すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

動画研修と視覚支援

すてっぷでは、今年度になってからパートの方にも支援方法を学んでもらおうとLINEで動画を配信しています。忙しいので編集したものではなく生で1分間ほどの動画をやりとりします。文章であれがどうしたこうしたと書いてもその場の条件や支援者の間の取り方などがわからないので生の動画の方がわかりやすいです。

主にはコミュニケーション場面について動画をグループラインでやり取りしています。Pちゃんのおやつ場面の動画では、Pちゃんが確実なおかわり合図を出してから食べさせる行動を1分ほど撮影したのですが、Pちゃんのおかわりサインがだんだん強化されてきているのが1分間見ててもわかりました。子どものリアクションを待つことが大事と1分喋っても大して重要性を伝えることはできませんが、「目に物を言わせる」と説得力があります。

唸り声でうるさかったQ君の「うるさい+タブレットなし」カードも、ホンマかいなと思うほどの絶大な効果があることが、「論より証拠」でグループライン全員に配信できています。結局、私たちにも視覚支援は有効なのです。音声言語で意味を全部つかみ取っているわけがないのです。ましてや文字言語でも同じです。読むのが苦手な人は何も利用者の小学生だけではないのです。歳をとればとるほど読むのは面倒になってきます。視覚支援最高!

 

暗黙の了解

P君に、「公園に行くから、みんなのおやつとお茶をリュックに入れて用意してね」と職員がお願いをしました。素直なP君は「わかったー!」といそいそと、準備を始めました。職員は、「低学年なのに言いつけたお手伝いができて偉いなー」と公園で褒めようと車に乗り込んだそうです。

公園に着いて、「P君、用意したリュックは?」と聞くと「え?事業所にに置いてきたよ」と平然と答えたというのです。「いやいや、おやつとお茶はどこで飲むと思ったの?」と職員が聞いてみると、P君は「????」と言う感じだったっと職員から報告されました。

つまり、P君にしてみれば確かにおやつはリュックに詰めろとは言われたけど、そのリュックを公園に持っていけとは指示されなかったと言うわけです。職員一同「あるある」と大笑いでした。暗黙の了解がわからないので字句通りに行動してしまいやすいのがASDの特性です。P君が悪いわけではないので、今度からは「リュックを用意して、そのリュックを車まで持ってきてね」と付け加えればいいのです。

大人でも、「その子を見ておいてね」と指示を出すと、子どもが色々不適切なことをしていても「見ておけ」と言われたから見ているだけにしたと平気で言われる方もいます。でも、その人だけが悪いと言うわけではないでしょう。ユニバーサルな指示は、「見ていて危険な行動をしたら、その行動を防ぐか応援を呼んでください」と言うべきなのです。と言っても、またその行動の防ぎ方でトンでも支援がありそうですが・・・。

子どもの目標と大人の行動

Oちゃんの支援計画を考える時に、コミュニケーション支援のところで「手を伸ばすなど自分から要求できるようになる」という自発のコミュニケーションの目標を掲げました。Oちゃんは機能的なコミュニケーションはまだできない子どもです。

自らコミュニケーションの存在を意識していない人に「要求できるようになる」という目標を掲げること自身は問題ないにしても、目標達成しなかったときの原因がはっきりするような、支援方法を書くべきだという話をしました。

大人がOちゃんの表情や素振りを読み取って、その時におやつを食べさせたり、欲しいものを手渡したりするわけですから、支援者の「間」が非常に大事になります。以前にも(スナックタイム改めコミュニケーションタイム: 08/26) で、支援者が「食べさせる時間」だと考えてしまうと、この「間」がなくなってしまうから、スナックタイムではなくコミュニケーションタイムと改名しようと書きました。

つまり、本人の目標が達成できるもできないも、支援者の見立てと対応如何だと言うことがわかるように、支援方法に書く必要があるということです。「おやつは、手がおやつに動くか、支援者に視線を合わせてきたら「おやつだね」と言いながら口元に持って行き最後は自分で口に入れる動作を引き出す」などと具体的に書きましょうと話し合いました。

そうすれば、支援方法が正しかったのかどうかが、確認しやすくなるという事です。重度の人や支援が難しい人の場合、目標自体は正しくても具体的にどう支援するのかと言う方法が書かれていないと、延々と同じ目標が続き、支援計画が形骸化してしまうと思うからです。支援は、大人がどう行動するかがカギなのです。

強化子・動機付け

事後評価の会議でM君に靴を靴箱(段ボールBOX)に入れるように取り組んでいるが全くできないと報告がありました。M君は注意が転導しやすく周囲がざわついていたり好きなものが目に着いたりすると気が散ってしまいます。

けれども、郵便物を二階の先生に渡してきてねとお願いすると、移動中に様々な刺激があるのに郵便物を届ける事ができ、「ありがとう、じゃぁ1階のN先生にこれを渡してきて」と再びお願いしても正確に持帰ることができます。これだけの目的行動がとれる人が本当に目の前の靴箱に脱いだ靴を入れる事ができないのかどうか話し合いました。

話し合った結果、何故郵便物は運べるのに自分の靴は目の前の靴箱に入れられないかの推測は二つでした。一つは、部屋に入るときは全員が入ってきて、玄関口がざわつくので気が散りやすいことです。この際、玄関口の子どもたちがいなくなってから、プレイエリアが視界に入らない場所で取組むことにしました。

もう一つは、郵便物が一人で運べるのは、人が好きなM君にとっては二階の先生の場所に行くこと自体が動機になり、先生に会う事が強化子になっているということです。靴をBOXに入れても彼にとっては利得はないので学習しないという推測です。したがって、彼のお気に入り絵本を通所後はすぐに手に取ろうとするで、これを強化子にして、BOXに靴を入れる→絵本を与えるというルーティンで支援すればどうかという話をしました。

障害の重い人にはマンツーマンで介助をすることが多いので、できそうなことでも介助者がやってしまいがつです。実際にできるように支援しようとすれば、動機や強化子を把握して自発行動を引き出す必要があります。支援学校の子ども中心につけられる「個別サポート(Ⅰ)」とは介助行動の加算ではないのですが、日常生活動作が全介助を要する人が対象とあるので、障害を固定化して見てしまいがちです。

 

休憩・遊び??

よく子どものスケジュールに「休憩」とか「あそび」とか示して「自由にしていいよ」と言う意味で使っていることがあります。でも、これは子どもによっては、何をしていいかわからない事になります。今日は子ども自己刺激の声が大きかったと言う報告があったりしますが、その前にその時子どもがどうしていたのかが大事です。

何かをしていて声が出るなら、貧乏ゆすりとか椅子のギッタバッタンと同じようなものですが、何もしていない時に声が出てしまうなら、暇なので自己刺激をしているか、声を出していると誰かがするべきことを指示してくれる事があるので、「暇なので指示して」という注意喚起かも知れません。

コミュニケーション障害が重い子どもの場合は、後者が多いです。そうであるならば、やり直し行動で絵カードで好きなものを要求する等を教えます。大事なことは、大人が思っている「休憩」「あそび」は目に見えるものではありませんから何をしていいかわからない子が少なくないのです。「休憩」ではなく「忍たまビデオ見る」とか「髭男のアルバムを聴く」「シルバニアンファミリーを並べる」等具体的な余暇の過ごし方を提示することが大事です。

神支援 視覚支援 分化強化

L君はタブレットで遊ぶ時に、「うーうー」と自己刺激の低い声を出しながら遊びます。最近特に声が大きくなってきたので、本格的に唸り声の消去に取り組むことにしました。本人に自覚がないとはいえ、集団生活をする場合は他の人の迷惑も考える必要があります。また、唸り声があるだけで皆から遠ざけられるのは、L君にとってもマイナスだからです。以前にも耳障りな声については(奇声を減らす支援 : 08/06)で掲載しました。

言葉のないL君に自覚してもらうためには「うるさいからやめて」と言葉でお願いしても意味が分かりません。「うるさい」というのは他者の気持ちですから見えません。また「うるさい声」そのものも見えません。これを言葉でお願いしてL君に理解してもらうにはハードルが高すぎます。視覚支援にして絵にするにしても、「うるさい」をどう表現するか「唸り声」をどう表現するか難しいですが、言葉よりは理解してもらえる可能性は100倍あるとは思います。

そこで、L君がタブレット遊びで「うーうー」唸っている時に、タブレットを取り上げて「うるさい顔✕」と「静かにシー顔〇」カードを渡します。絵カードを見て声がなくなったタイミングで、タブレットを返すというやりとりを何回か続けました。すると、タブレットで遊んでいても、ほぼ声がでなくなったのです。「神支援でした」と職員は言います。

視覚支援が功を奏したと言うよりは、応用行動分析で考えると、唸り声を出すと強化子(タブレット)が取り上げられ、唸り声をやめると強化子が与えられるという分化強化※が成功下のだろうと考えています。しばらくこの対応を続けてみようという事になりました。

※分化強化とは、心理学、行動学用語。複数の反応が出現した際に、片方の反応は強化し、もう片方の反応を弱化する事を指す。正しい反応だけを強化していくことで、その行動はより確実になる。

動画で支援

高等部のK君がボール投げを楽しそうにしていると職員から報告がありました。前々回、初めてボール投げのやり取りをしたけど、ものすごく嫌そうな顔をして、ボールが飛んでくると恐怖の顔色になり無理なのかなという報告がありました。

どうして教えたか聞くと職員の投げたり受けたりする様子を真似るように指示したと言うのです。ASDの人の中には、指示されて人の真似をするのがものすごく苦手な人が少なくありません。「こっち見て」「ここを見て」と大人は言うのですが、「こっちってどこや?ここってどれや」と言葉で言われても人のどこを見て何を真似ていいのかわからないからです。

そこで、ボール投げの動画を見せましょうという事になりました。タブレットの動画は何を見ていいかすぐにわかります。注目点がわからなければ指さしても示せます。前回は、ボール投げの動画を見てK君一発で何をしているのか、どうすればいいのかわかったようで、その後すぐに他の職員と上手にボール投げ・受けができるようになったそうです。

そして今回、最初にうまくいかなかった職員とボール投げをすると、嘘みたいにニコニコして上手にできたという報告となったわけです。最初の段階では、どうしていいかわからないのに、前で職員が「○×△ω」と訳の分からない事をしゃべっているかと思えば、突然ボールが飛んできて顔に当たりそうになって、「怖い怖い」と思ったのかもしれません。今ニコニコしているのは「先週、動画見て良く分かったわ」という安堵と自信の笑顔なのです。百聞は一見の「動画」に如かず・・です。

ちゃぶ台返し2

Iさんとインターン学生(すてっぷではインターン学生を受入れています)でオセロをしていました。どちらも女性で和やかにゲームは進みました。Iさんはいつものんびりとした口調で受け答えをする女子なので、みんなから好かれています。結果は、Iさんの負けとなりました。その途端、Iさんはオセロ板を無茶苦茶にかき回したそうです。

職員は、Iさんでも悔しくて感情を露わにすることがあるんだと、驚きと共にある意味ホッとしました。インターン学生はIさんにオセロ版をかき回した理由を聞くのですが、「やりたくなかった」とぽつりというだけで意味が分からなかったと言います。おそらく「(負けてしまうなら)やりたくなかった」と言いたかったのでしょう。

インターン学生は、こうした時どうしていいかわからなかったと言います。お話ができる子どもなのに突然爆発する感情に驚くことは職員でもあります。こんな時は、感情の表出を否定しないことです。「そんなことしても伝わらない」と否定して言うのではなく、「怒っているのはよくわかったよ」「くやしかったよね」と感情の種類を教えます。

その感情が「悔しい」という事が共有できれば、その表現は「くやしー」「はらたつー」と言えばいいことを教えます。一緒に怒る練習をしてみます。子どものうちに感情全てを内面で処理することは求めるべきではないです。まず、言葉にしてみる事で大人が「そうだね悔しいねぇ」と調整してあげればいいことです。だけど、ボード板をぐちゃぐちゃにするような「ちゃぶ台返し」は禁止ですと教えていきます。

交渉とスケジュール支援

J君がスケジュールを見てプール遊びは嫌なのでキーボード遊びがしたいとキーボードの絵カードを持ってきました。職員はスケジュールをその場で自在に変更するのは問題があると思ったので、プールの後にキーボードと交渉したけれど本人は納得しないので、外に行くのが嫌なのだろうからと推測して、プットイン(作業)課題のあとにキーボードではどうですかと交渉するとOKが出て交渉成立となったそうです。

この場合、職員が子どもの要求そのものは認めて交渉した点では良かったのですが、問題はスケジュール提示です。J君がスケジュールを理解しているのかと聞くと「課題」「おやつ」「課題」の3個提示位くらいは理解していると言います。それに対して「最初に納得した「プール」は嫌だとキーボードを要求している。スケジュールは交渉成立の証文のようなものだから、それを反故にするならスケジュールは成り立たない」という意見が出ました。

でも、スケジュールは理解しているという職員によく聞くと、最初にスケジュールを本人に丁寧には説明していないと言います。もしも、丁寧に説明していたら、その時点でプールは嫌だという行動があったかもしれないと言うのです。以前にもスケジュールは交渉の最終形だと書きました。(スケジュールの間違った使い方: 06/17)(好き好き交渉: 08/23

絵カードスケジュール支援は子どもの見通しを視覚化することで理解を促すものだという説明が多いですが、それだけでは、子どもによってはスケジュールボードに貼っておけば要求が実現すると思ったり、スケジュールボードから絵カードを外せば回避できると思ったりするASDの子どもは少なくないのです。

こうした誤解を予防するには、しっかりと2枚絵カードで交渉したり、要求物をしばらく待つことを教えるなど、要求と同時に適応行動も教えていく必要があります。その土台がある程度固まったうえでスケジュール支援は成り立ちます。ただ、お互いに了解したスケジュールであっても、大人も子どもも、何かの都合で今はダメだという表出はあって然るべきなので、それを教える段階がいつなのかは議論のあるところです。これは、みなさんに考えて欲しいと思います。

 

リモート職員会議

NPOホップすてーしょんは、二つの事業所があります。主に子どもの遊びや生活から療育アプローチをする「育ちの広場 すてっぷ」と、発達障害のある就学前の子どもたちと、学習障害のある小中学生の学習から療育アプローチする「学びの広場 じゃんぷ」があります。この二つの事業所には4人づつの正規職員がいて、月に一度リモートで職員会議を行っています。

この職員会議では8人の職員が実践の紹介や教具の交流をして、働く場所は違うけど、発達障害の支援コンセプト、志は同じであることを実践交流を通じて共有しようとしています。二つの事業所の療育の形態は違っても目指していることは同じだと言うのは簡単ですが、お互いの生の実践を知らなければ気持ちは離れていくものです。

リモート会議の資料にペーパーは全く使いません。基本はパワーポイントによる写真や動画のプレゼンテーションで実践を交流します。プレゼン時間は一人5分と制限していますが、いつもみんなオーバーランして話してしまいます。今日は読み書き障害のある子どもの音読法の動画紹介、作文が苦手な子どもにマインドマップを使う実践、就学前療育に感覚統合の取り入れ方、ローマ字指導に効果的なICTアプリの紹介、食事や作業のワークシステム支援と、これだけで論文が数本書けそうな中身です。

これまで、会議と言えば長々と話すことがスタンダードとされてきましたが短時間で動画等を見せてもらったほうがはるかにわかりやすいです。百聞は一見にしかずは子どもに限ったことではないです。できるだけ「見せる交流」を進めていこうと思います。

スナックタイム改めコミュニケーションタイム

Hちゃんのスナックタイムを動画で撮り検討会をしました。Hちゃんには言葉だけでなく機能的なコミュニケーションスキルが確立していないので周囲の大人がHちゃんの気持ちを読み取って日常生活を送ることになります。最近は職員が差し出した二つゼリーの一つを指で触れて選んでいるような仕草が見られるという報告がありました。

今回の動画では選ぶ場面は撮れず拒否の場面でした。職員が喉が渇いたただろうと慮ってスプーンでお茶を口に運ぶと、大きく口をひらいて受け入れるのですが、そのあとすぐに口からお茶を出しています。次に勧めてもコップをはねのけて拒否しているようです。では、何故口を開いたのか議論になりました。

この前のシーンで市販のボトルからコップに注いでいる様子をHちゃんは見ているので、好きなジュースと勘違いしたから口を開けたとする意見と、Hちゃんはスプーンを口元に近づけると反射的に開けてしまう癖があるという意見です。いつも職員から嫌そうに見えても勧めれば食べますというふうに誤解されているのはこの癖のせいだと言うのです。

一旦食べたものを口から出したりしなくても、いらないという意思が見えたならやめるべきだと話し合いました。何より、おやつの時間は「おやつを食べなくてはならない時間」ではないということです。すてっぷでは食べるのがとても早い子も半数以上いるので、どうしても早い子どもに日課の速度が引きずられがちです。

けれどもHちゃん達にはこの速度は早すぎてついていけないから、わざわざマンツーマンにしてゆったり表情を見ながら、食の時間を過ごせるようにしているのです。他の子どもに合わせて慌てる必要は全くないのです。そもそもスナックタイムと言うネーミングがいけないという事になり、おやつを用いたコミュニケーションタイムとして考えようという事になりました。

いるい・いらない、これほしい・あれがいや、ちょっと一服、また欲しくなった、と様々な表情や動作を読み取ってやり取りをするコミュニケーションタイムとして考えれば、もう少し本人の気持ちが尊重される時間になるのではないかと思います。おやつは残したって全くかまわないですが、気持ちは全てかなえてあげて欲しいのです。きっとそれが、適切な機能的コミュニケーションにつながっていくはずです。

依存性とマンツーマン体制

Gさんに職員が近づき過ぎたためか、Gさんが職員の手をずっと握りしめてしまい離れる事ができずに困っていました。不安傾向の強い人の中には、必要以上に介助したり近づきすぎると、自分をすべてその人に預けて離れなくなってしまう事があります。

職員には、本人の不安は伝わりますから無下に手を振りほどくわけにもいかず、子どもが職員の手を持って自分の手の代わりをさせるという「逆二人羽織状態」が続きます。こんな場合は、支援者が交代すれば比較的スムースに依存状態がリセットできます。依存されていた職員は、「お仕事なので行くね」と、本人の視界から外れる仕事をしたり外出したりするのが効果的です。

そして、次の支援者は机をはさむなどして距離を保ちながら作業や課題を提示していきます。また、障害の重い方が多い事業所や支援学校現場では、マンツーマンの体制を組みがちです。これが依存性の高い人たちの自立行動の障害になっていることが少なくないことを知っておくことも大事です。

支援体制を組む人は、できるだけマンツーマンではなく利用者と職員の体制を、依存度の高い人を含めた複数の利用者を複数の職員で対応するような支援設定が必要です。職員の担当を利用者1名だけにしておくと、その人だけ支援する動きになりやすく、せっかく集団指導をしているのにマンツーマンの二人が孤立している事が少なくないのです。該当職員が支援に行き詰った時は、2番手3番手の職員がフォローしていく支援体制が、子どもの自立を促す土台となります。

 

下手なのに好き??

