すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

スケジュールの前に教えるべきこと

スケジュールの支援10/6 のところでも書きましたが、スケジュールの理解はPECSではフェーズ3bだと書きました。スケジュール理解は「義務と報酬」の関係の理解が基本とも説明しましたが、もう少しわかりやすい説明がいると言われていますので、書き加えたいと思います。

生活に沿わせようとして、親切心でスケジュールを導入しても、かえって混乱する子どもがいます。新入所・入学の時期、療育教室や支援学校や学級の教室の個別スケジュールエリアに貼るスケジュールカードは、最初は次の場所に移動する1枚から慎重に進めていく事が必要です。

スケジュールカードの手順は、貼ってある絵カードを「これからやることスペース」に貼り付けるか、やるべき事を忘れそうな子どもなら行くべき場所(机等)に移動して貼り付け、終わればそのカードを剥がして持って戻り「おしまいボックス」に片付けます。(「スケジュールボードに戻る」というトランジションカードは「戻りなさい」と言う言葉の代わりのキューに過ぎず、フェイディング方法がなく、子どもにも支援者にもスケジュールの意味(自立性)を形骸化させ、結果的にプロンプト依存を強化しているように思います。)

もちろん初めてスケジュールを見る子どもの中には、一目スケジュールを見れば一日の流れを理解する子もいます。しかし、ASDの子どもは対人相互性の理解やコミュニケーションに課題を持っているので、このスケジュールの意味に大人との契約だという事は理解できていないのです。こうした子どもは、嫌なスケジュールを落としたり、投げたりします。

これは、スタッフに「嫌」を訴えたいからではありません。カードが無くなればやらなくていいと理解するからで、要求や交渉のコミュニケーションの存在を知らないからです。つまり、スケジュールを不適切に扱う子は、表出のコミュニケーションレベルがとても低いと考えるべきで、まずはそのレベルに合わせて取り組む必要があるのです。

絵カードの不適切な扱いの後でスケジュールボード上で交渉をする人もいますが、子どもによっては不適切に絵カードを扱えば嫌いなカードがなくなった・後回しになったという学習にならないかどうかの注意が必要です。

世間では、構造化支援=スケジュール提示と思われがちですが、その子の表出コミュニケーションレベルに合った、契約・交渉のトレーニングが必要です。それがスケジュール2枚提示の場合もあれば、1枚絵カード指示のこともあるし、それと並行して表出のコミュニケーショントレーニングに取り組まれなければ、大人と子どもの関係はちぐはぐなままとなります。

ビギナー支援者は支援グッズの意味を考えずに先輩の支援の真似をしがちですが、スケジュールよりも先に教えるべき表出のコミュニケーションの課題がないか、良く考えてから支援する事が重要です。

好きなものがあることはいいこと

先日の懇談会で、T君が習い事を嫌がるので困ったという相談を受けました。T君の欲しいものがあるか聞くとゲームが欲しいとのことでした。それではゲーム機やゲームソフトをご褒美にして習い事に通わせてはどうかとお話ししました。

すると、ゲームを与えてしまうとやめなくなってかえって家の中の親子の争いごとが増えそうで気が進まないとのことでした。ゲーム時間親子摩擦事象は、大抵の家庭で日常茶飯に生じている問題ですから、世界中で沢山の解決アイデア事例が蓄積されています。また、ゲームをするためにお手伝いをしたり、勉強をしたり親が仕向けることが、物を与えないと行動しない即物的で自制の効かない人になってしまわないか心配だという保護者の気持ちもよくわかります。でも、「ご褒美子育て」を貫いたから、即物的で自制の効かない人になったという例は見た事がないです。

むしろ、幼少期に必要以上の我慢を強いられたり、親の気分で一貫性のない物の与え方をされて、大きくなってから自制が効かず、いろいろ問題を抱えている人の方が目につきます。欲しいものを与えることは悪いことではありません。約束を守れば報いはあるということを小さな時期からしっかり教えることが人への信頼感や自尊心を育てると思います。特に相手の気持ちを推し量ることが苦手な子どもたちには、目に見えるものが大事なように思います。思いやる気持ちは褒められた経験から育ちます。

