今日の活動
楽しみ
F君は、10か月前までは職員の気を引くために外に飛び出して、近所のマンションのエレベーター遊びをしていました。職員が追いかけて走っていくとげらげら笑ってまた逃げるという繰り返しでした。(注目要求と自立 : 07/17 )でも書きましたが、彼には大人に注目してほしい要求があり、適切な行動は注目しているよという反応を返すことで、ぱたりと不適切な注意喚起行動がなくなったのです。
もう一つは、彼の好きなものをご褒美にして課題設定をしたことです。F君の好きなものは「野外ラーメン」とサイダーです。夏前まではラーメン準備ワークシステムを見ながら、ひとりコッフェルやバーナーをリュックに詰めていそいそと山登りに出かけていました。本当に気に入っていたようで、スクールバスから降りてくる時に「今日ラーメンは?」と聞いて「あります」と答えて欲しくて送迎車の中で何回も職員に聞いていました。
それが、暑さと雨が続いたことで3か月近くラーメンが途切れています。それでも作業課題への職員の注目と、作業後の一杯のサイダーを糧に頑張ってはいるのですが、たぶんつまらないだろうなと思います。野外ラーメンはF君にとって至福の時なのです。そういえば、最近、職員がスクールバスに迎えに行っても、乗降タラップ所での「無動」「やりなおし行動」が激しくなってきているのです。もしかして、放デイ通所が楽しくないのかもと案じています。
子どもが適切な行動がとれるようになると、職員はのど元過ぎれば熱さ忘れるで、普通に扱ってしまいます。実は子どもは楽しみがなくなっていて、かといって自分から要求ができない表出性コミュニケーションの弱さで言い出せていないかもしれません。これは好きだからと、年がら年中同じことを提供するのもどうかとは思いますが、好きなことを支えに人の生活は成り立っているものです。そろそろ、「野外ラーメン」には良い季節ですので出かけようかと話しています。
服薬
すてっぷに来る子どもの過半数が行動の問題で服薬をしています。最も多いのが、ADHDの多動性や不注意を軽減するコンサータやインチュニブです。以前はストラテラが多かったのですが、新薬インチュニブの登場でこちらが一気に増えた感じです。ただ、インチュニブの効果がなかったり副作用が強い場合は、中枢刺激薬のコンサータの選択や、同じ中枢刺激薬の新薬ビバンセを選択している子どももいます。
ASDの子どもの行動問題に使われている薬は、最近利用は少なくなりましたが、激しい興奮を抑制するセレネースやテグレトール等です。ただ、これらは副作用も多いので、ASDの子どもに多く使われているのは、比較的副作用が少ないとされるリスパダールやエビリファイです。また、数は少ないですが不安や固執性を原因としたASDの行動問題にADHD適用薬を服薬している子どももいます。
激しい行動問題で、家庭や学校で大変なのは分かるのですが、毎回、服薬量が増えたり種類が変わる子に限って、行動問題が増えているように感じます。行動問題が深刻だから服薬量や種類が変わるのは当たり前だと言われそうですが、深刻な子に限って薬の量や種類が変わっても沈静化せず、むしろ行動問題が増えている印象が強いです。医療の話なので量や種類について素人が口をはさむべきことではありませんが、子どもの変化については動画なども用いて正確に医療に返していくことが大事だと家族の皆さんには伝えています。
重度の知的障害を伴うASDの行動問題の多くは、表出コミュニケーションの障害が大きな原因です。上手く伝えられないことによってストレスが生じ情緒不安定になるのだし、うまく伝わらないから激しい行動で相手が振り向くように行動する事が多いのです。このどちらも、表出のコミュニケーションが育っていない事が原因です。これらは服薬で解決できるものではありません。もちろん、学習が成立する程度の感情調整を服薬に期待することはあるし、本人が成長するまで行動問題を見過ごすこともできませんから、服薬で乗り切る時期もあるかもしれません。
しかし、行動問題を抱えたASD児の関係者(特に学校教員)が服薬に期待するのは、自閉症のコミュニケーション問題が重要な原因だと考えていない場合が多いです。もちろん、コミュニケーションの支援だけ全てが解決するわけではありません。喋れる子どもでも様々な問題は起こすものですが、その問題一つ一つに服薬を求める大人はいません。
コミュニケーション支援に取組めば、子どもの表情は和らぎ大人との信頼関係はぐっと深まります。安心して生活ができれば、行動問題の修正も支援しやすくなります。子どものコミュニケーションに真面目に取組む環境に変わるだけで、服薬以上の効果が認められたケースは少なくありません。
それと並行して、子どもはソーシャルスキルを学び、周囲の大人もペアレントトレーニングやティーチャートレーニングをうけて上手に子育てや教育をすすめるスキルを身に着ける必要があります。激しい症状には子どもが楽になるという意味で服薬は必要ですが、それは対症療法であり治療ではないという事を知る必要があります。
そして、支援学校に在籍している子どもの行動や服薬の事で困ったら、支援学校で精神科校医として勤めている校医さんに相談するのが良いと思います。精神科の校医さんは子どもの様子を教室に行って見ていますから実態は一番よく知っています。服薬のことも聞けるのでセカンドオピニオンとしても相談されるのが良いと思います。
運動会とDCD
D君がぶつくさ言いながら登所してきました。運動会練習の季節なのです。「あのな、V字バランスってあるよね」ハイハイ「あれな足も頭も上げてバランスとってていうけど、俺には至難の業なんや」ソウヤネ「頭を意識すると足がわからんようになるし、足を意識したら頭側がおろそかになるねん」協調動作ガムズイ?「そうやねん。俺不器用やからいっつもハズイ目にあっているねん」タシカニ…。
2つ以上の動きを同時に行うことを「協調運動」と言います。 発達性協調運動(症)障害(DCD)とは、2つ以上の動きを同時に行うことが困難になる障害です。例えば自転車に乗るときに手でハンドル操作をしながら足でペダルをこぐなど、異なる動きを同時に行うことが難しい状態です。
2:1~7:1で女子より男子の方が発症しやすいといわれており、5~11歳までの子供では5~6%の確率で発症すると考えられています。発達性協調運動障害(DCD)の原因は、まだ詳しく解明されていないのですが、特徴としては、次のような障害が挙げられます。
1.筋肉の制御に対する障害(筋肉をうまく動かせない)
2.神経発達過程の障害(視覚的な運動機能の障害)
3.運動技能の欠如(日常生活内の動きが困難になる)
これらの障害により、発達性協調運動障害の子供は年齢や知能に比べ、運動能力が著しく低かったり、日常生活の簡単な動作にも不器用さが見られるようになります。
発達性協調運動障害はADHD(注意欠陥・多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)の症状も同時に見られることがあるため、こちらの障害に包括されてしまうことが多いです。発達性協調運動障害とADHDを同時に持っている子供は、ADHDのみを発症している子供に比べて、強い症状が現れます。
発達性協調運動障害(DCD)は運動機能だけに障害があるので、運動機能を改善させるための接し方としては事実と理屈で示していきます。発達性協調運動障害(DCD)の子どもは、自分がうまく動けていないことに気がついていない場合もあります。鏡に映したり、スマホで見せてあげたりするとよく自覚してくれます。
運動機能を高めていくには、まず自分の苦手なところを発見することから始めます。そのためには、大人が子どもをよく観察してあげる必要があります。運動会の時期に先生方は大変でしょうが一肌脱いであげてください。そして、正しい力の入れ方を感覚と言語のWルートで理解させてください。だんだん正しい運動の感覚が理解できるようになってきて、少しずつ出来ていくので上達したらたっぷりと褒めてあげることが大切です。
この練習はできれば毎日続けてやった方が効果的です。間を空けると、せっかく覚えた感覚を忘れてしまうので、ある程度できるようになるまでは続けて練習してください。みなさんの周りにもきっとD君やEさんが2~3人いるはずです。
支援の流儀
Cちゃんの登所時の様子を報告してもらいました。絵カードを示して「靴入れて」「カバン入れて」の指示をするけど、ちっとも従わないので、声をかけすぎかと思うと言う報告がありました。「でも、Cちゃんは、帰りの用意はカバンに連絡長を入れたり、着替えを片づけたり、なんでもできるんですけどね」と帰宅用意が自立しているのに、登所で自立してないのは不思議だというふうに報告されます。
帰宅行動は絵カードを見て準備しているのではありません。保育所で教えてもらった通りのルーチン行動が身についているのです。ところが、登所場面、好きなことに目が行くようでちっとも定着しないのです。おそらく、保育所時代から登所場面はモデルになる子どももいないし、保護者が対応するので、教えられなかったのではないかと思います。
そして、繰り返しの行動で身に着いた習慣と、ワークシステムを見ながら自分の行動を統制するのでは意味が全く違います。後者は視覚認知の力や今やりたいことを保留して行動する自己統制の力が必要です。その際に注意しなければならないのは、声掛けも絵指示も、ひとつづつ大人が従わせようとするなら、言葉で言っているか絵で指示しているかの違いだけで、従わせられると言う本人の気持ちは同じだという事です。
ワークシステムは自立性を目指します。そうであるならばフェードアウトの方法まで考えて教える必要があります。身体プロンプトで目の前のワークシステムを指ささせて行動するようにします。そうすると声掛けは少なくて済むし、大人の介入も黒子のようになって最小限で済みます。
将来の自立した姿を思い浮かべて、最初は靴入れ程度だけど、これが学習や作業場面に応用されて、自立して行動できるようにすることが目的だと考えれば、小さな子どもへの支援の仕方も変わってくると思います。これがプロフェッショナル支援の流儀なのです。
なんで?理由を聞こう
言葉のないB君が、以前は取り組んでいた集団遊びの課題を拒否したのでしませんでしたと報告がありました。そこで、B君が穏やかに拒否したのはいいことだけど、何故拒否したのか理由を聞くと「わかりません」ということでした。では、今度も拒否したら課題には取り組まないという事ですかと聞くと、そこまで考えてはいないとのことでした。理由を聞くといってもB君は言葉でやり取りできないので正確には、働きかけてあれこれ理由を探ると言うことです。
確かに、子どもが暴れたりするような不適切な行動をして、大人が指示したことを拒否するよりも、手で押しのけたり首を振って「嫌です」と穏やかに表現する方が良いです。ただ、「嫌です」「あーそうですか」で終わったら、子どもが何故嫌なのかわからないままです。もちろん、嫌だと表現しているのに無理に強いるのはもってのほかですが、いろいろと交渉することが大事だと思います。
「これが終わったら大好きなことしましょう」とか「だったら量を減らしましょうか」等といろいろと交渉をする中で、嫌が好きになることもあります。他にも、気になって仕方がないことがあるとか、単に体がしんどいとか事情が少しづつ分かってくるはずです。嫌を受入れていればトラブルは起こりませんが、それ以上双方が歩み寄ることもありません。通常の生活で言えば「それなら勝手にしてよ」と言っているのと同じです、子どもは大抵「なら勝手にするわ」となります。これでは身も蓋もありません。
交渉は、お互いを尊重し合い歩み寄るためにします。そのためには、嫌の理由を知る必要があります。言葉のない人はうまく言えませんが、交渉する中で見えてくることがあります。案外「もうその内容は飽きた」とか「つまらんねん」とかいう理由が少なくないです。マンネリに気づけば、「よっしゃ!新しい内容を考えてくるわ」と職員が捲土重来を期すきっかけにもなります。交渉は双方が学び合うと言う意味でも重要です。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」…使い方が違いますか。
季節の変わり目?
