようにマンツーマン体制が必要なら、積極的にマンツーマンを生かしていこうという作戦です。作業や課題ができたら必ず褒めるというただそれだけの事ですが、大変効果がありました。要するに私たちは、もう中3なんだから自立してよと突き放すことが多かったのですが、彼にしてみれば中学だろうと高校だろうと無視しないでよと言いたかったのだろうと思います。

良い行動に良い注目のサイクルが出来上がると、B君の飛び出し行動がピタッとやみました。お手伝いや身の回りの準備など適応行動も増えていき、B君は注目は逃げなくても得られるとわかったようです。この実践例は私たちも大変うれしかったのと、目からうろこの実践だったので、昨年の成功例の中でも何度か繰り返し報告しています。

今回の参道での飛び出しは、神社の警官詰め所の中にエレベーターが見えたのが大きな原因なのと、お参りの人出の喧噪で周囲がやかましいと言う不快感がかつての不適切行動をフラッシュバックさせたのかもしれません。他にも年末お正月をはさんでの初めての通所で新しい職員がついているというのも少し緊張感があったのかもしれません。エレベーター室が施錠されていたのと、職員も派手に追いかけるという対応をしなかったので事なきを得ました。

フラッシュバック行動のあるASDの子どもは他にもいますが、今の文脈とは全然関係ないのに、不快感情が生じると繰り返してしまうのは本人もつらいだろうと思います。適切な社会行動を増やし安心して過ごせる環境の準備と、不快な事も表現できる表出コミュニケーションのトレーニングを積み重ねていくことが最も効果的だと思います。ただ、道のりは長いです。伴走者としての支援者の腕の見せ所です。

 

 

新年の抱負

子どもたちが通所してきました。今日は向日神社で初詣をして、西山に登って京都盆地も一望でき1年の始まりにふさわしい穏やかな日和でした。書初めで、みんなの抱負が事業所に掲げられました。

さて、NPO法人ホップすてーしょんの今年の抱負は、事業の「SDGs」です。「SDGs」は最近よくあちこちでレインボー輪のシンボルが掲げられて出てきます。持続可能な開発目標という英語の頭文字が「SDGs」です。17の世界的目標、169の達成基準、232の指標からなる持続可能な開発のための国際的な開発目標。 ミレニアム開発目標 が2015年に終了することに伴って、2015年9月25日の国連総会で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』 に記述された2030年までの具体的指針です。

国連の目標と民間会社やNPO法人に何の関係があるかと言えば、その17の目標のどれかに貢献することと、それを掲げた団体も持続可能な事業目標を持って共に活動しようと言う意味があります。「3 すべての人に健康と福祉を」「4 質の高い教育をみんなに」「8 働きがいも経済成長も」「10 人や国の不平等をなくそう」「11 住み続けられるまちづくりを」「16 平和と公正をすべての人に」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」と7つほどの目標が共有できそうです。

福祉と教育は言うまでもなく、私たちの放デイが子どもたちを対象にして、彼らの苦手とする社会性を無理のない程度に伸ばす取組や読み書きを個性に合った方法で教えていく取組があげられます。就労や公平性については、私たちの職場でも、子どもたちの未来の市民社会でも実現を目指す取組です。そして、それを公的に求めることはもちろん、官民一体になって進められる事業体を目指そうと言う取組です。

SDGsの「持続可能な」というのは、お題目ではないと言う意味と、交渉しながら平和的に達成できる目標と言う意味です。実現可能な目標と実際に動き出す事業を作るという事です。我々の間ではよく「連携」という言葉が多用されます。保護者・学校・行政との連携、事業者間の連携と何度も何度も使われます。これは、笛吹けど踊らず状態が長く続いている証拠でもあります。掲げた目標が、実際に関わる人々の全員の利益になり負担が少なければ、パートナーシップは実現します。WinWinの関係を作るにはお題目にさせない知恵が必要だと思います。

放デイ事業については、PECSの契約を必要な利用者家族と行えるようにすることやトレーニングを受ける職員を増やすことです。読み書きのアセスメントも契約に基づいて実施し、ペアトレの契約希望者実施など専門支援にふさわしいPDCAサイクルを作っていくことが求められていると考えます。放デイの新しいガイドラインが実施される時期(おそらく2024年)までにこのスタイルを定着させていきたいと思います。また、放デイ事業が持続可能になるよう新陳代謝も行い新しい人材を迎えて、安定的な事業展開を目指します。

法人事業については現在のところ京都発達性ディスレクシア学習会の支援のみですが、法人社員も100人規模を目標に増やし、当面は発達障害の方の就労支援も視野に入れて検討していきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

NPO法人 ホップすてーしょん職員一同

新年あけましておめでとうございます。

新年あけましておめでとうございます。

「寅」という文字には「まっすぐに伸ばす、引っ張る」という意味があり、家の中で矢を両手でまっすぐに伸ばす様子を表しています。家を表すうかんむり「宀」に、「矢」、ひきとめるという意味の「臾」を足して「寅」という文字ができました。中国の『漢書』では、「寅」は草木が伸び始める状態を表すと解釈されています。

中国伝来の十二支は、もともと植物が循環する様子を表しており、その年の特徴につながるといわれています。寅は十二支の3番目で、子年に新しい命が種の中で芽生えはじめ、丑年には種の中で育つがまだ伸びることができない。寅年は春が来て根や茎が生じて成長する時期、草木が伸び始める状態だとされています。

寅年生まれの人の特徴は、前向きでチャレンジ精神が強く、何事も強い信念と自信をもって挑んでいく傾向があります。行動力に加え社交的なためリーダーに適していますが、自信家で負けず嫌いな性格から反感を買うこともあるそうです。

すてっぷは4年目、じゃんぷは2年目のお正月です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

すてっぷの営業は1月4日から
じゃんぷの営業は1月5日から

今年もご利用ありがとうございました!

「数年に1度」の強い寒気が流れ込んだ影響で、27日も日本海側を中心に雪が降り続きました。滋賀県彦根市では積雪が平年のこの時期の約36倍となる73センチを記録するなど、近畿北部や山陰で記録的大雪となって閉鎖していた名神高速道路は先ほどやっと解除されたそうです。事業所送迎車は冬はスタッドレスタイヤにいつも履き替えています。開設4年目でやっと日の目を見るかと思われましたが、本日まで雪はちらついたが積雪量はゼロということで空振りです。しかし、積雪があると、そもそも周囲の車がノーマルタイヤですから送迎車だけが雪タイヤを履いていても、衝突の危険率は高まりますので降らないに越したことはありません。

今年も無事に最終日を迎えました。今日は大掃除ですから子どもたちには早く帰宅してもらいます。昨年は、小学生卒業後の行き場がないのでじゃんぷを作ったけど、思うように利用者が増えないとぼやいていました。お陰様で1年たってやっと人件費と収入がバランスするようになってきました。新しい事業所の内容について理解してもらうには時間がかかります。高学年以降の学習障害のある子に自学自習ができるように支援していくためには、まず自分の力で通所してほしいというのが条件なのですが、「送迎があればいけるけど」という答えが返ってきます。自分で選び自分で決めるというのが高学年以降の子どもにとってはとても大事です。もちろん、選ぶものを紹介してあげたり背中を押してあげるのは家族や関係者の役割です。

低学年の時期は、行けば楽しいことがまず重要です。でも、その楽しさですら、長続きする楽しさや仲間で共有する楽しさを得ようとするなら、学びが必要です。それは暗黙の了解や常識という通常は見聞きできない約束事や、相手の心の動きが見えにくい子どもたちにとっては、前もって学んで取組んでみることが大事です。私たちが、子どもへの予告や約束、交渉や契約が大事だと言う所以です。そして、約束通りできたことは何度でも賞賛されたりご褒美があり、皆と楽しく過ごす体験を積み重ねていく中でこそ、本当の楽しさを知れるのです。その中で最も必要なスキルは表出コミュニケーションです。自分の欲しいものややりたい事が他者に表現できないと、交渉が成り立ちません。大人が決めつけたり押し付けたりしている約束は、自分の目的とリンクしていないので、約束はいつまでたっても本物にはなりません。交渉が成立して自分の目的も達成させる中でこそ約束=真の社会性は身に付きます。

そんなことを、あぁでもないこうでもないとブログに掲載し続けて、なんとホームページの閲覧者は、1千万ビューを超えた7月から半年で500万ビューを増やして、1千5百万ビューを超えました。これは、毎日3万回の閲覧を得ていることになります。兼好法師の徒然草の冒頭のように、「つれづれなるままに、日暮らし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」風なブログなので、読みづらいし論理が一貫していないものもあったかと思います。そこは徒然草の冒頭の最後「(思わず熱中して)異常なほど、狂ったような気持ち」になっているのだとご理解いただき笑っていただけたらと思います。2千万ビューはこのままいけば半年後の予定です。ではみなさん、良いお年をお過ごしください。

読み書きのアセスメント

先日AさんのKABCーⅡ検査と発達性読み書き障害をスクリーニングするSTRAW-R検査を終えました。KABCーⅡ検査をしたのは、ご家族から進路にむけて知能検査面から説明を受けたいというご要望があったからです。認知面だけ検査するWISCーⅣと違いKABC-Ⅱは学習到達の状況も把握できるので、学習状況が正確に把握できない学校以外の施設で実施する検査に向いています。

そこでわかったことは、【認知総合尺度】と【習得総合尺度】はどちらも通常レベルとの境界域にありバランスが取れていることでした。詳細に見ると法則性を掴んだり吟味して推理する計画尺度が本人の平均値より低いことや、一般知識が少ないことでした。認知力の割に、学校での学習が、よく言えば無理をしていない事なのですが、理解できそうな事が教えられていない事が気になりました。おそらく支援学級在籍で教えられなかった事が多かったのではないかと思われます。

或いは、読み書きを中心とする普通の学習アプローチでは教えにくいことがあったのかもしれないと思います。そこで考えられるのは、興味の限局やこだわりによって新しいことを受入れにくかったか、文章がすらすら流暢に読み書きできない事が学習性無力感を作ったか、またはその両方があったと思われます。これを探る必要があったので、STRAWーRでスクリーニングをしてみました。すると流暢性かなり低く、RAN(rapid automatized naming=音読の自動化速度)課題が低学年並みの速度しかないことがわかりました。

おそらく、Aさんは音読は辛うじてできるけど読む速度が遅く、自分で読むには相当のパワーを必要としているのかもしれません。つまり、読書をするととても疲れてしまい意味を掴んで興味を持つところまで行きついていなかったかもしれないのです。もちろん、特性によるこだわりの線も捨てきれませんが、読みに問題がありそうなことは分かってきました。特支級に入ると勉強できない理由が、知的な遅れが原因とされやすく、適切な学習アプローチが明らかにならないことが少なくありません。まだ、はっきりわかったわけではありませんが、丁寧に検査返しをしていこうと思います。

興味本位

小学生二名と公園からの帰り道、Xさんが「質問しあいながら帰ろう」という事になりました。おそらく、Xさんは新しい職員のY先生の身上を知りたかったのだろうと思います。「え~っと、好きな食べ物は?」「プリン」「焼肉」「もみじ饅頭」などと「へー」を繰り返しながら楽しく帰りました。ところが、Z君は聞かれてもいないのに、好きな漫画のキャラクターの話やらを延々とするのでXさんが「Z君!」とたしなめました。

「あのね、これはZ君の興味のあることを説明するんじゃないの。一人ひとりが質問に対して、簡単に応えていく場なの。わかる?」。Z君はそうですかと頷きながら、また自分の番が回ってくると「なんで好きかと言うと・・・」と説明を始めるのです。Z君は人の趣味にはほとんど興味がないのですが、自分の興味のあることはみんなに説明したくて仕方がないのです。

Z君は来年中学生です。彼の町では市内の公立中学校が選べます。彼は将棋クラブに入りたいのですが、近所の中学校二つには将棋クラブがないので困っているとのことです。だったら、地域の囲碁将棋クラブもあるから無理して将棋クラブだけのために遠くまで通学しなくてもいいよと伝えていますが、彼の関心は通学距離よりも将棋なのです。また、Xさんに「あのね」と説明してもらおうかな。

大縄跳び

子どもたちに大縄跳びを取り組んでいます。W君は跳べるには跳べるのですがどんどん右寄りになっていくので回し手の職員も右へ右へと移動することになり、それに気づかなかった後ろの子どもたちが引っかかてしまって、全員で回数が稼げない問題が生じています。どうすれば、W君の右傾化を修正することができるのか考えてみました。

W君は空間認知が悪いと言われています。乗ってきた車の位置を覚えられなかったり、大好きなPCのキーボード位置がなかなか覚えられないなどがあります。他にも、毎回送迎車の右から乗降するのに運転職員の動きにつられて左側に来てしまうことです。これは多分空間認知だけの問題と言うより、動くものに過剰に反応しやすくそちらを見てしまう癖が強いのだとも思います。

下手なスキーヤーは木や崖など行ってはいけない危ない方を見てしまうので、どんどん危険な方へ吸い寄せられるように進んでしまう現象と良く似ています。論理派のW君にはこの動きをビデオで見てもらい、自分が回る縄の方向を見ていることを確認してから、人は見たほうに体が向くのでそこに移動しやすいという理屈を教え、縄は見ないで正面を見ることで練習してみようと思います。乞うご期待。

冬休みに、良質の睡眠が得られるように

支援学校では冬休みが始まりました。多くの生活型放デイは冬休みの子どもたちの適度な運動保障や社会性が発揮できる場を用意するために朝から営業をします。今日も朝からお天気で子どもたちは西山や公園へ出かけました。風はすこしあるけれど、お日様が当たっている場所はそんなに寒くはありません。日光を浴びることで、体はセロトニンを作り出し、夜には睡眠ホルモンのメラトニンに変化させると言われています。夜中にぐっすり眠れるように子どもたちは昼間はしっかり活動するようにしていきたいと思います。

V君は睡眠がうまく取れなくて、昼夜が逆転しがちな子どもです。ASDの子どもの中には睡眠障害のある人が少なくありません。朝早く起き出しているので昼食後は眠くなり学校で眠ってしまったり、事業所への送迎車の中で眠ってしまったりします。そこで、V君を担当している職員によって眠ったV君を起こすべきか眠らせておくべきか意見が分かれます。今寝かしてしまうと、良質の睡眠ができず寝たり起きたりで生活リズムが作れないので起こそうとする人と、眠いのに起こすと機嫌が悪くなって指導者との関係性が崩れるので起こさないと言う人です。

どちらにも一理ありますが、現実は、昼寝れば夜寝るのは遅くなり家庭で明け方近くまで寝ていられるという家族のニーズがあります。ASDの睡眠障害は短時間しか眠れないという子どもも多いようです。そんな場合に家庭で早く寝かしてしまうと夜中起き出して、家族が眠れないという場合が少なくありません。睡眠不足は健康破壊の原因ですから、家族の健康を優先するには、短時間しか寝てくれないV君が真夜中に起きないように、遅くまで起きていて欲しいのです。

V君の家族の願いは、V君も同じように朝まで眠ってほしいことですから、昼間に眠らせておくのも、家庭全体の健康を守るという対症療法としては仕方がないのかもしれません。子どもが夜中に起きてしまう、眠ってくれないと言うのは保護者にとってはつらいものです。ただ、だからといって療育機関である放デイがV君の休憩所になっていいものかどうかは、とても迷います。私たちにできることは、できるだけ外に出て日光を浴びて体を動かしてセロトニンの産出を促し、それを原料にメラトニンを増やし、良質の睡眠が得られるように努めることしかないようです。それでも事業所で眠ったときは家族の健康も配慮してケースバイケースで考えて行こうと思います。

K先生のじゃんぷ通信

K先生のじゃんぷ通信

年末が近づいてきました。
じゃんぷは2020年10月の開所から丸1年、おかげさまで利用者様も職員も増えて、去年よりずっとにぎやかな年末となりました。今年はクリスマスツリーに飾るリースを放デイで作ったり、(まだ年内ですが)書き初め企画をしたりと、利用者さんが増えたからこその学習以外の活動も充実してきました。

個別的な支援の中で、アセスメントをしながら読み書きや学習活動の基本から指導をしていきますが、「本当に力がついてきたなぁ」と感じるのは勉強場面だけではありません。数の理解や読み取りの力が伸びたことで、UNOやババ抜き、神経衰弱といったゲーム遊びの楽しさがわかるようになった1年生、おやつを食べながらのちょっとした読み聞かせを楽しみにしている3年生、ホワイトボードにその日の来所メンバーの名前を書いたり数字のクイズを作ったりするようになった読み書き困難のある2年生。

特に低~中学年さんの時期は、遊びや自由なかかわりの中で自信がついてきた力を、生き生きと発揮していきます。遊びの中味や質も、自分達で変えていきます。そんな子供達の姿が見られるのは、勉強も遊びも一緒の時間に行う放課後デイの醍醐味だなと感じます。

「勉強キライ」「今日はちょっとヤル気出えへん」と本音ももらしながら、やって来る子供達。穏やかな放課後の時間の中で、いざ机に向かえば、できそうなところは「ここは自分でできるし、何も言わんといて」と、一生懸命問題に向かう子供たちを見ていると、できない…難しい…という不安や弱音の向こう側に、やっぱり一人でできる!という実感や自尊心を、どの子も求めているのだなと感じます。

来年も、利用するお子さんにとって、穏やかに自分に向かい合い、適切な手助けを受けながら少しがんばれる、…そんな環境の一つになれますように、と思う2021年の年の瀬です。

 

子どもの最善の利益を考える

放デイにいるとたくさんの相談支援事業所の相談員と話をします。発達障害の事をよく理解されているなと思う人もいますが、知識の少ない人もいます。知識が少ないなら少ないなりに分からないことは保護者や事業所に聞けばいいのに、対象者が多くてそんな暇はないと言われます。いったい何のために相談事業をされているのかなと思う事もあります。

同じことは自治体の担当者にも言えます。子どもの事をよく知らないなら、保護者に電話する前に子どもを見に行くのが先決だと思うのですが、そんなことをしていては時間が足りないと言われます。だったら、事業者の言う事を信じてほしいと思うのですが、そういう方に限ってマニュアルの字句通りに判断しようとします。そして、現場に聞き取りもなく先に判断して支給に関する決定を突然現場に通告してきます。