小学生でバレーボールをしました。最初は男子だけでレシーブの練習をしていました。それをEさんが見ていて、「あたし、それ知ってる。小6で少し教えてもらった」と男子の中に入って夢中で取組み始めました。知っているとは言っても、ほとんど経験がないようでレシーブしたボールはあっちこっちへ飛んでいきます。それでもEさんは楽しそうに遊んでいます。

それを見ていたF君が「へたくそなのになんで面白いかな??」と職員に呟きました。「なんでやと思う?」と職員。「わからん!下手やったら俺は絶対おもろない」と言い残して輪の中に戻っていきました。F君は別にEさんが輪の中に入って迷惑だと言っているわけではないのです。下手なのに何故楽しそうにみんなと遊べるかが不思議で仕方がなかったのです。

職員がこんな時はどう応えたらいいのだろうと職員会議で話しました。あれこれ説明せずに、「良いことに気が付いたね」と言って、自分と違う人に関心を持ち、人はみな違うという気づきを褒めてあげればいいと話しました。ここで、Eさんの下手でも皆と遊ぶところが偉いとか、勝つことだけがゲームの楽しさではない、と野暮なことを話しては、高学年にはNGだと話しました。

勝ち負けばかりにこだわっていたF君が、ニコニコして下手バレーに取り組むEさんに関心を持って、「何が楽しいねん?」と気づいたことを職員みんなで共有し見守っていけばいいと思います。子どもの遊びって子どもの新しい気づきが発見できるので、いつも新鮮な気持ちになります。

 

好き好き交渉

1年のD君の絵カード理解が進んできました。タブレットの要求。好きな種類のジュースの要求。外出の要求。と区別ができます。では、そろそろ「交渉初級編」に入る必要があります。

交渉を教えましょうと言うと、嫌なことの次に好きなことを強化子にして「~したら~」を示し子どもとトラブっている現場あるあるをよく見ます。順番に絵カードを並べるだけで交渉を理解する子もいるのですが、全く分からない子もいるのです。この場合は、最初に教える交渉の段階は、君の要求したものは後から必ず来るよという事がまずわからないと成立しません。

せっかく好きなジュースを頼んだのに、嫌いな野菜を食べてみませんかと示されたら、いくら好きなジュースが後に示されても応じる事ができません。というか、後にジュースが来ることはこの段階では理解していませんから、野菜を食べるくらいならと拒否するしかありません。これでは交渉の初級指導は失敗です。

交渉の初期は、まずは好きなものとのトレードオフです。好きなジュースとまぁ好きなジュースとか、好きなタブレットゲームとまぁ好きなタブレットYoutubeとか、まぁ、それならいいけどと本人が受け入れられるものを示します。そのあとで本人のものが来たら、そのうちに要求したものが後に示されているカード表示の意味、交渉の意味を理解していきます。

交渉の絵カード指示の意味がわかれば、徐々に本来の交渉に入っていきます。絵カード要求は分かるのに交渉ができない場合の躓きは、ほとんど「嫌い好き」提示で生じています。まずは「好き好き」提示から交渉に入っていけばうまくいくはずです。

小学生の悪態への対応

小学生集団がゲームをしていてC君があまりにうるさいので、職員が「レベル2の声でお願いします」と正したそうです。それに腹を立てかC君は「俺はこの声しか出えへんし!」と悪態をついたそうです。「その後、どう指導をされましたか?」と聞くと、自分は距離を置いた方がいいと思って、口ごたえをスルー(無視)したというのです。

スルーを繰り返すとどうなると思うか職員で話し合いました。効果のある無視は本人が職員を引きつけたい注意喚起の場合に限るので、この場合は職員を避けたい言動なのでかえって悪化してしまいます。つまり、悪態をつけば職員が黙って離れていくという理解になるからです。

おそらく、職員の言い分は単なる無視ではなく、自分が腹を立てしまい冷静になれないので子どもと距離を置いたと言われたのだと思います。ただ、そうであるにしても、子どもの行動の原因は職員の言動がスタートですから、今更スルーはできません。子どもは職員の注意行動を避けたいから悪態行動を繰り返しているのです。そこで職員がスルーしてしまえば子どもの悪態行動を強化することになります。

ここは、セオリー通り、悪態をついても職員の注意行動は終わらないという、行動の弱化を行わなければいけません。同時に、この事態を解決するには「こうすればうまくいく」方法を子どもに教えて強化します。つまり適切な分化強化を行うのです。ただ、職員が冷静でいられないなら、第三者の職員を入れます。

「二人とも、こちらに来てください」と別の職員が登場して、双方の言い分を公平に聞きます。そして、現在のお互いの誤解を解いたうえで、今後は注意する人は何のために声を下げて欲しいのか説明して注意すること、注意された方は、それに気づかなかったことを詫びて指摘に対しては「教えてくれてありがとう」と答えれば「わかってくれてありがとう」と職員からもお礼ができることを話します。

そして、念のために同じようなことがまた起こったら、今回のように第3者を入れて解決する手続きを約束します。最後に、今日の解決ロールプレイをして終了です。家庭では、第3者がいないこともあるので難しいかもしれませんが、学童保育や学校では、このやり方で解決できることは少なくないと思います。

ASDの人の場合は、他意がないのでこのやり方が理解してもらいやすいです。愛着の課題が大きい人の悪態は、注目が目的ですからこれではうまくいかないことが多いのですが、適切な方法ならば、受け入れられて注目をしてもらえるという意味で分化強化の原理は同じです。

※レベル2の声:すてっぷでは声の大きさのフィードバックができるようにレベルメーターを示して指導しています。

多様性社会と自発性

A君がマイクラでマルチプレーをしようと呼び掛けて子ども4人で遊びました。3人は小学生、一人は支援学校中学部のB君です。A君が自分の番号を口頭で言ったのでみんなA君のワールドで遊びはじめました。ところが、B君はつまらなそうに自分のワールドで遊んでいます。どうやらA君の番号を聞き逃したようです。B君はマルチプレーのやり方は心得ているし他の子どもたちのマイクラスキルと変わりません。なのに、A君に番号を聞くことができないのです。

これまでのすてっぷでは、小学生は小学生同士、支援学校生は支援学校生同士で遊びを組織していることが多かったので、子どもを所属校で分けないで、できるだけ遊びを共有することを大事にしようという療育方針にしたのです。変えてみると、意外と子どもは一緒に遊べるし、一緒を前提にする中で工夫も生まれるのです。以前、小学生らが支援学校生を下に見るような発言が聞かれたのですが、最近は支援学校生の行動についての理由を職員に聞くことが多くなりました。これは、小学生たちが障害特性を理解しようとし始めたと考えています。

B君は、小学生と同じマイクラスキルは持っていても、困ったことを友達に聞いて解決するというソーシャルスキルを学ぶ機会がなかったのです。支援学校の子どもはどうしても大人の距離が近くなり、子どもが困る前に大人が手を差し出してしまう事が多く依存的になり、自発性や自立性が育ちにくいです。今回も職員が「何か困っているの?」と聞かれるまで自分でどうしていいかわからなかったようです。早速、A君にも協力してもらって、遊びで困ったときのロールプレーをすることにしました。

「A君、僕番号がわからないから教えて」「いいよ○○××だよ」「○○××だね。」「選択して僕のワールドに入れた?」「うん入れた。助かったよ、ありがとう」というロールプレーを次回は準備して取り組みます。インクルーシブな遊び環境の中でB君らの社会参加の可能性を探っていきたいと思います。

 

 

性衝動の対処法

Z君が全裸になって床に寝転がっていたので、服を着せて座らせたと言います。おそらくマスターベーションがしたかったのだと思います。言葉で意思疎通できない人のマスターベーションの考え方については(マスターベーション: 2019/11/28)で掲載しました。

「座らせて、それからどうしましたか」と職員に聞くと、何か気をそらせるものを探したそうです。「裸で寝転がって職員が来たら服を着た」つまり、職員が来るまでは裸で寝転がってもよいと伝わりませんかと質問をすると、「でも、服を着せないわけにもいかないし」と話しがかみ合わなくなりました。

「やり直し」を教える必要があると話をしました。Z君はマスターベーションがしたいのですから、「マスターベーションがしたいです」カードを職員に示す行動が必要です。Z君は絵本が見たいとかジュースが欲しい等、PECSで言うとフェイズ3bまでできる人です。それなら「マスターベーション」も要求できるはずです。

でも、事業所ではできませんからおうちの絵とマスターベーションの絵を示して「おうちに帰ってします」と絵で伝えます。これは交渉なのです。ただ「ダメ」ではなく、ここではだめだが家ならいいよと伝えるのです。すぐには伝わらないかも知れませんが、「ダメ」の繰り返しでは介入の「ダメ」だしが出るまで続けると思います。要求と言うのはかなわない時もあります。しかし、双方が意味を共有しあうことからしか何も始まりません。視覚支援を使った交渉はそのために行います。

同じように、Z君は女の子にも興味があります。何かの拍子にタッチしたり抱きついたりします。これも、職員が「ダメ」と止めに入るだけでは、職員の介入があるまでは良いと誤解されてしまいます。「~さんを触りたい」とはさすがに絵カードに示せないので「~さんと遊びたい」に変えてやり直しして、ボール投げや対面ゲームならできることを示します。しかし、これは相手の気持ちもあるので必ず実現はしませんがその時は「また明日遊ぼう」と交渉します。

以前、Z君が女子によく触れるようになったので、女子と一緒に外出してボール遊びなどを意識して取り組んでいました。そのうちに、Z君の触る行動の頻度は減りました。ところが、「のど元過ぎると・・・」で取り組まなくなることや、この雨続きで暇も重なり思い出したように再現しているようです。とにかく早く雨やんでよ!これはみんなの願いです。

 

グッド・ドクター 名医の条件

大工殺すにゃ刃物は入らぬ。雨の三日も降ればよい。「大工」が左官屋や土方になったり、的屋(テキヤ:露天商)が入ったりしますが、新たに「放デイ」も仲間入りです。先週からずっと雨で来週も中ごろまで雨マークが続いています。「どーしましょ」と職員は嘆きます。

雨の間隙をついて公園に出たりしますが、間もなく土砂降りにやられて帰ってくるという繰り返しです。その上、今週までとなっていた蔓防期間が9月12日までの緊急事態措置にバージョンアップされ、小学生が楽しみにしていた科学館見学も臨時休館で延期になり踏んだり蹴ったりです。

雨が降ると、傘がさせなかったり足元が不安定な人の外出は控えがちになります。体育館も休館なので体を動かすことが一番のストレス発散になる子どもに雨天時の休館は大迷惑です。小学生のある利用者は、利用日以外は母親と一緒に開けても暮れても韓流ドラマだとぼやいていました。

そういう筆者もこのお盆休みの4日間はドラマ漬けでした。2018年にフジテレビで放映された「グッドドクター」は山﨑賢人が高機能ASD医師の新堂湊を演じましたが、これは2013年の韓国KBSテレビの原作ドラマのリメイクです。今回観たのは同じく原作韓国版をリメイクしたアメリカバージョンです。

自閉症の描き方は、日本版のものは一部の自閉症の人にあるぎこちない動作の誇張が強すぎて嘘っぽいです(これはドラゴン桜の健太(細田佳央太)でも同じ演出でした)。アメリカ版は、ASD者によくある対人理解が難しい時の「フリーズ」を演出していてリアルです。また、ASDの人の忖度が欠落した「合理的」言動と非ASD者との軋轢を描いたドラマ展開もおもしろいです。日本版のエピソードは10回ですが、原作は20回、アメリカ版は58回もあるので、ちょっと気が遠くなっています。早く雨がやんで、ドラマの続きなんか忘れて、子どもたちと一緒に川に飛び込みたいものです。

通じ合うための工夫

Y君が通所時にオムツからパンツに履き替えてくれなかったので事業所で履き替えるようにしてほしいとの連絡がありました。Y君は言葉はうまく通じませんが、最近二つ提示の絵カードスケジュール支援がわかるようになってきた子です。好きなタブレットで遊んでいる時も、「勉強→タブレット」と二つの絵を示すと、タブレットを置いて学習机に向かえるようになっています。

絵の二つ提示は「交渉」の初期段階のトレーニングです。「~したら~(強化子)」という交渉で今していることを中断して指示に従う交渉です。これが、様々な場面で受け入れられるようになると、次は時間や時間がわからなければトークンで強化子を待つトレーニングをしていきます。こうした絵カードによる交渉ができるようになってからスケジュール操作を教えていきます。

今回の家庭での拒否はY君のいつもの手順と違ったのかもしれません。何か朝のルーティンが欠けたりしてもY君は「違うでしょ」とは言えないので、その後の指示「パンツをはいて」を拒否したのかもしれません。例えばこの時に好きなものを示して、「パンツはいたら~」と提示したらどうなったでしょう。

お互いに確認しあうものがなければ交渉はもちろん分かり合う事すらできません。言っても理解できないなら見せたらできるようにならないか工夫が必要です。家庭で絵カードに取組んでみると意外に本人の考えていることがわかるようになったという報告は少なくありません。いつでもどこでも分かり合えることを目指し、手話と同じように絵カード利用も「コミュニケーションは人権です」と広げていきたいと思います。

ちゃぶ台返し

Xちゃんが、お弁当をひっくり返したそうです。お弁当はいつも完食なので職員は再び促したそうですが、今度は机をひっくり返そうと机の下に手を入れたので、手を合わせてごちそうさまをしたそうです。でも、それだと、お弁当をひっくり返せばお弁当が終了できると教えたことになりますねと質問すると、手を合わせることで、終わりを教えたことになると思ったそうです。

手を合わせるのは、確かに食事終了の合図にはなりますが、それはいつもしていることで、「お弁当ひっくり返し」の「やりなおし」とは本人は認識しません。再度お弁当をひっくり返した理由を尋ねると、お弁当にあったひじきは好きだからそれが原因とは思わないとか、お隣の子のお弁当がおいしそうでジェラシーを感じてひっくり返したとか、いろいろな大人の推測が話されました。

「いえいえ。聞きたいのは直接の理由です」と話を戻してもらいました。おそらく、本人は身近な人ならわかる「いらない」サイン(手を合わせる)を出していたかもしれないのですが、担当者が見落としたか親切心かでさらに促したのだと思います。それを拒否する術を持たないXちゃんはお弁当をひっくり返して終わりにしたのだということです。

今回のやり直しに必要な手続きは、「いらない」を教える事です。誰にでもわかるように「NO」とか「×」とか書いたカードを準備してそれを渡せたら、「わかったよ」ごちそうさましようねで「手を合わせる」のです。いらない時はお弁当箱をひっくり返さなくても良いことを教えます。そして、Xちゃんの課題がわかったので、今後は部分的に嫌なものがあるときはそれを食器から出して「いらない」カードを示すなどして、全部ひっくり返さなくても良いことを教えていきます。

まず支援のスタートは、Xちゃんは好き嫌いはほとんどないのだから、完食の支援は必要ないことを職員全員で確認をします。そして、Xちゃんにはコミュニケーション障害があって、うまく表現ができないことを念頭に置いて、どうしたら食べるかよりも、どうしたらいらないを穏やかに表現できるかを考えて、これを集中的に支援することが療育目標の優先課題であることを確認しましょうと話し合いました。

 

何気ない子どもの声から知ること  Y先生のじゃんぷ通信6

『折り紙をしたい』という何気ない声から知ること  Y先生のじゃんぷ通信6

放デイ「じゃんぷ」では,個別の学習指導の後に,自分のしたいことを取り組む「自立学習」の時間を設けています。
小学3年生の男の子が,毎回『折り紙をしたい』と希望を出してきます。

学校の特別支援教育コーディネーターをしている時に,よく保育所や幼稚園に教育相談として行く時があり,折り紙の時間をよく見ていました。いろんなことを取り入れて先生たちは折り紙を取り組みます。「折り目は指先でギュッと折れているかな」「折る時に端と端を合わせられるかな」「折り目を3回ぐらい繰り返してできるかな」「見本をちゃんと見れるかな」「先生の指示に合わせられるかな」等いろいろな力を子ども達も見せてくれます。

小学生になると,また違った視点で折り紙を考えています。
折り紙の本に写真があるから,それを見てできるだろうと思ってしまいがちですが,見るだけではうまく折れないことが多いです。そこで順番に注目させたり,わかりやすい言葉を添えて折るようにヒントを出したりします。

目で見るという作業は「同時処理」思考になります。折り紙を順番に折る時には「継次処理」思考が必要になります。子どもによって(大人もそうですが)このどちらが得意か違ってきます。この小学校3年生の男の子は,物事を順番に処理していく(継次処理の)力が伸びて行くと学習にも取り組みやすくなります。男の子が「折り紙をしたい」といった時に,どんなヒントを用意し,「できた」自信をもつことができるようにするかにかかっているように思います。

「だましぶね」の途中までを順番に折るように伝えて,何枚も折ってもらいました。最後の仕上げは大人で仕上げて,友達にプレゼントする作戦です。途中までは継次処理で分かりやすいので一人でも折れます。慣れてきたら難しい最後の部分を折っていきます。友達に使い方の面白さを伝授するのも継次処理の力と言えます。この力を支える取組にしたいと考えています。“たかが折り紙 されど折り紙”というわけです。

夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5

夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5

夏休みも後半に入ってきました。
放課後デイに通ってくる子ども達(中学生も)の悩みのタネになるのが「読書感想文」や「新聞づくり」です。宿題の最後に残ってきます。発達障害をもつ子ども達にとっては最も苦手な内容になります。それは読書感想文一つとっても、それを書く時には「読む」「内容を知る」「何を書くか選択する」「文にまとめる」「書く」等の作業を頭の中ではしないといけません。これをうまく整理したり、順序だてたりすることがうまくいかないからです。それができたとしても、最後のところで「思い出して」書く、手指のぎこちなさに苦労しながら書くことが大きな壁になります。

「じゃんぷ」ではマインドマップという方法を使って何人か読書感想文を書いたり、新聞づくりの構想を考えたり、夏休みの思い出の作文を書いたりしています。マインドマップというのは頭の中で行っている思考プロセスを「見える化」して、思考の整理や今からしようとしていることを整理するのに役立つ方法です。一緒にホワイトボードに思いついたことを「話すだけ」、順番に話したことを「図にするだけ」、整理された内容を「書くだけ」と作業を一つにしぼって実行します。

そうすると、「こっちのことを先に書きたい」とか「ちょっと言い方(表現)を変えて書いといた」等自分なりの工夫やアイデアが浮かんできます。

「読むのがイヤ」「書くのがイヤ」「なんて書いたらいいか分からないからイヤ」と思いがちな宿題も、実は頭の中の思考を整理することの悩みだったといえます。

座り込む子

W君が公園に外出した時,建造物の隙間からお気に入りの幟旗が向こうに見えたらしく,排水路を行こうとしたので職員が止めると,何で止めるねん俺はあそこに行きたいねんとばかりに,手を引く職員に抵抗して道端に座り込んでしまったといいます。それでどうしたのと職員に聞くと,てこでも動きそうにないので車を出して公園に移動したということでした。

言葉のないW君に私たちはどうすればよかったのでしょう。小さな子どもでも要求が叶わないと道端に寝転んで金切り声を上げて抵抗している姿をよく見ます。W君は小柄ですが15歳,中3です。支援者の実力行使ではなく,なんとかしてこの行動を変容できないものか会議で話し合いましたが,良いアイデアが浮かばないと言います。

彼が座り込むのはこれまでの経験上,座り込めば何度か要求が叶ったのかも知れません。これは間欠強化(部分強化)の法則と言って,ご褒美がいつももらえるよりも、もらえるかどうかわからない状態にしたほうが、「ご褒美をもらおうとする行動が、長続きしやすい」ことをあらわす法則です。ギャンブルにはまり込むのもこの法則なのでギャンブル法則とも言います。

でも,ギャンブルにはまっている人に強制力で禁止しても,それで良い方向には向かわないのは常識です。強制力がない時や少ない時に一気に実現するなどの荒業に出てくるのです。今はいいかもしれないけど,その先を見て支援しようと言っているのはこのためです。また,支援者による対象者への強制行動は支援者自身を強化してしまいます。つまり,対象者が従わなければどんどん強い強制力を使うと言うバースト現象を生じさせる可能性があるのです。

今回は,W君についての解決アイデアはあえて示しませんでした。無理だと諦めるのは簡単ですが,工夫をすることは言葉を持たない障害のある人たちと共生していこうと言う人権へのリスペクト行動だと考えています。あきらめないで工夫していきたいと思います。

奇声を減らす支援

奇声も様々ありますが,一つは自己刺激で「ウーウー」と唸るような低い声が長く続くもの,もう一つは周囲の人がびっくりするような大声で「キャー」というような奇声です。唸るような奇声も体が大きくなってくると周囲の人にはかなり耳障りになります。ASDの人の場合,相手が驚いていたり不快だと感じているの事が理解しにくいので,やめてと怒ってみても通じないことが多いです。

でも,最初の頃はコミュニケーションがうまくできなくて奇声を上げて注意喚起して,大人の注目を集める方法として機能していたかもしれません。この場合に有効なのは言葉以外のPECSなどの代替コミュニケーションです。奇声を上げなくても伝わるという事を気長に取り組んでいく中でだんだん奇声がなくなったという経験談は良く聞きます。

ただ,自己刺激の場合の唸り声は難しいです。よく観察してみると暇なときに意識を覚醒するために声を響かせている様子が少なくありません。もしそうであるなら,他の自己刺激グッズ,例えばスライムなどふにゃふにゃ・ふわふわしたものを触るとか・噛み噛みグッズで口唇感覚や顎感覚に働きかけ,他の感覚刺激で代替できないか考えます。

映像やゲームなど興味のあるものを増やすことも意識を覚醒しますから有効かもしれません。よく,声を出すのは「~さんにも言いたいことがあるのだから聞いてあげましょう」というような話をする人もいますが,毎日過ごす家族にとっては,近所迷惑もあり家族のストレスの原因になりつらい場合があるのですから,積極的に代替コミュニケーションや代替感覚のアイデアを一緒に考えることが必要だと思います。

カームダウンエリアは世界の常識

V君が顔を真っ赤にしてプンプン怒って職員に訴えてきました。パソコンのUSBマウスが反応しないと言います。「そうか,使えないマウスもあるから全部試してみてね」と職員が言うと,余計に大きな声で「全部試した!」と叫びます。仕方がないので,V君のパソコンをみると,そもそもUSBのプラグをパソコンのLANジャックに突っ込んでいました。『そら動かんわ・・・』と職員。

「V君。ちょっと頭冷やしてきた方がいいね」と職員は今説明しても理解できないだろうからと,カームダウンを勧めました。「わかった」とその場から離れました。少しして落ち着いた様子でV君が帰ってきたので「さっきの自分のこと振り返ることできるかな」と聞くと,「マウスが動かへんから,マイクラできないと興奮してパニクって,他のマウスを試すこともジャックの位置が違う事も調べんかったけど,どうしようもないから嘘ついた」と言います。

「よく自分の事が振り返れてすごいなぁ。V君良くわかっているんだね。でも学校でもこんなことあるよね。どうしてるの?」と職員が聞くと,「俺,パニクりそうになったら,教室から出て頭冷やそうとするねん」「おお,すばらしやん」「でもな,先生がどこ行くねんって止められるから,余計にごちゃごちゃになるねん」とのことでした。

「そら,先生に事情を説明しなあかんわな。『頭冷やすからどこどこに行くけどいいですか』って言わなあかんわな」と話しながら職員は,『今時,カームダウン支援を知らない先生がいるのだろうか』と思ったそうです。カームダウンすれば,大人が何も示唆しなくてもこんなにクリアに振り返りができるのですから,カームダウンエリアを用意してあげて欲しいものです。東京五輪のような大それた部屋でなくていいのです。廊下の物陰でも教室の片隅でも人の視線を感じない工夫がしてあるだけでいいのです。よろしくお願いします。