Y君もZさんもA君も、気分調整が難しくて向精神薬の服薬が必要な人たちに変調が多いように感じます。秋への変わり目のようなぐっと気温が下がる季節だけでなく、一日の寒暖差が大きい日が続く春秋のお彼岸頃を前後して(人によって1か月程度ズレます)、調子が崩れてくるのです。医師に相談すると、エビデンスがないと一蹴されますが、現場の支援者はなんとなく感じています。
Y君は、何度も大人に今すべきことを確認しないと動けないことや、昔、大人から怒られたことがスリップして、脈絡なく他害の攻撃衝動が激しくなったりします。Zさんはしばらくなかった圧感覚を大人に求める行動が始まって、背中をずっと押して欲しがります。A君は、夏調子が良かったとは言えないのですが、最近さらに不眠や多動性だけでなく、足をばたつかせるとか座ってられないなどアカシジアやジストニア風の動きもあり、ずっと興奮していてしんどそうです。
これらは、秋が深まっていくと落ち葉が地面を隠すように鎮静化していくので、恒例の事と保護者も支援者も経年と共に気にしなくなっていくのですが、体が大きくなると症状も激しくなるので、なんとかできるものならと医師に相談することが少なくありません。医師も沈静化を狙って投薬変更したりするのですが、裏目に出る場合もあり、感情調整の投薬は難しいことが多いようです。
診察室に本人が入ってもわずかな診療時間では激しい症状の様子が見られないこともあるし、保護者の言葉だけではうまく本人の状態を伝えきれないこともあります。私たちは保護者にスマホで撮った1分ほどの動画を提供しています。保護者はそれを医師に提供して症状を伝えられるようにしています。そもそも、子どもの行動の状態が悪い時には通院することが難しい場合も多いです。
最近、リモート診療も認められてきたのですから、家庭から医療にアクセスして、こうした当事者の動画を家族から提供してもらって診察材料にすることも障害者医療は考えて欲しいなぁと思います。処方箋も電子決済が可能になれば、わざわざ遠くの専門病院に処方せんだけをもらいに行く手間も省けると思います。
ソーシャルナラティブ
最近、低学年のX君が「公園なんかいきたくなーい」と頻繁に言うのですが、公園に行くとX君が一番楽しそうに遊んでいます。高学年の先輩たちが口走る言葉をそのまま真似している感じです。でも、そう口走るのは、何のために放デイに来ているのか、遊びに来ているのに何故スケジュールがあるのか引っかかることがあるからだと思います。
ASDの子どもがこういう引っ掛かりを持った時には、説明が大事です。ASDの子どもは社会的な暗黙の了解ができません。以前、X君のあこがれの先輩たちが、すてっぷに来ている支援学校の人たちだけでなく、自分たちにも障害があるからここに来ているのだと彼らの先輩から聞かされて驚いていたというエピソードがあります。説明がされていなかったので何十回と利用しているのに不思議に思わなかったというわけです。
X君にはソーシャルストーリー™(以下SS)が必要だと思い、職員が以下のSSを作りました。(表題でソーシャルナラティブと表記しているのはキャロルグレイがソーシャルストーリー ™を商標登録しているので許可なく利用できないからです)
「すてっぷは 勉強をするところです。それは、社会で他の人たちと、なかよくくらしていくためのべんきょうです。ゲームをしたいときはしたいと言っていいです。ただ、できる時とできないときがあります。できるかどうかは、すてっぷの先生がきめます。ゲームは決められた時間でします。それは、次のスケジュールがあるからです。ただ、『もっとゲームがしたかったな』と自分の気持ちを言う事はしてもいいです。」
そうすると、いきなりX君が「僕はすてっぷに遊びに来ている」と言いきるので困ったと職員が報告してくれました。「勉強」は学校でするものでステップでするのは「遊び」だというカテゴリーがしみ込んでいるのでここは「勉強」は撤回して「遊びの学び」みたいな初めて聞く造語で切り抜けるように職員には提案してみました。
SSには6つの文型(事実文、見解文、指導文、肯定文、協力文、調整文)から成り立っています。事実文は書き手の意見や仮説・推論を排除した事実についての説明する文です。見解文は人の心の中の思い、人が知っていること、考えていること、感じていること、信じていること、意見、動機、あるいは体調や健康状態について説明する文です。指導文はある状況や考えに関して、対応の仕方の提案や対応の仕方の選択肢を明示することで、自閉症の子どもの取る行動についてさりげなく導く文です。
肯定文は前後の文章の意味を強調する効果があり、その子の暮らす場所で一般に共有されている価値観や意見を表現する場合に用いられます。協力文は子どもの手助けをするために、他の人が何をどのようにしてくれるのかを説明する文です。調整文はSSで学んだ情報を思い出して自分なりの方法でその場に適用するために、子ども自身が考えて、自分で書く文のことです。
これらの文型を用いてSSは作られ、Gray(2006)のSSのガイドラインで様々な判定基準を定めているので、それにそぐわないものはSSとは認められていません。ですから、先の提示文はSSとは言えず、ソーシャルナラティブ(社会的物語・説明文)と言うべきですが、ASDの子どもに伝わりやすさを考えるとSSのガイドラインは重要です。さて、X君はどこまでわかったのでしょうか?子どもによって理解の仕方は違うので本人の理解の状態を見ながら書き直していくことも大事な作業です。
高すぎた目標
W君の指導の事後評価を行いました。W君の目標は、仲間に誘われたら遊べるとか、自分の思いを伝えられる等、社会性やコミュニケーションについて支援学級の子どもによく見られる目標設定でした。けれども、W君はASDの対人相互性の発達に課題があり、目標が高すぎて「達成せず」と評価せざるを得ませんでした。もちろん、あてずっぽうに書いたのではなく、相談事業所から送られてきた資料を基に作成した支援計画で、五月に職員みんなで検討をしたものです。
しかし、今読むとどう見ても支援学級でお友達と話すことが楽しいと感じる子どもの支援計画にしか読めません。W君は、言われたことはある程度理解するし、少しおしゃべりもしますが、応答のおしゃべりがほとんどで自発の表出コミュニケーションが弱いです。人を特定して話しかけていないなど、コミュニケーションの基本のところで課題があるようです。公園遊びでも、誘われれば後ろからついてくるし、みんなと一緒にいるのは楽しいのですが、友達のしていることには興味がないので未だに一人遊びのままです。順番等友達の行為に着目することを目標にするべきだと話し合いました。支援学校の子ども達中心に取り組んでいる的あて等の少人数遊びの方がやるべきことがはっきりして達成感もあり楽しめそうです。
初めて通所利用する子どもの場合、学校や学級在籍、以前の情報を頼りにしてしまい、本人の実態と違う目標を設定してしまうことがあります。間違いを修正するために、相談事業所のモニタリング制度はあるのですが、相談事業所の抱える件数が多すぎて、丁寧に検討できないのかあまり役に立ちません。もう少し、検査結果などフォーマルデーターを提供してもらえれば良いのですが、子どもによってデータの提供量も違います。身辺自立が確立しており顕著な行動問題がないことは、とても良いことですが、療育目標を設定する際には認知特性の情報が欠かせません。周囲が困らないことを基準にするのではなく、本人の特性に応じた目標精度の高い療育を提供していきたいと思います。
嫌な課題をスケジュールから捨てる子
V君がペットボトル処分の作業に取り組まず、タブレットでユーチューブの動画を見ていました。スケジュール(V君は修行中でまだ2課題程のワークシステム)を見ると、「作業」カードが終了箱に落とされていました。ユーチューブが終われないというよりもう少し手が込んでいて、作業のカードを落として、なかったことにしいるのです。これはスケジュール支援のあるある事件です。
嫌なカードをスケジュールから落としてしまうのは、大人との交渉・約束の意味としてスケジュールを理解していない典型例です。報告してくれた職員は、作業が嫌なのかと思いペットボトル作業ではなく、自立課題でマッチングの簡単な一課題を作業の代わりにさせたと言います。つまり、ペットボトル処分作業が嫌ならこの短時間で簡単に終わる自立課題はどうですかという交渉をしたわけです。
それって、正しい交渉なのかという意見が出てきました。つまり、V君は動画がやめられなくて「作業」のカードを落とせば作業はしなくて良いと認識しており、ここは交渉ではなく「嫌です」表現を職員に向かって行うように教えるべきではないかという意見でした。嫌ですを大人に表現したうえで、あれこれの交渉が始まるのではないかということです。
その通りですが、この場合は動画が終われないだけの事で、本質的に作業が嫌なわけではないかもしれません。それなら、ワークシステムに「ペットボトル作業」の後「タブレット」を入れて交渉すれば、理解できたのではないかとも思います。「嫌だ」は、段階を追わないと子どもが混乱する事が多いので、計画的に教えます。
拒否は具体物を示したときに首を横に振ったり手で払いのける行動から教えていきます。確認したスケジュールを変えると、スケジュールカードとコミュニケーションカードの使い方で混乱することがよくあるので、最初からは教えません。スケジュールの変更を教えるのは、「お楽しみ」の時間に選ぶ行動や「変更します」の場面でいつもと違う事をその場で入れる等して段階を追って徐々に教えます。
V君は週に1回しか来ないので、課題は見えるのですが段階を追った支援で目標にたどり着くのはなかなか難しいですが、家庭と連携すれば学びは早まると思います。
先生!俺のマウス取ってきて!
