今日の活動
我慢をしてルール通りに参加する
ボーリングゲームでA君が負けるのが嫌で残したピンを手で倒したので、倒れるまで投げるように支援したという報告がありました。それは狙いが違うのではないかという話し合いになりました。
負けるのが嫌でズルをしてしまうことについて、その場で指摘すればきっとA君はひっくり返って怒るかもしれません。そして、それは適切な支援とはいえません。だからと言って、何回投げてもいいというのでは何が教えたいの?ということになります。
要は、A君が少し我慢をしてルール通りに参加することが「一番」なのだと教える工夫が必要です。まずは、A君とゲーム前に取引をするのはどうかと言う意見がありました。負けてもズルしなければ、A君の好きなビデオをいつもより10分多く見られるとか、大好きなオレンジグミを10個追加など契約をして臨めばどうかということです。そして、ルールを守った手柄に「えらい!すごい!日本1!」と褒めたたえて、やがては賞賛だけで契約が成立するようにならないかという話をしました。
ただ、ルール遊びが楽しめる小学生同士の課題というならまだしも、青年期になっても負けると嫌な気持ちになると分かっている人に、敢えて勝ち負けゲームを提供するメリットは無いと思います。ならば、こんな話し合いは必要ないと言われそうですが、二者択一のマニュアル対応ではなく、利用者をリスペクトした支援とは何か考え合うプロセスがスタッフには必要だと思うのです。
トイレ問題
帰宅準備をするなど、行動を大きく切り替える際にASDの人たちの中にはトイレなど静かな場所で行動を切り替える準備をする場合があることを以前書きました。「席をはずすのはいけない事か?07/03」や「トランジションカード 07/16」 で話題となった彼は、帰りの促しをすると声掛けだろうが、スケジュール(ワークシステム)だろうがトイレに入ってしまうというのです。
そこでスタッフから、トイレにタイマーを持ち込むのはどうか?5分前くらいからトイレに行かせてはどうか?と提案がされました。「家でも出かける前には長くトイレに入っている」という家族からの聞き取りも示されました。トイレは公共の場所だから独占させるのは良くないと言うのは当たり前です。ただ、当たり前だからといってタイマーをトイレに持ち込むだけで本当にいいのかということです。もしタイマーが通用しないならあとは実力行使しかありません。
その前に、いくつか工夫をして、彼との間で平和的に折り合いをつけるチャレンジがあってもいいのではないかというところで落ち着きました。さてどうなるやら、また報告します。
ビジュアルドライブ(視覚優位?支配?)
魚釣りゲームにあまり気のりしていないZ君にハッスルしてもらおうと、魚の代わりにZ君の大好きな「でこぼこフレンズ」のキャラクターを釣る設定にしました。確かに、でこキャラを釣りつくすまではZ君張り切りましたが、他のスターウォーズキャラや戦国キャラには見向きもせず、「はいおわりー」とばかりに早々とゲーム離脱。以前は気のりはしなくてもたくさん釣り上げようと最後まで参加していたのにと報告がありました。
ASDの人は視覚が優位なので、聴覚から入力した情報よりも視覚から入力した情報の方が優位に働きます。「たくさん釣りましょう!」というスタッフが話した情報よりも、大好きなでこぼこキャラが缶釣り対象となっているので誤解が起こり、「フレンズを全部釣って終わります」という情報に塗り替わってしまったのでしょう。これをASDのビジュアルドライブと言います。
確かに視覚で情報を示した方がわかりやすいのですが、逆に言うと示し方が不適切で、その視覚情報が強すぎて他の情報が吹っ飛んでしまうこともあります。「~してはいけません」を絵にかいて×マークで示すことがありますが、この×マークばかりを示して遠足ルールを説明した結果、「×ばかりだし、もう遠足行かない」と泣き出す子がいるくらい強烈な刺激になることがあります。ビジュアルドライブは、視覚的刺激に支配されてしまうという意味もあるので注意が必要です。
行こうか行くまいか 揺れる心
Y君がゲームをしているときのことです。ゲームのルールにあれこれ注文を付けたり自分の順番を決めたり要求は多いのですが、はたと自分の順番が回って来るとしり込みして「アトニスルー」「ヤラナイ」と引いてしまいます。
子どもの価値観にも発達段階があり、「できる」「できない」に非常に過敏な時期があります。「できるようになりたい」「うまくなりたい」という願いが強くなる時期は、裏返せば周囲の注目が集まったりすると「できないかもしれない」という不安が大変高まる時期でもあります。やがて、小さな成功体験を積んでいくと「もうちょっと、もうちょっと」と自分を励ます力がついていきます。そうすると「まぁまぁ」という中間の評価が受け入れられるようになっていきます。
やってもやっても達成感がない高すぎる課題にさらされていくと、「できないかもしれない」思いが強くなります。「おしかった」「もう一息」の体験を重ねることで、「できるかもしれない」気持ちが育つと思います。
フラッシュバック
X君がしくしく泣いています。どうしたの?と聞くとPECSで「悲しい」「泣いています」と叙述のフェイズ6でしっかり応えてくれました。ただ、原因が思い当たりません。PECSのフェイズ6は叙述ですから、「なぜですか」にも対応はしていますが、ASDの彼にそこまで深掘りして叙述を求めることはないので応えてはくれません。
ただ、これと言った理由がないのかもしれません。感情のスリップ現象とかフラッシュバック現象などと表現されますが、言葉のある高機能の人でも昔感じた負の感情が何かの拍子にわっと押し寄せることがあるといいます。それは酷くいじめられたり、嫌な事や意味の分からないことを強く押し付けられた時の感情だと言います。従って、周囲の人は、そっとしておくしか方法がありません。
「悲しいです」とPECSで教えてくれたX君は、今日もやっぱりトイレで気持ちを切り替えてから、10分後鼻歌を歌いながら帰りの車に乗り込みました。