私たちが困ってしまうのは、好きなものが見つからない、やりたいことが見つからない人です。元気な人をコントロールすることは容易ですが、欲しいものやりたい事が見つからない人の行動変容はとても難しいです。ゲームにしろガンプラ(「機動戦士ガンダム」のシリーズに登場するモビルスーツ、モビルアーマーと呼ばれるロボットや戦艦などを立体化したプラモデルのこと)にせよ、子どもに欲しいものが沢山あることは、子育て上、とてもラッキーなことだと考えると、色々なアイデアが湧いてくると思います。

 

初めてを、楽に

新事業所じゃんぷ、開設して10日程が経ちました。ありがたいことに、ポツポツと見学希望等いただいています。

学びの広場じゃんぷは、児童発達支援(療育)と放課後等デイサービスの多機能型ですが、今日は放デイの見学がありました。見学と言っても、まだ実際の場面を見ていただくことはできませんから、見学者自身に少し体験してもらえるような活動を用意しました。

スタッフ側も、楽しんでもらえるかな?じゃんぷを好きになってくれるかな?とドキドキで迎えますが、お子さんも初めての場所でドキドキハートしていると思います。発達障害の特性をお持ちの場合、『初めて』が苦手な方も多いので。折しも今日は朝から続く雨。雨や濡れることが嫌いなお子さんもいらっしゃるので、あまり初日には向かない天候…。

 今回は字が読めるタイプの方でしたので、プリントしたスケジュールと、Ipadにダウンロードしたタイマーアプリを用意しました。

本来、時間的見通しや切り替えを支援するためのツールですが、お子さんとのかかわりの中では、大人と子どもの共通理解や交渉を助けるコミュニケーション支援にもなっていることを実感します。

「○○したら△△できるよ」と口約束でなく、はっきりと書いてある予定。「もうおしまい」でなく、『あと○分』と自分で確認できる見通し。情報を、ズレなく、双方がわかるかたちで共有することが、まず余計な混乱や、相手への不信を減らします。要求や拒否を上手く、程よく伝えることが苦手なお子さんとの初めての交渉を穏やかにし、お子さんの希望をスタッフが把握しやすくなります。

 活動の最後に感想を聞くと、笑顔で「楽しかった!」と嬉しいコメント。スケジュールはやりとりの書き込みでいっぱいでした。楽しくて、まだ遊びを終わりたくない一幕もありましたが、スタッフが「じゃああと何分する?」と聞く前に「10分!」と交渉開始。素晴らしい!

少し予定時間を過ぎていたので、お互いの折り合いで、『5分』にタイマーをセット。タイマーアプリ、アラーム音が涼やかで耳に優しく、『おしまい』と文字も出るスグレモノです。スタッフとハイタッチをして帰っていかれました。

スタッフ支援

Sさん担当のスタッフがSさんの不適切行動に手を焼いていました。外に出ると逃げる。部屋の中にいると本棚から本を落として散らかす。注意をするとドアを蹴って大声を出す。「どうしてそんなことするの!」「そんなことしていいと思っているの!」と言いつつも、Sちゃんの後追いでスタッフは途方の暮れています。

「スタッフさん交代してあげて」とベテランのスタッフさんに交代してもらいました。ベテランのスタッフさんは、先手必勝です。遊びに誘い込んで主導権を取るのです。今まで不適切な行動しかしていなかったSさんは、ニコニコして安心して遊んでいます。「(私には)難しいですね」と先ほどのスタッフさんが言いました。

放デイはパートスタッフさんにも来てもらっているので、様々なキャリアの方がいます。皆さん福祉畑や教育畑でのベテランさんが多いです。ただ、「見守り」の考え方は子どもの場合意味が違うことが多いです。子どもは何をしていいかわからないときは、Sさんのように大人を巻き込んでくることがあります。それを、遊んでほしいサインとして受け止め遊びを教えてあげると、安心する場合が多いです。保育・教育畑ではよく知られていることですが、成人や重症心身障害の支援経験者の場合は、経験しないことです。スタッフ支援は忙しい中では丁寧にはできないのですが、OJTでその場で支援していくことが大事だと思います。

