すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

課題設定

支援計画の事後評価の会議をしていると、時々、書いてある通りだけど書いてある課題を設定していないことがあります。これは、計画は立てるけれども日々のプログラムはそのまま続くのでスタッフのモチベーションが長く続かないと取り組めない内容があります。また、毎回課題としては書いているけれども達成できずに次回送りとされていつも評価は3段階評価の真ん中あたりでお茶を濁している評価もあります。

P君が自発的にスケジュールを見て行動できるようにというのもこの2年間同じでした。評価はいつも3段階評価の真ん中です。P君は来年の3月に卒業です。このままではきっと3月も「ほぼ達成できている」になりそうです。それなら、もう少し具体的に二つの内容なら自分でスケジュールを操作して行動できるにしてはどうかと提案しました。

いつも提示するスケジュールが多すぎるために、毎回スタッフがスケジュールを見るように促すことが定番になってしまっているのです。おやつの前の作業提示とかもっと簡単なスケジュール課題にしてはどうかと話し合いました。目標が高いか低いかは、当事者だけの問題ではなくスタッフのモチベーションの問題もあります。スタッフにもスモールステップでモチベーションが持続しやすい目標設定も大事だと思います。

 

 

他者理解と自己理解

Nさんがとても穏やかに友達と接することができるようになったという話をしました。Nさんは視覚障害があり、自分の周りに小さい子どもたちが寄ってくると不安なので「近寄らないで!」といつも厳しい声を出していました。結局それが面白くて、もっと子どもたちが寄ってきてNさんいじりが始まって、Nさんも大声で対抗するという毎日でした。

Nさんは、キーボード演奏がとても上手で以前から何度も、音楽遊びの時の伴奏をお願いしていたのですが、「嫌です」とけんもほろろに断られ続けていました。何の拍子か偶然Nさんが気まぐれに伴奏をしてくれることになり、その時に一番Nさんの邪魔をするO君も音楽遊びに参加していました。終わった後、NさんにO君らがとても楽しんで演奏していたことを少し丁寧に伝えました。

それからはNさんはO君にキーボードを譲ったり、「O君今何してますか」と友達を気にするようになりました。一緒に活動をし、他の人たちの様子を言葉で丁寧に伝えることで、Nさんの放デイの友達観が変わったようです。人が喜んでくれることに自分の値打ちを感じる、行ってみれば当たり前のことですが、この機会をどう演出するかが支援者の醍醐味です。

高学年の課題

生活型の放デイでは高学年の活動や内容づくりが難しいと何度か書いてきました。難しい理由は大人側の問題が大きいです。それは、発達障害があろうとなかろうと関係ありません。全国の学童保育所で高学年あそび問題も古くて新しい問題です。大人に依存的な低学年と、自立を模索し始める高学年とでは活動の質が変わってきます。

今日も高学年の子どもの暇つぶしに「ジグソーパズル」を課題として与えていいものかと議論になりました。好きに遊んでいいと言ってもパソコン以外は難しく、せめて静かにしてほしいのでパズルを与えるというスタッフ側。子どもにしてみれば、早くパソコンがしたいのでなんでもいいから手っ取り早い課題をするということで双方の利害が一致するのでこの「パズル問題」は見過ごされてきたのです。

しかし、これでは子ども自身も、放デイに何をしに来ているのかということになります。もちろん、ダイナミックな外遊びの提案だけでは毎日は運営できませんし、パズルでも内容やねらいによっては優れた課題になることもあります。生活型療育であっても、何のためにこの活動をしているのかスタッフが語れないような内容はNGだという話をしました。

服薬

L君は服薬を始めたたばかりで日によっては眠そうにしています。Mさんも服薬を始めたばかりですが、穏やかに過ごせるようになっています。こう書くと、L君は副作用が出ているから多いのではないかとか、Mさんは著効して良いのではないかとか言われそうですが、それは、放デイという環境でわずかな時間の話です。

自宅や学校の過ごしはどうか、何より本人が過ごしやすくなっているかどうかというトータルで一定長期間のデータが必要なはずです。その割には主治医や薬剤師から現場が求められる情報は皆無というほどありません。様々な環境で様々な様子を見せているはずなのに、医療は現場から遠いところにあるように感じます。

 

紅葉の特別入山

光明寺の『紅葉の特別入山』が明日から開催されます。総本山光明寺は承安5年(1175年)宗祖円光大師法然上人が御歳43歳の時、日本で初めて念仏を上げられた立教開宗の地です。今年は、現在放送中のNHK連続ドラマ小説「エール」のモデルになっている古関裕而さんの作曲した「念仏讃」直筆楽譜を初公開するそうです。

いつも静かな光明寺がこの時ばかりは「密密」です。同時に駐車場が拝観者用に有料になるので、お寺を散策したりする駐車場にも使えず、西山歩きにも使えなくなります。ただ、今年からは奥海印寺方面からアプローチする西山歩きを考えていますので、特別入山中でもなんとかなりそうです。

今の西山は一番歩きやすい時期でもあり、一服時の一杯のインスタントラーメンが至極の味です。今日もJ君がリュックにラーメン・コッフェル・バーナーの「山歩き三種の神器」を担いで、いそいそと山歩きにスタッフと向かいました。ちょっと時雨ている時もあったけど夕日が差してきたので大丈夫そうです。光明寺の紅葉が最も美しいのは、通常は12月初めころです。

 

 

私を見て

不適切な注意喚起行動の原因は大きくわけて二つです。一つは、ここで何度も掲載してきている機能的コミュニケーションの障害で、相手にうまく伝える表出コミュニケーションスキルがなくて、大声を出したり、物を壊したりする他害行動でしか伝えられない場合です。

もう一つは、家庭内が落ち着かないなど心理的な不安定で他者の注意を引く行動です。家庭は外で活動してきた後やれやれと帰ってきて、お風呂に入ったり、ご飯を食べたり、ぐっすり眠たりして一日の心身の疲れを癒す場所です。しかし、もしも、この心身のケアステーションである家庭が、いつも場所が変わったり、ゆっくりご飯が食べられなかったり、不安で眠れなかったりすれば、子どもは声なき声で訴えます。

知的に遅れがあったり、言葉でうまく表現できない子どもの場合は、大人への注意喚起行動「私を見てて」とばかりに、不適切な行動を繰り返して大人の注目を得ようとします。この場合は、機能的コミュニケーションの問題が原因ではないので、表出のコミュニケーションスキル訓練では解決しません。まずは、おうちの中の生活を安定させ家族の時間をゆったり持つことが必要です。

ただ、家庭の中でも一度顕在化した注意喚起行動は、最初のうちは簡単には消えません。保護者が音を上げてしまうような強く長いものもあります。この時、公的な支援システムの保護者支援がとても重要です。保護者が疲れてしまわないように、子どもとうまくかかわれるように支援することが重要ですが、片親がこんなに増えているのに、保護者への心身の支援はとても少ないと言わざるを得ません。シングルペアレントを支える多様な取り組みが求められています。

本人参加の支援会議

子どもの支援計画を議論する中で、高学年児は目標やその手立てについて本人も懇談会に参加してもらい、なぜこの目標を設けているのか、どのようにして目標を達成しようとしているのか話し合う場を設けることが必要だと話しあいました。

高学年ともなれば、自分はどうなりたいのかを考え始める時期です、対人関係や学習など様々な困難を抱えている子どもたちも、自分は何者か考える時期です。自分は何のために通級指導や支援学級に在籍して学んでいるのか、何のために放デイに来ているのか薄々子どもらも考えてはいるのです。

子どもにこっそり聞いてみると、たいがいはネガティブな理由です。通常学級ではしんどいから、勉強がわからないから、みんなとうまく遊べないからと、できない理由をたくさん並べてくれます。けれども、通級指導を受けたり支援学級に在籍したり放デイに来たらどんなメリットがあるのかは、どの子も答えられないのです。せいぜい、気兼ねなく生活できるという答えでした。

半年に一回懇談会があって保護者とスタッフが自分の話をしているのは子どもらは知っています。それならば、高学年からは本人も交えて支援会議を持てばいいと思うのです。中学からは3者面談を行いますが、ほとんどは成績と生活態度の反省会のような形になっています。そうではなく、どうすればうまくいくのかを話し合う必要があります。そして、とても困難な状況になっても3者で協力して乗り越えていく会議のスタイルを小学生の時期から持つことはとても重要です。とても困難になってから本人を無理やりに引っ張り出すのではなく、穏やかな時期から一緒に話し合いを積み重ねていく支援会議を大事にしたいものです。それが、自分のことは自分で決めるアプローチになると思います。

正常性バイアス

Jさんの評価について、関係者間で意見が違うというスタッフの報告がありました。行動問題が多く服薬したほうがいいという意見と全く問題ないから服薬などやめたらいいという意見などです。

そもそも、長く様々な関係者と付き合っていると考えが同じことのほうが少ない感じがします。保護者の意見も学校の意見も事業所の意見も相談所の意見もすべてが同じであったことのほうが少ないくらいです。それくらい、子どもの評価は見ている環境によって違ってあたりまえだということを知っておくことが大事です。

環境がちがうのだから評価が同じであるわけがないという前提に立てば、相手の考えていることが客観的に見えてきます。Jさんの場合もそうなのでしょう、場面の切り替えや移動が少なければ穏やかに過ごせるし、切り替えが多ければ混乱しやすくなるということを、障害特性と数年間の経緯が把握できていれば、いろいろなJさんの姿を知ることができると思います。

