今日の活動
動画で支援
高等部のK君がボール投げを楽しそうにしていると職員から報告がありました。前々回、初めてボール投げのやり取りをしたけど、ものすごく嫌そうな顔をして、ボールが飛んでくると恐怖の顔色になり無理なのかなという報告がありました。
どうして教えたか聞くと職員の投げたり受けたりする様子を真似るように指示したと言うのです。ASDの人の中には、指示されて人の真似をするのがものすごく苦手な人が少なくありません。「こっち見て」「ここを見て」と大人は言うのですが、「こっちってどこや?ここってどれや」と言葉で言われても人のどこを見て何を真似ていいのかわからないからです。
そこで、ボール投げの動画を見せましょうという事になりました。タブレットの動画は何を見ていいかすぐにわかります。注目点がわからなければ指さしても示せます。前回は、ボール投げの動画を見てK君一発で何をしているのか、どうすればいいのかわかったようで、その後すぐに他の職員と上手にボール投げ・受けができるようになったそうです。
そして今回、最初にうまくいかなかった職員とボール投げをすると、嘘みたいにニコニコして上手にできたという報告となったわけです。最初の段階では、どうしていいかわからないのに、前で職員が「○×△ω」と訳の分からない事をしゃべっているかと思えば、突然ボールが飛んできて顔に当たりそうになって、「怖い怖い」と思ったのかもしれません。今ニコニコしているのは「先週、動画見て良く分かったわ」という安堵と自信の笑顔なのです。百聞は一見の「動画」に如かず・・です。
ちゃぶ台返し2
Iさんとインターン学生(すてっぷではインターン学生を受入れています)でオセロをしていました。どちらも女性で和やかにゲームは進みました。Iさんはいつものんびりとした口調で受け答えをする女子なので、みんなから好かれています。結果は、Iさんの負けとなりました。その途端、Iさんはオセロ板を無茶苦茶にかき回したそうです。
職員は、Iさんでも悔しくて感情を露わにすることがあるんだと、驚きと共にある意味ホッとしました。インターン学生はIさんにオセロ版をかき回した理由を聞くのですが、「やりたくなかった」とぽつりというだけで意味が分からなかったと言います。おそらく「(負けてしまうなら)やりたくなかった」と言いたかったのでしょう。
インターン学生は、こうした時どうしていいかわからなかったと言います。お話ができる子どもなのに突然爆発する感情に驚くことは職員でもあります。こんな時は、感情の表出を否定しないことです。「そんなことしても伝わらない」と否定して言うのではなく、「怒っているのはよくわかったよ」「くやしかったよね」と感情の種類を教えます。
その感情が「悔しい」という事が共有できれば、その表現は「くやしー」「はらたつー」と言えばいいことを教えます。一緒に怒る練習をしてみます。子どものうちに感情全てを内面で処理することは求めるべきではないです。まず、言葉にしてみる事で大人が「そうだね悔しいねぇ」と調整してあげればいいことです。だけど、ボード板をぐちゃぐちゃにするような「ちゃぶ台返し」は禁止ですと教えていきます。
交渉とスケジュール支援
J君がスケジュールを見てプール遊びは嫌なのでキーボード遊びがしたいとキーボードの絵カードを持ってきました。職員はスケジュールをその場で自在に変更するのは問題があると思ったので、プールの後にキーボードと交渉したけれど本人は納得しないので、外に行くのが嫌なのだろうからと推測して、プットイン(作業)課題のあとにキーボードではどうですかと交渉するとOKが出て交渉成立となったそうです。
この場合、職員が子どもの要求そのものは認めて交渉した点では良かったのですが、問題はスケジュール提示です。J君がスケジュールを理解しているのかと聞くと「課題」「おやつ」「課題」の3個提示位くらいは理解していると言います。それに対して「最初に納得した「プール」は嫌だとキーボードを要求している。スケジュールは交渉成立の証文のようなものだから、それを反故にするならスケジュールは成り立たない」という意見が出ました。
でも、スケジュールは理解しているという職員によく聞くと、最初にスケジュールを本人に丁寧には説明していないと言います。もしも、丁寧に説明していたら、その時点でプールは嫌だという行動があったかもしれないと言うのです。以前にもスケジュールは交渉の最終形だと書きました。(スケジュールの間違った使い方: 06/17)(好き好き交渉: 08/23)
絵カードスケジュール支援は子どもの見通しを視覚化することで理解を促すものだという説明が多いですが、それだけでは、子どもによってはスケジュールボードに貼っておけば要求が実現すると思ったり、スケジュールボードから絵カードを外せば回避できると思ったりするASDの子どもは少なくないのです。
こうした誤解を予防するには、しっかりと2枚絵カードで交渉したり、要求物をしばらく待つことを教えるなど、要求と同時に適応行動も教えていく必要があります。その土台がある程度固まったうえでスケジュール支援は成り立ちます。ただ、お互いに了解したスケジュールであっても、大人も子どもも、何かの都合で今はダメだという表出はあって然るべきなので、それを教える段階がいつなのかは議論のあるところです。これは、みなさんに考えて欲しいと思います。
リモート職員会議
