すてっぷ・じゃんぷ日記

2023年11月の記事一覧

「譲ってあげるよ」

 すてっぷの小学生グループのみんなはブランコが大好き。公園に着くと一番にブランコに走っていきます。ただ公園に設置されているブランコは2連のものがほとんど。地域の子がいなくて空いていても、すてっぷのグループの人数では足りません。早い者勝ちとばかりに走っていく子どももいますが、最近では職員が声をかけずとも、子ども同士で「譲って」と交渉する姿が見られるようになってきました。

 先日、4人ほどのグループと職員とで、2連ブランコのある公園に出かけた時のことです。先に着いたKくんとLくんがブランコに乗って遊んでいました。遅れて到着したMくんとNくんもブランコのところにやってきました。そしてそれぞれ、ブランコで遊んでいる2人に声をかけます。MくんはKくんに「代わって」とお願いしました。まだ遊びたいKくんは「60秒したらいいよ」と答え、Mくんは了承。交渉が成立しました。

 一方のNくんも「代わって」とLくんに伝えます。Nくんはすてっぷに来て半年。この2か月ほどでグッと成長を見せ、落ち着いて交渉することが増えてきました。ですが自分の思いが通らないと泣いてしまうことがまだ見られるため、このときも職員がそばで見守っていました。「代わって」と言われたLくんは「もう少ししたらいいよ。」とNくんに答えました。NくんはLくんの言葉にしっかり耳を傾けていますが、とまどっているようでした。そこで職員がLくんに「もう少ししたらじゃなくて、KくんとMくんみたいに時間を決めたら?」と提案しました。Lくんが「30秒したら」とNくんに言うと、Nくんは「いいよ」と答えました。そしてNくんは30秒間、静かに待ち、Lくんが降りてから切り替えよくブランコに乗ることができました!

 社会性やコミュニケーションの課題がある小学生グループの子どもたちも、子ども同士で相談したり交渉したりという力が育ってきています。そこには職員のちょっとした支援に加えて、子ども同士(集団)で学び合うことが、子ども自身の成長につながっているのだと思います。

 この後、Nくんがブランコで遊んでいると、Mくんが遊び終わって空いた席をめぐって、KくんとLくんとでじゃんけんを始めました。するとNくんは2人に声をかけます。「譲ってあげるよ。」Nくんはブランコを降りました。譲ってもらった2人は「Nくん、ありがとう」と伝え、2人いっしょにブランコで遊び始めました。お礼を言ってもらったNくんの顔は、どこか誇らしげでした。

「分かりやすすぎてダメなんやな」

 小学生グループで最近取り組んでいる遊びの一つが「Dixit(ディクシット)」というゲームです。ディクシットは有名な対戦型のボードゲームで、様々な(多くは象徴的な)絵が描かれたカードを使います。プレイヤーは順番に出題者になり、自分の手札からカードを1枚選んで、その絵を言葉で表現します。他の人は全員回答者になり、それぞれがその言葉にふさわしいと思ったカードを出した後、それらのカードが混ざった中から出題者が出したカードを当てるというゲームです。

 このとき、回答者が誰もカードを当てられなかったら出題者に得点が入らないのは分かりやすいのですが、このゲームの面白いところは、回答者全員が出題者のカードを当ててしまったときも、出題者に得点が入らないということです。そのため出題者は、全員にはわからないような、でも誰かは分かるような言葉を言うことがポイントになります。

 もともと小学生グループの子どもの中には、言葉で表現することが課題の子が少なくありません。そこで、ルールがある中(設定遊びやボードゲームなど)で、言葉で表現することに取り組んできました。「ある/ない」や「本当/うそ」といった0/100の表現が少しずつ言えるようになってきたところで、次の課題として、その間の表現が求められるディクシットに取り組み始めました。

 先日初めて取り組んだグループは、最初の説明で「頭から光が出ているっていう説明は分かりやすすぎてダメなんやな」と理解を示し、スタートしました。「人」や「水しぶき」といったイラストそのものを単語で表現することも多く全員から当てられてしまうこともありましたが、全員にはわからないよう、背景を見て「オレンジ」と表現するなど、工夫して言葉にすることにチャレンジする姿も見られました。出題することもですが、回答するときも身を乗り出して絵カードを見比べるなど、とても楽しみながら子どもそれぞれが表現したり友だちの表現を理解しようと取り組みました。終わった後、「楽しかった!またやりたい」と振り返った子どもたち。ディクシットや他の取り組みをする中で、0/100だけでなく、間の表現をすることにもチャレンジしていき、表現力を少しずつつけていきたいと思います。