新入りのT君がマイクラをみんなとするために、2階にパソコンを運んできました。ところがマウスを忘れていました。「先生、マウスがない」「1階にあったでしょ」「先生!俺のマウス取ってきて!」とT君が言いました。それを聞いていた小学生の先輩たちの顔から血の気が引いていきました。
先輩たちは、『絶対U先生ブチ切れるよな(彼らは事業所で実際に怒鳴られたことはありません)』『自分で遊ぶものを大人に頼むなんてありえん』と思ったのでしょう。でも、先生はブチ切れることはありませんでした。先輩たちは胸をなでおろしたと言います。
「なんでそんな言い方したのかな?」とO先生。「ん-言い方わすれてた・・・」とT君。「それだけ?」の問いに「面白いからかな」と答えます。T君は先輩たちと同じように知的な遅れはありません。けれども学校や学童に行きにくくなっているそうです。
たぶん、友達や他者とのやり取りでもこんな場面があるのかもしれないなぁとO先生は言います。おそらく、相手の感情が読みにくいか、同じような場面で大人に強く叱られたことが行動にこびりつく※フラッシュバック様の行動かもしれません。(※不安など負の感情が引き金になって、以前の不安が生じた言動を無意識に瞬間解凍する様に繰り返す。PTSDの一種と言われたりするがエビデンスはない)
でも、先輩たちの反応の方がO先生はずっと面白かったと言います。「あの子たちも、前は悪態ついたり、非常識言動あるある子どもでしたよね」その彼らが驚いているのがおかしかったと言います。先輩諸君!T君の事よろしく頼みます。
はしゃいでしまう理由
S君はパート職員が関わるとはしゃいでしまうと職員が言います。何故パート職員だとはしゃぐと思いますかと聞くと、子どもの不適切な行為にパート職員は驚いてしまいオーバーリアクションをするからだという意見が多かったです。つまり、不適切な行動は反応せずにスルーすればいいという事です。このブログでは「スルーはあんまり効果はないよ」と何度も書いているのですが、一度身に着いたものはなかなか変わらないようです。
確かに、不適切な行動に着目して声を上げたり笑ったりするオーバーリアクションは子どもの強化子になってしまい良くありません。しかし、スルーするだけでは何が適切なのか子どもにはわからないままです。そこで、不適切な行動の原因は何かを見つけて、それが注目要求行動なら「遊ぼう」要求を出させたり、それが、暇つぶしの反応なら「ビデオ」とか「タブレット」の要求を出せるようにやり直しを教えます。
しかし、いきなり行動問題爆発の場面ではベテランでも行動修正は難しいです。二人が簡単な交渉を何度も経験していることが大事です。課題が嫌だと拒否したときに、終わったら大好きなビデオ見せるよとか、外とに行きたいと要求したら、この課題をしたら外に行こうとか、もっと簡単な交渉はおやつの場面で「まって」で5秒待つことを指示する等、職員と子どもが交渉で向き合う場面を設定する必要があります。
パート職員さんには交渉は難しかろうと、見守りだけをお願いしている職場は少なくありません。しかし、それでは子どもも大人も適切な関係は結べません。前にも書きましたが、重度の子どもははしゃいでいるのは何も楽しい時だけではないのです。不安な時も興奮してはしゃぐことがあります。
つまり、子どもにしてみれば\適切な交渉の経験のない、つまり、交渉したことを達成して「OK!グッジョブ!」の関係性のない大人は子どもにとっては不安で緊張するのです。それが、はしゃぐと言う行動につながっていることがあると思います。パート職員も常勤職員と同じように子どもと交渉して「すごいね。できるね」の関係をどれだけ作るかが問われているということです。
単位の勉強にいいものがあります!! Y先生のじゃんぷ通信7
単位の勉強に苦しむ子どもたちにいいものがあります!!Y先生のじゃんぷ通信7
じゃんぷに通う子どもたちが宿題を持ち込みます。算数の宿題でお母さんたちが口をそろえて相談されることの一つに単位の計算があります。最初は1~2年生の時計が読めない、時間の計算ができない悩みです。算数科の中では「量と測定」という領域です。低学年の時間、長さ、重さから始まり、中学年の面積、体積(厳密にはL、dLは2年生から)、高学年ではすべての単位換算が出てきます。
ずっと悩み続ける中身です。色々な単位のイメージがない中で、頭の中だけで操作しようとしても、正解なのかどうかわからないので余計に定着しません。中学校に行くと、もうそこは分かりきったものとして授業が進みます。
そこで算数を研究している先生方がある道具を見つけました。 「単位計算尺」というものです。昔の先生は手作りで全員が持ち、授業の中で使っていました。現在いいものが発売されています。(写真参照)乙訓でも今の大学生が小学生だったころは使われていました。
よくかけ算で九九表に頼らないで自分で答えを見つけようと必死で覚えさせる練習になりやすいです。同じような発想で単位換算も道具に頼らないで自分で見つけようと最後は暗記に頼りがちです。まだ定着ができずに悩む時にこそ、いつも正解を示してくれる計算尺を手がかりして解くことで次第に単位の仕組みを理解していきます。
不注意がある子やイメージがわきにくい子、記憶※が苦手な子はこの仕組みがなかなか分かりにくいのです。単位のイメージを押さえながら教えることは大前提ですが、単位が複雑になってきた計算をする時には正解が分かることが大事です。(※ワーキングメモリー:換算単位記憶を呼び出して短期記憶に保持しながら換算作業を行うと、作業記憶が容量オーバーで保持できなくなる)
学習障害や発達障害の子どもたちにとって学習する時に、道具を使いながらもいつも正解が分かって、最後にはなかみの仕組みや手順に結びつけられるような支援になることが重要です。
Y先生手製単位計算尺
ベテランは道具のせいにはしない
中学生のR君、昨年までは学校でスケジュール表を使っていたけど、予定変更でパニックを起こすので今年度はスケジュール表を使っていないと職員が聞いて返す言葉がなかったそうです。でも、それは、学校ではあるある事例です。他にも、絵カードスケジュールを使っていたら、気にいらない絵カードを捨てるようになったから、せっかく作ったのにもったいないから絵カードはやめたとか、勝手に好きな絵カードをスケジュールに入れてかえって教員との摩擦になるのでやめたなど、スケジュールを使ったけど諦めたというケースはたくさん聞きます。
でも、それは、スケジュール支援をしたから生じているのではありません。このブログでは何度も書いていますが、スケジュール支援は、PECSでは交渉スキルのかなり後の方のスキルなのです。また、ASDの子どもはビジュアルドライブと言って、見たものに従属しやすい傾向があって、自分は嫌なのに従う事があって後で怒り出す事例があります。つまり、これは自閉症のビジュアルドライブの特性や、スケジュール支援は交渉スキルの積み上げがないと躓きやすいことを、知らないまま指導して起こっている事がほとんどです。
私たちの事業所でもこうしたケースは何度も出会しますが、先の2つの原因がほとんどです。原因を調べる時に必ず職員に聞くことがあります。それは、子どもの自発表出の要求スキルを鍛えないまま、子どもの理解スキルばかりに注目していなかったかどうか、2つ目は子どもの「些細なお楽しみ」の後回しや変更について、大人との交渉トレーニングを地道に積んだかということです。つまり、子どもが絵カードで驚くほど従うようになったのを良いことに、子どもが要求を伝えるトレーニングや交渉トレーニングを抜きに、大人の思い通りに動かそうとしていなかったか聞くようにしています。
絵カードスケジュールのせいにするのは、腕の悪い職人が道具のせいにするのとよく似ています。道具が悪いからいい仕事ができないと言うのです。良い職人は、どんな道具でも上手に使いこなして、一人前の仕事をするものです。そして、ベテラン職人は半人前の職人に向かって「道具のせいにするより、テメーの腕を鍛えやがれ」と檄を飛ばすものです。ベテランはこうも言います。すぐに何かを作ろうとせず、まずはカンナが曳けるように何度も何度も取り組めと、一人前はいきなりなれるものではないと諫めます。道具のせいにするとは、困ったものです。
約束は守る
言葉のないQ君が通所してきたので、これからすることを伝えました。絵カードで「公園」「ぶらんこ」と「事業所」「おやつ」を示して、公園でブランコした後事業所でおやつにしようという意味です。
公園に行くと、ちょうど雨が降った後だったので、ブランコの下に水たまりができてブランコができずに事業所に帰ってきたそうです。それでは、別の公園でブランコしてきたらどうかと他の職員が指示したそうです。
すると、Q君は事業所を少し出た道路で座り込んでしまいました。それをなだめすかして他の公園まで連れて行きブランコをして帰ってきたそうです。道路に座り込む理由はこの経緯を考えれば明確です。もしもQ君が喋れたらこう言うでしょう。「公園に行って帰ってきたらオヤツだって示したのに、なんでやね~ん!」です。
「いやいや、それはブランコの下に水が溜まってから遊べなかったので、ブランコができる別の公園に行こうとしているわけで・・・」そんな理屈は、すでに事業所に帰ってきたQ君には理解不能です。変更の交渉もなく無理やり連れて行かれたという理解になります。「だから大人は信用できない」とQ君が思っても仕方ないです。
絵カードを示すと言うのは言葉で約束したことと同じです。言葉のわかる子に「公園行って帰ったらおやつにしましょう」と言ったなら、必ず変更の際には、「ごめーん、他の公園行ってからおやつでいいかな?」と聞くはずです。あるいは「なんでやね~ん」と子どもが怒ったら説明して交渉をしたはずです。
言葉だろうが絵カードだろうが約束は守るもので、変更が必要なら交渉するのが世の中のルールです。もちろん変更の交渉をしたからといって、納得してくれるかどうかは分からないですが、それはどの子も同じです。言葉がわからないからこそ、「絵カードを示す大人は信用できるよ」と思ってもらえるように、約束は大事にしてほしいと思います。
動画研修と視覚支援
すてっぷでは、今年度になってからパートの方にも支援方法を学んでもらおうとLINEで動画を配信しています。忙しいので編集したものではなく生で1分間ほどの動画をやりとりします。文章であれがどうしたこうしたと書いてもその場の条件や支援者の間の取り方などがわからないので生の動画の方がわかりやすいです。
主にはコミュニケーション場面について動画をグループラインでやり取りしています。Pちゃんのおやつ場面の動画では、Pちゃんが確実なおかわり合図を出してから食べさせる行動を1分ほど撮影したのですが、Pちゃんのおかわりサインがだんだん強化されてきているのが1分間見ててもわかりました。子どものリアクションを待つことが大事と1分喋っても大して重要性を伝えることはできませんが、「目に物を言わせる」と説得力があります。
唸り声でうるさかったQ君の「うるさい+タブレットなし」カードも、ホンマかいなと思うほどの絶大な効果があることが、「論より証拠」でグループライン全員に配信できています。結局、私たちにも視覚支援は有効なのです。音声言語で意味を全部つかみ取っているわけがないのです。ましてや文字言語でも同じです。読むのが苦手な人は何も利用者の小学生だけではないのです。歳をとればとるほど読むのは面倒になってきます。視覚支援最高!