NPOホップすてーしょんは、二つの事業所があります。主に子どもの遊びや生活から療育アプローチをする「育ちの広場 すてっぷ」と、発達障害のある就学前の子どもたちと、学習障害のある小中学生の学習から療育アプローチする「学びの広場 じゃんぷ」があります。この二つの事業所には4人づつの正規職員がいて、月に一度リモートで職員会議を行っています。
この職員会議では8人の職員が実践の紹介や教具の交流をして、働く場所は違うけど、発達障害の支援コンセプト、志は同じであることを実践交流を通じて共有しようとしています。二つの事業所の療育の形態は違っても目指していることは同じだと言うのは簡単ですが、お互いの生の実践を知らなければ気持ちは離れていくものです。
リモート会議の資料にペーパーは全く使いません。基本はパワーポイントによる写真や動画のプレゼンテーションで実践を交流します。プレゼン時間は一人5分と制限していますが、いつもみんなオーバーランして話してしまいます。今日は読み書き障害のある子どもの音読法の動画紹介、作文が苦手な子どもにマインドマップを使う実践、就学前療育に感覚統合の取り入れ方、ローマ字指導に効果的なICTアプリの紹介、食事や作業のワークシステム支援と、これだけで論文が数本書けそうな中身です。
これまで、会議と言えば長々と話すことがスタンダードとされてきましたが短時間で動画等を見せてもらったほうがはるかにわかりやすいです。百聞は一見にしかずは子どもに限ったことではないです。できるだけ「見せる交流」を進めていこうと思います。
スナックタイム改めコミュニケーションタイム
Hちゃんのスナックタイムを動画で撮り検討会をしました。Hちゃんには言葉だけでなく機能的なコミュニケーションスキルが確立していないので周囲の大人がHちゃんの気持ちを読み取って日常生活を送ることになります。最近は職員が差し出した二つゼリーの一つを指で触れて選んでいるような仕草が見られるという報告がありました。
今回の動画では選ぶ場面は撮れず拒否の場面でした。職員が喉が渇いたただろうと慮ってスプーンでお茶を口に運ぶと、大きく口をひらいて受け入れるのですが、そのあとすぐに口からお茶を出しています。次に勧めてもコップをはねのけて拒否しているようです。では、何故口を開いたのか議論になりました。
この前のシーンで市販のボトルからコップに注いでいる様子をHちゃんは見ているので、好きなジュースと勘違いしたから口を開けたとする意見と、Hちゃんはスプーンを口元に近づけると反射的に開けてしまう癖があるという意見です。いつも職員から嫌そうに見えても勧めれば食べますというふうに誤解されているのはこの癖のせいだと言うのです。
一旦食べたものを口から出したりしなくても、いらないという意思が見えたならやめるべきだと話し合いました。何より、おやつの時間は「おやつを食べなくてはならない時間」ではないということです。すてっぷでは食べるのがとても早い子も半数以上いるので、どうしても早い子どもに日課の速度が引きずられがちです。
けれどもHちゃん達にはこの速度は早すぎてついていけないから、わざわざマンツーマンにしてゆったり表情を見ながら、食の時間を過ごせるようにしているのです。他の子どもに合わせて慌てる必要は全くないのです。そもそもスナックタイムと言うネーミングがいけないという事になり、おやつを用いたコミュニケーションタイムとして考えようという事になりました。
いるい・いらない、これほしい・あれがいや、ちょっと一服、また欲しくなった、と様々な表情や動作を読み取ってやり取りをするコミュニケーションタイムとして考えれば、もう少し本人の気持ちが尊重される時間になるのではないかと思います。おやつは残したって全くかまわないですが、気持ちは全てかなえてあげて欲しいのです。きっとそれが、適切な機能的コミュニケーションにつながっていくはずです。
依存性とマンツーマン体制
Gさんに職員が近づき過ぎたためか、Gさんが職員の手をずっと握りしめてしまい離れる事ができずに困っていました。不安傾向の強い人の中には、必要以上に介助したり近づきすぎると、自分をすべてその人に預けて離れなくなってしまう事があります。
職員には、本人の不安は伝わりますから無下に手を振りほどくわけにもいかず、子どもが職員の手を持って自分の手の代わりをさせるという「逆二人羽織状態」が続きます。こんな場合は、支援者が交代すれば比較的スムースに依存状態がリセットできます。依存されていた職員は、「お仕事なので行くね」と、本人の視界から外れる仕事をしたり外出したりするのが効果的です。
そして、次の支援者は机をはさむなどして距離を保ちながら作業や課題を提示していきます。また、障害の重い方が多い事業所や支援学校現場では、マンツーマンの体制を組みがちです。これが依存性の高い人たちの自立行動の障害になっていることが少なくないことを知っておくことも大事です。
支援体制を組む人は、できるだけマンツーマンではなく利用者と職員の体制を、依存度の高い人を含めた複数の利用者を複数の職員で対応するような支援設定が必要です。職員の担当を利用者1名だけにしておくと、その人だけ支援する動きになりやすく、せっかく集団指導をしているのにマンツーマンの二人が孤立している事が少なくないのです。該当職員が支援に行き詰った時は、2番手3番手の職員がフォローしていく支援体制が、子どもの自立を促す土台となります。
下手なのに好き??