東京五輪・パラリンピックピクトグラム(絵文字)の「カームダウン・クールダウン」

オリンピック興味なし

小学生らに聞いてみました。「オリンピックみんなかっこいいよね」と聞くと「えー俺興味ないし~」と水泳教室に長年通うR君のつれない反応です。「私はスポーツと聞くだけでいやな気持になる」とSさん。「そうかなぁ、スケボなんかめっちゃかっこいいと思わん?」と聞く職員に、みんな「別に~」と言う反応。

筆者が子どもの頃にはメキシコ五輪で塚原光男が「月面宙返り(ムーンサルト)」を決めては心躍り、ミュンヘンでの男女バレーボールの金銀メダルアベック獲得で涙し、札幌五輪の笠谷幸生の大ジャンプを真似て机から飛び降りて怪我をする男子が続出する等、思い出がたくさんあります。

でも、この子たちは興味がないのです。R君などは「お気に入りのアニメが延期になって腹が立つ」くらい嫌いだそうです。T君などは体操クラブで練習しているのに、体操男子で橋本大輝が個人で金2つを受賞したことすら知らないのです。筆者も決して運動全般が得意だったわけではありませんが、この興味の落差は何だろうと首をかしげています。まぁ、子どもたちは、「おっちゃんら何興奮してんの?」と思っているでしょうが…。

将棋楽しかったよ

P君とQ君で将棋対局です。P君は最近家で将棋のテレビを見て勉強をしています。Q君は祖父とよく将棋をするので経験豊富です。勝負はQ君が勝ちました。やはりQ君の方が何枚も上手で,後半P君は逃げることしか出来ない状況でした。P君に感想を聞いてみると,「楽しかった!」と元気よく言います。「でも勝負は負けたよね。その時の気持ちはどうだった?」と聞きました。P君は「次は勝ちたい,でも楽しかった!」としきりに「楽しかった!」と言い続けました。P君は聞かれていることよりも、自分の関心を言うことが多いです。この時は「楽しかった!」という気持ちが強かったのだと思います。

「次は勝ちたい?」と聞くと,「それはいいからまたあの子(Q君)と将棋したい。」と答えました。彼は以前マイクラで遊んでいる時に他の子が作っているものを壊して遊んだり,設定遊び中に違うことをして「今は違うことしないで!」と他の子に言われることで他者の注目を浴びようとしていました。その結果「P君と遊びたくない~」と訴えてくる子もいました。

今日は対局中「いい勝負してるね!」「前よりも上達したね!」と声をかけられて嬉しそうにしていました。Q君とも「それここに動かすと次取られるで」「でもその後にこれで攻めようと思ってるから」とやり取りをしている姿も見られました。今日は人が嫌がることをして注目を集めるのではなく,ずっと楽しく将棋をしていました。だから彼の口からは勝ち負けよりも「楽しかった!」のだと思います。遊びで不適切な行動をするのは、それが一番注目を集める方法でしたが、適切な方法で注目を集めることが出来たP君は今週も将棋のテレビを見て勉強してくるのだと思います。

そうだったのかプールパニック

昨日朝からプールと思い込んで大声を上げて怒っていたいたOちゃん(言葉と機能的コミュニケーション: 07/29)が今日は落ち着いて通所してきました。朝からプールに入ろうともしないし、お昼から粛々とプール遊びをしたのです。何故だと思うか職員に聞いてみると、朝から全体にスケジュール発表をしたからだと言います。でも、毎日年がら年中、全体へのスケジュール発表はしているのです。スケジュールが朝に発表されるとOちゃんが認識しているなら、そもそも昨日のような見通しと食い違ったようなパニックを起こすはずがありません。

他の職員にもう少しよく聞いてみると一昨日も家庭の都合でお昼からお父さんが連れてきたと言うのです。ちょうどお昼からはプールだったのでOちゃんは楽しかったわけです。

「そうか!そういうことだったのか!」やっとOちゃんのプールパニックの原因が分かりました。時間やスケジュールがよくわからないOちゃんは状況でこれからの出来事を予測しているのです。「一昨日は【昼に】お父さんと事業所に来てプールでご機嫌だった→昨日もお父さんと【朝に】一緒に来た→お父さんと一緒に来たら昨日通りすぐにプールがあると思ったのにプールがないので怒った」というわけです。Oちゃんには朝も昼もないのです。「お父さんと通所すればプールがあり、職員と通所すればプールはすぐにはない」という理解だったのです。

職員は毎日毎日全体のスケジュール発表をしているから、それくらいOちゃんは理解しているだろうと思っていたのですが、見事に外れました。「昨日プールに入ったのが嬉しくて、今日は朝から入ろうと思い込んできた」という前回の読みも違ったのです。Oちゃんの中にはOちゃんの秩序があったのです。こんなふうに世の中を理解しているとなるとOちゃんの日常はハプニングだらけです。そして周囲の人もOちゃんの苦しみがわからないまま毎日を過ごすことになります。スケジュール支援は家を出る時に示す必要があると思います。「午前公園 お弁当 午後プール」程度の簡単な日課でいいのです。そして日によってスケジュールを変え、ルーティンな日課にしない工夫が必要だと思います。

 

 

自立課題は進化させるもの

N君の机の上に山のように自立課題の課題ケースが積まれていたので、これはどんな目的で積まれているのか職員会議で聞いてみました。いつもやっているもので一人でできるから置いてあるとのことでした。そこで、この先このN君の自立課題はどんなプランがあるのか聞くと、みんな「?」と言う反応でした。

個別課題と自立課題の違いについてよく質問を受けますが、個別課題とは、個人の能力に合わせ大人が教えたり一人で復習する課題を指します。自立課題も個別課題の一種ですが、狙いは作業が一人でできるように、一人で自立的に始めて終了できる、文字通り「自立」のための課題です。つまり、自立課題は課題の内容も変えていくし、作業の進め方も単に課題ケースを積んでおくのではなく指示書に従ったり、自分で準備をしたりして変えていくものです。

もちろん、繰り返し同じ課題をすることで速度が上がったり、正確性が向上したりすることは結果としてはありますが、速度や正確性を目的にしているのが自立課題ではありません。速度が遅いなら、それは量が多すぎたのですし、正確でないなら課題のジグ(自立的に作業ができる仕組み)の工夫が足りなかったと考えます。つまり課題を出した大人の側の問題だと考えます。課題を出す大人はN君ならどの程度の作業量をどの程度の時間で仕上げるのか、休憩を入れたほうがいいか、新しい自立課題をいつ入れるのか考えておく必要があります。

一人でできる課題がたくさんあるからたくさん積んでおくと言うのはあまり意味がありません。もちろんASDの人は繰り返しが好きですから、できるものを繰り返すのはそう苦痛でない場合が多いです。ただ、彼らも飽きたり疲れたりします。そんな様子も観察して、どれくらいの休息をしたらいいのか、何回のインターバルが良いのかも考え、変化をつけ進化をさせていくのが自立課題を提示する大人の役割です。N君には仕事が好きで元気に働く大人になってほしいというのが私たちの自立課題の最終目的です。

 

言葉と機能的コミュニケーション

Mちゃんが大声で「いやだー」と叫んでいたので理由を職員から聞くと、昨日プールに入ったのが嬉しくて、今日は朝から入ろうと思い込んできたら、朝からプールはないのでつもりが崩れて大声で叫んでいたというのです。Mちゃんの大声は要求のサインなのですが、別に誰かに向かって言っているわけではないのです。大声で叫んでみたらたまたま実現したことがあったのだと思います。Mちゃんは喋るのですが、それが機能的コミュニケーションに結びついていません。

Mちゃんは冷蔵庫に向かって「ジュース」と叫んでみたり、天井に向かって「タブレットー」と叫ぶことが多く特定の人に要求することがありません。気づいた大人は、それに応えて要求を叶えるのですが、特定の大人が要求を叶えていると理解していないので大声で誰かが反応するのを待っている感じなのです。コミュニケーションは伝える人を特定することから始まります。言葉は喋れても機能的に使う事ができないのでMちゃんはとても苦労をしています。

言葉が喋れても、機能的に使う事が難しい人には絵カード要求が効果的です。渡す人を特定するからです。そして渡された人は要求を叶えるだけでなく、交渉もしてきます。「~してから~しよう」「今日はできないけど明日やろう」等の交渉を同じように絵カードで伝える事ができます。一方的な大声を出さなくてもお互いが共有できる視覚情報を使って社会ルールを教えていくことができるのです。PECSは言葉のない人だけでなく言葉はあるけどうまく使えない人にも社会ルールを教えていく第一歩になるのです。何より穏やかに伝えられるのでお互いにとって有益です。この夏はMちゃんの大好きなビニールプール遊びを使っていろんな交渉ができそうです。

 

川遊び

小学生は毎日川遊びに出かけています。近くでは小泉川、遠くでは水無瀬川まで出かけます。水無瀬川の方は少し遊泳ができるのでわかったのですが、ほとんどの子どもが浮くことができず泳げないのです。仕方がないのでフローティングジャケットを装着させて浮遊感(水面に浮かぶ)の楽しさを体験させることにしました。今後は、ゴーグルで顔つけに慣れさせ、そのまま頭をつけて流されていく楽しさを経験させます。その後ジャケットを外して伏し浮きから吐き出して吸う呼吸法ができたら、あとは勝手に泳げるようになります。

しかし、揃いに揃って支援学級の高学年子どもが泳げないのが気になります。支援学級にもプール指導の時間はあるので、交流学級とダブルで泳ぐ機会があり、しかも、人数が少ないので呼吸法までの指導ならひと夏で教えられるはずです。コロナの影響があったにせよ、呼吸法は低学年で教えられたはずです。水泳はDCD(発達性強調運動障害)の子どもでも、呼吸法さえ身につければ前に進めるようになるので彼らに向いているスポーツと言われています。川遊びでぼちぼち指導していこうと話しています。

嫌な理由

夏と言えば水遊びプールの季節です。子どもたちは水遊びが大好きです。ところが、感染の恐れがあるとして学校プールは全滅です。このブログで何度も書いているように、学校プールの水は塩素殺菌されていますから、その塩素水飛沫が飛び散るプールで感染するなら、外を歩くなと言うに等しいです。さて愚痴はこの辺にして、すてっぷでは大好きな水遊びを実現するために大型ビニールプールを購入しています。小さな子どもたちはみんな大喜びです。みんなキャーキャー騒ぐので近所迷惑を気にしながらの毎日です。

ところが、Lちゃんがビニールプールに入ろうとしないのです。確か昨年は何ともなかったのに、後ろから押しても頑として跳ねのけて入ろうとしません。仕方がないのでプール横で水遊びをして過ごしました。職員で話し合ったところ、他の元気すぎる子どもと一緒にいるのでうるさすぎて入る気がしないのだろうという結論に至り、奮発して静かに遊ぶ人用のビニールプールをもう一つ購入しました。

早速新しいプールに一人で入ってもらおうと車いすから降ろそうとすると、Lちゃんはプールに足もつけようとせず、入らないのです。水が多いのが不安なのだろうかと減らしてみても入らないので、次は何も水の入っていない状況で先にLちゃんに入ってもらいました。そうすると難なく入れたと言うのです。そこに、徐々に水を入れていくとニコニコして水遊びをするのでした。

つまり、Lちゃんは水の入っているプールが嫌だったのです。空っぽで入って水を入れると何ともないことがわかって、次の日からは水が張ってあっても入れるようになったのです。Lちゃんには言葉がないので推測するしかないのですが、おそらく水の入ったプールで嫌なことがあったのかもしれません。水温が低すぎて驚いたとか、何らかの感覚的なトラブルがあって恐怖感が焼き付いて入れなくなっていたのかもしれません。言葉のない子どもが何をどう感じ取っているかを把握するのには、時間を取って様々な工夫や働きかけが大事だねと話し合いました。

集団遊びに熱中

K君が帰ってきて顔をほてらせて「今日はめっちゃ面白かったわ!」と職員に言うので、何のことかと振り返ってみると、職員入れて7名ほどで手つなぎ鬼ごっこをしたことらしいのです。暑いのに走り回ってどこが面白いのだろうと大人は思うのですが、K君には「最高!」だったのです。

学校でも地域でも集団遊びを普段しないので、みんなでギャーギャー騒ぎながら走るのが楽しかったようです。そういえば、最近暑いせいもありますが、公園で徒党を組んで遊んでいる子どもたちを見たことがありません。多くても3人程度でこじんまり遊んでいます。

サッカーチームや野球チームで大勢で練習することはあっても、集団でただ大声を上げながら走って遊ぶという経験はほとんどの子どもたちにありません。ただ職員にしてみれば「暑いから、1回だけにしてくれー」と切にお願いしたようではあります。今日も外気温は日なたは35度を超えています。集団遊びに熱中はいいけど熱中症には厳重警戒です。

 

身辺自立 夏の陣

夏休みに入ったのでIちゃんとJ君の身辺自立について本格的に取り組むことにしました。J君は食事、そして二人とも紙おむつに排泄という行動を便器に変える課題です。J君はおうちと同じようにすれば食べられると考えたので、トースターを持ち込んでトーストにするとすぐ食べました。今後はトースターをフェードアウトして家庭からのお弁当が食べられるように様々な工夫をしてみようと思います。外ではジュースしか飲まないと思っていたのが、この暑さで喉が渇くらしく、持ってきた水筒のお茶も難なく飲めたので、飲食の問題は早く解決するかも知れません。

問題は、紙おむつ排泄の連合をどう便器に変えるかです。事業所の横にビニールプールを設置しているので、プール大好き少年少女の二人をしっかり水遊びさせ、下半身に冷水刺激を与え、トイレで着替える前にビデオタイムにして便器に3分ほど座る中での尿意や便意の偶然性にかけています。この夏中に成功しないと、他の方法が思いつかない限り次の取組は来夏になるので、職員一同ビニールプールに願をかけています。

忘れ物リベンジ

不注意傾向の強い小学生の利用者の忘れ物防止策として(お忘れ防止チェックリスト : 06/29 )を実施しています。前回は、具体物と見合わせずチェックマークだけつけている子どもがいることを発見しましたが、今回は帰宅担当の先生にチェックリストを渡した際にOKをもらうと、「注意の武装解除」をしてしまって、結局事業所に忘れてきてしまう子どもがまだいるのでこれをどう解決するかを職員で話し合いました。

これから、水遊びが多い季節なので、家から水着や着替えを持ってくることになり荷物が増えます。この荷物の増える時期に、どうすれば子どもが自立的に忘れ物ゼロを達成していくか考えました。チェックリストは確かに効果があるのですが、先の「注意の武装解除」を防ぐ手立てが必要ですから、今後は送迎車の前で子ども自らがチェック表を再確認してもらうことにしました。つまりチェック表を車の中に持ち込むのです。

そして、送迎車から降りて自宅に向かう際にもう一度自分で確認して、問題がなければ運転していた先生に返すのです。このほかにも学校から忘れ物がある子がいますが、これは車に常設したチェックリストで子どもが確認申告してから発車するルールにしました。とにかく、忘れ物がないように大人が介入せず、子どもが自発的に行う事が重要なのです。もちろん、目標を決めて忘れ物0シールがチェックリストにたまったらご褒美にします。満を持しての新ルールで子どもたちの成果を待ちます。

注目要求と自立

H君は半年前まで逃げる子でした。目を離したすきに、ドアから飛び出して事業所の前のマンションのエレベーター遊びに行くのです。「エレベーターが好きなのでエレベーターに逃げていく」と当初は職員から聞いていたので、H君が来たときは事業所は施錠していました。それでもダイヤル式のカギは番号を盗み見して覚えて開錠して逃げていくことが何度もありました。

それが、最近では自分から好きな活動の準備をしたり、嫌いではない作業をしたりしてドアが開いていても、飛びだそうとしなくなりました。その理由は、H君の見立てを変えたからだと思っています。H君はエレベーター遊びは好きですが、逃げていくのは注目要求からだと考えたのです。それまでの事業所の子どもの不適切行動への対応は「見ないふりをする」スルー行動でした。しかし、それではどうすれば正しい注目をしてもらえるのか子どもにはさっぱりわかりません。注目しない職員のスルー行動は支援上役に立たないと修正したのです。

「適切な行動をすれば先生は見ているよ」というメッセージを出し続ければ子どもは逃げたりして注目を集める必要はありません。(注意喚起行動 : 2020/09/03)や(注意喚起も強化子に: 2020/09/18)で述べてきたように、注目要求には正しい行動を教えれば子どもは適切な行動を学習していきます。H君は(逃げる子 : 06/24)で書いたように注目要求が高い人なので、それがスルーされ続けた結果バースト(飛び出し行動)してしまった子どもだったのです。

ただ、良い行動を大人が見ている時は適切な行動ができるのですが、大人が注目しないと不適切な行動が呼び起こされるという心配があります。注目要求が続くという事は見守る大人と活動の提供がいつも必要で、余暇を一人で過ごすと言う課題は残っているのです。これは、賞賛やご褒美契約で消えるように思えないのです。H君の一番の強化子は大人の注目だからです。でも、適切な行動がどんどん増えているのだし、注目要求が本当の賞賛要求に変わらないとも言えないし、そもそも一人で過ごす好きなことが見つからない原因もわからないのだから、焦らないで見守ろうという事になりました。

要求の自傷とどうしてもダメなもの

G君が頭を床にたたきつけて怒って(表現して)います。G君とは以前(電池が切れて困っています。:2020/07/17)の言葉のない人です。G君の前にタブレットを持って行き写真を示して何が欲しいのか探りました。扇風機の写真の上でG君の眼差しが光ったように思ったので「扇風機ですか?」と聞くと手を上げてくれました。

困りました。扇風機遊びが好きなのは知っているのですが、G君は危険がわからないので事業所では扇風機遊びは禁止しようという話を昨日したところなのです。「ごめん、G君扇風機はないのよ」と示すと、猛烈に怒りだしてまたまた床に頭を叩きつけます。職員もどうしたものかと、頭を打ち付けないようにG君の体を支えて途方に暮れていました。

G君は、頭を打ち付けるか大声をあげるかして大人を引き付けて要求を叶えてきました。PECSに取り組んで今では数十種類の要求ができるようになってきました。また、機能的コミュニケーショントレーニングと合わせて「待って」や「~したら~」と言う契約にも応じられるようになってきました。

しかし、今回のようにどうしても困るものについては、契約がなりちませんでした。「USB電源で動くパーソナル扇風機ならいいよ」と示しましたか、そんなおためごかしで騙されないぞと拒否されてしまいした。もとはと言えば、昨日までは玩具として職員が彼に与えていたものを今日から手のひら返しにダメだと言っているわけですから、怒るのは無理ないのですが、怒りが沸騰すると最大の要求武器の自傷で訴えてくるので困ってしまいました。

今回は、時間が解決してくれましたが、本人がどうしても手に入れたいものが、何かの問題で禁じなければならなくなったり無くなったりしたとき時、どんな説得の方法があるのか考えてみたいと思います。禁止を伝えるために本人のブックに扇風機を入れておくかどうかも思案のしどころとなっています。しかし、本人の認識できるものをブックの中から削除するのは、表現の自由から考えて違法行為でもあります。しかし、ASDの支援の場合「ダメ」や「NO」表現はご法度です。「こうすればOK」「いいねYES」を使ってルールは教えるものなのです。それが私たちのいう「契約」支援なのです。そうはいってもどうしてもダメなものが世の中にはあります。どうしたものか、G君と一緒に途方に暮れています。

 

夏休みと身辺自立

昨年は感染防止の学校休業が先制パンチになって、夏休みだかなんだかわからない短いお休みでしたが、今年はしっかり1か月間の休みがあるので、「すてっぷ」としても一日プログラムを充実させようと考えている最中です。朝から夕方まで支援ができるということは、生活上の様々な問題に一貫してアプローチすることができます。

身辺自立の課題では、食事や排せつについて計画的に取り組めます。学校で給食を食べない子どもや、排泄は紙おむつにすると決めている人など、1日プログラムの日は食事や排せつの機会が多くなります。毎日とは言わずとも、長い時間職員も本人の様子が観察できますから手立ても打ちやすくなります。

このブログでは、食事のこだわり問題は平日では機会がないのであまり書いていませんが、ASDの子どもの強い偏食は少なくありません。筆者は焼きそばだけで成人した人を知っていますが、他にもふりかけなしの白飯だけでは絶対に食べない人や、炊き立てでないと食べないので炊飯器を持ち込んで毎日昼食をしていた人等ハードな人を体験しました。

これらの人はどちらか言うと味や食感のこだわりで家庭でもどこでも食べないと言う偏食です。ただ、小さい時期の食の問題は、かなりの割合で場所のこだわりがあるようです。これは食に関わらず排泄でも起こり得ます。つまり、家ではできているのに学校や施設でできないというものです。ほとんどの原因が、そこで食や排せつについて本人には嫌な出来事があったというものです。

つまり場所と食事や排せつやが結び付いて、恐怖感や不安感が高まってできない場合が多いです。もちろん、大人には悪気はありませんが、食事や排せつへのアプローチが本人には理解できず、ほとんどの子はコミュニケーションに課題がありうまく表現する力がないので怖い体験となって記憶に焼き付く場合があるのです。

ですから、そうした原因を抱えているかもしれないと慎重にアプローチすることが大事です。すてっぷでの昼食が初めての人は最初の環境設定やアプローチが重要なので保護者の方の協力がいるかもしれません。一度口にしてしまえばほとんどの子どもは食べられるようになるので、食事は最初の準備が重要です。逆に言えば、最初で失敗すると長い取り組みになる事が多いです。

オムツへの排泄を便器に誘導するのも同じようなことを留意しておく必要があります。こちらは定時排泄ではほとんどうまくいかないことをブログに書いてきました。(紙おむつトイレ:04/05)(トイレ考:05/07)こちらは、便意の神様が味方に付いてくれないとなかなか難しいものがあります。ご家族と連携しながらどうすればうまくいくのか、職員一同今頭をひねっている最中です。気張りたいと思います。

 

ホワイトボード

Bちゃんが、全体のスケジュールを書いたホワイトボードの前でゴソゴソしているので見に行くと、帰りの配車表を並べ替えていました。C君はD先生の車、EさんはF先生の車でと自分の思いついた配車に変更しているのです。(スケジュールの間違った使い方 : 06/17  )で紹介した子はBちゃんの事です。つまり、相変わらずスケジュール表が自分で貼り替えれば思った通りになる魔法の表と理解しているようです。でも、不思議なことに、今回は自分の配車は触らないのが、新しい変化です。これは何故だかわからないのです。

 Bちゃんの様子を非常勤の職員が報告してくれたのですが、その時どう対応したのか、職員はBちゃんの行為をどう思ったのかは送迎時間の最中なので聞くことができませんでした。子どもたちの様子を事細かに報告してくれることは大事ですが、職員の対応や考えも教えてもらえると、さらに助かりますとお願いしています。それは、職員の対応次第で気になる子どもの行動の多くが強まったり弱まったりする原因になるからです。

 Bちゃんの今回の行動についてはどう対応すればいいのか、正解はわからないです。しかし、職員のリアクションが分かっていれば次のBちゃんの次回の行動が分析しやすくなります。現段階の推測では、これはBちゃんの再現遊びの一種で、不適切行動とまでは言えないと考えられます。また、自分の配車を触ると注意されたので他の子どもの配車を変えているのかもしれません。

しかし、ホワイトボードを触られるのは他の子どもの支援や業務上問題があります。どう対応すればいいのか、Bちゃんの支援にアイデアが求められていると思います。すぐに思いつくのは、配車はパーソナルな情報だから全体に示す必要はなく個人スケジュールにする事です。しかし、それでは理解できる子には誰と乗って行くのかの情報が提供できません(そこだけ口頭報告という手はありますが)。貴方ならBちゃんや他の子をどう支援しますか?

