すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

実行機能

R君に回るコマのペーパクラフトを提案すると、「えーめんどくさい」と返事が帰ってきます。仕方がないのいでスタッフが一緒に手伝い、パーツの切り出しだけを指示すると、できるのです。彼は別に不器用だから、嫌がっていたのではないのです。もちろん、自分勝手というわけでもありません。モノを作る見通しができないので暗闇の中を歩いているような感じなので「めんどくさい」のです。

簡単に言うと作業の段取りや順番がたてられないのです。段取りをイメージしたり計画を心の中でシミュレーションする認知過程を実行機能と言います。よく、お喋りは流暢で、あれこれの構想を口では言うのですが、実際に行動させるとうまく動けない人や、口では大きなことを言うけど見通しがないので周囲に迷惑をかけてしまう人は実行機能が弱いと言えます。原因はワーキングメモリーと深い関係があると言うのが仮説です。

たかがコマづくりの、単純なペーパークラフトですが、特定の物を作り上げるとなると苦手意識が強い人が多いです。こういう人には、構造化支援して最後まで見通せるようにしてワークシステムを作ってあげるか、そもそも終わりのない自由作品をアートする楽しさを味わってもらうなどの支援が必要です。

してはいけないことをどう伝えるか

Qちゃんが公園で水遊びをして、服が少し濡れたのだが全部脱ぎだして困っていると電話が入りました。慌てて車で着替えをもっていきます。さて、脱いだら着替えが大急ぎでやってきたのですから、次回もきっと全部脱げば新しい服が届くのではないかという理解をしたのではないかとスタッフは悩みます。しかし、そうは言ってもご近所さんが見ています。公の場所で裸のQちゃんに「脱ぐ」「着る」の駆け引きはできません。

「濡れたら全部脱ぐ」と理解しているQちゃんに、「ここでは脱いではいけない、○○で着替えます」をどう伝えればいいでしょう?これはやはりフェイズ2以降の「待って」対応が基礎なのです。机上で待てるようになって徐々にどこでも待てるようになっていきます。つまりQちゃんは大人に嫌がらせをしたいわけではなく、待つという意味が理解できていないのです。待てばいいことがある。という経験なくして待つことはできません。あるいは待たないと目標が実現がしないという経験も必要です。フェイズ2と並行して取り組む課題「待って」はこういう意味があります。

 

PECSを続けると適応行動が増えます

P君が近頃適応行動が増加していることが報告されました。P君は言葉のない子どもです。以前はPECSに取り組んでいたのですが、フェイズ2までしかできないと言う理由で、弁別に進まず、P君の要求はだいたいわかるからという事で自然消滅的にPECSトレーニングは行われなくなったのです。

これはスタッフだけの責任ではなく、学校も家も取り組まないのに放デイだけの時間で何とかなりそうにスタッフには思えないと言う問題があったからです。それでも「コミュニケーションは権利です」を掲げるわが事業所で取り組まない理由はないし、弁別のフェイズ3aもフェイズ1と2の蓄積の上に成り立つのですからあきらめないでがんばろうということを1か月前に確認しました。

そこで、先に書いたP君の適応行動が増えているという報告でした。これまでP君におもちゃをかたずけてから帰ろうと指示すると、大声を上げて反抗していたのが、最近はさっさとおもちゃをかたずけて帰るのを待っていると言うのです。

PECSは、自発のコミュニケーション支援です。自分から相手に伝えると言うアクティブな行動です。自分がはたらきかけて環境が変容していくというのは人間にとって重要な活動です。適切な方法で要求が実現することを知ると、子どもは不適切な方法を行う必要がありません。まだまだフェイズ2のP君にどれだけのことがわかっているのか、私たちには知る由もありませんがPECSトレーニングが始まって確実に適応行動が増えていることはスタッフみんなが認めるところです。

 

大雨警報

今日は府立学校(特別支援学校)は大雨洪水警報が出ているのでお休みです。地域の学校は暴風警報だけが臨時休校でそれ以外の警報は通常扱いです。従って、本日も通常授業です。