暗黙の了解
P君に、「公園に行くから、みんなのおやつとお茶をリュックに入れて用意してね」と職員がお願いをしました。素直なP君は「わかったー!」といそいそと、準備を始めました。職員は、「低学年なのに言いつけたお手伝いができて偉いなー」と公園で褒めようと車に乗り込んだそうです。
公園に着いて、「P君、用意したリュックは?」と聞くと「え?事業所にに置いてきたよ」と平然と答えたというのです。「いやいや、おやつとお茶はどこで飲むと思ったの?」と職員が聞いてみると、P君は「????」と言う感じだったっと職員から報告されました。
つまり、P君にしてみれば確かにおやつはリュックに詰めろとは言われたけど、そのリュックを公園に持っていけとは指示されなかったと言うわけです。職員一同「あるある」と大笑いでした。暗黙の了解がわからないので字句通りに行動してしまいやすいのがASDの特性です。P君が悪いわけではないので、今度からは「リュックを用意して、そのリュックを車まで持ってきてね」と付け加えればいいのです。
大人でも、「その子を見ておいてね」と指示を出すと、子どもが色々不適切なことをしていても「見ておけ」と言われたから見ているだけにしたと平気で言われる方もいます。でも、その人だけが悪いと言うわけではないでしょう。ユニバーサルな指示は、「見ていて危険な行動をしたら、その行動を防ぐか応援を呼んでください」と言うべきなのです。と言っても、またその行動の防ぎ方でトンでも支援がありそうですが・・・。
子どもの目標と大人の行動
Oちゃんの支援計画を考える時に、コミュニケーション支援のところで「手を伸ばすなど自分から要求できるようになる」という自発のコミュニケーションの目標を掲げました。Oちゃんは機能的なコミュニケーションはまだできない子どもです。
自らコミュニケーションの存在を意識していない人に「要求できるようになる」という目標を掲げること自身は問題ないにしても、目標達成しなかったときの原因がはっきりするような、支援方法を書くべきだという話をしました。
大人がOちゃんの表情や素振りを読み取って、その時におやつを食べさせたり、欲しいものを手渡したりするわけですから、支援者の「間」が非常に大事になります。以前にも(スナックタイム改めコミュニケーションタイム: 08/26) で、支援者が「食べさせる時間」だと考えてしまうと、この「間」がなくなってしまうから、スナックタイムではなくコミュニケーションタイムと改名しようと書きました。
つまり、本人の目標が達成できるもできないも、支援者の見立てと対応如何だと言うことがわかるように、支援方法に書く必要があるということです。「おやつは、手がおやつに動くか、支援者に視線を合わせてきたら「おやつだね」と言いながら口元に持って行き最後は自分で口に入れる動作を引き出す」などと具体的に書きましょうと話し合いました。
そうすれば、支援方法が正しかったのかどうかが、確認しやすくなるという事です。重度の人や支援が難しい人の場合、目標自体は正しくても具体的にどう支援するのかと言う方法が書かれていないと、延々と同じ目標が続き、支援計画が形骸化してしまうと思うからです。支援は、大人がどう行動するかがカギなのです。
強化子・動機付け
事後評価の会議でM君に靴を靴箱(段ボールBOX)に入れるように取り組んでいるが全くできないと報告がありました。M君は注意が転導しやすく周囲がざわついていたり好きなものが目に着いたりすると気が散ってしまいます。
けれども、郵便物を二階の先生に渡してきてねとお願いすると、移動中に様々な刺激があるのに郵便物を届ける事ができ、「ありがとう、じゃぁ1階のN先生にこれを渡してきて」と再びお願いしても正確に持帰ることができます。これだけの目的行動がとれる人が本当に目の前の靴箱に脱いだ靴を入れる事ができないのかどうか話し合いました。
話し合った結果、何故郵便物は運べるのに自分の靴は目の前の靴箱に入れられないかの推測は二つでした。一つは、部屋に入るときは全員が入ってきて、玄関口がざわつくので気が散りやすいことです。この際、玄関口の子どもたちがいなくなってから、プレイエリアが視界に入らない場所で取組むことにしました。
もう一つは、郵便物が一人で運べるのは、人が好きなM君にとっては二階の先生の場所に行くこと自体が動機になり、先生に会う事が強化子になっているということです。靴をBOXに入れても彼にとっては利得はないので学習しないという推測です。したがって、彼のお気に入り絵本を通所後はすぐに手に取ろうとするで、これを強化子にして、BOXに靴を入れる→絵本を与えるというルーティンで支援すればどうかという話をしました。
障害の重い人にはマンツーマンで介助をすることが多いので、できそうなことでも介助者がやってしまいがつです。実際にできるように支援しようとすれば、動機や強化子を把握して自発行動を引き出す必要があります。支援学校の子ども中心につけられる「個別サポート(Ⅰ)」とは介助行動の加算ではないのですが、日常生活動作が全介助を要する人が対象とあるので、障害を固定化して見てしまいがちです。
休憩・遊び??
よく子どものスケジュールに「休憩」とか「あそび」とか示して「自由にしていいよ」と言う意味で使っていることがあります。でも、これは子どもによっては、何をしていいかわからない事になります。今日は子ども自己刺激の声が大きかったと言う報告があったりしますが、その前にその時子どもがどうしていたのかが大事です。
何かをしていて声が出るなら、貧乏ゆすりとか椅子のギッタバッタンと同じようなものですが、何もしていない時に声が出てしまうなら、暇なので自己刺激をしているか、声を出していると誰かがするべきことを指示してくれる事があるので、「暇なので指示して」という注意喚起かも知れません。
コミュニケーション障害が重い子どもの場合は、後者が多いです。そうであるならば、やり直し行動で絵カードで好きなものを要求する等を教えます。大事なことは、大人が思っている「休憩」「あそび」は目に見えるものではありませんから何をしていいかわからない子が少なくないのです。「休憩」ではなく「忍たまビデオ見る」とか「髭男のアルバムを聴く」「シルバニアンファミリーを並べる」等具体的な余暇の過ごし方を提示することが大事です。
神支援 視覚支援 分化強化
L君はタブレットで遊ぶ時に、「うーうー」と自己刺激の低い声を出しながら遊びます。最近特に声が大きくなってきたので、本格的に唸り声の消去に取り組むことにしました。本人に自覚がないとはいえ、集団生活をする場合は他の人の迷惑も考える必要があります。また、唸り声があるだけで皆から遠ざけられるのは、L君にとってもマイナスだからです。以前にも耳障りな声については(奇声を減らす支援 : 08/06)で掲載しました。
言葉のないL君に自覚してもらうためには「うるさいからやめて」と言葉でお願いしても意味が分かりません。「うるさい」というのは他者の気持ちですから見えません。また「うるさい声」そのものも見えません。これを言葉でお願いしてL君に理解してもらうにはハードルが高すぎます。視覚支援にして絵にするにしても、「うるさい」をどう表現するか「唸り声」をどう表現するか難しいですが、言葉よりは理解してもらえる可能性は100倍あるとは思います。
そこで、L君がタブレット遊びで「うーうー」唸っている時に、タブレットを取り上げて「うるさい顔✕」と「静かにシー顔〇」カードを渡します。絵カードを見て声がなくなったタイミングで、タブレットを返すというやりとりを何回か続けました。すると、タブレットで遊んでいても、ほぼ声がでなくなったのです。「神支援でした」と職員は言います。
視覚支援が功を奏したと言うよりは、応用行動分析で考えると、唸り声を出すと強化子(タブレット)が取り上げられ、唸り声をやめると強化子が与えられるという分化強化※が成功下のだろうと考えています。しばらくこの対応を続けてみようという事になりました。
※分化強化とは、心理学、行動学用語。複数の反応が出現した際に、片方の反応は強化し、もう片方の反応を弱化する事を指す。正しい反応だけを強化していくことで、その行動はより確実になる。
動画で支援
高等部のK君がボール投げを楽しそうにしていると職員から報告がありました。前々回、初めてボール投げのやり取りをしたけど、ものすごく嫌そうな顔をして、ボールが飛んでくると恐怖の顔色になり無理なのかなという報告がありました。
どうして教えたか聞くと職員の投げたり受けたりする様子を真似るように指示したと言うのです。ASDの人の中には、指示されて人の真似をするのがものすごく苦手な人が少なくありません。「こっち見て」「ここを見て」と大人は言うのですが、「こっちってどこや?ここってどれや」と言葉で言われても人のどこを見て何を真似ていいのかわからないからです。
そこで、ボール投げの動画を見せましょうという事になりました。タブレットの動画は何を見ていいかすぐにわかります。注目点がわからなければ指さしても示せます。前回は、ボール投げの動画を見てK君一発で何をしているのか、どうすればいいのかわかったようで、その後すぐに他の職員と上手にボール投げ・受けができるようになったそうです。
そして今回、最初にうまくいかなかった職員とボール投げをすると、嘘みたいにニコニコして上手にできたという報告となったわけです。最初の段階では、どうしていいかわからないのに、前で職員が「○×△ω」と訳の分からない事をしゃべっているかと思えば、突然ボールが飛んできて顔に当たりそうになって、「怖い怖い」と思ったのかもしれません。今ニコニコしているのは「先週、動画見て良く分かったわ」という安堵と自信の笑顔なのです。百聞は一見の「動画」に如かず・・です。
ちゃぶ台返し2
Iさんとインターン学生(すてっぷではインターン学生を受入れています)でオセロをしていました。どちらも女性で和やかにゲームは進みました。Iさんはいつものんびりとした口調で受け答えをする女子なので、みんなから好かれています。結果は、Iさんの負けとなりました。その途端、Iさんはオセロ板を無茶苦茶にかき回したそうです。
職員は、Iさんでも悔しくて感情を露わにすることがあるんだと、驚きと共にある意味ホッとしました。インターン学生はIさんにオセロ版をかき回した理由を聞くのですが、「やりたくなかった」とぽつりというだけで意味が分からなかったと言います。おそらく「(負けてしまうなら)やりたくなかった」と言いたかったのでしょう。
インターン学生は、こうした時どうしていいかわからなかったと言います。お話ができる子どもなのに突然爆発する感情に驚くことは職員でもあります。こんな時は、感情の表出を否定しないことです。「そんなことしても伝わらない」と否定して言うのではなく、「怒っているのはよくわかったよ」「くやしかったよね」と感情の種類を教えます。
その感情が「悔しい」という事が共有できれば、その表現は「くやしー」「はらたつー」と言えばいいことを教えます。一緒に怒る練習をしてみます。子どものうちに感情全てを内面で処理することは求めるべきではないです。まず、言葉にしてみる事で大人が「そうだね悔しいねぇ」と調整してあげればいいことです。だけど、ボード板をぐちゃぐちゃにするような「ちゃぶ台返し」は禁止ですと教えていきます。
交渉とスケジュール支援
J君がスケジュールを見てプール遊びは嫌なのでキーボード遊びがしたいとキーボードの絵カードを持ってきました。職員はスケジュールをその場で自在に変更するのは問題があると思ったので、プールの後にキーボードと交渉したけれど本人は納得しないので、外に行くのが嫌なのだろうからと推測して、プットイン(作業)課題のあとにキーボードではどうですかと交渉するとOKが出て交渉成立となったそうです。
この場合、職員が子どもの要求そのものは認めて交渉した点では良かったのですが、問題はスケジュール提示です。J君がスケジュールを理解しているのかと聞くと「課題」「おやつ」「課題」の3個提示位くらいは理解していると言います。それに対して「最初に納得した「プール」は嫌だとキーボードを要求している。スケジュールは交渉成立の証文のようなものだから、それを反故にするならスケジュールは成り立たない」という意見が出ました。