確かに、サービスの支給量の決定権は自治体にあります。しかし、措置制度から契約制度に変わって20年近くたつのに、いまだに昔の感覚でお上が決めるのだから口をはさむなとばかりの高圧的な方もいます。いったい何時代かと思います。なんのために相談支援事業所がかくもたくさんできたのか、それは行政の仕事を肩代わりするだけの意味ではなかったはずです。

利用者に寄り添い丁寧に話を聞き、サービスの仕組みを説明をして利用者側の理解を得ていく相談のプロセスの中で、これはサービスにつなげる必要があると判断するのは事業者です。個別の理由を行政に説明する中で行政にも理解を得てサービス支給量を決定していくのです。決して行政が一方的に決めるのではなくよく相談をして決めるのです。マニュアル通りにやるなら機械にやらせた方が公平です。なぜそこに相談事業所があり人手を割いているのか考えてほしいです。

相談員は利用者に寄り添い、行政官は規則に寄り添いながらも、双方が話し合うのは利用者ニーズと行政規則の双方をすり合わせて、最善の解決をしていくためです。利用者側に立てない相談事業所は生き残れないし、相談事業者の提案を規則にないからと跳ね返してばかりいる行政官はAIにでも変えればいいのです。誰のために働いているのか、世知辛くなるとそこを忘れがちになるので、いつも原則に立ち返ってほしいと思います。

相談支援事業所とは 相談支援専門員が障害のある方やその 家族から相談を受け、様々な情報の提供や助言、及び福祉サービスを受けるための手続き等をお手伝いします。情報の提供をはじめ、必要に応じて行政機関や障害福祉サービス事業所とも話し合いを行い、子どもの利益を最優先にするための機関です。

ボールのやり取りとコミュニケーションレベル

Tちゃんが対人で向かい合ってボール投げやボール蹴りができないと職員が困っていました。Tちゃんは話し言葉がなく自分のつもりだけで動くので行方不明になりやすい子どもですが、しつけられた衣食のスキルは問題なくできる子どもです。Tちゃんの生活スキルだけを見ていると遊びもそれと相当なことが出来そうに思うのは無理もいないことです。

Tちゃん達は大人とマンツーマンの事が多く集団遊びが足りないので何か取り組めないかと提案されていました。そこで、先輩のU君やR君と一緒にボール投げやボール蹴りに取り組もうとしたのです。しかし、Tちゃん愛想はいいのですが、ボールが来てもそれを弄んでみたり座ってみたりするのでやり取りが成立せず遊べなかったというのです。

実は、コミュニケーションレベルとやり取り遊びは連動しています。コミュニケーションは相手からのメッセージを受信して返信していくというやり取りです。ボールのやり取りも言葉ではありませんが、そこに相手へに向けた意味があります。何も言わなくてもボールを相手に投げることは「うまく受けて返してね」という意味がこめられているのです。この意味を双方でやりとりするのでボールのやり取り遊びは楽しいのです。

この自分に向けてこめられた意味がわからなければ、ただ目の前にボールが転がってきただけなのです。向こうで職員が「こっちこっち」というから投げてはみますが、なんのために投げたか意味が分かりません。だから楽しくないのです。つまり双方のコミュニケーションが成立するには媒体が難しすぎたのです。簡単にするにはボールを相手に直接渡して「どうぞ」「ありがとう」の関係です。これなら渡すと言う意味は分かるし、距離が近いので気持ちも切れにくくなります。

Tちゃんには、PECSを取り組んだ方がいいねとご家族とも話しています。絵カード交換は、意味がカードに書いてあります。ボールに暗黙の意味を込めるのもすぐに意味が消える音声もよく似ています。私たちが絵カードコミュニケーションに力を注ぐ意味はここにあります。そして、Tちゃんに向いた集団遊びはみんなでつながって遊具をはしごしたり、向かい合って遊具で遊んでみる並行遊びが丁度いいかもしれません。楽しいねという情動を共有する場を作ることから丁寧に取り組みたいと思います。

 

支援計画作成の舞台裏

支援計画懇談が年度末にむけて始まりました。30名近くいる利用者の保護者に営業時間の限られた時間(午前中)内に来てもらうとなると、一日一人が精一杯ですから、毎日続けても2か月弱かかります。他にも、見学やら会議が入りますので、3か月弱は考えておくと、春休みに入れば朝から子どもたちが来るのでできないから、今頃から始めないと年度末中に終わりません。

長期休業以外の月に分散させても半年に1回支援計画は見直すので、1か月換算すれば10名にするか7名ほどにするかの違いなので、それなら実践計画や教材づくりに集中できる平日営業日を3か月間を作ろうということで、支援計画と計画懇談の期間を設けています。長期休業で全日忙しい3か月、教材づくりや実践の工夫をすることに集中する3か月に比べ、計画作成に関わる期間は6か月です。現場では計画作成に関わる時期が長すぎると感じています。

さらに、じゃんぷなど個別療育型事業所では週当たりの利用が1回だと、経営を成立させるためには利用者数をすてっぷの3倍程度に増やす必要があります。しかし、利用回数が少ないからと言って、機械的に作成時間や懇談時間を3分の1にするわけにはいかず、計画作成に関わる時間は大して変わらないので、支援時間に比べ計画作成にたくさんの時間をかけることになります。

それでも、利用者の保護者からは、他の事業所には見られないほど丁寧でわかりやすい計画書の説明だと感謝されることは多いです。そして、保護者理解が得られてこそ、全体で取組むことができ、子どもは変わっていくのですから、あまり機械的に時間を減らすのもできれば避けたいです。ただ、時間をかけたから理解が得られるのではなく、優先順位を明示して端的に説明することが大事だと心がけてはいます。

職員にとっても、自分の書いてきた計画やまとめを集団的に議論する中で、新しいことに気づいたり工夫が生まれたりしますから、大事な作業ではあるのです。それにしても、満足の得るものを作ろうとすると時間がかかります。毎回同じ計画を掲げているなぁと反省する子どもも出てきます。堂々巡りに行き詰った時は専門書を読んだり研修会に行ったりする必要がありますが、なかなか経営上難しい課題です。今回は、支援計画の舞台裏、楽屋話を書きました。ぜひ、事業所同士で個別支援計画の作成についての工夫などを交流するために話し合いたいものです。

できるようになっても褒めてあげよう

つい最近まで壁によじ登るわ、思い通りにならなければ叫ぶわ、衣服が少し濡れただけで素っ裸になるわのSちゃんが、最近とってもいい子だと評判です。不適切行動への最後の取組が9月頃、事業所に入る時の「こんにちわー」の大音声を、「2の声でお願いします」とあらかじめお願いして【2の声でお願いします : 10/13】、最近はひそひそ声であいさつをするSちゃんです。そこまで小さな声でなくてもいいのですが、やや小さいの調節はSちゃんには難しいようです。職員はSちゃんの小さな声でも必ずこんにちわと返すようにしています。それでSちゃんは満足なのです。

でも、賢くなったと言われ「普通になった」子どもは職員からの注目を浴びなくなります。特にASD児の場合他児ほど人に関心を示しませんから大人の方も忘れがちになります。しかし、それでは子どもは人に注目を向けないまま育ってしまいます。普通にできたことでも頑張っているんだと理解して、「上手だね」「偉いね」「すごいね」と声をかけてあげて欲しいのです。失敗しても大人の修正支援を受ければ褒めてもらえると言うことが記憶に残れば、今後も支援を受けやすくなります。

支援の「アフター支援」を確実にすれば、支援を享受するための関係性がしっかり結びつけられます。修正支援を受けた後は、しばらく褒めてあげることが大事です。できるようになったから褒めないのではなく、「よく覚えていた」「毎日頑張っている」ことを褒めてあげて、支援を受けて良かった感情をしっかり刻み付けてほしいと思います。そして、褒めている職員を見つけたら、職員の頑張りも褒めてあげて欲しいです。叱る事にはたくさんのリスクが付いて回りますが、褒める事にはリスクもコストもかからないですから。

 

文字が好きになる支援

R君が最近漫画の本を家で読んでいると聞きました。文字を見るだけで嫌悪感をあらわにしていたR君が漫画の吹き出しを読んでいるというのです。しかも、クリスマスのプレゼントのR君のオーダーは漫画本だそうです。えー字が嫌いだったのではないの?字をみたらイライラするんじゃないの?とこれまでのR君を知っている職員はびっくりです。

以前【発達検査でわかる事:10/20】でも書きましたが、遊ぶ仲間が変わり興味が増えるにつれ自分から文字を読むことが増えた印象があります。その変化に同期して認知力が向上したという知能検査の結果が出たのです。以前ブログに掲載した読み書きに障害のあるドローン操縦士の髙梨智樹さんは、オンラインゲームにハマり知らない相手にチャットを打つのが楽しくてローマ字入力が身についたそうです。R君も友達とマイクラ等でパソコンを使う事が多くなってから文字への抵抗が薄れてきています。しかも、R君には発達性読み書き障害はなかったので上達はあっという間でした。

R君が文字を嫌うようになったのは、スタンダードな文字の教え方をしたからです。通常、ひらがなを教える時、読めたらすぐに書けるように文字を練習させます。これは伝統的な「書いて覚える」という指導法です。R君の場合それがいけなかったのです。R君はASDでこだわりがあります。文字を見ると自分のこだわりで下から書いてみようとしたり、そっくりに書かないと気に入らないのでものすごく書写速度が遅くなり、その分練習量が確保できません。

そして、書き順についても周りの大人が「ちがうちがう」とダメ出しを連発します。ASDの低学年児に「ちがう」「まちがい」「ダメ」「✕」はご法度です。文字の練習のたびにこだわりが認められず、ダメ出しが続けられたR君は「文字なんて嫌だ」となったわけです。ところが、友達と共通の遊びでPCを使ったり将棋に興味を持ったりする中で文字にアクセスしないわけにいかなくなったのです。好きな事なら頑張れたというわけです。

そんなわけで、ひらがなカタカナも簡単な漢字もR君は自学自習で好きなことを支えに自分で獲得したのです。きょうだいの読んでいる漫画も面白いことに気づいたようです。漫画は全て文字にルビがふってあるので知らない言葉でも読めるし、絵で何となく意味がつかめるからです。こうしてR君は今も新しい言葉を仕入れて「勉強が楽しく」なってきたそうです。

周囲の大人はてっきり発達性読み書き障害があると思っていたのです。ASDの特性を考慮していない文字の教え方が原因で、文字を嫌っていたとは夢にも思いませんでした。自分の感情にも気づかず、言葉でもうまく表現ができない低学年期のASD児の行動は大人に誤解されやすいのです。我々も専門家でありながら2年もそのことに気づかず、発達性読み書き障害を疑っていたのですから、R君には申し訳ないと思っています。そして、まさか遊び集団を変えることで勉強が楽しくなるきっかけを作るとは思いもしませんでした。

字が読めることができれば新しい知識はどんどん入ってきます。今回の検査数値の急激な上昇もこのことと無関係ではないようです。もともと、低学年の時も文字を読む力はあったけれど、新しいことを学習する力が弱かったのです。こだわりへのダメ出しに過敏に反応していたのです。ASD児への教え方の王道は好きなジャンルから攻めることです。それは、どの子も同じですが、特にASD児はこの事が重要だと改めて思いました。

注意されたことは忘れる?

Q君が「事業所に早く着けばタブレットでゲームする時間伸ばすって約束だったよね」と職員にいうので「それはQ君が勝手に言った事で約束はしていないよね」「約束は双方が合意しないと約束って言わないよ」と懇々と職員が話すにつれて、Q君の顔色が暗くなっていき「約束したやんけ」とうめくように呟いて塞ぎ込んだ様子で事業所に入っていきました。

Q君は、こうした記憶違いがよくあり、それを大人から訂正されても翌日には忘れていることが多いです。あたかも記憶を飛ばしているようにも見えるのです。しかし、一方で服薬調整が成功したこの半年間は、自分の感情のコントロールがとても上手になり、友達もQ君はこのごろ怒らなくなったと評価しています。残っているのはこの思い違いと、注意されたことが記憶に残らず、注意されるとおなかが痛くなることです。

逆に、褒められたことで翌日にその行動を忘れることはありません。どうやら、注意されてブルーな感情に落ち入ると、記憶が残らないようです。友達と興奮してディスりあってお互いにあそこまで言うことはなかったなという結論があっても、次の日また同じように喧嘩していることが多々あり、周りの子どもは「また同じ事言って」と次第に相手にしなくなるのですが、Q君は気づいていないことが多いのです。

Q君は気分が崩れてしまうような失敗経験は学習が成立しないようです。良かれと思ってQ君を安易に注意するよりも、あらかじめ約束をして、うまくできたことをほめて、良い経験の学習を成立させることが大事なようです。職員にも、Q君には苦言よりも誉め言葉と頑張った彼へのリスペクトが重要だと話しています。Q君が背負ってきたこれまでの体験が、嫌な気分から記憶を飛ばす癖を作っているなら、これからは良い気持ちで学んだ記憶を増やしていくことを支援しようと言うことです。

大人から逃げ出す子

Pちゃんが、公園で最近大人の顔を見ながら逃げようとするそうです。Pちゃんは前にも行方不明になったことがあり、安全のために目が離せないのでマンツーマンの体制にしています。以前の事は、自分の行きたいところがあって勝手に出て行ったというのが理由ですが、今回は「逃げますよ」と大人の顔を見ながら気を引く注意喚起になっているところが違うと言います。

子どもがその場から逃げていくのは、その場が面白くない、飽きた、退屈だと言うのことでしょう。気を引きながら逃げていくと言うのは、追いかけ遊びの期待かも知れないし、大人が驚く顔が面白くて、やり続けているのかも知れません。そして、根本的な原因はPちゃんがいなくなるかもしれないと言う不安から、大人がべったりついてマンツーマンでいることがこうした注意喚起行動の原因ではないかと話し合いました。

もちろん、どこかに行ってしまっては危険なので目は離せませんが、そうなると職員とPちゃんだけの関係になってしまい、息が詰まりそうです。公園には他の仲間たちも来ており、この人たちもお話が出来ず障害の重い子ども達もいますが、別に一緒に遊ぶことが嫌いなわけではありません。お互いにボールを転がし合って遊んだり、手をつないでくるくる回ったり、パラバルーンを持ってきて遊んだり、ロープでつながって電車ごっこをしたり、遊具遊びでつながって遊んだりと一緒に遊ぶ中身はいくらでも考え付くはずです。

ところが、マンツーマンの体制を作ってしまうと、この子は私の担当だからと子どもとの距離が縮まって子どもの側からすれば息が詰まるような関係性になってしまいます。不思議なもので、そんなに息苦しいなら逃げだしてしまえばいいのに子どもはそうはしません。逃げるふりをしては追いかけて来いと誘うのです。つまり、閉じた関係性の中で遊ぼうとするのです。大人は「こらこら」と追いかけます。逃げるよと振り返る注意喚起行動はこうして強化されていきます。

マンツーマンが必要な子どもであればあるほど、子ども同士の関係性を意識して作り出す必要があります。皆と一緒にいれば楽しいことがある。この遊びはみんながいるから楽しい。という経験が蓄積される中で子どもの関心は大人よりも仲間に向いていきます。大人方逃げ出す子にはお友達が見えていないのです。楽しい遊びの経験ができるように、大人も担当の子どもの方ばかりを向くのではなく、他の職員と一緒にみんなで遊ぶ楽しさを演出することを大事にしていこうと話しています。

 

 

悪さを真似をするギャングエイジ

小学生になると子どもたちは急速に仲間意識が発達し、今まで以上に友だちとの関わりを求めたり、遊ぶことに喜びを覚えたり、生きがいを求めるようになります。ギャングエイジのグループは家族以上に大きな影響を持つものであり、子どもは大人から干渉されない自分たちだけの集団であることを望んでいるのです。

ギャングエイジの特徴としては、子ども間で共有する価値観や行動様式を重視し、徒党を組み、画一的な行動をするようになります。集団は5~6名で構成されることが多く、結合性が強く、秘密主義に満ち、外部に対し対立的、閉鎖的に振舞います。子どもたち自身の世界の成立を意味し、青年期への準備期間の役割を持つと言われます。

ところが、現代のこどもは、「ギャングエイジの欠如」が問題とされています。徒党を組む機会がないのです。スポーツ少年団や塾は大人の言いなり、学童保育や通所療育も大人の介入が入ります。子どもが自分たちだけで隠れる暗がりはある程度必要です。いじめも縦割り集団とギャングエイジ活動が欠落した結果の現象かもしれません。

発達障害の子どもにとっても、この集団は必要です。悪いことでも徒党を組み、悪さが発覚して全員が叱られる場面は子どもにとって必要な栄養です。P君が構造化された集団場面では丁寧な言葉遣いなのに、先輩が悪態をついた課題のあとでは自分も同じように悪態をつくと報告がありました。無理もないよねというのが職員の感想ですが、保護者にしてみれば悪態を覚えるために療育に来ているのではないと思う方もいるかもしれません。

仲間とともにありたいというのが、ギャングエイジの願いです。考え方も、行動様式もしゃべり方もまねようとすることで、親から仲間へ帰属意識を移す訓練をするのです。当然間違いや失敗も生じますが、それが大人の前で顕在化した時が成長のチャンスにもなります。この時に、支援する大人の力量の真価も問われます。

失敗を叱るだけでなく、もっと良い方法がなかったのか問いかけ、リカバリー策をこども集団と支援者が一緒に考えることで一人づつに働きかけるより大きな成長が見られることもあります(支援が下手だと全体の質を落とす危険もあります)。親は集団や経緯を見てないので、ハラハラしますが、職員は子どもを泳がせてタイミングをはかっています。情報は緻密に収集しているので、放置しているわけではありません。でも、心配な時は職員までご相談ください。

 

 

質問癖

O君は、新しい人を見ると体重と身長が聞きたくなります。べつにそれでどうという事はないのですが、データーを集めるのが趣味なのです。以前は【太ってるね: 2020/03/04 】で掲載したように、太っている?質問の真意は、おはようこんにちわのあいさつ時間の境界線のようなもので、基準が気になっているだけなのですが、今は興味が移って、ただ単にパーソナルデータを集めたくてしょうがないのです。今回は、新人男性職員が入ってきたので、いそいそと「身長は何センチ?」と聞いていました。