大雨洪水警報はたいていは朝方を過ぎると解除されます。朝方の降雨の仕組みは、気温が下がると大気中の飽和水蒸気量も下がるので、夜半以降は気温が下がり雨が降ります。日中は気温が上がるので水分は大気に維持され、前線の影響等がなければ雨は上がります。そんなわけで大雨洪水警報で臨時休校が出た午前中には、ほとんど雨が上がっていることが多いのです。

京都市の支援学校は原則暴風警報のみが臨時休校です。これも、午前8時までに解除の場合は1時間遅れで、午前9時までに解除の場合2時間遅れでバスを運行し、午前9時に『暴風警報』が発令中の場合には,臨時休業となります。こちらの方が午前7時の警報一発休校より柔軟で現実的です。

放デイの休所は、事業所によって様々ですが、大雨洪水警報では、ほとんどは営業しています。小学校も休まざるを得ない暴風警報が出ると、送迎に危険が生じますので臨時休業となるところが多いと思います。そんなわけで本日休校の支援学校の子どもは、自宅から送迎してもらうか、自宅にお迎えに行くかで、すてっぷは営業中です。

障害の重い子どもの報告

Oさんは昨日音楽遊びに取り組んでいました。スタッフに様子を聞くと、いつもの通り取り組みましたという回答でした。言葉がなく移動も不自由なOさんの報告は、ともすれば「~をしました」「ご機嫌でした」「機嫌が悪かったです」というパターンになりがちです。

でも、よく観察すると、大人の持っている楽器を見たり演奏する大人と楽器を見比べたり、楽器を大人と交互に演奏すると、大人の演奏が終わると腕を伸ばしてきたり、もっとやってと視線を送ってきたり、楽しいわーと演奏する人に笑顔を返してきたりと、様々な反応があります。ただ「楽しそうでした」と報告する以上にたくさんの情報があるのです。対人相互性はどうか、コミュニケーションのサインはあるか、新しいものへの興味関心はどうか、等の評価の観点をもってとりくめば、報告する中身は豊かになります。

 

楽しくなくても笑ってしまう

PECS課題をしようとしてもM君はけらけら笑ってスタッフをおちょくっているようで課題に取り組もうとしないという報告がありました。こちらが態勢を整えようとまじめに正してもいう事を聞かず笑ってばかりいるそうです。

同じ話はN君が学校から帰って来る時に、担任の先生が「N君ゲラゲラ笑って調子は良さそうなんですが、私の顔をしょっちゅう叩いてきます」というのがありました。

子どもが笑っている時は、調子がいいんだろうなぁ、楽しいんだろうなぁと思うのは当たり前です。しかし、ASDの人たちの場合、見通しがなかったり、訳が分からなくなっていたり、不快な状況の時に笑ってしまう人がいます。

M君はPECS手続きを身体プロンプトで教え、要求カードを相手に渡すことを思い出したあたりから、行動が穏やかになったそうです。N君も学校で水遊びなど好きな活動をスケジュールに入れることでゲラゲラ笑って叩くことは減ったそうです。

ASDの人たちの混乱時の笑いの原因はよくわかっていませんが、視床下部に笑いのツボがあり、感情中枢の偏桃体とも近いことが何らかの関係をするのだろうと推測されています。

「相手の気持ちをうまく推し量れない」「その場にあった行動ができない」などの症状は、障害が原因であっても、見た目からは判断しにくいため、周りの人から気づかれにくく、理解されないことも多く、周囲からは本人の性格の問題と思われたり、親の育て方がわるいなどと誤解され、本人も家族もつらい思いをすることが少なくありません。私たちは、子どもが笑いながら不適切な行動をとる時、その心理的背景をよく考えていく必要があります。

届かないカード

PECSのフェーズ2は、コミュニケーターが子どもから距離をとってすぐにはカードが渡せない設定で、カードを渡しきるトレーニングです。Lさんは、今まで渡していた机の幅が広くなって、スタッフまで手が届かなくてあと30cmを要求カードを指で飛ばして渡そうとしました。

ASDの対人関係障害に関するスタッフの理解は、こういうときに試されます。「Lさん、うまいこと考えたね~!」なのか「う~ん、表出コミュニケーションは簡単じゃないね」にわかれます。

この場合は、プロンプター(子どもの後ろからハンドリングする人)が身体を押して立たせて腕をもってあげて渡す行為を手伝います。ただ、机が障害になって立つことが分かりにくいので、机の角を使って立って渡しやすくします。徐々にプロンプターは身体や腕を支える力を抜いていき最後は肩を人差し指で触るくらいまでフェードアウトして、自立させていきます。マニュアルにはちゃんと書いてありますが、隅々まで見る人は少ないです。

席をはずすのはいけない事か?