関係者や保護者が自分の知らない混乱したJさんの状況を聞かされたとすれば、たとえ嘘のない事実であったにせよ、疑ったり気分を害してしまう場合もあるという想像力が支援者には必要になります。良いことは共有しやすいですが否定的なことは共有しにくいのです。正常性バイアスといって、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう心理は誰にもあるものです。関係者間連携とはこういう前提で取組むものですから、「自分のやり方が悪いのかもしれないので協力して欲しい」という理由で動画など客観的なものを用意して、結論は出さずに困っているところをみんなで知ることが重要です。その上で、「うまく生活できているところからはたくさん情報や意見が欲しい」と知恵を出し合う取組を丁寧に行うことが必要です。

トランジションカード

スケジュール指導ではトランジション・エリアとトランジション・カードが定番で使われますが、トランジション・カードについては誰が発案したのかよくわかりません。スケジュールを置いてある場所をトランジション・エリアと言い、トランジションカードは「スケジュールを確認しに行きなさい」と指示するためのカードです。

この移動カードのシステムは、指示待ち(プロンプト依存)を作ってしまう場合があります。I君がタイマーが終わったのでスタッフにタイマーを持ってきました。こちらとしては帰る用意をスケジュールに示しているので帰る用意をしてほしいのですが、I君にしてみれば「タイマーが鳴りました」と示しに来るだけで、次の活動とは結び付いていないのです。

仕方がないのでスタッフは毎回トランジション・カードを渡して、スケジュールを確認するように仕向けるわけです。これは、プロンプト依存を作っているのと同じです。人的介入を絵カードにしているだけで声をかけているのと同じなのです。なんのために声をかけてはいけないということがわからないと、こんな形で声かけより厄介で強固なプロンプト依存を作っているのです。

トランジション・カードはスケジュールに戻って次の行動を確認しましょうというものですが、やることがわかっていても「トランジション・カード待ち」をするASDの子どもがいます。しかも、このカード渡し行動はフェードアウトのアイデアが浮かびません。

結局、ピラミッドアプローチで説明されるように、次の行動を起こす一連の動作として、スケジュールボードの一番上のカードを「これからやります」場所に貼り付け、その内容が終了したらスケジュールボードのおしまいボックスに入れて、一番上のカードを「これからやります」場所に貼るというルーティンを覚えたほうがよいのです。

そして「これからやります」の内容が終わっているのにスケジュールボードに戻れないなら、「これからやります」カードを貼る場所を子どもの目につく場所に貼って、終わればそのカードを持たせてスケジュールボードのおしまいボックスに入れさせて次のカードを取って移動するほうが合理的ですし、正しいやり方に移行する時のフェードアウトが身体プロンプトのフェードアウトで済むので移行しやすいです。

ということで、今後すてっぷではプロンプト依存養成トランジション・カードを廃止し、自立型スケジュール計画を考えていきます。

指示待ち

H君が、ワークシステム(自立課題の行動支援システム)にとりくんでいました。内容はプットイン課題3つですから重度の子どもです。でも左から課題をとり、課題が終われば右のおしまい箱に上手になおしていきます。動画を撮影していたこともあり、H君は終了すると撮影者におわったよとモーションをかけてきます。

撮影者は「ワーク中には声をかけてはいけない」と思っているので、しばらく反応せず撮影を続けていたのですが、申し訳なくなって「グッジョブ」サインを送りました。H君はいつもどおりに「よくできたねー」の反応をしてほしいのに「親指立てても意味わからんし」とばかりにせっかく片づけたおしまい箱をけって課題をひっくり返して大人の反応を引く行動に出ました。

要するに、終わったら、大人はいつも頭をなでて褒めると共に次の行動を指示してくれていたので、その大人の行動と指示をひたすら待っていたというわけです。通じなかったら不適切な行動でとりあえず注意を引くというH君のこれまでの姿がでてしまいました。

表出コミュニケーションが弱いことと指示待ちと不適切な行動はトリプルセットなのです。でも、どうすればいいかというスタッフへの次の課題をH君は提示してくれています。がんばります。

節目だから進路を考えられる

土曜にG君が昼過ぎにやってきて「また、やってしまった」と朝から来られなかったことを反省していました。週末は自分へのご褒美に、平日我慢しているゲームを夜中までやることにしているそうです。そして、今度こそは朝から放デイに行くぞと決意するのですが、朝目覚めても「もうちょっと寝よ」と昼まで寝てしまうそうです。

6年生の2学期ともなれば、子どもは中学校の生活に思いを馳せてあれこれと情報を友達などから収集するものです。でも、不登校の子どもにはリアルに情報を得る機会もないし、節目の時期の雰囲気も感じることができません。親や周囲の大人は進路についてあれこれ相談したり、悩んだりしますが、進路について正面から考える機会を与えられていない子どもには、その内容も親の思いも十分には伝わりません。大人は配慮のつもりで学校の事を話すのを控える場合が少なくありませんが、それではますます子どもは情報が得られません。

進路選択という節目の時期は子どもにも親や関係者にも大変な時期ではありますが、成長の時期でもあります。親や関係者は新しいステップに進むための情報を子どもに示し、子どもはできれば実際に見て自分の進路を考える機会です。これは節目の時期だから出来ることで、いつでも出来ることではないです。当然、大人と子どもは知識量が違うので意見の食い違いもあるし、正しいとわかっていていても反発することもあります。けれども、それは双方にとって殻を破るときの痛みです。自分の選択を表明することは、自問自答を深めます。「またやってしまった」という彼の言葉に「次こそは」という可能性を感じながら、進路のことを考えさせられました。

VOCAセットできました!

前回「VOCA 09/15」に掲載したように、LさんにVOCAに取り組んでみてはどうかというお話をお母さんにしました。Lさんにはボタンの意味を理解してもらうために、お散歩犬玩具をケーブルでつないでボタンを押せば鳴きながら歩く、手を離すと止まるというセットを作りました。そこからボタンを押せば変化が起こることを伝えようという事です。

それと並行しながら、ボタンを押せば「もっとー」とか「おかーさん」とか「せんせーい」と呼び声を録音して、手遊びをするとか、散歩に出かけるとか、おやつのおかわりをするなどのVOCA(Voice Output Communication Aid)に取り組んでもらいます。何と言っても学校の生活時間が一番長いので、学校で取組んでもらえるようにお母さんからお願いしてもらいます。ただ、おもちゃのボタンなのですぐに潰れるかもです。

 

BOOKOFF

K君が本棚に並べてある「結界師(田辺イエロウ 小学館)」の欠番があるのが気になって「全部揃えたい」と前から言っていたので、BOOKOFFに探しに行きました。ただしBOOKOFFですから必ずあるとは限りません。あちこちのお店を探すことになります。でも、そろえたいK君には嫌なことではありません。

放デイの漫画本は欠番だらけですから、そのうちK君文庫ができるかもしれません。1冊110円もうちょっと安くならんかね。結界師は全35巻だけど10冊くらい欠番で、ちょっと出費が痛いです。

結界師は妖怪退治のお話で、結界師である主人公が、夜の学校を舞台に「結界術」を使い妖怪を退治していく物語。平成18年度(第52回)小学館漫画賞少年向け部門受賞。2020年6月時点で、累計発行部数は1700万部を突破している人気漫画。ジャンルとしては「鬼滅の刃」と同じジャンルのようです。などというとファンに怒られます。主人公が鬼と化した妹を人間に戻す方法を探すために戦う姿を描く和風剣戟奇譚の「鬼滅の刃」は、22巻で1億部を突破しているので足元にも及ばないというべきなのです。

メモ書きと読み書きの苦手

他所で受けた検査の結果から、空間や位置の把握が苦手そうなAちゃんが、紙粘土で作ったおかずを、お手本通りお弁当箱に詰める課題に取り組んでいました。いちばん大きなおにぎりでも、指でつまめる位のサイズです。手先の不器用なAちゃんにとっては少し難しいところもあったと思いますが、よくお手本を見比べながら、丁寧に詰めていました。

楽しかったようで、いろいろアレンジがしたくなったAちゃん。スタッフに作っておいてほしいおかずが次々と思い浮かぶので、ふせんに書き出すことにしました。

ただしAちゃんには読み書きの苦手があります。『レ…タ…ス』と書きたいけれど、すぐに『タ』が想起できず、鉛筆が止まります。ほんのいくつかの単語を書くだけでも一苦労です。

こういう時に、どういう支援をしたらよいか。予め想定していた学習の場面ではないので、スタッフも書字支援の十分な準備がありませんでした。読み書きの練習場面ではないので、細かい字の間違いを指摘せず、楽しく『書いて伝える』ことそのものを楽しんでほしいのです。この時は、わからない字をスタッフがモデリングして、それを写しながら仕上げました。Aちゃん、ふせんを3枚も自分で書きました!次回のお弁当作りを楽しみにしています。指導後、事業所で相談すると『iPadなどで音声変換してみたら』とアイデアをもらいました。次回、同じような機会があれば試してみたいと思います。

読み書きの困難がある場合、ちょっとした『読む』『書く』に伴う、易疲労性を無視することはできません。本人が、『今は字を勉強する時間』と構えを持っているときならともかく、遊びの場や、読み書きが情報整理の手段でしかない場合、読むことや書くことの辛さで、やりたいことや考えたいことを止めたり諦めたりすることはとても残念なことです。