小学生でバレーボールをしました。最初は男子だけでレシーブの練習をしていました。それをEさんが見ていて、「あたし、それ知ってる。小6で少し教えてもらった」と男子の中に入って夢中で取組み始めました。知っているとは言っても、ほとんど経験がないようでレシーブしたボールはあっちこっちへ飛んでいきます。それでもEさんは楽しそうに遊んでいます。
それを見ていたF君が「へたくそなのになんで面白いかな??」と職員に呟きました。「なんでやと思う?」と職員。「わからん!下手やったら俺は絶対おもろない」と言い残して輪の中に戻っていきました。F君は別にEさんが輪の中に入って迷惑だと言っているわけではないのです。下手なのに何故楽しそうにみんなと遊べるかが不思議で仕方がなかったのです。
職員がこんな時はどう応えたらいいのだろうと職員会議で話しました。あれこれ説明せずに、「良いことに気が付いたね」と言って、自分と違う人に関心を持ち、人はみな違うという気づきを褒めてあげればいいと話しました。ここで、Eさんの下手でも皆と遊ぶところが偉いとか、勝つことだけがゲームの楽しさではない、と野暮なことを話しては、高学年にはNGだと話しました。
勝ち負けばかりにこだわっていたF君が、ニコニコして下手バレーに取り組むEさんに関心を持って、「何が楽しいねん?」と気づいたことを職員みんなで共有し見守っていけばいいと思います。子どもの遊びって子どもの新しい気づきが発見できるので、いつも新鮮な気持ちになります。
好き好き交渉
1年のD君の絵カード理解が進んできました。タブレットの要求。好きな種類のジュースの要求。外出の要求。と区別ができます。では、そろそろ「交渉初級編」に入る必要があります。
交渉を教えましょうと言うと、嫌なことの次に好きなことを強化子にして「~したら~」を示し子どもとトラブっている現場あるあるをよく見ます。順番に絵カードを並べるだけで交渉を理解する子もいるのですが、全く分からない子もいるのです。この場合は、最初に教える交渉の段階は、君の要求したものは後から必ず来るよという事がまずわからないと成立しません。
せっかく好きなジュースを頼んだのに、嫌いな野菜を食べてみませんかと示されたら、いくら好きなジュースが後に示されても応じる事ができません。というか、後にジュースが来ることはこの段階では理解していませんから、野菜を食べるくらいならと拒否するしかありません。これでは交渉の初級指導は失敗です。
交渉の初期は、まずは好きなものとのトレードオフです。好きなジュースとまぁ好きなジュースとか、好きなタブレットゲームとまぁ好きなタブレットYoutubeとか、まぁ、それならいいけどと本人が受け入れられるものを示します。そのあとで本人のものが来たら、そのうちに要求したものが後に示されているカード表示の意味、交渉の意味を理解していきます。
交渉の絵カード指示の意味がわかれば、徐々に本来の交渉に入っていきます。絵カード要求は分かるのに交渉ができない場合の躓きは、ほとんど「嫌い好き」提示で生じています。まずは「好き好き」提示から交渉に入っていけばうまくいくはずです。
小学生の悪態への対応
小学生集団がゲームをしていてC君があまりにうるさいので、職員が「レベル2の声※でお願いします」と正したそうです。それに腹を立てかC君は「俺はこの声しか出えへんし!」と悪態をついたそうです。「その後、どう指導をされましたか?」と聞くと、自分は距離を置いた方がいいと思って、口ごたえをスルー(無視)したというのです。
スルーを繰り返すとどうなると思うか職員で話し合いました。効果のある無視は本人が職員を引きつけたい注意喚起の場合に限るので、この場合は職員を避けたい言動なのでかえって悪化してしまいます。つまり、悪態をつけば職員が黙って離れていくという理解になるからです。
おそらく、職員の言い分は単なる無視ではなく、自分が腹を立てしまい冷静になれないので子どもと距離を置いたと言われたのだと思います。ただ、そうであるにしても、子どもの行動の原因は職員の言動がスタートですから、今更スルーはできません。子どもは職員の注意行動を避けたいから悪態行動を繰り返しているのです。そこで職員がスルーしてしまえば子どもの悪態行動を強化することになります。
