今日の活動
性衝動の対処法
Z君が全裸になって床に寝転がっていたので、服を着せて座らせたと言います。おそらくマスターベーションがしたかったのだと思います。言葉で意思疎通できない人のマスターベーションの考え方については(マスターベーション: 2019/11/28)で掲載しました。
「座らせて、それからどうしましたか」と職員に聞くと、何か気をそらせるものを探したそうです。「裸で寝転がって職員が来たら服を着た」つまり、職員が来るまでは裸で寝転がってもよいと伝わりませんかと質問をすると、「でも、服を着せないわけにもいかないし」と話しがかみ合わなくなりました。
「やり直し」を教える必要があると話をしました。Z君はマスターベーションがしたいのですから、「マスターベーションがしたいです」カードを職員に示す行動が必要です。Z君は絵本が見たいとかジュースが欲しい等、PECSで言うとフェイズ3bまでできる人です。それなら「マスターベーション」も要求できるはずです。
でも、事業所ではできませんからおうちの絵とマスターベーションの絵を示して「おうちに帰ってします」と絵で伝えます。これは交渉なのです。ただ「ダメ」ではなく、ここではだめだが家ならいいよと伝えるのです。すぐには伝わらないかも知れませんが、「ダメ」の繰り返しでは介入の「ダメ」だしが出るまで続けると思います。要求と言うのはかなわない時もあります。しかし、双方が意味を共有しあうことからしか何も始まりません。視覚支援を使った交渉はそのために行います。
同じように、Z君は女の子にも興味があります。何かの拍子にタッチしたり抱きついたりします。これも、職員が「ダメ」と止めに入るだけでは、職員の介入があるまでは良いと誤解されてしまいます。「~さんを触りたい」とはさすがに絵カードに示せないので「~さんと遊びたい」に変えてやり直しして、ボール投げや対面ゲームならできることを示します。しかし、これは相手の気持ちもあるので必ず実現はしませんがその時は「また明日遊ぼう」と交渉します。
以前、Z君が女子によく触れるようになったので、女子と一緒に外出してボール遊びなどを意識して取り組んでいました。そのうちに、Z君の触る行動の頻度は減りました。ところが、「のど元過ぎると・・・」で取り組まなくなることや、この雨続きで暇も重なり思い出したように再現しているようです。とにかく早く雨やんでよ!これはみんなの願いです。
グッド・ドクター 名医の条件
大工殺すにゃ刃物は入らぬ。雨の三日も降ればよい。「大工」が左官屋や土方になったり、的屋(テキヤ:露天商)が入ったりしますが、新たに「放デイ」も仲間入りです。先週からずっと雨で来週も中ごろまで雨マークが続いています。「どーしましょ」と職員は嘆きます。
雨の間隙をついて公園に出たりしますが、間もなく土砂降りにやられて帰ってくるという繰り返しです。その上、今週までとなっていた蔓防期間が9月12日までの緊急事態措置にバージョンアップされ、小学生が楽しみにしていた科学館見学も臨時休館で延期になり踏んだり蹴ったりです。
雨が降ると、傘がさせなかったり足元が不安定な人の外出は控えがちになります。体育館も休館なので体を動かすことが一番のストレス発散になる子どもに雨天時の休館は大迷惑です。小学生のある利用者は、利用日以外は母親と一緒に開けても暮れても韓流ドラマだとぼやいていました。
そういう筆者もこのお盆休みの4日間はドラマ漬けでした。2018年にフジテレビで放映された「グッドドクター」は山﨑賢人が高機能ASD医師の新堂湊を演じましたが、これは2013年の韓国KBSテレビの原作ドラマのリメイクです。今回観たのは同じく原作韓国版をリメイクしたアメリカバージョンです。
自閉症の描き方は、日本版のものは一部の自閉症の人にあるぎこちない動作の誇張が強すぎて嘘っぽいです(これはドラゴン桜の健太(細田佳央太)でも同じ演出でした)。アメリカ版は、ASD者によくある対人理解が難しい時の「フリーズ」を演出していてリアルです。また、ASDの人の忖度が欠落した「合理的」言動と非ASD者との軋轢を描いたドラマ展開もおもしろいです。日本版のエピソードは10回ですが、原作は20回、アメリカ版は58回もあるので、ちょっと気が遠くなっています。早く雨がやんで、ドラマの続きなんか忘れて、子どもたちと一緒に川に飛び込みたいものです。
通じ合うための工夫
Y君が通所時にオムツからパンツに履き替えてくれなかったので事業所で履き替えるようにしてほしいとの連絡がありました。Y君は言葉はうまく通じませんが、最近二つ提示の絵カードスケジュール支援がわかるようになってきた子です。好きなタブレットで遊んでいる時も、「勉強→タブレット」と二つの絵を示すと、タブレットを置いて学習机に向かえるようになっています。
絵の二つ提示は「交渉」の初期段階のトレーニングです。「~したら~(強化子)」という交渉で今していることを中断して指示に従う交渉です。これが、様々な場面で受け入れられるようになると、次は時間や時間がわからなければトークンで強化子を待つトレーニングをしていきます。こうした絵カードによる交渉ができるようになってからスケジュール操作を教えていきます。