女性の場合は、体のサイズの事は聞くと失礼だから聞いてはいけないと諭されていたので、新人女性職員が入っても彼はかなり我慢をしていたのです。今回は男性なのですごく喜んで聞きに行ったということです。データ取集の間があくと禁断症状がでてきて、近所のコンビニのアルバイトのお兄さんにも突拍子もなく聞いたりしていました。職員から「たまにしか会わない人に聞くと男性でもびっくりするよ」と説明を受けましたが、「それは分かっているけど、もうがまんができなくなって、欲望に負けるねん」と告白していました。

物や現象なら観察したり書物やネットで調べられますが、人のパーソナルな情報はその人に聞くしかないです。個人情報に関心を持ったばかりにO君はマナーとの狭間で大変苦労をしています。他の事なら研究熱心と言われるだけなのに、パーソナルなことに関心を持つと誤解されることが多いです。その溢れ出るエネルギーを他の事向けることはできないかとも思うのですが、こればかりは仕方がありません。欲望に負けてはならじと踏ん張っているO君を励まし支え続けていきます。

 

言葉遣いと友達関係

低学年のL君の言葉遣いをめぐって先輩たちの間でホットな議論になっています。先輩たちは、L君の口の利き方で一番気に入らないのが呼び捨てで呼ぶことだといいます。普段は「俺はちゃんや君付けで呼ばなくていい」と言っているM君までが、先輩の呼び捨て方が癇に障るといいます。あんたたちいったいどのお口でそんなこと言っているのと思いますが、人の事はよくわかるのです。

あれでは友達ができないと1年上のN君も断言します。要するに先輩たちは先輩への言葉遣いを謙れと言っているわけではないようです。自分たちだって敬称抜きで友達と名前を呼び合って遊んでいるからです。何が違うかと言うと彼らも正確には言えないのですが、名前を呼ぶ時の声のトーンや音量のようです。遠くから大声で先輩の名前を呼び捨てるように言うから先輩たちはイラついているのです。

でも、L君に全く悪気はないのですが、先輩たちは悪意があるように聞こえるのです。それ、あんたらもやけどなと教えてあげたいのですが、相手がどんな気持ちになるかについて見えない人にはなかなかむつかしいです。先輩たちだって呼び捨てて呼び合っているじゃないかとL君は思っているのです。でもそれはTPOがあるのですが、それは言外にあるルールです。従って、名前を呼ぶ時は近づいて行って、笑顔で小さめの声で呼びかける、できれば敬称はつけたほうが誤解されないという事を、L君に伝える必要があるようです。友達と衝突が多いというL君の学校や学童保育の課題がなんとなく見えてきました。

京都市内巡り

今日は小学生の「京都市内巡り」の日です。お天気も良く、市内は観光客であふれかえっていますが、地元の駅からみんな元気に出発しました。今日の予定は京都駅で市バス1日乗車切符(350円)を購入して、金閣寺、清水寺、二条城、東寺と回ってくるはずです。前回、この企画の経緯について【清水って水の上に浮かぶお寺ですか?10/16】 で掲載しましたが、実はみんな前の日はドキドキだったようです。

K君は昨日、送迎車の中で「僕、絶対財布落とすからもう行きたくないねん。考えただけで吐きそうや」とナーバスです。実はK君、その日公園で上着を忘れ、車内に帽子を忘れ、とどめに連絡帳を事業所に忘れています。今日は激しいねぇと聞くと、「もう無理、明日お金なくして京都市内から走って帰ってこなあかん」と落ち込んでいます。

みんなで行くから大丈夫だよと励ましてはみましたが、暗い顔で自宅に帰っていきました。公共機関を一人で利用したことがないというのが、プレッシャーのようです。皆で行くから、助けてくれるとは考えられないようで、一人で何とかしなくてはというのも彼ららしい思考パターンです。大丈夫、助けてと言えば知らない人でも助けてくれるよと言えば、「もしも極悪非道人やったらどうする?」と悪い方ばかりに想像が進みます。どうなることやら、土産話を楽しみにして待っています。

「聴覚法」効果あり!

最近J君から、PCのキーワード検索する時にキーボード打ってほしいと言う要求がなくなったと職員の間で話題になっていました。J君は今は一人でiPadの50音表で検索キーワードを打ち込んでいます。まぁ、これまではパソコンのキーボードなのでローマ字入力もできないから仕方がなかったのではという職員もいますが、PCでも50音表を出して入力することは可能でしたがそれすら煩わしがって、職員に入力をお願いすることが多かったのです。

J君はおそらく(医師の診断がない)発達性ディスレクシア(書字表出障害「ディスグラフィア」を含む)で6年の1学期ですら50音表が頭に入っていなかったのです。それに職員が気づいたのは車で出かける時にカーナビの検索をお願いすると、50音表で入力するとき文字の位置がわからず、文字の形を探して入力するので、検索がものすごく遅くもしやと思って、1学期から50音を暗唱する聴覚法に取り組んだのです。

聴覚法と言うのは極めて簡単で短時間のトレーニングです。ただ、機械的で面白いものではないので、自学自習は難しく、大人が毎日ついてあげる必要があります。J君は週3回通所しているので、毎回5分~10分取り組めば、効果が上がるはずだと4か月ほど経過しました。このトレーニングは、読み書きの苦手な人は、すらすらと頭の中に50音が思い浮かばない事が原因だと言う仮説の元に、頭の中に九九を覚えるように50音を「あ~ん」まで唱えて音で50音表を記憶してしまうという手法です。

ひらがなの読みから書きカタカナへと進み通常半年ですらすらと50音の読み書きが可能になります。J君は本は大好きな軍事ものや無線関係はむさぼるように読むのですが、書くのはからきし遅いです。読みも、間違えて読んでいるものもあります。今回はタブレットの50音表入力が苦労なくできるようになったとのことですが、これは頭の中に50音表が音として入ったのだと思います。

4か月でひらがな入力がものすごく楽になったJ君ですが、最初は「俺はあほやから訓練しても変わらん」と自分のことをよく卑下していたものです。最近は自分をディスることが少なくなりました。ひらがなの入力がスムースになるだけでも自己イメージは相当変わるという事です。書くことは視知覚や不器用の問題もあり訓練コスパが悪いので、キーボードでのローマ字入力を勧めています。これも今はかたくなに拒否していますが、アルファベットでローマ字音が頭に入れば気持ちも変わるはずです。

不安と行動

H君が、I職員に抱っこをしてほしがるのは、お母さんが入院していることと関係あるのかという話がありました。家庭環境が変わって母がいなくて寂しくて不安で他人に抱き着くのだろうという推測です。確かにH君は不安かもしれません。しかし、不安だから抱き着く行動がH君に起こるかどうかはわかりません。

それは、他の職員には抱っこをしてほしがらず、特定のI職員にのみ要求するからです。たぶん、以前にもI職員がH君の担当で抱っこ経験があったからだと思います。その時はお母さんは入院していませんでしたが、H君にしてみれば、抱っこをしてくれる職員としてインプットされていたのではないでしょうか。

H君は散歩でも疲れてくると、職員に抱っこを要求します。これも、歩けないのではなく、散歩の場面ではよくそうして大人が抱っこしていたのかもしれません。もうすでに抱っこに耐える体重でもなく、一人で歩ける足腰になっていますが、H君の中では、これまで抱っこしてくれたのだから同じように要求しているだけです。

話は翻って、私たちは子どもの行動から子どもの感情を類推しています。しかし、子どもにしてみれば以前も同じようにしたので今回もそうしているだけという場合も少なくありません。確かに、H君の感情を理解して支援に生かしたいとは思いますが、こちらの思い込みで行動を受け止めても子どもに違うメッセージを送ってしまうので、判断が難しいねと話しました。

やり直しは最後までフォロー

6年生のE君が帰り際車に乗せてもらう時に、F職員を呼び捨てにして声をかけたと言います。それを聞いていたG職員が「E君、やりなおし」と適切な声掛けをするように注意したそうです。「で、そのあとE君はどうなったの?」と聞かれると、忙しかったからどうなったか見てないというのです。それでは、やり直し支援になっているとは言えないという話になりました。

E君は、以前に忘れ物が多いのでチェックリストをつけるように指示されていたのですが、めんどくさいのでチェックしない日が続いたのです。そのことを以前も他の職員から指摘されていて、帰り際のE君の心は少しざらついているのです。そんなこんなで帰りにのせてもらう職員を呼び捨てにして自分の気持ちを表現したのかもしれません。話の文脈としてはそういうことです。

呼び捨てはいけないのでG職員のやり直し指示は正しいです。しかし、横から口をはさんだのは否めませんから、高学年としては気持ちのやり場がなくなります。せめて、最後までE君の行動を見納めて「聞いてくれてありがとう、よく言えたね」と評価するところまでで指導のワンセットです。口だけはさんで、見届けないというのはアウトです。E君の心はさらにざらついたことかと思います。子どもの行動は、大人の鏡です。ざらついた気持ちを癒すのは大人の丁寧な支援にかかっています。

 

 

 

大丈夫?という言葉

Dさんのトイレの後始末で、Dさんに「あとは大丈夫?」と職員が聞いて、Dさんが「大丈夫!」と答えたので本人に任せたら、トイレは汚れたままで全然片付いていなかったという報告がありました。職員は「大丈夫?」の前に、「トイレが汚れているけど一人で片づけられますか?大丈夫ですか?」と言う意味を込めて「大丈夫?」と聞いたのです。

ところが、Dさんにしてみれば「大丈夫?」は体調の良し悪しの際に使う「大丈夫」と理解していたので、体は元気なので大丈夫と答えたのです。「いやいや、トイレが汚れているから職員がDさんの支援にきたという文脈でわかるでしょう」というのが職員の言い分です。通常は職員の言う通りです。でもASDの人の場合は字句通りか、良くて経験通りにしか理解しないことが多いのです。

女性の場合男性に比べて主語や文脈を省略して話すことが多いように感じます。これは、相手に状況の共有ができていると感じている経験が女性に多く、男性の場合は正確に言わないと伝わらないことがあるという経験に裏付けられるのかもしれません。今回は、女性職員の女子への言葉かけの場面ですから余計に主語や「共有されているはず」の中身が省略されたのかもしれません。

こうした、言葉の背景にある意味を理解するのをメタ認知といいます。自分と他者の関係や状況、文脈を客観的・俯瞰的に理解する力です。ASDの人はこうした言外の意味理解を前提とするメタ認知が弱い人が多いのです。男性が男性に向かって「ライターを持っていますか」と聞くときは「喫煙するのでライターを貸してほしい」の意味ですが、ASDの人はライター所持の有無を聞かれたと思い「はいライターは持っています」と言って立ち去る例が喫煙者が多い昔はよく取り上げられました。

最近よく使われる例では、友達が言いにくそうに「お金持っている?」と聞けば「お金を少し貸してほしい」という意味ですが、ASD者は「お金は持っているよ」でそのあとの話が進まない場面がメタ認知の弱さとして紹介されます。こうしたやり取りが続くと、空気が読めないやつだと卑下されたりしてハラスメントにつながっていきます。主語や内容を省略する「大丈夫?」は対人関係の中では多用される言葉ですが、ASDの傾向のある人には、主語や文脈が共有されていないかもしれない事を留意して、手助けの必要性を具体的に質問することが大事です。

ごほうび考

Bちゃんが、C職員の言う事の聞き分けが良いのはC職員が「圧をかけている」からだと他の職員が思っているそうです。C職員の指示をBちゃんが素直に聞くのは、C職員のいうとおりにしたらBちゃんにとってメリットが多かったからだと思います。Bちゃんはコミュニケーションがうまく取れないので、不適切な行動が多かったり、思い通りならないと大声で泣いたりする子でした。

Bちゃんの支援は不適切な行動に大人があれこれ注意するより、適切な行動ができている時に褒めようという、スタンダードな作戦を立てました。ただし、Bちゃんは褒められると言う意味が分からないので、大好きなおやつを少量あげながら褒める行動を並行させるようにしました。褒める事は簡単な内容で褒めました。移動している時に先頭の職員を追い抜かない、列から離れ出して呼ばれたら皆の列に戻ってくるという行動を褒めました。「えらいね、みんなと歩けたね」と褒めては少量のお菓子を提供しました。

仲間と一緒にゲームに取り込めたら同じように褒めます。タブレットゲームの終了時間になって終えられたら褒めます。こうした褒める活動に一番力を入れていたのがC職員でした。1年たってBちゃんには今はお菓子は提供していませんが、C職員が言うと「はい。わかりましたー」と聞き分けるようになりました。食べ物を支援に使うのは、動物の餌付けのようだと嫌う方もいますが、動物も人間も報酬で学習することは同じです。でも、最後は食べ物があるから行動するのではなく、褒めてもらえるから行動するようになります。

甘さは、快感物質のエンドルフィン、ドーパミンやセロトニンと言った学習や意欲に関係にする脳内物質の放出を強めます。これは、誉め言葉でも同じ効果が得られますが、報酬系の反応の弱い子どもの場合は、言葉だけでは報酬系が作動しない場合があります。甘いものはこれを助けるブースターのような役目を果たします。重要なことは、同時に大人がしっかり褒める事です。このことによって褒められた経験と意欲や快感が連合していきます。そうなると糖分は必要なくなり、褒めるだけで同じような脳の状態を作り出します。Bちゃんが、C職員の指示を聞くだけで行動を止めたり、始めたりするのはこういう神経学的なメカニズムが推測されます。まだ、残念なことに他の職員とはこうした作用が生じないのは、Bちゃんが言葉と言う聴覚情報ではなく、C先生の姿という視覚情報がまだまだ強く作用しているという事です。

本当に誉め言葉が分かるようになれば誰の支援でも享受するようになると思います。今は、まだ他の人の場合、ご褒美が効果的なのかもしれません。ただし、糖を脳に効率よく利用させるために重要なことは運動です。つまり、運動することにより糖が脳に利用されやすくなり、脳が活性化しやすくなるのです。運動しないで甘いものばかり摂取しても、その甘いものは脳にほとんど利用されず、脂肪蓄積の方にばかり利用されるため太るだけになり、脳は活性化しないのです。また、糖分作用の依存性は麻薬作用のそれと同じですから、計画的な使い方が必要です。適度な運動・ご褒美・誉め言葉この3つがそろうことが大事です。

 

感情を表現する

Aさんが、水曜の帰りの時間になると「木曜日はすてっぷです」とわざと言います。木曜日は他の事業所なのですが行きたくないようです。自宅に送っていくときは、わざわざお迎えの家族の前で「木曜日は〇△◇事業所行きません!」と訴えています。大人としてはそれは困るので、何も反応せずにスルーしていると職員から報告を受けました。

大人として都合の悪いことは、子どもが上手く話せないからと言ってスルーしても良いものかどうか議論になりました。そうは言っても、理由もなく事業所を替えるわけにもいかないし、「そうだねー」と同意するのはまずいのではないかという意見。だからといって、「つべこべ言わずに行きなさい!」も信頼関係を構築する上ではまずいよなという意見。だとすると、無視する(聞こえていないふり)と言う選択も止むを得ないのではないかと堂々巡りです。

行為は認められないが気持ちは分かるという対応はできないものか検討しようと言うことになりました。以前、室内がうるさくて小さな子どもを叩く子どもに、それ以外の表現方法を教えればどうかということで、「うるさい!苛々する!」感情絵カードを職員に渡すことを教えました。その結果他害が完全になくなったわけではないですが減少させることはできたという経験があります。感情カードを持ってきたら「そうだなーうるさいねー」と同意するだけなのですが、それで少しはカタルシスを得たのかもしれません。

ASDだからと言って、他者の同意や共感は全く影響がないわけではないという事です。伝えて同意を得るのは形のあるお菓子や玩具が欲しい時だけではないと思うのです。「しんどい」「つらい」「悲しい」というネガティブな感情は生活の中で抑え込みがちですが、感じたことを伝えて「そうなんだー」と今の感情を理解してもらう事は大事なことだと思います。Aさんの場合にどうアプローチするかは検討が必要ですが、まずは健康チェック時など感情カードを使う機会を決めて「元気」などポジティブな感情を表出する経験を作り、今回のようなネガティブ感情の機会をとらえて、教えていくことから始めてみたいと思います。

だるまさんがころんだ

最近、子どもたちの間で「だるまさんが転んだ」が流行り出しているようです。おそらく、Netflixで配信されている韓国のサバイバルテレビシリーズ「イカゲーム」のヒットが原因だと思われます。ファン・ドンヒョクが脚本・監督を務め、この秋にNetflixで全世界公開され、ビデオゲームまでできているそうです。描写は頻繁に血しぶきが飛ぶ射殺シーン等全体として残虐で子ども向けではないです。ただ、そのプロローグで「무쿠게의 꽃이 피었습니다.(ムクゲの花が咲きました)」と言うゲーム、つまり、だるまさんが転んだゲームをするので、流行しているのかも知れません。

最近は、小学生とASDの障害の重い子どもも一緒にできそうなゲームは出来るだけ取り組むようにしており、このだるまさんが転んだゲームもレパートリーの一つです。鬼がこちらを向いたら止まるというルールはわりとわかりやすい様で、低学年のYちゃんができるのだから高等部生のZ君もできるだろうと参加してもらいました。Z君は1年前までは、目を離すと事業所を飛び出して職員の気を引く注意喚起行動が少なくない人でしたが、褒める事で注目要求を満たしていく支援を繰り返すことで安定して過ごせる様になりました。その結果、周囲の子どもの行動にも目が向くようになってきた人です。

取り組んでみるとだるまさんがころんだを理解していました。周囲の仲間の事をよく見ていたのです。でも、あまり楽しそうではないので、無理強いはできませんが、みんなと一緒にゲームしていることに職員が注目して褒めています。まぁ注目してくれるならまんざらでもないかなと参加しているZ君です。以前は逃げるのが好きだったから、だるまさん転んだも鬼タッチから逃げるところがあるので好きになるかなと思ったのですが、逃げて楽しむはもう卒業したようです。

 

 