じゃんぷはLD支援に積極的に取り組んでいこうとしていますが、読み書きの困難と向き合うというのは、本人にとってはどういうことか、読み書きの苦手がありながら目の前の事に達成感を持つにはどうしたらよいか、そのことをお子さんやご家族と考えていける場でありたいなと思っています。

スタッフの療育の理解

J君が自立課題をするのを若手スタッフに任せました。内容はビー玉をつまんで穴に入れるプットイン課題です。スタッフは丁寧に一つ一つJ君がビー玉をつまむように指示し、穴に入れるたびに「すごいねーできたねー」と励ましていました。それを見ていたスタッフが、自立課題というのは自分の力で最後までやり遂げることを目的にした課題で、声掛けや行動プロンプトはできるだけ少ないほうがいいとアドバイスしました。

「なんでですか?」と若手スタッフの質問にアドバイスしたスタッフは驚いたそうです。若手と言ってももう1年以上実践しているスタッフから「初心者あるある」の質問を受けたことに驚いたというのです。確かにスタッフには常勤のスタッフだけでなくアルバイトのスタッフや経験の浅いスタッフがいますから、毎日、子どもへの指示の出し方や距離の取り方も説明はしています。

しかし、なぜ自立課題に取り組ませているのか?なぜ、声掛けを少なくするようにしているのか、なぜ、子どもとの距離をつめないようにしているのかについて、その目的を話したことはありません。支援のハウツーは話すけど、ここの療育が何を目指しているのか説明したことがありません。そんなことは自明の理だと、当たり前のことだと常勤スタッフが思っているからかもしれません。でも、結構このコンセプトは普通の人には当たり前ではないのです。人は励まされたり、お世話されて頑張ろうとすると理解されているからです。そして、もしもそれが真実ならなぜJ君がこれまでそうならなったのかという想像力が必要になります。

どんなに障害が重くても、どんなにハンディーがあったにせよ、人間は自分の力でできることで自尊心を育てるのです。できることならお世話はされたくないし、一人でやりたいのです。これは障害があろうがなかろうが同じです。もしも、成人のあなたがあれこれができなくていちいち人の手助けや励ましがいるとすればこれほどめんどくさいことはないという想像力が必要です。

そんなわけで、月曜から1週間、スタッフに「子どもたちが少しでも一人で自立して行動できるように、スタッフのみなさんの工夫をお願いします。次週はそのアイデアをお一人ずつ話してください。」というアナウンスをすることにしました。さてどんなアイデアが出てくるか楽しみです。

 

5W2H

「Fちゃんに、お菓子を持って山登りに行こうと車に乗ったまでは良かったのですが、車が走り出しだしてから、行先とは違う方向を指さして、騒ぎ出しました」とスタッフが言います。前の日はおやつを持って公園に行ったそうですから、多分「山登り?」公園に行くのと勘違いしたのでしょう。言葉をしゃべっているからと言って、すべての言葉を理解しているわけではないという初心者あるあるです。

昨日も一昨日もFちゃんは公園に行っておやつを食べたのです。今日もルーティンで行先を誤解したのです。行先は特徴的な場所を写真で示さないと「山登り」なんて言葉は理解できないことが多いです。「お菓子」と言ったので昨日と同じだと「シンボルキーワード」を聞いてで行先まで同じだと誤解したのです。

明日からは山登りでおやつを食べるポイントの写真を「西山」と命名しておやつも絵で示し、「西山でおやつ食べよう」と説明していきます。ASDの子ども達は場面場面の違いを理解しにくいので、昨日とやり方を変えるのなら明示的な5W2Hの説明が必要です。だったら、変更やめとこうかという声も出そうですが、世の中は変更だらけですから変更を教えることは重要なことです。

また、逆に考えればルーティンには強いのですから、正しいやり方を教えるとすぐに定着するところはいいところです。この強みを使って生活規律や作業手順を教えればいいのです。

 

ローマ字表と暗唱

ローマ字の宿題について、C君D君は苦手みたいだとスタッフから報告がありました。ローマ字には規則性があるので、ローマ字表のマトリックスを眺めていれば通常子どもは理屈として理解します。「一番上に横に並ぶKSTNHMYRWに、右端縦のAIUEOが合成されて50音が構成されるという発見です。「へーぇ、九九と同じやん」と納得するのですが、空間認知の弱い学習障害の子どもは表を見ただけでは気づかないのです。

空間認知は強くて音声処理の苦手なE君はすぐさま理解して、キーボードの位置も覚えてしまいます。でも言葉で説明されるとかえって混乱してしまいます。ワーキングメモリーモデルという認知理論では、視空間スケッチパッドと音韻ループでの処理の偏りが「見てわかる人」と「聞いてわかる人」を分けると言います。これの非常に偏ったものが学習障害の原因ではないかと言われています。

ですからC君D君にはローマ字表を見せながら言葉で一番上の並びと一番右の並びの文字が合わさると一音が表現できると説明したうえで、「ケイ、エス、ティー、エヌ、エッチ・・・」と「エイ、アイ、ユー、イー、オー」を暗唱させ、「かきくけこ。ケイ。エイ、アイ、ユー、イー、オー」「さしすせそ。エス、エイ、アイ、ユー、イー、オー」と順番に暗唱できるようにします。とてもめんどくさいけど・・・確実です。これに合わせてキーボードを打てば一石二鳥ですが不器用な子はひとつづつしないとパワー切れを起こします。学習障害(LD)はラーニングディフィカルティー(学習が難しい人)ではなくラーニング・ディファレンシー=学び方の違う人です。

 

 

 

じゃんぷエントランス照明完成!

5時になるともう足元が暗くなる毎日です。エントランスのスロープは、じゃんぷへの教室通所の子どもにはちょっと足元が危なそうです。開所の際には京都府の福祉のまちづくり条例に従わなければならないので、車いす用のスロープはあったのですが高さ60cmで2m傾斜では条例規格に外れるので、折り返し付きの6mスロープにしたのです。

もともと外灯も暗いうえに、玄関先のスロープの陰になって手前のスロープの足元が真っ暗だったです。じゃんぷの看板も薄暗くてパッとしないなぁということで、足元ライトと看板用スポットライトを増設しました。エントランスが明るくなりました。

 

しんどいが言えるように

B君が昨日はとても眠そうで、作業の合間にソファーに横になったり、また立ち上がって作業したり、独り言も多くて作業がはかどらなかったという報告がありました。

ASDの方は、スケジュールが示されると体調が悪くても、やらなければならないと思い無理をする人が少なくないです。原因は、自己フィードバックが弱くて少々の疲れは感じにくく、高熱が出て急にダウンすることがあります。

また、「しんどい」「休みます」を言い出すタイミングもつかめないので、支援する側から休んでいいことや与えられた課題を全部こなさなくてもいいことを教えていくことが大事です。

低学年では、毎日、「今日は元気ですか」と子どもに聞きますが、感情カードを張っておき、しんどいカードがすぐに使えるように貼っておきます。しんどいことはそう簡単には訪れないので指導のタイミングが難しいのですが、毎日、子どもの様子を見ている人がチャンスをうかがって指導します。

おやつ

「昨日は山歩きをして、たくさん歩きました」「1年生もたくさん歩いてくれました」とスタッフから報告がありました。「おやつは食べた?」「いつも通りのおやつです」そこはちょっとスペシャルなおやつにしたほうがいいよと話し合いました。

放デイの日課はとかくマンネリ化しやすいものです。同じ道、同じおやつでは必ず飽きが来ます。飽きて当たり前です。ちょっと頑張ったかなぁと思うときは、その子が好きそうな味のおやつや飲み物を持っていくのがコツです。おいしかったという満足感と活動体験が心理的に連合するように準備するとわりと飽きがこないものです。

おやつだって、うまく使えば大事な支援の助っ人になってくれます。決まった時間に決まったおやつを出すのがおやつの時間と考えていては、ちょっともったいないという話でした。おやつの出し方にもメリハリをつけて活動の中に組み込みます。

 

なぜ子どもは窓に登ろうとするのか

「Zさんが窓に登るのは何故だと思いますか」と聞くと、Aさんの真似をしたいから登っているとのスタッフの理解でした。確かにAさんとZさんは同学年でZさんはAさんの後ろをついて離れません。そして、Aさんの好きな人形を奪ってAさんの大騒ぎを面白がったりするのです。

Aさんが窓に登るのは、固有感覚を刺激したくて、つまり力が余っていて窓に登るのです。そして、「Aさん!窓から降りてー」とみんなに注意されます。Zさんは、公園へ歩いていくのもめんどくさがる低緊張の、つまり体を動かすのに時間がかかる人です。誰も見ていなければ、窓になど登るニーズはありません。Aさんは人が見ていようが見ていまいが窓に登ります。

そうです。Zさんはめんどくさい体を動かしてでも、一つの目的で窓に登る必要があるのです。それは「みんなの注目」です。ZさんはAさんの真似をしたいツボは「ダメでしょ!」とみんなに注目を浴びることです。とすれば、療育の目標は適切な行動をしてみんなの注目を浴びる内容=「Zさんアイドル化大作戦」を考え出すことです。