フラッシュバック

ASDの人にはフラッシュバックを起こしやすい人がいます。多くは驚いたり、怖いことがあった時の感情や行動がずっと残っていて、何かの拍子に繰り返してしまうのです。厄介なのは、結構困った行動が多いのです。おそらく、きつく怒られたか何かで驚いた経験として行動も一緒に保存されるようです。不適切な行動を起こして怒られて驚いているので、不適切な行動と驚きや不安な気持ちがセットになってフラッシュバックするのです。

Rちゃんは車道に飛び出して車を急停車させたそうです。本人も驚いたのだと思います。その後見通しがなく不安になったり同じシチュエーション(道路が見えると)になると、わざわざ飛び出そうとします。怖かった思い出が危険行動に結びつくのです。言葉がわかるようになってくると認知行動療法やEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)等の心理療法で軽減できるといいます。

従って、年齢が低かったり、言葉が十分に理解できないASDの子どもの場合は予防が大切です。イギリスの自閉症協会の提唱するASDを育てる基本理念の【SPELL】は、Structure=構造化、Positive=肯定的な関わり、Empathy=共感、Low arousal=低興奮・低刺激、Link=連携です。不適切行動も含めフラッシュバックの予防には、この5項目に勝るものはありません。

スケジュールの支援

Qさんがスケジュールに従わないという報告がありました。ただ、最初の頃から気にいらないスケジュールカードがあると自分で外していたといいますから、スケジュールに沿う意味は分かっていなかったのだと思います。

通常スケジュールの理解は、PECSのコミュニケーションレベルでは要求カードが自由に弁別でき、「待って」や「これが終わってから」に従えるフェイズ3bからです。それまでは絵カードに従うことをトークンエコノミーなどを通して「指示に沿う」ことを教えます。実はこの訓練ができていないと、スケジュール絵カードが弁別できても、従うという交渉の意味が理解できない場合があります。従うというのは無条件に大人に従うという意味ではなく、「義務と報酬の契約」があることを理解することです。

そこでもう一度、指導マニュアルの初歩に戻って、絵カード二枚提示で「これをしたら、好きなこれあるよ」を繰り返し丁寧に取り組もうということになりました。スケジュールは対人相互交渉の理解の上に成立するものだというコミュニケーションの基本に立ち戻ってのスタートです。

宿題が多すぎる!

すてっぷを利用している小学生のほとんどが「宿題の量が多い」「苦手な練習が多すぎ」と悲鳴を上げています。また、低学年のうちはいいのですが、高学年になってくると宿題に向かうたびに「できなさ」に向き合わされる辛さが半端ないと訴えています。

理由はほとんどが、言語性ワーキングメモリーの少なさ所以の読み書き障害か、視空間性ワーキングメモリーの少なさ所以の算数障害です。中学年以降からはただ読めるだけでなく、すらすらと読めないと書き写しもしんどくなってきます。他の子どもは読む中で単語の音と意味が短期記憶から長期記憶に保存されるので、それを呼び出してきてどんどん読む速度が速くなりますが、いつまでも拾い読みの人は長期記憶にも単語が保存されないので遅いままです。

算数の速度は事物ファイルシステム・量的イメージシステムという視空間性ワーキングメモリーに左右されます。パッと見て3~4個が認識できるようになると数の分解も可能になります。例えば、7+5の「5」を3と2に分解して10と2という繰上りができそのうちに「5は3と2」などの長期記憶ができるようになります。そうするとすらすらと計算できてしまうのですが、この視空間性ワーキングメモリーが弱いといつまでたっても分解合成で指を使ったりしないと答えが出ないので長期記憶に保存されず他の子どもとどんどん水が開きます。