食が細い

ASDのX君たちの食が細いのではないかと職員が心配していました。いわゆる偏食もあるけど、高学年にしてはおにぎり1個とか少なすぎるのではないかというのです。家ではがっつり食べている子でも外では給食も含めて食べる量が少ない子どもがいるのは確かです。原因はいろいろあるでしょうが、環境の変化に過敏で食欲がわかないというのが多いようです。

生理的な欲求の事を他者からあれこれ介入されても、いらないものはいらないのですから、あれこれ言うべきではないとは思っています。ただ、中にはそもそも、空腹感や満腹感の弱い子どももいて、自分がおなかが減っているのかどうかも分からない子もいます。周囲の人がどれくらい食べているのか興味がなく、低学年の頃と同じの量で良いと思っている子どももいます。

修学旅行に行ってみたら、旅館の夕食メニューが半端なく多いのにみんな食べてしまう子が多いことに驚くASDの子がいるように、食事量と言うのは年齢と共に増えていくものだと言う情報がなくて食べない子もいるようです。栄養価とか年齢に応じたカロリー量と食事量などを理屈として教えておくことは大事かもしれません。そのうえで、ざわざわしているところでは食べにくいというなら、家で多めに食べておいでという支援が必要な子もいるようです。ただ、保護者の方も同年齢の子どもの食事量を知らない方がいるので、これも正しい情報が必要なようです。

 

手が使えない場合のAAC

Vちゃんのスナックタイムでは、かなりはっきりとVちゃんが意思表示できるようになってきたと言う報告がありました。前回(スナックタイム改めコミュニケーションタイム: 08/26 )でも書きましたが、手が使えないからと言ってどんどん口に運んでしまっては、意思を表現する機会がないので、いらないものが口に入ってから吐き出すと言う行動になるという話をしました。

スナックタイムは何が何でも食べる必要はなく、本人の好みやタイミングを大事にしたコミュニケーションタイムにしてはどうかと言う提案をしました。すぐに口に持って行かず、手の届かないところで待ってみる。本人のアクションが出たら「はいどうぞ」と食べさせる。いらないものでスナックを持つ手を払いのけるような行動があれば「いらないね」と食べさせない。好きなものが二つあっても、二つを示して「どっちがいいの」と待ってみる。好きな方を手差ししてきたら「これが欲しいね」と食べさせると言う、本人の意思が出てくるまで待つと言う療育時間にしました。

これを3か月ほど続けてくる中で、欲しいもの、いらないもの、欲しかったけどもういらないもの、という意思伝達がはっきりできるようになってきました。また、家庭ではお姉ちゃんにふろ上がりのドライヤーをしてほしくて、ドライヤーをそっと手差ししてお姉ちゃんに要求する姿なども見られてきていると言います。

欲しいものの選択もできるし、誰にでも手差しや手払いでYES・NOが示せるならPECSなど代替コミュニケーションに移行したいのですが、Vちゃんの場合、手に届く範囲に物があると、何であろうと手で払い飛ばすという癖があって一向に収まらないのです。欲しいジュースを手差ししているのに、近づけて手に届く範囲にくると、わざわざ手で払いのけて飛ばしてしまうのです。従って、絵カード操作など手を使うものが難しいのです。

従って、今目の前にあるもののYES・NOしか意思表示ができないので、目の前にないものを要求する事ができないという限界がきているのです。そこで考えられるのは、手差しに変わるスイッチ類での意思表示ですが、目の前のものは手で払いのけるという動作しか経験のないVちゃんにこのトレーニングを強いることでストレスにならないかということや、NOの意思表示が「ボタンを押さない」という強化しにくい行動なので思案しています。もしかしてと、アイトラッカー(視線感知センサー)などを使った視線入力装置などの方が導入しやすくはないかと、これも思案中です。

 

地域の中でわくわく Y先生のじゃんぷ通信10

地域の中でわくわく Y先生のじゃんぷ通信10

放課後デイに通う子ども達は自分たちの住んでいる地域のことをいっぱい知っています。1年生のSさんが、学校で近くの神社にどんぐりひろいに行った経験をすると、「お母さんとたくさん見つけてきた」とどんぐりを持ち込んでくれます。それでコマを作ったりしていると、2年生のT君が、「僕の家の近くでいっぱいとれるから持ってくる。」と言って次の時、箱にいっぱい集めて持ってきてくれました。又3年生のNさんが「噴水公園のところにいっぱいおちてるよ」と教えてくれて、先生と一緒に取りに行ってくれました。

地域の中で見つけたどんぐりで何か作ろうとリース作りを提案するとどんどん広がりました。リボンを穴に順に通す作業やリボン結びをする作業、手順を考えてどんぐりや星飾りをつけていく作業は学習にも通じる生きた教材になりました。一人一人取り組み方が違ったり、手順のここで困っているのかと発見があったり、こんな発想の仕方をするんだといい所が見つかったりしました。

放課後デイ「じゃんぷ」の支援は直接的には、学習の困りに対する支援を繰り広げていますが、最終的には自分たちの地域の中で生きていける子どもたちにしたい、そんな思いも大切にしながらの日々です。みんなが作ったリースをクリスマスツリーに飾ると季節感いっぱいの生活が広がります。

事業所によって子どもの様子が違うのは何故?

Rちゃんは二つの事業所を利用しています。すてっぷでは最近めきめきと成長が感じられるRちゃんで、他の子どもたちと仲良く遊べたり、予告と褒める事を繰り返す事によって不適切な行動はほとんど見られなくなりました。ところが、別の事業所では職員が困るくらい不適切行動が多いと言うのです。

子どもが、場所によって違う姿を見せるのはよくあることで、その原因のほとんどは対人関係を含めた環境の違いです。見通しのある環境では安心して過ごせるので、少々のイレギュラーな事態も乗り越えてしまいますが、見通しや自分の要求が他者に伝わらずイライラして不安が多い場合は、ちょっとしたことでも爆発してしまうのです。

つまり、同じようなハードルであっても、本人の安心感の度合いによって反応は全く変わってくるという事です。今回は、別の事業所の方からRちゃんの様子について事業所職員が相談を受けて工夫していることを伝えましたが、そもそもの対応が違えば小手先の工夫は効果がないし、すてっぷでも1年かかっての今の様子なので、総合的に比較してもらって療育方法を考えてもらうしかないと思います。これは、すてっぷだけで不適適切行動を起こして、他の事業所や学校ではうまく過ごせている例でも同じことが言えます。

他の事業所や研究会に行って、同じようにやってみたけどうまくいかないので、学んだメソッドは効果がなかったという支援ビギナーの意見を耳にすることがあります。見た目同じことをしても、先述したように本人のメンタルが安定するような環境や対応の蓄積がなければ、同じ反応が得られるはずがありません。もしも、相談を受けるなら、百聞は一見に如かずで数回見学に来てもらい、総合的に検討してもらう事が大事ですねと話し合いました。

 

 

睡眠障害

Q君は混乱が激しく泣きわめいて何もかも拒否する時と、めちゃくちゃスムースに楽しそうに行動できる時の差が大きいので原因を話し合ってみました。おそらく、睡眠の量や質と関係するのだろうという話になりました。Q君は幼少の時から寝つきが悪くご両親は苦労されてきたと聞きます。薬物療法としては、メラトニン受容体作動薬が処方されています。最近、発達障害児の睡眠と行動問題が注目されはじめ、この処方をしている子どもは少なくありません。ただ、現場感覚としてはあまり効果を感じた経験は少ないです。

私たちができることは、しっかり太陽光線を浴びて遊んで運動量を確保することです。学校や事業所で眠ってしまうので、仕方がないと思ってきたのですが、周囲がざわつく昼間の睡眠は彼らにとってはあまり質の良いものではなく、結局家庭で眠れないまま過ごしたり早朝に起き出したりしてしまうので生活リズムが大きく崩れていきます。活動すべき時間に起きていないと運動量も確保できないし、心理的にも楽しんで満足した生活が得られず、寝たいから眠らせるのは逆効果だと考えています。

幼い子は、昼寝するものと言う定説に惑わされず、就学期は昼間は起きて活動する事を基本に生活を組み立てるようにしたいと考えています。経験的には半年たてば事業所で眠ることは少なくなります。夕暮れが早い時期なので、僅かな日照時間を逃さず、しっかり散歩や遊びを取り入れて外遊びを保障したいと思います。

視機能(見る力)がかかわる Y先生のじゃんぷ通信9

視機能(見る力)がかかわる Y先生のじゃんぷ通信9

放課後デイに通う子ども達の中には、平仮名や漢字、計算ドリルを書いて作業することに苦労している子が多いことに気づきます。以前にも書いたように手指の操作が難しかったり、筆圧が強かったりして時間がかかってしまい、疲れてしまいます。

もう一つの要因に「見る力」が影響していることがよく指摘されています。ただ書くのが遅いとか、間違いが多いとかだけでなくよく観察してみてください。見本をどこに置いているのか、一度見ただけで書いているのか、書く字をどれぐらいの時間注視しているか等様々な書き方をしています。

書くことと眼球運動が関係していると言われます。京都大学の加藤寿宏先生(作業療法士)によると「文字を書くためには、この『追視』と『注視点移行』が不可欠です。文字を学習するには、まず教科書や黒板の見本を写す必要があります。写すためには、見本の文字と自分が書いている文字を見比べる必要があり、『注視点移行』が必要となります。また、書いている手元を見続け、文字を構成する線の方向が正しいかどうかを目で追い続けなければならないので、『追視』も必要となります。」と説明されています。

それから、見本とノートとの焦点距離をうまく合わせる機能(『輻輳』)も人間の目には備わっています。しかしこの「輻輳」(より目)の力がうまく発揮できないと縦書きと横書きでは微妙に読みやすさも変わり、注目する時間にも影響が出てきます。

ノートを書く様子を見ていると縦に見本を置くのか横に置くのか、右に置くのか左に置くのか、書く字にすぐに目が移せるのか、探している様子なのか違いが見えてきます。一人一人によって見え方があり、その困りにピタッとくる支援をして、「うまく書けるようになった経験」が持てるようにします。

いずれにしても、子どもたちがどんなふうに書いているかを観察することから始まります。じゃんぷでは、見本の置き場所を工夫する、手本にすぐ注視点が行くように定規を当てる等工夫をしながら取り組んでいます。

 引用 京都府総合教育センター発行冊子 「特別支援教育ガイドブック 読める!書ける! ~すべての子どもが楽に読み書きを学ぶために~」)p42~45より

職員募集

NPO法人ホップすてーしょん  求人メッセージ
児童の支援に必要なものは、子どもの気持ちになって物事を想像する力です。自分が子どもの時、挑戦したいことがある時、友達になりたい時、人に否定された時、誰かの助けが欲しかった時、そして苦労している自分を支えてくれた時、その時の気持ちはどうだったか?そんな子どもの気持ちを感じることができる方は大歓迎です。

子どもには、放課後等の限られた時間ですべてを教えることはできません。私たちが子どもに身につけて欲しいことは、自分で考えたり調べたりする方法。困ったときに助けてもらう方法。失敗した後の立ち直りの方法です。自分が支援した子どもが新しいことに挑戦していく未来を想像してみませんか。みんながそれぞれの生き方に誇りをもって進んでいく姿。みんなちがってみんないい。私たちは、子どもの今と未来を支える使命を私たちと共有できる人材を求めています。

求める人材像は
1 子どもを含む様々な人から学べる人。 2 様々な人の「いいところ」が応援できる人です。あなたのエントリーをお待ちしています。
詳しくは電話・メールでお問い合わせください。

〈正職員〉職種:児童指導員 若干名
部 署:放課後等デイサービス・児童発達支援 各事業所
年 齢:20代(次期幹部養成のため)、但し教員経験者年令不問
応募資格:大卒以上、普通自動車免許所有者、保育士・心理士・OT ・ST・PT資格・特別支援学校教諭免許所有者優遇
※特に、ASDや読み書き障害の支援経験者優遇
勤務地:向日市
勤務時間:10:00~19:00(月~土)週40時間勤務
休憩時間:60分
休 日:2日/週(シフト制) 有給休暇有 年末年始休業4日間 
社会保険 健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険
交通費(上限1万円)、福祉職員共済組合加入、退職金制度有
給 与:200,000~(処遇改善費込) 賞与あり(業績による)
昇 給:あり
※選考面接を実施し採用を決定します。

<パート>職種:児童指導員 数名
年 齢 :63歳まで
応募資格 :自家用車で送迎できる方(保育士・教員免許所有者優遇)
勤務地:向日市
勤務時間:9:00~18:00(月~土)、シフト制、週3回程度から、時間応相談
休 日:日曜日 第4土曜日 年末年始休業4日間
給 与:時給1,000円~ ※交通費なし
※児童との活動の後、面接を実施し採用を決定します。

メールでのエントリー記載内容
氏名(ふりがな)・生年月日・性別・住所・連絡先電話番号(電話可能時間)・email アドレス・在籍学校・会社(あれば)・志望動機(100字以内)※履歴書添付可 履歴書様式.docx 履歴書サンプル.pdf

宛先:NPO 法人 ホップすてーしょん
放課後等デイサービス 育ちの広場 すてっぷ リーフレット
児童発達支援・放課後等デイサービス 学びの広場 じゃんぷ リーフレット
採用担当 田中 一恵 
075-924-5010
sodachi.step17@nifty.com

面接で感じる事

来年度の職員を募集するために、希望者の面接をはじめています。一般公募にするといろんなタイプの方がいるなぁと改めて社会の多様性に気づかされます。採用も決まっていないのに、すでに住居を決めてきたという気の早い人から、常勤が4月から必要だと提示しているのに、最短1年も先の公認心理士の試験に通るまではしばらく非常勤で働いてみたいという人もいます。自分は穏やかな性格なので福祉の仕事が向いていると、福祉現場は穏やかだと決めつけて見学に来たという人まで様々です。

数ある放デイの中からこの事業所を選んできているのだから、ホームページくらい読んでいるだろうと尋ねてみると、読んでいない人ばかりでした。もうその時点で、帰ってくださいと言いたいのをがまんして、何がこの事業所やこの職種を選んだ理由か聞き出そうとしますが、ほとんど聞き出せないままというか、考えていないのだろうなという結論を得てお帰りいただくことが続いています。

これから、ホップすてーしょんの面接を受けに来る方にお願いがあります。何故この仕事を選んだのか、何故ホップすてーしょんの事業所を選んだのか、ここ1か月くらいのホームページの内容を読んで、共感できることやもう少し聞いてみたいことは何か、最低それくらいは仕込んできてほしいと思います。もちろん、選んだ理由にも読んだ感想にも正解はないので安心してください。そのことを話のきっかけにして、お互いの相性が合うのかどうかをお互いに感じる必要があると思います。小さな職場ですから、相性が合わない事には仕事はできないからです。子どもと元気に遊べるあなたをお待ちしています。

絵カード使う進路先

P君のお母さんが、もうすぐ卒業だけど近所に絵カードコミュニケーションや視覚支援を大事にしている成人施設がないと言われます。自閉症協会などが取材でよく取り上げる施設はもうすでに満員で、京都市内の中でも数えるほどしかないと言われるのです。

それに、これから行こうとする施設に「視覚支援をしてほしい」「PECSを使っていほしい」と言えば、施設側に嫌がられるかもしれないので言いにくいそうです。障害のある人の進路はいつも需要側の方が多くて、供給側が少ないのでサービスを受ける側があれこれ言うのは気後れするというのです。

確かに、そんなことを親が言わなければならないというところで、教育や福祉行政が掲げる「途切れない支援」っていったい何ですかと言いたくなります。そんなことは学校が進路先に求めるべき内容で、親が気を使いながら施設に言うべきことなのかと首をかしげたくなります。

しかし、学校が視覚支援を標準の支援内容と考えずに高度なオプションサービスくらいに考えているとすれば、途切れない支援とは関係のない話で、学校は応えてきたが進路先にまでは求められないという発想になるのかも知れません。

未だに、ASD者への視覚支援や代替コミュニケーションを標準的な支援と考えていない施設が山のようにあること自身が情けないですが、視覚支援で何百万もかかるわけでもなく、PECSの研修だって毎年順番に講習すればそれほど高額なわけでもなく、こんなものは合理的配慮の範疇ではないのかとも思います。しかも、福祉施設ですから標準装備で当然だろうと思うのです。時代遅れの実践を変えようとしない福祉法人の既得権益を打ち破るために、正当な競争を持ち込もうとした30年前の基礎構造改革でしたが、まだまだ道半ばです。

 

 

発達はらせん状

L君は不眠気味の子どもです。昨日は通所時の送迎車の中でもずっと機嫌が悪く、事業所についても寝そうで寝ない状況が続いていました。いつものように行先を選ぶ場面に来て職員の袖を引くので、行きたい公園カードを渡すように他の職員が身体プロンプトすると、要求が叶わなかったと勘違いしたようでわんわん泣き出しました。

その後も、時間が来たので帰るよと車に乗せようと指示すると、タブレット遊びを止めさせられたと思ったか車の中で大泣きでした。同乗していたM君は自分がL君を泣かせたのかと誤解して、しきりに運転している職員に「N先生、ごめんなさーい」と謝り続けたくらい大泣きだったそうです。

自宅について降車するように指示しても泣き、職員が抱っこしてお父さんに渡そうとしても泣き続け、L君にしてみれば最悪の日だったかもしれません。昨夜の睡眠不足でウトウトして過ごしているので何もかもがいらいらして何もかも拒否する感じだったと思います。覚醒していないとこれまで身に着けたスキルも発揮できず泣くだけのL君に戻ってしまったようです。しかし、眠いだけでは、今まではこんなに崩れはしなかったと職員は言います。

この秋は以前より後退した感じがすると職員は言います。それでも話し合っていると、そう言えばOさんだって昨年の今頃は身に着けたスキルが全て吹っ飛んで後退した感じがする時があったと、振り返って考え直したようです。子どもの発達は直線状ではなく、らせん状に発達すると言います。子どもの発達はずっと良い現象だけでなく、後退したかに見える現象もあります。それをぐるぐると繰り返しながら上昇していく様子を発達のらせんモデルと言います。

もちろん、適切な支援が続けられての話ですが、適切だと考える支援が続いていても、効力がなくなったかのように後退した姿を見せる事があるのです。支援が間違っていたのではないかと思わせるほどの後退を見せる場合もあります。多くは、大人が思うほど成長したというよりは、新しい支援になんとなく適応していた姿を、大人が過大評価していただけで、実は十分に身についていたわけではなかった場合が多いのです。