 

子どもの言葉

A君が今日は公園に行きたくないというので職員が理由を聞いてみました。ただ、A君が言葉を思いつかないので、職員が当てることになりました。「タブレットがしたいの?」ときくと「ちがーう!」と言うので何だろうとあてずっぽうに言っているうちに、もしやと思いタブレットの中に入っているアプリの名前を言ってみました。

「数字の歌?がしたいの」「そう!数字の歌がしたいの」な~んだ、やっぱタブレットかぁ、という事でA君はタブレットで遊べたわけです。職員会議では、でもそれって「子どもあるある」だよねという話になりました。大人の「タブレット」の概念は、タブレット本体だけでなく、タブレットの中にあるゲームアプリも、それで遊ぶ行為もすべて総称しています。でも、子どもによっては「タブレット本体」しかイメージできないことがあるのです。「タブレット」と特定のアプリで遊ぶことは結びついていないことがあるのです。

普通は、「タブレットしたい?」から類推してそのアプリで遊ぶことと同義だと考えていくものですが、厳密にアプリ名で言わないと遊ぶことと結びつかないこどもがいます。状況や場面から言葉の言外にある意味をつかむ力を、メタ認知と言います。言葉は教えられますが、言外の意味は文字通り言外なので教えることができません。「違う」と言う子どもの言葉を大人が「真に受けた場合」は、提示したものと別の類型のものを提示していくので、余計に通じ合えない時間が長引いてしまう場合が良くあります。

でも、この子はメタ認知が弱いなと知っていると大人側の修正は早くなります。子どもの受け止める言葉も発する言葉も、その子のメタ認知レベルをとらえるスキルを大人が持っていれば、案外スムースにコミュニケーションができると思います。

 

内省と自尊感情

職員会議で「今日は感動しました」とY君の報告がありました。Y君はこれまで人が困っていても我関せずで、友達のために助けてあげてと言っても「なんで俺がやらなあかんねん」と文句を百倍にして返して、自分が客観的にみんなにどう見えるかなど考えもしてないようでした。そしていつもぼやいているのは「俺なんかあほやし」「働くところも将来ないし」と自己イメージも大変悪い子どもでした。

ところが、先日1年生のZ君がお気に入りのタブレットをしようとしたらみんな貸し出していてなかったので、職員が誰かZ君に貸してあげて欲しいと全体に声をかけたのです。結局、他の子どもが使い終わったのでZ君は泣かずに済んだのですが、Y君があとで職員に向かって、しみじみと呟いたそうです。

「あんな、Z君にタブレット貸してくれる人って聞こえた時、6年の俺が貸してあげなあかんと思ってん。思ってんけど、でもまだ使っている最中やったし、『貸してあげる』って言えなかった。あかんなって分かっているのにできなかった」と職員に伝えたそうです。「君の揺れる気持ちは良くわかったよ。今度頑張ろう」と職員は言葉を返したそうですが、Y君はまだ内省を続けている感じでした。

Y君は近頃「ありがとう」をいつも言うようになっているのが職員の間でも話題になっていました。「Y君、ディスるのがなくなって柔らかくなったね」と言われていたのです。これまで叱られてばかりだったのが、簡単な約束でいいので、できたらご褒美あげるのと同時に思いっきり褒めようと言うのがこの半年の支援方針でした。それが効果があったのかどうかは分からないですが、環境変化として大きく変わったのは約束した行動を褒めることを半年積み重ねたことです。

自尊感情の低い人は、そもそも褒められ経験がありません。しかも、発達障害があると、他の子どもには簡単なことでも、不注意や忘れ物で悪気はないのにいつも叱られる事が続きます。そんな彼らに、活動の前に「○○をしよう」と約束をして成功したらご褒美と共に強く褒める事を続けていくと、自尊感情は少しづつ高まっていくのです。ただ、年齢が高くなればなるほど、叱られ体験が多ければ多いほど自尊感情の積み上げに時間がかかる人は多いようです。

ご褒美について訝られる方もいますが、他者感情の読み取りの苦手な人にはご褒美の嬉しさ(感情)と褒め言葉を結びつける連合の過程が必要だと考えられます。これは失敗に罰や叱責を与えるより、永続的な効果があることが科学的に証明されています。褒められて嬉しい感情体験で徐々に彼らの心は快復していきます(感情を学ぶ:2019/11/05)。そうして自尊感情が高まれば、「良き自分」がどういう自分なのかわかってきますから、自分の課題も見えてくることになります。Y君の言葉は「良き自分」を目指した内省の言葉だったのだと思います。

終了の伝え方

X君が休憩時間にパソコンでYoutubeを見ている時、休憩時間の終わりをどう伝えればいいかという話を職員でしました。X君はスケジュール操作ができる人ですから、スケジュールに移動するきっかけをどう作るかという話です。これまでは、一律にタイマーを使っていたのですが、タイマーでも声掛けでも本人がわかるなら、声掛けをすることにしました。タイマーセットしても準備ができていない場合が多いからです。

本来タイマーは、時間の見通しを数字のカウントダウンで知らせるところに意味があります。タイマーで時間経過が読めないなら、アラーム音が声掛けに変わるだけで終了のキューとしては違いはありません。X君には、次の作業が始まるよと、Youtubeを見ている本人の目の前に作業の手順表も示して知らせているとのことでした。「休憩終わりだよと言うだけでは伝わりませんか」と聞くと、試したことがないけど多分わかるはずという事でした。

視覚支援としては次にすべきことを示すのは間違いではないのですが、スケジュール行動が確立している人なら作業手順表を目の前に示さなくても、自分からスケジュール表に向かえばわかる事です。必要以上の支援はおせっかいかも知れません。なんでも目の前に出せばいいわけではなく、本人に視覚的にもうるさくない程度に、自発的に日課を知る支援をするのが、青年期の配慮としては大事です。そして、もし本人がもうちょっと待ってという素振りを示すなら、交渉する良い機会ができたと考えればいいと思います。

 

絵カードを指で叩く

W君は公園でブランコを先生に押してほしいので、ブランコ横に貼ってあるブランコカードを剥がして先生に渡し、「ブランコ押してください」と自発の要求コミュニケーションが何度でもできるようになりました。お母さんも公園で写した動画を見て、こんなことができたんですねと喜ばれています。

ところが、事業所に帰ってきてジュースの絵カード要求ができません。絵カードを用意しても机の上に置いた絵カードをトントンと指でたたき続けているのです。「おかしいなぁ、公園ではきれいに絵カード要求ができるのに何故かな」と職員は不思議がります。

自分の欲しいものを絵カードを渡して伝えるPECSのフェイズ1は、できない時は子どもの後ろにプロンプターと言って、身体プロンプト(手を持って絵カード要求の行動をさせる)を行います。受け手のコミュニケーターは子どもの欲しいものを持って、手の中にカードを渡してくれたら、欲しいものをあげるという行動をします。

この時に、プロンプターやコミュニケーターのトレーニングを受けていない大人は、子どもが絵カードに気付くように絵カードを指さしたり、叩いたりして子どもに教えようとする人が多いのです。そもそも、子どもには指差しの意図がわかりませんから(わかっている子は言葉が出ている子が多いです)、同じように絵カードを叩きます。そして、そのあと手を持たれてカードを渡し、好きなジュースが出てくるのです。

つまり、ジュースが欲しい時は、カードを叩けば、そのあとは自動的に大人がやってくれるとW君は思ったのでしょう。けれども、まだ疑問が残ると職員はい言います。「ブランコはプロンプターもいないけどできています。ジュースのストローも自分でストローカードを取ってきて要求します。」ジュースだけができない理由がわからないと言うのです。

「もしかして、フェーズ1だから、絵カードは「ください」カードを使っていないですか」と聞いてみました。その通りだと言います。それが原因でした。「ください」カードは手を伸ばしている様子のカードです。それを示されたW君は「ブランコ」や「ストロー」や「自動車」でもないこのカードは何だろうと思い、躊躇したのです。そこへすかさず、大人の「絵カードトントン」です。そらそうなるよねと全員納得でした。

W君は絵カードの弁別ができるのです。弁別の出来る子に、意味不明のカードを渡せとやっていたわけです。フェーズ1は絵カードの弁別ができなくても取り組むので、私カードはなんでもいいと言うのがマニュアルには書いてあります。しかし、弁別ができるW君には「なんじゃこれ?」だったのだと思います。今日はジュースの絵カードを準備しました。

将棋ブーム

すてっぷの小学生らの間では、ちょっとした将棋ブームになっています。S君はおじいちゃんから定石を教えてもらい結構強いです。T君はNHKの将棋番組を見るのが趣味のようで、誰に教えてもらったわけでもないのに指し方は完璧で、相手をさせられた将棋初心者職員の指し方が違うと怒られて恐縮しています。他の小学生たちは、STコンビも師匠にして指し方から教えてもらっています。

ただ、二人が毎日来るわけではないので、一人づつ教えてもらう事になります。じゃんけんで勝った子が「師匠」から手ほどきを受けます。「あー、僕も将棋したかったなぁ」とU君がいうので「誰と?」と聞くと「Vさんと将棋したかった」と言います。「ところで、U君将棋知っているの?」と聞くと「全然知らん」というのです。なんだVさんと一緒に遊びたいってことだねと大笑いでした。

この頃はタブレットのAI将棋ソフトもあるので、コンピューター相手で覚えてもらおうとしたのですが、誰と指すかでモチベーションが違うので、そういう気持ちは大事にしていきましょうと職員間で話し合いました。ひょっとすると、すてっぷの藤井聡太が出てくるかもしれません。子どもの才能は引き出してみないとわからないものです。

今日 1000万ビュー達成!!

このブログの閲覧数が1000万ビューを達成しました。昨年の12月に指数関数的に閲覧が増えている(祝500万ビュー!: 2020/12/09)と書きました。前回は500万ビューに到達するのに20か月間、今回は500万増えるのに7か月間とどんどん加速しています。現在1日に約3万回の閲覧数で1か月に90万ビューですから、来年の今頃には2000万ビューに達する勢いです。

毎日の子どもの事や職員の気づきを掲載する「すてっぷ・じゃんぷ日記」は、じゃんぷが開設してから、学習障害や読み書障害の子どもたちの事についての内容が新たに加わっています。すてっぷは主にASDや機能的コミュニケーション、知的遅れのない発達障害の子どもの社会性が記事になっています。放デイであればどこの事業所でも課題になりそうなことが掲載されているので関係者にはよく読まれているのかもしれません。学習障害の放デイの対応はいまだに「補助学習」と認識している関係者も少なくないですが、学習障害には専門的で日常的、継続的な療育支援が必要です。地域総ぐるみで支援してこそ効果が表れることを発信していきたいと思います。

「みんなちがってみんないい」は発達障害に関する福祉や教育に関係するニュースや書籍の感想をコラム風に掲載しています。こちらは、保護者の方や教育関係者の方もよく読まれているのかもしれません。メディアのニュースは最近はほとんどがウィルス関連の記事ばかりで、選択にとても苦労しています。ここでは、もっと発達障害に関する、就学前や成人期のニュースをとり上げていきたいと考えています。引き続き皆さんの応援をよろしくお願いします。

 

共同作業

大人が声をかけてくれるまで動けない症状、指示待ちの強迫性については、(自立課題と指示待ち:05/15)に書きました。このブログの検索窓で、「指示待ち」で検索をかければ、この記事を合わせて10件ほどの記事がヒットします。指示待は受動型のASDの人に多く、表出コミュニケーションの不全から生じる事が原因としては多いのですが、これが強迫症状と結びつくとお箸の上げ下げまで指示を待つようになったりするものもあります。ただ、強いこだわり(強迫性障害)の場合は薬物治療での対症療法しかなく、長い時間がかかるケースも少なくないので、あまり本人を急がせたり否定したりせず受容的に対応することが大切だと書いてきました(指示待ちとカタトニア:02/25) 。

R君の指示待ち傾向は、さらに強まっていて、最近では缶潰し作業でも、空き缶を足でつぶすきっかけの言葉を求めるようになっています。おやつの時間でも「食べていいよ」と本人に声掛けするまでは、ひたすら待つようになっています。職員によって声掛けのタイミングが違うので余計に困っているようでもあります。職員会議で相談した結果、R君に一工程づつ声掛けをするような作業では自立性を目標にしているとは言えないので、この症状が収まるまでは、声をかけなくていいい取組にしようということになりました。

缶潰しは職員が行うことにして、R君は箱の中にある空き缶を職員に渡すという共同作業にしました。彼が促すたびに「つぶしていいよ」と一回一回声をかけるより、「空き缶取って」と声掛けするほうが、同じ行動のキュー(合図)を出すにしても自然だと考えたのです。この作戦は今のところ成功していますが、もう少しこれを工夫した形で共同作業にならないかどうか検討中です。

プログラミング学習

今年度より、小学生を対象にプログラミング学習に取り組んでいます。プログラムソフトは、学校でも使うスクラッチです。スクラッチ(Scratch)は、マサチューセッツ工科大学(アメリカ)メディアラボによって開発された、8歳から15歳の子供向けプログラミング開発環境です。

通常、プログラミングといえば構文、アルゴリズムを覚えながらひたすらキーボードを叩いてコードを書いていきます。しかし、プログラミング自体未経験な子どもにとっては、このような作業は覚えることが多く、学習の難易度が高いという問題があります。そこで開発されたのがスクラッチです。

スクラッチでは、命令が書かれたブロックを組み立てながらプログラミングしていきます。操作はドラッグ&ドロップが基本で、キーボードを使うことはありません。また、プログラミング言語特有の構文をいちいち覚える必要がなく、難易度が低いので子どものプログラミング教育として人気を集めています。

すてっぷでは、3人程で学習会をしてますが、自分のプログラムは真剣に作るが人のプレゼンは全く聞いてないとか、取り組み方が3人3様で面白いです。スクラッチは学校でも取り組んでいるものですが、プログラミングの難易度に合わせたカリキュラムまでは提供されていないので、それこそ実施機関の職員の指導力量が試されます。すてっぷでも、子どもたちと遊びながらカリキュラムを整えていきたいと思います。

当事者(小6)支援計画面談

1年のうちの前半が終わり後半が始まりました。6年生にとっては1~3月は移行期ですから、12月までを目途に中学移行前の6年生の時期の過ごし方を考えていく必要があります。すてっぷでは、通常学校の6年生は卒業です。その理由は、通常学校の中学での生活パターンは小学生と変わりますし、遊びや趣味のニーズも違います。また中学生は学習を中心に据えた生活に変わっていくからです。

すてっぷでは、以前は必要に応じて行っていた、6年生の支援計画会議への参加を、今年度より企画しようということになりました。中学でどうなりたいのか、そのために小学校の最終学年で何を目標にするのか、職員の支援計画の提案も聞きながら6年生にも考えてもらう機会です。保護者とともに話し合い、夏と冬に実施して中学の支援につなげていけたらと思います。何よりも、「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」が権利条約の根っこですから大事に扱いたいと思います。

以前にも、小学生の先輩から「俺ら障害があるからここに通所しているのやで」という発言を聞いて、「えー俺障害ないし、違うしー」と真剣に驚いていた様子(障害告知のタイミング: 2019/08/2)を書きました。自分とは何者かを考える時期に入っていく彼らには、学習の事だけではなく、学習も遊びも生き方も一緒に考えていくもので、切り離せないものだということを伝えていきたいと思います。そして、支援を享受してうまく生きていく方法を掴むことこそ、自分を生かす方法だという事に気付いてほしいと思います。

 

田んぼの田

田んぼからカエルの鳴き声が騒がしくなってきました。「田んぼの田」という鬼ごっこ遊びで職員から報告がありました。この遊びは、鬼に捕まらずに田んぼの田の文字の4つの四角部屋を通り抜けたらセーフと言う遊びです。鬼は十字の線の上しか動けません。鬼にタッチされたらその人も鬼になり、鬼同士で協力し合って移動する他の子をタッチしていきます。

この遊びをせっかく高学年が提案したのに、低学年の子どもやASDの子が面白くないということで、高学年が不貞腐れていたという報告でした。鬼ごっこはどの子も好きなので田んぼの田ものってくるかなと職員も思ったと言うのです。この遊び簡単そうですが、低学年やASDの子には難しいのです。今まで逃げていたのに、タッチされたら鬼になるのです。視点の転換の難しさのある低学年児やASDの子どもの場合、1ターンのゲームの中で役割が入れ替わる遊びは立場の切り替えができず「面白くない」のです。

鬼ごっこならなんでも面白いだろうと大人は思いがちです。子どもによって食いつきが違うのは、この役割の入れ替わりのある無しが大きく影響しています。役割交代があるから楽しい高学年児・非ASD児が、これおもろいでと示してくれたのですが、この場合は「まだ、面白さがわからんから、交代のない遊び考えてよ」という職員の支援が必要です。

お忘れ防止チェックリスト

以前、小学生の帰りの忘れ物が多すぎるので、(お帰り準備表: 06/11)に取り組んでいると書きました。4名中3名は事業所に物を忘れることはなくなったようです。まだ送りの車の中に水筒を忘れる輩がいるので、「降車チェックリスト作ろうか?」と聞くとそこまでは勘弁してくれとのことでした。ところがQ君だけ忘れ物がなくならないのです。

Q君はこれまでそんなに忘れ物が多い子ではなかったのですが、このチェックリストの取組が始まってからかえって忘れ物が増えているのです。「ひょっとしてQ君、チェックリストのボックスにチェック入れるだけの行動と勘違いしてないかな」と職員に聞いてみました。職員は「まさか」という顔をしながらも、Q君ならあり得るかもという話になりました。

Q君は、新しい行動はすぐに模倣して覚えるのですが、意味を共有することが難しいです。そのため、誤解や勘違いが多く周囲とのトラブルもおこります。このチェックリストもチェックボックスにレマークを埋めるだけの行為として理解しているかも知れません。もしも、そうなら今までの帰りのルーティンにチェックボックスを埋めると言う行動が増え帰りの行動が余計に煩雑になって忘れ物が増えているとも考えられるのです。

普通は見たらわかるだろうという場面も、場面の意味理解が苦手な子どもには、何故取り組むのかという理由と合わせて、ひとつづつ行動で教えていく必要があります。チェックリストも使い方を丁寧に教え、できたら褒めるという支援が必要です。

禁止型か提案型か?