ここは、セオリー通り、悪態をついても職員の注意行動は終わらないという、行動の弱化を行わなければいけません。同時に、この事態を解決するには「こうすればうまくいく」方法を子どもに教えて強化します。つまり適切な分化強化を行うのです。ただ、職員が冷静でいられないなら、第三者の職員を入れます。
「二人とも、こちらに来てください」と別の職員が登場して、双方の言い分を公平に聞きます。そして、現在のお互いの誤解を解いたうえで、今後は注意する人は何のために声を下げて欲しいのか説明して注意すること、注意された方は、それに気づかなかったことを詫びて指摘に対しては「教えてくれてありがとう」と答えれば「わかってくれてありがとう」と職員からもお礼ができることを話します。
そして、念のために同じようなことがまた起こったら、今回のように第3者を入れて解決する手続きを約束します。最後に、今日の解決ロールプレイをして終了です。家庭では、第3者がいないこともあるので難しいかもしれませんが、学童保育や学校では、このやり方で解決できることは少なくないと思います。
ASDの人の場合は、他意がないのでこのやり方が理解してもらいやすいです。愛着の課題が大きい人の悪態は、注目が目的ですからこれではうまくいかないことが多いのですが、適切な方法ならば、受け入れられて注目をしてもらえるという意味で分化強化の原理は同じです。
※レベル2の声:すてっぷでは声の大きさのフィードバックができるようにレベルメーターを示して指導しています。
多様性社会と自発性
A君がマイクラでマルチプレーをしようと呼び掛けて子ども4人で遊びました。3人は小学生、一人は支援学校中学部のB君です。A君が自分の番号を口頭で言ったのでみんなA君のワールドで遊びはじめました。ところが、B君はつまらなそうに自分のワールドで遊んでいます。どうやらA君の番号を聞き逃したようです。B君はマルチプレーのやり方は心得ているし他の子どもたちのマイクラスキルと変わりません。なのに、A君に番号を聞くことができないのです。
これまでのすてっぷでは、小学生は小学生同士、支援学校生は支援学校生同士で遊びを組織していることが多かったので、子どもを所属校で分けないで、できるだけ遊びを共有することを大事にしようという療育方針にしたのです。変えてみると、意外と子どもは一緒に遊べるし、一緒を前提にする中で工夫も生まれるのです。以前、小学生らが支援学校生を下に見るような発言が聞かれたのですが、最近は支援学校生の行動についての理由を職員に聞くことが多くなりました。これは、小学生たちが障害特性を理解しようとし始めたと考えています。
B君は、小学生と同じマイクラスキルは持っていても、困ったことを友達に聞いて解決するというソーシャルスキルを学ぶ機会がなかったのです。支援学校の子どもはどうしても大人の距離が近くなり、子どもが困る前に大人が手を差し出してしまう事が多く依存的になり、自発性や自立性が育ちにくいです。今回も職員が「何か困っているの?」と聞かれるまで自分でどうしていいかわからなかったようです。早速、A君にも協力してもらって、遊びで困ったときのロールプレーをすることにしました。
「A君、僕番号がわからないから教えて」「いいよ○○××だよ」「○○××だね。」「選択して僕のワールドに入れた?」「うん入れた。助かったよ、ありがとう」というロールプレーを次回は準備して取り組みます。インクルーシブな遊び環境の中でB君らの社会参加の可能性を探っていきたいと思います。
性衝動の対処法
Z君が全裸になって床に寝転がっていたので、服を着せて座らせたと言います。おそらくマスターベーションがしたかったのだと思います。言葉で意思疎通できない人のマスターベーションの考え方については(マスターベーション: 2019/11/28)で掲載しました。
「座らせて、それからどうしましたか」と職員に聞くと、何か気をそらせるものを探したそうです。「裸で寝転がって職員が来たら服を着た」つまり、職員が来るまでは裸で寝転がってもよいと伝わりませんかと質問をすると、「でも、服を着せないわけにもいかないし」と話しがかみ合わなくなりました。
「やり直し」を教える必要があると話をしました。Z君はマスターベーションがしたいのですから、「マスターベーションがしたいです」カードを職員に示す行動が必要です。Z君は絵本が見たいとかジュースが欲しい等、PECSで言うとフェイズ3bまでできる人です。それなら「マスターベーション」も要求できるはずです。