10ある力を他の子どもは学年が増すにつれ長期記憶が助けるので4か3の力で読んだり計算しているのですが、それがいつまでたっても低学年児と同じように10の力を使うとすれば、量が多くなれば処理できなくなるに決まっています。学習は、練習よりも意味が理解できているかどうかに力点を置いてほしいです。排水量の少ないシンクを思い浮かべて、水は出しすぎないように、どうかよろしくお願いします。

 

 

知らんし…

P君が、以前、パソコンで遊ぶ時間はタイマーで決めようとスタッフと約束(契約書)したのにタイマーをかけずに遊んでいました。スタッフから「一緒に約束したことなのに契約違反だよ」と指摘されているのに、P君が「知らんし」と言ったので、「契約書もあるのに、その言い方はないだろう」とスタッフが叱ったという報告がありました。

契約書を作るのは、P君が約束そのものを忘れてしまうので作るのですが、今回のP君の「知らんし」発言は二つの意味があります。「約束を忘れてたのだから、その場面では知らなかった」「契約書を見せられたら、思い出したけど、だからどうしたらいいか知らない(わからない)」ということです。スタッフが思うほど、指摘したスタッフへの挑戦的な気持ちは、P君にはさらさらなかったと思います。

P君に悪意はないと思われるので、叱るのではなくエラー修正でいいと思います。「知らん」というのではなく「忘れてごめんね」「忘れないようにするにはどうしたらいいか一緒に考えてほしい」と言えばいいことを教えることです。併せて、指摘してくれた時に「知らん」というのは相手を誤解させるからNGワードだよと教えればいいと思います。真意を伝えるコミュニケーションは双方難しいものです。

 

遊びモデルの必要性

Nさんが、O君と水鉄砲遊びをしていました。そのあと水鉄砲のチューブの部分を空に投げる遊びをO君が考えました。「イッセーノーデー、ポイ」遊びです。O君はものすごく高く投げられるし、Nさんも自分のできる範囲で一生懸命投げて、盛り上がりました。

スタッフを入れて3人は飽きるまで投げました。他愛もない遊びですが今日はNさんにとってはO君が遊びのモデルです。大人がちょっと離れると不安になって大声を出して注意喚起するNさんですが、だからといって大人が横にいればそれでいいわけではありません。子ども同士をつなぐ遊び内容と、「ほれ、こんなに面白い」と示す遊びモデルになる子どもが必要です。それを大人が面白がっている図が、子どもの育ちには一番理想的だなぁと思います。

アセスメント・フリー

言葉のないM君が離れたところにいるスタッフの写真を識別して選び、歌絵本の電池を選択したスタッフに入れ替えてほしいと絵本を持ってきたそうです。また、最近作ってもらったポータトーンの絵を識別して、ポータトーンで遊びたいと要求してきたという報告もありました。

絵カードの識別はPECSのフェイズ3です。通常「~ではなく~だ」という力は言葉の出始める1歳半で確実になってくると言われています。また、M君は視力も聴力も中等度の障害を受けているし、食事や排泄、移動も介助が必要です。でもM君は自分の要求物や、行きたい人の写真を識別して自発のコミュニケーションが取れるようになってきました。

PECSは学習理論(ABA)に基づいたものですから、発達段階や障害の状態からできるできないを最初からは判断しません。小麦抜きをグルテン・フリーというように、アセスメント必要なしのPECSはアセスメント・フリーなのです。強化子さえあれば行動変容は可能というコンセプトは、実践の成果が出ない事を、障害や発達の理由にせず、実践のやりかたに原因を求めていく必要を、支援者に教えてくれます。

いやだー

Lさんが最近なんでも小さな声で「いやだー」と拒否するようになりました。スケジュールに提示してあるものも「いやだー」、PECSのおやつトレーニングも「いやだー」、自立課題も「いやだー」です。ただその「いやだー」はLさんの絶叫拒否から変化して周りはうるさくないので拒否を受け入れている状態です。