今回の家庭での拒否はY君のいつもの手順と違ったのかもしれません。何か朝のルーティンが欠けたりしてもY君は「違うでしょ」とは言えないので、その後の指示「パンツをはいて」を拒否したのかもしれません。例えばこの時に好きなものを示して、「パンツはいたら~」と提示したらどうなったでしょう。
お互いに確認しあうものがなければ交渉はもちろん分かり合う事すらできません。言っても理解できないなら見せたらできるようにならないか工夫が必要です。家庭で絵カードに取組んでみると意外に本人の考えていることがわかるようになったという報告は少なくありません。いつでもどこでも分かり合えることを目指し、手話と同じように絵カード利用も「コミュニケーションは人権です」と広げていきたいと思います。
ちゃぶ台返し
Xちゃんが、お弁当をひっくり返したそうです。お弁当はいつも完食なので職員は再び促したそうですが、今度は机をひっくり返そうと机の下に手を入れたので、手を合わせてごちそうさまをしたそうです。でも、それだと、お弁当をひっくり返せばお弁当が終了できると教えたことになりますねと質問すると、手を合わせることで、終わりを教えたことになると思ったそうです。
手を合わせるのは、確かに食事終了の合図にはなりますが、それはいつもしていることで、「お弁当ひっくり返し」の「やりなおし」とは本人は認識しません。再度お弁当をひっくり返した理由を尋ねると、お弁当にあったひじきは好きだからそれが原因とは思わないとか、お隣の子のお弁当がおいしそうでジェラシーを感じてひっくり返したとか、いろいろな大人の推測が話されました。
「いえいえ。聞きたいのは直接の理由です」と話を戻してもらいました。おそらく、本人は身近な人ならわかる「いらない」サイン(手を合わせる)を出していたかもしれないのですが、担当者が見落としたか親切心かでさらに促したのだと思います。それを拒否する術を持たないXちゃんはお弁当をひっくり返して終わりにしたのだということです。
今回のやり直しに必要な手続きは、「いらない」を教える事です。誰にでもわかるように「NO」とか「×」とか書いたカードを準備してそれを渡せたら、「わかったよ」ごちそうさましようねで「手を合わせる」のです。いらない時はお弁当箱をひっくり返さなくても良いことを教えます。そして、Xちゃんの課題がわかったので、今後は部分的に嫌なものがあるときはそれを食器から出して「いらない」カードを示すなどして、全部ひっくり返さなくても良いことを教えていきます。
まず支援のスタートは、Xちゃんは好き嫌いはほとんどないのだから、完食の支援は必要ないことを職員全員で確認をします。そして、Xちゃんにはコミュニケーション障害があって、うまく表現ができないことを念頭に置いて、どうしたら食べるかよりも、どうしたらいらないを穏やかに表現できるかを考えて、これを集中的に支援することが療育目標の優先課題であることを確認しましょうと話し合いました。
何気ない子どもの声から知ること Y先生のじゃんぷ通信6
『折り紙をしたい』という何気ない声から知ること Y先生のじゃんぷ通信6
放デイ「じゃんぷ」では,個別の学習指導の後に,自分のしたいことを取り組む「自立学習」の時間を設けています。
小学3年生の男の子が,毎回『折り紙をしたい』と希望を出してきます。
学校の特別支援教育コーディネーターをしている時に,よく保育所や幼稚園に教育相談として行く時があり,折り紙の時間をよく見ていました。いろんなことを取り入れて先生たちは折り紙を取り組みます。「折り目は指先でギュッと折れているかな」「折る時に端と端を合わせられるかな」「折り目を3回ぐらい繰り返してできるかな」「見本をちゃんと見れるかな」「先生の指示に合わせられるかな」等いろいろな力を子ども達も見せてくれます。
小学生になると,また違った視点で折り紙を考えています。
折り紙の本に写真があるから,それを見てできるだろうと思ってしまいがちですが,見るだけではうまく折れないことが多いです。そこで順番に注目させたり,わかりやすい言葉を添えて折るようにヒントを出したりします。
目で見るという作業は「同時処理」思考になります。折り紙を順番に折る時には「継次処理」思考が必要になります。子どもによって(大人もそうですが)このどちらが得意か違ってきます。この小学校3年生の男の子は,物事を順番に処理していく(継次処理の)力が伸びて行くと学習にも取り組みやすくなります。男の子が「折り紙をしたい」といった時に,どんなヒントを用意し,「できた」自信をもつことができるようにするかにかかっているように思います。
「だましぶね」の途中までを順番に折るように伝えて,何枚も折ってもらいました。最後の仕上げは大人で仕上げて,友達にプレゼントする作戦です。途中までは継次処理で分かりやすいので一人でも折れます。慣れてきたら難しい最後の部分を折っていきます。友達に使い方の面白さを伝授するのも継次処理の力と言えます。この力を支える取組にしたいと考えています。“たかが折り紙 されど折り紙”というわけです。