でも、事業所ではできませんからおうちの絵とマスターベーションの絵を示して「おうちに帰ってします」と絵で伝えます。これは交渉なのです。ただ「ダメ」ではなく、ここではだめだが家ならいいよと伝えるのです。すぐには伝わらないかも知れませんが、「ダメ」の繰り返しでは介入の「ダメ」だしが出るまで続けると思います。要求と言うのはかなわない時もあります。しかし、双方が意味を共有しあうことからしか何も始まりません。視覚支援を使った交渉はそのために行います。
同じように、Z君は女の子にも興味があります。何かの拍子にタッチしたり抱きついたりします。これも、職員が「ダメ」と止めに入るだけでは、職員の介入があるまでは良いと誤解されてしまいます。「~さんを触りたい」とはさすがに絵カードに示せないので「~さんと遊びたい」に変えてやり直しして、ボール投げや対面ゲームならできることを示します。しかし、これは相手の気持ちもあるので必ず実現はしませんがその時は「また明日遊ぼう」と交渉します。
以前、Z君が女子によく触れるようになったので、女子と一緒に外出してボール遊びなどを意識して取り組んでいました。そのうちに、Z君の触る行動の頻度は減りました。ところが、「のど元過ぎると・・・」で取り組まなくなることや、この雨続きで暇も重なり思い出したように再現しているようです。とにかく早く雨やんでよ!これはみんなの願いです。
グッド・ドクター 名医の条件
大工殺すにゃ刃物は入らぬ。雨の三日も降ればよい。「大工」が左官屋や土方になったり、的屋(テキヤ:露天商)が入ったりしますが、新たに「放デイ」も仲間入りです。先週からずっと雨で来週も中ごろまで雨マークが続いています。「どーしましょ」と職員は嘆きます。
雨の間隙をついて公園に出たりしますが、間もなく土砂降りにやられて帰ってくるという繰り返しです。その上、今週までとなっていた蔓防期間が9月12日までの緊急事態措置にバージョンアップされ、小学生が楽しみにしていた科学館見学も臨時休館で延期になり踏んだり蹴ったりです。
雨が降ると、傘がさせなかったり足元が不安定な人の外出は控えがちになります。体育館も休館なので体を動かすことが一番のストレス発散になる子どもに雨天時の休館は大迷惑です。小学生のある利用者は、利用日以外は母親と一緒に開けても暮れても韓流ドラマだとぼやいていました。
そういう筆者もこのお盆休みの4日間はドラマ漬けでした。2018年にフジテレビで放映された「グッドドクター」は山﨑賢人が高機能ASD医師の新堂湊を演じましたが、これは2013年の韓国KBSテレビの原作ドラマのリメイクです。今回観たのは同じく原作韓国版をリメイクしたアメリカバージョンです。
自閉症の描き方は、日本版のものは一部の自閉症の人にあるぎこちない動作の誇張が強すぎて嘘っぽいです(これはドラゴン桜の健太(細田佳央太)でも同じ演出でした)。アメリカ版は、ASD者によくある対人理解が難しい時の「フリーズ」を演出していてリアルです。また、ASDの人の忖度が欠落した「合理的」言動と非ASD者との軋轢を描いたドラマ展開もおもしろいです。日本版のエピソードは10回ですが、原作は20回、アメリカ版は58回もあるので、ちょっと気が遠くなっています。早く雨がやんで、ドラマの続きなんか忘れて、子どもたちと一緒に川に飛び込みたいものです。
通じ合うための工夫
Y君が通所時にオムツからパンツに履き替えてくれなかったので事業所で履き替えるようにしてほしいとの連絡がありました。Y君は言葉はうまく通じませんが、最近二つ提示の絵カードスケジュール支援がわかるようになってきた子です。好きなタブレットで遊んでいる時も、「勉強→タブレット」と二つの絵を示すと、タブレットを置いて学習机に向かえるようになっています。
絵の二つ提示は「交渉」の初期段階のトレーニングです。「~したら~(強化子)」という交渉で今していることを中断して指示に従う交渉です。これが、様々な場面で受け入れられるようになると、次は時間や時間がわからなければトークンで強化子を待つトレーニングをしていきます。こうした絵カードによる交渉ができるようになってからスケジュール操作を教えていきます。
今回の家庭での拒否はY君のいつもの手順と違ったのかもしれません。何か朝のルーティンが欠けたりしてもY君は「違うでしょ」とは言えないので、その後の指示「パンツをはいて」を拒否したのかもしれません。例えばこの時に好きなものを示して、「パンツはいたら~」と提示したらどうなったでしょう。