そして、経験によって周囲の事はよくわかるようになっているので、わかる事とできる事のギャップに子ども自身が苛立つときが来ていると観るのが良いのではないかと話し合いました。子どもは変わっていきますが、平たんに変わっていくのではなく、うねりを持ってダイナミックに変化していきます。そこが、難しくもあり、子どもに関わる仕事の醍醐味でもあります。

 

それは、いらない。

もうこれ以上はジュースはいらない場合、「いらない」絵カードを作って渡すのかどうか話題になりました。フェイズ4までの絵カードの基本は要求です。自分の要求したものと違う時は、手で遮ったり、首を振ったりして意思を伝えるようにフェイズ2で教えます。カードで伝えるには内容が抽象的だし「はい」「いいえ」の応答コミュニケーションなのでこれで十分だという事です。

ただ、気に入っていたものでも「もう十分」「もういらない」と自発的に表現するのは「いらない」カードが必要となります。大人が離れている場合には実物か対象絵カードと合わせて「◇△は、いりません(✕)」と文カードにして大人に手渡すのです。ただ、この場合に交渉が始まる場合もあります。もうちょっと勉強しよう、もうちょっと作業しようなどです。この場合には視覚強化(ごほうび)システムを使って、交渉する時があります。

では、食べ物や飲みものはどうするか、生理的な欲求に基づくものは基本は本人の意思通りにするのが原則です。もう十分なら「おかずは、もういりません」の文カードが出たらもういいのだと思います。食べず嫌いもあるからなどという自分の子ども時代の経験則で、食べ物の量や種類を交渉しようとする人がいますがあまりお勧めできません。まずは、コミュニケーションが安定して取れるようになり、安心すれば食べてみようとする場合もあり、自発的に食べて受け入れるものが広がった経験を積む事のほうがはるかに有意義だからです。

道を選ぶ子

前回道に座り込む子:11/02で話し合ったように、K君が道端で座り込んでしまったら、何種類かの公園絵カードを見せてK君が「行きたい公園」を職員に差し出せるようにしました。案の定今日もやっぱり二つの公園の道の分岐点でK君は座り込みました。K君は身体プロンプトしてもらって好きな方の公園の絵カードを職員に渡しました。「OK!K君はL公園に行きたいのね。わかったよ一緒に行こう!」

嬉しそうにK君はL公園に行くだけでなく、いつもならすぐに公園から帰ろうとするのに今日は日が暮れるまで思いきり遊んだそうです。自分が選んだことが実現して嬉しくて仕方がなかったのと、安心したのでしょう。自己選択と自己決定が安心感を与えたのです。これまでしゃがみこんでしか嫌なことを伝えられなかったL君の今後が楽しみです。確かに、職員が決めた公園の方がみんなで遊べて都合がいいのですが、そんなことは子どもには伝わりません。今大事なことは、たとえこだわりであっても自分の行きたい公園があり、そのことを適切に大人に伝えれば大人は応えてくれることを教えたいのです。

だって、これまではK君は何も言えずにずっと大人に不本意ながら合わせてきたのですから、今度は大人がK君に合わせる番です。ただ、座り込んで泣くのではなく、行きたい場所を絵カードで大人に示すという新しいルールが加わりました。伝わるという事がK君に理解できれば、その次は条件が揃えば叶うという交渉を教えていきます。先は長いですが焦らず取り組みたいと思います。今後、家でも学校でも取り組んでもらえるように地道な成果を積み上げていきたいと思います。

伝聞情報と正しい情報

J君が不適切な行動をするのはJ君の内面のコンディションがさらに悪くなっているからだという報告がありました。根拠を聞くと、いつもと同じように指示をしたと担当の職員から聞いたが不適切行動が2度続いたと言うのです。J君はこの間排泄のこだわりがあり、大人が見ていないと便意もないのに無理やり排泄しようとして、汚れた手を壁で拭く行為が続いていました。

症状から言うと強迫性障害と言うべきですが、ASDの思春期以降にもたまに見られる症状です。普通は手洗いやカギ閉め食事への強迫感が多いのですが、これが排泄に向かう時もあります。原因としては強い不安からの行動ですから、脳内ホルモンの中でセロトニンと言う伝達物質が何らかのトラブルで不足した症状だと言われます。そこで、セロトニンをうまく働かせる薬物療法が通常はおこなわれます。併せて行動療法も使われます。これは不安なままにしていても何も起こらなかったという経験を積み上げる認知行動療法です。

さて、J君には理解できる言葉が多くないので通常の認知行動療法は使えませんが、トイレに行って不適切行動をしなくても、注目されたり褒められたりする経験を重ねることで改善しないかどうか取り組んでいます。トイレの前に正しく利用する写真を示し、成功したら褒めたりご褒美をあげたり注目をしてあげる事です。今回、支援をした職員がいつもと同じように指示をしたと伝聞していますが、適切な行動をした時に褒めて注目したかどうか、失敗を叱責しなかったかどうかも聞けていないと言います。

不適切行動には関係性の原因が少なくありません。本人の内面の問題にしてしまうのは簡単ですが本人から理由を聞くこともできないので根拠がありません。担当者の責任にしたいのではなく、何か大人とのその場のやりとりの関係性でイレギュラーがなかったかどうか調べてみることで支援の道が広がることがあります。失敗を成功の元としたいのです。

検査報告

今日はI君の検査の報告をお母さんにしました。すてっぷでは、KABC2という認知面と(学習の)習得面が測れる検査を使います。検査は事業所の利用者でKABC2が可能な人であれば、保護者が申し込めば誰でも受け付けています。KABC2は先に述べた二つの検査があるので、二日に分けて1時間くらいづつ実施します。

I君は認知面がとても伸長していて習得面が追い付いていないこと(発達検査でわかる事 : 10/20 )をお母さんに話しました。検査結果を話していると、お母さんも最近I君が様々なものに興味を持ち始め、学校でも友達とよく遊ぶようになったといいます。これまで、I君は誘い掛ければ一緒に活動はしますが、活動するのは義務のようにしか受け止めていない感じでした。遊びはほとんど一人遊びが多かったのです。

ところが、この間、友達のしているマイクラに興味を持ったり、わからないところを友達に質問したりするようになったのです。また、お気に入りの友達に家で猫を飼い始めたことを話しています。I君が自分から家の事を話すなんてみんな耳を疑ったそうです。検査は数値で伸びたことしかわかりませんが、子どもの世界が広がり豊かになっていることが検査報告で保護者の方と話しをているとはっきりわかります。

ですから、検査報告と言うのは、ただ単に保護者の方や当事者に結果を話すというだけのことではなく、検査の結果と当事者の様子が一致しているかどうかを生の生活から確認しなおす作業とも言えます。そうして話しているうちに、検査報告で書いた支援策よりももっとリアルな支援策を思いついたりします。

検査報告は保護者の方にするのですが、報告書には関係者に「報告書の閲覧は保護者が了解している」という旨の鑑をつけているので、保護者は結果報告を手渡したい人に報告書の写しが渡せるようになっています。この報告書を一番見てほしいのは学校の先生です。最近は学校でもWISC4等の知能検査を行うようにはなっていますが、あまり、検査結果が生かされているようには思いません。何故なら、せっかく実施した結果について報告書を関係者に見てもらって支援に役立てるという発想が感じられないからです。

病院の検査は保護者の責任で誰が読んでもいいようにされていますが、その病院の検査結果でさえ、所有権は学校あるという前代未聞の発想をしている管理職もいます。検査報告の所有権は当事者と保護者にあり、保護者が求めれば情報は提供されなければならないことすらわかっていない学校があるから驚きです。当たり前のことですが、検査はその結果をどう生かすか関係者チームで考え、子どものために役立ててなんぼです。

 

ほめ倒す

G君が集団ゲーム中待っていられなくてうろうろするので、職員が「椅子に座ろう」とあちこちから声を掛けます。あげく、抱っこされて待つことになりました。H職員が椅子を示して「G君は順番で呼ばれるまでここに座って待ちます」と指示して、G君が座った途端、H職員が「自分で座れて偉いね!」と即座に褒めました。数分後に座っているG君を見て「頑張って座っているね偉いよ」とまた声を掛けます。

こうして、「誉め言葉」で間欠強化(部分強化=たまに褒めることで行動を持続させる方法)をし続けると、G君は今か今かとH職員をずっと見続けるようになりました。ところが、今まで椅子に座ろうと注意していた職員が何も言わなくなりました。この現象は「職場あるある」です。不適切な行動には注目するが、適切行動には注目しないという現象です。

良い行動は褒めることで強化されます。特に不適切行動から適切な行動に変容した時は誉め言葉を雨あられのように降り注ぎます。適切な行動した時に大人が注目してくれるということを学習させたいからです。ところが、良い行動に変容した途端に声をかけないのでは、学習が進みません。当たり前の行動でも、多動な子どもにとっては頑張っている行動です。褒める事にコストはかからないのですから、良い行動はインフレが起こるくらいほめ倒してあげてください。ただし、パターン的に褒めると慣れてしまうので、ランダムに不定期に褒めるのがコツです。

 

道に座り込む子

今日は座り込みエピソードが2件話し合われました。E君と初めての公園に歩いて行ったのですが、途中で以前遊んだことのある公園への道を見つけたE君は、そこから押せども引けども動こうとせず道に座り込んでしまったのです。頑として動かなかったので、しかたなく、初めての公園に行くのはあきらめてE君が目指す公園に行ったそうです。

Fさんは広い通りで横断歩道を行ったり来たりして歩くのが気に入ってしまい、職員が制止しようとすると道端で座り込んでしまって困ったという話です。おそらく、横断歩道を渡るときに車は止まってくれるのでそれが面白いので、遊びにしてしまっていると推測します。二人ともまだ低学年なので強制的に移動させたり制止することはできるけれども、それでいいのだろうかという話でした。

この場合はケースバイケースだと思います。Fさんの場合は四の五の言っている場合ではなく、公道での危険行為ですから座り込もうが何をしようが制止します。地域の方もこんな無法な光景を見せつけられたら不安になります。E君の場合は、このままでは座り込んだら要求が実現するということを教えた事になるので交渉が必要です。

E君には言葉がないので座り込むしか方法がないのですが、もしも、それが予測できるなら、行先の絵カードやご褒美を準備して出かけます。行きたがりそうな公園の絵カードも準備します。行く前に、行先の絵カードを示すことは大事ですが、新しい行先に抵抗が多い子どもの場合はご褒美も準備していることを伝えます。つまり、言葉のない子どもと出かける時は交渉のツールをフルスペックとはいかないまでも準備していきます。スマートフォンに必要な画像を入れておくのも一案です。

途中で座り込んだら、二つの公園の絵カードを示し、目的外の公園の時はご褒美がないことを伝えます。そのうえで、目的外の公園を差し出したときには要求を実現します。つまり、座り込んで実現させるのではなく絵カードコミュニケーションで要求が叶う事を教えます。転んでもただは起きぬ作戦です。もちろん、修羅場で絵カード要求や選択を求めても良い結果は出ませんから、毎日のトレーニングが交渉をうまく運ぶ担保になるねと職員で話し合いました。ピンチはチャンスです。

 

見ざる聞かざる言わざる

支援学校にお迎えに行ったら、D君が他の事業所の送迎車を叩こうとしていました。なのに、明らかにその行動を見ていた送り出しの担当教員は知らん顔して教室に引っ込もうとするので驚いたと職員が言います。子どもを手渡したら、あとはお迎えに来た人の仕事でしょという意味だろうかと職員は首をかしげます。

たぶんそれは、自分には対応不可能な行動問題なので「見なかった」ことにしているのだと思うのです。それは、事業所の中でも多かれ少なかれ見られることです。自分の担当でない子が不適切な行動をしていても、「見なかった」ことにする様子はあちこちで見かけます。

それは、善意にとらえれば、担当の職員の方針があるだろうから自分は口出ししないということでしょう。でもこれは、善意ではありません。先の支援学校の対応と同じだからです。「ここからはあなたの仕事、私は責任がない」と目の前で生じている事態に向かい合おうとしないのです。相手はモノではなく子どもです。障害がなんであれ、不適切な行動をしているのに修正がされなければ、それは認められたことになります。或いは、「君のことは気にかけない」というメッセージを送ることになります。

もしも、修正の方法が分からなければ、最低とるべき行動は一つです、近くの人と自分には対応が分からないけどどうしようと相談することです。スルーして逃げてはいけないのです。少なくとも、その場での最良策を話し合って、お互いが持つ情報を交換し合うのがプロの対応の仕方です。厄介な行動問題から逃げ出したくなる気持ちは分かりますが、私たちは行動問題にも向き合うことで口に糊する職業です。「見なかったこと」にしたりスルーするのは許されません。

 

修学旅行

C君が明日から修学旅行だと嬉しそうに話してくれました。感染症予防のために伸びに伸びた修学旅行がやっと実現するのです。しかも、一泊二日の旅行でホテル宿泊だそうです。発達障害の子どもでよく聞く修学旅行ネタは、不安で行きたくないというものが多いのですが、C君は無茶苦茶楽しみにしています。家族以外と遠くに行けるというのが楽しみだそうです。行先は和歌山方面らしく家族ともいったことがあるところだそうですが、知っているだけに見通しが持て安心していけるのかもしれません。

旅行中の集団行動がうざいとか、宿泊先の相部屋で相手と何を話したらいいのかわからないとか、自由行動で何をしていいかわからず不安だとか、ASDの子どもたちにとって見通しのない旅行は疲れるだけという子が多いのです。そのため、同じ場所に出かけてみる家族もいるくらいです。そこまでして、旅行する必要があるのかとも思いますが、参加しないという選択は普通はできないので、当事者にとっては深刻です。個室を与えてあげれば宿泊のストレスは軽減できるので、参加しやすくなると思いますが、それはそれでえこひいきだと陰口が気になるようで双方が受け入れられません。

そういう子もいるよとC君に話すと、「ふーん大変やね、僕は一日でも家族と別の場所で過ごせることがわくわくするけどな」とバスに一人で乗れないと嘆いたくせに生意気なことを言って、3000円のお土産代をどう使うかの細かな計画を饒舌に語ってくれました。良いお天気でありますように。

教えて!

A君が「B君!そのマイクラどうやって作っているのか教えて!」という質問をしていました。A君が、友達の名前を言って教えて等というのは利用して4年目で初めての事です。昨年までは他の学校の友達の名前すら覚えておらず、声をかける事がありませんでした。私たちは、人に関心がない事それがASDというものだと勝手に思い込んでいました。

しかし、支援学校の子どもだけで遊びのプログラムを作るのではなく、できるだけ小学校の子どもと遊びが共有できるなら共通のプログラムでやっていこうと(多様性社会と自発性 : 08/20 )を掲載したころから意識して取り組むようになりました。教えてのロールプレーは1回しか取り組んでいませんが、きっと今のA君の心に響いたのだろうと思います。以前はマイワールド招待の子のPC番号すら聞けずにいたA君の2か月前を思い起こすと驚くべき成長です。

私たちは、インクルージョンを進めるには子どもによって時期があると考えています。もっとも重要なのは子どもの安心が確保できるかどうかです。その安心は子どものスキルに裏付けられるものだと思います。表現する術もないのに、一緒にいれば何とかなるだろうという考え方はダンピングといって、現場に丸投げの安上がりなやり方で間違いです。子どものスキルを育てながら、やがて子どもがそのスキルを自分で使えるようになる時期を見通しながらインクルージョンは進めるものだと思います。

今回、障害児通所支援の在り方に関する検討会(座長=柏女霊峰・淑徳大教授)が報告書を出し、保育所や学童保育のインクルージョンが進まないから、一定時間を放デイから移行させてはどうかと提案していますが、子どもに社会性スキルが育っていないのに、子どもが安心して過ごせるかどうか考えてみればわかる話です。何故、子どもが学童保育に行きたがらないのか、そこを考えないと、放デイの利用総量も減ったが、学童保育に行く子どもも更に減少したという事になっては意味がありません。

 

ドッジボール逃げてどーする?