運動会

先週の土曜が雨で運動会延期だったので、今日明日に運動会をする小学校がほとんどのようです。Y君が「今日は俺と走るやつ二人ともデブかったから1位になれたけど、あんまりうれしくない」というので「3着の奴は今最悪の気分かも知れんで、2着3着の人をリスペクトする意味でも、素直に喜んどき。」「あーわかった」とわりと素直に聞いてくれました。23着をリスペクトするというのが響いたかもしれません。

この日彼は、転校した学校での初めての運動会での徒競走だったのです。学年ごとの保護者観戦とはいえ緊張で喉が乾ききって、出番の時間までに持ってきた1リットルのお茶を飲みほしたと言います。相手の気持ちが読めないので全員が自分のことを注目しているに違いないという誤解からの緊張です。集団演技のソーラン節も終え、迎えに行ったら彼は疲れ果ててはいましたが、徒競走の成果もあり晴れ晴れとしていました。運動会は彼らにとってはかくも過酷な舞台なのです。

 

避難訓練

先週の土曜日雨で延期になった避難訓練を今日しました。「震度6強で近隣火災、向陽高校まで避難」という設定でした。前回も向陽高校まで避難だったのですが、武漢風邪予防の臨時休業中という理由で、職員はいたけど避難場所の体育館までは入れませんでした。今日は、体育館までは入れて、子どもたちはここに避難することが分かったと思います。

今回は車いすのXさんは介助者がおらず自力で戸口まで逃げるという訓練をしました。避難開始から戸外の車いす移乗まで5分かかりました。また、安全用のヘルメットも買ったのでみんなで被って高校まで移動しました。結構気に入ってがぶってたみたいです。

今日の避難人数は大人も含めて15名。避難から点呼まで5分。向陽高校体育館までは15分かかりました。みなさん、お疲れ様でした。

【避難開始から向陽高校体育館まで15分】

怒りの地雷を踏まないで

W君がもっとパソコンがしたかったのだけれど、その日はスケジュールが圧していて思うほどPCで遊べませんでした。W君は前回約束した通り約束した時間に終えてPCを片づけました。

でも、約束は果たしたけれど気持ちが収まりません。周囲のスタッフに悪態をつきはじめました。とは言っても彼は悪態=腹いせをスタッフにぶちまけているつもりはありません。「悪態」のように他の人には見えるだけです。自分が他者からどう映っているのかはW君にはあまりわからないからです。

彼にしてみれば、みんなが「腹減ったー」と言うのと同じ感じです。スケジュールが圧したのは誰のせいでもないけど納得がいかないのです。ところがスタッフがこの怒りに付き合ってしまうとややこしくなります。人にはこの思いを聞いてほしいけど解決してほしとも思ってないからです。

反応したスタッフは地雷を踏んだも同じです。子どもは怒りに任せて「なんでやねん」と喋っているだけなのに、「それは違うやろ」とか「理由は君も知っているやろ」などと返すと、「はー」と売り言葉に買い言葉の関係になります。こんな時は思いだけはうんうんと聞いてあげて、「約束通り終われてよかった!ありがとう!」でいいのです。それ以上踏み込んでは彼の値打ちが下がります。

PECS Ⅳ+ アプリ 今なら安い!

iPadで操作できるPECSツール「PECS Ⅳ+ 」が10月は半額セールだそうです。10,400円が5,260円です。

Facebookより
拡大・代替コミュニケーション啓発の月に敬意を表して、10月中、PECSIV+ とIHear PECS:動物のアプリが割引価格でお求めできます。

Apple®のアプリストアからご覧ください。アプリの詳細については、www.pecs-japan.com/apps からチごらんください。

また、PECS®と聞いたことがあるけど、何だろう?気になる?と思っている方、10月19日夜8時から無料でPECSの概要を開催されます。
受付は www.pecs-japan.com にあるトレーニングスケジュールからお申し込み下さい。

PECSの概要 – ZOOM®, オンライン (2020年10月)
 開催地: Zoom®
開催日: 2020年10月19日 - 2020年10月19日
日程: 20:00 - 21:30
受付開始: 19:45

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PECS Ⅳ+ は PECS からハイテクのコミュニケーション機器へ移行する際の解決策です。フェイズ Ⅰ から Ⅳ までを従来の PECS のブックを使って習得した学習者にとって、PECS Ⅳ+ はハイテク機器を使った次のステップとなります。研究で実証されいる、世界で話題の PECS を創り出したピラミッド教育コンサルタントから出た PECS Ⅳ+ は、学習者が複数の絵カードを使って文をつくることを可能にします。述語ページを含む各ページには、PECS の絵カードを 24 枚まで置くことができます。そして、それぞれの絵カードの音声を再生するシステムがアプリに内蔵されています。


PECS Ⅳ+ の特色

• マジックテープがついているタグのあるページと文カードがある従来のカラーのPECSブックと似ているので学習者の使用しているPECSブックと同じようにPECSⅣ+のブックを設定できます。

• 従来のPECSのブックと同じ方法を使ってタグのついているページから文カードに絵カードをドラッグしておとします。

• ページ間をスクロールし、タブをタップすることでページが変更することができます。

• 絵カードの絵を削除することなく、文カード上の絵の順序を並びかえることができます。

• 絵カード上の絵を取り除くにはボタンを一回押すか、各絵をブックにスワイプして戻します。

• 1000個以上のPics for PECSの絵カードが入っています。

• PECSの指導方法に含まれている一定時間遅延プロンプトによって音声表出を遅らせる機能も組み込まれています。


各ブックのカスタマイズ

• 専用の述語ページを1回タップすることであけたり閉じたりできます。

• 1枚から20枚のタグのついているページを作ることができます。

• 各ページに24枚の絵カードをのせることができます。

• 各ページのマジックテープの数、色、カテゴリーのアイコン、そして絵カードの枚数を決めることで各ページをカスタマイズできます。


絵カードのカスタマイズ

• Pics for PECSにある絵を使うか写真ライブラリから写真を追加したりウ。

• 絵カードの文字を変更する。

• 文字を絵カードの上か下かにつけたり、絵カードから文字を取り除いたりできます。

• 絵カードのサイズを変更できます。

• Pics for PECSのライブラリの機能を検索する。


音声

• カスタマイズ可能な合成された音声(AV音声シンセサイザー)を使うか、自分の声を録音することができます。

• 生徒が発語する機会を作り出すために研究で実証されている一定期間遅延プロンプトを文章に組み込んでいます。


カスタマイズするために設定されたプロファイルを選択する、または新しいプロファイルを作成する

• 絵カードを動かす方法:タップ、ドラッグ、または両方

• 絵カードの絵を削除(リセット)する方法

• 述語ページの可視性

• 左から右、または右から左の文カードの読み

• 文カードを読むタイミング:各絵カードが選択される度か、文カード完成後」に音声表出のボタンを押した時


生徒の使用状況の痕跡

• 日毎の作られた文カードリスト

• 最も使用頻度の高い絵カードの週毎、月毎の分析


ピラミッド教育コンサルタントは機能的コミュニケーショントレーニングをアプリを使ってまたは音声表出コミュニケーション機器からはじめることはおすすめしません。なぜなら、ハイテク機器はコミュニケーションには不可欠なそしてPECSの根本理念である対人相互作用を必要としないからです。機能的コミュニケーショントレーニングは従来のPECSのブックを使って始める必要があります。研究では、ほとんどの学習者は3ヶ月から9ヶ月の間にローテクのPECSの指導方法でフェイズ1から4まで習得できるとされています。

 

西山歩き

V君は西山歩きではいつもだらだら歩きなのに今日はガンガン歩いていたというので理由を聞くと、目的地での飲み物がサイダーなんだそうです。なるほどV君はサイダーが大好きです。家に送っていく時もお母さんを見るなり「三ツ矢サイダー?キリンレモン?」と催促しています。

以前、欲しいものがあることはいいことだと書きましたが、好きな飲み物や食べ物があることもとてもいいことです。好きなもののために頑張って、「よく頑張ったね」と褒められることの心地よさは、自分にも相手にも良い感情を育てます。たかが、サイダー。されど、サイダーです。

ピンチはチャンス

パソコンを遠隔操作でオフにするソフトウェアーはないかとスタッフが聞くので理由を聞くと、小学生のU君らがパソコンのゲーム時間を何度言っても守らないので強制的に終了するソフトウェアーで解決したいとのことでした。

「あのね、ここはゲーセンじゃなくて療育施設なんだけどな」と呻いてしまいました。スタッフがPCを止めたい理由は、U君が時間通りに動いてくれないと他の子どもの送迎時間が遅れるからです。子どもに言っても言っても言うことを聞いてくれないのは、放デイでは当たり前のことです。皆が困るということが想像できない子や、約束を忘れてしまう子が通所してくるのが放デイだからです。

こうした事例に取り組んで成果を出すのが報酬をもらっているプロの証です。リモートでゲームを物理的に切ってもU君の問題は何も解決しないし、自尊感情も育ちません。まずは、理由を説明し契約をして契約を履行すればボーナス点として延長時間が次回以降に貯金として与えられ、履行しなければ次回はPCはないという約束をすればいいのです。トークンエコノミーに取組む良いチャンスを生かしてほしいと思います。

スケジュールの前に教えるべきこと

スケジュールの支援10/6 のところでも書きましたが、スケジュールの理解はPECSではフェーズ3bだと書きました。スケジュール理解は「義務と報酬」の関係の理解が基本とも説明しましたが、もう少しわかりやすい説明がいると言われていますので、書き加えたいと思います。