でも、スケジュールは理解しているという職員によく聞くと、最初にスケジュールを本人に丁寧には説明していないと言います。もしも、丁寧に説明していたら、その時点でプールは嫌だという行動があったかもしれないと言うのです。以前にもスケジュールは交渉の最終形だと書きました。(スケジュールの間違った使い方: 06/17)(好き好き交渉: 08/23)
絵カードスケジュール支援は子どもの見通しを視覚化することで理解を促すものだという説明が多いですが、それだけでは、子どもによってはスケジュールボードに貼っておけば要求が実現すると思ったり、スケジュールボードから絵カードを外せば回避できると思ったりするASDの子どもは少なくないのです。
こうした誤解を予防するには、しっかりと2枚絵カードで交渉したり、要求物をしばらく待つことを教えるなど、要求と同時に適応行動も教えていく必要があります。その土台がある程度固まったうえでスケジュール支援は成り立ちます。ただ、お互いに了解したスケジュールであっても、大人も子どもも、何かの都合で今はダメだという表出はあって然るべきなので、それを教える段階がいつなのかは議論のあるところです。これは、みなさんに考えて欲しいと思います。
リモート職員会議
NPOホップすてーしょんは、二つの事業所があります。主に子どもの遊びや生活から療育アプローチをする「育ちの広場 すてっぷ」と、発達障害のある就学前の子どもたちと、学習障害のある小中学生の学習から療育アプローチする「学びの広場 じゃんぷ」があります。この二つの事業所には4人づつの正規職員がいて、月に一度リモートで職員会議を行っています。
この職員会議では8人の職員が実践の紹介や教具の交流をして、働く場所は違うけど、発達障害の支援コンセプト、志は同じであることを実践交流を通じて共有しようとしています。二つの事業所の療育の形態は違っても目指していることは同じだと言うのは簡単ですが、お互いの生の実践を知らなければ気持ちは離れていくものです。
リモート会議の資料にペーパーは全く使いません。基本はパワーポイントによる写真や動画のプレゼンテーションで実践を交流します。プレゼン時間は一人5分と制限していますが、いつもみんなオーバーランして話してしまいます。今日は読み書き障害のある子どもの音読法の動画紹介、作文が苦手な子どもにマインドマップを使う実践、就学前療育に感覚統合の取り入れ方、ローマ字指導に効果的なICTアプリの紹介、食事や作業のワークシステム支援と、これだけで論文が数本書けそうな中身です。
これまで、会議と言えば長々と話すことがスタンダードとされてきましたが短時間で動画等を見せてもらったほうがはるかにわかりやすいです。百聞は一見にしかずは子どもに限ったことではないです。できるだけ「見せる交流」を進めていこうと思います。
スナックタイム改めコミュニケーションタイム
Hちゃんのスナックタイムを動画で撮り検討会をしました。Hちゃんには言葉だけでなく機能的なコミュニケーションスキルが確立していないので周囲の大人がHちゃんの気持ちを読み取って日常生活を送ることになります。最近は職員が差し出した二つゼリーの一つを指で触れて選んでいるような仕草が見られるという報告がありました。
今回の動画では選ぶ場面は撮れず拒否の場面でした。職員が喉が渇いたただろうと慮ってスプーンでお茶を口に運ぶと、大きく口をひらいて受け入れるのですが、そのあとすぐに口からお茶を出しています。次に勧めてもコップをはねのけて拒否しているようです。では、何故口を開いたのか議論になりました。
この前のシーンで市販のボトルからコップに注いでいる様子をHちゃんは見ているので、好きなジュースと勘違いしたから口を開けたとする意見と、Hちゃんはスプーンを口元に近づけると反射的に開けてしまう癖があるという意見です。いつも職員から嫌そうに見えても勧めれば食べますというふうに誤解されているのはこの癖のせいだと言うのです。
一旦食べたものを口から出したりしなくても、いらないという意思が見えたならやめるべきだと話し合いました。何より、おやつの時間は「おやつを食べなくてはならない時間」ではないということです。すてっぷでは食べるのがとても早い子も半数以上いるので、どうしても早い子どもに日課の速度が引きずられがちです。
けれどもHちゃん達にはこの速度は早すぎてついていけないから、わざわざマンツーマンにしてゆったり表情を見ながら、食の時間を過ごせるようにしているのです。他の子どもに合わせて慌てる必要は全くないのです。そもそもスナックタイムと言うネーミングがいけないという事になり、おやつを用いたコミュニケーションタイムとして考えようという事になりました。
いるい・いらない、これほしい・あれがいや、ちょっと一服、また欲しくなった、と様々な表情や動作を読み取ってやり取りをするコミュニケーションタイムとして考えれば、もう少し本人の気持ちが尊重される時間になるのではないかと思います。おやつは残したって全くかまわないですが、気持ちは全てかなえてあげて欲しいのです。きっとそれが、適切な機能的コミュニケーションにつながっていくはずです。
依存性とマンツーマン体制
Gさんに職員が近づき過ぎたためか、Gさんが職員の手をずっと握りしめてしまい離れる事ができずに困っていました。不安傾向の強い人の中には、必要以上に介助したり近づきすぎると、自分をすべてその人に預けて離れなくなってしまう事があります。
職員には、本人の不安は伝わりますから無下に手を振りほどくわけにもいかず、子どもが職員の手を持って自分の手の代わりをさせるという「逆二人羽織状態」が続きます。こんな場合は、支援者が交代すれば比較的スムースに依存状態がリセットできます。依存されていた職員は、「お仕事なので行くね」と、本人の視界から外れる仕事をしたり外出したりするのが効果的です。
そして、次の支援者は机をはさむなどして距離を保ちながら作業や課題を提示していきます。また、障害の重い方が多い事業所や支援学校現場では、マンツーマンの体制を組みがちです。これが依存性の高い人たちの自立行動の障害になっていることが少なくないことを知っておくことも大事です。
支援体制を組む人は、できるだけマンツーマンではなく利用者と職員の体制を、依存度の高い人を含めた複数の利用者を複数の職員で対応するような支援設定が必要です。職員の担当を利用者1名だけにしておくと、その人だけ支援する動きになりやすく、せっかく集団指導をしているのにマンツーマンの二人が孤立している事が少なくないのです。該当職員が支援に行き詰った時は、2番手3番手の職員がフォローしていく支援体制が、子どもの自立を促す土台となります。
下手なのに好き??
小学生でバレーボールをしました。最初は男子だけでレシーブの練習をしていました。それをEさんが見ていて、「あたし、それ知ってる。小6で少し教えてもらった」と男子の中に入って夢中で取組み始めました。知っているとは言っても、ほとんど経験がないようでレシーブしたボールはあっちこっちへ飛んでいきます。それでもEさんは楽しそうに遊んでいます。
それを見ていたF君が「へたくそなのになんで面白いかな??」と職員に呟きました。「なんでやと思う?」と職員。「わからん!下手やったら俺は絶対おもろない」と言い残して輪の中に戻っていきました。F君は別にEさんが輪の中に入って迷惑だと言っているわけではないのです。下手なのに何故楽しそうにみんなと遊べるかが不思議で仕方がなかったのです。
職員がこんな時はどう応えたらいいのだろうと職員会議で話しました。あれこれ説明せずに、「良いことに気が付いたね」と言って、自分と違う人に関心を持ち、人はみな違うという気づきを褒めてあげればいいと話しました。ここで、Eさんの下手でも皆と遊ぶところが偉いとか、勝つことだけがゲームの楽しさではない、と野暮なことを話しては、高学年にはNGだと話しました。
勝ち負けばかりにこだわっていたF君が、ニコニコして下手バレーに取り組むEさんに関心を持って、「何が楽しいねん?」と気づいたことを職員みんなで共有し見守っていけばいいと思います。子どもの遊びって子どもの新しい気づきが発見できるので、いつも新鮮な気持ちになります。
好き好き交渉
1年のD君の絵カード理解が進んできました。タブレットの要求。好きな種類のジュースの要求。外出の要求。と区別ができます。では、そろそろ「交渉初級編」に入る必要があります。
交渉を教えましょうと言うと、嫌なことの次に好きなことを強化子にして「~したら~」を示し子どもとトラブっている現場あるあるをよく見ます。順番に絵カードを並べるだけで交渉を理解する子もいるのですが、全く分からない子もいるのです。この場合は、最初に教える交渉の段階は、君の要求したものは後から必ず来るよという事がまずわからないと成立しません。
せっかく好きなジュースを頼んだのに、嫌いな野菜を食べてみませんかと示されたら、いくら好きなジュースが後に示されても応じる事ができません。というか、後にジュースが来ることはこの段階では理解していませんから、野菜を食べるくらいならと拒否するしかありません。これでは交渉の初級指導は失敗です。
交渉の初期は、まずは好きなものとのトレードオフです。好きなジュースとまぁ好きなジュースとか、好きなタブレットゲームとまぁ好きなタブレットYoutubeとか、まぁ、それならいいけどと本人が受け入れられるものを示します。そのあとで本人のものが来たら、そのうちに要求したものが後に示されているカード表示の意味、交渉の意味を理解していきます。
交渉の絵カード指示の意味がわかれば、徐々に本来の交渉に入っていきます。絵カード要求は分かるのに交渉ができない場合の躓きは、ほとんど「嫌い好き」提示で生じています。まずは「好き好き」提示から交渉に入っていけばうまくいくはずです。
小学生の悪態への対応
小学生集団がゲームをしていてC君があまりにうるさいので、職員が「レベル2の声※でお願いします」と正したそうです。それに腹を立てかC君は「俺はこの声しか出えへんし!」と悪態をついたそうです。「その後、どう指導をされましたか?」と聞くと、自分は距離を置いた方がいいと思って、口ごたえをスルー(無視)したというのです。
スルーを繰り返すとどうなると思うか職員で話し合いました。効果のある無視は本人が職員を引きつけたい注意喚起の場合に限るので、この場合は職員を避けたい言動なのでかえって悪化してしまいます。つまり、悪態をつけば職員が黙って離れていくという理解になるからです。
おそらく、職員の言い分は単なる無視ではなく、自分が腹を立てしまい冷静になれないので子どもと距離を置いたと言われたのだと思います。ただ、そうであるにしても、子どもの行動の原因は職員の言動がスタートですから、今更スルーはできません。子どもは職員の注意行動を避けたいから悪態行動を繰り返しているのです。そこで職員がスルーしてしまえば子どもの悪態行動を強化することになります。
ここは、セオリー通り、悪態をついても職員の注意行動は終わらないという、行動の弱化を行わなければいけません。同時に、この事態を解決するには「こうすればうまくいく」方法を子どもに教えて強化します。つまり適切な分化強化を行うのです。ただ、職員が冷静でいられないなら、第三者の職員を入れます。
「二人とも、こちらに来てください」と別の職員が登場して、双方の言い分を公平に聞きます。そして、現在のお互いの誤解を解いたうえで、今後は注意する人は何のために声を下げて欲しいのか説明して注意すること、注意された方は、それに気づかなかったことを詫びて指摘に対しては「教えてくれてありがとう」と答えれば「わかってくれてありがとう」と職員からもお礼ができることを話します。
そして、念のために同じようなことがまた起こったら、今回のように第3者を入れて解決する手続きを約束します。最後に、今日の解決ロールプレイをして終了です。家庭では、第3者がいないこともあるので難しいかもしれませんが、学童保育や学校では、このやり方で解決できることは少なくないと思います。
ASDの人の場合は、他意がないのでこのやり方が理解してもらいやすいです。愛着の課題が大きい人の悪態は、注目が目的ですからこれではうまくいかないことが多いのですが、適切な方法ならば、受け入れられて注目をしてもらえるという意味で分化強化の原理は同じです。
※レベル2の声:すてっぷでは声の大きさのフィードバックができるようにレベルメーターを示して指導しています。
多様性社会と自発性