Pさんは、手すりやガード用の鉄パイプにぶら下がったり滑り台のはしごを反対側からぶら下がるのが大好きです。ただ、心配なのは低緊張の子どもの場合、落ちた時に尻もちをつくと脊柱から頸椎に衝撃が大きくかかり、怪我につながりやすいことです。そうした理由で、Pさんが落下しないように安全に気を付けて欲しいと職員にお願いしたのです。

「気をつけてみてね」とお願いされた職員は、怪我をさせてはいけないと「危ないからそんなことしちゃいけません!」と注意をすることになります。していけないと言われれば言われるほどしたくなるのが子どもの常です。そして、昨日も書いたように、していいことに大人は注目しないが、してはいけないことに大人の注目が集まると気が付きます。そうなると「ちっとも言う事を聞かない子」になるのです。

機能的コミュニケーションの苦手な子どもに「~してはいけません」は百害あって一利なしがセオリー1です。していいことを「~しましょう」と伝えて、実行したら「えらいね」「良く切り替えたね」とほめちぎって注目するのがセオリー2です。

でも、昨日も書いたように、大人の注目を集める方法を大発見したPさんが、そんなやすやすとこちらの指示に従うはずもありません。大事なことは、こんな遊びをしましょうとPさんが好きな固有(筋肉)覚刺激系の力を入れるロープ遊びや坂遊びを開発してみんなで一緒に遊んで楽しいねという経験を積むことです。新しい遊びは教えるために大人が注目していますから一石二鳥です。子どもを「見てね」というのは、監視したり禁止すると言うより、そこに向かわないように新しい遊びを作って一緒に遊ぶということです。もちろん目を離さないで安全を確保する労力は同じですが、禁止型よりも提案型の方が子どもと仲良くなれます。

逃げる子

注意喚起行動については何度も掲載し、この予防方法は機能的コミュニケーションのトレーニングが有効と書いてきました。しかし、言うは易し行うは難しです。今年も利用者の注意喚起行動が生じています。新入生のOさんは、喃語様の発声はありますが機能的なコミュニケーションができません。でも、視覚的な認知は優れていて、構造化された環境では自分がすべきことを理解できます。通所して荷物を置いたり、外から帰って来て手洗い行動などルーティンな行動も教えれば正確にできます。

ところが先週頃からたて続けに注意喚起の逃げ出し行動が始まりました。担当者の視線が外れたとわかるとその場から逃げ出すのです。逃げる行先を考えているわけではありません。追いかけてくれるのを期待した注意喚起行動です。これは、大人に気持ちが向いてきている成長の証拠でもあるのですが、表出言語がない場合に起こりやすい行動で、長い人は思春期くらいまで続く人もいます。こうした不適切行動が起こる前に適切な要求方法を教えられれば良かったのですが、間に合いませんでした。

子どもと長く付き合う人には「本人の言いたいことはだいたいわかるから」となかなかトレーニングの必要性に気付いてもらえません。大事なのは、受け手が子どもの要求を理解することではなく、本人自身が言葉でなくても伝わって便利だと感じて使ってくれる本人側の伝達手段なのです。玩具で遊ぼう・ブランコで遊ぼうと伝えられたら、逃げる必要はないのです。ただ、逃げる行動は遊ぼうと言う表現だけでなくて、子どもにとってはとても魅力的でエキサイティングな遊びですから、注意喚起行動とセットになるとそう簡単には消去できないです。でも体が大きくなってどこまでも逃げられるようになると魅力的だから仕方がないとは言っていられません。

大人と遊びたいときに逃げれば、大人が振り向いてくれる確率は高まりますが、戸外や道路では危険な行動です。室内でも外に逃げる方が大人のリアクションが大きいので強化されやすいです。しかも、分化強化されやすい(たまに逃亡が成功するから何度も繰り返す)行動なので、大人は四六時中注目せざるを得なくなり、更に悪循環を形成していきます。Oちゃんには、PECSを導入しましょうと御家族と話していた矢先なので、家族の方にもトレーニングを受けてもらい、取り組みを開始したいと思います。

かまって

Nさんが西山登りで、かまってほしそうに職員に関わってくるので、もうおねぇちゃんだし構わないでおこうとスルーしたそうです。そうすると道端で膝を抱えて固まってしまったそうです。

他にも、かまってあげないとストライキを起こす子がいます。かまってほしい理由はそれぞれなのですが、基本はうまく伝えられずに大人に「見て見て」アピールをするのです。「どうしたの」と声をかけ続けて欲しいのです。声をかけると、しばらく頑張るのですが大人が離れるとフリーズします。

応用行動分析的に言えば、大人の注目が強化子なのです。でも、15分程度坂道上がるくらいの山道で「見て見て」が始まると「自分で頑張り」となってしまいます。注目が得られないと困りますから、もっと注目を得られる行動が始まります。移動中に固まれば、否が応でも大人は注目せざるを得ません。大人が注目をやめればやめるほど注意喚起行動は強化され、バースト(爆発)します。

つまり、注目をやめる行動と見て見ての行動の力比べは「見て見て」が勝つに決まっているのです。山に子どもを置き去りにはできないからです。このような時の解決セオリーはトークンエコノミーなどの契約制です。最初は簡単なことで契約を教え、徐々に時間を延ばしたり、ご褒美のインフレーションが起こるくらい褒美を与えていきます。この時に、誉め言葉は強化子に裏付けられてセットになるので大事です。

やがて、ご褒美を得ること以外に自分だけでできたと言う成功経験が積み上がっていきます。成功経験を積み上げて行くことで自尊感情は育ちます。成功体験を積み上げればご褒美はやがて必要なくなり達成後の本当の誉め言葉だけで自信がついていきます。時間がかかりますが双方がウィンウィンの関係性を維持しながら注意喚起を消去する方法としては、これに勝る方法を筆者は知りません。

 

痛いの!

1年のM君が公園のスイング遊具を元気すぎるくらい揺らして、勢い余って落ちてしまいました。見ると腕の肘を擦りむいています。M君痛くないのと職員が聞いても次の遊具に向かっていきます。何ともないような表情で遊ぶM君をつかまえて水で洗ってバンドエイドをしました。その後も、M君は「ボンさんが屁をこいた」(だるまさんが転んだ)にあまりルールも分からないのに表情も変えずに参加していました。

「痛くないんすかね?」「ASDの感覚鈍麻?」「助けてが言えない?」などと職員で問答をしていました。家に電話をしてお母さんに聞くと「擦りむいたらバンドエイドを貼るまでこだわります」とのことでした。帰宅時間になり家まで送っていくと、M君急に顔をしかめて、「イタイイタイ」とお母さんに大アピールを始めたそうです。

帰ってきた職員が「やっぱり痛かったみたいです」と報告してくれました。職員には痛いと言う援助要求のスキルがなかったのかどうかはわからないのですが、お母さんを見て「痛いアピール」をするL君に、「外では頑張っているんだなぁ緊張して暮らしているんだなぁ」と、しみじみ思いました。頑張れ1年。

学校の学習と結びつく支援を! Y先生のじゃんぷ通信4

学校の学習と結びつく支援を! Y先生のじゃんぷ通信4
その1 「蛾(が)まいこんだ!の巻」 

学びの広場じゃんぷは、西向日の閑静な住宅地で、桜の並木がきれいな街の中にあります。
それで建物のなかに 突然蛾が舞い込んでくることも。
職員は超びっくり・・・ 大騒ぎです。

ちょうどそんな頃です。
実は利用している小学2年生のK君は生き物が大好きで、以前から
「ぼくアゲハ蝶をそだてているんや」
「おばあちゃんの家に柚の木があって、その葉っぱでそだてているんや」
とよく話してくれていたのです。
駅からじゃんぷまでの道も、もうK君にとっては興味の宝庫です。
「きょう 木に蜜がついているのを見つけた!」
「花の中にありがいたんやで」
「蜜を触ったらぷにゅぷにゅしていた」
「でも臭おったらくさかった。先生も臭おってみて」
と先生たちや何人かの友達を巻き込んで楽しい会話になりました。
そんな日に思わぬ蛾の出現ですから、『桜の蜜→かえで→メープルシロップ→NHK番組の科学の里で作ってた』と話題は広がります。

こんな話が出てくるときはチャンスです。
理科の生き物の学習につながったりします。
国語の3年生の教材で「ハリネズミと金貨」というお話が出てきます。
「リスが木のうろから顔をだして」
クモが「おいらがあんだもの(靴下)をあげるよ」等の表現が出てきた時に読み書き障害のある子どもたちは困ってしまいます。
『木のうろこ』『木のうら』???
『おいらが あんたにあげるよ』???

職員が学校の教材の流れをつかんで、
じゃんぷの近くで「木の洞(うろ)」を見つけて写真を撮って見せました。
クモの糸で見事にクモの巣をつくっている写真を探しておきました。
それをみていた3年生のLさんは、
「あー そういうことね!」
と文とイメージが結びついて納得した顔になりました。

学校から帰っての宿題は、家庭にとってはとても大変な時間です。
そして、子どもたちの生活のほとんどは学校の学習が多くを占めます。
その学校の流れにそって、「わかった」「なるほど」と感じながら過ごすサポートが大きな力になります。学校や家庭での生活がスムーズにできる中で、伸びる力も出てきます。
学習支援をじゃんぷが大事にするのはそのためです。

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これまで「Y先生のアイデア通信」のタイトル改め「Y先生のじゃんぷ通信」と改題しました。じゃんぷでの子どもたちの様子や、学習障害を中心とした発達障害への支援アイデアを連載しています。

 

子どもの学びを支える親の会「すぷらうと」訪問記

困り感を持つ子どもの保護者のピアカウンセリング・サークル

子どもの学びを支える親の会「すぷらうと」6/12訪問記

日曜の朝10時、公民館に三々五々にお母さんたちが集まってきました。参加者は会長の山木さんら8人のお母さんたちとゲストの私たち2名です。最初は子育てに関わる公民館活動の報告がありました。その後、私たちの自己紹介と訪問の経緯を話しました。

放デイを経営している私たちのNPOでは、発達性読み書き障害に特化した支援が地域に必要だと感じ、専門支援の児童発達・放デイ「学びの広場じゃんぷ」を昨年秋に新たに開設。職員は特別支援教育や発達障害支援の出身で、学習障害の子どもや通級教員とのやり取りは多いが、乙訓の保護者と情報交換した経験は少なく、学習障害児の親の思いを知る機会を得たいと考えてきた。そんな時に新聞記事(学習障害抱える児童、タブレット支えに無事卒業: 04/03)で地元に学習障害児の親の活動があると知った。たまたま「すぷらうと」のアドバイスをしている坂根先生が教員時代の仲間だったので早速取次をお願いした。という経緯を話しました。

それから、参加された全てのお母さんから子どもたちの様子を聞かせてもらいました。みなさんとても話し上手で、何度もここで話されていることが良くわかりました。小学2年から中学高校生までの子どもたちとお母さんたちのこれまでの経験や苦労を聞きました。みなさんお話になるのは特支級入級時の様々な葛藤でした。そして、一堂にお話になるのは、登校渋りなどはなくなって今は安定しているが、落ち着けばそれいいのだろうかという悩みでした。

発達障害のある子どもたちの支援級への入級のほとんどの理由は、登校渋りなど通常学級での不適応からです。中には積極的に特別支援学級入級を希望する山木さんのご家族のような場合もありますが、多くは入級希望をしたわけではないが、子どもの安心できる居場所を作らなければ何も始まらなかったというのが共通の思いのようです。けれども、親の気持ちの中では釈然としない思いもあり、それを受け止めてくれるのが「すぷらうと」の一番大きな役割のように思いました。入級した後もその思いは進化と深化を続けており、一人で背負うには重すぎる思いが、聞いてもらう事で整理がつくこともあると言われます。

私たちも保護者支援で特に必要だと感じているのが、保護者同士のピアカウンセリング(以降略称「ピアカン」)です。しかし、放デイや学校職員の仕事の中心は子どもに対する支援です。よく、放デイや学校でピアカンを推奨する先進事例が紹介されたりしますが、ピアカンは当事者である親同士の営みですから、それを第3者が組織するのは簡単ではありません。親同士の自発的なものとは言うけれど、持続性のあるものを作るには必要な条件があります。

ピアカンを実施するには、ある程度の発達障害の基礎知識や、ピアカンのカウンセリングマインドが必要です。参加者の序列化などが生じて苦痛なものにならないように、これを支援するコーディネーターの存在も欠かせません。様々な条件をクリアするには、一事業者では難しく、「すぷらうと」のような自助団体が乙訓に立ち上がるのを待つしかないなと思って半ばあきらめていました。

ところが、「すぷらうと」は2016年すでにに立ち上がり5年間も長岡京市で活動を積み重ねておられたのです。山木さんの御長男が小学1年(現在中1)の時、ひらがなが全く覚えられず、親が必死になって手を押さえ、姿勢を正させて「鬼の仕打ち」をしていた時期があったそうです。全く効果が上がらず、別の方法を探して情報を集め、診断を受けたら、発達障害の一つで、読み書きが苦手な「学習障害」とわかりました。これは、親1人が「鬼」になるくらいでは解決できる問題じゃないと思ったそうです。そして、何より思いが共有できる仲間がほしかったのでこの会を作ったと言われます。

毎月の会合は、講師を招いた勉強会と、参加する親同士の情報交換会です。会を続けて課題に感じているのは、発達障害の理解を周囲にどう広げるかです。多動で、不注意で、姿勢が悪い我が子について、他の保護者から叱って正すように求められることも少なくないそうです。聴覚や感覚の過敏性。普通には見えない行動にも意味があるので目を向けてほしい。同じ家族の中ですら意見が異なったり、「何も問題ない」「大丈夫」と気休めの言葉に心が折たりする時もあるけど、思いを分かち合って前向くことで新しい絆を作ってきた「すぷらうと」は、この地域になくてはならない存在になっています。

この会の後、山木さんにインタビューをするのですが、話が盛り上がり過ぎて書ききれないので、機会を見てまた掲載したいと思います。今回の障害福祉等報酬改定でペアトレを児童発達や放デイで実施するように保護者1名800円程度のグループ相談加算が報酬に新設されました。ペアレントトレーニングを契機にして、高まり合った親同士でピアカンが始まれば、持続可能性が高いことは様々な調査研究で分かっています。「すぷらうと」のような自助団体が地域にあれば、ピアカンを求める親の居場所にもなっていきます。一事業所、一団体の力は小さいですが、お互いが連携しあい、共通の思いを束ねることができれば大きな力になっていくと思います。

すぷらうと お問い合わせ先(メール)

100マス計算

J君の宿題に一桁の加算で百ます計算が出ていました。教員経験のあるものは懐かしい思いで見ていました。J君は繰上りのある加算も得意です。ます計算は教員にとって忙しい時にも役に立ちます。縦横10個の数字を書きクロスした左上に加減乗除の記号を入れたら100問のトレーニングができるからです。子どもによっては10個の数字を減らせばその子の耐性に応じて出題数を調整できます。

また、普段はランダムに数字を並べるのですが、たまに数字を順序数で縦横同じ数字で出題すると加算の場合は、全て端から順番に順序数が並ぶ法則を掴んで計算せずに仕上げることに気が付く子がいます。そのほかにもかけ算なら対角線より上と下の答えが対象になることに気づいてきます。この力が観察できれば、法則を掴む9歳ころの発達に差し掛かったなと考えることができます。ただこれは直接観察が必要ですから保護者にお願いしたりします。

しかし、注意したいのは学習障害など空間認知の弱い人は縦横の位置が取れずその位置を特定するだけで、学習パワーの8割がたを使ってしまい、残り2割で計算するはめになります。空間認知力や視知覚の弱い人には一行ずつ見えるようにスリットなどのツールを与えることが大事です。このチェックを怠ると、子どもによってはせっかく計算ができても、とても時間がかかってしまい地獄の苦しみを与えることになります。子どもは、他の子はできているから、自分に努力が足りないと思ってしまい自尊感情を下げてしまいます。百ます計算出題者は子どもの凸凹の特性にご注意ください。

スケジュールの間違った使い方

新しい子どもに見通しをつけさせたいと、貼り付け式のスケジュールを使う人がいます。子どもは日課に見通しを持ちますが、このスケジュール表を「魔法の表」と勘違いする子どもがいます。対人相互性(対人関係)が弱いASDの子どもはこのスケジュールが大人との関係性で契約された表だとは微塵も思っていないのです。

スケジュールを最初に教えられた子どもたちは、この表に自分の好きな玩具遊びや公園行きのプログラム絵カードを貼り始めます。そして、嫌いなプログラムを捨てます。職員は「だめでしょ」と注意したり、動かせないスケジュール表(印刷したり上から透明板で固定する等)を使わせようとします。(使えんちゅーねん!)

スケジュールスキルは、PECSでは文フレーズを作って要求するフェーズ4以降に登場する高度な社会的適応のスキルです。PECSではコミュニケーションのトレーニング段階と並行させて移動スキルや交渉スキル、要求スキルについて段階を追って教えるようにしています。「~したら~しようね」の交渉が通じない子どもに気に入らないスケジュールを示せば、スケジュール上で混乱が起こるのは自明の理です。PECSマニュアルの243ページから30ページほどは、子どもと交渉をどう成立させるか目から鱗の落ちるアイデアが満載です。ぜひお読みください。

 

 

自己決定と自立通所

じゃんぷを利用しようかなと考えている高学年や中学生の子どものご家族にお願いしたいことがあります。じゃんぷは発達性読み書き障害を中心とする学習障害のある方の療育をしています。じゃんぷの療育は、すてっぷの遊びや生活の中から題材を見つけて療育するという生活型療育ではありません。検査など詳細なアセスメントをもとに、読み書き計算が困難な障害そのものに焦点を当ててピンポイントで支援する学習型療育です。

つまり、本人の「今より字が読み書きできるようになりたい」「学習がわかるようになりたい」という願いや決意があって成立する療育支援です。もちろん、トレーニングばかりでは息が詰まるし、学習はショートインターバルが適している子もいますから、個に応じて支援の方法は変わりますが、基本はバイパス法を用いた仮名訓練(聴覚法)やT式ひらがな音読支援、ICTを使った読み書きトレーニングを継続して行く必要があります。つまり、「良くなりたい!」という動機なしには学習が成立しないのです。また、療育で学んだことは自宅に戻っても続けていけるようになる、自学自習のマネージメント力もつけていく必要があります。

しかし、最も必要なのは自分の意志で通所することです。自分の力でじゃんぷに時間通りに通う力です。なーんだ、そんなことかと思われるかもしれませんが、学校の通学は近所の友達や集団の力が働いていますが、通所は基本一人です。雨が降ったり、暑さ寒さ、帰り道の心細さ、空腹、通所するには当たり前の出来事ですが、こういう変化に適応しながら毎日ではなく決まった日時に通所しなくてはなりません。

私たちは、通所の場合、自宅から療育は開始されていると考えています。人に言われてするのでなく、自分で選んで、選んだことを物理的には自分だけの力で続けていくこと、こうした行動はこれまであまり求められなかった行動です。通所の最中は、いろんなことを考えます。学校での事、成績の事、親の事、自分の未来、好きな人の事。良いこともあれば悪いこともあります。往復の時間、子どもたちは様々なことを考えます。その時間が大事だと私たちは思います。思春期は自分とは何者かを考える時期です。親がいうから通う道のりではなく、親は勧めたが自分が選んだ道のりであることを自問自答する経過が、しんどい時こそ大事だと思います。

じゃんぷの療育は、こうした自己選択の道のりを文字通り通い続ける中でしか成立しません。もしも、お子様にじゃんぷの療育をお勧めになるなら、「自分で決めて通い続ける」最初の決意はとても大事だということをお子様にお伝えください。そうした「お約束」がじゃんぷの職員ともできるなら、君が挫けそうになってもみんなで支えていくから、心配しなくていいとお伝えください。

「教えるとは、希望を語ること 学ぶとは誠実を胸に刻むこと」

 

 

 

 

絵カード ポイッ!

今日の、I君のスケジュールには最初に公園遊びが入っていました。ところが、職員が確かに入れたはずの公園絵カードが貼ってないのです。おしまい箱を見てみると「終わった」ことになっています。I君だなとわかりました。実は今日の天気は雨こそ降っていないのですが、曇っていて怪しい感じはあります。I君の苦手は「雷音」です。雷が鳴ると怖いのです。

I君はおしゃべりもできるし、人を笑わせるのも好きな子です。けれども、人と交渉するのが苦手なのです。交渉が苦手な人の多くは、嫌なことや困ったことも訴えることができず一人で「解決」しようとします。今回は、スケジュールにある「公園行き」でもしもの雷音に見舞われないように、自分の「公園行き」をないことにしたのです。

それに気づいた職員が「どうだろうねー、雷鳴るかもしれないけど鳴らないかもね、とりあえずみんなも行くし行ってみない?」と大好きな子も行くことがわかったのか、「なら行こっかなー」と自分で決めました。話してみれば否定的な情報だけなく肯定的な情報もある事が分かります。でも、人に話しかけない限りはその情報は得られません。

また、人に自分の困った事を聞いてもらうだけで、そんなに深刻な感情があったわけではないことも自覚できます。今度はスケジュールから絵カードポイを見つけたら、その絵カードを持って「あのさー このスケジュール困っているけどどうしよう」と交渉に来てくれるように支援しようと思います。公園行の車の中では安心したJ君のおしゃべりが楽しくはじけていました。

お帰り準備表

小学生の不注意傾向の子どもたちの忘れ物が後を絶ちません。以前は職員が全て子どものカバンの中に入れていましたが、それでは意味がないと言う話をしました。しかし、「~は持った?」「水筒は今日は持ってきた?」などと口頭で確認するのも高学年の子どもにとってはうざい話です。

どうすれば忘れないか。チェックリスト・スキルを教える事と答えは分かっていたのですが、なかなか取り組めませんでした。取り組めなかった理由は簡単です。そう簡単にチェックリストをつけるとは思えないからです。チェックリストをつけることを忘れるからです。そこでまた、チェックリストをつけたかどうかのやり取りを子どもとするとなると職員にとっては、結局口頭指示を行う事になり二度手間だと賛同されなかったのです。

それでも、実施しようとなったのは、今年の6年は全員不注意傾向が強く誰かが必ず忘れ物をする日が続いたからです。チェックリストをつけつけたチェックリストを送りの車の職員に渡さない限り車は出さないことにしたのです。案の定、H君が「面倒くさい」と怒り出しました。確かに、子どもたちと一緒にどうすれば忘れ物をせずに帰れるかと言う協議をすればもう少しスムースに導入できたかもしれません。さて効果はいかに?