K君が終わりの会の席を立ってトイレに行くことが多くなったという報告を受けました。それまでは黙って参加していたおとなしいK君だったのに席を離れるとはいかがなものかということでした。

K君は言葉があまりわからずPECSを使って最低限の要求コミュニケーションができる人です。ただ、まだ決まった場面でしかiPecs(iPad)が使えません。最近やっと要求することが増えてきたなと感じていました。

そんなK君が終わりの会の途中で席を外してトイレに行きはじめたことについて、不適切と考えるのは、私たちの想像力が足りないのではないかという話をしました。

K君は自分の行動を考え始めたのかもしれません。今までは座れというから座っていた集まりですが、人生初めて「?」となり、座っている意味がわからないと思ったかもしれません。大事なのはこの後スタッフがどう対応するかです。私たちはK君から、これじゃわからんよとクレームをつけられたと考えるべきなのです。ではどうするか、答えは一つではありませんので、機会を見てまた報告します。

こうした方がうまく伝わるよ

スタッフ会議の「あるある」は、子どもの不適切な行動はあれこれ報告し合うのですか、その行動を子どもが起こした後スタッフは何をしたのかという事はあまり報告されません。実際にはここが重要です。「I君がビデオが見たかったので大声を出して壁を蹴りました。」「J君がこの遊びは嫌だと頭を叩きました。」この次が重要なのです。「それで、スタッフのあなたはどうしたのですか?」と聞くと「へ?」という顔をされることが少なくありません。

その後を聞くと「ビデオが見たいの?と聞いたら頷くのでビデオを見せました。」とか、「外に行きたいのだろうと外に連れ出すと頭叩きがなくなりました。」と不適切行動へのNG行動がとられていることが少なくないのです。「I君はビデオをつけてもいいかと大人に聞きたいのですが、適切なコミュニケーション手段がわからないので、皆が気付くように壁を蹴ったらスタッフが振り向いてくれてビデオが見たいことに気づいてもらえてビデオが見られました。」という文脈になります。とすれば次もI君は壁を蹴ってスタッフに気付きを促すだろうと容易に想像がつきます。J君も頭を叩けば嫌な事から逃げられると理解します。次はもっと強く頭を叩けば早く要求が実現すると考えるかもしれません。

この場合にスタッフがとるべき行動は、分化強化を促す(本日のコラム=みんなちがってみんないいに掲載)ことです。確かに不適切行動は、その人にとっては必要な行動ですからそう簡単に代替できるのものではないかもしれません。放デイのわずかな時間で代替行動が定着するほど甘いものではないかもしれません。それでも、あきらめないで、こうした方がうまく伝わるよと教える中で、適切な行動のきっかけを作るのが私たちの役割でだと思うのです。

 

割り算の宿題

G君が「先生手伝って!」と算数の宿題を開きます。見てみると2ケタの余りのある割り算問題。H先生にG君はワーキングメモリーが弱く、空間処理も悪いので筆算の書き間違い読み間違いが多く正解にたどり着くまでに投げ出してしまうので、計算は作業として、電卓でやっているとお伝えしたのですが、説明が足りなかった様です。しかも、普通の電卓では余りが計算できないので、F君は途方にくれていたわけです。あまり計算の電卓は売ってはいます。

カシオ 余り計算電卓 ミニジャストタイプ 12桁 MP-12R-N 価格: ¥1,464 が販売されていますが、答えしか出ず、計算過程が見られません。そこで、筆算も表示する余りのある割り算計算のホームページを探しました。

割り算の筆算

これだと筆算も表示してくれるので意味も分かりやすいです。明日G君に示すとともに、先生や関係者には算数障害についてお話しする必要があると思います。

算数障害(ディスカリキュア:dyscalculia)は、学習障害(LD:learning disability)のひとつです。学習障害は発達障害のひとつで、「聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する」の能力のなかで、特定の分野だけ習得が困難な状態のことを指します。算数障害とは、そのなかでも特に「計算する・推論する」という分野に関して、習得が難しかったり、うまく使えなかったりすることです。特定の分野以外に関しては問題がないことが多く、いわゆる知的障害とは異なります。