小学生が集まってくると公園に行ってやることは決まっています。鬼ごっこ・かくれんぼ・だるまさんが転んだ(ボンさんが屁をこいた)・風がなければバトミントン・風がある日はドッジボールです。昨日は、冬型の気圧配置でめちゃめちゃ風が強かったのでドッジボールをしました。

X君もY君も逃げ専門だったと言います。それなら、投げ専門がいるはずだと思い聞いてみると、「昨日Z職員が肩が痛いってぼやいていたよ」と言うので聞いてみると、逃げ専門の子どもばかりなので職員がずっと投げてたというのです。他の子どもの投げ方も、両手投げでヘロヘロ玉なので勝負がつかないのです。

ボールが受けられないのは、手加減して受けられるような球を投げればいいのですが、問題は投げ方です。片手でボールを持って同じ側の足で支えます。持った手と反対側の足を踏み出し腕から腰で投げるという力の入れ具合がまるで分らないようなのです。投球動作を教える時は少し重みのある小さな野球ボールの方がよいのかも知れないので、キャッチボールを教えてみるかと職員で話しています。投げ方をうまく教える方法は様々ですが、基礎からやった方がいいけど高学年だとモチベーションが持てないしと思案中です。

 

視線が合うようになってきた

ASDのVちゃんの視線が最近職員と合うようになってきたと言います。Vちゃんと出会ってから18か月が経ち、やっと職員と目が合うようになったのです。Vちゃんは、欲しいものがあると宙に向かって叫んでいました。冷蔵庫に向かって「ジュースくださ~い!」と叫んでいたのです。おそらく、就学前まではそれでジュースが出てきたり欲しいものが手に入ったのでしょう。要求が叶わないとこの声はもっと大きくなるからです。

先日、公園に行ってロープ遊具で遊ぶ時に先生の援助が必要になった時、いつものように遠くから宙に向かって「ロープとってくださーい」と叫んでいました。職員が反応しないので、走ってきて職員の目をのぞき込んで「W先生 ロープ取ってください」と言えたのでした。この目をのぞき込む要求行動と並行して、Vちゃんの事業所での適応が良くなってきたそうです。相変わらず、一度自分で決めたパターンは崩せないのですが、指示は通りやすくなったと言うのです。

前回、(2の声でお願いします : 10/13) でも書きましたが、事業所に入る前にお願いすると、毎回ボリュームをひそひそ声にまで落として、こんにちわと挨拶してくれます。声をかけられた職員は必ず目を見て挨拶を返すようにしています。このように、Vちゃんが指示に沿えるようになってきたのは、職員の側がVちゃんのニーズが分かったからだと思います。

大声の原因は、あいさつしたら挨拶を返してほしいという要求だったとわかり、宙に向かって叫んでいる時と同じで、相手が特定できないまま要求していたことが分かったからです。ならば、目を見て私が受け止めたよという返事と2の声でと言う条件をセットにして適切なコミュニケーションを積み上げていくことができたからだと思います。

コミュニケーションが適切に取れだすと必ず子どもは落ち着いてきます。もう窓に登ったりして職員の反応を引き出す必要はないのです。声を出して喋ることができていたVちゃんへの導入は絵カードコミュニケーションよりこの方が良かったようです。ただ、声は消えてしまって見直すことができません。そろそろ、本格的にPECSに取り組もうと思います。

発達検査でわかる事

この間2件続けて発達検査をしています。すてっぷではKABC-Ⅱという認知も学力も測れる検査を利用者の希望があればしています。この検査では、認知総合尺度と習得総合尺度が測れるので、得点を比べて認知に適した学力が形成されているのかどうかがわかります。例えば認知総合尺度より習得総合尺度が低ければ、教え方によってはもっと学力が伸ばせるということです。逆に習得総合尺度が高ければ、先生の教え方が良かったり生徒が努力しているということになります。

よく使われるWISC-Ⅳはワーキングメモリーと言って数唱を覚えたり覚えて並べ替えたりする指標がありますが、いずれも聴覚記憶です。KABC-2は、視覚による短期記憶も継次尺度として測るのでどのような短期記憶が得意なのかわかります。ただ無理なく検査しようとすると、高学年なら二日間かかるので学校関係ではあまり使われないようですが、検査の結果が支援へのヒントに直結しやすく便利な検査ではあります。

今回はU君を検査をしましたが、U君の認知総合尺度に比べ習得総合尺度が著しく低いという結果が出ました。というか、前回2年前よりも認知総合尺度が著しく伸びているので、勉強の内容が合っていないというプロフィールになっています。通常、知能検査の数値やプロフィールは年齢によって大きく変わらないと言われているのですが、認知尺度中、継次尺度以外の尺度が全て著しく高くなっていました。

特に新しい学習に取り組む力と言われる学習尺度の伸びが極めて大きく伸びていました。U君はASDなのですが、最近言葉による理解力が伸びており、NHKの将棋講座などを視聴して腕を伸ばしている等があり、このことと大きく関係するのだと思います。U君の認知尺度に適した学習をこれから用意して、積み上げていくことが学校の課題になってくるのだと思います。とりあえずは、この結果を家族と当事者であるU君に理解できるように説明する準備を始めています。

連続落とし物

R君の財布を事業所に忘れていませんかと、小学生と外出した職員から電話がかかってきました。今日は科学センターに行きお昼は回転ずしに行って帰ってくる外出日です。財布がないと言うR君はいつも財布をなくしています。みんなから、カバンの蓋が開いているから物を落とすよと言われていますが、一向に改善しません。職員総出で探していると、現地の職員から職員の車のシートの間に落ちていたと連絡がありました。

やれやれと思ったら、お昼ごろ、今度はS君の財布がないと発覚し科学センターに連絡したところ、落ちていましたと折り返しの電話がありました。R君の件でみんながあれだけ大騒ぎしていたのに、ブルータスお前もかでした。二人に共通することは、大事な財布を無くしているのに「ないない」とパニックっているだけで、援助してほしいと求める事ができません。そして、見つかっても、迷惑をかけたと想像ができないのでお詫びができないのです。まずは、適切に援助を求める事や手を煩わせたことについてのお詫びの仕方を教える必要があるなと感じています。

ただ、前回の公共交通機関が使えないのと同じように、日常的にお金を使うという活動ができていません。それは、この子たちが金銭を紛失しやすく自立的な行動をさせることに不安があるので経験させない、経験をさせないから失敗から学べないという悪循環に陥っていることも考えられます。生活行動は経験と工夫の積み重ねで自立していくものです。大人になってからでも経験のない人は苦労している人は少なくありません。子どものうちにサポートがしやすいうちに経験を重ねさせることが大事だと思います。

合理的配慮のある試験

視知覚(視力ではありません)や読み書きに課題のあるQ君の数学の特支級のテストを見せてもらいました。答案用紙2枚に50問の計算式が並んでいます。負の数を含んだ、小数、分数の加減乗除の計算問題です。通常学級であっても、視知覚や読み書きに障害が認められる場合は、合理的配慮として出題数を減らすか時間延長するのはもちろんのこと、見間違いが生じないように大きな文字で出題したり、記号を太字にしたり色を付けて強調したりと様々な工夫が求められます。

50問何も工夫なしに縦用紙に1列15問で2列に問題が並んでいます。私はこの答案を見て、Q君の苦労を労いたいとともに、出題者は学習障害の事をもっと勉強してほしいと願わずにはいられませんでした。通常学級でなら、「公平性」があるからと答案用紙に工夫のないテストを出す出題者がいても、軽蔑はするけどまだ許容はできます。しかし、特別支援学級は、そういう「公平性」は考える必要ないのです。そもそも、公平と平等は意味が違い、その人の能力に応じてハンディーをつけて勝負することを公平な勝負というのです。

さらに、特支級のテストは障害に応じて工夫して教えたことが、子どもにどれくらい定着したかを確認するものであり(通常級も同じはずであってほしいですが)工夫なしで障害のままの「丸腰」の子どもの「実力」を試すものではありません。「工夫」は「眼鏡」に置き換えればわかりやすいと思います。視力が弱いのに眼鏡なしのテストの結果は実力とは言わないのと同じです。眼鏡をするなという教員がいないように合理的配慮はその子の障害に応じた「学校財政上合理的な範囲での配慮」を行いなさいというのが新しい法律「障害者差別禁止法」なのです。公共機関は学習障害者に合理的配慮をしないという差別をしてはいけないのです。

 

 

清水って水の上に浮かぶお寺ですか?

小学6年生に、「京都のお寺と言えば、金閣寺・銀閣寺・清水寺といろいろあるけど・・・」と職員が話すと、「清水寺って水の上に浮かぶお寺ですか?」とP君が質問しました。「え?清水寺知らない?清水の舞台とかいうでしょ。12月になったら今年の漢字とか言って「密」ですって言って習字を書いている放送見たことない?」全員「ない」と取り付く島もありません。

全員、京都生まれの京都育ちなんだから、学校で習うはずだけどなぁと職員。せいぜい知られているのは金閣寺くらいでした。そうか、世界が京都に注目しているのにそこに暮らす子どもが知らないのでは話にならないと、11月からは京都市内巡りの計画を立てています。

事業所唯一の歴史好きのQ君に話すと、ものすごく喜んで食いつきました。ところが「小学生だけで電車やバスに乗って行ってもらう」と提案すると、途端にへなへなとなって「俺、電車もバスも一人で乗ったことないから無理」としょぼくれるのです。他の子に聞いても、電車もバスも一人で乗ったことがないし、切符も親が買うし、渡すと落とすからと切符そのものを持ったこともないというのです。

小学生はみんな箱入り娘や息子だったのです。「でも、みんなあと半年で中学生なんだから、公共交通機関ぐらい使えるようになろう」と励まして、現在企画を立案中です。京都の寺社仏閣に行ったことがない子どもは、行っても遊ぶものがないのですてっぷの利用者だけでなく他にもいるかもしれません。電車やバスに乗ったことがない子も自家用車があるので珍しくはないのかもしれませんが、誰もないと言うのが驚きでした。京都市の小学校では1日バス乗車券を買わせて市内巡りをする小学校もあるそうですが、乙訓では聞きません。せっかく京都に住んでいるのですから取り組む価値はあると思います。

嘘と根拠のない自信

O君が、PCで学習の約束をしていたのに、こっそりYoutubeを鑑賞していたので注意されたそうです。活動の振り返りの際にこの事を聞くと「そんなことはしていない」と噓をつくので「君に注意したP職員から聞いているよ」と言うと、嘘をついたことを悪びれもせず「あれは、音楽を聴きながらの方が学習がはかどるから聞いてた」というのです。普通は「あーばれてたーてへへー」と照れるのが正しいリアクションですが、彼は見え透いた嘘をどんどん重ねていきます。

不注意傾向も強い彼は、帰り際に帽子を忘れたり連絡帳を忘れる事が多すぎるので、小学生のみんなで一緒に(お帰り準備表:06/11)に取り組んでいます。最近、O君の忘れ物が続くなぁと担当職員が思って調べると、担当職員以外の日は「めんどくさい」と言って、まともに点検作業をしていなかったそうです。担当者が何故点検しなくなったのか聞くと「全て持ち物は頭に入っているから」と豪語したそうです。そこで「え?昨日も一昨日もずっと何か忘れているやん」と問いただすと「めんどくさいねん」と本音を言ったそうです。「全部頭に入っているのと違うの?」と追い詰めたらきっと黙り込むので「寸止め」したそうです。

O君は以前から、見え透いた嘘を重ねたり、根拠のない自信を言います。15分程度の山道でも「しんどい、もう歩けない」とへこたれるのに、将来は自衛隊など体力勝負の職業に就きたいなどと仲間に言い、鼻であしらわれています。低学年ならまだしも来年は中学生のO君のこの「いいかげんな言動」は、確実にいじめの好餌となります。どうすれば彼のこの癖を修正できるのか、修正は結構難しいぞと職員で話しています。まずは、彼とロールプレーをして見え透いてた嘘と、正直に謝ったときに相手に与える印象について学習してみようと思います。

喋らないで作業します。なんで?

Nさんは視覚障害がありますが作業ができます。点字も使ってマッチング作業や組み立て作業の学習をしています。ただ、Nさんはおしゃべりが大好きなので、作業中もついつい職員に話しかけてしまいます。職員もついつい応えてしまって、その結果作業の精度が落ちてしまう事が少なくありません。職員は、Nさんには「喋らないで作業をします」と伝えているので、覚えてないわけはないと言います。でも、話してしまうのですから、理由は何だろうと言う話になりました。

そもそも、Nさんは、何故作業中にお喋りしてはいけないか理解しているだろうかという話になりました。Nさんが間違わないで作業をするという理解をしているかどうかは聞いてみないとわからないという結論になりました。晴眼者の場合は見て自己フィードバックできますが、Nさんの場合は職員が間違いを指摘するしかありません。しかも「間違ってたよ」では何がどう間違っているのかわからないので、手で触らせて間違いの確認をして、自分で修正するという過程が必要です。これも広い意味では4ステップエラー修正と言えるかもしれません。

つまり、間違っていることを触覚を通して伝え、どうしてこうなったかに気付かせることで、初めて作業には注意や集中が必要で、おしゃべりすると間違いやすいと自覚ができるのだと思います。そして、間違わずに完成したら一緒に大喜びして褒めてあげることで修正指導は初めて成り立ちます。大人は声を掛けたら注意ができたと簡単に思っていますが、見えないとか、聞こえないとか、聞こえても理解できないとか、個々の障害を配慮した上での修正でなければ、修正にはならないことをNさんが教えてくれているのだと思います。

 

2の声でお願いします

Mさんは、最近送迎車から降りて事業所に入る時「コンニチワー!」と絶叫します。2学期になってからですが、うるさくて聴覚過敏の子の攻撃ターゲットにならないかヒヤヒヤしています。すてっぷでの対応はとりあえず強化はしないという消極的な意味でのスルー作戦です。しかし、他の場所で大声に反応して強化してしまうこともあるし、反応がないとさらに行動が激しくなるバースト行動を誘発する可能性もあります。案の定、日に日に絶叫挨拶は大きくなっていきました。

そこで、事業所の玄関に入る前に職員が予告をすることにしました。「Mさん、こんにちわは2の声でお願いします」と声のレベルメーターでの提示をしました。職員の声も2の声よりもさらに落としてヒソヒソ声でお願いしてみました。すると、玄関に入るとMさんは職員と同じように小さな声で「コンニチワ」と言ったのです。つまり、Mさんは玄関に入ったら「コンニチワー!」と絶叫するのが、お決まりの行動になっていただけだったのです。何か特別な思いがあって絶叫していたわけではなかったのです。

私たちは、不適切な行動には私たちに何か訴えるものがあるという対人関係上の理由を想定してしまいます。しかし、「2の声で」とお願いすれば従ってもらえるくらいの行動だったということです。「こんにちわ」と玄関で言うのは間違った行動ではありません。ですから、私たちは、この行動を止める理由はありません。ただ、適切な音量というものがMさんにはわからないので、皆が反応する大音量になったのではないかと推測しています。

つまり、挨拶したら反応が返ってきて1セットだという認識です。このセットを完成させるために大声を出せば何らかの反応が大人からあったと言うことかもしれません。ASDの子どもたちの世界は、よく考えてみると、なるほどなぁと頷かされるとてもシンプルな理由があります。明日のMさんの挨拶対応は2の声作戦で行きましょう、適切な音量なら視線を合わせて優しくコンニチワを返しましょうと、全員で意思統一しようと思います。

 

 

 

九九の季節がやってきた!Y先生のじゃんぷ通信8

かけ算九九の季節がやってきた!Y先生のじゃんぷ通信8

小学校に上がった子どもたちが、読み書きの力と合わせて困っているのがかけ算九九の学習です。じゃんぷに来ている子ども達も色々な困り方を見せます。

学校では九九を覚えるのに九九カードを使って唱えて覚えます。上がり算下がり算を毎日練習します。ところが読むことに苦手があると九九をスラスラ言えません。繰り返しやれば覚えるのではと毎日取り組みますが、やればやるほどいやになります。そんな時に役立つ、九九の歌を聞いて覚える方法が浸透していて、「それで私も覚えた」という保護者もたくさんおられます。子どもたちの中には耳で聞いて覚える方が得意な場合は役立ちます。

逆にことばに注目できない子は「4(し)」と「7(しち)」の区別が難しい、段によって「が」が入る・入らないの意味が分からない等で悩んでしまいます。九九の学習が進むと、逆に視覚的な力を活かして九九表を横に置いておいて、見て答えを見つける方が有効な場合があります。学校でも通級指導教室や特別支援学級では取り入れることも増えてきています。しかし通常の意学級では、その子だけ特別扱いになると嫌がったりします。

「この表を欲しい人は誰でも貸すので言ってください。」と説明し、覚えるまでは使ってもいいという雰囲気が必要になります。又九九表がどこに何が書いてあるのか注目しにくいため、使いたがらないケースもあります。このようにその子その子に合わせたつまずき方を理解し、その子の良さを活かして方法を探ることが大切です。

読み書きや計算に悩んでいる子にとって、昔からやっているからとか、親の世代もこの方法でやってきたからというような一つの方法だけに頼るのではなく、子どもたちに無理なく教えられる方法を、多様な視点で探っていくことが求められます。(じゃんぷでは取り組んでいます)

 

友達の声掛けをスルーします

K君たちがヘルプを出してきました。「先生!みんなで一緒に遊べって言われたし、L君には『みんな』といわないで『L君』ドッジボールしよって呼びかけたのに全然反応してくれへんしもうわけわからん」と言うのです。以前(多様性社会と自発性 : 08/20 )でも書きましたが、支援学校生と小学生を分けて遊ぶのでは、せっかく同じ放デイに来ている意味がないということから、できるだけ遊びの内容が共有できるなら一緒に遊ぶことにしています。その中で、小学生たちが支援学校生にどう接すればいいのかも学ぶようになったというのは前回書きました。

L君に聞いてみました。「K君がドッジやろうって声掛けてくれたの聞いてた?」「聞いてた」「ルールの説明は聞いてた?」「聞いてたよ」「ドッジが嫌だったの?」「違うよ」「だったらなんで一緒に遊ぼうとしなかったの?」「う~ん。わからん」とのことでした。実はL君はK君が声をかけた時ファンタジー遊び(好きなシーンのイメージ再現遊び)をしていたのは職員は知っていたので、聞いていなかったんだろうと思っていたのですが、聞いていたし、内容も分かっていたと言うのです。これには職員も困りました。知っていたけどなんとなくスルーしてたわけです。

友達が声をかけたら何故反応しなければならないの?という根本的なところから出発しないとこの問題は解決しません。友達が「遊ぼう」と声をかけてくれるのは親愛の表現で、これをスルーすることは「君は嫌いだ」と言うサインになるから、必ず反応して「ありがとう、でも今はやりたくない」と反応することをソーシャルナラティブで教えるといいかなと職員間で話をしています。

そして、小学生たちには反応しないのは、別に君らの事を無視しているのではなく、何かやりたいことが他にある事が多いので、「あとでおいでね」と声をかけて今日みたいに先生に相談してくれたらいいと説明しようと話しました。彼らを一緒に遊ばさないとこんな課題は見つからなかったのでやっぱり一緒に遊ばせてよかったと思います。何よりうれしいのは、小学生たちが怒らないでL君を見捨てないで、どうすればいいか職員に聞くようになったことです。皆で遊ぶには知恵と工夫がいると子どもたちに言い続けてきた成果です。継続は力です。

 

 

エラー修正

J君は作業を終了したら、ご褒美に好きなものを飲んでいいことになっています。ただ、作業終了したことが職員に分かるように「作業終了したよ」報告を絵カードで行ってから、職員が作業内容を点検してOKがでたら、作業終了となるのですが、J君は作業が終わると「ジュースください」カードを持ってきます。ワークシステムも作って「ジュースください」の前に「終わりました」カードがあるのに何故かそこを飛ばして「ジュースください」カードを持ってくるのだそうです。

何回修正しても覚えないというので、どんな修正をしていいるのか聞いてみました。間違えると「やりなおしましょう」とワークシステムに身体プロンプトで向かわせ「終わりました」を持ってこさせて、「ハイOK」ということで次の「ジュースください」絵カードに進ませると言うのです。