忘れる原因

帰りの行動がスムースになったと言うG君(タイマーは自立のため: 02/05)がこの間タイマーが鳴っても動かないという報告があり、何故だろうと議論になりました。記録を見てみると新年度になってから、動かないことが散見されます。次第に職員はG君は動かないものとして、声をかけたり距離を縮めて帰り支度の指示をしていたようです。

そもそもは、武漢風邪の感染予防臨時休校やら、連休やらで生活リズムが崩れたか不眠が続き体調が思わしくなかったという事があります。しかし、直接の要因は、適応行動が崩れた場合は一歩前に戻るという支援を職員が忘れていたことです。

3学期の終わりころ調子のいい時は、タイマーが鳴ると①タイマーを止める②スケジュールに移動する③今していたカードをおしまい箱に入れる④スケジュールの最後の「帰る用意」カードを「今やることエリア」に貼る⑤帰る用意をする という5つの一連の行動ができていました。

タイマーが鳴っても動けないなら、ここではタイマーを切る動作を身体プロンプトします。それでも動かないなら、身体プロンプトでスケジュールに向かわせます。大体これで、スケジュール行動は思い出すはずです。タイマーを消してスケジュールに向かう行動は手がかりがないので記憶が薄れやすいのかもしれません。

そして、この間動けない時に声掛けをしていたので、声がかかったらスケジュールに行くルーティンに置き換わったのかもしれません。大事なことは、子どもが何故自立的に動けなくなったか職員が分析をすることです。そして、支援のコンセプトや目標は「自立・自発」だということを忘れないことです。子どもが行動を忘れている時、職員も行動や目標を忘れていることが少なくありません。

要求は交渉スキルにつなげる

新入りのF君が事業所についたとたん、靴も履き替えずカバンも所定の場所に置かずに玄関からタブレット置き場に突進してタブレットをゲットしてしまったので困ったと言う報告がありました。F君は機能的な自発の表出コミュニケーションがありません。職員の関心は、学校から帰ってきたらまず靴を脱ぎカバンをロッカーに入れ手を洗うことです。しかし、新入りのF君はまだ日課を理解していません。

けれども、送迎車の中で「今日はタブレットして遊ぶんだ」とF君は考えていたのだと思います。これは良いことです。「~がしたい」「~が欲しい」という要求があればルールに沿うようにも交渉ができるからです。要求のない人には交渉が成立しないので、形だけしか教えられません。でも動機があれば意味を伝える事ができます。「タブレットをする前に、手を洗いましょう」など「~したら~できる」という対人交渉が成立します。

子どもが欲しいものを、子どもの手に届くところに置かないようにすることや、要求する時の「ください」カードを準備する事、そして、トレーニング場面ではないのでプロンプターがいなくても臨機応変に子どもに対応する事ができれば交渉の条件は成立します。すぐにタブレットをわたさず子どもが届かないように高く掲げながら、「靴、カバン、手洗い」と指示してできたら「良くできたね」とタブレット渡して褒めればいいと思います。

子どもに余裕がないなら最初の交渉は指示一つだけでも良いと思います。子どもが好きなものなら、指示されたことをして要求が叶えば子どもは交渉の意味を理解できるからです。交渉スキルは要求スキルと同時に、最初から教えることが原則です。スケジュール理解は交渉スキルが成立していないと、スケジュールで気に入らないカードを捨てたり勝手にカードを入れ替える子どもが少なくありません。交渉は最初に教えることが大事です。

トランプゲームと心の理論

E君と職員がトランプをしました。「ババ抜きを教えたけど意味が分かりづらかったみたいです」と職員が報告してくれました。E君はASD児で数字は大好きな子です。神経衰弱は結構覚えていてゲームが成立します。ただ、3人以上で行うようなルールは間がないので難しいようです。

神経衰弱の面白さは、めくったカードと自分が覚えている場所のカードが一致したときのうれしさと取ったカードが増えていく楽しさです。必ずしも競争心がなくても取り組めます。一方、ババ抜きはカードが先に無くなる面白さですが、これは競争心がないと楽しくないのです。

さらに、ババを相手が選ぶとカードが減らないので困ってしまうのが面白いと言う相手の心の変化が楽しいのです。また、自分のジョーカーカードを相手が引き抜きやすい場所にしたり、その裏をかいて普通は引き抜きかない場所にジョーカーを仕掛けます。引き抜く側も同じように心理戦をします。

つまり、相手の心を読む面白さがババ抜きの楽しさです。つまり相手を欺くという心の理論が育っていないと面白くもなんともないのです。同じカードがきたら上りに近づくということまでは教えられても、この心理戦の面白さは心の理論の成長がないと難しいのです。トランプを含むカードゲームは、対象の子どもがどういう面白さがわかるのか考えて取り組む必要があります。

心の杖2

Dさんがタブレットを持って車に移動しようとしたので、タブレットを置いて車に行くように職員が指示をしました。普通なら正しい指導です。でも、Dさん今日はお気に入りのクマさん持ってきていません。案の定、持って行く持って行かないのやり取りが続き、最後はギャーと大声を上げてパニックとなりました。こうなると、認めるしかなく、認めてしまえばDさんは「要求を通すには大声で叫ぶとたまに認めてくれる」を学習します。

前回(心の杖:2020/01/13)に書いたように、移動など場面の切り替え時に不安になる人は「心の杖」を支えにして行動することがあります。人によっては杖は木切れの棒であったり使い古しのタオルであったり、お気に入りだけどボロボロの人形だったりします。スヌーピーに出てくるライナスがいつも引きずってくる毛布(ライナスの毛布: 2019/12/03)がそれです。これを汚いから等の理由で取り上げてしまうと、子どもは動けなくなってしまうか、うまくしゃべれない人は怒り出すのです。

Dさんは、この日お気に入りのクマさんを持ってきていませんでした。忘れても移動ができるのは良いことなのですが、肝心な場面になると必要な時があるのです。ところがクマさんはいないとなれば、皆さんならDさんがどんな行動をとると予想しますか?何かお気に入りのものを持って移動する可能性があると思いませんか?今回はそれがタブレットだったのです。それが職員に分かっていれば、駆け引きしなくてよかったので二人に申し訳ないことをしました。車に移動したDさんは、移動が終わったので快くタブレットを返してくれました。

あなた達って誰?

B君C君が部屋に入るときに何が楽しいのかギャーギャー大声で叫ぶのでうるさくてたまりません。そこで、事が起こってから怒っても効果がなく、最初に約束をすることが大事と言う原則を思い出して、職員が「あなた達、さっき部屋に入る前に階段でものすごくうるさかったので、今度下に降りるときは静かに降りてください」と約束しました。

その直後、階段を降りるときさっきの話はなかったかのように大騒ぎで降りて行くので職員は頭を抱えていました。「その時C君、D君って個別に呼び掛けましたか?」「いいえ、あなた達と言って約束しました」「たぶんそれかな」ここの子どもたちは「みんな」とか「あなた達」と2人称複数形で呼ばれると自分の事と認識しない人が多いのです。

また、「あなた達、うるさかったよ」は、「俺じゃないよ、あいつだよ」と思うこともあります。自分のしたことをフィードバックするのはとても苦手な子ども達ですから、子どもと約束する時は固有名詞で呼ぶのがいいよと言う話になりました。

 

 

PECSワークショップ

すてっぷではPECS(絵カード交換式コミュニケーション)の手法を使ってコミュニケーションの支援をしていますが、保護者の方が家で取組んでこそ効果が上がるので、今年度から支援計画の際に保護者の方にPECS支援についてのレベルを確認をするようにしました。

1 保護者がPECSのレベル1ワークショップを受けて家でも子どもに取り組む場合は、事業所でも子どもにPECSトレーニングを実施していく。

2 保護者がワークショップを受けていない場合は、事業所でのコミュニケーション支援はPECSの手法を使うのみとする。

つまり、保護者のワークショップ受講をされている利用者にはマニュアルに沿ってトレーニングを実施します。それ以外の方は、これまで通りPECSやピラミッドアプローチ(応用行動分析に基づいたアプローチ)の手法を使って療育を継続します。

現在、当事業所でワークショップに参加されている利用者は4名です。また、新入会の方が新しくワークショップを希望されています。常勤職員は法人全体で9割の方が受講しています。

学校ではPECSに取り組んでくれないとお悩みの方や、子どものPECSを使う機会を増やしたいとお望みの方は、当法人の事業所までご連絡ください。また、保護者の方でピラミッド社で講習希望の方もご連絡お待ちします。現在は全てリモート学習ですので講習会に出かけずWi-Fi環境のある場所ならご家庭でもお友達と一緒の場所でも受講することができます。土日2日間受講(平日午前4日間受講有)教材付きの受講料は一般: 39,000 円,3人以上団体 : 34,000 円,保護者 & 学生: 29,000 円,PECSサークルメンバー: 34,000 円となっています。

●ワークショップ

1 コミュニケーション
 PECSレベル1ワークショップ
 ASD学習者に上級のコメントや言語概念を教える指導法
 「ダメ」って言っていいの?どう伝えるの??
 PECSレベル2ワークショップ
 9つの重要なコミュニケーションを教える
 一日の中にPECSを組み込む
 お家で楽しくレッスン!
 PECSリフレッシャーセミナー
 PECSスタートアップ?
 PECSから音声表出コミュニケーション機器への移行

2 PECS
 PECSレベル1ワークショップ
 ASD学習者に上級のコメントや言語概念を教える指導法
 ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン PECSフェスティバル2021
 PECSレベル2ワークショップ
 一日の中にPECSを組み込む
 PECSの概要
 PECSの復習と問題解決
 PECSリフレッシャーセミナー
 PECSスタートアップ
 PECSから音声表出コミュニケーション機器への移行

3 行動
 応用行動分析入門(PAE®︎ =The Pyramid Approach to Education®︎)リフレッシャーセミナー
 応用行動分析入門(PAE®︎) 教育へのピラミッドアプローチ®️
 お家で楽しくレッスン!

基準のあいまいな理由

A君の検査を児相で行うと発達指数が高かったので、療育手帳を返すように言われ返上したそうです。療育手帳がなくても法律上は児童通所支援事業は使えますが、このままではサービスが使えなくなるのではないかと保護者の方は心配されています。例えば、京都市療育手帳交付要綱での目的は、「第1条 この要綱は,知的障害児及び知的障害者に対して(中略)これらの者に対する各種の援助措置を受け易くするため(中略)知的障害者の福祉の増進に資することを目的とする」とあり、知的障害者の判定に基づくものです。ただ、国は知的障害の基準を定めていません。従って、判定を任される各自治体によって境界域の人の知的障害の判定範囲が違うことがあります。

判定にあたる児相や知更相は、概ねWHOが定めたICDの知的障害の基準で、各相談所の心理士が検査し医師が診断することになっています。その大枠は、知能検査の平均を100点としたときに2標準偏差(30点)以上低いと知的障害の範囲内だとしています。しかし、IQが70を超えていても日常生活が困難な人たちもいますから、こうした人も知的障害として診断し療育手帳を発行しています。ICF(国際生活機能分類)では社会参加の状態を健康の基準にしていて、IQだけで判断してはいけないとされています。逆に、IQが70近辺でも学習や生活に支障がなければ知的障害とは言えない場合もあるかもしれません。

障害はその国の文化の状況にも影響され、知的障害の判定もまた時代や環境に影響されやすいと言えます。これが、基準があいまいな理由なのです。しかし、ここまで書いたように、あくまでもこれは当事者が困っているなら最大限に適用してしてサービスに結びつくようにしたものです。境界域の人を決まった数値で足きりしないために境界を曖昧にしているのです。下の図は正規分布のグラフですが、グラフのIQ85〜70の知的障害の境界域は空白ではなく連続的に続いているのです。ここから知的障害にしますと言う線引きは科学的でも公平でもないのです。

同じようなことで、特別支援学級や支援学校に在籍していたら児童通所サービスは行うが、通常学級在籍の人には受給者証を発行しないというようなことを平気で言う行政官がいるそうです。世界の特別支援教育の流れは、在籍でサービス量を決めず、個々人の特別なニーズでサービス量を決め、障害のあるなしに関わらず通常のインクルーシブな環境に入れようとしています。それなのに、特別支援の在籍がないと児童通所サービスが受けられないとなれば障害のある人をどんどん特別支援学級や支援学校に囲い込むことになります。これが多様性社会と逆行するのは、ちょっと想像すればわかることです。在籍で線引きをすれば決める人は楽でしょうが、境界域の人は通常学級で生活や学習に困難を抱えていても療育サービスを受けることができません。

確かに、学校も在籍で特別支援の人員など財政的根拠ができるのでサービスの必要な人にはできるだけ特別支援学級在籍に誘導します。その結果、今の特別支援学級は一昔前なら通常学級にいた人がたくさん在籍しています。その分、昔は支援学級にいた子が、支援学校に流れ込んで、都市部ではこれが支援学校の過密を生む原因の一つにもなっています。しかし、これは学校定数法が多様性社会と言う名前すら生まれていない大昔に作られた法律であることが原因です。ゆくゆくは欧米のように個人のニーズで決まるバウチャーサービスのように変化していくと思います。

サービスの正しい在り方は、一人一人の個性を見てその弱い部分に支援が必要なものかどうか、社会の変化に応じて支給の是非を考えることです。数値だけで判断するポンコツ診断や、特別支援の在籍の有無でサービスの有無を決めてはならないのです。通所支援事業の対象も明確な基準を設けていないのは、困難は個人や家庭の状況によって違うので、相談内容で決めて行こうという事になっているからです。先ほども述べたように、このあいまいさは境界域をできるだけ不利にしないという趣旨からです。

児相の判定が知能検査の数値に引っ張られすぎていると感じる時もあります。知能検査の数値が安定するのは高学年以降ですから、それまでは疑わしきは支援すればいいのだと思います。療育支援は早い方が効果があり、不必要な支援は子どもの方から断ってくるものです。そして、時期を逃すと療育支援のコストパフォーマンスはガクンと落ち、当事者の受け入れのモチベーションもなかなか上がらないものです。問題が大きくなってからの対症療法的支援よりも予防的な支援の方が良いのはどんなジャンルでも同じです。

 

発達検査

Zさんが今日も漢字に苦しんでいます。見ると中学年の漢字のドリルです。1学期も半分が過ぎ、どんなに資料がなくても、もうそろそろ子どもの事がわかってきていいはずです。特に学力は認知面と連動しており、検査報告があればどんなにポンコツな検査報告でも出来不出来の報告で察しが付くはずです。

ブロックデザインと言って立方体の6面の色形が違う積み木を4つ組み合わせて平面モデルと同じ模様を作る課題で、斜めの構成が難しいと書かれています。ひし形模写も歪み、人物完成も片方に書かれている耳や頭髪を見落として描いていません。漢字は斜めの構成や左右のバランス、全体を見渡し細部までの模写力が問われる課題です。発達検査では例えばこのように学力が何故つかないかが推測できるのです。

また、漢字書字の困難の背景要因の8つのタイプに分けることができ、①視覚記銘力の困難 ②図形構成力の困難 ③書字の継次処理能力の困難 ④手指の不器用さ ⑤全般的な知的機能の困難 ⑥注意力の困難 ⑦発達性読み書き障害の症状 ⑧発達性Gerstmann症候群の症状と様々な原因がわかっています。

ところが学習は積み上げだと信じて疑わない教師は、こうした視空間認知のことが理解できないので、1年の漢字の次は2年と進めたがるのです。せっかく検査をしたのに実際の現場で何の役にも立っていない検査は少なくありません。通常学級の教師ならまだ仕方がないにしても(発達心理学は教員養成の必修ですが)特別支援教育についている教員がこれでは困ります。しかも、その検査が部署は違うにすれ、同じ学校で実施されているとすれば信用問題ですし、何よりZさんが検査で頑張った努力が水の泡です。

 

 

子どもが怒るわけ

先週の土曜日お天気が良かったので小学生チームは第2鉄塔まで登ってお弁当を食べて思いっきり遊んできたそうです。とても楽しく遊んだと言う職員の報告だったので、他の職員がY君に感想を聞いたそうです。すると突然嫌な顔をして「なーんも面白くなかった」とけんもほろろだったそうです。

Y君はみんなの中で一番はしゃいでいてそんなはずないと職員が言います。よく考えてみるとY君は決まった職員にいつも嫌悪的な反応をするのです。その場の理由がないわけではないのですが、どちらか言うとその職員を敵と決めているようです。それならY君に話しかけないでおくと職員が言うので、それは余計に誤解を増やすだけだと止めました。

ABC分析で考えると、「職員が質問してくる」「職員をディスる」「職員が黙る」という職員を黙らせるためのルーティンです。確かに、話しかけなければ、黙らせる必要もないのでこの関係性は終了しますが、Y君に相手を黙らせたければディスり続ければいいという間違った学習をさせてしまうし、見放されたと言う誤解も与えます。子どもの気持ちと行動は大人よりはるかにアンビバレンツです。

まずは、何が腹が立つのかを聞きます。そして「ごめんね」「そんなふうに思ったなら辛かったね」「仲直りしてね」と言います。職員が子どもの言い方に腹が立ち、黙り込んで暗黙の怒りを示す事があると思いますが、他者感情が読みにくい子には逆効果です。「勝った」と誤解するか「もっと言ってやる」とバーストさせてしまうかのどちらかです。

子どもは腹立たしいことを言いますが、大人に歯向かう意図はなく、つもりに積もった疑問を怒りに任せてしまい上手に表現できないだけです。乱暴な言い方のあれこれには反応せず、怒りの理由を子どもに穏やかに尋ねてみることが大事です。

 

マッチングの力

X君は言葉のないASDの利用者です。新しい環境では要求がなかなかでないので職員もあれこれ働きかけるのですが振り向きもしてくれません。ところが、他の子のために台の上に積んでおいた自立課題のかごをみてきらりと目の奥が光ったように見えたので、試しにマッチング課題を取り組んでみると、どんどん取り組んでいたという報告がありました。

X君は昔から発達障害のある子どもへの民間療育に通っています。そこで長く「概念学習プログラム」を取り組んでいるそうです。これは、簡単に言えばすてっぷや自閉症の専門療育では良く取り組まれるプットイン教材やマッチング教材、組み立て教材のことです。30年以上前からあるプログラムで主に認知レベルを引き上げ言語に結びつけていくことを目的にしていると聞きます。

すてっぷでは、認知面を引き上げることよりも「一人で取組み完成させる」自立性を大事にしています。これは、就労場面での作業などを意識したものです。もちろん、最初は職員と対面で新しいものに取り組むところは他のプログラムと同じですが、概念形成や言語獲得を狙ってはいません。そして、一人で準備し一人で完成し一人で片づけて「よくできたね」と褒めてもらって自尊感情を高めることを狙いとしているので、つねに職員が付かないとできないような課題はしないことが原則です。

さて、マッチング課題でX君は色マッチングが得意のようで、すぐに仕上げてもっとやりたいという感じです。それならと職員も夜なべしてたくさんのカラーマッチングの教材を作りました。ASDの子どもは目で見てわかるものが好きですから自立課題にはまりやすいです。X君のような子が大勢いると職員も教材開発に俄然力が入るので、ありがたい存在ともいえます。さて来週はどんな新教材ができるでしょうか楽しみ楽しみ。

小さい「つ」の入る言葉 Y先生のアイデア通信3

小さい「つ」の入る言葉、どれぐらい集められる?

Y先生のアイデア通信3

放課後デイ「じゃんぷ」に来ている子どもに、みんなで協力して小さい「つ」のある言葉を集めてくれないかと話すと、3年生の女の子がどんどん集めてくれました。
そして先日100個集めることができて、終了。その女の子が協力してくれたほかの子に手作りメダルを作って渡す用意をしてくれました。一つのことに何日も取り組んでくれた上に、「お母さん、ほかに何かない?」と聞くなど、家でも話題にするほどずっと気にかけていてくれていた、その子のエネルギーにも感動でした。

小学校での読み書きや日記や作文の場面で、よく困るのが小さい「つ」の入る言葉です。
1年生の授業で1~2時間学習するのですが、なかなか定着できず、場合によっては中学生になるまでレポートや感想文を書く際に抜けて記述しているケースもあります。

小さい「つ」音は、ほかの伸ばす音、小さい「や」「ゆ」「よ」等と合わせて特殊音節といって、普段話し言葉では使っているのですが、書く時には特有のルールを知る必要があるのです。
しかし、ルールが定着することなく、経験的にその言葉をみてどっちかなと悩んでいるだけの学習だと、正確には定着されにくいのです。

では子どもたちが、その特殊音節(ほかにもカタカナで書く言葉)のある言葉を日常的にどこまで知っているでしょうか?大人でも小さい「つ」のつく言葉を何個集められるでしょうか?