知的発達に遅れはないものの、学習面で著しい困難を示す小中学生の子どもは全体の4.5%を占め、なかでも「計算する」または「推論する」分野で著しい困難を示した子どもは2.3%とする調査結果があります。つまり約40~50人に1人の割合で、算数障害の可能性を持つ子どもがいることになります。ここに、読み書き障害が重なることも少なくありません。

算数障害に限らず、学習障害になる原因は、中枢神経系に何らかの機能的な障害があると推測されていますが、現時点では明確にはわかっていません。算数障害の子どもの特徴は、前述したとおり、特に算数に関してだけ習得が著しく遅いことです。文部科学省は、算数だけに小学2~3年生で1学年以上の学習の遅れ、小学4年~中学生で2学年以上の学習の遅れが見られれば、算数に関する学習障害の可能性がある、としています。

算数障害は以下のようなチェックシートが用意されています。
数処理
1 数字を見て、正しく数詞を言うことができない(読み)。
2 数詞を聞いて、正しく数字を書くことができない(書き)。
3 具体物を見てそれを操作(計数するなど)して、その数を数字や数詞として表すことができない。
数概念(序数性)
4 小さい方から「1、2、3…」と数詞を連続して正しく言うことができない(目安として120くらいまで)。
5 自分が並んでいる列の何番目か言い当てることができない。
数概念(基数性)あるいは数量感覚
6 四捨五入が理解できない。
7 数直線が理解できない。
8 多数桁の数の割り算において、答えとなる概数がたてられない。
計算(暗算)
9 簡単な足し算・引き算の暗算に時間がかかる。
10 九九の範囲のかけ算・割り算の暗算に時間がかかる。
計算(筆算)
11 多数桁の数の足し算・引き算において、繰り上がり・繰り下がりを間違える。
12 多数桁の数のかけ算において、かけたり・足したりの途中計算を混乱したり、適切な位の場所に答えを書くところで間違える。
13 多数桁の数の割り算において、答えの書き方や適切な位の場所に答えを書くところで間違える。
文章題
14 文章題の内容を視覚的なイメージにつなげられず、絵や図にすることができない。
15 答えを導き出すための数式が立てられない。

とはいえ、小学1年生が九九の計算ができないのは当然です。学校の授業での進み具合に合わせてチェックすることが必要ですが、未就学の段階では算数障害であるかどうかの判断は難しいのが実情です。

算数障害に限らず、学習障害、さらには発達障害というものは、治療することはできません。しかし足し算や引き算ができないと、日常生活にも影響が出てしまいます。ですから、できるだけ早い段階で、算数障害への対応をとることが大切です。ただし、算数障害がある子どもでも、その特徴は個々によって異なります。それぞれに応じた指導が必要となり、「これ!」という決定的な対応法はありません。

まず子どもに算数障害の疑いがあったら、通級指導教室など実際に発達障害の学習支援を実施している機関に相談します。子どもが集団に適応していると、授業の邪魔にはならないので関係者は障害を疑おうとせず、いわゆる勉強ができない子として見られてしまい発見が遅れます。

学習障害がある子どもの多くは通常の学級で勉強していますが、学校や担任の先生と協力しながら、子どもが理解しやすい方法を模索していく必要があります。具体的な例として、以下のような対応をとると、苦手な分野が学習しやすくなるといわれています。

● 教材の種類や教え方、板書の仕方、ノートの取り方などを工夫して教えること
● 手や指、視覚的な教材を使って数字を認識させること
● コンピューターや電卓などの機器を使うこと

嫌いなわけでも、学習意欲がないわけでもないのに算数ができないのは、子どもにとってもつらいもの。他の子どもと同じような勉強法は合わないことが多いので、できるだけ早く気づいてあげることが子どもの可能性を広げることに繋がります。また算数障害は代数学や幾何学、微積分学のような高度な数学ではなく、基本的な四則演算で症状が現れるものです。そこを上手に支援することができれば、将来的に理系の学習を深めることも不可能ではありません。