A君がマイクラでマルチプレーをしようと呼び掛けて子ども4人で遊びました。3人は小学生、一人は支援学校中学部のB君です。A君が自分の番号を口頭で言ったのでみんなA君のワールドで遊びはじめました。ところが、B君はつまらなそうに自分のワールドで遊んでいます。どうやらA君の番号を聞き逃したようです。B君はマルチプレーのやり方は心得ているし他の子どもたちのマイクラスキルと変わりません。なのに、A君に番号を聞くことができないのです。
これまでのすてっぷでは、小学生は小学生同士、支援学校生は支援学校生同士で遊びを組織していることが多かったので、子どもを所属校で分けないで、できるだけ遊びを共有することを大事にしようという療育方針にしたのです。変えてみると、意外と子どもは一緒に遊べるし、一緒を前提にする中で工夫も生まれるのです。以前、小学生らが支援学校生を下に見るような発言が聞かれたのですが、最近は支援学校生の行動についての理由を職員に聞くことが多くなりました。これは、小学生たちが障害特性を理解しようとし始めたと考えています。
B君は、小学生と同じマイクラスキルは持っていても、困ったことを友達に聞いて解決するというソーシャルスキルを学ぶ機会がなかったのです。支援学校の子どもはどうしても大人の距離が近くなり、子どもが困る前に大人が手を差し出してしまう事が多く依存的になり、自発性や自立性が育ちにくいです。今回も職員が「何か困っているの?」と聞かれるまで自分でどうしていいかわからなかったようです。早速、A君にも協力してもらって、遊びで困ったときのロールプレーをすることにしました。
「A君、僕番号がわからないから教えて」「いいよ○○××だよ」「○○××だね。」「選択して僕のワールドに入れた?」「うん入れた。助かったよ、ありがとう」というロールプレーを次回は準備して取り組みます。インクルーシブな遊び環境の中でB君らの社会参加の可能性を探っていきたいと思います。
性衝動の対処法
Z君が全裸になって床に寝転がっていたので、服を着せて座らせたと言います。おそらくマスターベーションがしたかったのだと思います。言葉で意思疎通できない人のマスターベーションの考え方については(マスターベーション: 2019/11/28)で掲載しました。
「座らせて、それからどうしましたか」と職員に聞くと、何か気をそらせるものを探したそうです。「裸で寝転がって職員が来たら服を着た」つまり、職員が来るまでは裸で寝転がってもよいと伝わりませんかと質問をすると、「でも、服を着せないわけにもいかないし」と話しがかみ合わなくなりました。
「やり直し」を教える必要があると話をしました。Z君はマスターベーションがしたいのですから、「マスターベーションがしたいです」カードを職員に示す行動が必要です。Z君は絵本が見たいとかジュースが欲しい等、PECSで言うとフェイズ3bまでできる人です。それなら「マスターベーション」も要求できるはずです。
でも、事業所ではできませんからおうちの絵とマスターベーションの絵を示して「おうちに帰ってします」と絵で伝えます。これは交渉なのです。ただ「ダメ」ではなく、ここではだめだが家ならいいよと伝えるのです。すぐには伝わらないかも知れませんが、「ダメ」の繰り返しでは介入の「ダメ」だしが出るまで続けると思います。要求と言うのはかなわない時もあります。しかし、双方が意味を共有しあうことからしか何も始まりません。視覚支援を使った交渉はそのために行います。
同じように、Z君は女の子にも興味があります。何かの拍子にタッチしたり抱きついたりします。これも、職員が「ダメ」と止めに入るだけでは、職員の介入があるまでは良いと誤解されてしまいます。「~さんを触りたい」とはさすがに絵カードに示せないので「~さんと遊びたい」に変えてやり直しして、ボール投げや対面ゲームならできることを示します。しかし、これは相手の気持ちもあるので必ず実現はしませんがその時は「また明日遊ぼう」と交渉します。
以前、Z君が女子によく触れるようになったので、女子と一緒に外出してボール遊びなどを意識して取り組んでいました。そのうちに、Z君の触る行動の頻度は減りました。ところが、「のど元過ぎると・・・」で取り組まなくなることや、この雨続きで暇も重なり思い出したように再現しているようです。とにかく早く雨やんでよ!これはみんなの願いです。
グッド・ドクター 名医の条件
大工殺すにゃ刃物は入らぬ。雨の三日も降ればよい。「大工」が左官屋や土方になったり、的屋(テキヤ:露天商)が入ったりしますが、新たに「放デイ」も仲間入りです。先週からずっと雨で来週も中ごろまで雨マークが続いています。「どーしましょ」と職員は嘆きます。
雨の間隙をついて公園に出たりしますが、間もなく土砂降りにやられて帰ってくるという繰り返しです。その上、今週までとなっていた蔓防期間が9月12日までの緊急事態措置にバージョンアップされ、小学生が楽しみにしていた科学館見学も臨時休館で延期になり踏んだり蹴ったりです。
雨が降ると、傘がさせなかったり足元が不安定な人の外出は控えがちになります。体育館も休館なので体を動かすことが一番のストレス発散になる子どもに雨天時の休館は大迷惑です。小学生のある利用者は、利用日以外は母親と一緒に開けても暮れても韓流ドラマだとぼやいていました。
そういう筆者もこのお盆休みの4日間はドラマ漬けでした。2018年にフジテレビで放映された「グッドドクター」は山﨑賢人が高機能ASD医師の新堂湊を演じましたが、これは2013年の韓国KBSテレビの原作ドラマのリメイクです。今回観たのは同じく原作韓国版をリメイクしたアメリカバージョンです。
自閉症の描き方は、日本版のものは一部の自閉症の人にあるぎこちない動作の誇張が強すぎて嘘っぽいです(これはドラゴン桜の健太(細田佳央太)でも同じ演出でした)。アメリカ版は、ASD者によくある対人理解が難しい時の「フリーズ」を演出していてリアルです。また、ASDの人の忖度が欠落した「合理的」言動と非ASD者との軋轢を描いたドラマ展開もおもしろいです。日本版のエピソードは10回ですが、原作は20回、アメリカ版は58回もあるので、ちょっと気が遠くなっています。早く雨がやんで、ドラマの続きなんか忘れて、子どもたちと一緒に川に飛び込みたいものです。
通じ合うための工夫
Y君が通所時にオムツからパンツに履き替えてくれなかったので事業所で履き替えるようにしてほしいとの連絡がありました。Y君は言葉はうまく通じませんが、最近二つ提示の絵カードスケジュール支援がわかるようになってきた子です。好きなタブレットで遊んでいる時も、「勉強→タブレット」と二つの絵を示すと、タブレットを置いて学習机に向かえるようになっています。
絵の二つ提示は「交渉」の初期段階のトレーニングです。「~したら~(強化子)」という交渉で今していることを中断して指示に従う交渉です。これが、様々な場面で受け入れられるようになると、次は時間や時間がわからなければトークンで強化子を待つトレーニングをしていきます。こうした絵カードによる交渉ができるようになってからスケジュール操作を教えていきます。
今回の家庭での拒否はY君のいつもの手順と違ったのかもしれません。何か朝のルーティンが欠けたりしてもY君は「違うでしょ」とは言えないので、その後の指示「パンツをはいて」を拒否したのかもしれません。例えばこの時に好きなものを示して、「パンツはいたら~」と提示したらどうなったでしょう。
お互いに確認しあうものがなければ交渉はもちろん分かり合う事すらできません。言っても理解できないなら見せたらできるようにならないか工夫が必要です。家庭で絵カードに取組んでみると意外に本人の考えていることがわかるようになったという報告は少なくありません。いつでもどこでも分かり合えることを目指し、手話と同じように絵カード利用も「コミュニケーションは人権です」と広げていきたいと思います。
ちゃぶ台返し
Xちゃんが、お弁当をひっくり返したそうです。お弁当はいつも完食なので職員は再び促したそうですが、今度は机をひっくり返そうと机の下に手を入れたので、手を合わせてごちそうさまをしたそうです。でも、それだと、お弁当をひっくり返せばお弁当が終了できると教えたことになりますねと質問すると、手を合わせることで、終わりを教えたことになると思ったそうです。
手を合わせるのは、確かに食事終了の合図にはなりますが、それはいつもしていることで、「お弁当ひっくり返し」の「やりなおし」とは本人は認識しません。再度お弁当をひっくり返した理由を尋ねると、お弁当にあったひじきは好きだからそれが原因とは思わないとか、お隣の子のお弁当がおいしそうでジェラシーを感じてひっくり返したとか、いろいろな大人の推測が話されました。
「いえいえ。聞きたいのは直接の理由です」と話を戻してもらいました。おそらく、本人は身近な人ならわかる「いらない」サイン(手を合わせる)を出していたかもしれないのですが、担当者が見落としたか親切心かでさらに促したのだと思います。それを拒否する術を持たないXちゃんはお弁当をひっくり返して終わりにしたのだということです。
今回のやり直しに必要な手続きは、「いらない」を教える事です。誰にでもわかるように「NO」とか「×」とか書いたカードを準備してそれを渡せたら、「わかったよ」ごちそうさましようねで「手を合わせる」のです。いらない時はお弁当箱をひっくり返さなくても良いことを教えます。そして、Xちゃんの課題がわかったので、今後は部分的に嫌なものがあるときはそれを食器から出して「いらない」カードを示すなどして、全部ひっくり返さなくても良いことを教えていきます。
まず支援のスタートは、Xちゃんは好き嫌いはほとんどないのだから、完食の支援は必要ないことを職員全員で確認をします。そして、Xちゃんにはコミュニケーション障害があって、うまく表現ができないことを念頭に置いて、どうしたら食べるかよりも、どうしたらいらないを穏やかに表現できるかを考えて、これを集中的に支援することが療育目標の優先課題であることを確認しましょうと話し合いました。
何気ない子どもの声から知ること Y先生のじゃんぷ通信6
『折り紙をしたい』という何気ない声から知ること Y先生のじゃんぷ通信6
放デイ「じゃんぷ」では,個別の学習指導の後に,自分のしたいことを取り組む「自立学習」の時間を設けています。
小学3年生の男の子が,毎回『折り紙をしたい』と希望を出してきます。
学校の特別支援教育コーディネーターをしている時に,よく保育所や幼稚園に教育相談として行く時があり,折り紙の時間をよく見ていました。いろんなことを取り入れて先生たちは折り紙を取り組みます。「折り目は指先でギュッと折れているかな」「折る時に端と端を合わせられるかな」「折り目を3回ぐらい繰り返してできるかな」「見本をちゃんと見れるかな」「先生の指示に合わせられるかな」等いろいろな力を子ども達も見せてくれます。
小学生になると,また違った視点で折り紙を考えています。
折り紙の本に写真があるから,それを見てできるだろうと思ってしまいがちですが,見るだけではうまく折れないことが多いです。そこで順番に注目させたり,わかりやすい言葉を添えて折るようにヒントを出したりします。
目で見るという作業は「同時処理」思考になります。折り紙を順番に折る時には「継次処理」思考が必要になります。子どもによって(大人もそうですが)このどちらが得意か違ってきます。この小学校3年生の男の子は,物事を順番に処理していく(継次処理の)力が伸びて行くと学習にも取り組みやすくなります。男の子が「折り紙をしたい」といった時に,どんなヒントを用意し,「できた」自信をもつことができるようにするかにかかっているように思います。
「だましぶね」の途中までを順番に折るように伝えて,何枚も折ってもらいました。最後の仕上げは大人で仕上げて,友達にプレゼントする作戦です。途中までは継次処理で分かりやすいので一人でも折れます。慣れてきたら難しい最後の部分を折っていきます。友達に使い方の面白さを伝授するのも継次処理の力と言えます。この力を支える取組にしたいと考えています。“たかが折り紙 されど折り紙”というわけです。
夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5
夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5
夏休みも後半に入ってきました。
放課後デイに通ってくる子ども達(中学生も)の悩みのタネになるのが「読書感想文」や「新聞づくり」です。宿題の最後に残ってきます。発達障害をもつ子ども達にとっては最も苦手な内容になります。それは読書感想文一つとっても、それを書く時には「読む」「内容を知る」「何を書くか選択する」「文にまとめる」「書く」等の作業を頭の中ではしないといけません。これをうまく整理したり、順序だてたりすることがうまくいかないからです。それができたとしても、最後のところで「思い出して」書く、手指のぎこちなさに苦労しながら書くことが大きな壁になります。
「じゃんぷ」ではマインドマップという方法を使って何人か読書感想文を書いたり、新聞づくりの構想を考えたり、夏休みの思い出の作文を書いたりしています。マインドマップというのは頭の中で行っている思考プロセスを「見える化」して、思考の整理や今からしようとしていることを整理するのに役立つ方法です。一緒にホワイトボードに思いついたことを「話すだけ」、順番に話したことを「図にするだけ」、整理された内容を「書くだけ」と作業を一つにしぼって実行します。
そうすると、「こっちのことを先に書きたい」とか「ちょっと言い方(表現)を変えて書いといた」等自分なりの工夫やアイデアが浮かんできます。
「読むのがイヤ」「書くのがイヤ」「なんて書いたらいいか分からないからイヤ」と思いがちな宿題も、実は頭の中の思考を整理することの悩みだったといえます。
座り込む子
W君が公園に外出した時,建造物の隙間からお気に入りの幟旗が向こうに見えたらしく,排水路を行こうとしたので職員が止めると,何で止めるねん俺はあそこに行きたいねんとばかりに,手を引く職員に抵抗して道端に座り込んでしまったといいます。それでどうしたのと職員に聞くと,てこでも動きそうにないので車を出して公園に移動したということでした。
言葉のないW君に私たちはどうすればよかったのでしょう。小さな子どもでも要求が叶わないと道端に寝転んで金切り声を上げて抵抗している姿をよく見ます。W君は小柄ですが15歳,中3です。支援者の実力行使ではなく,なんとかしてこの行動を変容できないものか会議で話し合いましたが,良いアイデアが浮かばないと言います。
彼が座り込むのはこれまでの経験上,座り込めば何度か要求が叶ったのかも知れません。これは間欠強化(部分強化)の法則と言って,ご褒美がいつももらえるよりも、もらえるかどうかわからない状態にしたほうが、「ご褒美をもらおうとする行動が、長続きしやすい」ことをあらわす法則です。ギャンブルにはまり込むのもこの法則なのでギャンブル法則とも言います。
でも,ギャンブルにはまっている人に強制力で禁止しても,それで良い方向には向かわないのは常識です。強制力がない時や少ない時に一気に実現するなどの荒業に出てくるのです。今はいいかもしれないけど,その先を見て支援しようと言っているのはこのためです。また,支援者による対象者への強制行動は支援者自身を強化してしまいます。つまり,対象者が従わなければどんどん強い強制力を使うと言うバースト現象を生じさせる可能性があるのです。
今回は,W君についての解決アイデアはあえて示しませんでした。無理だと諦めるのは簡単ですが,工夫をすることは言葉を持たない障害のある人たちと共生していこうと言う人権へのリスペクト行動だと考えています。あきらめないで工夫していきたいと思います。
奇声を減らす支援
奇声も様々ありますが,一つは自己刺激で「ウーウー」と唸るような低い声が長く続くもの,もう一つは周囲の人がびっくりするような大声で「キャー」というような奇声です。唸るような奇声も体が大きくなってくると周囲の人にはかなり耳障りになります。ASDの人の場合,相手が驚いていたり不快だと感じているの事が理解しにくいので,やめてと怒ってみても通じないことが多いです。
でも,最初の頃はコミュニケーションがうまくできなくて奇声を上げて注意喚起して,大人の注目を集める方法として機能していたかもしれません。この場合に有効なのは言葉以外のPECSなどの代替コミュニケーションです。奇声を上げなくても伝わるという事を気長に取り組んでいく中でだんだん奇声がなくなったという経験談は良く聞きます。
ただ,自己刺激の場合の唸り声は難しいです。よく観察してみると暇なときに意識を覚醒するために声を響かせている様子が少なくありません。もしそうであるなら,他の自己刺激グッズ,例えばスライムなどふにゃふにゃ・ふわふわしたものを触るとか・噛み噛みグッズで口唇感覚や顎感覚に働きかけ,他の感覚刺激で代替できないか考えます。
映像やゲームなど興味のあるものを増やすことも意識を覚醒しますから有効かもしれません。よく,声を出すのは「~さんにも言いたいことがあるのだから聞いてあげましょう」というような話をする人もいますが,毎日過ごす家族にとっては,近所迷惑もあり家族のストレスの原因になりつらい場合があるのですから,積極的に代替コミュニケーションや代替感覚のアイデアを一緒に考えることが必要だと思います。
カームダウンエリアは世界の常識
V君が顔を真っ赤にしてプンプン怒って職員に訴えてきました。パソコンのUSBマウスが反応しないと言います。「そうか,使えないマウスもあるから全部試してみてね」と職員が言うと,余計に大きな声で「全部試した!」と叫びます。仕方がないので,V君のパソコンをみると,そもそもUSBのプラグをパソコンのLANジャックに突っ込んでいました。『そら動かんわ・・・』と職員。
「V君。ちょっと頭冷やしてきた方がいいね」と職員は今説明しても理解できないだろうからと,カームダウンを勧めました。「わかった」とその場から離れました。少しして落ち着いた様子でV君が帰ってきたので「さっきの自分のこと振り返ることできるかな」と聞くと,「マウスが動かへんから,マイクラできないと興奮してパニクって,他のマウスを試すこともジャックの位置が違う事も調べんかったけど,どうしようもないから嘘ついた」と言います。
「よく自分の事が振り返れてすごいなぁ。V君良くわかっているんだね。でも学校でもこんなことあるよね。どうしてるの?」と職員が聞くと,「俺,パニクりそうになったら,教室から出て頭冷やそうとするねん」「おお,すばらしやん」「でもな,先生がどこ行くねんって止められるから,余計にごちゃごちゃになるねん」とのことでした。
「そら,先生に事情を説明しなあかんわな。『頭冷やすからどこどこに行くけどいいですか』って言わなあかんわな」と話しながら職員は,『今時,カームダウン支援を知らない先生がいるのだろうか』と思ったそうです。カームダウンすれば,大人が何も示唆しなくてもこんなにクリアに振り返りができるのですから,カームダウンエリアを用意してあげて欲しいものです。東京五輪のような大それた部屋でなくていいのです。廊下の物陰でも教室の片隅でも人の視線を感じない工夫がしてあるだけでいいのです。よろしくお願いします。
東京五輪・パラリンピックピクトグラム(絵文字)の「カームダウン・クールダウン」
オリンピック興味なし
小学生らに聞いてみました。「オリンピックみんなかっこいいよね」と聞くと「えー俺興味ないし~」と水泳教室に長年通うR君のつれない反応です。「私はスポーツと聞くだけでいやな気持になる」とSさん。「そうかなぁ、スケボなんかめっちゃかっこいいと思わん?」と聞く職員に、みんな「別に~」と言う反応。
筆者が子どもの頃にはメキシコ五輪で塚原光男が「月面宙返り(ムーンサルト)」を決めては心躍り、ミュンヘンでの男女バレーボールの金銀メダルアベック獲得で涙し、札幌五輪の笠谷幸生の大ジャンプを真似て机から飛び降りて怪我をする男子が続出する等、思い出がたくさんあります。
でも、この子たちは興味がないのです。R君などは「お気に入りのアニメが延期になって腹が立つ」くらい嫌いだそうです。T君などは体操クラブで練習しているのに、体操男子で橋本大輝が個人で金2つを受賞したことすら知らないのです。筆者も決して運動全般が得意だったわけではありませんが、この興味の落差は何だろうと首をかしげています。まぁ、子どもたちは、「おっちゃんら何興奮してんの?」と思っているでしょうが…。
将棋楽しかったよ
P君とQ君で将棋対局です。P君は最近家で将棋のテレビを見て勉強をしています。Q君は祖父とよく将棋をするので経験豊富です。勝負はQ君が勝ちました。やはりQ君の方が何枚も上手で,後半P君は逃げることしか出来ない状況でした。P君に感想を聞いてみると,「楽しかった!」と元気よく言います。「でも勝負は負けたよね。その時の気持ちはどうだった?」と聞きました。P君は「次は勝ちたい,でも楽しかった!」としきりに「楽しかった!」と言い続けました。P君は聞かれていることよりも、自分の関心を言うことが多いです。この時は「楽しかった!」という気持ちが強かったのだと思います。
「次は勝ちたい?」と聞くと,「それはいいからまたあの子(Q君)と将棋したい。」と答えました。彼は以前マイクラで遊んでいる時に他の子が作っているものを壊して遊んだり,設定遊び中に違うことをして「今は違うことしないで!」と他の子に言われることで他者の注目を浴びようとしていました。その結果「P君と遊びたくない~」と訴えてくる子もいました。
今日は対局中「いい勝負してるね!」「前よりも上達したね!」と声をかけられて嬉しそうにしていました。Q君とも「それここに動かすと次取られるで」「でもその後にこれで攻めようと思ってるから」とやり取りをしている姿も見られました。今日は人が嫌がることをして注目を集めるのではなく,ずっと楽しく将棋をしていました。だから彼の口からは勝ち負けよりも「楽しかった!」のだと思います。遊びで不適切な行動をするのは、それが一番注目を集める方法でしたが、適切な方法で注目を集めることが出来たP君は今週も将棋のテレビを見て勉強してくるのだと思います。
そうだったのかプールパニック
昨日朝からプールと思い込んで大声を上げて怒っていたいたOちゃん(言葉と機能的コミュニケーション: 07/29)が今日は落ち着いて通所してきました。朝からプールに入ろうともしないし、お昼から粛々とプール遊びをしたのです。何故だと思うか職員に聞いてみると、朝から全体にスケジュール発表をしたからだと言います。でも、毎日年がら年中、全体へのスケジュール発表はしているのです。スケジュールが朝に発表されるとOちゃんが認識しているなら、そもそも昨日のような見通しと食い違ったようなパニックを起こすはずがありません。
他の職員にもう少しよく聞いてみると一昨日も家庭の都合でお昼からお父さんが連れてきたと言うのです。ちょうどお昼からはプールだったのでOちゃんは楽しかったわけです。
「そうか!そういうことだったのか!」やっとOちゃんのプールパニックの原因が分かりました。時間やスケジュールがよくわからないOちゃんは状況でこれからの出来事を予測しているのです。「一昨日は【昼に】お父さんと事業所に来てプールでご機嫌だった→昨日もお父さんと【朝に】一緒に来た→お父さんと一緒に来たら昨日通りすぐにプールがあると思ったのにプールがないので怒った」というわけです。Oちゃんには朝も昼もないのです。「お父さんと通所すればプールがあり、職員と通所すればプールはすぐにはない」という理解だったのです。
職員は毎日毎日全体のスケジュール発表をしているから、それくらいOちゃんは理解しているだろうと思っていたのですが、見事に外れました。「昨日プールに入ったのが嬉しくて、今日は朝から入ろうと思い込んできた」という前回の読みも違ったのです。Oちゃんの中にはOちゃんの秩序があったのです。こんなふうに世の中を理解しているとなるとOちゃんの日常はハプニングだらけです。そして周囲の人もOちゃんの苦しみがわからないまま毎日を過ごすことになります。スケジュール支援は家を出る時に示す必要があると思います。「午前公園 お弁当 午後プール」程度の簡単な日課でいいのです。そして日によってスケジュールを変え、ルーティンな日課にしない工夫が必要だと思います。
自立課題は進化させるもの
N君の机の上に山のように自立課題の課題ケースが積まれていたので、これはどんな目的で積まれているのか職員会議で聞いてみました。いつもやっているもので一人でできるから置いてあるとのことでした。そこで、この先このN君の自立課題はどんなプランがあるのか聞くと、みんな「?」と言う反応でした。