生活に沿わせようとして、親切心でスケジュールを導入しても、かえって混乱する子どもがいます。新入所・入学の時期、療育教室や支援学校や学級の教室の個別スケジュールエリアに貼るスケジュールカードは、最初は次の場所に移動する1枚から慎重に進めていく事が必要です。

スケジュールカードの手順は、貼ってある絵カードを「これからやることスペース」に貼り付けるか、やるべき事を忘れそうな子どもなら行くべき場所(机等)に移動して貼り付け、終わればそのカードを剥がして持って戻り「おしまいボックス」に片付けます。(「スケジュールボードに戻る」というトランジションカードは「戻りなさい」と言う言葉の代わりのキューに過ぎず、フェイディング方法がなく、子どもにも支援者にもスケジュールの意味(自立性)を形骸化させ、結果的にプロンプト依存を強化しているように思います。)

もちろん初めてスケジュールを見る子どもの中には、一目スケジュールを見れば一日の流れを理解する子もいます。しかし、ASDの子どもは対人相互性の理解やコミュニケーションに課題を持っているので、このスケジュールの意味に大人との契約だという事は理解できていないのです。こうした子どもは、嫌なスケジュールを落としたり、投げたりします。

これは、スタッフに「嫌」を訴えたいからではありません。カードが無くなればやらなくていいと理解するからで、要求や交渉のコミュニケーションの存在を知らないからです。つまり、スケジュールを不適切に扱う子は、表出のコミュニケーションレベルがとても低いと考えるべきで、まずはそのレベルに合わせて取り組む必要があるのです。

絵カードの不適切な扱いの後でスケジュールボード上で交渉をする人もいますが、子どもによっては不適切に絵カードを扱えば嫌いなカードがなくなった・後回しになったという学習にならないかどうかの注意が必要です。

世間では、構造化支援=スケジュール提示と思われがちですが、その子の表出コミュニケーションレベルに合った、契約・交渉のトレーニングが必要です。それがスケジュール2枚提示の場合もあれば、1枚絵カード指示のこともあるし、それと並行して表出のコミュニケーショントレーニングに取り組まれなければ、大人と子どもの関係はちぐはぐなままとなります。

ビギナー支援者は支援グッズの意味を考えずに先輩の支援の真似をしがちですが、スケジュールよりも先に教えるべき表出のコミュニケーションの課題がないか、良く考えてから支援する事が重要です。

好きなものがあることはいいこと

先日の懇談会で、T君が習い事を嫌がるので困ったという相談を受けました。T君の欲しいものがあるか聞くとゲームが欲しいとのことでした。それではゲーム機やゲームソフトをご褒美にして習い事に通わせてはどうかとお話ししました。

すると、ゲームを与えてしまうとやめなくなってかえって家の中の親子の争いごとが増えそうで気が進まないとのことでした。ゲーム時間親子摩擦事象は、大抵の家庭で日常茶飯に生じている問題ですから、世界中で沢山の解決アイデア事例が蓄積されています。また、ゲームをするためにお手伝いをしたり、勉強をしたり親が仕向けることが、物を与えないと行動しない即物的で自制の効かない人になってしまわないか心配だという保護者の気持ちもよくわかります。でも、「ご褒美子育て」を貫いたから、即物的で自制の効かない人になったという例は見た事がないです。

むしろ、幼少期に必要以上の我慢を強いられたり、親の気分で一貫性のない物の与え方をされて、大きくなってから自制が効かず、いろいろ問題を抱えている人の方が目につきます。欲しいものを与えることは悪いことではありません。約束を守れば報いはあるということを小さな時期からしっかり教えることが人への信頼感や自尊心を育てると思います。特に相手の気持ちを推し量ることが苦手な子どもたちには、目に見えるものが大事なように思います。思いやる気持ちは褒められた経験から育ちます。

私たちが困ってしまうのは、好きなものが見つからない、やりたいことが見つからない人です。元気な人をコントロールすることは容易ですが、欲しいものやりたい事が見つからない人の行動変容はとても難しいです。ゲームにしろガンプラ(「機動戦士ガンダム」のシリーズに登場するモビルスーツ、モビルアーマーと呼ばれるロボットや戦艦などを立体化したプラモデルのこと)にせよ、子どもに欲しいものが沢山あることは、子育て上、とてもラッキーなことだと考えると、色々なアイデアが湧いてくると思います。

 

初めてを、楽に

新事業所じゃんぷ、開設して10日程が経ちました。ありがたいことに、ポツポツと見学希望等いただいています。

学びの広場じゃんぷは、児童発達支援(療育)と放課後等デイサービスの多機能型ですが、今日は放デイの見学がありました。見学と言っても、まだ実際の場面を見ていただくことはできませんから、見学者自身に少し体験してもらえるような活動を用意しました。

スタッフ側も、楽しんでもらえるかな?じゃんぷを好きになってくれるかな?とドキドキで迎えますが、お子さんも初めての場所でドキドキハートしていると思います。発達障害の特性をお持ちの場合、『初めて』が苦手な方も多いので。折しも今日は朝から続く雨。雨や濡れることが嫌いなお子さんもいらっしゃるので、あまり初日には向かない天候…。

 今回は字が読めるタイプの方でしたので、プリントしたスケジュールと、Ipadにダウンロードしたタイマーアプリを用意しました。

本来、時間的見通しや切り替えを支援するためのツールですが、お子さんとのかかわりの中では、大人と子どもの共通理解や交渉を助けるコミュニケーション支援にもなっていることを実感します。

「○○したら△△できるよ」と口約束でなく、はっきりと書いてある予定。「もうおしまい」でなく、『あと○分』と自分で確認できる見通し。情報を、ズレなく、双方がわかるかたちで共有することが、まず余計な混乱や、相手への不信を減らします。要求や拒否を上手く、程よく伝えることが苦手なお子さんとの初めての交渉を穏やかにし、お子さんの希望をスタッフが把握しやすくなります。

 活動の最後に感想を聞くと、笑顔で「楽しかった!」と嬉しいコメント。スケジュールはやりとりの書き込みでいっぱいでした。楽しくて、まだ遊びを終わりたくない一幕もありましたが、スタッフが「じゃああと何分する?」と聞く前に「10分!」と交渉開始。素晴らしい!

少し予定時間を過ぎていたので、お互いの折り合いで、『5分』にタイマーをセット。タイマーアプリ、アラーム音が涼やかで耳に優しく、『おしまい』と文字も出るスグレモノです。スタッフとハイタッチをして帰っていかれました。

スタッフ支援

Sさん担当のスタッフがSさんの不適切行動に手を焼いていました。外に出ると逃げる。部屋の中にいると本棚から本を落として散らかす。注意をするとドアを蹴って大声を出す。「どうしてそんなことするの!」「そんなことしていいと思っているの!」と言いつつも、Sちゃんの後追いでスタッフは途方の暮れています。

「スタッフさん交代してあげて」とベテランのスタッフさんに交代してもらいました。ベテランのスタッフさんは、先手必勝です。遊びに誘い込んで主導権を取るのです。今まで不適切な行動しかしていなかったSさんは、ニコニコして安心して遊んでいます。「(私には)難しいですね」と先ほどのスタッフさんが言いました。

放デイはパートスタッフさんにも来てもらっているので、様々なキャリアの方がいます。皆さん福祉畑や教育畑でのベテランさんが多いです。ただ、「見守り」の考え方は子どもの場合意味が違うことが多いです。子どもは何をしていいかわからないときは、Sさんのように大人を巻き込んでくることがあります。それを、遊んでほしいサインとして受け止め遊びを教えてあげると、安心する場合が多いです。保育・教育畑ではよく知られていることですが、成人や重症心身障害の支援経験者の場合は、経験しないことです。スタッフ支援は忙しい中では丁寧にはできないのですが、OJTでその場で支援していくことが大事だと思います。

フラッシュバック

ASDの人にはフラッシュバックを起こしやすい人がいます。多くは驚いたり、怖いことがあった時の感情や行動がずっと残っていて、何かの拍子に繰り返してしまうのです。厄介なのは、結構困った行動が多いのです。おそらく、きつく怒られたか何かで驚いた経験として行動も一緒に保存されるようです。不適切な行動を起こして怒られて驚いているので、不適切な行動と驚きや不安な気持ちがセットになってフラッシュバックするのです。

Rちゃんは車道に飛び出して車を急停車させたそうです。本人も驚いたのだと思います。その後見通しがなく不安になったり同じシチュエーション(道路が見えると)になると、わざわざ飛び出そうとします。怖かった思い出が危険行動に結びつくのです。言葉がわかるようになってくると認知行動療法やEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)等の心理療法で軽減できるといいます。

従って、年齢が低かったり、言葉が十分に理解できないASDの子どもの場合は予防が大切です。イギリスの自閉症協会の提唱するASDを育てる基本理念の【SPELL】は、Structure=構造化、Positive=肯定的な関わり、Empathy=共感、Low arousal=低興奮・低刺激、Link=連携です。不適切行動も含めフラッシュバックの予防には、この5項目に勝るものはありません。

スケジュールの支援

Qさんがスケジュールに従わないという報告がありました。ただ、最初の頃から気にいらないスケジュールカードがあると自分で外していたといいますから、スケジュールに沿う意味は分かっていなかったのだと思います。

通常スケジュールの理解は、PECSのコミュニケーションレベルでは要求カードが自由に弁別でき、「待って」や「これが終わってから」に従えるフェイズ3bからです。それまでは絵カードに従うことをトークンエコノミーなどを通して「指示に沿う」ことを教えます。実はこの訓練ができていないと、スケジュール絵カードが弁別できても、従うという交渉の意味が理解できない場合があります。従うというのは無条件に大人に従うという意味ではなく、「義務と報酬の契約」があることを理解することです。

そこでもう一度、指導マニュアルの初歩に戻って、絵カード二枚提示で「これをしたら、好きなこれあるよ」を繰り返し丁寧に取り組もうということになりました。スケジュールは対人相互交渉の理解の上に成立するものだというコミュニケーションの基本に立ち戻ってのスタートです。

宿題が多すぎる!