読み書きのルールと言葉集めが結びついて分かっていくことが大切なのです。繰り返し書いて、プリント学習するだけでは難しいのです。言葉や文を読み書きする時に、こんなルールになっているんだと分かっていることが必要なのです。

言葉が通じない

視覚支援を嫌う支援者が使う常套句に、視覚支援など使わなくても子どもは日課を理解するし、怒ったり泣いたりするのは他に自分のやりたいことがあるときで、そんなことは誰でもある事だから我慢させるのも教育だと説明をする人がいます。たぶん、こういう人は海外等で言葉が通じない体験をしたことがないのだと思います。言葉が通じなくて生活がスムースに行かないと本当に自分が情けなくなり、自尊心が持てなくなり、更にコミュニケーションを避ける悪循環に陥ります。

言葉の通じない環境で最も困るのが相手の誤解です。我々が言語を理解していると現地人に思われることです。そうなると、何の配慮もなくフレンドリーにベラベラ話しかけ、我々がちぐはぐなことをすると逆に怒ったりします。さらに困るのは緊急時です。物をなくした、体の調子が悪い、想定外の事が生じた場合、我々も焦って混乱しているので、いつものカタコトのコミュニケーションも取れなくなります。

誰でも何回か同じことを繰り返せば言葉がわからなくても予測はついてきます。しかし、そのことと今起こっていることを正確に理解したり情報を求められるかどうかは全く違うのですが、言葉がわかってきたと誤解されます。教育や療育の現場で絵カードを使わずに、この子は分かっていると言う人はこれと同じです。「この子はわかっている」と一見子どもを持ち上げたような説明は、機能的なコミュニケーションの困難な子どもには迷惑なだけです。

コミュニケーションは人権だと言われる時代に、機能的なコミュニケーションが困難な子どもに視覚支援をはじめとする代替手段が必要ないと公然と発言する人がいるのはとても残念です。私たちが視覚支援の成果を地道に発信していくしかないと思います。かたくなに視覚支援を拒む人の中には、かつて視覚支援にとりくんでいたのに、周囲の理解がなく傷つけられてトラウマになっている方も見かけます。この国は、同調圧力が強くて事実や内容の議論にならず、自らと異なる意見を認めようとしないくせがあります。それが支援者や保護者を傷つけていくのだとすれば悲しいことです。言葉が通じる人同士でも真意が伝わらないのですから、言葉が通じなければ推して知るべしでしょう。

 

そのタメ口どうします?

低学年のT君がカードゲームの際に、高学年のV君に対してカードを「早よ(早く)配れや!」とため口をたたいたので、指導したという職員の報告がありました。T君は最近仲間とのやり取りの楽しさがわかってきた子どもです。そこで、ASDのT君に今高学年とのやり取りのルールを入れるのは彼のやりとりの自発性を抑制してしまわないか話し合いました。

友達同士で遊んでいる時にため口なのはむしろ自然です。ただ、事業所は年齢の違う子どもたちで遊ぶことが多いので、高学年に対する言葉の配慮が必要となります。しかし、T君にとってはこのルールは結構難しいハードルです。今はT君に「ため口でなく、言葉の最後に「~ね」をつけましょうと教えなくてもいいのではないかと話し合いました。ルールに従順なT君に微妙な対応を教えることで遊びのやり取りの際に混乱して自発性が失われるのを危惧したのです。

ここは、低学年児からため口叩かれても受け流したV君を褒めようということになりました。そして、高学年に憧れる低学年児は言葉まで真似するけど、高学年の人が手本を見せれば、きっとそれも真似をするから長い目でT君らを見守ってやって欲しいとお願いすることにしました。学校では「ちくちく言葉ふわふわ言葉」として通常級でも扱うコミュニケーションルールですが、機械的に教えようとするのではなく、その子によって、所属する集団によって教えるタイミングがあると思います。

子どもの行動に対しての「何故」「どうして」を大事に

S君の支援計画作成会議で行動の切り替えが悪くふてくされていたりしんどそうにすることが多いので、感情の表現カードを教えたいという提案がありました。子どもたちに「うれしい・悲しい・元気・しんどい・好き・嫌い」等の感情の表現を教えることは大事です。その感情を絵で大人に理解してもらい不適切行動を爆発させずに、カタルシスを得ることは、ASD利用者のケースで私たちは経験してきています。

S君の場合、家への帰り際に「帰りたくない」と固まったり、トイレにこもったりするので、同じように感情の表現ができればうまくいくという提案です。でも、S君は「帰るのは嫌だ」と表現しているのですから感情表現ができていないわけではありません。S君は「帰りたくない」その理由をうまく言語化できないことに問題があり、理由を述べる6歳前に芽生える論理力がまだ未成熟だということです。

しかし、S君の言語力を引き上げることは急には難しいです。S君は自力で通所はできるのですが、事業所から一人で帰ると言う切り替え時に、気持ちが行ったり来たりするようです。私たちは、半年間、彼のためらいを見守ってきたのですが、どうも彼だけの力で決断は難しそうでした。5月からは「約束だから、帰りなさい」と促すように変えました。

嫌な理由の言語表出が苦手で「カタルシス作戦」が望めなくても他の方法があります。しんどいと言ったりトイレにこもる彼の行動が、注意喚起だとすれば、良い行動にたくさん注目してその「勢い」で帰宅行動に切り替える、つまり「さすがは高等部!」と褒める事かなと話し合いました。S君はできて当たり前で失敗すると注意を受けるタイプの子どもなので、褒められて注目されることは少ないからです。

何かの手法で成功しても、成功したのはあれこれの手法の前に的確な分析があるからです。間違った手法を使う事で成果が出ないばかりか、子供に悪影響を与える事もあります。支援者の子ども理解が不十分なことが原因なのに、あたかも手法が問題であるかのように「構造化は無駄。視覚支援は意味ない。PECSは効果ない」等と誤解されるのはとても残念なことです。子どもの行動に対して、「何故?」「どうして?」と常に問いかけ最適解に近づこうとする支援者の姿勢が大事だと思います。

ボタンキラキラBOX2号機(改良型)

前回、VOCAが使えるようになるには、まずボタンに興味を持つことが必要で、そのための玩具の開発が必要(ボタンキラキラBOX1号機: 04/22)と書きました。しかし、1号機のボタンはパナソニック製で頑丈ではあるのですが、イルミネーションセットのボタンには適していないオンオフ切り替えのオルタネイトスイッチです。また、Rちゃんは机のものはなんでも投げるので固定しやすい安価なボタンを探していました。

探せばあるものです。アーケードゲーム機用の直径6cmドーム型スイッチが12V LEDランプとモーメンタリのマイクロスイッチ付きで460円という手ごろな値段で売り出されていたのです。ボタン自体も押せば光るパターンと押せば消えるパターンの両方の設定ができます。後者は通常ボタンが光ったままで興味は持たせやすいですが電池がすぐに消耗するので前者にセットしています。そしてかごを机にくくりつければボタンは動かすことができないので投げられることもありません。

さて、これでRちゃんにボタン押しに興味を持ってもらう事はできるでしょうか。これでだめなら部屋中がイルミネーションで光るボタンを考えようかと思っています。法人は大赤字なのにヒットしない玩具開発にいくら注ぎ込む気かと背中に突き刺さる職員の眼差しが痛いです。

 

平等と公平

Pちゃんのお気に入りの紫色のタブレットを高学年のQさんが使っていたので、Pちゃんが「替わってください」と言いました。Qさんは、「まだおやつ食べているでしょ」とPちゃんに言いました。Pちゃんはおやつ食べたら替わってくれるものと思い、おやつを大急ぎで食べて「替わってください」と言いました。「いやや」とQさん。Pちゃんの誤解とは言うもののQさんの御無体な対応に、Pちゃんは大泣きです。その上に、「大声で泣いてはいけません」だのと職員から言われるので、泣きっ面に蜂です。

高学年のQさんには指導が必要でした。言葉が十分伝わらない低学年の子どもには丁寧に伝える工夫やそれが難しいなら譲ってあげることも必要だという事です。そして、誤解を与えたなら謝ってあげることも大事だということです。しかし、小学校高学年の子どもたちの間では、「俺らは、約束を守らされるのに、支援学校の子は守らなくてもいいのは不公平だ」とちょくちょく言っています。私たちは、彼がそう口走ったときはそのまま放置しないことにしています。きっと彼らも他の場面では知らないところで不公平だと誹りを受けているからです。

言葉がわからなかったり、ルールがわからない時期は君たちにもあったはずだし、今だって、漢字が書けなかったり計算が遅かったりする君たちに不公平だからと同学年と同じだけ宿題が出ているかと聞きます。同じように、言葉がわからなかったりルールがわからない支援学校の子どもは、言葉やルールの勉強中だが、その意味がまだ分からない場合に君らと同じルールにすることが公平だと言えるか?と聞いています。

大抵の子どもたちはしばらく考えて「わからん」と言います。それでいいと思います。感情的な平等論が世の中にはあふれかえっています。その中で彼らは生きているのですから簡単に答えは出ないはずです。でも職員は彼らの疑問を聞き過ごしてはいけないし押し付けてもいけないと考えています。平等と公平は考え方の質が違います。民主主義社会は公平を是とする社会です。公平とは何かを何度も考える機会を作りたいと思います。

 

何故調子がいいのか?

「頭打ちの自傷行動も見られるNさんが今日はにこにこして調子が良かった」「発作の続いているO君は今日もソファーの上でじっとしていて調子が悪かった」などと言う調子の良い悪いだけでなくその調子の理由も考えて報告する必要性を前にも書きました。(調子がいい理由: 04/20

調子が良いなら、何故調子が良いのか、悪いなら何が原因だと思うのか、その時の環境の変化や本人の体調の変化(排便・歯痛・睡眠)、支援者の支援の変化なども同時に観察して報告しないといつまでも因果関係がわかりません。喉元過ぎれば熱さ忘れるで、調子が悪い時はあれこれ理由を考えますが、良くなると「調子が良かった」「穏やかだった」で終わりでは支援者の名が廃ります。

理由も想像や憶測ではなく、具体的な事実に基づいた理由が必要です。そのためには、保護者や学校にも協力してもらい、バイタルのチェックリストや人も含めた環境チェックが必要となります。子どもの行動を「何故」と問う姿勢が支援の質を高めていきます。

 

自立課題と個別課題

支援学校のLさんに、自立課題をしてもらったという報告があったので、「なんのために」と聞くと特に理由はないとのことでした。Lさんは低学年の漢字ドリルや計算ドリルをしている人で、週1回の利用者です。課題が適切であれば宿題は自分でできる人にマッチングや分類、組み立てやパズルが中心の自立課題を提供する意味がありません。意味がないのに時間つぶし程度に与えていることに気付いてほしかったのです。

逆に1年生のM君は、じっとしていることがなく衝動的に動き回っている子どもです。彼には一人で課題を一定時間こなす経験の積み上げが必要です。「なぜM君には自立課題を与えないのか」と職員に質問すると、通常学校の小学生グループだから考えなかったそうです。在籍が通常学校の子どもでも支援学校の子どもでも、一定時間座って課題に取り組むことは必要な事です。M君にはまず自立課題で一定時間一人で課題をやり遂げる経験が必要なのです。

子どもの課題内容は子どもの在籍学校で決まるものではありません。その人の特性や経験そして与えられた利用時間で決めるものです。どちらも、新しい通所者だったので、課題が分からずに与えたのかも知れないですが、そのために支援計画はあるのですから半年に一度見るのではなく、毎回ことあるたびに振り返ろうと話しています。個別課題は子どもの特性に応じた課題一般の事を指し、自立課題は一人で自立達成できる課題のことです。

利用回数と支援計画

K君の支援計画について話し合いました。K君は言葉がなくルーティンで生活の内容は理解しますが、絵カードで示してもこれから行う事は理解しにくいようです。でも、マッチングや組み合わせ作業は簡単なものなら一人で行う事ができます。そこでK君の半年の目標を表出のコミュニケーションとしてPECSトレーニングを、理解コミュニケーションとしてスケジュール理解を職員は提案をしました。

そこで、議論になったのがK君の通所回数でした。週1回の2時間程度の療育でその目標が可能かどうかということでした。PECSのトレーニングは他の場所でも短時間でも毎日取り組む必要があるし、できるようになった絵カード交換は生活の中で毎日取り組まないと身につくことはありません。また、絵カードによるスケジュール理解は、まず交渉の理解から始まります。「~したら~」や「~を少し待てば~」という強化子と具体物や絵カードを用いて交渉がわかるようになってから、スケジュールスキルを学びます。これも、別の場所でも構わないですが、毎日使わないと身につくものではありません。学校や自宅で可能かどうかは今のところ未知数です。

そこで、現実的には週1回2時間で何ができるかを職員で議論しました。まず、本人が得意とするマッチングや組み合わせの力を引き出せるような教材教具の用意をし自立的にできることを第一の目標にしました。二つ目は、遊具やおやつにも大好きなものがあるので、日常の生活の中で絵カードで選べることを目標にしました。

重度の方の場合、目標設定は最初は同じ場所同じ支援で実現することがセオリーなのですが、現実はそううまくはいきません。個別サポート加算で重度の方に1日1000円程度の差を作る仕組みでは、事業所全体の障害や年齢などの利用者のバランスをある程度取らないと運営が成り立ちません。また、定員が決まっているので、これまでの利用者を優先すると思ったように利用日が取れないこともあります。本人のアセスメントを行い必要な療育サービスを手配したり、その事業所や家庭、学校連携は本来相談事業所が行う内容です。しかし、手いっぱいの相談事業所にそこまで望めないというのも現実なのです。

自立課題と指示待ち

学校が始まった頃から指示待ちが強くなっているJ君に、自立課題に立体パズルのLaQを使ったという報告がありました。「人型モデルでも作れるから」というのが職員の言い分ですが、この間J君の指示待ちについて、やれと言われても出来ない時に怒りが生じやすかったり、指示待ちが多い時にフラッシュバックして他害に及びやすいという話をしてきたのですから、配慮が必要ではないかと話しました。縦横1cm程度のパーツの立体パズルを分かっているけど指示がないとできない事がどれほど苦痛か想像してほしいと話しました。療育で大事なことは、わかるかどうかだけではなく、一人でできるコンディションにあるかどうかを見極めるのがASDをはじめとする発達障害のある人たちの療育なのです。

作り方も手順もみんな理解していていても何度も「これでいいか?」と職員に聞かなければならない強迫性は消えていないのです。そんな状況で職員に1ステップごとに「それでいいよ」と言われて完成しても「一人でできた」感は全く味わえません。自立課題の目的は、一人でできるかどうかです。指示待ちが多いなら、少し簡単でも「キャップ締め」や簡単な「マッチング」でいいのです。一人でできてこそなんぼです。どうして、当事者の気持ちを考えずに課題を与えることが先行するのか、自立課題の意味を職員全体に伝えるにはどうすればいいのか話し合う事が必要だと考えています。

 

リコーダー支援グッズ Y先生のアイデア通信2

リコーダー支援グッズ Y先生のアイデア通信2

3年生の子どもたちがじゃんぷ(放デイ)にきています。
学校で子どもたちが困ることは学年によって共通しています。

3年生ではリコーダーが始まります。リコーダーが始まって困ることの多くは
①指で押さえる穴がぴったり押さえられず、すきまができる。
②見本の手を見ていると左右が反対になる。
③はじめは簡単な楽譜からスタートするのでできているつもりだが、曲になるとふけなくなる。
④楽譜の音と指とふく動作を3つ以上になるので同時にできない。
⑤そうなると 速さについていけなくなる。
⑥家でゆっくり練習していても、低い音がうまくでなくて曲にならないのでいやになる。
などなど その局面で様々です。

まず大事なことは単純な音出しの時に、うまく穴を押さえられるようにすることです。
しかし穴がどこにあって、どれぐらいのぴったりさで押さえたらいいのかが分かりにくいのです。しっかり押さえようとして力が入りすぎると余計にぎこちなくなっていやになります。その時に抑えやすくすることをサポートして音を出しやすくすると楽に練習できます。いま便利なグッズが出ています。

次に手が反対になるケースです。反対になるのには理由があります。
右利きの子は右手でリコーダーを操作してしまいます。指を動かすことと支えることが同時にできるのは右手だからです。
そこでリコーダーを支えるサポートすると、左手でも指が操作しやすくなります。その道具が最初からリコーダーにはついています。その使い方を教え、慣れるまで十分に使わせてあげることです。

穴がうまく押さえられて、持ち方が落ち着いてくると、曲に合わせるようになります。音階と運指がうまく合うようにサポートします。いろいろな方法がありますが、一番の悩みは「この音はどんな押さえ方だった?」と悩んでしまい、間に合わなくなることです。
そこで、運指を簡単な図で示し、音と曲に合わせてすぐにわかるようにします。下のような楽譜にすると分かりやすくなります。
それをすぐに作れるシール(ハンコ)も発売されています。

ほかにも子どもたちの困りポイント(サポートのヒント)はあります。ぜひ一度相談ください。

リコーダー 運指ゴムスタンプ

ふえピタ ソプラノリコーダー用演奏補助シール(amazon)

Y先生のアイデア通信

じゃんぷではちょっとしたアイデアで学校の学習等が取り組みやすくなるものを紹介しています!

小学生は学校と家庭と地域でコミュニケーションや社会性を広げていきます。

その中でも学習にかかわる時間は多いものです。保護者の悩みも学習に関することが多くなります。学習している学校や家庭での宿題の場面で、ちょっとしたアイデアやサポートを知っていると過ごしやすくなります。

学習の中でも「書く」ことが一番多くなります。
「ていねいに書いて」
「3年生になったらすばやく書いてね」
「よく見て書いて」
などなど学年が変わると今までとはちがう声かけが多くなります。

書いていると、書くことに必死でどこを書いているのかわからなくなったり、覚えて書こうと思うと書くたびに違う字になったりします。
早く書いて友達と遊びたいけど、時間が足りない、家でも書き直しが多くなり書きたくなくなるなどの悩みをよく聞きます。
特に小学生のサポートは学習と切り離せません。中でも「書く」ことと過ごしやすさは切り離せません。学習をうまく支援することで生活もすごしやすくなるのです。

そこで「書く」ことの大変さを理解する時に、案外見落とすのが筆圧の強さです。丁寧に書こう、きれいに書こうとして強くなります。強くなると時間がかかります。書き直しがあると時間がかかり、いやになることが多くなります。

「じゃんぷ」では、こんな道具を使って書いてみませんかと紹介し、体験してもらい自分の学習方法を見つけてもらいます。一人一人に応じて様々なものが出ていますので使いやすいものをお知らせしています。
相談したい方はぜひご連絡ください。

Y通信1 「書く」.pdf

子どもに待たせること

昨日のIちゃんは、うろうろして落ち着かず調子が悪かったという報告がありました。高いところには上がるし、外に出ようとするし、言う事をきかないので職員から叱られていたというものです。こういう、現象だけを捉えた子どもの報告は良くあることです。私たちは、そこで必ず「なぜだと思うか」と職員間で話し合う事にしています。

現象だけ聞いていると、子どもの不適切な行動が、あたかも偶然そうなったかのように受け止められるからです。しかし、それでは、職員間で報告している意味がありません。調子が悪いので子どもが不適切な行動をしたというのは「天気が悪いから雨が降った」という表現と同じで、理由になっていないのです。子どもの不適切な行動の引き金を引くのは、ほとんどは職員側にあるという仮説に立って、「なぜそんな行動をしたと思うのか」を職員間で話し合うことが大事です。

その日Iちゃんは、みんなより早く帰ってきて、スケジュールの提示もなく、これをしてみんなが来るまで待とうという提案もなく職員と待っていたと言います。タブレットを触ると「もうすぐみんな帰ってくるからダメ」、2階へあがろうとしてもダメと言われれば、窓によじ登るか、外に飛び出すかしかHちゃんには残されていません。

待つと言う意味が分からない子どもに待って欲しいなら、子どもが好きそうなことで「待つ」(~するまでは~して待つ)約束を提案することが大事だと言うことを話し合いました。よくタイマーを提案する人がいるのですが、タイマーを使っても意味もなく待てないし、嫌なことを知らせる(好きなことをやめる)タイマーも「待つ」練習の導入にはふさわしくありません。

敬語はどこで学ぶか

みんなで公園で遊んでいると、他の放デイ事業所も来ていて鬼ごっこをしていました。走ること大好き少年H君は鬼ごっこがしたくてたまらないようですが、今日のすてっぷの面子では面白みに欠けます。「あの、僕鬼ごっこがしたいねんけど、僕だけあそこで鬼ごっこしてきてもいい?」と聞くので了解しました。でも恥ずかしいから職員に横についていて欲しいというので、ついていくだけと言う条件でついていきました。

「あの、おにごっこに入らしていただいてよろしいでしょうか?」と初対面の職員さんに話しかけたのです。H君がそんな言葉ですてっぷの職員に話したこと一回もなかったのですごいなと、感心したそうです。どこでそんな語彙を身に着けているのでしょうか?本読みは漫画含めて大嫌いなH君なので、敬語なんて使えないと思っていた大人が間違いでした。

敬語なんて聞いてない感じだけど、結構聞いているんだなと改めて感心しています。読むことと聞くことは違うのです。聞くことで様々な応用ができるならどんどん聞けばいいのです。帰りがけに「お礼は?」と職員が促すと、また袖を引くので付き添いだけすると「今日は、ありがとうございました。また、入れていただいてもよろしいですか?また、遊んでください。失礼します。さようなら」と、教えたわけでないのにすらすら口上を述べるH君に職員は脱帽したと言います。

  

トイレ考

Gちゃんは、紙オムツです。でも、排泄があると必ず自分でオムツを履き替えて上下とも完璧に着替えています。それなのに、定時排泄では一切排泄はせずトイレの外でオムツに排泄して自分で新しいオムツと衣服に着替えます。着替えが自分だけで完璧にできるのは、ご家族や就学前施設の方が丁寧に教えられた賜だと思います。でも、こんなに丁寧に衣服の着脱ができるのに、なぜ排泄だけはトイレでできないのかが話し合いました。

そういえば、持ってきたお弁当の扱いもほぼ一人で出し入れや片付けができます。教えられたことは、ほぼ一人でできるのです。Gちゃんはお話ができないけれど日常生活のことで聞いたことはほぼ理解できていると引き継ぎを受けています。私たちは喋れない人が状況を理解する時、言葉だけでなく見たもので理解できるように支援します。そして、喋れない人には、見えないものは伝わりにくいので、オーダーメイドの支援が必要で、体性感覚など視覚支援がしにくいものは工夫がかなり必要だと感じています。

もちろん、喋れない人でも排泄の自立をしている人はいますが、「喋れる人」で排泄自立ができていない人はいません。肢体不自由があっても排泄の援助要求ができることを自立とみるなら、喋れる人は皆排泄が自立していると言えます。子どもの成長を見ても、遅い早いはあっても喋れるようになるとともに排泄は自立していきます。つまり、排泄自立は双方向のコミュニケーションが成立している中で教えることができるようです。

大人が「ウンチ頑張って」と子どもも一緒に「うーん」「うーん」と言って意味を共有するから体性感覚と理解言語・表出言語が結びつくのでしょう。では、Gちゃんをはじめとする、「おむつに排泄はするもの」と思っている人たちにはどう伝えれば上手くいくでしょう。ちなみにGちゃんは女子なので男子のようにおしっこを視覚的に確認するのもやや難しいです。大人も「うーん、うーん」といろいろ考えて挑戦しようと職員で話しました。良いアイデアが実践されたらまた報告します。

情緒的な理解?誤解?