2歳ごろからはじまる「イヤイヤ期」は、自分で選びたい、急な大人の指示に沿えないなどの理由ではじまります。これは以前「自分で選ぶこと決めることの重要性 : 03/25」でも少し触れています。

Lさんの場合は、周囲の様子が理解できてきて、これまで機嫌よく受け入れいていたもの全てに「いやだ」が出ています。これは見通しがないわけではないので、自己選択の欲求のように思えます。「自分のやりたいものだけしたい」となると大変だと大人はすぐに心配しますが、それには当たらないと思います。ここは、まずLさんの小さな声の「いやだー」は尊重しつつ、体遊び等もっと好きなことを見つけて指示に沿うルールを作り直すことと、空中に向かって発している「いやだー」を絵カードでこれがしたい、これがほしいと示せるように仕切りなおすことだと思います。

何を支援したいのか?

Ⅰ君がスケジュールを見ないので、スケジュールを見るように声を掛けたらいいかどうかが議論になっていました。「ところでⅠ君首からスケジュールぶら下げているけど、あれは何のため?」「Jさんの見通しを戸外でも持たせるために、携帯スケジュールにしてもらったら効果があったから、Ⅰ君にもつけてもらっている」「K君がぶら下げているから自分のも欲しかったようなので作ってあげた」「???」

Ⅰ君のスケジュール支援の今の狙いは、「スケジュールを理解する」ことです。つまり、スケジュールが何の役に立つのかどう使うのかも分かっていないのです。Jさんの戸外の見通しが持てるようにするためのスケジュール携帯とは目的レベルが違います。しかし、こうした目的を理解しないまま使う視覚支援ツールの与え方は「現場あるある」で、あちこちで見られます。

他の人でうまくいったから、この人にも使おうというのはまだいいほうです。目的も分からずに格好だけ真似した「視覚支援」グッズを使う人のなんと多いことかと思います。武漢風邪のマスクと同じです。マスクで感染予防できるとは思っていないのに、みんながつけるから付き合いでつけているだけという現象とよく似ています。

視覚支援のつもりだろうけど、そのグッズの使い方はこの子にあってないよね、という様子はあちこちの学校や園で見受けられます。今回は、I君はまずスケジュールの使い方を理解する事が優先課題です。首からぶら下げていても肝心のスケジュールを見なければ役に立ちません。

スケジュール理解の最初のトレーニングは、子どもが場面の切り替えの度に、カードを貼ったり入れたりする操作をすることでだんだん理解していくのです。与えてすぐに理解できる子は多くはありません。スタッフが何を教えたいのか狙いを持ち、マニュアルに添って子どもの理解レベルにあったスケジュール支援をお願いします。

 

集団活動ができない障害やねん

H君に、放デイのない日はどうしているのと聞くと、誰とも遊ばずに家にいると言います。彼は保育所時代から同じ地域に住んでいるので知っている子はたくさんいます。でも皆共働き家庭なので顔見知りは学童保育所に行っており、声をかける人がいないそうです。

H君も学童保育に行っていたのですが、集団活動でつまづいてしまい、学童保育を嫌がってやめたそうです。「僕は集団活動ができない障害があるからみんなとは遊べないねん」と言うので「放デイでみんなと遊んでいるじゃないの」とフォローすると、「それはそうやねんけど」とあとの言葉が続きません。

確かに彼は空気を読むのが苦手で、必要以上にはしゃいでしまったり、自己抑制ができなくなる事があります。しかし、そんな子どもはどこにでもいます。まずは、職員集団がそのように子どもを理解し支援するのは学童保育も放デイも同じことです。ただ、当事者が嫌がるのは当事者の責任ではありません。どんなにサービス提供者が正当性を並べても、提供したサービスを評価するのは当事者です。

学童保育をやめたのは当事者家族の選択で、行政側が断ったわけではありません。けれども、彼は「僕の障害が友達と遊べなくしている」と考えてしまい、放デイのない日は部屋の中で過ごしています。当事者の困難度によって支給量は増えたり減ったりするのが公平というものです。週三日という地域の「標準」支給量に縛られて、放デイの支給量を増やすことはまかりならないというなら、公助とは一体何のためにあるのかと思います。