すてっぷを利用している小学生のほとんどが「宿題の量が多い」「苦手な練習が多すぎ」と悲鳴を上げています。また、低学年のうちはいいのですが、高学年になってくると宿題に向かうたびに「できなさ」に向き合わされる辛さが半端ないと訴えています。

理由はほとんどが、言語性ワーキングメモリーの少なさ所以の読み書き障害か、視空間性ワーキングメモリーの少なさ所以の算数障害です。中学年以降からはただ読めるだけでなく、すらすらと読めないと書き写しもしんどくなってきます。他の子どもは読む中で単語の音と意味が短期記憶から長期記憶に保存されるので、それを呼び出してきてどんどん読む速度が速くなりますが、いつまでも拾い読みの人は長期記憶にも単語が保存されないので遅いままです。

算数の速度は事物ファイルシステム・量的イメージシステムという視空間性ワーキングメモリーに左右されます。パッと見て3~4個が認識できるようになると数の分解も可能になります。例えば、7+5の「5」を3と2に分解して10と2という繰上りができそのうちに「5は3と2」などの長期記憶ができるようになります。そうするとすらすらと計算できてしまうのですが、この視空間性ワーキングメモリーが弱いといつまでたっても分解合成で指を使ったりしないと答えが出ないので長期記憶に保存されず他の子どもとどんどん水が開きます。

10ある力を他の子どもは学年が増すにつれ長期記憶が助けるので4か3の力で読んだり計算しているのですが、それがいつまでたっても低学年児と同じように10の力を使うとすれば、量が多くなれば処理できなくなるに決まっています。学習は、練習よりも意味が理解できているかどうかに力点を置いてほしいです。排水量の少ないシンクを思い浮かべて、水は出しすぎないように、どうかよろしくお願いします。

 

 

知らんし…

P君が、以前、パソコンで遊ぶ時間はタイマーで決めようとスタッフと約束(契約書)したのにタイマーをかけずに遊んでいました。スタッフから「一緒に約束したことなのに契約違反だよ」と指摘されているのに、P君が「知らんし」と言ったので、「契約書もあるのに、その言い方はないだろう」とスタッフが叱ったという報告がありました。

契約書を作るのは、P君が約束そのものを忘れてしまうので作るのですが、今回のP君の「知らんし」発言は二つの意味があります。「約束を忘れてたのだから、その場面では知らなかった」「契約書を見せられたら、思い出したけど、だからどうしたらいいか知らない(わからない)」ということです。スタッフが思うほど、指摘したスタッフへの挑戦的な気持ちは、P君にはさらさらなかったと思います。

P君に悪意はないと思われるので、叱るのではなくエラー修正でいいと思います。「知らん」というのではなく「忘れてごめんね」「忘れないようにするにはどうしたらいいか一緒に考えてほしい」と言えばいいことを教えることです。併せて、指摘してくれた時に「知らん」というのは相手を誤解させるからNGワードだよと教えればいいと思います。真意を伝えるコミュニケーションは双方難しいものです。

 

遊びモデルの必要性

Nさんが、O君と水鉄砲遊びをしていました。そのあと水鉄砲のチューブの部分を空に投げる遊びをO君が考えました。「イッセーノーデー、ポイ」遊びです。O君はものすごく高く投げられるし、Nさんも自分のできる範囲で一生懸命投げて、盛り上がりました。

スタッフを入れて3人は飽きるまで投げました。他愛もない遊びですが今日はNさんにとってはO君が遊びのモデルです。大人がちょっと離れると不安になって大声を出して注意喚起するNさんですが、だからといって大人が横にいればそれでいいわけではありません。子ども同士をつなぐ遊び内容と、「ほれ、こんなに面白い」と示す遊びモデルになる子どもが必要です。それを大人が面白がっている図が、子どもの育ちには一番理想的だなぁと思います。

アセスメント・フリー

言葉のないM君が離れたところにいるスタッフの写真を識別して選び、歌絵本の電池を選択したスタッフに入れ替えてほしいと絵本を持ってきたそうです。また、最近作ってもらったポータトーンの絵を識別して、ポータトーンで遊びたいと要求してきたという報告もありました。

絵カードの識別はPECSのフェイズ3です。通常「~ではなく~だ」という力は言葉の出始める1歳半で確実になってくると言われています。また、M君は視力も聴力も中等度の障害を受けているし、食事や排泄、移動も介助が必要です。でもM君は自分の要求物や、行きたい人の写真を識別して自発のコミュニケーションが取れるようになってきました。

PECSは学習理論(ABA)に基づいたものですから、発達段階や障害の状態からできるできないを最初からは判断しません。小麦抜きをグルテン・フリーというように、アセスメント必要なしのPECSはアセスメント・フリーなのです。強化子さえあれば行動変容は可能というコンセプトは、実践の成果が出ない事を、障害や発達の理由にせず、実践のやりかたに原因を求めていく必要を、支援者に教えてくれます。

いやだー

Lさんが最近なんでも小さな声で「いやだー」と拒否するようになりました。スケジュールに提示してあるものも「いやだー」、PECSのおやつトレーニングも「いやだー」、自立課題も「いやだー」です。ただその「いやだー」はLさんの絶叫拒否から変化して周りはうるさくないので拒否を受け入れている状態です。

2歳ごろからはじまる「イヤイヤ期」は、自分で選びたい、急な大人の指示に沿えないなどの理由ではじまります。これは以前「自分で選ぶこと決めることの重要性 : 03/25」でも少し触れています。

Lさんの場合は、周囲の様子が理解できてきて、これまで機嫌よく受け入れいていたもの全てに「いやだ」が出ています。これは見通しがないわけではないので、自己選択の欲求のように思えます。「自分のやりたいものだけしたい」となると大変だと大人はすぐに心配しますが、それには当たらないと思います。ここは、まずLさんの小さな声の「いやだー」は尊重しつつ、体遊び等もっと好きなことを見つけて指示に沿うルールを作り直すことと、空中に向かって発している「いやだー」を絵カードでこれがしたい、これがほしいと示せるように仕切りなおすことだと思います。

何を支援したいのか?

Ⅰ君がスケジュールを見ないので、スケジュールを見るように声を掛けたらいいかどうかが議論になっていました。「ところでⅠ君首からスケジュールぶら下げているけど、あれは何のため?」「Jさんの見通しを戸外でも持たせるために、携帯スケジュールにしてもらったら効果があったから、Ⅰ君にもつけてもらっている」「K君がぶら下げているから自分のも欲しかったようなので作ってあげた」「???」

Ⅰ君のスケジュール支援の今の狙いは、「スケジュールを理解する」ことです。つまり、スケジュールが何の役に立つのかどう使うのかも分かっていないのです。Jさんの戸外の見通しが持てるようにするためのスケジュール携帯とは目的レベルが違います。しかし、こうした目的を理解しないまま使う視覚支援ツールの与え方は「現場あるある」で、あちこちで見られます。

他の人でうまくいったから、この人にも使おうというのはまだいいほうです。目的も分からずに格好だけ真似した「視覚支援」グッズを使う人のなんと多いことかと思います。武漢風邪のマスクと同じです。マスクで感染予防できるとは思っていないのに、みんながつけるから付き合いでつけているだけという現象とよく似ています。

視覚支援のつもりだろうけど、そのグッズの使い方はこの子にあってないよね、という様子はあちこちの学校や園で見受けられます。今回は、I君はまずスケジュールの使い方を理解する事が優先課題です。首からぶら下げていても肝心のスケジュールを見なければ役に立ちません。

スケジュール理解の最初のトレーニングは、子どもが場面の切り替えの度に、カードを貼ったり入れたりする操作をすることでだんだん理解していくのです。与えてすぐに理解できる子は多くはありません。スタッフが何を教えたいのか狙いを持ち、マニュアルに添って子どもの理解レベルにあったスケジュール支援をお願いします。

 

集団活動ができない障害やねん

H君に、放デイのない日はどうしているのと聞くと、誰とも遊ばずに家にいると言います。彼は保育所時代から同じ地域に住んでいるので知っている子はたくさんいます。でも皆共働き家庭なので顔見知りは学童保育所に行っており、声をかける人がいないそうです。

H君も学童保育に行っていたのですが、集団活動でつまづいてしまい、学童保育を嫌がってやめたそうです。「僕は集団活動ができない障害があるからみんなとは遊べないねん」と言うので「放デイでみんなと遊んでいるじゃないの」とフォローすると、「それはそうやねんけど」とあとの言葉が続きません。