がい数の意味

 算数と数学の違いでよく聞かれるのが、「算数は実生活で使うものが多い」ことです。その一つが、およその数、『がい数』です。がい数は小学校4年生で習います。新聞やニュースで面積や人口を見る時は、たいていがおよその数で表されています。また買い物に行く前に、買うものの値段と財布に入っている金額を、およその計算で比べる人も少なくないでしょう。

 がい数を求めることに必要な作業が四捨五入です。「6400や6700はだいたい何千?」と聞かれた時に、感覚で分かっている人はすぐに答えることができるでしょう。先日じゃんぷで、がい数の予習に取り組んだ子も「6000」「7000」とすぐに分かりました。どうして?と聞かれると、「近いから」と答えました。この『近い』という表現になかなか納得できない子もいるかもしれません。教科書に書かれているように数直線で見ると、「確かに近いな…」と納得できるでしょうか。実のところ、この『がい数』は、ひき算わり算や分数小数などと同様に、子どもにとって混乱しやすい内容です。四捨五入の作業ができ、がい算(がい数の計算)ができるようになっても、がい数の意味を理解したり意味やよさ(実生活での有効性)に気付いたりできないままということもあります。その子に合わせた分かりやすい方法で学んでいく必要があります。

 『がい数』の学習で子どもが混乱しやすいポイントの一つが、『〇の位までのがい数』や『上から□けたのがい数』という表現です。これを見て、〇の位や上から□けたの数を四捨五入してしまうことがあります。求める位の一個下を四捨五入すると教わりますが、このとき、求める位の数の後に縦線を引き、次の数を四捨五入することを、線を引く操作と関連付けて覚えることが効果的な子もいます。がい数にしたあとに、〇の位や上から□けたが0になっていないかという確認も有効かもしれません。「9900→10000」などの例外もありますが…。

 ところで、この『がい数』の課題を準備するときに、職員の間で話題になったことがあります。文章題でがい算(がい数の計算)の答えは『約』をつけて答えるのに、がい数を求める問題は答えに『約』が付いていないのです。調べてみると、東京書籍のQ&Aに次のようなことが書かれていました。

答えが概数であるかが明確になっていない場合は、答えに「約」をつける必要性が高いと考えますが、(中略)問題文で「がい数にしましょう」と概数で答えることが明確な場合は、答えに「約」をつけていません。それは、概数で答える数に必ず「約」をつけますと、概数を答える問題では必ず「約」をつけなければいけないという誤解や、「約」がついていない数は概数でないという誤解を生む恐れがあるからです。

 (【東京書籍】 会社案内 お問い合わせ よくあるご質問Q&A 教科書・図書教材:小学校 算数 (tokyo-shoseki.co.jp)

 問題文に「約何万円になりましたか」や「がい数で答えなさい」など、しっかりと書かれていれば、解く子どもも分かりやすいですが、あいまいな問題もあります。教える大人ががい数の意味をしっかり理解して、教えていきたいと思います。

「○○くんたちと遊びたい!」

 「男の子たちと遊びたい!」支援学校小学部のJさんが、少し前までよく職員に伝えていた言葉です。Jさんは下校時間の違いもあり、支援学校の友だちとよく公園に行っていました。以前はブランコや砂場での一人遊びが多かったのですが、たまたまお出かけ先が一緒だった小学校グループの子どもたちがやってくると、職員の誘いもあり、少しずつ一緒に遊ぶようになってきました。

 そして去年の冬くらいから、自分から小学校グループの友だちと遊びたいと職員に伝えるようになりました。ちょうどコミュニケーションの課題として、要求することに取り組んでいたJさん。自分からしたいことを伝えられたことを褒め、小学校グループの友だちとの活動を増やしていきました。

 次の課題は、要求が叶わないときへの対応です。何も支援がないと、Jさんは友だちと遊べないからと大声で叫ぶなどパニックになってしまいます。そこでトークンエコノミーシステムも関連付けた、一週間の予定表を提示することにしました。曜日ごとで、支援学校の友だちと遊ぶ日、小学校グループの友だちと遊ぶ日を提示し、それぞれ友だちと遊べた時はシールを貼るようにしました。また支援学校の友だちと遊ぶときは、たいてい2つのグループがあるので、どちらのグループと一緒に遊ぶかを、視覚的な枠を提示して、自分で選んで貼るようにしました。

 最初は大声で叫ぶこともあったJさんですが、予定表の意味が分かるようになり、今では落ち着いて切り替えられるようになりました。支援学校の友だちと遊ぶ時間、小学校グループの友だちと遊ぶ時間、それぞれで自分の課題に取り組んでいます。最近は小学校グループの友だちと一緒のタイミングで「宿題する!」と職員に伝え、学習プリントにも取り組むようになりました。普段は会わない友だちですが、放課後に一緒に過ごす中で、様々な良い影響を受けています。放課後等デイサービスだからこそできる、支援の形の一つだと実感します。