バースト現象とギャンブル理論

Gちゃんが、最近大声や奇声をあげて拒否したり要求したりするのけどなぜだろうという報告がありました。GちゃんはASDで、入学当初、機能的コミュニケーションがうまくいかず、要求が叶わないと大声をあげたりしていました。そこでPECSや機能的コミュニケーションに取り組み始め夏ころにはとても穏やかに要求や拒否ができるようになっていたのです。

学校が始まり、新しい事業所にも通い始め環境に変化があったのは当然ですが、この落ち込みぶりは激しいなぁと感じています。以前は、だんだん声が大きくなる感じでしたが、最近はいきなり奇声で「ぎゃー」と叫びます。これはABA理論ではバースト現象といって、不適切行動で相手が反応しないのでさらに大きな声や不適切な行動を修飾して要求を実現しようとする現象です。つまり、かなり日常的に不適切行動が無視されていることが推測されます。

大事なことは、不適切行動をスルーして無視することではなく正しい要求の仕方をエラー修正して教えることです。「そんなことで要求をかなえるとずっと大声を出すから反応しちゃだめ」という人がいますが、泣く子と地頭には勝てないのが世の常です。結局、激しい不適切行動の後要求がたまに実現したりするのです。

この「たまに」というのはもっと良くないのです。「ギャンブル理論」といって、たまに要求が実現するほうが行動は強化されてしまうのです。だからかけ事がやめられない人が多いのです。エラー修正で行動を修正して正しい要求実現の方法を教えることと、もう一方で、まってね・今はダメを、大暴れするような修羅場ではなく、我慢できそうな訓練場面で少しづつ教えていくことが大事なのです。

読み書き障害に対応した学習支援プログラム 【じゃんぷー1】

おかげさまで、当法人の新しい発達障害対応の事業所「じゃんぷ」が10月よりオープンします。「じゃんぷ」の支援コンセプトは「エビデンス・ベースド・プラクティス」つまり「根拠に基づいた支援」です。

あちこちの事業所のホームページをみると、必ず「発達障害」児の様々な支援がうたわれており、その支援も「ソーシャルスキルトレーニング(SST)・学習支援・個別療育・集団療育」とか「TEACCH 感覚統合療法 ソーシャルスキルトレーニング(SST) 学習支援 個別療育 集団療育 預かり支援」「応用行動分析(ABA) 感覚統合療法 言語療法 作業療法 理学療法 遊戯療法 音楽療法 運動療法 ソーシャルスキルトレーニング(SST) 学習支援 個別療育 集団療育 」などなど聞いたような療育が並びます。しかし、これらのどの療法にしても正確なアセスメントを行い個別化しないと取り組めません。それは、利用する子どもたちの凸凹のパターンや凸凹の開き方が違うからです。

「じゃんぷ」でも、幼児にはSIT(Sensory Integration Therapy;感覚統合療法)や小学生にはSSTや学習支援にABA理論に基づいて取り組みますが、こういう個別化した取り組みはアセスメントや評価をしっかりとらないとやっているだけになってしまします。子どもが楽しければいいのならそんなに難しいことは言わなくてもいいのですが、それですらなぜ子どもが楽しいのか、なぜ取り組もうとしないのかという仮説や根拠が必要です。

また、どの放デイにも「学習支援」と掲げられてはいますが、どんな学習支援をするのかは示されていません。「すてっぷ」のように宿題を手伝うことなのか、「じゃんぷ」のように保護者や子どもと契約して特別の個別学習プログラムを実施することなのかで、支援の密度も手法も変わります。

特に発達障害の子どもにみられる、読み書き障害(音韻障害を主とするもの)にどうアプローチするのかは、学校でも知らない先生のほうが多いです。じゃんぷは、認知特性だけでなく音韻意識の流暢性アセスメントをして、この問題に本格的に取り組もうとしています。おそらく、京都府の放デイでは初めての取組になるかと思います。