確かに彼は空気を読むのが苦手で、必要以上にはしゃいでしまったり、自己抑制ができなくなる事があります。しかし、そんな子どもはどこにでもいます。まずは、職員集団がそのように子どもを理解し支援するのは学童保育も放デイも同じことです。ただ、当事者が嫌がるのは当事者の責任ではありません。どんなにサービス提供者が正当性を並べても、提供したサービスを評価するのは当事者です。

学童保育をやめたのは当事者家族の選択で、行政側が断ったわけではありません。けれども、彼は「僕の障害が友達と遊べなくしている」と考えてしまい、放デイのない日は部屋の中で過ごしています。当事者の困難度によって支給量は増えたり減ったりするのが公平というものです。週三日という地域の「標準」支給量に縛られて、放デイの支給量を増やすことはまかりならないというなら、公助とは一体何のためにあるのかと思います。

バースト現象とギャンブル理論

Gちゃんが、最近大声や奇声をあげて拒否したり要求したりするのけどなぜだろうという報告がありました。GちゃんはASDで、入学当初、機能的コミュニケーションがうまくいかず、要求が叶わないと大声をあげたりしていました。そこでPECSや機能的コミュニケーションに取り組み始め夏ころにはとても穏やかに要求や拒否ができるようになっていたのです。

学校が始まり、新しい事業所にも通い始め環境に変化があったのは当然ですが、この落ち込みぶりは激しいなぁと感じています。以前は、だんだん声が大きくなる感じでしたが、最近はいきなり奇声で「ぎゃー」と叫びます。これはABA理論ではバースト現象といって、不適切行動で相手が反応しないのでさらに大きな声や不適切な行動を修飾して要求を実現しようとする現象です。つまり、かなり日常的に不適切行動が無視されていることが推測されます。

大事なことは、不適切行動をスルーして無視することではなく正しい要求の仕方をエラー修正して教えることです。「そんなことで要求をかなえるとずっと大声を出すから反応しちゃだめ」という人がいますが、泣く子と地頭には勝てないのが世の常です。結局、激しい不適切行動の後要求がたまに実現したりするのです。

この「たまに」というのはもっと良くないのです。「ギャンブル理論」といって、たまに要求が実現するほうが行動は強化されてしまうのです。だからかけ事がやめられない人が多いのです。エラー修正で行動を修正して正しい要求実現の方法を教えることと、もう一方で、まってね・今はダメを、大暴れするような修羅場ではなく、我慢できそうな訓練場面で少しづつ教えていくことが大事なのです。

読み書き障害に対応した学習支援プログラム 【じゃんぷー1】

おかげさまで、当法人の新しい発達障害対応の事業所「じゃんぷ」が10月よりオープンします。「じゃんぷ」の支援コンセプトは「エビデンス・ベースド・プラクティス」つまり「根拠に基づいた支援」です。

あちこちの事業所のホームページをみると、必ず「発達障害」児の様々な支援がうたわれており、その支援も「ソーシャルスキルトレーニング(SST)・学習支援・個別療育・集団療育」とか「TEACCH 感覚統合療法 ソーシャルスキルトレーニング(SST) 学習支援 個別療育 集団療育 預かり支援」「応用行動分析(ABA) 感覚統合療法 言語療法 作業療法 理学療法 遊戯療法 音楽療法 運動療法 ソーシャルスキルトレーニング(SST) 学習支援 個別療育 集団療育 」などなど聞いたような療育が並びます。しかし、これらのどの療法にしても正確なアセスメントを行い個別化しないと取り組めません。それは、利用する子どもたちの凸凹のパターンや凸凹の開き方が違うからです。

「じゃんぷ」でも、幼児にはSIT(Sensory Integration Therapy;感覚統合療法)や小学生にはSSTや学習支援にABA理論に基づいて取り組みますが、こういう個別化した取り組みはアセスメントや評価をしっかりとらないとやっているだけになってしまします。子どもが楽しければいいのならそんなに難しいことは言わなくてもいいのですが、それですらなぜ子どもが楽しいのか、なぜ取り組もうとしないのかという仮説や根拠が必要です。

また、どの放デイにも「学習支援」と掲げられてはいますが、どんな学習支援をするのかは示されていません。「すてっぷ」のように宿題を手伝うことなのか、「じゃんぷ」のように保護者や子どもと契約して特別の個別学習プログラムを実施することなのかで、支援の密度も手法も変わります。

特に発達障害の子どもにみられる、読み書き障害(音韻障害を主とするもの)にどうアプローチするのかは、学校でも知らない先生のほうが多いです。じゃんぷは、認知特性だけでなく音韻意識の流暢性アセスメントをして、この問題に本格的に取り組もうとしています。おそらく、京都府の放デイでは初めての取組になるかと思います。

今回から、「じゃんぷ」の目指す支援について少しづつ紹介していきます。

 

「マジックジュース」サイエンス

高学年のD君E君と低学年のF君を読んで「マジックジュース」の実験をしてみました。「マジックジュース」とは、色が変わったり、泡が出てきたり、液体が混ざらずに重なったりする、まるで魔法がかけられたように変化していくジュースの実験のことです。

毎度掲載しているように、高学年児は同じ遊びばかりでは放デイの生活に退屈してしまいます。かといって低学年や重度の障害の子どももいるのでグループ分けはしますが完全に分離してしまうと、多様な人がいる生活の良さを生かせません。この匙加減が大変難しいです。そこで、たまに、高学年の興味関心を引き付ける内容を投げ込むことが大事です。

今回のマジックジュースは、グレープジュース(30ミリリットル)に重曹小さじ4分の1を入れて変化を見ました。「お~色が変わる!!」高学年の二人は大興奮。(ん?理科の実験って最近しないのか?)グレープジュースには「アントシアニン」が入っています。色は紫で、ほぼ「中性」です。アントシアニンにアルカリ性のものを混ぜると青くなり(グレープジュースでは黒っぽく見えます)、酸性のものを混ぜると赤くなります。重曹はアルカリ性です。グレープジュースが黒っぽく変わったのは、重曹を入れたことでアルカリに変わったからです。

D君は「リトマス試験紙と同じか」と推測。E君も「もっといろいろ混ぜてみよう」と乗り気です。ところが低学年のF君は「高学年の勉強やしおもろない」と逃げていきました。見えないものの変化に法則性を見出すのは9~10歳ころと言われているので無理ないとは思いますが、興味なさすぎでスタッフはがっくりしていました。

あとは、酸性のクエン酸(柑橘類の汁)では赤くなり、クエン酸と重曹では泡が出るなど楽しいミックスジュース遊びに、高学年は沸いていました。

注意喚起も強化子に

C君がゲラゲラ笑ったり大きな声を出して自立課題をしているといいます。「今日は、来た時からテンションが高かった(興奮していた)」「だんだん収まってきたが利用者が増えてくるとまた声が大きくなった」「テレビのコードなども抜くので音がうるさいのではないか」スタッフの言いたいことは2つです。「調子が悪いから声が大きい。音がうるさいから不適切な行動が出る。」ということです。

この論は対応するスタッフには問題はないというものです。子どもの不適切行動の大半は親や大人に向けられているものです。子どもの不適切行動が起こったら、まず大人の対応を振り返る習慣が必要です。誰にだって快・不調の波はありますし、ざわざわしてるところはいらいらするものです。しかし、だからっと言って大声をあげたりコンセントを抜いたりはしません。コミュニケーション能力があるからです。

でも、不適切な行動を繰り返している子どもには、こうした注意喚起行動が大人を引き付けるのに手っ取り早い方法となります。こうした行動が予測されるなら、一緒に座って作業を教える場面を作って「大人の適切な注目」を得る場面を作ったほうが安定してくるものです。「やることがないから」注意喚起するという理由で自立課題を与えたりするのは逆効果です。注目を得たいのですからスタッフの適切な注目を強化子にする課題を考えるべきなのです。

流暢性

高学年のB君は、書くのが大変遅くて課題に取り組むことが億劫で仕方がないと言います。読みができるので大人はあまり気づかないのですが、実は読みの速度も書く速度も遅かったりします。これを流暢性というのですが、文字を音に変えたり、音を文字に変えたりする速度のことを言います。(私たちの経験からは、視知覚による問題だけで読み書きが遅い子は大変少なく、音韻の問題が絡んでいる子が多いと感じています。)

この流暢性が弱いと4年生くらいから読み書きの困難が顕在化し始めます。つまりただ読めるだけただ書けるだけではなく、すらすら読める、すらすら書ける事が大事なのです。読めるけれどもつっかえやすいとか、連絡帳の写しの場面で他の子がカバンに片づけているのにまだ写している様子があれば流暢性が弱いとの疑いが必要です。

こうした場合、WISCやKABCだけでなく、流暢性を測るテストが必要です。STRAW等がテストとしてはスタンダードです。そこで平均値からどれくらい離れているか見て支援が必要かどうか判断します。

流暢性が著しく遅い場合は、読むことを聞くことに変え、書くことは話すことに変えて、その後電子デバイスへの入力スキルについての必要の可否を検討していきます。低学年のうちは、こうした代替手段も導入しながら、一方で音韻障害専用の音読トレーニングやひらがな獲得トレーニングに取り組んでいきます。ただ、何年たっても苦手なものは苦手なので、限られたパワーや時間をどう配分して使うかが重要です。高学年はどの方略を使っていくかの決断の時期です。