お互いに確認しあうものがなければ交渉はもちろん分かり合う事すらできません。言っても理解できないなら見せたらできるようにならないか工夫が必要です。家庭で絵カードに取組んでみると意外に本人の考えていることがわかるようになったという報告は少なくありません。いつでもどこでも分かり合えることを目指し、手話と同じように絵カード利用も「コミュニケーションは人権です」と広げていきたいと思います。
ちゃぶ台返し
Xちゃんが、お弁当をひっくり返したそうです。お弁当はいつも完食なので職員は再び促したそうですが、今度は机をひっくり返そうと机の下に手を入れたので、手を合わせてごちそうさまをしたそうです。でも、それだと、お弁当をひっくり返せばお弁当が終了できると教えたことになりますねと質問すると、手を合わせることで、終わりを教えたことになると思ったそうです。
手を合わせるのは、確かに食事終了の合図にはなりますが、それはいつもしていることで、「お弁当ひっくり返し」の「やりなおし」とは本人は認識しません。再度お弁当をひっくり返した理由を尋ねると、お弁当にあったひじきは好きだからそれが原因とは思わないとか、お隣の子のお弁当がおいしそうでジェラシーを感じてひっくり返したとか、いろいろな大人の推測が話されました。
「いえいえ。聞きたいのは直接の理由です」と話を戻してもらいました。おそらく、本人は身近な人ならわかる「いらない」サイン(手を合わせる)を出していたかもしれないのですが、担当者が見落としたか親切心かでさらに促したのだと思います。それを拒否する術を持たないXちゃんはお弁当をひっくり返して終わりにしたのだということです。
今回のやり直しに必要な手続きは、「いらない」を教える事です。誰にでもわかるように「NO」とか「×」とか書いたカードを準備してそれを渡せたら、「わかったよ」ごちそうさましようねで「手を合わせる」のです。いらない時はお弁当箱をひっくり返さなくても良いことを教えます。そして、Xちゃんの課題がわかったので、今後は部分的に嫌なものがあるときはそれを食器から出して「いらない」カードを示すなどして、全部ひっくり返さなくても良いことを教えていきます。
まず支援のスタートは、Xちゃんは好き嫌いはほとんどないのだから、完食の支援は必要ないことを職員全員で確認をします。そして、Xちゃんにはコミュニケーション障害があって、うまく表現ができないことを念頭に置いて、どうしたら食べるかよりも、どうしたらいらないを穏やかに表現できるかを考えて、これを集中的に支援することが療育目標の優先課題であることを確認しましょうと話し合いました。
何気ない子どもの声から知ること Y先生のじゃんぷ通信6
『折り紙をしたい』という何気ない声から知ること Y先生のじゃんぷ通信6
放デイ「じゃんぷ」では,個別の学習指導の後に,自分のしたいことを取り組む「自立学習」の時間を設けています。
小学3年生の男の子が,毎回『折り紙をしたい』と希望を出してきます。
学校の特別支援教育コーディネーターをしている時に,よく保育所や幼稚園に教育相談として行く時があり,折り紙の時間をよく見ていました。いろんなことを取り入れて先生たちは折り紙を取り組みます。「折り目は指先でギュッと折れているかな」「折る時に端と端を合わせられるかな」「折り目を3回ぐらい繰り返してできるかな」「見本をちゃんと見れるかな」「先生の指示に合わせられるかな」等いろいろな力を子ども達も見せてくれます。
小学生になると,また違った視点で折り紙を考えています。
折り紙の本に写真があるから,それを見てできるだろうと思ってしまいがちですが,見るだけではうまく折れないことが多いです。そこで順番に注目させたり,わかりやすい言葉を添えて折るようにヒントを出したりします。
目で見るという作業は「同時処理」思考になります。折り紙を順番に折る時には「継次処理」思考が必要になります。子どもによって(大人もそうですが)このどちらが得意か違ってきます。この小学校3年生の男の子は,物事を順番に処理していく(継次処理の)力が伸びて行くと学習にも取り組みやすくなります。男の子が「折り紙をしたい」といった時に,どんなヒントを用意し,「できた」自信をもつことができるようにするかにかかっているように思います。