職員にもエラー修正が必要なことがわかりました。やり直しは身体プロンプトするけど、身体プロンプトをフェードアウトしてリピートしないまま次に進ませていたのです。この修正の仕方だと、本人は「ジュースくださいカード」を自分で持って行く→やり直しと言われて身体プロンプトで「終わりました」カードを持たされ職員に渡す→自分で「ジュースください」カードを渡す→ジュースが飲める、と言う順序で理解したはずです。

つまり、身体プロンプトされるところが、新たに彼の「ジュースください」のルーティンに入っただけなので、何回修正しても、職員のいう「間違」いが生じているのだと思います。そして、修正介入を受けた後は結果的に何度もジュースが出てくるのですから、とても強力に強化されていると思います。この場合は、身体プロンプトで修正を行ったら、そのあとすぐに一人で作業の終わった場面から始めさせて正しい順番で行動するリピート行動が必要だと思います。

このエラー修正は、順番を修正するためにできるところまで戻ってプロンプトしていくのだから、バックステップエラー修正かなとも思うのですが、リピートをするあたりは4ステップエラー修正にも思えるのですがどっちでしょうか?どなたか教えてください。とりあえず職員の修正は選択の間違いですから4ステップエラー修正です。

 

怒りの感情を我慢する事

H君が「今日はバトミントンでI君と喧嘩しない」と申告してくれました。昨年までのH君を知っている職員なら、びっくりしたと思います。H君は乱暴者で暴言王の汚名をこの春返上しました。服薬で落ち着くから自制心が働く、自制心が働くから大人から賞賛される、賞賛されるからさらに適応行動をとろうとするという好循環が半年間続いています。

でも、良い子になろうとして感情まで抑え込んでないかどうかが気になると職員間で話しています。どんなときでも冷静ならいいのですが、大人の賞賛を得るために我慢していたり、納得してないのに我慢したりするのは彼のために良くないと話しました。H君たちは爆発するか我慢するかのどちらかしか選択できない場合が多いのです。人に話すという選択肢のあることを教えることが必要です。

彼らは困っても人に話さない事が多いので、誤解から生じた怒りかどうかも周囲は判断がつきません。ASDの子どもの社会的な関係での誤解が少なくないので、怒りの原因を聞いてみることはとても重要です。聞いてみれば、そんなことで怒ってたのかという内容が多いのですが、一人で我慢しているうちは悶々としていることが多いのです。怒りの感情を我慢するだけでは火だるまになってしまうので、職員に話せるように環境を準備しようと職員間で話し合っています。

一番良い環境は二人になれる送迎車の中です。職員は運転して前を向いているし子どもは横か後ろから話すので話しやすいのです。そこでは、ほとんどは相槌を打つ程度ですが、子どもは話せて良かったと感じているようです。子どもが大きく誤解しているなという時だけ、「違うと思うよ」と言います。「なんで」と子どもが聞くまでは理由は話しませんが、その対応でほとんどの場合、誤解は解けていきます。誤解が解けない場合は何度も同じ話を聞くことになりますが、同じように対応していればいいと思います。重要なことは、まず子どもが自分の思いを大人に話す事であり解決する事ではありません。

 

PDCAサイクル

今週はすてっぷの職員でこの2月に自己評価集計結果から検討した内容が実施されているかどうか、中間調査をしています。そもそも、「事業所の保護者及び自己評価集計結果」の公表は義務付けられており、公表しなかった場合は通常の放デイで年間約500万円程度の減算になります。そういうわけで、各事業所のHPには必ず1年に1回のペースで集計結果が公表されています。

しかし、1年に1回では忘れた頃に点検する感じになるので、PDCA(PLAN DO CHECK ACTION)サイクルで事業を改善するには間尺に合いません。そこで年度中間のこの時期に検討した内容が実施できているかどうか職員のみの自己点検調査を実施することにしました。組織体は目標が達成ができているかどうか、こうした文章を作って点検しますが、点検そのものが形骸化して文書を作った段階で改善できたような気持ちになってしまうことが多いです。

同じようにPDCAサイクルで点検するものに個別支援計画があります。これも、職員で時間をかけて協議して仕上げる割には、その後半年経つまで、振り返ることがなかなかありません。目標は具体的に「~をする」と書くようにしているので、半年たって実施していなかったことが明らかになったりします。そこで、目標を忘れないために、日々の利用者の記録の際に、半年間の目標が職員の目に触れるように運営アプリケーションで確認できるようにしています。作成した文書は、ファイルBOXの中で眠らせず、みんなで活用ができるように実践に生かせるように工夫していきたいと思います。

ショッピング支援は万全の準備を

Fさんに昼食をコンビニで買ってもらおうと、いつものお気に入りのナポリタンスパゲッティーのリマインダーを持って買いに行きました。買い物支援の必要なFさんとG君の二人でコンビニ内に入ったのが失敗でした。G君が会計をしているので職員がFさんから目を離した間に、Fさんは店内を見て回り、お気に入りのハイチュウーを手に取っていたのでした。それも、もう商品を開けていました。

ここで「やりなおし」と交渉しても店内ですから開封した商品を返すわけにもいかず、交渉のトレーニングもできていないので、修正すればFさんは大騒ぎになるのが必至です。せっかくショッピングの練習に来たのに、商品を勝手に開封するのを見過ごすしか方法がありませんでした。お客さんがいるのにFさんともめて迷惑をかけるわけにはいかないからです。次回も繰り返してしまう可能性があるので、商品を開封してしまったことを忘れるまでは店に入るわけにはいかなくなりました。

結果的に、Fさんのショッピングの機会を遠ざけてしまったことがとても残念です。行動問題のある方のショッピングはどうしても遠ざけがちになってしまいます。それは、店員の方や周囲のお客さんに迷惑をかけられないし、障害のある方を誤解をしてほしくないからです。行動問題のある方のショッピングは、支援者は練習に練習を重ねて、様々なイレギュラーも想定して挑む必要があります。必ず成功させようとする準備がないと、当事者の可能性を狭めてしまうからです。たかが買い物されど買い物です。購買行動は障害者があってもなくても、その方の権利です。買い物は楽しく選ぶという人生を豊かにする中身をたくさんもっています。障害の重い方にも適切に購入できるように支援したいと思います。

 

楽しみ

F君は、10か月前までは職員の気を引くために外に飛び出して、近所のマンションのエレベーター遊びをしていました。職員が追いかけて走っていくとげらげら笑ってまた逃げるという繰り返しでした。注目要求と自立 : 07/17 でも書きましたが、彼には大人に注目してほしい要求があり、適切な行動は注目しているよという反応を返すことで、ぱたりと不適切な注意喚起行動がなくなったのです。

もう一つは、彼の好きなものをご褒美にして課題設定をしたことです。F君の好きなものは「野外ラーメン」とサイダーです。夏前まではラーメン準備ワークシステムを見ながら、ひとりコッフェルやバーナーをリュックに詰めていそいそと山登りに出かけていました。本当に気に入っていたようで、スクールバスから降りてくる時に「今日ラーメンは?」と聞いて「あります」と答えて欲しくて送迎車の中で何回も職員に聞いていました。

それが、暑さと雨が続いたことで3か月近くラーメンが途切れています。それでも作業課題への職員の注目と、作業後の一杯のサイダーを糧に頑張ってはいるのですが、たぶんつまらないだろうなと思います。野外ラーメンはF君にとって至福の時なのです。そういえば、最近、職員がスクールバスに迎えに行っても、乗降タラップ所での「無動」「やりなおし行動」が激しくなってきているのです。もしかして、放デイ通所が楽しくないのかもと案じています。

子どもが適切な行動がとれるようになると、職員はのど元過ぎれば熱さ忘れるで、普通に扱ってしまいます。実は子どもは楽しみがなくなっていて、かといって自分から要求ができない表出性コミュニケーションの弱さで言い出せていないかもしれません。これは好きだからと、年がら年中同じことを提供するのもどうかとは思いますが、好きなことを支えに人の生活は成り立っているものです。そろそろ、「野外ラーメン」には良い季節ですので出かけようかと話しています。

服薬

すてっぷに来る子どもの過半数が行動の問題で服薬をしています。最も多いのが、ADHDの多動性や不注意を軽減するコンサータやインチュニブです。以前はストラテラが多かったのですが、新薬インチュニブの登場でこちらが一気に増えた感じです。ただ、インチュニブの効果がなかったり副作用が強い場合は、中枢刺激薬のコンサータの選択や、同じ中枢刺激薬の新薬ビバンセを選択している子どももいます。

ASDの子どもの行動問題に使われている薬は、最近利用は少なくなりましたが、激しい興奮を抑制するセレネースやテグレトール等です。ただ、これらは副作用も多いので、ASDの子どもに多く使われているのは、比較的副作用が少ないとされるリスパダールやエビリファイです。また、数は少ないですが不安や固執性を原因としたASDの行動問題にADHD適用薬を服薬している子どももいます。

激しい行動問題で、家庭や学校で大変なのは分かるのですが、毎回、服薬量が増えたり種類が変わる子に限って、行動問題が増えているように感じます。行動問題が深刻だから服薬量や種類が変わるのは当たり前だと言われそうですが、深刻な子に限って薬の量や種類が変わっても沈静化せず、むしろ行動問題が増えている印象が強いです。医療の話なので量や種類について素人が口をはさむべきことではありませんが、子どもの変化については動画なども用いて正確に医療に返していくことが大事だと家族の皆さんには伝えています。

重度の知的障害を伴うASDの行動問題の多くは、表出コミュニケーションの障害が大きな原因です。上手く伝えられないことによってストレスが生じ情緒不安定になるのだし、うまく伝わらないから激しい行動で相手が振り向くように行動する事が多いのです。このどちらも、表出のコミュニケーションが育っていない事が原因です。これらは服薬で解決できるものではありません。もちろん、学習が成立する程度の感情調整を服薬に期待することはあるし、本人が成長するまで行動問題を見過ごすこともできませんから、服薬で乗り切る時期もあるかもしれません。

しかし、行動問題を抱えたASD児の関係者(特に学校教員)が服薬に期待するのは、自閉症のコミュニケーション問題が重要な原因だと考えていない場合が多いです。もちろん、コミュニケーションの支援だけ全てが解決するわけではありません。喋れる子どもでも様々な問題は起こすものですが、その問題一つ一つに服薬を求める大人はいません。

コミュニケーション支援に取組めば、子どもの表情は和らぎ大人との信頼関係はぐっと深まります。安心して生活ができれば、行動問題の修正も支援しやすくなります。子どものコミュニケーションに真面目に取組む環境に変わるだけで、服薬以上の効果が認められたケースは少なくありません。

それと並行して、子どもはソーシャルスキルを学び、周囲の大人もペアレントトレーニングやティーチャートレーニングをうけて上手に子育てや教育をすすめるスキルを身に着ける必要があります。激しい症状には子どもが楽になるという意味で服薬は必要ですが、それは対症療法であり治療ではないという事を知る必要があります。

そして、支援学校に在籍している子どもの行動や服薬の事で困ったら、支援学校で精神科校医として勤めている校医さんに相談するのが良いと思います。精神科の校医さんは子どもの様子を教室に行って見ていますから実態は一番よく知っています。服薬のことも聞けるのでセカンドオピニオンとしても相談されるのが良いと思います。

 

 

運動会とDCD

D君がぶつくさ言いながら登所してきました。運動会練習の季節なのです。「あのな、V字バランスってあるよね」ハイハイ「あれな足も頭も上げてバランスとってていうけど、俺には至難の業なんや」ソウヤネ「頭を意識すると足がわからんようになるし、足を意識したら頭側がおろそかになるねん」協調動作ガムズイ?「そうやねん。俺不器用やからいっつもハズイ目にあっているねん」タシカニ…。

2つ以上の動きを同時に行うことを「協調運動」と言います。 発達性協調運動(症)障害(DCD)とは、2つ以上の動きを同時に行うことが困難になる障害です。例えば自転車に乗るときに手でハンドル操作をしながら足でペダルをこぐなど、異なる動きを同時に行うことが難しい状態です。

2:1~7:1で女子より男子の方が発症しやすいといわれており、5~11歳までの子供では5~6%の確率で発症すると考えられています。発達性協調運動障害(DCD)の原因は、まだ詳しく解明されていないのですが、特徴としては、次のような障害が挙げられます。

1.筋肉の制御に対する障害(筋肉をうまく動かせない)
2.神経発達過程の障害(視覚的な運動機能の障害)
3.運動技能の欠如(日常生活内の動きが困難になる)
これらの障害により、発達性協調運動障害の子供は年齢や知能に比べ、運動能力が著しく低かったり、日常生活の簡単な動作にも不器用さが見られるようになります。

発達性協調運動障害はADHD(注意欠陥・多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)の症状も同時に見られることがあるため、こちらの障害に包括されてしまうことが多いです。発達性協調運動障害とADHDを同時に持っている子供は、ADHDのみを発症している子供に比べて、強い症状が現れます。

発達性協調運動障害(DCD)は運動機能だけに障害があるので、運動機能を改善させるための接し方としては事実と理屈で示していきます。発達性協調運動障害(DCD)の子どもは、自分がうまく動けていないことに気がついていない場合もあります。鏡に映したり、スマホで見せてあげたりするとよく自覚してくれます。

運動機能を高めていくには、まず自分の苦手なところを発見することから始めます。そのためには、大人が子どもをよく観察してあげる必要があります。運動会の時期に先生方は大変でしょうが一肌脱いであげてください。そして、正しい力の入れ方を感覚と言語のWルートで理解させてください。だんだん正しい運動の感覚が理解できるようになってきて、少しずつ出来ていくので上達したらたっぷりと褒めてあげることが大切です。

この練習はできれば毎日続けてやった方が効果的です。間を空けると、せっかく覚えた感覚を忘れてしまうので、ある程度できるようになるまでは続けて練習してください。みなさんの周りにもきっとD君やEさんが2~3人いるはずです。

 

支援の流儀

Cちゃんの登所時の様子を報告してもらいました。絵カードを示して「靴入れて」「カバン入れて」の指示をするけど、ちっとも従わないので、声をかけすぎかと思うと言う報告がありました。「でも、Cちゃんは、帰りの用意はカバンに連絡長を入れたり、着替えを片づけたり、なんでもできるんですけどね」と帰宅用意が自立しているのに、登所で自立してないのは不思議だというふうに報告されます。

帰宅行動は絵カードを見て準備しているのではありません。保育所で教えてもらった通りのルーチン行動が身についているのです。ところが、登所場面、好きなことに目が行くようでちっとも定着しないのです。おそらく、保育所時代から登所場面はモデルになる子どももいないし、保護者が対応するので、教えられなかったのではないかと思います。

そして、繰り返しの行動で身に着いた習慣と、ワークシステムを見ながら自分の行動を統制するのでは意味が全く違います。後者は視覚認知の力や今やりたいことを保留して行動する自己統制の力が必要です。その際に注意しなければならないのは、声掛けも絵指示も、ひとつづつ大人が従わせようとするなら、言葉で言っているか絵で指示しているかの違いだけで、従わせられると言う本人の気持ちは同じだという事です。

ワークシステムは自立性を目指します。そうであるならばフェードアウトの方法まで考えて教える必要があります。身体プロンプトで目の前のワークシステムを指ささせて行動するようにします。そうすると声掛けは少なくて済むし、大人の介入も黒子のようになって最小限で済みます。

将来の自立した姿を思い浮かべて、最初は靴入れ程度だけど、これが学習や作業場面に応用されて、自立して行動できるようにすることが目的だと考えれば、小さな子どもへの支援の仕方も変わってくると思います。これがプロフェッショナル支援の流儀なのです。

 

なんで?理由を聞こう

言葉のないB君が、以前は取り組んでいた集団遊びの課題を拒否したのでしませんでしたと報告がありました。そこで、B君が穏やかに拒否したのはいいことだけど、何故拒否したのか理由を聞くと「わかりません」ということでした。では、今度も拒否したら課題には取り組まないという事ですかと聞くと、そこまで考えてはいないとのことでした。理由を聞くといってもB君は言葉でやり取りできないので正確には、働きかけてあれこれ理由を探ると言うことです。

確かに、子どもが暴れたりするような不適切な行動をして、大人が指示したことを拒否するよりも、手で押しのけたり首を振って「嫌です」と穏やかに表現する方が良いです。ただ、「嫌です」「あーそうですか」で終わったら、子どもが何故嫌なのかわからないままです。もちろん、嫌だと表現しているのに無理に強いるのはもってのほかですが、いろいろと交渉することが大事だと思います。

「これが終わったら大好きなことしましょう」とか「だったら量を減らしましょうか」等といろいろと交渉をする中で、嫌が好きになることもあります。他にも、気になって仕方がないことがあるとか、単に体がしんどいとか事情が少しづつ分かってくるはずです。嫌を受入れていればトラブルは起こりませんが、それ以上双方が歩み寄ることもありません。通常の生活で言えば「それなら勝手にしてよ」と言っているのと同じです、子どもは大抵「なら勝手にするわ」となります。これでは身も蓋もありません。

交渉は、お互いを尊重し合い歩み寄るためにします。そのためには、嫌の理由を知る必要があります。言葉のない人はうまく言えませんが、交渉する中で見えてくることがあります。案外「もうその内容は飽きた」とか「つまらんねん」とかいう理由が少なくないです。マンネリに気づけば、「よっしゃ!新しい内容を考えてくるわ」と職員が捲土重来を期すきっかけにもなります。交渉は双方が学び合うと言う意味でも重要です。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」…使い方が違いますか。

 

季節の変わり目?