「F君らと3人でゲームをしている時に、F君が『うるさい』と言ったように思ったので、『そうだね、うるさいね』と共感の意味の言葉を返したら叩かれました」と職員が報告してくれました。以前、言葉がうまく使えない人が感情表出の絵カードで「うるさい」と示したときに「そうだね、うるさいね」と共感すると興奮が収まったという話を、職員は覚えていたのだと思います。それなのに、なんで攻撃されるの?という疑問です。

絵カードでの感情表出は、マイナスの感情を暴れて発散するのではなく、相手に適切に表現することで気持ちを収める学習です。今の気分を伝える絵カード表出の学習時に、たまたま熱が出て「しんどい」カードを教える機会がありました。そこで、感情=気分というのはいつも「元気」ではなく、「しんどい」時もあり、その気分は相手にも伝わることをその人は学んだのです。その後、腹が立ったときにも「しんどい」カードを自発的に示すようになり、そうか「怒ってしんどいのか」と周囲が共感の慰め行動を続けることで、あまり怒らなくなったという事例でした。

この事例を模倣した事は良くわかるのですが、決定的に違う事があります。事例は何度も絵カードで双方が共有してきた感情カードですが、F君の発声した「うるさい」は職員と彼が共有した事がない音声だということです。もちろん文脈的には「うるさい」と言うべき場面です。但し、それはF君が機能的な言語表出ができる場合です。F君は欲しいものやしたいことを特定の大人に決まった場面で一語文で言えますが、感情の表出は難しく、ストレスを溜めて爆発させる事が多いです。しかも、表出の絵カード練習を系統的に学習していません。職員は「僕は、彼らがうるさいのでイラつくのだ」の意味が彼の発した「うるさい」だと理解したのです。しかし、ASDの人たちの中には不安な時に以前体験した言動を再現することがあります。

つまり、F君の気持ちは確かにイラついているのですが、イラついてフラッシュバックした言葉が「うるさい!」と大人が怒鳴る場面を再現したかもしれません。それは、自分に向けられた言葉か、他者に向けられた言葉かは分からないですがF君には不快な場面が想起されたと考えられます。だから、「うるさい」の後に、相手を叩くという見たままの言動が再現がされたのかもしれません。ASDの人の中には、強い不安を感じている時に、以前同じような感情を持った時の状況を再現することがあるのです。

不適切行動は、情緒的な解釈では行動の意味が理解できず解決策が見出せない場合が多いです。しかし、機能的なコミュニケーションの視点で考えていくと、行動を仮説することが可能になり支援策もいくつか見えてきます。絵カードなど「大人と子どもの双方が意味を共有できるツール」での学習が有効であることは確かだと思います。

大縄跳び

D君の遊びを探していて、大繩とびなら個人の縄跳びと違って「共同あそび」感があっていいんじゃないかと取り組んでみました。「10回飛びました。よくできました。ブランコへ行きます」とD君。跳べと言われたから跳びました感満載でブランコに行きました。「ん~手ごわいなぁ」と職員が思っていると一緒に来ていた小学生チームがキャーキャー言って跳んでいます。その歓声につられてEちゃんも「縄跳びします」と跳んでいきました。大縄跳びでこんなに盛り上がるとは思わなかったです。D君以外ですが・・・。

さて、これからどうやってみんなで跳ぶかですが、小学生があんなに喜ぶなら、D君やEちゃんを引き入れて大縄跳び合戦をしてもいいかなと思っています。D君は一人はさみしくてみんなに見ていて欲しいのですが、課題をこなすのは嫌だと言う人です。そんなD君にどうすればみんなで遊ぶと楽しいよと伝えられるのか思案中です。「ハイ10回終わりました。縄跳び終わります」と迷惑そうな顔をするD君を思い浮かべると気持ちがなえてしまうのですが、大好きなサイダーとか持ち込んだりしたらうまく楽しめないかなと思ったりしています。遊ばない子の遊びを作るのは本当に難しいなぁと思います。

 

 

鉄オタ女子降臨

Cちゃんらと近所の公園まで歩いていきました。公園にはCちゃんの大好きな遊具があって楽しみしています。ところが今日は阪急電車の高架下で通過する電車をじっと眺めて動こうとしないのです。公園でひとしきり遊んで、さぁ帰ろうと高架下をくぐると、またまた「電車!」と真剣に眺めています。あんまり真面目に見ているので職員も一緒に何本も通過する電車をしばらく見ていたそうです。

女の子の鉄オタはテレビの趣味番組なんかには出てくるけど本当に身近にいたのです。てゆーかー、これまで同じところを何度も歩いていますが電車なんて見向きもしなかったから、鉄オタ女子誕生に出会えたと言うべきです。最近、「鉄子さん」や「ママ鉄」など鉄道好きな女性に注目が集まり、女子の鉄道研究会や部員も増えているそうです。さすがCちゃんトレンドに敏感です。

好きなものができることはいいことです。そこから様々な世界が広がっていきます。支援するほうもゴールを好きなものにすれば様々な学習やトレーニングの提案がしやすいです。さて、事業所では「シルバニアファミリー命」のCちゃんですが、トミカプラレールには興味が持てるでしょうか?楽しみ楽しみ。

 

機能的コミュニケーションの手がかり

Bちゃんの今日のスケジュールは公園遊びなので、車いすに乗ってお出かけです。ところがBちゃん車いすに頑として乗ろうとしません。玄関前で職員と一緒に座り込んでしまい、ベテラン職員にヘルプが出されました。別の職員が車いすを事業所内に入れようとすると、それをみてBちゃんも立ち上がって部屋の中に入ろうとしました。「今日はお部屋で遊びたいのかな」ということで公園行きは中止にしました。

このエピソードからBちゃん目線で考えたいと思います。「今日は外に行きたくないな」「でも車いすに乗ってしまうと連れて行かれるな」「以前床に座りこめば要求が実現したし今日もそうしよう」とBちゃんが思ったかどうかはわからないですが、内容的にはこういうことだと思います。そして、「お、車いすを室内に持っていくのか、それなら一緒に行くよ」となります。

拒否できることは大事ですが、Bちゃんとやりとりする交渉の余地がないと困ります。座り込むことですべてが伝わるわけでもありません。周囲も「またか」という慣れになりそれ以上の発展が見込めません。体の力が強くなることは意思が表現できることでもあります。でも、物理的な拒否だけでは、それを強化する方向(激しく拒否する)か諦めるかの2方向にしか展開はありません。

機能的コミュニケーションを身に着けるには、Bちゃんの場合どうすればいいでしょう。絵カードでなくてもいいのです。具体物でもいいのです。ベテランの職員が車いすで方向を示したように、その手掛かりを探すのも療育です。日常動作なら「言葉がわかる」と言われる方がいます。そう思うのは自由ですが、それが絵や具体物などを使う代替コミュニケーションを遠ざける理由にはなりません。大事なのは座り込まなくても楽に伝えることができる表出のコミュニケーションです。

 

送迎車カウンセリング

前回は、お迎えの車の写真の活用で、低学年児や日程で混乱しやすい利用者に下校先の見通しが持てるようにと書きました。そうすることで、お迎えの場面を視覚支援で見通しを持たせる療育ができるということです。放デイの療育はお迎えからもう始まっていると考えています。

また、通常学校の利用者の送迎の時間は利用者のカウンセリングに使えます。すてっぷでは大きな送迎車で近隣の小学校を回ってくるのではなく、基本は一人づつピックアップして事業所まで利用者の送迎をします。乗車時間は10分程度ですが、子どもと様々な話をします。

学校や家の話、好きなアニメや嫌いな友達の話を職員から切り出すこともありますが基本は子どもに話してもらうようにしています。運転中ですから基本「うん うん」と聞くことになり、子どもはいろいろと話すと言う仕組みです。話が聞いてもらえるとわかると、テレビやビデオを流せと言う子どもはいなくなります。

大人に毎日10分話をじっくり聞いてもらえる場は、ありそうでありません。今日はA君に家庭の話を振ったところ「個人情報なので個別的な情報は応えられない」と言います。以前は明け透けに話していたので、成長したなぁと感じて「そうですか。では差しさわりのないお話でどうぞ」と聞くと怒涛のアニメ話が始まりました。10分で良かったぁ。

下校の切り替え

Z君が下校時のプラットホームで泣いて泣いて動かないという報告がありました。スクールバスに乗ったり、あちこちの放デイに行ったり、お母さんが迎えに来たり、訳が分かりませんというのが1年生あるあるです。泣くと言うのはスクールバスに乗ると言うつもりがあったからです。正しいつもり(見通し)が持てるように工夫をすることができるということです。

これを解決するのは視覚支援です。バスの写真カードを教室で渡されたときはスクールバスに乗り、放デイの送迎車の写真カードを渡されたら送迎車に乗るという経験を3週間続ければ、まず見通しはできるのでつもりはできます。視覚支援がないといつまでも混乱することになります。学校の先生方視覚支援をよろしくお願いします。放デイは送迎車の写真カードを提供します。

でも、スクールバスの行先は家でお母さんが待っています。ゆったり好きなことができます。放デイはこれに勝る魅力をまだ持っていません。知らない人は多いし、思いは伝わらないし、居場所も定まらないし、だめだめです。当面は好きな玩具やおやつを用意して、必要なら送迎車に好きなものを積んでお迎えに行きたいと思います。

 エスクァイア

ボタンキラキラBOX1号機

クリスマスを超えバレンタインを過ぎ、ひな祭りも過ぎて四か月越しでLED(light emitting diode=発光ダイオード)イルミネーションで、スヌーズレンBOXを作りました。段ボールの中にLEDイルミネーションを貼り付けて、調光器のボタンを押すと光り方が変わるというものです。

前回はYさんのスイッチ理解のためにボタンを押せばわんこが動く<ボタンわんこ2号機 : 03/18>「静から動」のスイッチでしたが、変化の因果関係が理解されず却下でした。そこで、とにかくまずキラキラと視覚刺激で引き付けてボタンを叩けば別の変化が起こる「動から動」あるいは、ボタンで切れる「動から静」のスイッチを試そうとしています。

ただ、Yさんは机上に物があると跳ね飛ばすのでボタンを板に固定する必要があります。でも、みんなでキラキラスヌーズレンが楽しめればそれでいいし、壊れてもLEDは600円程度ですから気にせず使えばいいと思います。ボタンはスイッチ感がいまいち硬いのと、調光器に合わせた離せば戻るモーメンタリスイッチではなくオンオフ切り替えのオルタネイトスイッチなので切り替えるには2回押す必要があります。このスイッチは使いにくいですから、おまけ程度に考えています。なかなか安くて丈夫で大きくて使いやすいモーメンタリスイッチが見つかりません。

宿題の質と宿題時間

3時過ぎに事業所についたXさんが宿題を終了したのは、4時間半頃で、延長のないほとんどの利用者は帰る時間でした。内容は小学校低学年の漢字と計算ドリルでした。「がんばったね。でも遊べなかったね。みんなが帰ってからもXさんは1時間以上時間があるから、そこで宿題やろうね」と話しました。高学年以降の子どもが帰宅後1時間以上学習するのは当たり前ですが、それは、二桁の繰上りや低学年の漢字に費やす時間ではありません。もしも、該当学年の内容で該当学年より時間がかかるなら、内容が本人の課題と一致していないと考えるべきです。低学年の内容なら半時間程度で終わるのが普通です。

確かに、保護者は宿題を出してくれれば安心をします。子どもが机に向かってくれる姿は保護者としては嬉しい姿です。逆に、子どもが机に向かわないと宿題を出してほしいと担任に要求するのが普通です。ただ、問題はその内容が本当に子どもの力になるのかどうかは、担任に信託されているのです。低学年の課題を高学年になって低学年児の何倍も時間をかけてできたからと言って学力が学年相当につくわけではありません。もっと別の学習に時間をかけたほうが良い場合もあります。それを見抜くのが特別支援教育の教師のスキルだと思います。プリント学習の内容が子どもの特性に合ってない場合は、やってもやっても、追い付かない自分の存在を確認するだけの時間となります。

調子がいい理由

「今日のW君は調子がよかったです。スムースに自立課題に取り組め終わったら欲しいものを要求していました」と職員の報告がありました。「なんでスムースだったのですか?」と聞くと「さぁ?」という反応でした。不適切な行動が起こった際は、あれこれ原因を考えて報告するのですが、うまくいった時は理由は考えません。もちろんずっと適切な行動がとれる子どもの場合は考える必要はないのですが、不適切行動のある子どもの場合は、適切な行動の前後に「支援が成功する秘密」が隠れていると言われます。

結局、W君が何故スムースだったかはわかりませんでした。職員みんな今日は調子がいいなぁと思っただけだったそうです。でも、だれもW君の行動を詳細に覚えていないという事は、あまりW君に注目してなかったということです。大人が声掛けしたりしないで、やるべきことが準備されていれば、以外にW君は分かっているのかもしれないです。

嘘つきゲーム??

カードゲームだけではありませんが、相手を欺いて勝利を得るというゲームがあります。ポーカーなどがそれにあたりますが、自分のカードのポイントが低くても相手には良いカードが来たような顔をして勝負に挑みます。挑戦者は相手の表情や言動が嘘か誠か見抜いて勝負に挑みます。どちらも自分の態度が相手にどう読まれるのかそれを読み取って欺くのが、このゲームの醍醐味でもあるわけです。

ところが、そんな嘘つきのゲームは嫌だとV君たちが言い出しました。「いや、嘘つきと言ってもそれがゲームの面白さなんだし」と言っても、自分が嘘をつくのも許せない気持ちなので楽しくないと言うのです。「隠れ鬼 04/13」でも書きましたが、他者感情を読んだりする遊びはASDの子どもたちは苦手なのでおもしろくないのです。「なら、何がいいですか?」と聞くと「人生ゲーム!」だそうです。確かに他者感情は読まずに偶然性だけで遊べます。なるほど。。。

宿題と電卓と信託

U君が帰り際に電卓計算をしていました。ワーキングメモリーが弱いのと不器用なのでキーボード操作が遅くて20問中10問しか仕上げていませんでした。「これあとどうするの?」「どうしよう。家に帰ったら電卓ないから計算問題できないよ」「すてっぷにいる時間を考えて、通所したら今日の日程を計画したらいいね」「うん、そうする」

こんな話をしていて少しむなしくなりました。新しい担任とはいえ、学校は引継ぎをするものです。U君にとって「字を書く計算する」は最もパワーを使う作業で、他の子はルーティン作業のような軽微な課題も彼にとってはそれだけで疲弊してしまう活動なのです。

学級担任と自営業の塾講師はどこが違うでしょう。塾の人気がなくなり生徒が集まらなければ塾は倒産ですが、学校の生徒は担任を選べません。生徒に指導の結果がでなくても収入が下がることもありません。それは、適切な学校教育をしてくれると国民が信託をしているからです。そこが自営業の塾講師とは違うところです。信頼しています。

手を使う事

Tさんは手が使えますが、職員が全介助でおやつも食べさせています。何故手を使わせようとしないのか聞くと、食べないことがあるからと言います。おやつなのだから本人が嫌なのに食べさせる必要はないと言うと、食べてみたらおいしくていくつも食べることがあると言います。本人が欲しがるなら手を使わせればどうかと聞くと、手が出ないといいます。本人は職員が口に放り込んでくれるものだと思っているからかもしれません。しかし、これでは堂々巡りで、いつまでたっても文字通り手が出せません。

昼食などは栄養価も考える必要があるので全介助で食べさせることが必要な場合もあります。しかし、おやつは好みで食べるものですし、自分の手で食べることを覚える絶好の機会でもあります。「食べさせること」よりも好きなものを「自分の手で」食べることを教えたいのです。そのためには当たり前ですがTさんの反応をよく見ながら食べさせる必要があります。次々に食べる事よりも、「おいいしいな、もうひとつ欲しいな」という反応や「まずい、もういらない」という表情を読み取ります。その読み取りで手でつかむように誘導します。こうして、少しづつ自立を促していくのが療育に求められている役割です。

Tさんが机の上にあるものを手で跳ね飛ばす原因も、こうして考えていくとわかるような気がします。職員は物が落ちるのが面白い、人が騒ぐのが面白いからと言いますが、それもあるのかもしれませんが、行動の初めの原因はもっとシンプルだと思います。いらないものを跳ね飛ばすとしばらくは大人に従わなくてもいいと言う利得ではないかなと思います。もちろん、大人は善意で与えよう・させようとしていますが、機能的コミュニケーションがない本人がどう受け止めたかを考える必要があります。これはABC分析ができると思います。

 

やりなおし??

S君が自立課題を床にぶちまけたので「やりなおし」でぶちまけたパーツを片づけさせて、やり直しをさせたという報告がありました。「それは、私たちが大事にしている『やり直し』ではありません」というとスタッフは「??」でした。S君は何故自立課題をぶちまけたのかを、私たちをおちょくっているからという意見もありましたが、本当かどうかは言葉のないS君からは聞く術が私たちにはありません。

他者をおちょくっていると考えるのは自由ですが、そこから建設的な方向性は見えてきません。せいぜい、そんなことをしてもやるべきことはやってもらうと強権的に振舞うか、いやならやめとくかと不適切な行動を認めてしまうかのどちらかです。私たちがS君に教えなければならないのは、床にパーツをぶちまけなくてもこうすれば伝わるよ交渉できるよという機能的コミュニケーションです。

やり直しと言うのは、ぶちまけたパーツを片づけてやり直すことではありません。やりたくないなら「嫌です」絵カードを示せば、適切に交渉に入れることを教えることです。ぶちまけたものを一緒に片づけるのは場合によっては必要ですが、一番大事なことは行動の修正です。「嫌です」とか「~したい」カードを出すことを教えてでてきたなら、まずは「よく言えたね」と褒めて、交渉に入ります。「この課題をしたら、君のしたいことができます」と課題の次のスケジュールカードにしたいことカードを張りつけて交渉します。これが「やりなおし」行動です。

機能的コミュニケーションの弱い人の不適切な行動は、他者の感情を弄んだりするために起こるものではありません。やり方がわからなかったり、前はできていたけど忘れたりして生じるものです。そして、言い分を受け止めればまず交渉は成立します。その交渉が成立してから、課題を拒んだ理由をゆっくり考えればいいと思います。その多くは課題に飽きているというのが理由です・・・。

不安と不適切行動(タイムスリップ)

R君の「外に飛び出す」不適切行動が久々に出ました。新しい男性スタッフの登場が原因ではないかとスタッフ間では話しています。スタッフが利用者の目を見て挨拶をするのが当然です。でも、R君には新しいスタッフが視線を合わせてくるのが不安なのかもしれません。新しいスタッフとの出会いの時期にR君の外への飛び出しは多いからです。

不適切行動の多くは危険回避のために、大声で注意されたり身体拘束されることが少なくないです。そして、機能的コミュニケーション力が弱ければ弱いほど当事者にとっては何が起こっているか理解ができず、不安や恐怖感情を抱きます。この情景は鮮明にASDの人たちに不安の感情と一緒に刻み付けられるようです。そして、全く脈略が違う場面でも一つ条件が一致すると不安になり、以前と同じ行動を起こすという「タイムスリップ」現象が生じます。

新しい出会いで視線を合わすのは通常は親愛の情を伝えるためなのですが、他者感情の読み取りの苦手な人の場合は睨まれたのと勘違いすることが高機能の方の場合でも大変多いです。視線が合うと(逆に合わない場合も)「怒ってる?」と何度も聞いてくるASDの方は少なくありません。多分、R君は新しい男性スタッフに睨まれたと思い不安になり意味もなく外に飛び出すという事になったのかもしれません。幸い、このスタッフは追いかけると不安を高めてしまうと判断したので気づかないふりをしたそうです。おかげで、R君の不安は消え事なきを得ました。

不適切行動はABAでよく使うABC分析が有効ですが、衝動的な行動は当事者の利得を誤解しやすいのです。逃げるのは追いかけて遊んで欲しくて誘っている等という分析に陥りやすいのです。そして、幼少の場合はこれに延々と付き合ったり、大きくなると逆に無視したり制止したりを続けます。どちらの対応も行動のバースト(爆発)を招き、行動を強化していることに大人はなかなか気付きません。ASDの方の不適切行動の場合は、タイムスリップ現象を考慮に入れておく必要があるように思います。