 

 

相談支援員のキャリア

9月10月は相談事業所のモニタリングが多い時期です。これは、放デイなどを紹介した相談事業所のスタッフが子どもたちの様子を見たり聞いたりして、今後のサービス計画を立てるための調査です。そこで、いつも気になるのは、子どもの見立てが違うことがあります。もちろん、相談事業所は毎日子どもを見ているわけではありませんから、毎日見ている放デイのほうが細かなことは知っていて当たり前です。しかし、利用者を見ている時間が長かろうが短かろうが、障害や発達、家族力動についての基本的な知見は不可欠です。例えば、不登校の原因に分離不安という視点や、読み書き障害の有無も留意しておくという知見は欠かせないものです。

相談員の資格はテストをするわけではありません。決められた研修に参加し、決められたサービスキャリアがあれば取得できます。今日明らかになっている発達障害や心身症関連の知見、その支援方法については、必修ではありません。こんなものは、どこまで知ればいいというものではありませんし、決められるものでもないとは思います。しかし、ある程度のレベルが必要なことも事実です。その判断は、現場に任せるしかないと思います。

例えば、研修を受けたら、1年程度はインターンとなり資格者である人の元で働き、意見書で課題も明らかにしてもらって資格者となるような手続きが必要ではないかと思います。そうでなければ、何を最低限おさえて相談をすればいいかわからないからです。この職種は相談者になってしまえば、もう誰も指摘してくれないので、最初の養成過程が重要なのです。クライアントとの聞き取りスキルなどはキャリアを重ねればそれなりに見栄えはしますが、どういう見立てを行うかは基礎的科学的な根拠が必要です。対人サービスはどんな職種も同じとは思うのですが、相談支援者は利用者が最初に出会う職種だからこそ、客観的な信頼性が大事です。しっかりと人が育てる期間が必要だと思います。

 

 

VOCA

Aさんが、頭を床に打ち付けて自傷するのは、いつも通りでない場合や要求が叶わないときに必ず起こるという報告がありました。それでも、事業所の生活に慣れてくると、Aさんにも見通しが立ってくるので、初めの頃のような頻繁さはなくなったと報告されました。

では、PECSに取り組みましょうとはなりません。Aさんが長時間手に持てる物は食事中のスプーンとか、おトイレに行くときの着替えバックくらいで、カードは無理です。つまり受容性コミュニケーションの力は伸びてきたけど、表出性コミュニケーションが伸ばせていないのです。

だったら、VOCAに取組んではどうかと話し合いました。(VOCA=Voice Output Communication Aids)(携帯用会話補助装置)。簡単に言えば大きいボタン(ビッグスイッチ等)をたたけば「お願いしまーす」と録音された声が出て、周囲の人が手助けするという仕組みです。でも、これを実現するには、まずスイッチを押せば何かが起こることを教えないと因果関係を理解するのは難しいです。

そこで、ボタンを押すとおもちゃが動くとか、好きな動画が始まるとかから取り組む必要がありそうです。本物のボタンスイッチは1万円、音声録音機能付きだと4万円と高価ですが、アマゾンなら音声ボタンは安物なら千円、壊れにくそうなのは5千円くらいから購入できます。

学びの広場じゃんぷ オープン!!

学びの広場 じゃんぷ 

10月1日オープン!!

「学びの広場じゃんぷ」は、就学前から中学生までの発達障害の子どもを対象に、自立に必要なコミュニケーションスキル、生活スキル、学習スキルの支援をおこなう療育タイプの多機能型事業所です。

発達障害・学習障害のあるお子さま一人ひとりのニーズに応え、得意をいかす指導で意欲をもって学習できる支援を提供します。個別指導での学んだことことを園や学校などの集団生活でも発揮できるように、個別指導と集団指導を組み合わせながら最適な支援を提案します。

また、子ども自身のスキルアップだけでなく、ペアレントトレーニングなどご家族への支援、園や学校、ご自宅などの生活環境での様子にも目を配り、必要に応じて連携を取りながら、子どもが自分らしく生きる力を育むためのお手伝いをさせていただきます。

小学校就学を前にして、適切な集団行動や家庭学習の準備を必要とする子どもと家族のために、そして、思春期に向かう高学年から中学生の時期に自分の特性を知り、それと向き合い、自分に合った学習や生活の方法を探したいと願う子どもたちとその家族のために「じゃんぷ」の扉は開かれています。

阪急西向日駅から徒歩5分の立地ですので、乙訓地域や京都市からも通いやすい教室です。児童発達は親子通所用の駐車場があります。放課後等デイサービスは自主通所を原則とし、送迎は行っていません。

9月中旬より、新規利用・見学についてのお問い合わせ受付を開始しております。詳しくはお電話かメールでお問い合わせください。

電話 :075-874-5170(受付9時から18時まで)

E-mail: manabi.jump20@nifty.com

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アンガーマネージメント(怒りの鎮め方)

Yさんは、相手が小さな子どもでもカッとなってしまうと後ろに引けずけんかになってしまうという報告がありました。それは、怒りのコントロールをトレーニングしてはどうかという意見がありました。

アンガーマネージメントは、人によって自然に身につく人もありますが、学んだほうがうまくいく場合があります。子どもの場合は、大人と一緒に学ぶのがいいと思います。

子どもが「怒り」のサインを見せるのは3歳ころからですが、実際にアンガーマネジメントが使えるようになるのは5才からと言われています。5才から8才にもなると、怒りは自然な感情であり、他人を傷付けたり怒らせるためにあるのではない、と理解できます。でも子どもには子ども向けのアンガーマネジメントテクニックがあります。

1.タイムアウト(その場を離れる)
子どもが怒っていたりムカムカしていたら、タイムアウトを教えましょう。小学生の子なら、数分間その場を離れさせて自分を取り戻させます。深呼吸をさせて、何が原因で怒っているのか考えさせましょう。子どもに「あなたは怒りの奴隷ではない」「怒りお化けを追い払おう」と教えます。

2.問題解決
5才にもなると、どちらかが勝ってどちらかが負けるwin-lose、二人とも負けるlose-loseといった結論以外に、両者にとって望ましい結果を得られるwin-winという状況を理解できます。友達と争いが生じたら、相手と話し合ってお互いがハッピーになれるように、話し合いを持つ事を勧めます。

3.大人に話す
子どもが怒りを感じた時、一番理想的なのは誰か大人に気持ちを話す事です。先生や親が子どもの話を整理してあげる事で、子どもが友達等に自分の気持ちを伝えるお手伝いをします。子どもには、自分の気持ちを表現する大切さを教えます。

4.絵カードを使う
5才でまだ文字がうまく読めなかったら、様々な種類の「感情カード」のセットを使います。小さい子どもは、怒っているように見えて、実はその感情が恐怖だったり混乱だったりします。子どもが怒り出したら感情カードを見せて、自分の今の気持ちを選ばせて下さい。

5.ストーリーにする
この年齢の子どもだと、まだ自分の怒りの感情をただちに捉える事ができないかもしれません。このような時、子どもが好きなキャラクターを使って、そのキャラクターが上手に怒りの問題と向き合っているお話を聞かせてあげるのも有効です。

 

医療連携

X君がお母さんに計算は努力してできるようになるもので、電卓使って宿題しても努力にはならないと言われた事がありました。X君には知的な遅れはなく、集中力が短いので短期記憶や空間把握が苦手で、計算したり書いたりすることが困難になっているようです。計算ができないのは本人の努力が足りないせいではないとお母さんに話しました。

また、X君は低学年の宿題がいまだに困難な結果、自分のことを否定的に考えてしまい学習性無力感に苛まれていることも伝えました。そこで、計算ができるかどうかはわからないけれど医療の支援を受けてせめて注意集中の短さが服薬によって改善しないか受診を勧めました。自分の特性について学習するサポートも必要なことを話しました。

実は、以前も同じ話をして、受診を促してみたのですが、受診はされませんでした。お母さんの話によると、低学年の時、学校から同じように促されて精神科医を訪ねたけれども、病院の先生は話を聞いているだけで何もしてくれなかったという苦い経験を話してくださいました。

親にしてみれば、障害が疑われるからと受診を勧められても、そう簡単には腰は上がりません。家の姿と学校の姿も違いますし、なんと話せばよいかもわかりません。勇気を振り絞って病院に行っても、親や本人からの困り感が医師に感じられなければ「様子を見ましょう」と言われるのはよくあることです。

親に強い困り感がない時、学校や施設が受診を勧めるなら、親と一緒に同行する専門サポーターが必要だと感じます。多くの保護者と関わる中で、このニーズは大変高いのではないかと感じています。字が書けない、計算ができないことが病院と結びつくとは普通は考えないからです。

しかし、お医者さんにしてみれば、「外野」は黙れと思うかもしれません。それは、症状(障害)名を背負うのも、服薬の副作用を引き受けるのも当事者と家族だからです。善意とは言え、他者が手伝うのは限度があるという意見もよく分かります。

ただ、眼鏡はかけて見ないと役に立つかどうか当事者には分からないのも事実です。薬とメガネ一緒にするなと怒られそうですが、メガネだって調整していなければ目に害で苦痛しかありません。と考えていると、堂々巡りです。

学校から送られてくる視力検査表や尿検査表等と「専門医にご相談ください」という通知を訝る親がいないように、学習症(障害)についても同じような仕組みにならないものかと思います。