Y君もZさんもA君も、気分調整が難しくて向精神薬の服薬が必要な人たちに変調が多いように感じます。秋への変わり目のようなぐっと気温が下がる季節だけでなく、一日の寒暖差が大きい日が続く春秋のお彼岸頃を前後して(人によって1か月程度ズレます)、調子が崩れてくるのです。医師に相談すると、エビデンスがないと一蹴されますが、現場の支援者はなんとなく感じています。

Y君は、何度も大人に今すべきことを確認しないと動けないことや、昔、大人から怒られたことがスリップして、脈絡なく他害の攻撃衝動が激しくなったりします。Zさんはしばらくなかった圧感覚を大人に求める行動が始まって、背中をずっと押して欲しがります。A君は、夏調子が良かったとは言えないのですが、最近さらに不眠や多動性だけでなく、足をばたつかせるとか座ってられないなどアカシジアやジストニア風の動きもあり、ずっと興奮していてしんどそうです。

これらは、秋が深まっていくと落ち葉が地面を隠すように鎮静化していくので、恒例の事と保護者も支援者も経年と共に気にしなくなっていくのですが、体が大きくなると症状も激しくなるので、なんとかできるものならと医師に相談することが少なくありません。医師も沈静化を狙って投薬変更したりするのですが、裏目に出る場合もあり、感情調整の投薬は難しいことが多いようです。

診察室に本人が入ってもわずかな診療時間では激しい症状の様子が見られないこともあるし、保護者の言葉だけではうまく本人の状態を伝えきれないこともあります。私たちは保護者にスマホで撮った1分ほどの動画を提供しています。保護者はそれを医師に提供して症状を伝えられるようにしています。そもそも、子どもの行動の状態が悪い時には通院することが難しい場合も多いです。

最近、リモート診療も認められてきたのですから、家庭から医療にアクセスして、こうした当事者の動画を家族から提供してもらって診察材料にすることも障害者医療は考えて欲しいなぁと思います。処方箋も電子決済が可能になれば、わざわざ遠くの専門病院に処方せんだけをもらいに行く手間も省けると思います。

 

ソーシャルナラティブ

最近、低学年のX君が「公園なんかいきたくなーい」と頻繁に言うのですが、公園に行くとX君が一番楽しそうに遊んでいます。高学年の先輩たちが口走る言葉をそのまま真似している感じです。でも、そう口走るのは、何のために放デイに来ているのか、遊びに来ているのに何故スケジュールがあるのか引っかかることがあるからだと思います。

ASDの子どもがこういう引っ掛かりを持った時には、説明が大事です。ASDの子どもは社会的な暗黙の了解ができません。以前、X君のあこがれの先輩たちが、すてっぷに来ている支援学校の人たちだけでなく、自分たちにも障害があるからここに来ているのだと彼らの先輩から聞かされて驚いていたというエピソードがあります。説明がされていなかったので何十回と利用しているのに不思議に思わなかったというわけです。

X君にはソーシャルストーリー™(以下SS)が必要だと思い、職員が以下のSSを作りました。(表題でソーシャルナラティブと表記しているのはキャロルグレイがソーシャルストーリー ™を商標登録しているので許可なく利用できないからです)

「すてっぷは 勉強をするところです。それは、社会で他の人たちと、なかよくくらしていくためのべんきょうです。ゲームをしたいときはしたいと言っていいです。ただ、できる時とできないときがあります。できるかどうかは、すてっぷの先生がきめます。ゲームは決められた時間でします。それは、次のスケジュールがあるからです。ただ、『もっとゲームがしたかったな』と自分の気持ちを言う事はしてもいいです。」

そうすると、いきなりX君が「僕はすてっぷに遊びに来ている」と言いきるので困ったと職員が報告してくれました。「勉強」は学校でするものでステップでするのは「遊び」だというカテゴリーがしみ込んでいるのでここは「勉強」は撤回して「遊びの学び」みたいな初めて聞く造語で切り抜けるように職員には提案してみました。

SSには6つの文型(事実文、見解文、指導文、肯定文、協力文、調整文)から成り立っています。事実文は書き手の意見や仮説・推論を排除した事実についての説明する文です。見解文は人の心の中の思い、人が知っていること、考えていること、感じていること、信じていること、意見、動機、あるいは体調や健康状態について説明する文です。指導文はある状況や考えに関して、対応の仕方の提案や対応の仕方の選択肢を明示することで、自閉症の子どもの取る行動についてさりげなく導く文です。

肯定文は前後の文章の意味を強調する効果があり、その子の暮らす場所で一般に共有されている価値観や意見を表現する場合に用いられます。協力文は子どもの手助けをするために、他の人が何をどのようにしてくれるのかを説明する文です。調整文はSSで学んだ情報を思い出して自分なりの方法でその場に適用するために、子ども自身が考えて、自分で書く文のことです。

これらの文型を用いてSSは作られ、Gray(2006)のSSのガイドラインで様々な判定基準を定めているので、それにそぐわないものはSSとは認められていません。ですから、先の提示文はSSとは言えず、ソーシャルナラティブ(社会的物語・説明文)と言うべきですが、ASDの子どもに伝わりやすさを考えるとSSのガイドラインは重要です。さて、X君はどこまでわかったのでしょうか?子どもによって理解の仕方は違うので本人の理解の状態を見ながら書き直していくことも大事な作業です。

高すぎた目標

W君の指導の事後評価を行いました。W君の目標は、仲間に誘われたら遊べるとか、自分の思いを伝えられる等、社会性やコミュニケーションについて支援学級の子どもによく見られる目標設定でした。けれども、W君はASDの対人相互性の発達に課題があり、目標が高すぎて「達成せず」と評価せざるを得ませんでした。もちろん、あてずっぽうに書いたのではなく、相談事業所から送られてきた資料を基に作成した支援計画で、五月に職員みんなで検討をしたものです。

しかし、今読むとどう見ても支援学級でお友達と話すことが楽しいと感じる子どもの支援計画にしか読めません。W君は、言われたことはある程度理解するし、少しおしゃべりもしますが、応答のおしゃべりがほとんどで自発の表出コミュニケーションが弱いです。人を特定して話しかけていないなど、コミュニケーションの基本のところで課題があるようです。公園遊びでも、誘われれば後ろからついてくるし、みんなと一緒にいるのは楽しいのですが、友達のしていることには興味がないので未だに一人遊びのままです。順番等友達の行為に着目することを目標にするべきだと話し合いました。支援学校の子ども達中心に取り組んでいる的あて等の少人数遊びの方がやるべきことがはっきりして達成感もあり楽しめそうです。

初めて通所利用する子どもの場合、学校や学級在籍、以前の情報を頼りにしてしまい、本人の実態と違う目標を設定してしまうことがあります。間違いを修正するために、相談事業所のモニタリング制度はあるのですが、相談事業所の抱える件数が多すぎて、丁寧に検討できないのかあまり役に立ちません。もう少し、検査結果などフォーマルデーターを提供してもらえれば良いのですが、子どもによってデータの提供量も違います。身辺自立が確立しており顕著な行動問題がないことは、とても良いことですが、療育目標を設定する際には認知特性の情報が欠かせません。周囲が困らないことを基準にするのではなく、本人の特性に応じた目標精度の高い療育を提供していきたいと思います。

 

嫌な課題をスケジュールから捨てる子

V君がペットボトル処分の作業に取り組まず、タブレットでユーチューブの動画を見ていました。スケジュール(V君は修行中でまだ2課題程のワークシステム)を見ると、「作業」カードが終了箱に落とされていました。ユーチューブが終われないというよりもう少し手が込んでいて、作業のカードを落として、なかったことにしいるのです。これはスケジュール支援のあるある事件です。

嫌なカードをスケジュールから落としてしまうのは、大人との交渉・約束の意味としてスケジュールを理解していない典型例です。報告してくれた職員は、作業が嫌なのかと思いペットボトル作業ではなく、自立課題でマッチングの簡単な一課題を作業の代わりにさせたと言います。つまり、ペットボトル処分作業が嫌ならこの短時間で簡単に終わる自立課題はどうですかという交渉をしたわけです。

それって、正しい交渉なのかという意見が出てきました。つまり、V君は動画がやめられなくて「作業」のカードを落とせば作業はしなくて良いと認識しており、ここは交渉ではなく「嫌です」表現を職員に向かって行うように教えるべきではないかという意見でした。嫌ですを大人に表現したうえで、あれこれの交渉が始まるのではないかということです。

その通りですが、この場合は動画が終われないだけの事で、本質的に作業が嫌なわけではないかもしれません。それなら、ワークシステムに「ペットボトル作業」の後「タブレット」を入れて交渉すれば、理解できたのではないかとも思います。「嫌だ」は、段階を追わないと子どもが混乱する事が多いので、計画的に教えます。

拒否は具体物を示したときに首を横に振ったり手で払いのける行動から教えていきます。確認したスケジュールを変えると、スケジュールカードとコミュニケーションカードの使い方で混乱することがよくあるので、最初からは教えません。スケジュールの変更を教えるのは、「お楽しみ」の時間に選ぶ行動や「変更します」の場面でいつもと違う事をその場で入れる等して段階を追って徐々に教えます。

V君は週に1回しか来ないので、課題は見えるのですが段階を追った支援で目標にたどり着くのはなかなか難しいですが、家庭と連携すれば学びは早まると思います。

 

先生!俺のマウス取ってきて!

新入りのT君がマイクラをみんなとするために、2階にパソコンを運んできました。ところがマウスを忘れていました。「先生、マウスがない」「1階にあったでしょ」「先生!俺のマウス取ってきて!」とT君が言いました。それを聞いていた小学生の先輩たちの顔から血の気が引いていきました。

先輩たちは、『絶対U先生ブチ切れるよな(彼らは事業所で実際に怒鳴られたことはありません)』『自分で遊ぶものを大人に頼むなんてありえん』と思ったのでしょう。でも、先生はブチ切れることはありませんでした。先輩たちは胸をなでおろしたと言います。

「なんでそんな言い方したのかな?」とO先生。「ん-言い方わすれてた・・・」とT君。「それだけ?」の問いに「面白いからかな」と答えます。T君は先輩たちと同じように知的な遅れはありません。けれども学校や学童に行きにくくなっているそうです。

たぶん、友達や他者とのやり取りでもこんな場面があるのかもしれないなぁとO先生は言います。おそらく、相手の感情が読みにくいか、同じような場面で大人に強く叱られたことが行動にこびりつく※フラッシュバック様の行動かもしれません。(※不安など負の感情が引き金になって、以前の不安が生じた言動を無意識に瞬間解凍する様に繰り返す。PTSDの一種と言われたりするがエビデンスはない)

でも、先輩たちの反応の方がO先生はずっと面白かったと言います。「あの子たちも、前は悪態ついたり、非常識言動あるある子どもでしたよね」その彼らが驚いているのがおかしかったと言います。先輩諸君!T君の事よろしく頼みます。

はしゃいでしまう理由

S君はパート職員が関わるとはしゃいでしまうと職員が言います。何故パート職員だとはしゃぐと思いますかと聞くと、子どもの不適切な行為にパート職員は驚いてしまいオーバーリアクションをするからだという意見が多かったです。つまり、不適切な行動は反応せずにスルーすればいいという事です。このブログでは「スルーはあんまり効果はないよ」と何度も書いているのですが、一度身に着いたものはなかなか変わらないようです。

確かに、不適切な行動に着目して声を上げたり笑ったりするオーバーリアクションは子どもの強化子になってしまい良くありません。しかし、スルーするだけでは何が適切なのか子どもにはわからないままです。そこで、不適切な行動の原因は何かを見つけて、それが注目要求行動なら「遊ぼう」要求を出させたり、それが、暇つぶしの反応なら「ビデオ」とか「タブレット」の要求を出せるようにやり直しを教えます。

しかし、いきなり行動問題爆発の場面ではベテランでも行動修正は難しいです。二人が簡単な交渉を何度も経験していることが大事です。課題が嫌だと拒否したときに、終わったら大好きなビデオ見せるよとか、外とに行きたいと要求したら、この課題をしたら外に行こうとか、もっと簡単な交渉はおやつの場面で「まって」で5秒待つことを指示する等、職員と子どもが交渉で向き合う場面を設定する必要があります。

パート職員さんには交渉は難しかろうと、見守りだけをお願いしている職場は少なくありません。しかし、それでは子どもも大人も適切な関係は結べません。前にも書きましたが、重度の子どもははしゃいでいるのは何も楽しい時だけではないのです。不安な時も興奮してはしゃぐことがあります。

つまり、子どもにしてみれば\適切な交渉の経験のない、つまり、交渉したことを達成して「OK!グッジョブ!」の関係性のない大人は子どもにとっては不安で緊張するのです。それが、はしゃぐと言う行動につながっていることがあると思います。パート職員も常勤職員と同じように子どもと交渉して「すごいね。できるね」の関係をどれだけ作るかが問われているということです。

 

単位の勉強にいいものがあります!! Y先生のじゃんぷ通信7

単位の勉強に苦しむ子どもたちにいいものがあります!!Y先生のじゃんぷ通信7

じゃんぷに通う子どもたちが宿題を持ち込みます。算数の宿題でお母さんたちが口をそろえて相談されることの一つに単位の計算があります。最初は1~2年生の時計が読めない、時間の計算ができない悩みです。算数科の中では「量と測定」という領域です。低学年の時間、長さ、重さから始まり、中学年の面積、体積(厳密にはL、dLは2年生から)、高学年ではすべての単位換算が出てきます。

ずっと悩み続ける中身です。色々な単位のイメージがない中で、頭の中だけで操作しようとしても、正解なのかどうかわからないので余計に定着しません。中学校に行くと、もうそこは分かりきったものとして授業が進みます。

そこで算数を研究している先生方がある道具を見つけました。 「単位計算尺」というものです。昔の先生は手作りで全員が持ち、授業の中で使っていました。現在いいものが発売されています。(写真参照)乙訓でも今の大学生が小学生だったころは使われていました。

よくかけ算で九九表に頼らないで自分で答えを見つけようと必死で覚えさせる練習になりやすいです。同じような発想で単位換算も道具に頼らないで自分で見つけようと最後は暗記に頼りがちです。まだ定着ができずに悩む時にこそ、いつも正解を示してくれる計算尺を手がかりして解くことで次第に単位の仕組みを理解していきます。

不注意がある子やイメージがわきにくい子、記憶※が苦手な子はこの仕組みがなかなか分かりにくいのです。単位のイメージを押さえながら教えることは大前提ですが、単位が複雑になってきた計算をする時には正解が分かることが大事です。(※ワーキングメモリー:換算単位記憶を呼び出して短期記憶に保持しながら換算作業を行うと、作業記憶が容量オーバーで保持できなくなる)

学習障害や発達障害の子どもたちにとって学習する時に、道具を使いながらもいつも正解が分かって、最後にはなかみの仕組みや手順に結びつけられるような支援になることが重要です。

Y先生手製単位計算尺


アーテック 単位換算定規

ベテランは道具のせいにはしない

中学生のR君、昨年までは学校でスケジュール表を使っていたけど、予定変更でパニックを起こすので今年度はスケジュール表を使っていないと職員が聞いて返す言葉がなかったそうです。でも、それは、学校ではあるある事例です。他にも、絵カードスケジュールを使っていたら、気にいらない絵カードを捨てるようになったから、せっかく作ったのにもったいないから絵カードはやめたとか、勝手に好きな絵カードをスケジュールに入れてかえって教員との摩擦になるのでやめたなど、スケジュールを使ったけど諦めたというケースはたくさん聞きます。

でも、それは、スケジュール支援をしたから生じているのではありません。このブログでは何度も書いていますが、スケジュール支援は、PECSでは交渉スキルのかなり後の方のスキルなのです。また、ASDの子どもはビジュアルドライブと言って、見たものに従属しやすい傾向があって、自分は嫌なのに従う事があって後で怒り出す事例があります。つまり、これは自閉症のビジュアルドライブの特性や、スケジュール支援は交渉スキルの積み上げがないと躓きやすいことを、知らないまま指導して起こっている事がほとんどです。

私たちの事業所でもこうしたケースは何度も出会しますが、先の2つの原因がほとんどです。原因を調べる時に必ず職員に聞くことがあります。それは、子どもの自発表出の要求スキルを鍛えないまま、子どもの理解スキルばかりに注目していなかったかどうか、2つ目は子どもの「些細なお楽しみ」の後回しや変更について、大人との交渉トレーニングを地道に積んだかということです。つまり、子どもが絵カードで驚くほど従うようになったのを良いことに、子どもが要求を伝えるトレーニングや交渉トレーニングを抜きに、大人の思い通りに動かそうとしていなかったか聞くようにしています。

絵カードスケジュールのせいにするのは、腕の悪い職人が道具のせいにするのとよく似ています。道具が悪いからいい仕事ができないと言うのです。良い職人は、どんな道具でも上手に使いこなして、一人前の仕事をするものです。そして、ベテラン職人は半人前の職人に向かって「道具のせいにするより、テメーの腕を鍛えやがれ」と檄を飛ばすものです。ベテランはこうも言います。すぐに何かを作ろうとせず、まずはカンナが曳けるように何度も何度も取り組めと、一人前はいきなりなれるものではないと諫めます。道具のせいにするとは、困ったものです。

約束は守る

言葉のないQ君が通所してきたので、これからすることを伝えました。絵カードで「公園」「ぶらんこ」と「事業所」「おやつ」を示して、公園でブランコした後事業所でおやつにしようという意味です。

公園に行くと、ちょうど雨が降った後だったので、ブランコの下に水たまりができてブランコができずに事業所に帰ってきたそうです。それでは、別の公園でブランコしてきたらどうかと他の職員が指示したそうです。

すると、Q君は事業所を少し出た道路で座り込んでしまいました。それをなだめすかして他の公園まで連れて行きブランコをして帰ってきたそうです。道路に座り込む理由はこの経緯を考えれば明確です。もしもQ君が喋れたらこう言うでしょう。「公園に行って帰ってきたらオヤツだって示したのに、なんでやね~ん!」です。

「いやいや、それはブランコの下に水が溜まってから遊べなかったので、ブランコができる別の公園に行こうとしているわけで・・・」そんな理屈は、すでに事業所に帰ってきたQ君には理解不能です。変更の交渉もなく無理やり連れて行かれたという理解になります。「だから大人は信用できない」とQ君が思っても仕方ないです。

絵カードを示すと言うのは言葉で約束したことと同じです。言葉のわかる子に「公園行って帰ったらおやつにしましょう」と言ったなら、必ず変更の際には、「ごめーん、他の公園行ってからおやつでいいかな?」と聞くはずです。あるいは「なんでやね~ん」と子どもが怒ったら説明して交渉をしたはずです。

言葉だろうが絵カードだろうが約束は守るもので、変更が必要なら交渉するのが世の中のルールです。もちろん変更の交渉をしたからといって、納得してくれるかどうかは分からないですが、それはどの子も同じです。言葉がわからないからこそ、「絵カードを示す大人は信用できるよ」と思ってもらえるように、約束は大事にしてほしいと思います。