「だましぶね」の途中までを順番に折るように伝えて,何枚も折ってもらいました。最後の仕上げは大人で仕上げて,友達にプレゼントする作戦です。途中までは継次処理で分かりやすいので一人でも折れます。慣れてきたら難しい最後の部分を折っていきます。友達に使い方の面白さを伝授するのも継次処理の力と言えます。この力を支える取組にしたいと考えています。“たかが折り紙 されど折り紙”というわけです。
夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5
夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5
夏休みも後半に入ってきました。
放課後デイに通ってくる子ども達(中学生も)の悩みのタネになるのが「読書感想文」や「新聞づくり」です。宿題の最後に残ってきます。発達障害をもつ子ども達にとっては最も苦手な内容になります。それは読書感想文一つとっても、それを書く時には「読む」「内容を知る」「何を書くか選択する」「文にまとめる」「書く」等の作業を頭の中ではしないといけません。これをうまく整理したり、順序だてたりすることがうまくいかないからです。それができたとしても、最後のところで「思い出して」書く、手指のぎこちなさに苦労しながら書くことが大きな壁になります。
「じゃんぷ」ではマインドマップという方法を使って何人か読書感想文を書いたり、新聞づくりの構想を考えたり、夏休みの思い出の作文を書いたりしています。マインドマップというのは頭の中で行っている思考プロセスを「見える化」して、思考の整理や今からしようとしていることを整理するのに役立つ方法です。一緒にホワイトボードに思いついたことを「話すだけ」、順番に話したことを「図にするだけ」、整理された内容を「書くだけ」と作業を一つにしぼって実行します。
そうすると、「こっちのことを先に書きたい」とか「ちょっと言い方(表現)を変えて書いといた」等自分なりの工夫やアイデアが浮かんできます。
「読むのがイヤ」「書くのがイヤ」「なんて書いたらいいか分からないからイヤ」と思いがちな宿題も、実は頭の中の思考を整理することの悩みだったといえます。
座り込む子
W君が公園に外出した時,建造物の隙間からお気に入りの幟旗が向こうに見えたらしく,排水路を行こうとしたので職員が止めると,何で止めるねん俺はあそこに行きたいねんとばかりに,手を引く職員に抵抗して道端に座り込んでしまったといいます。それでどうしたのと職員に聞くと,てこでも動きそうにないので車を出して公園に移動したということでした。
言葉のないW君に私たちはどうすればよかったのでしょう。小さな子どもでも要求が叶わないと道端に寝転んで金切り声を上げて抵抗している姿をよく見ます。W君は小柄ですが15歳,中3です。支援者の実力行使ではなく,なんとかしてこの行動を変容できないものか会議で話し合いましたが,良いアイデアが浮かばないと言います。
彼が座り込むのはこれまでの経験上,座り込めば何度か要求が叶ったのかも知れません。これは間欠強化(部分強化)の法則と言って,ご褒美がいつももらえるよりも、もらえるかどうかわからない状態にしたほうが、「ご褒美をもらおうとする行動が、長続きしやすい」ことをあらわす法則です。ギャンブルにはまり込むのもこの法則なのでギャンブル法則とも言います。
でも,ギャンブルにはまっている人に強制力で禁止しても,それで良い方向には向かわないのは常識です。強制力がない時や少ない時に一気に実現するなどの荒業に出てくるのです。今はいいかもしれないけど,その先を見て支援しようと言っているのはこのためです。また,支援者による対象者への強制行動は支援者自身を強化してしまいます。つまり,対象者が従わなければどんどん強い強制力を使うと言うバースト現象を生じさせる可能性があるのです。
今回は,W君についての解決アイデアはあえて示しませんでした。無理だと諦めるのは簡単ですが,工夫をすることは言葉を持たない障害のある人たちと共生していこうと言う人権へのリスペクト行動だと考えています。あきらめないで工夫していきたいと思います。
奇声を減らす支援
奇声も様々ありますが,一つは自己刺激で「ウーウー」と唸るような低い声が長く続くもの,もう一つは周囲の人がびっくりするような大声で「キャー」というような奇声です。唸るような奇声も体が大きくなってくると周囲の人にはかなり耳障りになります。ASDの人の場合,相手が驚いていたり不快だと感じているの事が理解しにくいので,やめてと怒ってみても通じないことが多いです。