今回から、「じゃんぷ」の目指す支援について少しづつ紹介していきます。

 

「マジックジュース」サイエンス

高学年のD君E君と低学年のF君を読んで「マジックジュース」の実験をしてみました。「マジックジュース」とは、色が変わったり、泡が出てきたり、液体が混ざらずに重なったりする、まるで魔法がかけられたように変化していくジュースの実験のことです。

毎度掲載しているように、高学年児は同じ遊びばかりでは放デイの生活に退屈してしまいます。かといって低学年や重度の障害の子どももいるのでグループ分けはしますが完全に分離してしまうと、多様な人がいる生活の良さを生かせません。この匙加減が大変難しいです。そこで、たまに、高学年の興味関心を引き付ける内容を投げ込むことが大事です。

今回のマジックジュースは、グレープジュース(30ミリリットル)に重曹小さじ4分の1を入れて変化を見ました。「お~色が変わる!!」高学年の二人は大興奮。(ん?理科の実験って最近しないのか?)グレープジュースには「アントシアニン」が入っています。色は紫で、ほぼ「中性」です。アントシアニンにアルカリ性のものを混ぜると青くなり(グレープジュースでは黒っぽく見えます)、酸性のものを混ぜると赤くなります。重曹はアルカリ性です。グレープジュースが黒っぽく変わったのは、重曹を入れたことでアルカリに変わったからです。

D君は「リトマス試験紙と同じか」と推測。E君も「もっといろいろ混ぜてみよう」と乗り気です。ところが低学年のF君は「高学年の勉強やしおもろない」と逃げていきました。見えないものの変化に法則性を見出すのは9~10歳ころと言われているので無理ないとは思いますが、興味なさすぎでスタッフはがっくりしていました。

あとは、酸性のクエン酸(柑橘類の汁)では赤くなり、クエン酸と重曹では泡が出るなど楽しいミックスジュース遊びに、高学年は沸いていました。

注意喚起も強化子に

C君がゲラゲラ笑ったり大きな声を出して自立課題をしているといいます。「今日は、来た時からテンションが高かった(興奮していた)」「だんだん収まってきたが利用者が増えてくるとまた声が大きくなった」「テレビのコードなども抜くので音がうるさいのではないか」スタッフの言いたいことは2つです。「調子が悪いから声が大きい。音がうるさいから不適切な行動が出る。」ということです。

この論は対応するスタッフには問題はないというものです。子どもの不適切行動の大半は親や大人に向けられているものです。子どもの不適切行動が起こったら、まず大人の対応を振り返る習慣が必要です。誰にだって快・不調の波はありますし、ざわざわしてるところはいらいらするものです。しかし、だからっと言って大声をあげたりコンセントを抜いたりはしません。コミュニケーション能力があるからです。

でも、不適切な行動を繰り返している子どもには、こうした注意喚起行動が大人を引き付けるのに手っ取り早い方法となります。こうした行動が予測されるなら、一緒に座って作業を教える場面を作って「大人の適切な注目」を得る場面を作ったほうが安定してくるものです。「やることがないから」注意喚起するという理由で自立課題を与えたりするのは逆効果です。注目を得たいのですからスタッフの適切な注目を強化子にする課題を考えるべきなのです。

流暢性

高学年のB君は、書くのが大変遅くて課題に取り組むことが億劫で仕方がないと言います。読みができるので大人はあまり気づかないのですが、実は読みの速度も書く速度も遅かったりします。これを流暢性というのですが、文字を音に変えたり、音を文字に変えたりする速度のことを言います。(私たちの経験からは、視知覚による問題だけで読み書きが遅い子は大変少なく、音韻の問題が絡んでいる子が多いと感じています。)

この流暢性が弱いと4年生くらいから読み書きの困難が顕在化し始めます。つまりただ読めるだけただ書けるだけではなく、すらすら読める、すらすら書ける事が大事なのです。読めるけれどもつっかえやすいとか、連絡帳の写しの場面で他の子がカバンに片づけているのにまだ写している様子があれば流暢性が弱いとの疑いが必要です。