個別課題と自立課題の違いについてよく質問を受けますが、個別課題とは、個人の能力に合わせ大人が教えたり一人で復習する課題を指します。自立課題も個別課題の一種ですが、狙いは作業が一人でできるように、一人で自立的に始めて終了できる、文字通り「自立」のための課題です。つまり、自立課題は課題の内容も変えていくし、作業の進め方も単に課題ケースを積んでおくのではなく指示書に従ったり、自分で準備をしたりして変えていくものです。
もちろん、繰り返し同じ課題をすることで速度が上がったり、正確性が向上したりすることは結果としてはありますが、速度や正確性を目的にしているのが自立課題ではありません。速度が遅いなら、それは量が多すぎたのですし、正確でないなら課題のジグ(自立的に作業ができる仕組み)の工夫が足りなかったと考えます。つまり課題を出した大人の側の問題だと考えます。課題を出す大人はN君ならどの程度の作業量をどの程度の時間で仕上げるのか、休憩を入れたほうがいいか、新しい自立課題をいつ入れるのか考えておく必要があります。
一人でできる課題がたくさんあるからたくさん積んでおくと言うのはあまり意味がありません。もちろんASDの人は繰り返しが好きですから、できるものを繰り返すのはそう苦痛でない場合が多いです。ただ、彼らも飽きたり疲れたりします。そんな様子も観察して、どれくらいの休息をしたらいいのか、何回のインターバルが良いのかも考え、変化をつけ進化をさせていくのが自立課題を提示する大人の役割です。N君には仕事が好きで元気に働く大人になってほしいというのが私たちの自立課題の最終目的です。
言葉と機能的コミュニケーション
Mちゃんが大声で「いやだー」と叫んでいたので理由を職員から聞くと、昨日プールに入ったのが嬉しくて、今日は朝から入ろうと思い込んできたら、朝からプールはないのでつもりが崩れて大声で叫んでいたというのです。Mちゃんの大声は要求のサインなのですが、別に誰かに向かって言っているわけではないのです。大声で叫んでみたらたまたま実現したことがあったのだと思います。Mちゃんは喋るのですが、それが機能的コミュニケーションに結びついていません。
Mちゃんは冷蔵庫に向かって「ジュース」と叫んでみたり、天井に向かって「タブレットー」と叫ぶことが多く特定の人に要求することがありません。気づいた大人は、それに応えて要求を叶えるのですが、特定の大人が要求を叶えていると理解していないので大声で誰かが反応するのを待っている感じなのです。コミュニケーションは伝える人を特定することから始まります。言葉は喋れても機能的に使う事ができないのでMちゃんはとても苦労をしています。
言葉が喋れても、機能的に使う事が難しい人には絵カード要求が効果的です。渡す人を特定するからです。そして渡された人は要求を叶えるだけでなく、交渉もしてきます。「~してから~しよう」「今日はできないけど明日やろう」等の交渉を同じように絵カードで伝える事ができます。一方的な大声を出さなくてもお互いが共有できる視覚情報を使って社会ルールを教えていくことができるのです。PECSは言葉のない人だけでなく言葉はあるけどうまく使えない人にも社会ルールを教えていく第一歩になるのです。何より穏やかに伝えられるのでお互いにとって有益です。この夏はMちゃんの大好きなビニールプール遊びを使っていろんな交渉ができそうです。
川遊び
小学生は毎日川遊びに出かけています。近くでは小泉川、遠くでは水無瀬川まで出かけます。水無瀬川の方は少し遊泳ができるのでわかったのですが、ほとんどの子どもが浮くことができず泳げないのです。仕方がないのでフローティングジャケットを装着させて浮遊感(水面に浮かぶ)の楽しさを体験させることにしました。今後は、ゴーグルで顔つけに慣れさせ、そのまま頭をつけて流されていく楽しさを経験させます。その後ジャケットを外して伏し浮きから吐き出して吸う呼吸法ができたら、あとは勝手に泳げるようになります。
しかし、揃いに揃って支援学級の高学年子どもが泳げないのが気になります。支援学級にもプール指導の時間はあるので、交流学級とダブルで泳ぐ機会があり、しかも、人数が少ないので呼吸法までの指導ならひと夏で教えられるはずです。コロナの影響があったにせよ、呼吸法は低学年で教えられたはずです。水泳はDCD(発達性強調運動障害)の子どもでも、呼吸法さえ身につければ前に進めるようになるので彼らに向いているスポーツと言われています。川遊びでぼちぼち指導していこうと話しています。
嫌な理由
夏と言えば水遊びプールの季節です。子どもたちは水遊びが大好きです。ところが、感染の恐れがあるとして学校プールは全滅です。このブログで何度も書いているように、学校プールの水は塩素殺菌されていますから、その塩素水飛沫が飛び散るプールで感染するなら、外を歩くなと言うに等しいです。さて愚痴はこの辺にして、すてっぷでは大好きな水遊びを実現するために大型ビニールプールを購入しています。小さな子どもたちはみんな大喜びです。みんなキャーキャー騒ぐので近所迷惑を気にしながらの毎日です。
ところが、Lちゃんがビニールプールに入ろうとしないのです。確か昨年は何ともなかったのに、後ろから押しても頑として跳ねのけて入ろうとしません。仕方がないのでプール横で水遊びをして過ごしました。職員で話し合ったところ、他の元気すぎる子どもと一緒にいるのでうるさすぎて入る気がしないのだろうという結論に至り、奮発して静かに遊ぶ人用のビニールプールをもう一つ購入しました。
早速新しいプールに一人で入ってもらおうと車いすから降ろそうとすると、Lちゃんはプールに足もつけようとせず、入らないのです。水が多いのが不安なのだろうかと減らしてみても入らないので、次は何も水の入っていない状況で先にLちゃんに入ってもらいました。そうすると難なく入れたと言うのです。そこに、徐々に水を入れていくとニコニコして水遊びをするのでした。
つまり、Lちゃんは水の入っているプールが嫌だったのです。空っぽで入って水を入れると何ともないことがわかって、次の日からは水が張ってあっても入れるようになったのです。Lちゃんには言葉がないので推測するしかないのですが、おそらく水の入ったプールで嫌なことがあったのかもしれません。水温が低すぎて驚いたとか、何らかの感覚的なトラブルがあって恐怖感が焼き付いて入れなくなっていたのかもしれません。言葉のない子どもが何をどう感じ取っているかを把握するのには、時間を取って様々な工夫や働きかけが大事だねと話し合いました。
集団遊びに熱中
K君が帰ってきて顔をほてらせて「今日はめっちゃ面白かったわ!」と職員に言うので、何のことかと振り返ってみると、職員入れて7名ほどで手つなぎ鬼ごっこをしたことらしいのです。暑いのに走り回ってどこが面白いのだろうと大人は思うのですが、K君には「最高!」だったのです。
学校でも地域でも集団遊びを普段しないので、みんなでギャーギャー騒ぎながら走るのが楽しかったようです。そういえば、最近暑いせいもありますが、公園で徒党を組んで遊んでいる子どもたちを見たことがありません。多くても3人程度でこじんまり遊んでいます。
サッカーチームや野球チームで大勢で練習することはあっても、集団でただ大声を上げながら走って遊ぶという経験はほとんどの子どもたちにありません。ただ職員にしてみれば「暑いから、1回だけにしてくれー」と切にお願いしたようではあります。今日も外気温は日なたは35度を超えています。集団遊びに熱中はいいけど熱中症には厳重警戒です。
身辺自立 夏の陣
夏休みに入ったのでIちゃんとJ君の身辺自立について本格的に取り組むことにしました。J君は食事、そして二人とも紙おむつに排泄という行動を便器に変える課題です。J君はおうちと同じようにすれば食べられると考えたので、トースターを持ち込んでトーストにするとすぐ食べました。今後はトースターをフェードアウトして家庭からのお弁当が食べられるように様々な工夫をしてみようと思います。外ではジュースしか飲まないと思っていたのが、この暑さで喉が渇くらしく、持ってきた水筒のお茶も難なく飲めたので、飲食の問題は早く解決するかも知れません。
問題は、紙おむつ排泄の連合をどう便器に変えるかです。事業所の横にビニールプールを設置しているので、プール大好き少年少女の二人をしっかり水遊びさせ、下半身に冷水刺激を与え、トイレで着替える前にビデオタイムにして便器に3分ほど座る中での尿意や便意の偶然性にかけています。この夏中に成功しないと、他の方法が思いつかない限り次の取組は来夏になるので、職員一同ビニールプールに願をかけています。
忘れ物リベンジ
不注意傾向の強い小学生の利用者の忘れ物防止策として(お忘れ防止チェックリスト : 06/29 )を実施しています。前回は、具体物と見合わせずチェックマークだけつけている子どもがいることを発見しましたが、今回は帰宅担当の先生にチェックリストを渡した際にOKをもらうと、「注意の武装解除」をしてしまって、結局事業所に忘れてきてしまう子どもがまだいるのでこれをどう解決するかを職員で話し合いました。
これから、水遊びが多い季節なので、家から水着や着替えを持ってくることになり荷物が増えます。この荷物の増える時期に、どうすれば子どもが自立的に忘れ物ゼロを達成していくか考えました。チェックリストは確かに効果があるのですが、先の「注意の武装解除」を防ぐ手立てが必要ですから、今後は送迎車の前で子ども自らがチェック表を再確認してもらうことにしました。つまりチェック表を車の中に持ち込むのです。
そして、送迎車から降りて自宅に向かう際にもう一度自分で確認して、問題がなければ運転していた先生に返すのです。このほかにも学校から忘れ物がある子がいますが、これは車に常設したチェックリストで子どもが確認申告してから発車するルールにしました。とにかく、忘れ物がないように大人が介入せず、子どもが自発的に行う事が重要なのです。もちろん、目標を決めて忘れ物0シールがチェックリストにたまったらご褒美にします。満を持しての新ルールで子どもたちの成果を待ちます。
注目要求と自立
H君は半年前まで逃げる子でした。目を離したすきに、ドアから飛び出して事業所の前のマンションのエレベーター遊びに行くのです。「エレベーターが好きなのでエレベーターに逃げていく」と当初は職員から聞いていたので、H君が来たときは事業所は施錠していました。それでもダイヤル式のカギは番号を盗み見して覚えて開錠して逃げていくことが何度もありました。
それが、最近では自分から好きな活動の準備をしたり、嫌いではない作業をしたりしてドアが開いていても、飛びだそうとしなくなりました。その理由は、H君の見立てを変えたからだと思っています。H君はエレベーター遊びは好きですが、逃げていくのは注目要求からだと考えたのです。それまでの事業所の子どもの不適切行動への対応は「見ないふりをする」スルー行動でした。しかし、それではどうすれば正しい注目をしてもらえるのか子どもにはさっぱりわかりません。注目しない職員のスルー行動は支援上役に立たないと修正したのです。
「適切な行動をすれば先生は見ているよ」というメッセージを出し続ければ子どもは逃げたりして注目を集める必要はありません。(注意喚起行動 : 2020/09/03)や(注意喚起も強化子に: 2020/09/18)で述べてきたように、注目要求には正しい行動を教えれば子どもは適切な行動を学習していきます。H君は(逃げる子 : 06/24)で書いたように注目要求が高い人なので、それがスルーされ続けた結果バースト(飛び出し行動)してしまった子どもだったのです。
ただ、良い行動を大人が見ている時は適切な行動ができるのですが、大人が注目しないと不適切な行動が呼び起こされるという心配があります。注目要求が続くという事は見守る大人と活動の提供がいつも必要で、余暇を一人で過ごすと言う課題は残っているのです。これは、賞賛やご褒美契約で消えるように思えないのです。H君の一番の強化子は大人の注目だからです。でも、適切な行動がどんどん増えているのだし、注目要求が本当の賞賛要求に変わらないとも言えないし、そもそも一人で過ごす好きなことが見つからない原因もわからないのだから、焦らないで見守ろうという事になりました。