でも,最初の頃はコミュニケーションがうまくできなくて奇声を上げて注意喚起して,大人の注目を集める方法として機能していたかもしれません。この場合に有効なのは言葉以外のPECSなどの代替コミュニケーションです。奇声を上げなくても伝わるという事を気長に取り組んでいく中でだんだん奇声がなくなったという経験談は良く聞きます。
ただ,自己刺激の場合の唸り声は難しいです。よく観察してみると暇なときに意識を覚醒するために声を響かせている様子が少なくありません。もしそうであるなら,他の自己刺激グッズ,例えばスライムなどふにゃふにゃ・ふわふわしたものを触るとか・噛み噛みグッズで口唇感覚や顎感覚に働きかけ,他の感覚刺激で代替できないか考えます。
映像やゲームなど興味のあるものを増やすことも意識を覚醒しますから有効かもしれません。よく,声を出すのは「~さんにも言いたいことがあるのだから聞いてあげましょう」というような話をする人もいますが,毎日過ごす家族にとっては,近所迷惑もあり家族のストレスの原因になりつらい場合があるのですから,積極的に代替コミュニケーションや代替感覚のアイデアを一緒に考えることが必要だと思います。
カームダウンエリアは世界の常識
V君が顔を真っ赤にしてプンプン怒って職員に訴えてきました。パソコンのUSBマウスが反応しないと言います。「そうか,使えないマウスもあるから全部試してみてね」と職員が言うと,余計に大きな声で「全部試した!」と叫びます。仕方がないので,V君のパソコンをみると,そもそもUSBのプラグをパソコンのLANジャックに突っ込んでいました。『そら動かんわ・・・』と職員。
「V君。ちょっと頭冷やしてきた方がいいね」と職員は今説明しても理解できないだろうからと,カームダウンを勧めました。「わかった」とその場から離れました。少しして落ち着いた様子でV君が帰ってきたので「さっきの自分のこと振り返ることできるかな」と聞くと,「マウスが動かへんから,マイクラできないと興奮してパニクって,他のマウスを試すこともジャックの位置が違う事も調べんかったけど,どうしようもないから嘘ついた」と言います。
「よく自分の事が振り返れてすごいなぁ。V君良くわかっているんだね。でも学校でもこんなことあるよね。どうしてるの?」と職員が聞くと,「俺,パニクりそうになったら,教室から出て頭冷やそうとするねん」「おお,すばらしやん」「でもな,先生がどこ行くねんって止められるから,余計にごちゃごちゃになるねん」とのことでした。
「そら,先生に事情を説明しなあかんわな。『頭冷やすからどこどこに行くけどいいですか』って言わなあかんわな」と話しながら職員は,『今時,カームダウン支援を知らない先生がいるのだろうか』と思ったそうです。カームダウンすれば,大人が何も示唆しなくてもこんなにクリアに振り返りができるのですから,カームダウンエリアを用意してあげて欲しいものです。東京五輪のような大それた部屋でなくていいのです。廊下の物陰でも教室の片隅でも人の視線を感じない工夫がしてあるだけでいいのです。よろしくお願いします。
東京五輪・パラリンピックピクトグラム(絵文字)の「カームダウン・クールダウン」
オリンピック興味なし
小学生らに聞いてみました。「オリンピックみんなかっこいいよね」と聞くと「えー俺興味ないし~」と水泳教室に長年通うR君のつれない反応です。「私はスポーツと聞くだけでいやな気持になる」とSさん。「そうかなぁ、スケボなんかめっちゃかっこいいと思わん?」と聞く職員に、みんな「別に~」と言う反応。
筆者が子どもの頃にはメキシコ五輪で塚原光男が「月面宙返り(ムーンサルト)」を決めては心躍り、ミュンヘンでの男女バレーボールの金銀メダルアベック獲得で涙し、札幌五輪の笠谷幸生の大ジャンプを真似て机から飛び降りて怪我をする男子が続出する等、思い出がたくさんあります。
でも、この子たちは興味がないのです。R君などは「お気に入りのアニメが延期になって腹が立つ」くらい嫌いだそうです。T君などは体操クラブで練習しているのに、体操男子で橋本大輝が個人で金2つを受賞したことすら知らないのです。筆者も決して運動全般が得意だったわけではありませんが、この興味の落差は何だろうと首をかしげています。まぁ、子どもたちは、「おっちゃんら何興奮してんの?」と思っているでしょうが…。