こうした場合、WISCやKABCだけでなく、流暢性を測るテストが必要です。STRAW等がテストとしてはスタンダードです。そこで平均値からどれくらい離れているか見て支援が必要かどうか判断します。

流暢性が著しく遅い場合は、読むことを聞くことに変え、書くことは話すことに変えて、その後電子デバイスへの入力スキルについての必要の可否を検討していきます。低学年のうちは、こうした代替手段も導入しながら、一方で音韻障害専用の音読トレーニングやひらがな獲得トレーニングに取り組んでいきます。ただ、何年たっても苦手なものは苦手なので、限られたパワーや時間をどう配分して使うかが重要です。高学年はどの方略を使っていくかの決断の時期です。

 

 

相談支援員のキャリア

9月10月は相談事業所のモニタリングが多い時期です。これは、放デイなどを紹介した相談事業所のスタッフが子どもたちの様子を見たり聞いたりして、今後のサービス計画を立てるための調査です。そこで、いつも気になるのは、子どもの見立てが違うことがあります。もちろん、相談事業所は毎日子どもを見ているわけではありませんから、毎日見ている放デイのほうが細かなことは知っていて当たり前です。しかし、利用者を見ている時間が長かろうが短かろうが、障害や発達、家族力動についての基本的な知見は不可欠です。例えば、不登校の原因に分離不安という視点や、読み書き障害の有無も留意しておくという知見は欠かせないものです。

相談員の資格はテストをするわけではありません。決められた研修に参加し、決められたサービスキャリアがあれば取得できます。今日明らかになっている発達障害や心身症関連の知見、その支援方法については、必修ではありません。こんなものは、どこまで知ればいいというものではありませんし、決められるものでもないとは思います。しかし、ある程度のレベルが必要なことも事実です。その判断は、現場に任せるしかないと思います。

例えば、研修を受けたら、1年程度はインターンとなり資格者である人の元で働き、意見書で課題も明らかにしてもらって資格者となるような手続きが必要ではないかと思います。そうでなければ、何を最低限おさえて相談をすればいいかわからないからです。この職種は相談者になってしまえば、もう誰も指摘してくれないので、最初の養成過程が重要なのです。クライアントとの聞き取りスキルなどはキャリアを重ねればそれなりに見栄えはしますが、どういう見立てを行うかは基礎的科学的な根拠が必要です。対人サービスはどんな職種も同じとは思うのですが、相談支援者は利用者が最初に出会う職種だからこそ、客観的な信頼性が大事です。しっかりと人が育てる期間が必要だと思います。

 

 

VOCA

Aさんが、頭を床に打ち付けて自傷するのは、いつも通りでない場合や要求が叶わないときに必ず起こるという報告がありました。それでも、事業所の生活に慣れてくると、Aさんにも見通しが立ってくるので、初めの頃のような頻繁さはなくなったと報告されました。

では、PECSに取り組みましょうとはなりません。Aさんが長時間手に持てる物は食事中のスプーンとか、おトイレに行くときの着替えバックくらいで、カードは無理です。つまり受容性コミュニケーションの力は伸びてきたけど、表出性コミュニケーションが伸ばせていないのです。

だったら、VOCAに取組んではどうかと話し合いました。(VOCA=Voice Output Communication Aids)(携帯用会話補助装置)。簡単に言えば大きいボタン(ビッグスイッチ等)をたたけば「お願いしまーす」と録音された声が出て、周囲の人が手助けするという仕組みです。でも、これを実現するには、まずスイッチを押せば何かが起こることを教えないと因果関係を理解するのは難しいです。

そこで、ボタンを押すとおもちゃが動くとか、好きな動画が始まるとかから取り組む必要がありそうです。本物のボタンスイッチは1万円、音声録音機能付きだと4万円と高価ですが、アマゾンなら音声ボタンは安物なら千円、壊れにくそうなのは5千円くらいから購入できます。